例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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34 ネギ弟子入り編 第5話 騒がしい別荘

 

「なぁ、マスター、ここ数日、ネギの奴やつれていってないか?」

私がそう言ったのは、ネギが南の島から帰ってきて数日後の指導後検討での事だった。

「…ウム、疲労と貧血が溜まっているんだろうなぁ…まあ、慣れの問題だろうが明日の別荘に入ってすぐの実践稽古は少し軽めにして精の付くもの喰わせて長めに寝かせるとしようか」

多少の疲労は気にしない筈ではあるが、少しやり過ぎたかとお優しい事を言うマスターである。

「それがいいだろうな…そのままだとアスナ辺りが心配して怒鳴り込んできそうであるし」

「ふん…ぼーやの希望でやっている事だ、とやかく言われる筋合いはない。

ま、茶々丸、そういう事だ、精のつくもの…レバーステーキか何かを追加で明日の別荘での夕食に出してやれるように手配しておけ」

「はい、了解しました。マスター」

と、言った事を話したのが昨日の事。

 

 

 

明らかに消耗しており、クラスの連中からも心配されていたネギであるが、私は特別メニューとは別に、丁度食料の補充をするからと茶々丸と共に商店街で各種食料を買いそろえていた。

「手伝っていただいてすいません、千雨さん」

「いいって、ネギが参加する前は元々食料の半分以上は私が消費していたんだし、荷物持ち位な。それに、特別メニュー、私の分もあるんだろう?」

「はい、千雨さんとネギ先生のマスターへの血液供給を考えてその方が良かろうと姉たちと相談しまして…今まで千雨さんはどうなさっていたので?」

「ん?別荘外での食事とサプリメント、あとネギにも飲ませている増血剤と…あとは慣れ?」

「なるほど…先生も木乃香さんにお願いしてそういう料理を作ってもらえるようにして頂かないといけないわけですね」

成程、と茶々丸が頷く。

「まあ、別荘の中でもう一食、軽食とかを食わせて返すって言う手もあるけどな、レバーペーストとか、今日みたいなレバーステーキとかブラッドソーセージとか…」

「その辺りはマスターや先生にご相談いたしましょう」

「そうだな」

そんな感じで買い物を済ませて私達はマスターの家にやってきた。

「ん…降ってきたな」

「そうですね、マスター、傘を持っておられないはずなのですが」

「朝見た時、先生は持っていた様子だったし、大丈夫だろう」

そんな話をしつつ、大量の食料を別荘に持ち込むものと外の食料とに仕分けていた。

 

「帰ったぞ。茶々丸、千雨、もう戻っているか?」

「お邪魔します」

マスターとネギが帰ってきた。

「はい、マスター、こちらにおります」

「食料の仕分けも終わっているからすぐには入れるよ」

「あ、僕もお持ちします」

断るのもネギの気持ち的に悪いかと思って、軽めの物を一袋、預けた。

「よし、ではいくぞ」

私達は別荘へと向かっていった。

 

 

 

早速、いつものように試合をして…今日は私・ネギVS茶々丸・チャチャゼロ・マスター…まあ、単騎でならともかく、私もネギの従者役となるとあまり長持ちはせず、ボコボコにされる事を繰り返した…。

「少し早いが今日はここまでにする。今日は、ぼーやから血を貰おうか」

回復させてから授業料を徴収すると吸い過ぎそうなので、先に吸う事にするという事らしい。

 

…が。

「ああ…やはりぼーやのは濃いな…しかし…まだ足りんな」

「えぇっ」

「…ふふふ…いいだろ?もう少し」

「も、もう限界ですよっ」

「少し休めば回復する、若いんだからな」

結局、こうなった。私の時も最初期は自制が下手だったんだから、私のよりも魔力的な意味で美味であろうネギの血を自制しきれるわけがなかった。

「マスター、ネギがやつれてきているから加減するんじゃなかったのか?」

「硬い事を言うな、千雨、ちゃんと加減はしてやるさ…だが、まだ足りん…それだけさ。ほら、出せ」

マスターがネギに腕を出すように迫る…まあ腕なだけいいんじゃないかな?私は首からだし、押し倒されるように飲まれる事とも割とあるし。

「あっ、ダメです」

「ほら、良いから早く出せ」

「だ、ダメです…もう無理ですよ、エヴァンジェリンさん…」

「フフ…私の事はマスターと呼べと言っているだろう」

「千雨さぁん、助けてください」

「…すまん、無理だ。まあ、茶々丸たちが精のつくものを用意してくれているから、諦めろ」

今、止めたら、私が吸われる…と言うのは構わんが、ネギの代わりなら割と量を吸われるだろうし、別荘からの出る前の実践稽古後にネギがまた吸われて本末転倒な未来しか見えない。

