例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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44 麻帆良祭編 第4話 まほら武道会2 クウネル・サンダース

「少し、ぼーやに釘をさしてくる」

そう言ってマスターが選手席を立って救護室に向かった後、私は売店で少し飲食をして、トイレなどを済ませて選手席で舞台修復の様子を眺めながら今までの試合を思い出して考え事をしていた。

割と面倒な施術ではあるし、一発で数十mLの血液を消費するが…片腕にみっちりと施術すれば呪血紋で雷の斧クラスの魔法を無詠唱で撃てるのである。そして、それくらい威力が無いとクウネルとやらに透過される気がするのだ…正直、後々の弁明を考えたら派手な真似はしない方が良いかとか考えていたのではあるが…もう、高畑先生のやらかしを考えるとすごい今更感しかない。

しかし、同時に試合でそこまでする必要はあるのだろうかと言うのが悩み所で…。一応魔法使いタイプの様ではあるので偽・断罪の剣でヤる気で戦うという手もあるんだけど…?とりあえず、白き雷の底上げ用の呪血紋と偽・断罪の剣を正規版並みにまで威力を上げる呪血紋位は施術して試合に出るべきだろーかねぇ…。

 

 

 

と、考え事をしていると、あっという間に時間が過ぎ、第7試合、刹那とアスナである…が、その姿はメイド服だった…と言うか、それ位ハンデにならんのはわかるが、刹那の厚底サンダルは傍目には酷いハンデでもある。

『今大会の華、神楽坂選手に桜咲選手です!』

「ちょっと待った朝倉―ッ!」

と、様子をうかがっていると、どうやら公的な推し要素のない二人に対して、超からの指示であんな恰好をさせたらしい。そして、エヴァ曰く、アスナは本気で刹那に挑むつもりらしい…

「いや、ネギとペアでも届かんだろう、刹那には」

「確かにアスナでは無理アルなー」

「んー確かに厳しいでござるな、修行も頑張っているようでござるが…」

と、私、クー、楓の意見も一致する。

「フフ…そうとも限りませんよ」

そう言って現れたクウネル選手がアスナの頭を乱暴に撫でた。

「ちょちょちょっと、イキナリ何するんですかー!?」

「なっ…き…貴様はまさか…?」

エヴァがクウネル選手の正体に心当たりのありそうな反応をする。

それを意に介さず、クウネル選手は、かつての…麻帆良学園に転入してきた頃の人形のような、それでいて生意気なガキだったと聞くアスナを知っているような、そして高畑先生に預けられる前の保護者らしきガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグと言う名前を口にして、さらに続けた。その内容は…アスナが高畑先生と同じ事…つまり咸卦法が使える、しかも無意識下で、というモノであった。

「…確かに咸卦法はアスナみたいなタイプ向きではあるが…しかし、そんな容易くできるわけが…」

「ええ、確かに普通であればお嬢さんのおっしゃる通り…しかし、アスナさんにはできるのです」

「ど、どーゆー事ですか!?てゆーか、あなたいったい…!?」

「オ、オイ貴様!」

エヴァが怒り気味で口を挟んでくる。

「なぜ、貴様が今ここにいる!?私も奴も、お前の事も散々探していたのだぞ!?」

エヴァのその言葉にクウネル選手はクスっと笑ったような雰囲気を見せ、すっと姿をかき消した…縮地や転移の雰囲気じゃねぇし…やっぱ、こいつ、実体じゃねぇ、無理ゲーじゃねぇか。

「消えた!何者アルか、今の人!?」

「ぐ…バカな、今の今まで気づけんとは…しかしなぜ…?」

「エヴァ殿、今の御仁は…?」

「…奴はぼーやの父親の友人の一人だ、名をアル…」

と、エヴァがその名を口にしかけた時、クウネル選手が再び出現する…っていつぞやエヴァが酔った時に話してくれたサウザンドマスターの一行で、エヴァの古い知人だというアルビレオ・イマかよ、この人。

「【クウネル・サンダース】で結構ですよ、トーナメント表どおりクウネルとお呼びください」

そして、アルビレオ…いや、クウネルは今までどこで油を売っていたのか、なぜアスナの事を知っているのかと問い詰めるエヴァに、知らなかったならば暫くは秘密だとうさん臭い笑顔で答えた…チャチャゼロが言っていた、天敵という表現、本気だったのか…そして、クウネルはこう宣った。

