「何?ハカセも修行をしたい?…正気か?」
翌日の放課後、別荘を使いたいといった聡美に対してのエヴァの反応がこれだった。
「正気ですよー…でも、正しくは体力作りがメインで、魔法の射手と魔法障壁は出来たら上出来、みたいな感じですねー」
「ああ、それならまあ…だが、急にどうした」
納得したような様子で、しかし何事だとエヴァが問う。
「いえ、私の為に千雨さんが無茶をするならば、私自身が自衛手段を身に着ければ無茶も減ってくれるかなーと…」
「くっくっく…なるほどな…愛されているじゃないか、なぁ千雨」
「…ああ…ありがたい事だよ…だから余計に私も守りたくなるんだ…無茶をしてでも」
「む…からかいがいのない反応だな…というか、認めるのか」
と、エヴァが問う。
「あーうん…この感情の名前が解らないだけで、大切に想いあっているのは事実だし…」
「ええ、超さんの計画関連で意図的に距離をとっていたのはもう終わりですし」
「…お前ら、アレで距離をとっていたのか?」
エヴァがあきれた様子でいう…まあ、微妙に心理的な障壁があるにはあったのは事実である。
「とにかく…そういう事で別荘を使わせてもらうぞ」
「ああ、好きにするといい…指導は綾瀬夕映や宮崎のどかの様に原則無しの気が向いたら、でいいな。
後…城の方にも自室をやるという話だったがハカセも使うなら…同じ部屋でいいか…設置と片付けが終わったら広めの部屋を手配してやろう」
「ええ、それで大丈夫ですー」
と、いう事で、今後は聡美も共にダイオラマ球を使用することになった…
その後の別荘使用では、ランニング…をメインにできるほど体力がないのはわかっていたので、砂浜でのウォーキングをメインで、少しランニング、という形式の体力作りと、昔習得した基礎魔法の復習という事にして、私はそれに付き合いながらトレーニング中は近くで瞬動の入りと抜きの訓練、休み時間は聡美をかばう事を前提にした仮想敵との戦闘自主練をした。
「えーと、一学期も残す所あと少し、期末テストまであと一週間…そこで簡単な小テストをやってもらったわけですが…この小テストと中間テストの結果を合わせて考えるとー…僕たち3-Aはこのままいけば、英語では『学年最下位返り咲き確実』、総合でもその可能性が濃厚、という事がわかりましたー!」
どっ あはははは
と、ネギの悪いお知らせにクラスが笑いの方向に沸く。
「笑い事ではありませーんッ! せっかく2年生学年末でトップでしたのに中間ではもう転落の一途ですのよ!?」
と、委員長がみなを叱責する。
「ま、いいじゃん、学園祭の催し物、麻帆良中第2位獲れたし」
と、朝倉。
「いやいや、私たちはよーやったよ」
「全ての力を出し切りましたのぉ〜…あとは余生じゃ」
そしてそれに賛同するクラスメイト達であった。まあ、私はクラス順位なんて興味はないし、求められたならともかく、そうでもないのに勉強会など開く気はない。
「今からあきらめないでくださいーっ」
しかし、委員長は違う様である。
「でもやっぱ、超りんの抜けた穴は大きいよー」
「常時全教科オール満点の超天才だったもんねー麻帆良の最強頭脳…大学の人まであわせても一番頭良かったんじゃないかなー、ハカセと千雨ちゃんでも総合では届かないって言うし…あと対抗できそうなのはネギ君くらいか」
まあ、あいつがクラス平均を押し上げていたのは事実であるし、私たちも専門以外ではかなわなかったし。
「超さんが抜けたから最下位だなんて情けないと思いませんの!?そんな言い訳、超さんが聞いたらがっかりしますわ!」
いや、多分、ワタシがいても元は最下位だったがナと答えてクラスが爆笑するだけだと思う。
「う~ん確かに私たちのこんな体たらくを見て超りんも草葉の陰で泣いているかもね~」
いや、死んでないからな?多分。
「まあまあいいんちょさん」
と、ネギが委員長をいさめる…ふりをする。
「学年最下位になっても何かマズイことがある訳ではないですし、あの学園祭に比べれば勉強はつまらないですからねー…無理もありません」
ネギの言葉にクラスからわかってるーという感じの声が上がる。
「まあ…でも、ネギ先生…」
「でも、学校の勉強はつまらないかもしれませんが、やっておいて損とゆーことは決してありません。皆さんが将来何かをやろうとする時、それはきっと皆さんの力になると思いますよ。一度自分の力で手に入れた知識や技は決して自分を裏切りません。それは一見無駄に思える学校の勉強でも同じ事なんです」
ネギの正論にクラスが沸く…先生らしくなったじゃん、というからかい交じりに
