例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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39 麻帆良祭準備編 第4話 絆の証

 

「んーこんなもんでいいかな」

「ええ、そうですね…気分はどう?茶々丸」

「はい、多少の重量増加は感じられますが、機動性には概ね影響がない範囲と考えられます」

「よし、計算通りだな」

聡美がやらかした翌日、頭上に放熱板を取り付けるという力業で髪型を自由にできるとかいう小改装を半ば(改修までの仮措置としては)本気でやらかして総突っ込みを貰っていた。

そのさらに翌日、私達は時間を取って茶々丸の予備冷却システム強化の改修作業を行っていた。これで、日常生活強度なら半日くらいは持つはずだ。

「ありがとうございます、ハカセ、千雨お母様」

「むーやっぱり私はハカセなんだ?」

「その…スイマセン、ハカセと言う呼び名に私の創造主と言うニュアンスを込めてしまっているので…」

茶々丸が申し訳なさそうに言った。

 

 

 

金曜…麻帆良祭前の授業最終日、私達は昼休み返上で学祭の準備をしていた。

「やっと全コースの仕様が確定しましたねー」

「ああ…ある程度進められる所は進めていたけど、無茶苦茶進行押しているよなぁ…」

「仕方ないネ、元々は喫茶店のつもりでイージー進行計画をしていて部活とかでも分担多めに受けてしまった連中も多かったヨ」

と、言う訳で、意見集約の為の苦肉の策もかねて、短めにならざるを得ない準備期間で複数コースを制作するという暴挙が採用され、その細かな仕様もやっとさっき決まったのである…もう1週間切っているんだが

「と言う訳で、メカ班は仕様の設計への落とし込みをして、今日の放課後と明日で試作一号機を仕上げてしまいましょー」

「む、ハカセ、納期は週明けヨ?それだと少し進行がハードになるが…日曜日は使わないのカ?」

「あ、日曜日は千雨さんと朝からデートですので、強制招集以外はオフですー」

「ナニ…ついに、付き合う事になったのカ?…ええと、おめでとう?」

聡美の誤解を招く表現に超が誤解を重ねて爆弾を投下する。

「あ、馬鹿、こんなところでそんな会話したら…」

「何々〜誰が誰とお付き合い始めたって?」

ハルナや朝倉みたいな…噂好きが寄ってくるに決まっている…で、ハルナが釣れた。

「ちげーよ、私と聡美が明後日遊びに行く約束しているのを聡美がデートって表現して、超が勘違いしただけだって」

「ほほぅ…二人って初等部低学年からずっと一緒の幼馴染だし、割とそういう噂もあるんだけど?」

ハルナが煽る

「やかましい、何でもかんでも恋愛に結び付けて解釈すんじゃねぇ」

「割とそういう雰囲気ある仲の良さにも見えるけど…違うんだ?」

玩具を弄る様にハルナがニヤニヤ笑う。

「しつこい、幼馴染で、親友で、パートナーではあるけど…これは恋じゃねぇよ」

「そうですよー千雨さんと居てもドキドキしませんし、むしろ落ち着きますよー?」

「あーえーっと…つまり…愛の段階に達しているって事?」

ハルナがむしろたじろいでそう言った。

「…友愛や信愛の類いならな…と言うか、私達がそう解釈されるならアスナと委員長だってケンカップルだし、他にも百合妄想の対象、山ほどいるじゃねぇかよ」

「えー妄想は妄想だし、クラスメイトでそう言うのするの、なんか気が引けるし…私の専門薔薇だし?」

「なら、なんで私達はありなんだよ」

「…だって、二人は時々、恋人つなぎとかしているの見かけるよね?」

「…恋人つなぎ?」

そんなものした覚えはないのだが…

「ええっと…指絡めてつなぐ手のつなぎ方?」

「…えっ…あれ、恋人つなぎって言うのか?」

…うん、してた、と言うか今でもしている。

「えっと…はぐれない様にしっかり手を繋いでいた頃からの癖だけど…これの事だよな?」

聡美の手を取って手を繋いで見せる。

「昔からこうつないでいましたよね、手」

「あ、うん…その…ご馳走様?」

ハルナがその反応は想定外と言う感じで答えた。

「諦めるネ、ハルナ…冗談抜きにこの二人、自覚はないし、自覚させるのは無理ゲーアルよ」

超がなぜか諦めたようにそう言って、この話は終わりとなった。

 

 

 