「アスナさん、今あなたは力が欲しいのでしょう?ネギ君を守る為に。私が少しだけ力をお貸ししましょう、もう二度とあなたの前で誰かが死ぬことのないように」

 

その後、朝倉にせかされて刹那と明日菜は舞台に上がり第七試合がはじまった。

そしてその攻防は…確かに普段のアスナとは比べ物にならないだけの身体能力によって、一方的とは呼び難い…いや一応は拮抗していると呼べる状態であった。

「なぜだ!?なぜ神楽坂明日菜ごときにこれほどの身体能力が!?ただの体力バカでは説明がつかん」

「素直ニ驚キダナ」

「ああ」

「カモも知らねぇって事は…本当に咸卦法を…?」

「フフフ、その通り。あれはアスナさんが元から持っている力ですよ」

クウネルが再び出現し、そう言った。

「ぬぐっ貴様…出たり消えたり…はっ、そうか貴様、さっきあの女に何かしたな!?」

「まさか♪私は少しきっかけを与えただけですよ」

きっかけ…?咸卦法を使えるように…?つまり気の使い方を教えた…だけでは不可能であるし…忘れていた何かを思い出させた?いや、しかし…それはつまりアスナが幼少期より咸卦法を、つまりは気を使えたという事を意味するのであって…。

「どうです、エヴァンジェリン…古き友よ、一つ賭けをしませんか?」

そう言ってクウネルはエヴァに賭けを持ちかけた。クウネルの掛け金はアスナの情報で、アスナの勝ちに賭ける。そしてエヴァは当然刹那の勝ちに賭け…掛け金は次の試合にスク水で出場する事だった…ふざけているのかこいつ…いや、エヴァをからかって遊んでいるのか…?

「ネギ、ちゃんと見てなさいよ!」

アスナが唐突に選手席に向かって叫ぶ…が、ネギはいない。

「アスナさーん、こっちでーす、ちゃんと見ていますよー」

と、解説席隣からネギが答える。

「なんでそんなトコに居るのよ。と、とにかくしっかり見てなさいよ、私がちゃんとパートナーとしてあんたを守ってやれるって所を見せてやるわ!」

あ…馬鹿アスナめ。

「おおーっとこれは大胆、試合中に愛の告白かー!?」

そりゃあ、朝倉は事情を知りつつも拾うに決まっているのである。

「ちがーうっ」

と、そこでアスナは力が抜けたような様子になり…そして、左手に魔力を、右手に気を纏わせ…合成してみせた。

「バ…バカな…【気と魔力の合一】はタカミチも私の別荘で数年かけて修得したんだぞ!?千雨の様な紛い物にしてもそう簡単にいくものでは…」

「おや、そちらのお嬢さん、咸卦法をお使いになれるので?」

エヴァの言葉に私に話が飛んできた。

「厳密にはソレそのものではないですけれども…あなたにせよ楓にせよ、準決勝では出さざるを得ないでしょうから…楽しみにしておいてください」

「ふふ、では楽しみにしていますね…楽しみがまた一つ増えました」

「それよりも!なぜあの女が究極技法とも呼ばれる咸卦法を使える!?」

「ふふふ、なぜでしょうか」

「貴様っ!」

と言った間にも試合は進んでいるが、刹那は手を抜いてはいないが本気も出し切っておらず、ある種アスナの稽古の様な様相にさえ見えてきた。

「ええい、刹那!神楽坂明日菜程度に何を手間取っている!5秒で倒せ!いや、殺れ!」

「オチツケ御主人」

と、まあエヴァは気が気でない様ではあるが。

そこにクウネルはさらに掛け金の上乗せを持ちかける…掛け金はサウザンドマスターの情報に対して…猫耳と眼鏡とセーラー服の上半分だった…完全に遊ばれているな、エヴァ…。

そこから次第にアスナの動きにキレが増していき、練習で見る技量では考えられない動きを発揮し、一度は刹那に背に土をつけて見せ、その後も刹那を次第に押し始めた。

しかし、それはクウネルが念話で助言をしていたらしく、エヴァが駄々っ子の様に暴れるわ、刹那が負けたら辱めを与えるとか脅すわ…非常に面白い事態になった。

そして決着は…あっけない物だった。奥義を解禁した刹那の動きに、アスナのアーティファクトが仮契約カード通りの刀剣に変化、刹那のモップを真っ二つに切断し…止めの袈裟斬りを投げ飛ばされた後、刀剣の仕様でアスナが反則負けとなった。