…それに、呼びに来たらしき気配もするし、早く済ませんと料理が冷める。

 

「コ、ココココラーッ!あんた達、子供相手に何やってんのよーっ」

と、茶々丸かと思った気配はどうやらアスナ達だったらしく、そんな叫びと共に飛び出してきたアスナに続いて続々と魔法バレ組が顔を出す。

「ん?…なんだ、お前たち」

「何って、何やってんのよーっ」

「何って…授業料として血を吸っていただけだよ、魔力を補充せんと稽古もつけられん…千雨からも貰っているぞ?」

「どーせそんな事だと思ったわよ!!」

「ん〜?なんだと思っていたんだ?」

「うっさいわね!」

アスナの反応からして、エロいことだと思っていたらしい…いや、ネギが精通してれば(しているか知らんが)そう言うのもあるらしいがマスターの種族的には血の方が効率良い…筈である。

 

 

 

誤解?が解けた所で、エヴァがみんなにこの別荘とネギの事情を説明し…案の定、宴会がはじまった。

「千雨さん、ネギ先生、予定していた特別料理です、召し上がってください」

「ん、さんきゅ、茶々丸」

「ありがとうございます、茶々丸さん」

茶々丸が出してくれたのは先ほど仕入れてきたレバーをソテーしたものだった。

「あ~千雨とネギ坊主だけずるいアルね」

それにクーが羨ましそうにする。

「…別に、少しくらい分けてもいいけど…コレ、マスターからの吸血分を補う為の料理だからな?味見以上に箸付けるなら、マスターに吸血されてもらうぞ?」

「ん?私は構わんぞ、魔力補給になるかは別にして、若い女の血は旨いからな」

と、エヴァがニヤニヤ笑う

「う~ならば一切れだけもらうアルよ」

脅してみたが、食うらしい。

「はい、どうぞ、クー老師」

と、ネギが皿を差し出そうとするが、私が止めた。

「まて、私の皿から持ってけ、ネギが貧血気味だからってわざわざ用意したんだ、お前は全部自分で食え」

「でも千雨さんだって毎日…」

「いいんだよ、私は慣れているから…と言うか、今までは自分で外で食っていたからな」

「えっと…千雨の皿からもらえばいいアルね?」

「じゃあ私も貰おっと」

「じゃあうちもーおいひい〜せっちゃんもたべぇ〜」

「しかし…いいのか?千雨」

「…もういいよ、食え食え、一切れだけな」

「では…」

と、次々と箸が伸びてきて、半分以上食われてしまった…肉気自体は他にもあるしまあいいが。

「ネギ君、これからは貧血に効く食事にせなあかんかな〜」

まあ、事情がバレた以上はそうしてもらうべきではある。

 

「…と言う訳なのですが」

「…何?魔法を?私に教えろと?」

と、言った事をやっていると、エヴァに夕映とのどかが魔法を教えて欲しいと乞うていた。

当然、エヴァが自分でする必要もない面倒事を自分でするわけもなくネギに投げられ、さらに他の連中も群がって来て火よ灯れの練習会が始まった。

 

「ほら、まじめにやっている組は数をこなすより一回一回しっかりとイメージを固めてやれ、適当なイメージで10回やるよりしっかりと魔力を取り込んで集中するイメージして一回やった方が良いぞ、素振りと同じだ。後、火よ灯れ(アールデスカット)の意味をちゃんと意識するようにな!」

「「「はいっ」」」

何度も何度も短いスパンで杖を振る組を見て思わずアドバイスをしてしまった。

 

「せっちゃんはやらへんの?」

「私はできますから…ラン」

刹那が陰陽術での火よ灯れに相当するらしい術で指先に火をともした。

「キャーッ、スゴーイ、せっちゃん」

「まあ、それ、陰陽術だけどな…」

「…結果は同じだ」

 

 

 

こうして散々騒いだ後に、屋上に臨時の客室を設営し、皆はそこで寝る事になった…が。

「…ネギめ、体調戻させるためにマスターの稽古を軽めにして特別料理を用意したっていうのに…つうか安眠妨害だって」

まどろみながら型稽古をしているらしい気配を追っていた私は、呪文発動の音と気配で完全に覚醒し、思わずそんな悪態をついていた…周りも何人か起こされたみたいであるし…軽く注意しておこうかと思って行ってみると、既にアスナがネギを締め上げていた。

