例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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58 夏休み迄編 第2話 懺悔と外法

「ええい、鬱陶しいわ!」

ある意味慣れた光景ではあるが、ウルティマホラの後の如く、群がってくる武道家達を一蹴しながら私達は登校していた。

「千雨さん、人気者ですねー」

「まーな。最終日イベントのおかげである程度緩和しているんだろうけど、あれだけやりゃあな」

「そーですねーネギ先生や刹那さんもですかねー」

「どうかなぁ…私は何時ものって感じもあるからなぁ…」

私は少し遠い目をしながらそう答えた。最終日イベントと世論誘導がなければどうなっていたことやら。

 

「では出席…あ…」

「そっかー…超りんもういっちゃったかー」

いつもと殆ど変わらない教室、しかし、そこに超はもういないという事にクラスの空気がしんみりとなる。

「そんな…このお休みで?超さん…仰って頂ければ空港までみんなで見送りに行きましたのに…」

委員長が残念そうに言う…いや、お前、超が発った時、ふっつーにそばで乱闘していただろうが…いや、あの光で超が未来へ跳んだとは認識していないのか。

「いや…あいつそーゆーのは苦手アルしね。大丈夫ヨ、お別れ会も喜んでたし…みんなによろしくと言てたアル」

「そうだな…私たちは見送らせてもらったけど…最後まで笑っていたぞ」

「ええ、きっと向こうでも、超さんは元気でやっていますよー」

「確かに、しんみりするのはウチらしくないねー」

と、ゆうな

「うん、超りんもそれは望まないだろう」

と、朝倉

「てことは…」

と、ハルナが続いて…

「今日もプァーっと超りんの門出を祝う会を開催だーッ!」

と、なった。いや、まあアイツを慕ってくれるのはうれしいが…まあ、うん。学祭気分は抜こうな。

「ハハ…ん?」

と、ネギがクラス名簿に何かを見つけたらしく…おそらく超が何か書き込みでもしたんだろう…決意を新たに、という感じで空を眺めた。

 

そして、朝のHRがうやむやになった頃…

「ふう」

「ん?亜子、なんか悩み事?」

「え?いやーそゆー訳ちゃうんけど」

「あれだったら、うちの教会に懺悔でもしに来るといーよ、うちの神父さん、評判良いから。

クリスチャンがどーとかあんま気にしないし」

とかいう会話を亜子と美空がしていた。懺悔…か…しに行ってみてもいいかもな…そう、思った。

 

 

 

放課後、マスターの別荘を利用した後、美空の所属する教会の礼拝堂内の懺悔室を私は尋ねていた。

「あの、よろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ」

「えっと…ちょっとした理由で公式にはお付き合いしていないんですが…私には想い合う、生涯を添い遂げようと約束したパートナー…大切な人がいます。それなのに…理由があったとはいえ、別の人と私からキスをしてしまいました…」

「フムフム…貴女はそれを悩んでおられるのですね」

「ええ…その事はある事情で隠せる事ではなかったので、パートナーにも話してしまって…本人は嫉妬するなーくらいの感じだったんですが…内心では酷く傷ついているのではないかと」

「成程…その通りかもしれませんし…本当に少し嫉妬しているだけかもしれませんね、それは…他人の心の中を覗く事ができない以上、知りえないことです。ならばパートナーの方と真摯に向き合い、愛を育んでいくしかないのではないでしょうか」

「そう…ですね…ええ、その通りです…あいつと…どのような関係に収束するにせよ…真摯に向き合っていくしか…ないですよね」

「その通りです。ところで、パートナーの方とは公式にお付き合いされていないとの事でしたが何か理由が?」

「あーはい。ちょっと言いにくいのですが…必ずしも祝福される関係ではありませんので…ああ、不貞とかではないですが…表向きどのような関係になるにせよ…結婚の秘跡を望むのは…難しいでしょう」

