例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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35 ネギ弟子入り編 第6話 ヘルマン卿

結局、その日は夜更かしと翌日の遊びに付き合って朝錬+α程度しか鍛錬ができなかった事もあり、もう一日別荘を使用する事にして、まずは皆を帰す事とした。

「「「お邪魔しましたーっ」」」

本当にな、とは少し思っても言わぬが花である。

「おう、気をつけてな」

「あれ?千雨ちゃんはまだ帰らないの?」

「ああ、まだ用事があるからな…皆は先に帰れ」

そう言ってしっしっと言ったしぐさで早く帰れと促す。

「つめたいなーもう…そうそう、エヴァちゃん、テスト勉強の時間足りなくなったらまた別荘使わせてよ」

「別に構わんが…女にはすすめんぞ、歳取るからな…まあ使いまくっている女もいるが」

と、マスターが私を見る。

「うっ!!そうか」

「気にしないアルよ」

「いいじゃない、2、3日くらい歳取っても」

「…若いから言えるセリフだな、それ」

「まあ、多用しなきゃいうほど問題は無いけど…将来後悔しても知らんぞ、ってこったな」

…多用している私が言うのもなんであるが。

 

「やれやれ…やっとうるさいのが行ったか」

「楽しそうでしたが?マスター」

「煩わしさと楽しさも両立する物さ、茶々丸」

「煩いわ!……ん…?」

エヴァが何かを感じ取った様子で言った。

「どうかしましたか…?」

「いや…気のせいだろう…」

 

「それはそうと千雨、ぼーやの過去を見て何か思う事でもあったか?昨晩はやけに黄昏ていたが」

小屋に戻り、お茶をご馳走になっているとエヴァが面白いおもちゃでも見つけた様に言った

「…そりゃあな、自分達が踏みにじる予定の奴…ネギに深く刺さった棘を見ちまったら私でもあれくらいなるさ…」

「そういえば、お前達は何かたくらんでいるんだったな…正確には超の企みに協力しているんだったか?」

「ああ…私も、魔法使い側に入った義理はあるから計画の核心部にはノータッチだが大体の目的は知って協力しているよ」

紅茶に砂糖とミルクを何時もより多めにいれ、かき混ぜながら言う。

「で、それがぼーやにとって不利益になるわけか」

「正確には麻帆良で大それた事をやらかされた責任をとらされる可能性が高い、だな。そうなりゃ色々キャリアの障害になるさね、父親探しの邪魔にもな」

「…それを理解して、アレを見てもなお、お前は協力を続けるわけか?」

ニヤニヤとエヴァが聞いてくる。

「もちろん、私はエヴァの…マスターの弟子たる中ボスだからな…それくらいの悪事は平気でするよ」

そう答えて私は紅茶を一口飲んだ…甘くて旨い

「はっ…お人よしの小娘の癖して…だが、それでこそ我が弟子、とは褒めてやろうか」

「まあ、計画の核心を知らんから成功率も判断できんけどな…そこは超と聡美を信じるよ…ご馳走様。別荘に行ってくる」

「ああ、精々励め」

そして、私は別荘に再び入り、僅かに産まれた迷いを振り払うように、鍛錬に打ち込んだ…。

迷う事は無い、天秤はあの日から動いてなどいないのだから…少なくとも、今はまだ。

 

 

 

「ただいま」

「お帰りなさい、お母様」

「…お母様?…まあ確かにお前らは茶々丸の親か」

「唐突にそのネタはやめろ、茶々丸」

「駄目…でしたか?」

というコントをしていると豪雨の中、扉を叩く音が聞こえた。

「あいているぞ」

「失礼するでござる、エヴァンジェリン殿、おお、千雨はこっちだったか」

「慌ててどうした、楓」

「寮に侵入者があり、千鶴殿と他7名…恐らくアスナ殿、このか殿、夕映殿、のどか殿、朝倉殿、それにクー、刹那が浚われたでござる」

「なにっ…先ほどの気配は気のせいではなかったのか」

「で、賊と浚われた連中は?」

「世界樹前ステージにて待つとネギ坊主とコタローに告げて去っていったでござる」

「…私達も行くか?エヴァ」

「ウム…だが、私が良いと言うまで手を出すな…ぼーやの修行の成果を見るのに丁度良いやもしれんからな」

「…ああ、わかった」

「了解しました、マスター」

「あいわかった…では、先に向かっている、どうしようもない様であれば先に介入するでござるよ」

そう言って去って行った楓を、私達も追うのであった。

 

 

 

「…丁度だな」

私とエヴァと茶々丸が先行していた楓に合流して少しするとネギと小太郎が、ネギの魔法の射手と共に突っ込んできた。

「…今の、何かおかしくなかったか?」

「確かに…障壁で弾いたという感じではなかったな」

ネギ達は賊と何かを話すと…喧嘩を始めた。

「はぁっ?」

「…何をしているのでござろうか」

「…どちらが戦うかで揉めている様だな」

そうしていると、争っている二人にスライムらしき軟体生物が3体、襲いかかった。

「ああ…アホどもが」

私は、思わず頭を抱えた。

 

その後は共同戦線を張る事にしたらしい二人はなにやら小さな瓶を用いたが、それはかき消され…アスナが苦しんでいた。

「あの瓶…ネギの記憶に出てきた奴だな…それに、今のアスナの様子…アスナのアーティファクトの魔法無効化能力か?」

「ふむ…何らかの方法でその力を賊は利用しているようだな」

エヴァが涼しい顔で言う。

「…一応、介入の準備はするぞ、エヴァ」

「ああ、好きにしろ、だがマテはちゃんと聞くんだぞ、千雨」

そう言われながらも私は咸卦の呪法と呪血紋の用意をするのであった…声を抑えて

 

