例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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51 第1計画編 第2話 遅れて来た英雄の卵

「ん…千雨さん…」

麻帆良祭最終日から早一週間…隠れ家のベッドで私の名を呼び微睡む、最早添い寝が日常と化した聡美の頭を撫でながら、私はここ一週間の事を思い出していた。

 あの運命の夜、魔法先生たちの主力が帰還して私達の追跡を始める前に麻帆良内の隠れ家に潜伏し、そこで計画の全容を聞いた。曰く、あの大魔法は世界規模の強制認識魔法で、魔法をはじめとした超常に対する受容性を高める効果があり…ネットにばらまいてある魔法に関する知識に触れた際にそれを信じやすくする効果がある。これらの組み合わせによって、情報を拡散していき…そう言った情報を信じた人からの二次的な拡散によって次第にネットを使わない層へも魔法の拡散を行う…と言う計画らしい。それにより、やっと憶測が正解としてつながった。

翌23日の夕方には速報性重視のブログにおいて魔法が取り上げ始められ、24日には主要なブログサイトで魔法やまほら武道大会での動画が取り上げられ始めた。そして…25日朝、朝倉が23日から麻帆良武道大会、学祭最終日と連載していた記事で情報暴露を始め、さらに魔法・情報の震源地である麻帆良においては一般マスコミが魔法に飛びつくレベルに到達した。この段階に達すると超と私達を追っていた魔法先生達もそれ所ではなくなり、追跡の手も大幅に緩み始め、私達もシレっと高畑先生と明石教授宛に混乱を助長しないために暫く身を隠します宣言のメールをしておいた。そこからは楽なもので、各国への情報浸透を確認しつつ、体が鈍らない様にだけ気を付けてのんびりと過ごす日々だった…呪血紋等に関する聡美からの詰問とか色々とあるにはあったが。そして、6月30日…今日は超から教えられているネギの帰還日予定日である。

 

ピピピピッピピピピッ

 

「んーもう時間ですかぁ…」

目覚まし時計の電子音が鳴り、聡美が起きたのを確認して目覚まし時計を止める。

「おはよう」

「おはようございますー」

と、あいさつを交わし、強く抱き合った後にシャワーを浴びて、朝食となった。

「それでー千雨さんは結局、ネギ先生たちに会いに行くんですかー?」

聡美がトーストを齧りながら私に問う。

「ああ…それ位は…な」

「わかりましたーとても危険ではありますが…お気をつけて…ちゃんと帰って来てくださいね?」

「ああ、大丈夫…なんとしても帰って来るよ…どんな無茶…いや、無理をしてでも、な」

「…そーいった状況に陥る前に撤退して頂けると私としては安心なんですがー」

「善処はする、気づいたらそういう事になっていたら…うん、ごめん」

「もぉ…最悪、外のセーフハウスにでも逃げて下さいね?そこから召喚して頂ければ」

「…イヤ、外のセーフハウスに二人とも行かれるとネット上で不測の事態が発生した時の対応に手が足らんからハカセを召喚せずにホトボリ冷まして帰って来て欲しいネ?というか、あの夜の翌日、実は仮契約していたとか聞いて私、卒倒しそうだったからネ?」

と、超が口を挟んでくる。

「えーダメですかぁー?」

「この一週間、散々イチャコラしていたんだから、万一の時は秘匿通信で数日位は我慢するネ、ハカセ、千雨サン…というか、そもそも無茶するでないネ」

「あ…ハイ」

と、私は二重の意味で答えたのだった。

 

「じゃあ、行ってきます」

「ああ、気を付けてナ…頼んだヨ」

「行ってらっしゃい、千雨さん」

と、私は聡美と抱擁を交わし、隠れ家を出た。

 

 

 