「これで完成ですねー」

土曜日の夕方、クラスの連中から依頼されたメカ類の開発が完了し、聡美が言った。

「うん、そうだな。私も衣類の方は月曜までのノルマは終わっているし…明日は夕方までゆっくりできるな」

「そうですねーまあ、できれば丸一日とも思いますけど…仕方がないですね…」

「まあ、それはさておいて、納入に行くヨ、大道具班が設営始めている筈だからネ」

と言う訳で私達はメカ類を教室に運び、流れで少し設営を手伝う事となった。

 

 

 

翌朝、ネギやクー達との合同朝錬から戻ると、珍しく聡美が早起きをして身支度を始めていた。

「おはようございます、千雨さん」

「おはよう、聡美、早いな」

「はい、折角なので朝ごはんも外でどうかなと思いまして」

「ん、わかった、私もシャワー浴びて着替える、もし希望とかあれば調べといてくれると助かる」

「はい、わかりました。身支度終わったら調べますね」

まだ、着替え途中の聡美は、そう返すのであった。

 

で、結局、私達は元々ランチにどうだろうと話していた北欧風カフェ、イグドラシルでフィンランドの朝食をやっているのを見つけ、そこで朝食をとりながら具体的な今日の計画を練ることにしたのであった。

そして、出てきたものはミートボールのクリーム煮をメインにライスプディングのパイ、マッシュポテト、サラダ、それにライ麦パンが添えられた、たっぷりとした朝食だった。

「…思ったよりボリュームあるけど、大丈夫か?」

体を動かす分、私のほうが食べる量は多い。

「んー多分、いけますけど…後で食べ歩きもしたいのでライ麦パン1枚とパイを半分取って頂けるとうれしいです」

「ん、わかった」

私は了承の意を示し、手をつける前に指定された物を自分の皿に移す。

「じゃあ、いただきます」

「いただきます」

私達は質・量共にヘビーな朝食に挑むのであった。

 

「あーやっぱりおなか一杯ですねー」

「そうだな、クリーム煮って言うのを少し甘く見ていたよ」

「でも美味しくて、綺麗に頂いてしまいましたし、私も千雨さんも」

食後のコーヒーを頂きながら会話を交わす。

「と、なると、やっぱり少し混むかも知れませんが、縁日より先に散策にしましょうー」

「そうだな、縁日の屋台で何か食べるのは暫く時間欲しいし」

「もういっそお昼は縁日で軽めに済ませちゃいましょうか?そうしたらの準備の時間前に軽めのディナーチックなモノも頂けるでしょうしー」

「あーそれはちょっと考えている事があるというか、準備している事があるから…集合時間の二時間弱ほど前から私に任せてくれると嬉しい、軽めなら学祭メニューめぐりもできる…と思う」

「え…そうなんですか?でしたら、千雨さんの計画で行きましょう」

「うん、まあ…精一杯、用意してあるから…喜んでくれると嬉しい」

「ふふ…楽しみにしていますよー」

そう言って笑った聡美の胸元で雫型のネックレスが揺れた。

 

 

 

「ん?アレって柿崎達か?」

「みたいですねー折角だし聞いていきましょうか?」

手を繋いで散策をしていると、世界樹前ステージで演奏をしているうちのクラスのチア3人組+亜子が演奏をしているのを見つけた。折角だからと私達は演奏を聴いていく事にした。

 

「中々上手いじゃないか」

通しの練習らしき演奏が終わった所で4人に声をかけた。

「あっ、千雨ちゃんにハカセ、聴いてくれていたんだ」

「ええ、上手でしたよー」

「まあ、まだ完璧ではないけど、大分形になってきたよね…二人もよかったら当日、聞きに来てよ」

「あーすいませんー私、マホラ祭中はお仕事が忙しくてー…ちょっと厳しいですねー」

「そうなんだ…それで二人は代わりに今日デートしているわけか」

「…まあ、二人で遊びに出ているって意味では広い意味ではデートではあるけどさ」

「えーお揃いのネックレスをして、そんなに仲良さそうに手を繋いでいるのに?」

「…一昨日ハルナにもいったけど、私達は昔からこうなんだって」

「んーまあ良いけど…それじゃあ、そろそろ再開するから…また夕方、クラスでね」

そう言って演奏を再開した4人に手を振って、私達はその場を離れた。

 

 

 

