例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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31 ネギ弟子入り編 第2話 弟子入り試験

 

「おっ、いたいた、おーい、クー、ネギ先生~!」

夕刻、世界樹近くの広場で組み手をしているクーとネギを見つけて声をかける。

「千雨さん、こんにちは」

「お、千雨、どうしたアルか?」

「それがな、マスター…エヴァから慈悲が入った。仮想敵として私を使っても構わん、との事だ」

「…どういう事アル?」

首をかしげるクーに事情を説明する…ネギのヤラカシと茶々丸の実力について。

 

「あーネギ坊主、ちゃんとエヴァにゃんに謝っておくアルよ?…私もネギ坊主を手放す気はないアルが。しかし、茶々丸、そんなに強いアルか…」

「あぅ…スイマセン」

「私に謝ったってしゃあないだろう、それにむしろ私はボーリング場で事情察せられたのにすぐ言わなかったんだし…

まあ、今はそれは置いておいて、茶々丸は機械の体のスピードとパワーに、私と超が色々と教え込んだ分があるから…なんだかんだで合気術と中国拳法には相応の理解があると思ってくれていい、アイツが使うのはソレそのものではないが…

と言う訳で、茶々丸の再現とまではいかないが、ある程度は模倣できる私が派遣されたわけだな。慣れ過ぎてもアレだが、何度か相手をすれば完全な初見よりはましだろう、どう使うかは師のクーに任せるが」

「ウーム…とりあえず、一度、私と手合わせを頼む、ネギ坊主は見学しているアルよ、見て学ぶも立派な修行ネ」

「ああ、わかった」

「わかりました」

そして、何戦か、クーと手合わせをするのであった。

 

 

 

「ふむ…大体わかった…千雨、再現度はどれくらいアルか?」

「スピード、パワー、技量レベルは9割方、戦術思考は…7割くらいか、それとジェットによる推進力を利用した動きは再現できない分スピードとパワーを強化したつもりだ」

「ならば…正直かなり無理ゲーと言う奴ではないアルか?千雨…いくらネギ坊主に天賦の才があろうと…」

「うん、だから慈悲としての私なんだよ」

「うむ…まあ、やれるだけやってみるカ…ネギ坊主」

「はいっ」

パチリ

『あーネギ…テストで使う予定の自己供給付の身体能力と制限時間、まだ申告してないなら、隙を見て…明日の朝練の時にでもクーに見せとけ、それでクーも対策を練りやすい』

『え…はっ、ハイ』

「それじゃあ、私は見学しているから」

そういって、私は二人の側を離れた。

 

 

 

金曜日の朝練、放課後練と土曜日の朝から夕方までの鍛錬とを見学し、クーの指示でスピードとパワーを加減して…恐らく魔力供給の分の身体能力変化分だろう…少しだけネギの相手をしているとネギの技量が笑うしかないほど伸びている事、カウンターに賭けている事はよくわかった…が、超のせいで茶々丸も割と中国拳法には詳しいのでどこまで通じるかは…微妙と判定し、そう対応した。

結果、仕上げとして行った数回の手合わせでの数十回のトライ(手合わせの数ではなく、決めるつもりで放たれたと思われる攻撃回数)で有効打と呼べるだけの一撃を入れたのはたった1回の事だった…が、それでも、賭けと呼ぶに値するだけの所までネギが成長したのは本当に反則級の才能の賜物であろう。こう、クーがサマになるのに1カ月かかる技を3時間でモノにしたと言うのが何よりの表現であろうか…そして、ついに運命の時は訪れた…。

 

 

 

ネギに付き添い、世界樹前広場にやってきた私達、そしてネギがマスターに宣言する。

「エヴァンジェリンさーん! ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました!」

「よく来たな、ぼーや、では早速始めようか。

お前のカンフーモドキで茶々丸に一撃でも入れられれば合格、手も足も出ずに貴様がくたばればそれまでだ、わかったか」

答えて、マスターが宣言した。

「…その条件でいいんですね?」

ネギ先生が少しだけ笑う。

ああ、コレ、文字通りくたばるまで粘る気だな…まあ、初手で能力を示せればマスターが最初に言っていた、修行に耐えるだけの根性と覚悟は示せるだろうし、悪くはないか…まあマスターからセカンドチャンスを示す事はないだろうが、粘ればいけそうな気がする。

