41 麻帆良祭編 第1話 疑念と予選会
お化け屋敷の最初のシフトに入っていた私が担当である日本の怪談コースで仕事をしていると、隣の学校の怪談コースが騒がしくなった…どうやらネギが来たらしい…一番怖い話を選びやがってどうしたんだろう…と思っていたら、どうやら他のコースの案内役が委員長とまき絵の番だったらしく、本能的に危険を避けたと言う事である…が、ズボンを脱がされていた。
時々休憩を挟み、着物姿で客引きにも回りつつ1時間ほど仕事をしていると、ネギがコタローと手伝いにやってきた。
「はい、衣装…ネギ先生、スケジュールキツイんだろ?無理に手伝わなくても回るからな?こう…先生も見回りあるんだろう?」
一応作ってあったネギ用の衣装を二着、ネギとコタロー用に取り出して渡す際に私はそう言った。
「あ…えっと…それは何とかなる目処が立ちましたので…」
「…超から貰ったって言ってたアレでか?」
「えっと…はい…」
と、なるとあの懐中時計の様な物は想定していた超の切り札、タイムマシンの予備機か何かか。
「…無理はするなよ?」
心の中で何度目かは知らんが、と付け加えておく。
少年ドラキュラと化したネギと犬と化したコタローを送り出して会計役のシフトに入っていると、ネギ達が大量の客を連れて戻ってきた。
「なるほど、こいつは使える…子供のかわいさは女性から老人まで幅広くアピールするしね」
「まあ、中身はゴシックルート以外、ガチのお化け屋敷だがな」
「まあいいじゃん、ゴシックルートはファンシーで可愛い恐怖がコンセプトなんだし」
と話をしていると柿崎がネギに次の衣装を渡していたが…まて、アレって…。
「キャアアアア!?何ですかコレー柿崎さん!」
と、着替えておいて可愛い悲鳴を上げるミニの狐娘のネギがいた。なお、日本の怪談ルート用に作りはしたが、ハート度3相当であると判定されて没になった代物である。
「うん、アリではあるが…ちとマニアックな…いや…少年だとバレなければ…?」
思わずそんな寸評をした私であった。
大爆笑するコタローに、柿崎にネギのアピール層を狭めていると抗議する裕奈、そこに委員長がネギに仮装させてまで手伝わせるとは何事だと怒鳴り込んできて…鼻血の海に沈んだ。
「…ネギ先生ラブ勢でショタコンな委員長にゃ強すぎたか…」
「ちょ、千雨ちゃん、冷静に分析してないで手当てしなきゃ!」
「そうだな…とりあえず、ネギ先生、それは危険すぎるのでドラキュラに戻ってきてください」
「は、はい!」
とりあえず、原因を遠ざける事にした私だった。
客引きを兼ねて学園祭を周りに出たネギ達を見送り少しすると、昼までの今日の私のシフトが終わった。
「じゃあお疲れさん、もし暇になったら手伝いに来る」
「はーい、お疲れ様、千雨ちゃん」
と、着物姿のままで退出した私は、パトロールを兼ねて魔力溜りになっているカフェに入り、糸術でカトラリーを落としたり、グラスを倒したりという迷惑行為による告白阻止を行いつつ、のんびりと昼食を楽しんだ。そして、そのまま魔力溜りを巡る様にパトロールのシフトに入り、糸術で本人を転ばせたり、物をぶつけたり、直接人ごみでぶつかったかのように装ったりして告白阻止をしながら学園祭を回るのであった…バイト代、受け取れるかは兎も角、まだ真面目に仕事をしないと不都合があるので…。
シフトが終わった私は一度寮の自室に戻り、接収に備えて事が始まる前に消すべきデータが全て消されている事(バックアップは暗号化してエヴァに預けてある)を確認し、呪紋回路の最終案を確定させた私は、PCの加速空間で少し考え事をしていた…超の奴、ネギにタイムマシンを渡した様であるが、いったい何を考えているのだろうか…と。