「あれー千雨ちゃん、ハカセちゃん、デート?」

散策を続け、そこそこお腹も空いてきた頃、龍宮神社の縁日を訪れ、まずはと参拝を済ませた時、このかに声をかけられた。

「このかと刹那…とカモか…なんか皆に言われるけど二人で遊びに出て来ただけだからな?」

「そうなん?二人は仲ようて羨ましいなぁと思っとったんやけど」

「仲はいいですけど、刹那さんには先日申し上げたように、恋人というのは違いますよー?」

聡美も恋人関係である事を否定する。

「そうなんかーじゃあ、せっちゃん、私らも手ぇ繋ご?」

そう言って、このかは刹那の手をとり、指を絡めた。

「ぇっ…このちゃん…」

刹那はとても嬉しそうで、恥ずかしそうである。

「…なるほど、このちゃんか…お嬢様じゃないんだな」

それが素か、という顔で刹那を見つめる。

「くっ…」

「…せっちゃん…嫌やった?」

「そ、そんなわけあらへん、むしろ嬉し…いです」

素らしき京言葉でこのかの悲しそうな言葉を否定する刹那…うん、コレの方が私達よりも遥かにラブ臭と言う奴ではなかろうか。

 

「そや、折角やし皆で屋台、回らへん?」

「私はかまわないけど…」

「私もかまいませんよ?」

「じゃあ決まりやな」

と、言う事で4人+一匹で縁日を回る事になった。

「ダブルデートって奴だな」

…カモの戯言は放置しておく、刹那が既に握っていたので。

 

 

 

「ほな、また後でクラスでなー」

「おう、また後でな」

「はい、また後でー」

「また後で、会いましょう」

一通り、縁日を堪能した私達は最外周の鳥居前でこのかと刹那と別れた。

「まだ、もう少し時間あるし、また散策しよっか」

「はい、行きましょうか」

 

 

 

「あ、聡美、この花のペンダント、どうだ?」

「この紫に着色してあるのですか?…綺麗ですね…丁度、同じのが二つありますし、コレにしましょうか」

私達はアクセサリーの露店が出ているエリアを訪れ、何か揃いの丈夫なアクセサリーを買おうと言う事になった…いま付けているのは小学生の頃から使っているもので、成長に伴いチェーンこそ交換しているもののずっと大切にしている品なのではあるが、雫型とは言えガラス製のため普段使いには少し怖く、普段は二人ともしまいこんでいる。

「すいません、この花のペンダント二つとも頂けますか?」

「このスミレだね、チェーンはステンレスのままでいい?それとも追加料金だけど銀に交換する?」

「えっと、普段使いするつもりなんで丈夫な方を…」

「ならステンレスだね、お会計は…はい、一つこちらになります。」

と、店主が電卓で値段を示す。値札はついていたが、まあ4桁後半である。

「はい、お釣りお願いしますー」

「ちょうどだと思います、確認をお願いします」

それぞれ、代金を支払い、ペンダントを受け取る。

「はい、千雨さん、プレゼントです」

聡美が今買ったばかりのペンダントを差し出してくる。

「はは…またか?コレの時みたいに」

そういって、私は自分のガラスのペンダントを触る

「はい、ダメですか?」

「いいや…ほら、後ろ向け…こっちに付け替えるから」

「お願いしますねー」

私は、聡美からガラスのペンダントを外し、今、私が買った銀のスミレのペンダントをつけてやり、外したネックレスを手渡す。

「うん、似合っているよ」

「ありがとうございます…私も千雨さんの、交換しますね」

「じゃあ、頼む」

そう言って、私は聡美に背を向ける。すると聡美は私がしたように、私のガラスのペンダントを外し、今、聡美が贈ったペンダントに付け替えた。そして外してもらったネックレスを受け取る。

「はい…千雨さんもお似合いです…おそろいですね」

「ああ、おそろいだな」

「まいどあり」

店主の明るい声に見送られて、私達は店を後にした。

 

 

 

その後、軽く学祭限定メニューめぐりをして私達は桜ケ丘を訪ねていた。

「この道は…エヴァさんのお家ですか?」

「ここまでくれば流石にわかるよな…うん、エヴァの家に向かっている」

「なるほど…という事は…」

と、さすがに聡美もどういうプランを立てているかは感づいている様ではある。

 

エヴァ宅の呼び鈴を鳴らすとすぐに茶々丸が現れた。

「いらっしゃいませ、ハカセ、千雨さん。お待ちしておりました」

まずは茶々丸に連れられて家主にあいさつである。

「こんにちは、エヴァ」

「お邪魔します、エヴァさん」

「ああ、いらっしゃい、ハカセ、千雨。手配は済んでいるそうだ、まあ、たまにはのんびりして来ると良いさ…」

「うん、ありがとう、エヴァ」

「こちらです」

茶々丸に促されて、地下室へと向かう。

 