「うーん、しっかしネギ君、実際先生らしい貫禄出てきたよねー色々あったせいか」
朝倉がみんなを代表するように言った。
「え…そ、そうですか?」
「うんうん、来たばっかの時は大丈夫かなーって思ったけどねー」
「この半年で心なしか顔立ちも凛々しくなったよーな」
といった様子でネギを持ち上げるような言葉が次々と飛び出す。
「もーみんな何ですか、おだてても何も出ませんよーと…それはそれとして、バカレンジャーの皆さんは放課後居残ってもらいます」
「げ、何でよ」
「このままだと赤点で夏休みは補習漬けですよ?」
と、アスナの抗議に無慈悲なネギの宣告が下された。
「ヴ…わかったわよ」
「いよーしっ、ほいにゃらぱ期末がんばっちゃおかーッ」
「うひひひ、カッコイイネギ君のお言葉に免じてねー」
と、なんだかんだで今回のテストは頑張る方向にクラスの空気が流れていった…し、実際、私と聡美に勉強会の講師役の依頼が来たので講師役をする事になったのである。
「ほらほら、こっちだ、ネギ」
魔法の射手 光の七矢
と、嫌がらせのような、しかし避けるか障壁は必要な一手を打ち、私はさらに跳躍する。
「くっ…」
ネギは足を止めずに回避し、私の動きを目で追おうとするが…見失ったようである…ならば
「はい、残念」
「あいたっ」
と、ネギの後頭部を鉄扇で叩いてやった…まあ瞬動を無制限に解禁されれば実力差は今はまだこんなもんである、呪血紋以外は咸卦の呪法も含めて全力を出し、虚空舞踏も使ったし。
「フム…千雨はまあそんなものだな…ぼーやは…千雨を見失う事自体は仕方がないが、その場にとどまるな、いい的だ」
なんだかんだで学祭後初のネギとの稽古で以前の宣言通り瞬動を解禁された私は実践稽古でネギを機動力で翻弄して見せた…瞬動の連続使用は得意である。
「うむ、ネギ坊主、最後のは少しマズイネ」
「左様、ネギ坊主も瞬動術は使えるのでござるから、一度その場を大きく離脱して索敵するべきでござったな…千雨を捉えられたかは別問題として」
「よく解らなかったですけど千雨さん、かっこよかったです」
クー、楓、聡美がいう。
「さて、千雨、交代だ。次は私が相手をしてやろう」
と、マスターに促されて私はギャラリーに紛れ、代わりに茶々丸とチャチャゼロが進み出てマスターに付き従う。
「構えろ、ぼーや…手加減はしてやる、耐えて見せろ」
と、マスターのネギへの稽古が始まった。
「全く…何度言えばわかる!?足を止めるな!防御後に次の攻撃に対処できなければ意味はない。機動を続ける意思があろうが足を止める状況に追い込まれた時点で負けと思え!」
ボロボロになったネギが叱られている。
「…だが、ようやく1分もつようになったか…千雨相手に腑抜けた負け方をした時はどうしたものかと思ったが、今のは悪くなかった、やはり百日の修行より一度の実戦だ」
と、珍しくネギをほめるマスター…城の事と言い、次のステップに進むつもりかな?
「よし…明日からは多少の応用に入ってやろう」
「えっ…ええっ!?ホ、ホントですか!?」
「フン、のぼせるなよ、ようやく扉の前に立ったというだけのことだ。明日から地獄の深さは倍になると思え」
と喜ぶネギにマスターが脅しをかける…まあそういう事だな、修行のステップが進むというのは。
「ハひ…」
「まあ、それでも第一段階は突破だ、新しい修行相手を用意してやる…入れ!」
マスターの合図に、待機していたコタローが瞬動で物陰から現れた。
「え…」
「よッ」
「コタロー君!?」
「なんでコタロー君がここに!?」
「へ、お前だけ一日が二日あるなんてズルイやろ?」
と、いうわけで、ネギと実力の近い修行相手を欲したマスターとコタローの利害が一致したのである。ちなみに、楓と私がマスターとコタローの仲介をした。
「最近もっと時間増えているけどなー」
と、カモが言う。学祭に備えて、という事もあり私も付き合って多用していたのではあるが。
「その犬、お前にはうってつけの相手だろう。ウォームアップだ、手合わせしてみろ、負けるだろーがな」
「名前よんでやー」
犬扱いにコタローが苦情を入れる…が無視された。
「…はい!」
「オイ、えーんか?一通り修行してヘロヘロやろ?休んでもえーで」
「大丈夫、心配ありがと」
そして、ネギとコタローが戦い始めた。
「さて…あいつらの次は一戦やるか、楓」
「うむ…受けて立とう、千雨」
「アーずるいアル、ワタシも戦いたいネ」
「皆さん元気ですねー」
と、言った感じで別荘での修行のメンツが増える事になったのであった。楓とクーは毎日ではないが。