確かにネギは本物の英雄…の卵ではあると思うし、味方に引き込めればその価値は計り知れない。しかし、だからこそ、そして性格的に敵対する事くらい超にはわかるはずである…と考えた時、二つの考えが私の脳裏によぎった。
1つは、単純に罠である事…私がタイムマシンを用いた策を仕込むのであれば計画の中枢、恐らく3日目の夕刻から深夜にかけてにネギが何もできないように仕掛けをする。通常であれば狙った時間にそれ…強制時間跳躍をするのは難しいかもしれないが…エヴァの別荘のような時空間を弄った代物からの出入りに介入したり、特定の日時…例えば学園祭三日目からの跳躍を狂わせたりする事はタイムマシンの作成に比べ、さして難しくはないだろう。
そしてもうひとつの可能性…それは…超のある種の裏切りである…いや、聡美が手伝っている以上、完全な裏切りではないにせよ、私が想定している全ては茶番…とまでは言わないがネギの成長と超の計画成功との両天秤にかけられている可能性すら想定できる…そうでなければ、タイムマシンの戦闘への応用などというすぐに思いつく切り札に対抗できる代物をネギに渡す意味がわからない…単純にネギを甘く見ている?魔法理論の天才だと口酸っぱく言ってあるネギを、あの超が?…超の最終的な望みが必ずしも自身でなす必要はなく、史実で一歩及ばなかった英雄によって達成されても一向に構わないのであれば、そして聡美を納得させるだけの理由があれば…?
ピピピピッ
「ちう様、お時間です」
仕掛けてあったタイマーが鳴り、電子精霊がそれを告げる。
「…いかんな、想定が飛躍しすぎていた…うん、ありがとう」
私は加速空間から実空間に帰還し、龍宮神社へと向かった。
「お、朝倉は超についたか…まあ予想通りだな」
龍宮神社の舞台近くに設営された拠点に潜り込み、開口一番、私はそう言った。
「っ!千雨ちゃん!?どうしてここに!?」
「あはは…驚いてるな…まあ、端的に言うと私がお前の予備の司会だったからだよ」
「えっ…なにそれ、千雨ちゃん、こっちなの?魔法使いなのに!?」
朝倉が驚きを隠さずそう言った。
「ハハ…厳密には今はまだ好意的中立だが…千雨サンの中の一線を越えない範囲で、協力してもらったヨ、色々と…ネ」
「そうですよーむしろ私達がそろっているのに千雨さんが無関係なわけ無いじゃないですかー」
「と、言う訳だ、朝倉。お前がこっちについてくれたおかげで色々と弁明がめんどくさいこの武道会の司会役から解放されたってわけさ」
「あーうん…と言うか、それってヤバくないの?」
「ああ、誓約破ってたら無茶苦茶ヤバイぞ。私は魔法の秘匿を誓約して魔法使いのお仲間に入れてもらったわけだしな。だから、私は超が何を企んでいるのかは聞いてはいない。そんで、今回も友人から賞金のでかい格闘大会への出場のお誘いと司会が見つからなかった場合の予備としか聞かされてないしな。ま、限りなく黒に近い灰色って奴さ」
「うっわぁ…千雨ちゃん…その発言の時点で真っ黒じゃん」
朝倉があきれた様子でいった。
「だが、朝倉、お前もヤバイ橋、渡ってんじゃねぇか。とっ捕まったらネギの件を含めて記憶消去くらいありえるぞ?」
「あはは…まあねー。でも、この橋は渡る価値があるって私のジャーナリスト魂が囁いてさ」
朝倉はそう言って、にやりと笑った
「所で千雨さんー」
「ん?何だ、聡美」
「その着物、とっても素敵ですけどーその格好で出場されるんですか?」
「ああ、鉄扇術と糸術は使う予定だし、その方が映えるかな、と思ってさ。クラスの衣装だけど予備も作ってあるし…ちょっと発動媒体のバンクルが不似合いだけどな」
「なるほど、ちょっと楽しみですーでも、無理はしちゃ嫌ですよ?」
「大丈夫、無理はしないよ、お遊びのつもりだからな」
「そうですか…でも、優勝して欲しくもあるんですよねー」