「それでは、ハカセ、千雨お母様…ごゆるりと…」

茶々丸はそう言って別荘が安置されている部屋の扉を開いた。

「ありがとう、茶々丸」

茶々丸に礼を言って、私達は別荘に潜った。

 

「ふふーやっぱりエヴァさんの別荘ですねー確かにこれならゆっくりできますし…ディナーも取れますね」

「そういう事、丸一日遊べないならと思ってさ…エヴァに頼んで娯楽用に借りて、茶々丸に頼んで夕食とか色々と手配してもらったんだ」

「ありがとうございます、素敵なロスタイムって奴ですかね?」

「ロスタイムかはともかく…二人で遊んで…ゆっくりしよう…来週は忙しくなるんだしな」

「ええ…ありがとうございます…千雨さん…いつもと逆ですねー」

「ああ、今回、無茶するのは聡美と超だからな…頑張れ、でも無理するなよ」

「ふふ、それも、いつも私が千雨さんに言っている事ですねー」

聡美はクスクスと笑って腕を絡めてきた。

「じゃあ、いきましょうか」

「ああ」

私達は、やっと転移陣から塔へと歩き始めた。

 

 

 

まだ時間があるからとプールで水遊びをして、風呂にも入って、お揃いで色違いのドレス…いつかのように、私が黒で、聡美が白…に着替え、エヴァご自慢の食堂から夜景を楽しみながらディナー…食材費を納めて豪勢にしてもらった…を済ませた私達は、グラスでノンアルコールシードルを飲みながら会話を楽しんでいた。

「とっても素敵な一日でした、千雨さん」

「ありがとう、そう言ってもらえると、エヴァから別荘を借りたかいもあるよ」

「ええ、景色も料理もとてもよかったです…料理はともかく、夜景は千雨さんには見慣れた景色かもしれませんけど」

「いや…全然違うよ…こうしてみる夜景と修行の合間に眺める空とはな…」

「もう…綺麗な夜景ですね、ってやつですか?」

聡美が頬を赤らめていった…ノンアルコールの筈なんだけど、雰囲気で酔ったかな?

「ん?どういう事だ?」

「あー違うならいいです…ふぁあ」

「朝も早かったし…そろそろ寝るか?」

「そうですね…明日も夕方近くまでゆっくりできますし…もう寝ましょうか」

「では、ナイトドレスをご用意してありますので、いらしてください、千雨様は私がご案内します」

「聡美様は私がお世話をさせていただきます」

「じゃあまた後で」

「はい、また後で」

人形達に案内され、歯磨きなどの寝る前のケアをしてナイトドレスに着替えた私は何時もとは違う寝室に案内された。

 

「あ、千雨さんもちょうどですね」

そして、今夜の寝室前でばったりと聡美と合流した。

「あれ…千雨さん…これって」

部屋に入ると、そこはツインではなくダブルでセッティングされた寝室であった。

「…って、同室に、とは言ったけどダブルベットで、とは言わなかったと思うんだけど?」

「はい、ですがツインとも伺っておりませんでしたので…」

「妹の茶々丸からお二人は彼女のお母様二人と伺いましたので、このように」

「それでは、ごゆるりとお休みくださいませ」

「朝は、枕元のベルを鳴らして頂けましたらご奉仕に参ります」

そう言って人形たちは一礼をして、去って行った。

 

「…どうしよっか」

困り果てて私が言う。

「二人で一緒に寝ればいいんじゃないですか?」

しかし、いつもの調子で聡美がそういう。

「それは…」

「…不味いですか?一夜の勢いで妊娠してしまう訳でもないですよー」

…そんな爆弾発言まで、さらりと変わらず吐かれるとちょっと困る。

「っておい…」

「…事実ですよ?私は女で…貴女も女ですから…ね?千雨さん。まあとにかく、突っ立ってないでいらしてくださいー」

聡美がベッドに腰掛けて隣をトントンと叩く

「ああ…うん…」

そして、促されるまま、私はそこに座った。

「少なくとも、私は仮契約の時みたいに、千雨さんなら嫌ではないですよ、キスも、その先も…貴女が望むならば…あ、でも優しくはしてくださいね?」

「はぁ…」

私は大きくため息をつく。

「…聡美が望むならば、私も応じる事自体はきっとできるし、受け入れる事も嫌ではない…けど…私は今のままでも十分だとも思っている…だから、私からは望まない…少なくとも、今はまだ…」

「ええ、それは私も同じです…が、まあ万一、俗にいう間違いが起きても双方、異存はないわけですよね?なら別にいいじゃないですか、添い寝くらいしても…千雨さんの体温、落ち着くのも事実ですし…よく眠れそうです」

