例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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49 麻帆良祭編 第9話 作戦会議と甘い毒…そして

お別れ会の終盤、皆が寝落ちし始めそうだと布団が用意され始めた頃合いで、私達は中座しマスターの別荘に来ていた…私もさすがに眠い。

「…千雨さんおやすみなさい」

「ああ、お休み」

と、せっかくなので少し狭いが私の部屋でまた添い寝をする事となった。

 

 

 

「あれー千雨ちゃん、ハカセちゃんも来てたん?」

「はいー少し外ではしゃぎすぎちゃいまして休憩にー」

「…ところで、アスナはどうしたんだ?コレ」

と、鬱状態でうだっているように見えるアスナを指さす。そして聞いた事情によれば、学祭二日目に高畑先生と学祭デートをしたは良いが、最後に告白をして振られてしまい、ここに逃げ込み、多少落ち付いてこの状態だという…で、別荘内生活2日目らしい。

「まー大変だったな…エヴァが許す限りのんびりしてるといいさ」

「うん…そうする…はぁ…」

「じゃあ、アスナ、ウチらは遊んでいるからよかったらおいでな?」

とこのかを交えて3人で少し水遊びをしたが、結局アスナは精神的に参っているのか、参加する事はなかった。

 

昼食後、外に出ればまだ日の出前という事で、昼寝をする事にした私達は再び私の部屋にいた。

「では…おやすみなさい、千雨さん」

「ああ、お休み、聡美」

と、聡美に腕枕をするように抱き寄せて私達は眠りに落ちた…。

 

 

 

「送っていただき、ありがとうございましたー」

「いや、私から誘ったんだしな、これ位は大丈夫」

と、私は一度別荘の外に出て、聡美を指定された場所まで運んだ。

「おや、千雨サン…中座して何処に言っていたのかと思えば二人で抜け出していたのか…」

と、超がやってきた。

「ん、お前がここにいるって事はパーティーは終わりか?」

「ああ、少し前に皆寝落ちして自然とお開きネ…ネギ坊主とせつなサン、かえでサンが皆を室内に移している頃だと思うヨ」

「なるほど…じゃあ私も手伝いに行ってくる…じゃあな、場所がバレた頃合いにでも見届けにはいくよ」

「ウム…と言うか、もしかして最終詠唱地点、伝えたのか?ハカセ」

「いいえ?さすがにそれは秘密にしていますよ?」

「資金の流れを追えば見当はつくさ…な?」

私はそう言って、空を見上げた。

 

 

 

「おう、やっているな」

パーティー会場跡地にやってきた私は、大まかな片付けと3-Aの室内への移送をしているネギ達に出会った。

「あ、千雨さん…おかえりなさい?」

「ああ、ただいま…もう、八割方終わっているようだな?」

「ええ、何とか…夕映さん達は片付けが終わったら起こしてマスターの別荘に行こうかと」

「ん、わかった…じゃあ…ってハルナ、起きてるじゃねぇか…どうする?」

暗に魔法で眠らせろとネギにそう聞く。

「あ…その…ハルナさんにもバレちゃいまして…魔法…すいません」

「オイオイ…まあ、魔法の秘匿自体には同意したんだな?ハルナも」

「あ、はい…それは大丈夫です…仮契約もしちゃいましたけど…夕映さんとも」

「うわぁ…」

私は思わず、そんな声を上げるのだった。

 

 

 

片付けを終えた私達は、マスターの家にやってきた。マスターも別荘に潜っているらしく、その姿はなかった。しかし。私は勝手知ったるわが師の家…と皆を先導して別荘の部屋までやってきた。

「ってか、千雨ちゃん、隠れオタクの科学者キャラでしょ、魔法使いってどういう事よ!?」

「まあ、そういう事としか言いようがないなぁ…魔法学者でもあるがね…さあ、行くぞ」

そして、転移を起動させ、別荘に潜るとフリーズしている初めての面子…楓とハルナに向かってこう述べた。

「ようこそ、わが師の別荘へ」

「ななななな…なんじゃこりゃああ〜〜〜!?スゴイッ広いッこれどこの魔空空間よ!?不思議時空!?」

「スゴイでござるなー」

「暑いッ、夏じゃんか、ここ」

まあ、主に驚いているのはハルナであるが。

「下は海ですし、屋上にはプール、塔内にはスパもあるですよ」

「ええーっ!?プールにスパもあんのっ!?いたれり尽くせりじゃんっ、そりゃもー泳ぐしかっ」

と、夕映から設備を聞いてさらにハルナはテンションを上げていた。

 