「まあ、手も抜くつもりはないよ…ネギとコタロー位なら勝てるだろうし…いや、ネギはここ一番に強いから油断すると微妙か、マスターも身体能力は兎も角、技量は敵わんし…やっぱりちょっと無茶はするかもな…」
早めに来たのは朝倉が落ちてなかった場合に備えてもあるが、聡美と会いたかったのも多分にあるのである。
「超りん、本当にあの二人、付き合ってないの?なんかお揃いのネックレスまで増えているんだけど…しかも、アレ、スミレだよね?」
「…本人達は頑なにそう言っているから付き合ってない、そういう事でいいんじゃないカ?最近また一層仲良くなっている気はするガ、自己申告を大事にするネ」
「うーん…まあ別に記事のネタにゃしないから構わないんだけど…」
とか言う会話も聞こえるが気にしない。私達は恋人同士ではないのである、添い寝とかしたけど。
「千雨サン、そろそろ開場ヨ」
「はいよ、それじゃあいってくる、聡美、超、朝倉」
「はい、千雨さん、がんばってくださいねー」
私は一度、門前の人ごみに紛れ、予選会場に開門と共に入場した。
「あはは…麻帆良学園の最強を見たい、と来たか」
超の開会宣言を人混みの中で聞いていたが、学園最強を見たいと言うのは確かにそれっぽい理由ではあるが、絶対コレ、魔法バレの実例収集が主目的だろう。その証拠に、超はこう宣言した。
「飛び道具及び刃物の使用禁止!…そして呪文詠唱の禁止!この二点さえ守ればいかなる技を使用してもOKネ!」
「クック…超の奴め…」
「ほんと無茶するアルネ、超の奴」
瞬動も多用せんようにと思っていたのに。そう、苦笑しているとクーが声をかけてきた。
「クー、楓、真名…と鳴滝姉妹か。お前らも出るのか?それなら割のいい遊びじゃなくなっちまうな」
「はは…まあ楽はさせんよ…っと、ネギ先生もいるじゃないか」
「コタローもいるな。せっかくであるし、合流するでござるか」
こうして、私を含め、ネギとコタローと合流する事になった。
合流した私達にネギは恐慌状態になり、無理、勝てない、状態に陥った…まあ、確かに負けてやるつもりはないが試合であれば絶望的な程でも無いのに戦う前からそれはちょっと良くないぞ。
「千雨姉ちゃん、あん時の決着付けたるからな!俺は負けへんぞ!」
まあ、コタローは自信満々ではあるが
「ははは、まあ戦う事になったら、お互い魔法バレしない程度に手合わせといこうか、コタロー…負けてやる気はないがな…ネギも、真剣勝負だが命の遣り取りじゃないんだし、修行の場だと思って頑張れ」
と、私は建前を押し出してそう言った。
「千雨さん…はい!」
「ははは…まあそういう発想で挑む事自体は問題ないが…約束は覚えているだろうな?貴様が私に負ければ最終日は丸一日私に付き合って…」
「ハ、ハイ、それはもちろん」
と、そこにエヴァが合流し、エヴァを舐めた内緒話をしたらしいコタローに恫喝もしていた。
「しかし…そうなると予選会での潰し合いになるかもな…はは、半ば遊びだと思って着物で来たんだがミスったかな?」
「はは…そうだな、まあ私もこの巫女服のまま出るつもりだから、いい勝負じゃないか?」
「ぬかせ、お前の相手をするならお遊びでも【無茶】しなきゃ勝てる気がせんよ」
「私は逆にお前を飛び道具無しで仕留めきる自信が無いがな、無茶無しの本気でも」
そういって、私と真名は牽制しあう。
「やあ、楽しそうだね。ネギ君達が出るなら僕も出てみようかなー」
混沌とした状況をさらに混沌とさせる高畑先生が現れた。
そして、なぜかアスナも出場を宣言し、ネギは出場辞退しようかなどと泣き言を言い出した。
「ああ、ひとつ言い忘れているコトがあったネ」
挨拶も終わりに近づいた超の言葉が会場に響く。
「この大会が形骸化する前、実質上最後の大会となった25年前の優勝者は…学園にフラリと現れた異国の子供、『ナギ・スプリングフィールド』と名乗る当時10歳の少年だった…この名前に聞き覚えのあるものは…頑張るとイイネ」