賊も多少本気を出したようで、拳からビームのような、魔法の射手のような攻撃を繰り出して来て、ネギ達は魔法戦でそれに応じたが…

当然それはアスナの力でかき消された。

「ほう…魔法無効化能力は神楽坂明日菜本人の能力なのか…魔法無効化能力らしいぞ、アレ」

種族的問題で会話を聞き取れているらしいエヴァが言う。

「…レアスキルってレベルじゃねーぞ、それ」

「ようわからんが、ネギ坊主の魔法は賊に通じん、と言う事でござるな?」

「その理解でよろしいかと、長瀬さん」

 

戦いは接近戦に移行したが、2対1でも戦況は圧倒的不利、ついに小太郎が大きく吹き飛ばされてしまった。

そうして…ネギと賊が長い話をして、賊が帽子を取った。

「アレは…ネギの記憶に出てきた、爺さんを石化した悪魔か?」

「…の、様だな、会話の内容的にも」

「何の話でござるかー」

「気になるなら今度、掻い摘んで話してやるから…」

そう言って、ネギの記憶を覗いていない楓を黙らせる私だった。

 

そしてネギが暴走をはじめ…文字通り魔力のオーバードライブだ…直情的に賊を攻撃し続ける…ああ、ありゃいかんな。

「エヴァ」

「ウム、致命打を貰いそうなら許す」

あんな動き、格上相手には隙をさらしているだけである。案の定、迎え撃たれて大ピンチ…であるが。

「マテ、千雨」

「ああ、わかっている」

「ナイスタイミングでござるな、コタロー」

小太郎がすんでの所でネギを掻っ攫い、賊の射線から外したのである。

そして、まあ、ネギは怒られているようである。

 

仕切り直し、しかし圧倒的不利に変わりはないが…。

と思った時、刹那と那波以外が捕らえられていた水牢が光って破け、捕らえられていた連中が人質を救出し、魔法無効化能力を利用する媒体らしきアスナのネックレスを外し、スライムを先ほどの瓶に封印した。

「おっ…形勢逆転…とまでは行かないがコレで魔法が通じるようになったのかね」

「恐らくな」

魔法が通じる様になった為か、ネギと小太郎は前衛後衛に分かれて戦いはじめた。

そして、小太郎の分身…と恐らく影分身を用いた攻撃で、アッパーが決まる…と、そこにネギが魔法の射手を乗せて肘撃ちをかまし、雷の斧を決めた…。

「いや、あの魔法の射手から雷の斧に繋げるコンボ、従者無しの時に使うもんであって、前衛がいるなら素直に単発で叩き込めばいいんだが…というか、呪血紋アリの私のより強力だな、アレ」

魔力をたっぷり込めたらしいネギの止めの一撃は、雨雲に大穴を空けていた。

「ふふ、いいじゃないか、即席コンビゆえの安全策ともいえるしな。どちらにせよ、ぼーや達の勝ちだ…。

まあ、ぼーやの潜在力を見られたのは思わぬ収穫だった。そういう意味ではあのヘルマンやらには礼を言わねばな」

「ニンニン…では無事に終わった様でござるし、拙者はお先に失礼するでござる」

そう言って、楓は先に帰っていった。

 

「じゃあ、エヴァ、私も帰るわ」

念のため、ヘルマンというらしい悪魔が消え去るのを確認し、咸卦の呪法と呪血紋を解いて、私は言った。

「ああ、また明日な…くっくっ…さてぼーやをどう育てたものやらな」

そんな独り言をもらすエヴァ…マスターを尻目に、私も帰宅したのであった。

 

 

 

ヘルマンとか言う悪魔との戦闘の翌日、ネギは魔法剣士…いや、魔法拳士を進路として選択した。その日の別荘での夜、私とマスターはネギの指導について相談をしていた。

「と、なると暫くは短縮詠唱と無詠唱呪文の練習か?」

魔法拳士となると無詠唱呪文を主体に、決め手に詠唱呪文を使う形式が基本となる…事が多い。

「うむ、それと魔力の効率的運用と…実践稽古だな…さて、ぼーやはどんな戦い方を編み出すだろうな」

…マスターは基本を教えた後は自分で戦い方を編み出せ派だからな、欲しい技術を言えばある程度は教えてくれるが…糸術とか、あまり力を入れていないのもあり、まだ形になっていないが人形術とか…瞬動術はある程度した後に教えてもらったが。

 

そして翌日から、ネギの修行は体力・魔力トレーニングと短縮詠唱・無詠唱呪文の訓練が主となり、実戦形式の稽古も減った…まあ、魔法拳士としての基礎スキルも身についていないのに稽古したって仕方が無いからな。

 

そうして、麻帆良祭まで残り一カ月を切り…中間テストも終わり…私は一応の形になった新技をマスターに見せていた。

「…気持ち悪いわ、その動き!」

「ひでぇ!」

何とか形にした虚空瞬動改…掌や肘で宙を押してより精密な三次元機動を可能にしたのに

「いや、すごいのはわかるし、足以外で宙を弾く事の利点もわかるがな…?見ていてなんか気持ち悪い…特にお前の言う、直線機動であるはずの瞬動を素早く優しく空を押して曲げるとか」

「主軸の推力を減ぜずに、別方向に等加速度運動しているだけなんだけれどな」

「…理屈はわかるが…で、それ、何か名前はつけたのか?」

「虚空舞踏か歪曲瞬動か…」

「後者はなしだな、名前で中身がバレる…その二択なら虚空舞踏にしておけ、その奥義が曲がる瞬動だな」

こうして、私の新技の名前は虚空舞踏になった…まあ実戦で積極的に使いたいと思えるほどの練度にはなっていないのではあるが。

 




ネタな虚空舞踏ですが…使うことあるかなぁ…(白目

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