ネギに渡されたタイムマシン…カシオペア一号機から発せられる信号を頼りにネギを探していると、カシオペアを引き摺るカモがいた。

「…何やってんだ、カモ…ネギは?」

ひょいっとカシオペアごとカモを確保する。

「げ、千雨姉さん…なにしに来やがった!」

「いや…超の罠に嵌って今日帰ってくるはずのネギを探しに出ていたんだが…もしかして、もう学園側に確保されたのか?ネギの奴」

「うっ…その通りだぜ畜生め…なんとかみんなと合流しようとしたがこんな所で千雨姉さんに捕まるとは…」

カモが悔しそうに言う。

「んーエヴァの家で良いのか?合流場所。連れて行ってやるよ」

「へっ?」

と、カモをカシオペアごとポケットに捩じ込み、私はエヴァの家へと向かった。

 

 

 

「よぉ…そのメッセージ、見たようだな」

と、エヴァの家の地下、別荘の安置室に着くと、ダイオラマ球にエヴァの許可を取って貼ったメッセージ…エヴァにもう帰って来たのかと大笑いされて無茶苦茶恥ずかしかった…の再生を終えたらしい一行がいた。

「ち、千雨ちゃん!?こ、これってどういう事!?なんか難しい単語ばっかでよくわかんなかったわよ!?」

とのアスナの言葉に私は状況にもかかわらずズッコケた。

「ええいっ、要するにお前らは超の計略に嵌って決戦の日を迎えられず、超の作戦は大成功したんだよ!半年もすれば、地球上の全ての人間が魔法の存在を自明…当然の事として受け入れている事だろうよ!」

「何それ!無茶苦茶ヤバいじゃん!?」

と、アスナとバカみたいないやり取りをしているとカモが目を覚ました。

「うーん…あっ、姐さん!大変だ、兄貴が!」

と、カモはアスナを見て叫んだ。

 

「ネ…ネギがオコジョにされる…!?」

時間が惜しいからと私も含めて行われた事情説明を要約するとそういう事らしい。

「ああ、今回の責任を取ってな、今は地下に閉じ込められている」

「な、なんでよ!?今回の事、ネギが悪いわけじゃないでしょ!?」

「いや、先週…お前らにとっては昨日…説明しただろ、魔法先生として、一度は超を庇った身として、超の計画が成功するとネギは責任とらされるって」

「あ…」

「まあ、そういうこった…これだけの事件だしな。兄貴はまだ10歳だしな…オコジョの刑は数カ月で済むかもしれねぇが…本国に強制送還されるのは間違いねぇだろう…下手するともう…二度と会えねぇかも」