「勝ったかー」

それに対して、エヴァは、心底安心したような声でそう言った。

 

「ふ…ふふははははははは!どうだ、見たか!賭けだろうが何だろうが、私に勝とうなどとゆーのが愚かなのだ!」

との、エヴァの言葉に対して

「ええ、私も久しぶりにあなたの慌てふためく姿を堪能できて満足です」

とのクウネルの完全に遊んでいました宣言が出た。その後、ネタ晴らし…賭けなど無くても情報は渡すとまで宣い…賭けの成果…でもないが、詳しい情報は学園祭後に、と言う話になった…が、端的に、とサウザンドマスターはこの世界のどこかで生きてはいる、という事を保証し、しかし、エヴァが求めたナギ・スプリングフィールドに再会できる事はないかもしれない…と言った内容をエヴァに話した。そして…大会中は、クウネルの事とサウザンドマスターの事はネギには内緒だと口止めをした。

 

 

 

第八試合、エヴァ対山下選手…は一撃で終了した。当然、エヴァの勝ちである。

そして20分の休憩が宣言され、私は中央スクリーンで始まった試合のダイジェスト映像を尻目に、トイレなどの諸々を済ませるのと、呪血紋の施術並びに咸卦の呪法の活性化の為に選手席を一度離れる事にした。

 

『ちうさまー動画流出しちゃってますけれどいいんですかー』

諸々を終えて控室でノートPCから異常がないかの報告を求めた時、こんなチャットがポップアップして来た。

『どうした』

と、事情を聴くと、この大会の動画が恐らく大会側から流出しているらしきことを報告された…まあ当然放置である。

『何もせんでいい。あと、今の会話ログ、消去しておけ』

『了解しましたー』

という事にして私は選手席に戻る事にした。

 

 

 

第九試合は私対クー…であるが、クーの負傷により、不戦勝となった。

第十試合は楓対クウネル…試合開始と共にクウネルの重力魔法が炸裂、しかし楓は影分身を残し離脱していた様で、4体の楓が十字を描くようにクウネルの障壁を破壊して掌打を与える…がノーダメージ、影分身を生かした格闘戦で一撃を与えたように見えたがやはりすり抜ける…次、私がアレの相手するんだが…無理ゲーじゃねぇか。しかし、直後、気弾の攻撃で楓がクウネルを舞台に叩きつける…魔力や気が相応にあれば一応攻撃は効く…のか?

そこから観客席上などを舞台とした格闘戦、そしてクウネルが浮遊術で距離を取り、5つの黒球を成して楓を押しつぶそうとした…が、楓は辛うじて虚空瞬動で離脱した。すると、クウネルは仮契約カードを取り出し、本がクウネルを取り囲む様なアーティファクトを出現させる。楓がそれを止めんと影分身を出現させて攻撃を仕掛けるが、それより早く、クウネルは己を取り囲む本の中から一冊をつかみ、栞を挟んで引き抜いた。そこに楓の気弾が殺到するが…楓は一蹴され、本体の首を掴まれ、舞台に叩きつけられたようである…

「今のは…そうか、そうだった…奴のアーティファクトの効果…そういう事か」

エヴァが訳知り顔で口走る。

「千雨、お前の事だから、観客相手に優勢と思い込ませて、メール投票での逃げ切りとか考えているだろう?」

「…ああ、そのつもりだったけど…」

というか、楓の試合を見るまでそれが唯一の勝算だったし。

「それは却下だ、負けても構わんから奴とはガチでやれ、師匠命令だ」

「…それは…ネギと今の…クウネルのネギの親父らしき姿を戦わせる為か?あとその余禄狙いと」

「…大体はそういう事だ、まあ姉弟子が奇跡を起こすか、弟弟子が不甲斐なければそうはならんだろうが…な」

「はぁ…了解、マスター、せいぜいクウネルの胸を借りてくるよ…まあ、一応勝つ気ではやるがな…」

私はそう言って、ため息をついた…痛い思いはできるだけ避けたかったんだがなぁ…

土煙が晴れた後、楓がギブアップをしたのはそれとほぼ同時の事だった。

 

 

 

 




敗退前にアーティファクトを見て色々悟ったエヴァちん。まあ、そうなるよね、と色々とバタフライエフェクトが…

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