例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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夏休み編
60 夏休み編 第1話 新部活設立と部長就任試験?


 

「アスナさん、こんなところに呼んで何の用事ですか?」

「何なの、アスナ」

「面子からして魔法関係だとは思うが、いったいどうしたんだよ」

と、夏休みの初日から私たち…ネギパーティー+私と聡美…はアスナに呼び出されていた。

「勧誘よ、かんゆー」

「か…かんゆー…?何のですかー?」

「はい、コレ」

戸惑う私たちに、アスナは一枚の紙を代表としてネギに手渡した。

「え…新クラブ設立申請書…?」

「うん」

「で、でも、突然何のクラブです?それに新しいクラブには5人の部員が必要で…」

と、ネギが疑問を返すが、アスナはそれをぶった切って一見関係ない話を始めた。

「あんたさー、『魔法の国』に行ったら帰ってこられないかもって言ってたわよね」

「え?は、はい」

「またその話か、姐さん。まあ鎖国しているみてーな場所だからなー、別世界だしよ。直接の危険がなかったとしても鎖国時の日本や冷戦当時の東側諸国に潜り込むくらいの覚悟は必要だぜ?」

オイ、それはなかなかの危険だな、カモよ。まあ、魔法使いが、と但し書きをつけるのであれば話は別だが。

「だから帰ってこれないかも?」

「まあ…」

「ダメよ、帰ってくるつもりじゃ」

「はう」

アスナの言葉と気迫にネギがたじろぐ。

「絶対帰ってこなきゃダメ!帰ってくるって約束しなさい!それがみんなの担任としてのあんたの責任よ。

…でも、その責任をあんた一人に押し付けるほど私も鬼じゃないわ。

あんた、お父さんを見つけるまでは止まれないのよね、だったら私も本腰入れて協力してガンガン積極的にお父さん捜しして早いとこ見つけちゃおーってわけ」

…なるほど、そのための新クラブ創立…か…と思っているとアスナが続ける

「いいんちょにも協力を頼んだわ」

「え」

「つまり…つまりこのクラブは『ネギのお父さんを探し出してしかもちゃんとこの学園に帰ってくる』そのためのクラブよ、名前募集中!当然あんたが顧問ね!文句ある?」

「へ…」

思いもよらないアスナの宣言とアイデアにネギは呆けたような顔をしていた…

「はっはっは…こいつは傑作だぜ、アスナ…いいじゃねぇか、私は乗るぞ、そのクラブ」

「そうですねー拠点を確保するという意味でも―そう言った表向きの枠を整えるというのは良い案かとー私もさんせーですー」

「あ、千雨ちゃん、ハカセちゃんずるいーうちも参加やー」

「素晴らしいアイデアかと、私もぜひ」

「もちろん私たちも参加だよ、ね」

「「はい」」

「うむ、ならば拙者も」

「よくわからないアルが、私も参加するネ」

と、次々とみんなは参加の意を示していった。

「よし、部員はそろったわね、じゃあ顧問よろしくね、ネギ」

「え…えっ…えぇぇー!」

と、正気に戻ったネギの叫び声が響くのであった。

 

「さて、それはさておき、だ。私たちはそろそろエヴァの別荘に行くけど、ネギたちはどうする?」

「あ、そうです、そろそろコタロー君との待ち合わせの時間…」

さんざんクラブの名称決めが迷走し、ネギま部(仮)とかいう名前でとりあえず落ち着いた頃、私はネギに問い、ネギがコタローとの待ち合わせを思い出した。

「あ、そうそう、それそれ。エヴァちゃんに別荘を部室として使わせてもらえるようにお願いしないと」

「ん?まあ、ネギの親父さんの情報と引き換えなら交渉は通ると思うが…修行用にか?」

「アーそれもなくはないけれど…宿題終わらせるために便利じゃん?」

と、アスナがそんなことを言い始める。

「まあいいけど…じゃあ、このままみんなでエヴァんち行くでいいかな?」

と、いう事で私たちは連れ立ってマクダウェル邸を訪ねるのであった。

 