超のその言葉と、それを肯定する高畑先生の態度に、ネギは急にやる気を出した…うむ、良い事である、おそらく、この大会自体が罠であるようにも思うが…。
そして、超の挨拶が終わり、朝倉が予選会の開始を宣言する。
…さっき浮かんだ疑念、割とマジかもしれんなぁ…と思いつつ、私は超の背中を見つめていた。
1組20名で行われるバトルロイヤルで、本選出場は各組2名…知人達のくじは見事にばらけて、各組2名以下…と言うかA組だった私とB組だったネギ以外、ちょうど2人ずつである。
「さーて…強そうなのは…ってオイ、【田中さん】かよ」
なんか、同じリングに私も開発に携わったロボット兵器、T-ANK-α3がいた…いいのか、オイ…そして他は…今のところ、ウルティマホラ本選出場ギリギリクラスが精々か。
「さて、さっそく定員が揃った組が現れました…D組、試合開始です」
D組、クーと真名のいる組の試合開始を朝倉が告げる。
まあ、試合は予想通り、クーが無双して真名と二人、本選出場を決めた。
どういう経緯か知らんが、防具と木刀を装備した剣道部部長…まあ気が練れる程度には手練れっぽい…が一蹴されていた、まあ語るべきことはそれ位だ。
第二試合はネギのB組、次いで第三試合の楓とコタローのE組がはじまる。ネギは体格の良い選手をふっ飛ばし、E組で楓は影分身で暴れていた…オイ、魔法の秘匿どこ行った。そして、なぜかコタローが分身数を競い始めて試合そっちのけで何やっているんだと朝倉から突っ込まれていた。
C組の刹那とアスナ、F組のエヴァ、高畑先生と順当に戦いが進んでいく…。
「さて、A組、定員に達しました、間もなく第6試合、開始です!」
っと、私の番か。
「着物に扇子…?場違いな」
「まて、アイツ、去年のウルティマホラ準優勝の長谷川千雨だ」
「げ…文武両道の体現者、ロボ研の女帝かよ…」
まあ、格闘関係者なら私の事くらい知っていてもおかしくないか。
「へぇ…面倒だし、纏めてかかってきてもいいんだぜ?」
眼鏡をくいっと上げ、挑発する様にニヤリと笑う。
「では、A組、試合を始めてください!」
そして、試合の結果は…
「おおっと、A組、昨年ウルティマホラ準優勝、長谷川千雨選手、漆黒の着物で扇を振るい、十数人を相手取って大立ち回り!」
「長谷川選手、無双!まさに無双です!あっという間に18名のライバルたちを下し、本戦進出を決めました!」
…と、まあ朝倉にこんな司会をされる程度には特筆する事もなく、挑発に乗って纏めてかかってきた連中相手に無双ゲーをして、全員投げ飛ばすか、カウンターを決めるか、鉄扇で引っぱたくかして全滅させ…私と、私に向かってこなかった【田中さん】が本選出場を決めた。
「皆様、お疲れ様です。本選出場者16名が決定しました。本選は明朝8時より、龍宮神社特別会場にて!
では、大会委員会の厳正な抽選の結果決定したトーナメント表を発表しましょう、こちらです!」
そういって発表されたトーナメント表、私の一回戦の相手は…佐倉愛依…ってエヴァとネギの戦いの時にパトロールで一緒したあいつか? そしてその次は…げっ…真名とクーのうち勝った方…だから多分真名で…もし勝てれば…楓かな…?中村選手かクウネル選手が思いの外、強ければ話は別であるが…
超さんの態度と行動に千雨さん、疑念を抱きつつありますが…物語の山場というモノが存在するかなぁ…今作…と言う感じになりつつあったり…
そして予選は実質カット、無双ゲーでしかないので…と言う扱いでポチ選手は一蹴されております。で、アルと競り合って本気出されてボッコにされて一回戦敗退と言うのも考えましたが、かっこいいところ少しは見せてもらおう+アル相手に咸卦の呪法無しだとどうしようもない判定が出たのとこうなりました。コタ君、ごめんね。