「そういえばアスナさんも別荘に来ているんでしたっけ…大丈夫かな」

「んーさっき…こっちで1日前位に出た時はまだ沈んでいたけれど…大分元気にはなっているんじゃないかな?」

「あれ、千雨さん、ハカセさんと中座して別荘に来ていたんですか?」

「ああ、聡美、ああ見て徹夜とか苦手だからな…少し休ませに連れてきた」

「へぇ…意外です…」

まあ、テンションがおかしくなり、理知的ではあるが理性的ではなくなるという方向での苦手なので、実は意外ではなかったりするが…黙っておこう。

「何やってんの、千雨ちゃん、千雨ちゃんも水着に着替えて着替えてーッ」

と、強引に誘いに来たハルナに乗せられた事でもあるし。

 

「「いぇーいッ」アル」

と、ハルナは私と夕映を、クーはのどかを無理やりプールに飛び込ませやがった。いや、抵抗はしてないけどさ。

「離せ、腐れ女子が、溺れるわッ」

「いやーアハハ、学園祭中にこんなリゾート気分が味わえるなんて思わなかったねー」

「元気ですね、ハルナ。ほとんど寝ていないですのに」

「…半分は寝ていないからこその暴走だろ、コレ」

「ナハハハ」

 

と、騒いでいるとアスナが駆け寄ってくる

「ちょっと、ちょっとー」

「アスナさん!」

「なんでパルまでここに来てんのよ!?」

「じ、実は魔法の件、バレちゃいまして…」

と、ネギが申し訳なさそうにいう。

「なっ…ヤバいじゃんかッ!あんた、オコジョの話はどーなったのよッ!?もうオコジョよ、あんた!もうほとんど70%位オコジョよー!」

「ひいいースイマセンーッ」

「スイマセンじゃなくて、あんたの問題でしょーッ」

まあ、私の問題でもあったのだが、ここまで来たら開き直りが肝心である…と言うかもう知らん。

「ま、まあパルはいつかバレるとは思っていたけれど…ちゃんと口止めはできているんでしょうね!?」

「ハ、ハイ、それはもちろん…」

と、言う話をしている所にハルナが茶々を入れる。

「やほーアスナ、フラれたんだってー?」

「放っといて、パルッ」

「あ…アスナさんの方は…その、大丈夫ですか?」

「アスナさん…」

と、ネギも刹那も心配そうに聞く…まあ大丈夫ではなかったようであるが、さっきは。

「え、いやーうん…まあね」

「ハ、この女、ヒトの別荘でリゾートを堪能しつつ四日間も食っちゃ寝、惰眠を貪っていたんだぞ?これでも足りんと言うなら私が永遠の眠りにつかせてやろう」

と、エヴァとこのかが登場する。

「悪かったわよ!もう立ち直りましたー」

「あ、マスター、このかさん」

「それで、あんた達は何しにここに来たのよ?寝に来たの?」

「え…ハ、ハイ。それは、あの…超さんのことで一度作戦会議をと思って…」

ん?それだと、私居ちゃまずくないか?とは思ったが、別荘の談話コーナーの一つに移動して私も話を聞く事となった。

 