「ん?ああ、いいぞ。…それよりも! そのギャラリーは何とかならなかったのか!わらわらと!」

まあ、師匠であるクー、アスナと木乃香に刹那まで、大負けに負けて一緒に頑張ったまき絵まではともかくとして、やじ馬が追加されているからなぁ…。

「すいません…ついて来ちゃいまして…」

ネギが申し訳なさそうに答えた。

 

ネギと茶々丸が対峙し、ギャラリーも観戦位置に移動する。

「さて、私はここまでだ。あるべき場所で試合を見させてもらうぞ、ネギ」

そう言って私はネギに背を向けてマスターの元へ歩を進める。

「はい、ありがとうございました、千雨さん」

「え、千雨ちゃんそっち側!?」

ネギ先生の言葉に続いてギャラリーが言う

「おう、諸事情でサポートに入っていたけど、私はこっち側さ…ただいま、マスター、茶々丸」

「ああ、おかえり。どうだった、ぼーやは」

「ええ、素晴らしい原石でしたよ…詳しくはご覧になるのが一番でしょうが…勝算と呼べるだけのモノは得ています…高くはないですが。後は時の運…とわずかな勇気、ってやつですかね」

「ほう…だ、そうだ、茶々丸。先ほど言ったように、手加減無用だ、いいな」

「はい、マスター」

こちらがそうしているように、あちらも応援と会話を交わし、ネギは歩み出て礼をした。

「茶々丸さん、お願いします!」

「お相手させていただきます」

茶々丸が答えるように歩み出て、礼をする。

 

「では、始めるがいい!」

 

マスターの宣言直後に踏み切った茶々丸の一撃で始まる戦い…。

ネギはそれを凌ぎつつ仮契約での魔力供給を流用した我流の術式で自己魔力供給を行い、

パワーとスピードを底上げして茶々丸と拮抗する…。

 

…茶々丸にはもう少し待ちの戦いも教えてあるのだが…これは手加減するなという命令によるものか…あるいは手加減は出来ぬにせよ、ネギの勝算がカウンターにあるであろう事まで計算しての茶々丸なりの優しさか…。

 

茶々丸の、人間にはできない動き…ストレートの後の逆の腕でのジェット推力による再ストレート…をしのぎ、最初のトライをかける先生、しかし茶々丸はそれを防ぐ。

 

あちら側のギャラリーがわく…。

 

そして再びの拮抗状態…から、蹴りを受け、後退させられてよろめく先生…。

追撃に入る茶々丸…と、それを迎え撃つネギ。

 

私の模倣した茶々丸に唯一有効打を入れたパターン、追撃の誘いからのカウンターであり、茶々丸の腕を取り、ひじによるカウンターを放つネギ…ではあるが…。

 

そこは場所が悪い…平地戦ばかりで、ソレを見せそこなった私のせいでもあるが…。

 

直後、茶々丸は街灯の台座を蹴って宙を舞い、掴まれた腕を支点に技後硬直しているネギにケリを放ち…クリーンヒットした。

 

「…チッ…千雨」

興味深げに見ていたマスターが不満げに舌打ちをして、私に呼び掛ける。

「経験不足…ですね。地形把握を十全にできるだけの経験を積むには時間が足りなかったので」

あと30センチ…いや、10センチでも街灯の台座から離れていれば…あるいは角度が付いていれば…そう言った位置取りで蹴り飛ばされていれば…今のでネギ先生は勝っていた筈である。

「しかし、それがぼーやの限界だ」

「クケケ…ゴキゲンナナメダナ御主人」

「残念だったな、ぼーや。だが、それが貴様の器だ、顔を洗って出直して来い!」

「「ネギ!」君!」

無慈悲にマスターはそう宣言し、アスナとまき絵がネギに駆け寄る…が。

 

「へ…へへ…まだです…まだ僕、くたばっていませんよ、エヴァンジェリンさん」

そういってネギは立ち上がり、構えを取る。

「ヒット直前ニ障壁ニ魔力ヲ集中シテタゼ アノガキ」

「ぬっ…何を言っている?勝負はもう着いたぞ、ガキは帰って寝ろ」

「いや、それは違います、マスター」

「…でも、条件は、僕がくたばるまで、でしたよね。それに確か、時間制限もなかったと思いますけど?」

私が小さく呟いたのに重なる様にネギが不敵に笑い、そう言った。

「な…何っ、貴様…」

マスターもやっと気づいた様である…ネギの頑固さに。

「へへ…その通りです。一撃当てるまで、何時間でも粘らせてもらいます…茶々丸さん、続きを!」

さて、こうなると、茶々丸が理解こそあれ、柔術を使用しないのは福音でさえある…打撃戦ならそうは言えても、制圧されてはその負けん気も悲しい遠吠えである。

 