「成程…もしかして、そのパートナーというのは女性…同性の方ですかな」

「っ!」

「大丈夫ですよ、貴女方の間の愛情を否定など致しません」

「ありがとうございます…えっと…そういう理由と…私たちがお互いに交際という形式を重視していないのと、恋心というのがよく解らないというのもあって、公式にはお付き合いしていない事にしています」

「ふむふむ…そう言った事を気にする人がいるのもまた事実ではありますな」

「ええ…ですから…恐ろしいのです、たとえ友人たちが祝福してくれたとしても…世間の目が…私たちのような関係を嫌う人々からの言葉が…その、私たちは少し有名ですので」

「ええ…しかし、親しい人々の理解と二人の間の深い愛情があれば…きっと乗り越えていく事ができる事でしょう」

「…はい、そうですね…私かパートナーが交際という形を望む日が来れば…その時は恐れずに踏み出したいと思います」

「それがいいでしょう、お二人の前途が明るいものでありますように」

「ありがとうございます…それでは、失礼します」

そう、お礼を言って私は礼拝堂を辞した。

 

 

 

翌日、ノドカも昨日懺悔室を利用したらしく、そこから評判が広がって、クラスの皆が懺悔室を使ってみようか、というような空気になっていた…混む前に利用できてよかった…かな。

 

 

 

その日の放課後、私はマスターの書庫で改めて魂に関する書物を漁っていた…呪血紋のさらに先、新たな切り札を得るために…それが正真正銘の外法だとしても…大切な人を守る為の手札は多いに越した事がないのだから…ぶっちゃけ、超の呪紋を参考に、元々考えていたそういう系統の呪紋の設計を引き直すためである。

「んー安全係数はこれくらいで…出力的にはこうなって…んー魂に負荷かけるなら闇の魔法の資料もほしいけど…」

が、闇の魔法の詳しい資料は絶対無茶するだろう、とマスターから閲覧禁止を命じられているので伝聞と晩酌の席での断片情報を元に呪文を取り込み身に纏う技法を自力開発というタスクである。

「真っ当な呪紋が一定の完成を見ちまったからなぁ…ここからの改造はやっぱり何かブレイクスルーがないとなぁ…」

正直、マイナーチェンジや実践のフィードバックはともかく、大規模改修の案がない…という事でこの研究生活である…魂を対価にする方向での呪紋や闇の魔法の再現の理論研究、咸卦法の理解促進、人ならざる者と化す外法…は少しだけ、一時的に存在を変異させる程度のモノを理論構築。あるいは皮膚に二次元的に描画されているに過ぎない呪文を体中に三次元的に描画する研究…の前段階としての積層記述の研究に、もっと単純に描画精度を上げる為の糸術の鍛錬…と手広くやりすぎている感はある。

「喪ってから嘆くよりは…それに備えたい…たとえ外法と呼ばれても…」

まあ、地力を上げるのが一番効率良いとはわかっているので鍛錬自体は欠かしていないが。研究している諸々は地力の底上げである。

 

「千雨、ここにいたか。少し手伝え」

そろそろ魔力と体力も回復したし、鍛錬に戻ろうかと本を片付けた頃、エヴァがやってきてそう言った。

「ん、いいけど何を?」

「お前たちの修行のために別のダイオラマ球を展開しようと思ってな…せっかくだから準備を手伝え」

そう言って、マスターは背を向けて歩き出す。

「了解、マスター…それでよかったらなんですけど、闇の魔法の資料も見せてくれません?アレの理論があれば色々と研究が進むと思うんですよ」

私はマスターについて歩きながらそうねだる。

「駄目だといったろう…アレはヒューマンが用いるには副作用が強すぎる…闇への適正はともかく、お前の魔力量だと十中八九死ぬぞ」

「なら、それ自体は使わないという条件でも駄目ですか?ギアスペーパー書いてもいいので」

「フム…いったいどうした?やけにしつこいじゃないか」

マスターが足を止め、振り返る。

「学園祭で超に施されていた呪紋を見て…魂に負荷をかける方向の呪紋の設計をやり直しているんですが、闇の魔法も参考にしようかと…」

「はぁ…いずれは私たちの領域に、とは言ったがそこまで生き急がんでもいいだろうに…まだ地力が伸び悩むという段階でもないのだし、そこまで外法ではない…と言いたくはないが、負荷という意味では真っ当な方向での研究もしているんだろう?」