「えー留守!?」

「はい、アスナさん…大変申し訳ございませんが、マスターは現在、日本庭園へお散歩に出かけております」

と、出迎えてくれた茶々丸が申し訳なさそうにいった。

「しゃあない、じゃあ行ってみるよ、茶々丸さん。ネギたちは先に入っていて」

「わかりました、じゃあマスターから出入り自由の許可をもらっている皆さんは先に中に入って宿題なり、各自の修行なりを始めておきましょうか」

と、言うネギの案でアスナ、ハルナ、楓、クー(二人は毎回許可をもらって入っている)がエヴァとの交渉に赴く事となった。

 

「ん、それじゃあいこか、待ちくたびれたで、ネギ」

交渉役4人を見送り、ネギを待っていたコタローが口を開いた。

「うん、おまたせ、コタロー君…行きましょう、皆さん」

そして、ネギが皆に別荘に潜ろうと促す…

「私も施錠をしてすぐに追いかけます」

「あれ?そう言えばハカセちゃんも修行してるん?」

「はいー今はまだ体力作りと基礎魔法の復習の段階ですが―千雨さんが私を守ってくれる時の負担が少しでも減るように頑張ってますー」

「そうなんかーせっちゃん、私も治癒魔法だけやのうて、そういう方向でも修行した方がええん?」

「お嬢様がなさりたいように…どちらにしても、私の全てをかけてお守りいたします」

こんな感じでわいわいと会話を交わしながら別荘へと向かうのであった。

 

「さて…夕映達は魔法理論の勉強と基礎魔法…今はセー・インウェルタント(転倒呪文)の練習だっけか?」

「ええ、そうです」

「なら、実践は私と同じ段階ですねー私が頂いた初等教本通りの順序でしたら、ですけれども―」

「なら…聡美、夕映、木乃香、ノドカは勉強と実践、ネギ、刹那、コタロー、私は実践形式での稽古でいいかな」

「ええ、それでいいと思います」

私の提案はネギに肯定され、ほかの皆も頷く事で同意を示す。

「ほな、始めよか、ネギ!」

と、コタローがネギを引っ張っていく。

「まったく…それじゃあまた後でな、聡美」

「はい、千雨さんも頑張って」

「せっちゃんもまた後でなー」

「はい、お嬢様も頑張ってください」

と、それぞれに分かれていった。

 

「さて、ネギとコタローはもう始めているし…まずはウォームアップで軽くやろうか、刹那」

軽くストレッチを済ませ、私の偽・断罪の剣くらいの長さであつらえた木剣を手に取り、刹那に言う。

「ああ」

と、刹那は短く返事をして、私と向き合う…という事で私は刹那と稽古を始めた。

 

「ん…もうちょいギア上げるか…」

「ん、了解だ」

と、体が温まってきた所で刹那に宣言し、互いに少しずつ本気度を上げていく。

「なかなか剣の腕も上達してきているじゃないか、千雨」

「元々鉄扇を小刀の様に振るうのは慣れているからな…コツをつかめばある程度まではな」

そんな軽口をたたき合いながら交えて打ちあいを続けていく…が

 

「あっ…」

「はぁぁっ」

打ちあいの最中、私の木剣が弾き飛ばされた

「ほう…今のを防ぐか…」

刹那の止め、喉元を狙った一撃…寸止めはしてくれただろうが…はかろうじて抜いた鉄扇で防ぎ、突かれた勢いを生かして後ろに跳躍する。

「どうする?」

「続けよう」

と、私は鉄扇でこの稽古を続ける旨を宣言した。

「わかった…いくぞっ」

先ほどまでと打って変わって防戦に回る展開…しかし、まあ鉄扇術とはそーいうもんである、隙があれば柔術・合気術的な意味を含めて反撃はするが。

「っと…やはりお前はその方が手ごわいな」

「ったり前だ、こっちが本来の獲物だからな」

漠然と見れば防戦一方、しかし、見る者が見れば木剣を使っていた時よりはまだ拮抗に近い戦い…時折糸術を防御や妨害に混ぜて反撃に転じようとする…そして難なく対応される…事さえある。