再開した試合、しかしそれは先ほどまでとは異なり、一方的な展開だった…。

 

一方的にやられ続けるネギ…茶々丸も対人リミッターを嵌めなおしたようでさえある。

しかし、それでもネギの拳は…届かない。と言うか、付け焼刃のカンフーで、満身創痍の、魔力もほぼ防御に回した状態で届かれてたまるか。

 

 

 

一時間以上、その試合…蹂躙…いや、意地を張るネギへの茶々丸の対応は続いた。

「根性アルナーアイツ」

「だけど、茶々丸には届かないし…そんな頑張りが通じる相手でもない」

…少なくとも、茶々丸の心を揺さぶり、戦闘用プログラムが一時でも停止しない限りは…。

冷めた目でそれを見続けていた私は、チャチャゼロの言葉にそう返した。

「お、おいぼーや、もういいだろ。いくら防御に魔力を集中しても限界がある。お前のやる気はわかったから…な?」

しかし、マスターは違うようで、筋とプライドが許す範囲で面倒を見てやってもいいと思っている顔である、これは…まあやる気と根性は現在進行形で示しているわけで、わからんでもないが。

「も、もうみてらんない、止めてくる!」

そうアスナが宣言し、仮契約カードを取り出した。

…それもあり…かな?マスター的には。

ネギとアスナの間に消しきれない溝が生まれそうではあるが

「ダメーアスナ!止めちゃダメーッ」

しかし、意外な事に、まき絵がアスナを止めに入る。

始まる問答、止めるべきか止めないべきか。バッサリと要約すれば、

アスナの主張は、あれは子供のワガママ、意地っ張りだから止めなくてはいけない。

まき絵の主張は、全てをかけると覚悟を決めた決意を邪魔してはいけない、ネギは覚悟を決めた大人だ、と。

まあ、私としては、心折れ、諦めと妥協を覚えると言うのも大人だと思うし、ネギのアレは修学旅行での事件が呼び起こしてしまったネギの源泉…妄執の類いにも思える、それが悪いとは言わんが。

「なんだあれは…あれが若さか…青い」

マスターが少し照れた様子で彼女らを…まき絵を見る…そして茶々丸も。

「あ…オイ、茶々丸!」

「えっ」

ネギの、ひょろひょろパンチではあるが、確かに茶々丸の顔面に一撃が入った。

ああ、おめでとう、ネギ…お前の努力は報われた…共に頑張った仲間の言葉は茶々丸に届いたぞ。

私は、内心でネギをそう祝福した。

 

 

 

「うむ…千雨、茶々丸があんな事をできるのであれば教えて欲しかったアル」

「いやぁ…?機会があれば見せていたぞ、単に平地戦しかしなかったからその機会が無かっただけで」

気絶したネギの応急手当が済んだ後、クーがしてきた抗議に私は飄々と答える。

「むむ…まー確かに、実際の舞台で模擬戦までする時間が無かった、と言うのが問題アルか」

うんうん、と頷くクー。

「ま、緒戦はネギはよくやった…と言うか位置取りがドンピシャで最悪でさえなければアレで決まっていたからなぁ…あとの泥仕合は…まあ」

「途中から茶々丸、聞き分けのない子供をあしらうような態度だったアル…まじめに相手はしていたが」

しみじみ、と頷き合う私達であった。

 

 

 

そして、日の出頃、ようやくネギが目を覚まし、マスターはネギに合格を告げて場を立ち去った…私もそれに追随する。

「理屈っぽい、か。私もクーに拳法習いに行った方が良いか?マスター」

私は笑いながらマスターに言った。

「ぬかせ…クーからぼーやを取り上げるのも悪いと思っただけだよ、ぼーやの才能があったにせよ、たった数日で茶々丸に届きかけたと言うのも事実だしな…それにぼーやの目指す方向を考えればあちらの方が良いだろうさ」

マスターがふんっと鼻を鳴らす。

「まあ、これでお前もめでたく姉弟子という事であるし…ぼーやの修行、お前も手伝うんだぞ、千雨」

「はいはい…で、ネギのケガは後で治しに行ってやればいいんですかね?マスター」

「ふん…暫くは自分のやらかした無茶の痛みを噛み締めさせておけ…少なくともお前が寮に戻るまではな…その後はお前の好きにしろ」

「了解、マスター」

 