「ええッ!?し…子孫!?かか、火星人!?え~と?この子は?からかってるのかしら~?」

と、アスナがネギのほっぺをムニムニする。ネギの子孫と言うのは初めて聞いたな…ソレ。

というか、盛大にネタバレしてる様だが突拍子もなさ過ぎて信じられていないようだ。

「からはってまふぇんゆ~(からかってませんよ~)」

「馬鹿げて聞こえますが、全て先程、本人が言った事です」

と、ネギが反論し、刹那がフォローする。

「ちょ、ちょっと待つヨ。お話多くてわからなくなったネ、整理してもらえるアルカ?」

「んーそうねよくわかんないわね」

と、いったん整理に入る。

「えと…超さんは百年以上先の未来から来た火星人で…」

「しかも何とネギ君の子孫!?」

「目的はタイムマシンによる歴史の改変。そのために魔法をバラそうとしてて」

「学園祭3日目にそれを行動に移す…でござるか」

「え~と?この子は?からかってるのかしら~?」

「からはってまふぇんてぶぁ~(からかってませんてば~)」

と、アスナがネギのほっぺをムニムニする…そのやり取り、さっきもやったな。

「ま、普通は信じがたい世迷い事に聞こえるわな、事実か否かにかかわらず」

と、私も一般論を述べておく、私は事実として既に受け入れてはいるが。

「確かに酔っ払いの戯言以下という感じですが…」

「やはり、全て嘘と考えた方が良いでしょうか」

「そーねーパルのいつもの謎の怪情報とどっこいどっこいよね」

「何々ー!?私のこと呼んだかな!?」

と、ハルナが登場する。

「聞いたよ聞いたよネギ君!いいねー火星人!未来人に歴史改変!リアルにこんなトンデモ話が聞けるとは!お姉さん創作意欲湧いちゃうなー」

と、ハイテンションで語った後、ハルナはさらに続けた。

「麻帆良の最強頭脳、学園No.1の超天才…しかしてその正体は!我々の歴史を改竄せんとする未来からの謎の侵略者! つまり、時間犯罪者、タイムパトロールはどこ!?ああっ、私達のクラスメイトがそんな悪の黒幕だったなんてなんとゆー悲劇…こりゃもー倒すしかないね!」

「倒すアルカ!?」

「クラスメートやのに!?」

「そこが燃えるじゃん!」

「まー燃えるかはともかく、魔法バレを阻止したければ倒すっきゃねーわな…ふぁぁ」

と、私は欠伸をする。

「そう!超りんの野望を止められるのはもう私達しか…もがっ」

と、ついに語り続けるハルナの口はアスナに塞がれてしまった。

「はいはい、あんたが喋るとややこしくなるからストップ」

「…でも、さっきの超さんはまるっきりの嘘を言っている様には…僕には見えなかったんです。それに全部嘘だったとしても…この…超さんからお借りしたタイムマシンは本物です」

「そうだな…と言うかさ、そこ、たいして重要じゃねーだろ」

「へ?どういう事、千雨ちゃん」

「いや、超が何者であれ、大事なのはあいつが魔法バレを目的として何かやらかすつもりと自供していて、実際にそう行動しているように見えるって点で、未来人だろうが火星人だろうが、ネギの子孫だろーが、取るべき行動になんか関係あるのか?」

「うっわー千雨ちゃんドライやなぁ…」

と、このかに突っ込みを貰う。

「とにかくー慎重に考えた方がよさそうですね…ネギ先生のおっしゃる通りタイムマシンは本物で…超さんは魔法バレに向けて着々と行動をとっています」

「あ…じゃー私、飲み物用意してきます」

「あ、うちも手伝うえ、のどか」

「このか、私にはワインを頼む」

「エヴァちゃん、昼からお酒アカーン」

と、少し飲み物を飲みながらあ~でもないこ~でもないとネギ達が話し合うのを私は眺めていた。

 

そして、話が一巡りした頃、夕映とハルナのアーティファクト披露という事になった。

「じゃあいくよ、ゆえ!」

「ハ、ハイ」

「「アデアット」」

「おおっスゴイ、カワイイじゃん」

「おほほ、いーね、いーねー」

と、カモはエロ親父の様にいう…まあ水着に衣装であるからなぁ…。

「ってあんた達、いつ仮契約したのよーっ!?」

「さっきおいしく頂いちゃいました」

と、サムズアップを決めるハルナ。

「スイマセン、スイマセンッ」

そしてペコペコと謝る夕映…別に浮気がバレたとかの類いじゃねーんだから謝る必要はないと思うんだが。

「ま、二人のアーティファクトの能力については後で確認するとして、戦力が増えるのはありがてぇぜ」

「もーバッチシ任しといて」

「し、しかし…先ほどの話が全て本当だとして、それでも疑問点が2つあります。一つは、魔法をバラす事がなぜ歴史の改変という話につながるのか…もう一つは、そもそも、なぜ超さんはわざわざ百年も先の未来から来てまでそんな事をしようとしているのか」

いや…後者はともかく、前者はそんだけデカイ爆弾ぶち込んで歴史が壊れないわけねぇだろう、としか言いようがないんだが…どう改変されるかは別にして。

「え、ええそうです…それに…僕…超さんがやろうとしている事が本当に悪い事なのかどうか…」

ほう…?思ったよりも揺れているかな?これは。…となると後で毒でも流し込むか…?

