例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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54 第2計画編 第2話 夕映との問答

「はぁーいよいよ作戦開始だねー」

「ネギ君、起こさなくていいかなー」

17時45分、ネギたちが別の未来で仕入れてきた超の作戦開始時間…19時頃まであと1時間強ある。

「焦るな、まだ想定時刻まで1時間以上ある。ギリギリまで寝かせといてやれ」

そう、気をはやらせるハルナとのどかに言った…とはいえ超はこちらの作戦を掴んでいるに決まっているから侵攻開始時刻の前倒しを行う可能性は十二分にあり得る。

「あの…千雨さん」

「何だ?」

「超さんと…ネギ先生の事なのですが…少し話し相手をお願いしてもよろしいでしょうか」

覚悟の決まった声色で夕映はそう言った。

「…また毒を埋めるかもしれない、とわかっての事ならば受けよう」

それに対して、そう、私は答えた

「覚悟の上です…ではまず前提条件の確認から…」

そう言って語りだした夕映は、超がしようとしている事が単純なテロなどではなくある種の革命である事、その革命によって世界中で苦しんでいる人が救われる…かもしれない事、そして革命の帰結として不幸な未来を回避しようとしているらしい事、を指摘した。

「これらの事…つまり超さんが本当は正しいのではとの思いがネギ先生を悩ませていると思うのです」

「…まあ、多分そうだな」

「そして、論理的には超さんに協力せねばならない事態というのが一つだけ存在します…それは地球ないし人類の存亡がかかっている、という場合です。そして、それ以外の理由で歴史の改変を認めることはできないと思うのです。しかし、これは千雨さんが一応は否定なさいましたね?」

「ああ、そして昨日のアレは私の毒入りだ。超自体は冷戦云々を匂わせる様な言動は一切していない」

「そうですか…ならばなぜ今なのでしょう。例えば前世紀のような…二つの世界大戦を含む戦争であまたの人々が死んでいった時代ではなく…超さんの頭脳とタイムマシンがあればそれらの歴史も改変できるはずです」

「いやぁ…それはどうかな?技術レベルが違いすぎるとあいつの持つ未来知識をもってしてもそれを生かしきれないし、情報統制も比較的容易な時代だ…麻帆良の技術レベルが最低限のレベルに到達し、かつインターネットの普及という情報革命を考えればあいつがこの時代を選んだことに一定の合理性もある」

と、夕映の言葉を遮り、この時代を選んだ妥当性を論ずる。

「あ…技術レベルの視点は抜けていたです…」

「まあ、そこは論旨のメインじゃねーだろ、それで?」

と、私は夕映に続きを話すように促す。

「あ、はい。重要なのはそれらすべてをなかった事にするのが正しいか…と言えば答えは否と考えます…そして…その…過ぎ去った過去を受け入れて人はその上に立って歩みゆくしかない…と言いたくなるのですが、一週間後の確定した結果から戻ってきてしまった私達には…どれだけ言葉を弄しても、それは私たちにも突き付けられる諸刃の剣なのです」

そう、夕映は苦しそうに言葉を絞り出す。

「…そうだな、何なら、あいつが未来人暴露したのもネギやお前たちを同じ立場に立たせるためという節もあるな」

「その通りです…超さんが未来人である事を暴露する論理的理由が存在しないこともまた問題なので…それを狙ったとしか考えようがないのです…まるで否定して欲しいかのように」

「まー私と聡美が協力を頼まれた時も自嘲気味に自分は悪でも構わないと宣言するような真似していたな…時間逆行自体はあいつもそれだけで反対される理由になるとは自覚あったみたいで…まあ私達は肯定したけど」

「「「「はっ?」」」」

私たちの討議を黙って聞いていたハルナ、のどか、そして楓もそんな声を上げる。

「…もしかして、このメンタル攻撃の元ネタって超さん自身の経験…です?」

「可能性はゼロじゃねーな、その辺りは昨日言った通り、私は是とする、が答えだけど、ネギにゃそのままじゃ受け入れ難いだろうな…というか、その点への回答と、さっきの超が正しいかもしれないという揺れへの回答がネギに必要な言葉じゃねーかな」

「確かにそうだとは思います、そこまではわかるのですが…自分を納得させられる答えが見つからないのです…そんな私がいくらネギ先生に言葉をかけたところで…千雨さん、あなたなら…」

夕映が迷子のような声で言った。

「だから私はノータッチだっての…まあしいて言えばあれだ…マスター…エヴァの言い回しだが、泥にまみれても尚前へと進む者であれ…だな」

私も甘いな…直接ネギと対話をするのであれば別の言い回しで違ったニュアンスの事を言うだろうが。

「…考え抜いた今であればその意味を理解はするです…多分ですが」

「えっと…ようするに?」

ハルナが首をかしげる。

「いろいろなニュアンスを含むですがこの場合は…汚れてしまった事…つまり歴史改変という泥を纏った事を受け入れて、それでもなすべきことをなせ…あるいは泥に塗れる事…つまり間違う事を恐れずに信じる方へ行け…あるいは…と言った所でしょうか…本当はこういう言葉はそのまま受け入れるのが一番なのですが」