と、カモがみんなを脅す。

「に、二度と…そんな…ネギ先生」

「助けに行くアルヨ、わが弟子ヨ!」

「ま、まってくださいクーさん。魔法先生と対立する気ですか!?」

「は、話し合いはできないのですか?」

「どうかな…頭の硬い連中だしな。それに、あいつらはあいつらで責任を負う事になる筈なんだ…追い詰められてるんだよ…」

「そんなの知らないわよ!うだうだゆーなら私がブッ飛ばしてやるわ」

うむ、危惧していた私らをとっ捕まえて減刑嘆願という方向にはいかなそうであるが…学園側と衝突されて時間を浪費されても困るのである。

「お前、それはさすがに無理ゲーだぞ…オイ、カモ、お前が態々証拠物件持って来たって事は使うつもりなんだろ?ソレ」

と、カモの持つ物を思い出させてやる。

「…そのつもりだったんだが…使えねぇんだろ?コレ…」

「ああ、地上では、な…ホレ」

と、世界樹をこよなく愛する会のホームページのとあるページを印刷したものを取り出して見せる。

「超がお前らを今日に飛ばしたのは、それがギリギリだったからさ。跳躍先にもある程度の世界樹の魔力かそれに類するモノが必要なんだよ、それ」

と、ネタバレをしてやる。

「つまり世界樹の近く…ないし地下の根っこの辺りならまだ使えるだろうな、急げばな」

「何っ…って千雨姉さん、どうしてそれを…」

「んー?聞きたいか?聞かねぇ方が良いと思うがね…というか、夕映は気づいているだろう?」

「…はい…つまりその試みは失敗するか…あるいは…」

夕映が言い淀むのに対して、私はそれを肯定する。

「まあ、そういうこった…ま、それと私らをとっ捕まえての減刑嘆願…なんて方向に走られても困るんでな」

いや、割とマジで。すでに超の切り札は機能していないので、現在は私が最大戦力である、物量を別にすれば。

「よくわかんないけど、とにかくネギを助けに行って、世界樹の根っこにたどり着けばいいのね!?」

「…はい、それが最善の手段と考えるです…千雨さんと行動を共にしても問題はない…かと」

夕映がギリっと唇を噛み締めて言った。

「おう、千雨姉さんが協力してくれる理由がよくわかんねぇが、それなら急いで行動に移そうか」

「…少し遅かったようでござるよ…魔法先生のお出ましの様でござる」

と、楓が言った。

「な…なぜです?」

「うむ…ここはエヴァ殿の邸宅でござる。超殿の仲間と疑われたか、ネギ坊主の仲間だからか…あるいは千雨がつけられたか…」

「はは…まあ私が姿を見せて逃亡すれば追ってくる可能性は高いな、囮くらいはやってやるさ」

「…どちらにせよ、ネギ坊主を救出するならば戦いは避けられぬでござるな」

一同の間に緊張が走る

 

「神楽坂明日菜以下8名…そこにいるのはわかっています。おとなしく出てきて私達に同行してください!危害を加えるつもりも、あなた方の不利益になるような事をするつもりもありません。ただ、今回の事件の重要な参考人として事情を聞かせて欲しいだけです…5分だけ待ちます」

と、葛葉先生が口上を述べた。

「さて、楓の気配を拾えてないか何かで人数誤認してる様だが…どうするんだ?さっき言ったように囮くらいはしてやるぜ?足止めは断るが」

「…そうだな…素直に従ったとして、どれだけの間拘束されるかわかったもんじゃねぇ…千雨姉さんの持ってきた道も閉じちまうぜ…千雨姉さん、エヴァは今どこに?」

「ん?ふつーに学校だぜ?登校地獄の呪いもあるし」

「あ…それがあったな…よし…それじゃあこういう作戦で行くぜ」

と、カモが作戦…私を囮として放った後に葛葉先生ともう一人が引っ掛からない様ならば刹那と楓が二人を足止め、刹那の人型とハルナの簡易ゴーレムをここに置いて他の面子は逃走…を説明した。

「よっしゃ、任せて、カモ君!」

と、ハルナがすさまじい勢いで簡易ゴーレムを作成し始めた…。

 

「じゃあ、私がまず正面玄関から小川方向に逃走、すぐに刹那と楓が顔を出す…で良いな?」

「ああ、頼んだ、千雨姉さん」

「了解…まあ、合流できそうならばまた顔出すさ…それじゃあ、達者でな」

と、カモやアスナ達に一応、別れを告げる。

「では…行くでござるよ、刹那、千雨」

と、楓と刹那と共に、一階に降り、私は手筈通りに正面玄関から飛び出した。

 

「長谷川千雨!?」

葛葉先生が私を見て叫んだ。

「ええ、その通りです、葛葉先生、それでは失礼」

と、手はず通りの方向に跳躍する。

「あ、待ちなさい!」

「葛葉、今は捨て置け!」

と、葛葉先生のペアの魔法先生が葛葉先生を止めたのが聞こえたが、構わず瞬動を重ねて使用し、その場を離れた。

 

 

 

 

その後、欺瞞を含めて逃走を続けた後に地下に潜った私は、遺跡側から魔法使いたちの施設地下へ侵入していた。

「さて…そろそろいい頃合いだな」

私はカシオペアからの信号が強くなっているのを確認し、そう呟いて、中から扉を叩く音が聞こえ続ける収容室の扉を少し開き、地下遺跡への出口でネギを待つ。

 