「何言ってんのよ、超さんは高畑先生を拉致監禁してたのよ?悪い事してるって言うのはもう確定済みでしょ!」

「そ、それはそうなんですが」

ま、ネギが言いたいのは方法論じゃなくて目的論の話だろうな…ふむ…ならば…。

「ああ、それに話が嘘だろうが本当だろうが、超の奴が3日目に何かやらかすつもりなのは間違いねぇんだぜ」

「とにかく!超さんの目的が何だろうと、これ以上高畑先生やネギに何かするんなら私がこの剣で止めてやるわ!」

と、アスナがハリセンを構える。

「へー、ネギに、ねー」

「な、何!?何かオカシイ!?」

「剣って姐さん、いつものハリセンじゃねーか…自在に出せるようになった訳じゃあ」

「あ、あれ?調子いいと出るのにな…」

「まあ、いくら考えても答えは出ねぇ。とにかく超がどう出てきても対応できるように準備をしておこうって話だろ?ありがたい事にみんなも協力してくれるっつーことだしよ」

「で、でも、やっぱりみんなを危険な目には…」

「大丈夫やて、ネギ君」

と、このかが怪我は即死でなければ自分が治すと宣言し、刹那はこのかを守ると宣言する。

さらに、カモの指摘するロボ軍団と真名という戦力に対しては、楓が助太刀を宣言し、クーも超が悪事を働いているなら友として止めると参戦を宣言した。そしてカモは前衛が厚くなった分後衛の薄さを指摘する…それに対応するために夕映とハルナにアーティファクトの仕様確認を頼んだ。

「そうだ、超はネット関係でも何かやらかしてるらしいんだよな、そっちの方は…そうだ!正面戦力が大きく削れちまうが千雨姉さん、頼めねぇか?何なら仮契約も…」

「いやしねぇし…って言うかまだ気づいてないのか?」

「ん?」

「…茶々丸が出てきた時点で気付いていると思っていたんだが…私は今回は不参加だ」

との私の言葉に場が凍る。

「ど、どういうことだい、千雨姉さん?」

とのカモの問いに説明をしてやる。

「はぁ…超が茶々丸を戦力としてあてにする為には三人、説得しなきゃなんねぇ人間がいる。…一人はエヴァ…まあ言うまでもなく主人だからな。もう一人は聡美…ハカセだな、あいつが製作者としての命令権最上位だ。…そしてその製作者命令権…超は3位なんだよ。言っている意味、分かるな?」

「ま、まさか…千雨さん…」

と、ネギが言う。

「そうさ、私だよ…私を少なくとも中立に立たせん事には茶々丸に対しての命令権を奪われる恐れがある…まあ、エヴァや聡美から命令権移譲させるって言う手もあるが…」

「エヴァンジェリンは面白がって傍観を決め込むだろうし…」

「…超りんと千雨ちゃんが敵対するなら…ハカセは千雨ちゃんにつくか…」

と、カモとハルナが言う。

「ああ、つまり、私は中立…それもさっき言ったロボ軍団の開発だとか超包子の運営だとか諸々の研究とかをそうと知って手伝う程度には好意的中立だよ…まあ超の三日目の行動にはノータッチだがな」

「ち、千雨ちゃん…どうして」

と、アスナが怒り交じりに問うてくる。

「ん?ダチに数多の【小さな悲劇】を減らしたいと協力を頼まれた…歴史を改変してでも…な。最初の理由はそれだけさ…そしてそのダチの計画から離れた理由も簡単…私は魔法を研究する為に魔法使いになりたかった…そのために魔法の秘匿を誓って…そのうえで魔法バレに直接協力する事を私の矜持が許さなかった…そんな卑怯者だよ、私はな」

私は、そう自嘲して笑みを浮かべる。

「だから私は今回、中立さ…邪魔もしねーしスパイもしねーよ…見届けにはいくつもりだがな…通報したけりゃ通報しろ、拷問にかけてでも情報を抜きたければかかって来い、逃げも隠れも抵抗もするが恨みはしねーよ」

私はそう言って背を向けてその場を離れた…一応警戒はしていたのだが、誰も私に襲い掛かって来る事はなかった。

 

 

 