しかし、近接格闘技術では圧倒的に刹那の方が有利であるのは変わりなく…

「ちっ、私の負けだ」

と、この形式の稽古では禁止にしている瞬動以外での回避ができない状況に追い込まれ、瞬動で離脱をしてしまう。

「ふぅ…なかなかいい汗をかけたよ、千雨」

「それはどーも…私もいい勉強になったよ」

と、途中で弾き飛ばされた木剣を回収する。

「しかし、なかなかの上達ぶりだ…魔法アリなら咸卦の呪法無しでも近距離で負けるかもしれんな」

「ぬかせ、そん時はお前もアーティファクトと符術解禁してくるし、かといって虚空瞬動アリにしたら翼がある分、お前有利だろ」

「まあそれはそうだが…その条件ならば、どちらが得意の距離に引きずり込み、それを維持できるか、だろうな…魔法に匕首・十六串呂と陰陽術、瞬動完全解禁に翼での飛行がついても虚空瞬動自体はお前のが上手だしな…それぞれお前に分があるさ」

と、なんだか慰められるような言葉をかけられた。

 

「お、ちょうど終わりか、千雨姉ちゃん、刹那姉ちゃん」

「お、そっちもきりが付いたか、こっちも一戦終わった所やで」

「はい、よろしければお相手お願いします」

と、ネギ達が相手を入れ替えての手合わせを提案してくる。

「あーすいません、私は一度お嬢様たちの様子を見てこようと思いますので…」

しかし、刹那がそう言って断りを入れてしまった。

「ん…なら高山にでも行って魔法アリでやろうか。二人がかりでいいぞ?」

と、軽く挑発するようにニヤリと笑う。実際は、その条件だと二人が正しく連携を取れる限りにおいては私がかなり不利である、大体は連携を寸断して私の勝ちであるが。

「くっ…今日こそ勝ったるで、千雨姉ちゃん!」

「うん!がんばろーね、コタロー君」

と、言った感じで私たちは別荘内で日が傾く頃まで時々休憩をはさみつつ、再び合流した刹那…治癒術の練習台を求めてついてきた木乃香付き…と共に実戦形式の稽古に勤しむのであった。

 

 

 

聡美たちと合流して風呂と夕食とを済ませ、暫しの歓談を楽しんだ後、私たちはそれぞれに割り当てられている部屋へ解散という事になった。

「ふー今日は楽しかったですねー」

ダブルベッド…何も言わなかったら従者人形たちが勝手に気を利かせたらしく、こうなった…に腰かけて聡美が言う。

「ああ…私は殆ど実践稽古ばっかりだったけれど…いい修練ではあったな、聡美はどうだった?」

「はいー勉強中に興味を持った事を綾瀬さんのアーティファクトで調べたりわき道にそれたりもしましたけれど―それを基に練習法の改良をしたりで、途中離脱した近衛さん以外は一応は使えるようになりましたー転倒呪文」

「それは頑張ったな。転倒呪文の習得が終わったら、そこからは大体十日から二週間で魔法の射手と武装解除呪文くらいは訓練を始められる筈だぞ」

私もベッドに腰かけ、聡美の頭をなでながら言った。

「ムム…割とかかりますねーというか、訓練を始めるまでに、ですか…」

「まー理論と実践込々で、根を詰めなければ平均してそれくらいって話だからな、理論は頭の出来で、実践は素質やコツをつかめるか次第で大きく左右されるぞ」

「となると―理論はともかく実践では躓きそうですねー私は…所で千雨さんはどれくらいで終わったんですかー?」

「あー私は茶々丸開発中にした勉強で理論は終えていて、実践だけスパルタ方式で…計30時間位だったかな?魔法の射手を使えるようになるまでで。それと茶々丸に使ってる魔法理論・魔法系処理の勉強と大分重複する…というか復習みたいなもんだな、理論は」