「それでも…できる事をしないで後悔はしたくないので」

「はぁ…わかったよ」

と、マスターがため息をつき、諦めたように言う。

「何かの折に、褒美として基礎理論くらいは見せてやろう。だから外法は…あー使っても構わんが、後遺症が残らない範囲にしろ」

「はい!」

私は喜びをこめて、短く返事をした。

 

 

 

「千雨さーん」

「んーどうした?」

それはその数日後、部屋でまったりと過ごしつつ、力の王笏を用いてのながら仕事をしている時の事だった。

「私もエヴァさんの別荘を使いたいです、って言ったらどう思います?」

「え…いや、使いたいなら使えばいいと思うし、交渉の口添えもするけど…何のために」

珍しく聡美の意図を酌めず、少し困惑しながら私は答える。

「いえ、私も戦い方…とまでは言いませんが鍛えようかな、と思いまして―」

「えっ…?えっと…その…聡美が?」

言っちゃ何であるが、すでに聡美は戦闘方面では才能無し、との烙印を押されている。

「ええ…せめて走って逃げられる体力と…魔法の射手と簡単な障壁位使えるようになれば、千雨さんの無茶も緩やかになるかなーと思いまして」

くるりと体を翻し、少し抗議するような瞳で私を見上げる聡美…

「えっ…あっ…その…エヴァから何か聞いた?」

「正確にはエヴァさんから聞いた茶々丸から、ですねーまた何か外法の開発始めたんですよねー?あの血の魔法陣よりも負担のかかるのを」

「あ…うん…その…はい…」

言い訳をしようかとも思うが、聡美に見つめられて言葉を失っていく。

「それだけ喪いたくないって想って頂けるのはうれしいんですが…それで千雨さんが早死にしちゃったら意味がないんですからね?」

「はい…」

「ですから…千雨さんみたいに強くなれなくても、貴女と肩を並べて戦えなくても…私も貴女を喪いたくないから…頑張りたいんです…貴女の負担が少しでも減るように」

そう言ってほほ笑む聡美がいとおしくて、私は聡美を強く抱きしめて、言葉を返した。

「うん…ありがとう…明日、エヴァに話そうか」

「ええ、お願いしますね、千雨さん」

そういう聡美も私の背中に手をまわし…しばらく私たちは互いの体温を感じていた…

 

「なぁ…聡美…ずっと…一緒だよな?私達」

「ええ…私は貴女と一生…望めるならば来世以降も…添い遂げるつもりですよ、千雨さん…互いの信念がそれを許さない事態にならない限りは」

聡美はそう悪戯っぽく言う。

「そう…だな…やっと同じ道に合流できたけど…その可能性があったな」

「もー私や超さんを泣かせて道を違えておいてそれですかぁー」

と、聡美が私の背中をつねった。

「…ごめんな…でも、きっと次もそうする…だけど、聡美の事は離さない…絶対に」

「クスッ、欲張りですね、千雨さん…でも、うれしいです」

「ああ…もう決めたから…これが恋でなかったとしても…離れない」

「ええ…千雨さん…共に生きると誓いましょう…まだこの感情の正しい呼び名が分からなくとも…」

そして…私たちは思いのほか早く、大人のキスをする機会に恵まれた…すごかった、とだけ言っておこう。

 

 

 




懺悔のシーンは意図的に地の文無しです、千雨さん、猫被って会話しているので。
ん?千雨さん、順調に外法使いの道を歩んでるって?大丈夫、副作用も計算してるから(
それと、葉加瀬が修行…と言っても戦闘技術はコノカ程度…を始めるフラグが発ちました。
なーんか、千雨と葉加瀬の関係がサクサク進むんだけれども…チカタナイヨネ

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