「…ああ、うん…そうなるわけか…」

よーするに、万一間違い起こしてヤっちゃっても異存が無いなら添い寝位いいじゃん、という事である。

「じゃあ、寝ようか、一緒に」

「はい、寝ましょう、一緒に」

二人でベッドに身を横たえ、布団の中で手を握る

「おやすみなさい、千雨さん」

「おやすみ、聡美」

そして私達は…即行、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

一夜明け…薄明るい中、私は聡美を抱くようにまどろんでいた。

「ん…」

その体温が心地よくて、ぎゅっと抱きしめた私は再び眠りにつくのであった…

 

 

 

何度か眠りとまどろみを往復し、外の光が窓から差し込むような時間になってきた。

「ん…ふぁあ」

何時もならば、朝寝坊の時間ではあるが折角なのでのんびりとさせてもらう。

私に抱きつき、胸に顔を埋めるように眠る聡美を体の下に回っている左手で抱き寄せ、右手で髪に手櫛を入れる。

こういうのも悪くないと思う私が確かに存在しているのを自覚する…が、関係を変える事を望むかと言えば…それは望んでいないのも我ながら面倒な物である…思春期の恋に恋するような衝動、聡美を欲しいと思う気持ち、あるいは欲望が満たされない飢餓感、聡美から求められたと言う理由…そう言ったものがあればまた違うのかもしれないが…そう言った思索に耽りながら、私は再び目を瞑り聡美の髪の手触りを楽しむのであった…

 

 

 

「んー…千雨さん…」

聡美が身じろいで私の名を呼ぶ。

「おはよう、聡美」

「ふぁい…おはようございます…楽しいですか?」

「うん…楽しい」

「ならいいですよーえへへー」

そう言って聡美は私に抱きつく力を強くした。

 

 

 

「名残惜しいですが、そろそろ起きましょうかー」

「そうだな…ん…」

互いに強く抱き合い、そして体を離す。

「んー改めて、おはよう聡美」

起き上がって伸びをする。

「おはようございます、千雨さん。よく眠れました…またしましょうね、添い寝」

聡美も起き上がり、言った。

「…まあ、偶に、な。毎日だと…毎日寝坊しそうだ」

「ふふーそれはそれでしっかり睡眠が取れていいんじゃないですかー」

からかうように聡美が言う。

「…それはそれで魅力的だが…体が鈍っても困るし、朝も色々やることもあるし…」

「それもそうですねー人形さん、呼びますよー」

「ああ、頼む」

 

聡美が枕元のハンドベルを鳴らすとすぐに人形達が現れた。

「昨夜はお楽しみ…というご様子ではないようですね」

「ご朝食にいたしますか?ご入浴なさいますか?それともまずは軽く運動なさいますか?」

「あー折角だし朝風呂貰おうかな…その後朝食で…いいかな?」

「はい、それで行きましょう」

「かしこまりました。では、参りましょう」

私達は人形達に先導され、朝風呂を貰うこととした。

 

 

 

「あー楽しかったですー」

のんびりと風呂と朝食を楽しんだ後、エヴァの蔵書(の内、許可が出ている棚)から魔法理論の本などを二人で読んで遅めの昼食として軽食を食べ…転移陣に向かって歩きながらながら聡美が言った。

「うん…私も楽しかったよ、二人で過ごせて」

「はいーでも、もう時間ですからねー」

「ああ、帰ったらクラスの仕事だな」

「ええ…ね、千雨さん?」

そう言って聡美は隠し持っていたらしき仮契約カードを唇に当てた。

「うん…」

私はそう答えて、聡美の望みを叶えた。

 

こうして、私達の麻帆良祭前、最後の休暇は終わりを告げた。




初恋より先に側に居るのが当然になった二人…でも、本人たちが頑なに主張しているように、自覚としては恋心ではありません、ハイ、はたから見て付き合ってなかったの?とかやっと付き合うんだとか言われようとも、です。恋とはドキドキするもの、系の本人たちの固定観念からは外れた関係なので…仮契約の時はさすがにドキドキしていましたけど。相手がそう望むなら関係をそういう方向に進めてもいいけれど、自分から進める気はないともいうめんどくささ。そして同衾してもエッチな雰囲気になるより先に安心感で安眠する二人というオチ。
 京言葉は割りとイメージで。カモ君の言う所のダブルデートはナチュラルに距離の近い千雨・聡美ペアに当てられて距離感が縮まるコノカにどぎまぎするせっちゃんを楽しむ会。(カット

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