「…まあ、アスナが注意したならもう良いか」

「千雨も来たか」

「あ、マスター…まあ流石に雷の斧を使われたら起きますって…型稽古までなら見逃すにせよ」

「うむ、だが面白そうな話をしているぞ…ふむ、宮崎のどかも起きて来たか、丁度良い」

そう言うとエヴァは言葉巧みにのどかから「いどのえにっき」を借り受けてしまった。

「よし、千雨も来い、ぼーやの共有している記憶を見るぞ」

「む、ネギ坊主の記憶アルか?」

「それは面白そうだね、みんなを起こしてくる」

と、クーと朝倉がそれを聞きつけて皆を起こしに行った…こうして、私達もネギの6年前の記憶とやらを盗み見る事になったのであった…良いのかなぁ…。

 

 

 

端的に表現するならば4歳のネギは親にかまって欲しくて悪戯という名の自傷をする問題児で…さらに問題だったのはその親が既に死亡していて構い様も無く…最終的には冬の湖に入水する等という事までやらかした事だった。一応、その一件の後は大人しくなったようではあるが、それでも自分がピンチになれば助けに来てくれると無邪気に信じていたようだ。

 そして…運命の日、釣りをしていて従姉の帰省日を思い出し、村に駆け戻ったネギが見た物は…燃え盛る村と石化した村人達だった…火の中で己がピンチになればと願ったからだと自責するネギに悪魔たちが襲い掛かり…そこに突如現れたサウザンド・マスター…ナギ・スプリングフィールドらしき人物がネギを庇い、あっという間に悪魔の群れを殲滅した…しかし、その様子に恐怖したネギはその場から逃げ出してしまった。不幸な事に、逃げた先には別の悪魔がいて…ネギを庇って交流のあった爺さんとネギの従姉が石化光線を食らってしまった。それでも爺さんは魔道具らしき物を用いて完全に石化する前に悪魔とその従魔らしき何かを封印する事に成功し…ネギの目の前で完全に石となった。

追いついたサウザンド・マスターに導かれ、足のみが石化した従姉と村の外に避難したネギであるが、しかし、ネギは従姉を守るためにサウザンド・マスターに杖を構え…その姿に彼はその子が息子のネギであると気づいたようである。そして彼はネギに杖を形見として渡し、空に消えていった…。

その後、ネギ達は三日後に救出され、従姉と幼馴染が通っていたらしいウェールズの山奥の学校がある魔法使いの街に移り住み、そこから5年間は魔法学校で勉強漬け…それは悪夢からの逃避、脅威からの防衛、父への憧憬、理解しているであろう石化した人々の救済…あるいは復讐のための牙…いずれであるかは判断がつかないが…恐らく全てであろうか…とにかく、そうして【天才少年、ネギ・スプリングフィールド】は芽吹いたわけである。そして、ネギはアスナに言った…あの雪の夜の悪夢はピンチになれば父が助けに来てくれると思った自分に対する天罰なのではないかと思ってしまう、と。

 

「え…なっ!? 何言っているのよ、そんな事ある訳ないじゃん!」

その発言はアスナには捨て置けなかったようで、そんな事はない、ネギのせいなんかじゃない、きっと父とも生きてまた会える、と言って聞かせ、協力もする、と申し出た。

 そこで、私達が覗いていた事がバレ、皆も協力するからとネギがもみくちゃにされていた…というか、エヴァまで軽く泣いていた。そして、なぜか、ネギの父が見つかる事を祈った乾杯がなされ、宴会が再開されたのであった…。

 私は…創作ではよくある話であるし、現実でも悪魔を武装勢力に置き換えれば掃いて捨てるほどありふれた悲劇でもある…という事自体は知っている、がそれでもそれは悲劇であろうし、同情するし、友人でもあるネギの為に無茶位してやっても良いとは思うが…泣けなかった…私が協力している超の計画は、きっとネギの前途を一度断ち切り、その夢と目標…マギステル・マギになる事、父と再会する事…を阻む障害でしかないと理解しているから…そして私はそれに私欲で協力している…こちらに落とせれば気も楽にはなるが生真面目なお前はきっと私たちの敵になる…その日まで、精々仲良くできるといいな、ネギ…超の計画が潰えた時は…まあ厚顔無恥ながらもネギがそれを許してくれるならば…私も協力してやろうか…マスター謹製の【ジュース】を煽りながら、私はそんな事を考え、騒ぐ皆を眺めていた。

 

 




まあ、概ね原作沿い(
そしてうちの千雨さんはこういう思考に行き着いたりしました。それでも、知ってしまったからにはマスター謹製の【ジュース】を煽りたくはなるのです。

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