流石にその後、一緒に過ごす事も憚られ部屋でのんびりと咸卦法の修練をしていると来客があった。

「…いらっしゃい、ネギ、楓、アスナ、夕映…それにカモもか」

「お話を…したいのですが」

と、ネギが言う。

「…内容次第だ…まあ近くの談話室へ移動しようか…暴れるにしても自室を壊したくねーしな」

と、私は近くの談話コーナーに移動を促し、ネギたちもそれに従ってくれた。

「で、何だ、話って言うのは」

「あなたが…千雨さんが超さんに協力する理由を聞きたくて…」

「ア?言っただろう?ダチの…超の頼みだって」

「いえ、そうではなくて…協力を続ける理由です…そんな理由で悪い事をする方ではないはずです、あなたは」

「…悪い事、とは?」

「千雨ちゃん!」

と、激昂するアスナをネギが静止し、言った。

「ちうさんが魔法バレに協力する事…その手段が強硬的な手段だと知ってなお止めない理由、です」

「んー二つか…まあ前者…魔法バレに協力する理由は簡単さね、私にとって、それは歴史改変なんかの手段ではなく、それ自体が目的だから、だな」

「!?」

ネギたち一行が目を見開く。

「聡美や超が公言しているように、私達は科学に魂を売り渡したマッドサイエンティストさね…魔法の暴露は科学の発展の為になり、この科学文明社会は大きく変わる…まさにパラダイムシフトさ…夕映は魔法バレの意味を割と軽視してたようだがな。だから科学の信奉者である私達…少なくとも私と聡美にとっては魔法バレ自体は悪でも何でもねーんだよ、大前提として。私は魔法使いでもあるし、魔法をバラさないと約束した身だから、それを破るのは矜持が許さないんで直接参加はしないってだけで…」

そして、自分達で用意した紅茶を一口すすり、続ける…毒を注ぎ込む。

「それぞれ別々に発展している学問が出会い相補的に躍進していく様、見たくないか?例えば、夕映、お前は魔法世界の哲学に触れたくないか?触れた後にその融合を夢想しないと確信できるか?ネギ、世界中の科学者達に魔法…いや魔力の存在を知らしめる事で科学と魔法、それぞれにどれだけの躍進が望めると思う?間違いなくパラダイムシフトが起きる。それでどれだけの人が救われるだろうな…そして魔法側の病、異常状態の治療技術だってあるいは…」

「千雨姉さん!」

カモがそれ以上聞かせては不味いと叫んだがもう遅い、ネギと夕映の心に種は撒かれた。

「あはは…まあ、今のは小娘の描く夢物語さね…さてもう一つ…それを強行的な手段…それこそ武力によってでも実現させたい理由…だな?」

との問いにネギがこくりと頷く。

「その理由は単純…私が救い難い悪党だからだよ、ネギ…他人に迷惑を振りまいてでもそうしたい、だからそうする…そこにそれ以上の理由はねぇよ…まあネギ、お前を踏みにじるのは少し心が痛むが…な」

「ネギに何をする気!」

と、アスナがハリセン…いや剣を私に向ける

「あーいや、直接はなんもしねぇよ…でも、ネギは麻帆良の魔法先生だろ?麻帆良で世界に向けて魔法バレなんて事をされるとネギだって責任を取らされる可能性は十二分にある…それは仮に無罪放免となったとしても、ネギのマギステル・マギになるという夢にも、親父さん探しにもマイナスになる事自体は間違いない…し、ネギは一度、超への処罰免除を嘆願している…違うか?」

「…はい、恐らくはそうなります」

ネギが神妙な顔で肯定した。

「聞きたい事はそれだけか?他にねぇなら私なんかの相手をするより超対策でも考えていろ…あいつがお別れ会前に見せたアレのネタ、ネギはわかっているんだろう?」

「…はい、本当なら千雨さんにも手伝ってもらうつもりだったんですが…」

と、ネギがしょんぼりした顔で言ったのに対して、

「まーその発想は悪くない。私もアレ系統の魔法は色々と研究しているからなー」

と、私はけらけらと笑う。

「アレ?」

剣を引いたアスナは首をかしげてそう聞いた。

「あーその辺りは後でお話します、アスナさん…夕映さんは…」

「あ、はい…二点、お聞きしたい事があるです」

私の吐いた甘い毒に侵され、それでもなお夕映は私に何か問いたい事があるらしい。

「ん?なんだ、夕映」

「まず一点目…超さんの出自が事実として、目的は地球ないし人類の滅亡を回避する為か否か、という事です」

「それは大切な問いだな、夕映…が、すまない、その詳細な答えを私は持たない。だが、おそらくは否だ…単に、アイツの生きる時代に溢れる数多の悲劇…そのきっかけとなったある歴史上の事件で発生した『小さな不幸』を打ち消したい…超はそう言っていた。よって人類滅亡って程ではないだろうさ、まあ冷戦みたいに世界は明日滅びても不思議ではない、って状態でない事は保証できんが」