「よお、ネギ」

「ち、千雨さん!」

「積もる話をしている暇はねぇ…用件だけ言うぞ。もし、私を信じるのであれば、これを【向こうの私】に渡せ、そうすればお前の力になってくれる…筈だ」

と、私は簡単に暗号化された手紙の入った封筒をネギに渡す。

「これは…?」

「手紙さ、私から私に宛てた…な。ほら、お仲間たちが迎えに来ている…行け」

と、トンネルの出口を指す。

「ええ、行きましょう、千雨さんも!」

「えっ、おい、ちょっと」

と、私の手を取り駆け出すネギに引っ張られて私も共に駆けて行くはめになった。

 

 

 

感動の再会の後、カモがネギに事情を説明してなぜか私も共に世界樹深部を目指していた…こっそり追跡して見届けるはずだったんだが、どうしてこうなった。

「見てください!世界樹の根がぼんやりと!」

「おおっ」

「よし、世界樹の魔力だ!兄貴!カシオペアを!」

「うん!」

と、ネギがカシオペアを取り出し、動作を確認する。

「動いている!使えるよ!」

「よっしゃああ、これで最終日に戻れるぜ!」

「やったぁ」

「何とか大ピンチ脱出ね!」

「後はあの二人を待つだけだぜ、兄貴、刹那姉さんに連絡を!」

「うん!」

「…?カモ君、オカシイよ、時計が動いてない!」

「ち、ちょっと見て!世界樹の光が…消えてく…」

「ここの魔力も消え始めているんだ…最深部に向かえ!」

と、そんな時、デカい足音が聞こえ…西洋竜の姿が見えた。

「っ…こんな時に…私が足止めする!早く行け!」

「でも、千雨さんが戻れなく!」

「バカ野郎!向こうの私は向こうにいるんだって!とっとと行け!」

と、ネギを叱り飛ばして竜が横道にいる間に足を止めると私は竜にむかっていった。

 

とはいえ、竜を如何にかする事は条件が合えばともかく、今の条件だといろいろ厳しいのでネギ達が跳躍するまで足止めして離脱が勝利条件であろうと判定する。

「とりあえず…ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ虚空の雷薙ぎ払え 雷の斧」

と、まずは開幕ぶっぱ、と雷の斧を竜の顔面にかます。

「グルォ!」

流石に怒った様で、口からボフボフと煙を吐いてブレスの構えをとる。

まあ、まともに付き合う必要はないのでT字路を脇にどいてまずは直撃を避ける

「ノイマン・バベッジ・チューリング 吹け一陣の風… 風花 風塵乱舞」

と、詠唱のタイミングを揃え、タイミングを合わせて詠唱を完成させ、余波を完全に防いだ。

後ろを見るとネギ達は無事に召喚できたらしい刹那と共に出口らしい光に飛び込んでいた。

「ん、もう一撃くらいで良いか」

後ろに飛んで、T字路から距離を取る。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ愛しき槍を」

「グルァァ」

と、狙い通り竜が顔を出して吠え掛かってくる。

「雷の投擲」

で、雷の投擲を開いた口にぶちかまして私は逃げた、全力で。

 

光に飛び込むと、そこには何かの遺跡があり、中央に集められた世界樹の魔力の下、ネギ達は円陣を組んでいた。

「千雨さん!無事でしたか!」

「何発かぶちかましたがすぐに来るぞ!早く跳べ!」

と、叫んでネギと言葉を交わす。

「まだ楓さんが!」

「ぐっ…ならもう少し足止めが必要か…」

「いや!今、着いたでござる!」

と、楓がちょうど到着し、円陣に加わった。

「よし、私も離脱する、竜が追い付いてくる前に、早く!」

「…ハイ!千雨さん、またあちらで!」

と、ネギは答えた後に円陣内で少し会話を交わした後に、カシオペアを起動させた。

 

魔力が渦巻き、ネギは消えた…この世界線から。

 

「…じゃあな、ネギ…」

私はそう呟き、世界樹の魔力に触れた。

 

 

 

「…行くか」

そして、かねてからの疑問を解く事も出来た私は、その場を去り、超と聡美の待つ隠れ家へと帰還したのであった。

 


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