 

 

休息と朝食の後、別荘に入って鍛錬を済ませた私は、ネギの事で少し話をしてマスターの家を辞した、茶々丸を連れて。

「さ、行くか、茶々丸」

「はい…千雨さん…その、試合とは言え、先生に怪我をさせたのは私ですのに、私がお見舞いに行ってもいいのでしょうか」

「ン?そんな事を気にしていたのか?…かまわんのじゃないか?ネギたちはお人よしだし…私としては、お前が絶対服従の命令下でやった事は命令者の責任だと思っているし」

「命令者の責任…」

「そうさ、お前はエヴァの命でネギをボコボコにしたんだ、その時のお前の拳はエヴァの拳さ…それに、途中で対人リミッター嵌めなおしただろ、お前。まあ、そう言う所を気にするように育ったお前の事も私は好きだがな」

「千雨さん…いえ、お母様…」

唐突に茶々丸がそんな事を言い出した

「なんだその呼び方…」

「いえ、ネギ先生に私の母と名乗ったと伺いまして…母親らしい事をおっしゃったのでそう呼んでみようかと」

「…そう呼びたきゃ偶にはかまわんが…事情を知らん連中の前では絶対に呼ぶなよ」

「はい、千雨お母様」

どうやら、その呼び名を気に入ったらしい。

 

 

 

「あれー茶々丸さん、千雨ちゃん、どないしたん?」

私達がアスナたちの部屋を訪ねると木乃香が応対をしてくれた。

「ネギ先生の見舞いに来たんだが、いるか?というか上がってもいいか?」

「ネギ君?うん、いるえ、どうぞ」

 

「あっ、ど、ど、どうも、茶々丸さん、千雨さん」

部屋に上げてもらった私達を迎えたのはどもるネギ先生だった。

「…あ。あの、ネギ先生…お傷の方は大丈夫ですか?」

「はい、見た目よりは全然大したことなかったです」

「そうですか、それはよかった…」

茶々丸が明らかに安心したようなそぶりを見せる。

「それで…これ、私からのお見舞いです…美味しいお茶ですので是非…」

「あ…これはどうも、ご丁寧に」

「それと…あの…今回は、いくら試合とはいえ…ネギ先生に…私…その…酷い事をしてしまって…ごめんなさい」

割と、茶々丸は気にしていたらしい。

「あっいえ、アレは僕の方からお願いした試合ですし、お気になさらず」

「しかし…」

「ほら、茶々丸、ネギ先生も気にしなくていいって言っているだから、この話はこれでおしまい、な?

さ、傷見せてみろ、ネギ、完治できるかはともかく、治癒位かけてやるから」

「あ、はい、千雨さん、ありがとうございます」

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ “治癒”

…うん、顔の内出血は痕が消えるにゃ少しかかりそうだが、傷自体は大体治せたな…ほれ、もう服着ていいぞ」

ネギをパンツのみまで脱がせて全身の傷を調べ、治癒をかけた私はその結果を観察し、そう言った。

「後は、マスターから預かっているこの傷薬でも塗っとけば痕も残らずきれいに治る…ほらよ…明日の朝にゃ治るだろう、風呂の後と…必要なら朝の洗顔後にも塗ればいい」

マスターから預かっていた軟膏をネギの頬に塗りつけながらいう。

「はい、ありがとうございます、千雨さん」

「ネギ先生、千雨さん、お茶が入りました」

「ありがとうございます」

「ん、さんきゅ」

ネギを治療している間に、台所を借りてお茶を入れていた茶々丸から湯飲みを受け取る。

 

お茶を啜りながら少しばかり雑談に興じているとまき絵と亜子が駆け込んで来た…どうやら、まき絵は選抜試験に通ったらしい…騒がしくなりそうだし、良い時間でもあるか。

「さて、私は良い時間だしお暇するよ、茶々丸はせっかくだし、ゆっくりしていけばいい」

そういって、私は自室に戻り、外食の約束をしていた昼食の相談をするのであった。

 

 

 

 




うちのエヴァちゃん的には、緒戦の時点で今回ダメでも、茶々丸に勝てるようになったら来い、と言うセカンドチャンスとかはありえたりします、まあほぼとは言え原作沿いなのでその分岐自体発生しませんでしたが。

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