夕映のその言葉に、私はにこりと笑った。おおむね正解という意思を込めて。

 

ちうさま、麻帆良湖岸にロボ軍団が出現しました。

 

そう、電子精霊が唐突に告げる。時刻は18時少し前、おおむね一時間の繰り上げである。

「超が進軍を始めた…ネギは超との最終決戦ギリギリまで寝かせといてやりたいが…夕映、どうしたい?」

たぶん、であるが今回の場合、ネギに必要なのは単純に言葉をかけると言うよりはしっかりと自分なりの答えを出すための話し相手である。そう考えたらもう起こして話を始めるべきかもしれない…正直、毒を埋める以前にネギが納得できる答え、というモノは私は持っていないのである。まー毒ではないがネギの自己犠牲とか過去の経験を考えたら『世界のための人柱』になる事を受け入れかねない辺りはあえて指摘していない、くらいか。

「…もう少し、寝ていていただきましょう…私も少しネギ先生と向き合う前に時間が必要です…」

「ン、分かった…なら私はそろそろ離脱して電子戦を始めるけど大丈夫か?夕映」

「…はい、ありがとうございました。まだ答えは出ませんが…ネギ先生と向き合う事はできそうです」

「そうか、それはよかった。それじゃあ楓、後は頼んだぞ」

「うむ。任された」

こうして、私はソファーに横たわり意識の比重を電脳世界に移した。

 

「「「「お待ちしておりました、ちうさま」」」」

アップデートされた電子精霊たちが私を迎える。

「ああ、では…始めようか」

と、こっそりと掌握していた図書システムを足掛かりに状況把握を始める。

 

「…これ、もうチェックメイトだよな」

状況把握を終えると、すでに茶々丸の手勢らしきプログラム群があちこちに潜伏しており、防衛指揮所の監視をごまかしながら警備システムのサブシステムを掌握完了した様子で、まさに最終攻撃を開始する所であった。

「まーアリバイって意味じゃ全部終わってから手伝った方がいいなコレ…って事で…」

ネットワーク側の観測を続けつつ、防衛指揮所の監視システムを盗聴し、最高の観戦場所を確保して私は状況を…娘の晴れ舞台を見守ることにした。

 

観戦準備を整えた直後、防衛指揮所に警告が走る。さすがにここまで侵入すればばれるか、というラインではあるが、慎重に進めればやり様のあるラインでもある。まー時間を優先したのだろう。

そして潜伏していたプログラム群が一斉に牙をむき、それを足掛かりに茶々丸が電撃戦と呼んでも差し支えない速攻をかける…まー実空間からのオペレートでは並の電子精霊使いでは対応は無理だろう。茶々丸のアクションに反応する形式では到底対応は間に合わない。いっそ、指揮所を物理的にネットワークから切断し、電子精霊群を一斉解凍、そして反撃に転じるくらいの事をすればワンチャンあるが…防衛システム中枢の防衛を優先したくなるのは理解するが、そんな数テンポ遅れで後手後手の対応をしていると防衛指揮所の電子戦能力まで壊滅…させられた。

「えーどーすんだよこれ…文字通りこっちで指揮所完全制圧して電子戦能力回復させて権限委譲するくらいしか思いつかんぞ?」

が、それやったら色々と目を付けられそうでメンドイし、先ほどの腕を見ていると勝率コンマである。

「それかちうさまが全部やるかですねー」

「…できん事はないけどさぁ…茶々丸と正面対決ってのもなぁ…ん、そろそろ茶々丸が防衛システム掌握するぞ、存在がばれる。一応交戦用意だ」

「「「「了解です」」」」

電子精霊群たちを偵察に出している間に、すでに防御態勢の構築は済んでいる。手元に残していた電子精霊たちを予備兵力を除いてこの簡易陣地に配置につかせる。

 

「アクセスあり、茶々丸さまです」

陣地の外周にそのアクセスを誘導し、こちらからも手勢を出して間接的に通信をつなぐ。

「だれかと思えばお母さまでしたか」

「ああ、茶々丸。少しアリバイ作りにな」

「アリバイ…お母さまが学園側について交戦した、というアリバイですか?」

「本当は学園側に肩入れしてやるだけのつもりだったんだが…思いのほかへぼかった…防衛システムはともかく、それを使う方の腕が」

「電子精霊使いの魔法先生である弐集院先生が指揮に出ておられるようで…こう、思った以上にあっさりと」

「…成程…戦力配置の致命的ミスってやつか…となると、一戦ヤルか?茶々丸」

「…さすがに防衛システムを掌握した状態で装備不十分のお母さまに負けるとは思いませんが…」

茶々丸が申し訳なさそうにいう。

「あ、それは大丈夫だ、ネギと仮契約してアーティファクト貰ったから」

「なるほど…でしたら御指南いただきましょうか」

「おう、超からもらった奥の手、楽しみにしているぞ」

「ええ、では…まいります」

こうして、予定外に茶々丸との電子戦が始まったのであった。

 

 

 

 


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