まあ、夕映が欲しかった答えではないものを与えておく…まあ事実ではあるがな。

「っ…では…もう一つ…千雨さん…あなたはなぜ歴史の改変を是とするです?」

「それは、こう答えるしかねーな。なぜ否とせねばならん、だ」

「それはっ!」

「他の誰も持っていない不思議な力で自分の変えたい方に世界を変える…魔法使いたちがやっている事じゃねーか。それを、時間の逆行ではやっちゃいかんとする理由がどこにある?超のアレだって、科学と魔法の産物だ…科学技術と魔法で世界に溢れる不幸を一つでも多く潰したいと願う事と何の違いがあるんだ?と言った所で納得はしねーだろうな」

「…はい、できません、今の時間は今を生きる人々の物です」

「超だって、この時代にやってきてこの時代を生きている一人の人間だ。よその国、よその大陸、よその世界からノコノコやって行っておせっかい焼くのと何が違う」

そして、夕映が何か返す前に続けて言う。

「まー超はそーいう反発を招いて邪魔される覚悟はしているよ…そして私とお前もきっと平行線だ…お前と哲学・倫理の討論をするのも楽しそうだが…やりたいか?」

「…非常に興味深くはあり、自身の見識を深める役には立つと思うですが…今はそれをする時間が惜しいです…あなたの注いだ毒も、今の提案も…私個人のわがままを刺激はしますが…無意味です」

「ふっ…人間、そういうもんの積み重ねで歴史を作ってきたんだぜ?夕映」

「しかし、理性的、合理的に判断する事を選ばねばなりません」

「そうだな、しかしそれで目指すものを選ぶ為には感情は不可欠だろう?」

「ですが」

「ゆえっち、千雨姉さんに乗せられているぜ」

と、夕映で遊んでいるとカモに止められてしまった。

「はっ…しまったです…千雨さん、ご回答ありがとうございます」

「おう…で、楓とアスナはいいのか?」

「あー私は難しい事はわかんないし、ネギの保護者としてきただけ」

「拙者も、護衛役として同行しただけでござるからな」

「ん、そうかい…そうそう、カモは何かあるか?」

「…超の計画について…は聞けねぇだろう?」

「そうだな、それは憶測含めてノーコメントを貫くぞ、それこそ私を無力化して拷問するなり、いどのえにっきを使うなりしろ」

「なら、オレっちからはねぇ」

「ん…それじゃあ私は部屋に戻る…またなんかあれば訪ねてくるといい」

そう言って、私は席を立った。

 

 

 

結局、その夜も翌日も、ネギたちは私を訪ねてくることはなく、一日分の利用でネギたちは別荘を出て行った。

「フフ…よかったのか?共に行かなくても」

奉仕人形にネギたちが出立したら教えてくれと頼んであったのであるが、その人形と共にマスターが来た。

「行けるわけないでしょう?あんな啖呵切っておいて」

「そこさ…獅子身中の虫をやる事だってできただろうに、このお人よしめが」

マスターがクツクツと笑う。

「…それができるなら、私は今、聡美と超と共にいますよ、マスター」

「そうだな、難儀な物だ…平気でああいう真似はできる癖に裏切りだけはしたくないというワガママ娘め…まあそう言った所も嫌いではないがな…悪にも悪の矜持というモノがあるべきさ」

「はい、マスター」

「まあ、ぼーやも貴様も今宵が運命の日…だな?」

「ええ、まあ…ネギの奴は超の罠にかかって酷い目にあっているか、不戦敗が確定した頃だと思いますが」

「ハッハッハ…まあそう言うのも戦いの一部さ…それを乗り切ってこそだよ…貴様は超にオールインしたんだったな」

「…まあ、そのつもりです。直接動くつもりは今のところはありませんよ」

「それはそれ…後悔はせんようにな」

マスターはそう言って去って行った…。

 

 

そして、私は一日を別荘で過ごし、外へと出た…運命の日を迎える為に。

 

別荘から出た私がまずした事は、ネギの携帯に電話をする事だった…そして結果は電源が入っていないか、電波の届かない場所にいる…確定ではないが、ネギが超の罠にかけられた可能性が高いとみなしてよいだろう。

「さて…とりあえずはクラスの当番に行くか」

今日は、朝から昼までクラスの当番で、その後はパトロールの予定なのである。

 

 

 

 


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