「ふむ…茶々丸の強化プランですがー機動力重視の案がよさそうですねー」
「そうだな…やっぱり、機動力は大事だし…エヴァの好みにもあっている…理論上、瞬動術を使える域に至っているのもいいな…」
私たちは学園祭での戦闘データを元に聡美が引いた設計プランをシミュレーションし、その結果を二人で検討していた。
「ただ、コンパクト化と髪型は茶々丸やエヴァと相談した方がいいかもな」
「えーそうですかー?コンパクトな方がいいと思いますけど」
「んー確かに、機能美的にもいいとは思うんだけど…家事とかの面で今のサイズに合わせてある可能性もあるし…あとは好みとか」
「あー…でしたら要相談ですねーその場合、武装を増やせますが…んー重量が減らない分、出力も上げたいですねー」
と、聡美が今のボディサイズでの新設計を引き始めた。
私はそんな聡美をほほえましく見守るのであった。
「っと…これはなかなか…」
「ケッケッケ…ニゲロニゲロ」
マスターが設置した新しい別荘…レーベンスシュルト城と付属の4球…砂漠、雪山+極地(空気は薄くないが凄く寒い)、高地(氷雪はほとんどないが空気が薄い)、熱帯雨林…を用いて私たちの修行は次の段階に入っていた…テスト期間中にもかかわらず。私達やネギはともかく、コタローはいいのだろうか…夕映達も別荘使用を止めてテスト勉強をしているのに。
マスターから与えられた個人メニューは、ネギとコタローはセットで気と魔力の効率的運用の為に雪山に放り込まれて生存訓練で、私は機動の洗練の為に障害物の多い熱帯雨林(高度制限アリ)と空気の薄い高地でチャチャゼロ相手の耐久鬼ごっこだった…なお、聡美は茶々丸と城本体で体力トレーニングである、さすがに。
まー障害物も多く、チャチャゼロの投擲の盾となるモノも多いのだが、いかんせんサイズ差でとれるルートがチャチャゼロに圧倒的に有利な事もあり、なかなかにいい修行となっている…高山の方も与圧術式が禁止なので無駄な機動をしているとすぐに息が上がるという意味でいい修行になるし…内容は小休止ごとに入れ替えである。
「ネギ、ちょっといいか」
期末テストの二日目、修行の合間に私は聡美と共にネギに声をかけた。
「ああ、ちょうどよかった、千雨さん、ハカセさん、僕もお話があったんです」
と、ネギが応じた。
「ん?私たちに話って…まさかウェールズ…いや、魔法世界行きの事か?」
「え、そうですけど…どうしてわかったんですか?」
私の言葉にネギが首をかしげる。
「イヤ…単に私達の用事もそれだってだけでな…行くんだろ?ネギ、この夏休みに」
「はい、いっぱい悩みましたが…やっぱり父さんを追う事を諦められないんです」
「一応聞いておくが…危険なのはわかっているな?」
「父さんが行方不明になった事には何か理由があるはずです…安全だと考えるのは楽観的に過ぎます」
真剣な目でネギが言う。
「学園でうちのクラスの連中と楽しくバカやっているだけじゃ…駄目なんだな?」
「はい…父さんを諦めれば…僕は僕でなくなってしまう…そんな気がするんです」
ネギの答えに私は聡美と顔を見合わせ…ため息をついた。
「千雨さんのおっしゃっていた通りですねー」
「だろう?行かずに居られないならば、行くしかねーよな、その衝動はよく解る、私もそうして魔法使い側に飛び込んだんだからな」
「でしたねー昨日のことのように覚えていますよー」
「あ、あの、千雨さん?ハカセさん?」
私たちの会話にネギは困惑した様子である。
「悪い悪い、っと私たちの本題だがな、お前さえよければ私達も連れて行ってほしいんだよ、魔法世界行き」
「えっ?いきなりどうなさったんですか?」
「イヤな、悪魔の事件の時から決めていたんだ、超の件が終わって、それでも手を取り合える関係ならお前の親父さん探しに協力するって…な」
「私は魔法世界への興味が主ですが…できる限りの協力はしますよーネギ先生は友人でもあるつもりですので―頭脳労働ならばお手伝いできると思いますよー」
「あ…千雨さん、ハカセさん、ありがとうございます!とっても力強いです!」
そう言ってネギは私たちに頭を下げた。
それはそうと期末テストの結果だが…連日開かれた勉強会…私たちは講師役を務めた…そのかいあって、私たち3-Aは期末テストで2位を取ることができたのであった。
この結果、終業式後に開かれた一学期の打ち上げカラオケ大会は大いに盛り上がることになった。
こうして、夏休みが始まった…そしてこの夏休みは、私たちの人生を大きく変える事となるのである。