「へぇ…じゃあ、綾瀬さん達が理論の勉強をしている間に実践をがんばれば先にできるようになるかもですね!」

聡美はやる気満々といった様子でそう言った。

「さ、寝ようか…明日は朝練に少し付き合ってもらうぞ…今日は体力づくり殆どしてないんだろ?」

「うっ…まあそれはそうですけれども…」

と、言いながら眼鏡をはずしてベットに並んで横になる。

「お休み、聡美」

「はい、おやすみなさい、千雨さん」

私たちは手を握りながらそう言って…数分後、そのまま眠りに落ちていった…まあ、寝ている間に体勢は色々と変わっていくのではあるが。

 

 

 

翌朝、聡美を連れて…まあ、ストレッチくらいはつき合わせて後はウォーキングしながら見学してもらったけど…の朝練の場で今日の予定を話し合った所、今日はそろそろアスナ達が戻ってきてもおかしく無い為、城で出来る軽めの手合わせと初心者組の指導、使用時間が過ぎたら一度外に出てアスナ達を待つ、という事になった。その方針は朝食の場で綾瀬達にも伝えられ、特に反対は出なかった…宿題を片付けようという声もあるにはあったが、明日以降、という事になった。

 

「…というわけで、基礎中の基礎というべき魔法は転倒呪文で最後となる…はずだ、抜けがなければな。ここから魔法の射手や武装解除呪文の練習を始めるまでに大体7日から2週間の勉強と訓練が必要になると言われているんだが…これは、各々の得意属性を知り、最も得意な属性の精霊との親和性をそう言った呪文の使用が可能になるまで高める為の勉強と訓練期間の目安という事になる…まーそこらへんは各自の才能次第って言う所もあるんで割と左右される」

なんで私が同級生相手に講義しているんだよ、という思いを隠しつつ、そんな感じで講義を進める…まあ理由は単純で、ネギがコタローに攫われたから、なんだけど。

「で、まず最初に各属性精霊について学ぶ為の勉強、次に属性精霊との相性を確かめる為の実技、そして相性の良かった属性精霊について学びながら親和性を高めるための訓練…という流れになるな。そのための教本は今、マスターの書庫から抜粋して写本してもらっているから、明日には揃うだろう…夕映はアーティファクトで自力閲覧できるだろうが、一応用意して貰っているぞ…という事で今は代表的な属性精霊とその魔法の射手の特徴をまとめたペーパーを配布して、その解説をする」

と、これまた従者人形達に頼んで急いで用意してもらったペーパーを配布する。

「ペーパーはいきわたったな?」

と、言った所でショートカット用転移魔法陣のあたりから声が聞こえてくる。

「おっと…丁度アスナ達も来たようなので、今日はここまでにしようか…」

と、宣言した途端、木乃香が転移魔法陣の方を向いて叫んだ。

「アスナ―ハルナ―」

「…ペーパーは各自読んでおくといい、詳しい内容は明日用意されるであろう初等教本にも載っているが、説明が欲しければ私かネギにでも聞いてくれ」

と、私は宣言して使用していたホワイトボードを片付けてもらうよう、従者人形に頼んだ。

「講義、お疲れ様です、千雨さん」

「まー殆ど今までの復習とこれからの修行内容説明しかしてねーけどな…さ、私たちも合流しようか」

と、言って片づけの手配を待っていてくれていた聡美の手をとった。

 

「さーて、じゃ、まあ、名誉顧問も決まって部室も確保できたことだし…『ナギさん発見』へ向けて本格的に動き始めるとしますか!」

みんなに合流すると、ちょうどハルナがそんなことを言っているタイミングだった。

「ど、どうもっ」

ネギが恐縮した様子でぺこりと頭を下げる。

「よーし、それじゃあ…頑張るぞーッ!」

「「「「「「「「「「「「オオーッ」」」」」」」」」」」」

と、巨大な掛け声が別荘内に響き渡った。

その後、ハルナを筆頭に夕映、木乃香、ノドカが風呂に入りに離脱し、ほかの面子は各自修行という事になった。

聡美(当然見学)も含め、城で剣の稽古をするといった刹那とアスナを除いたみんなで高山に向かう事になったのであった。

そして各自ウォームアップを済ませた後、楓がクーに気について教えるのをみんなで見学…というか、私を含めた気使い組がみんなでクーに気を教える事になった…まー無自覚でというか所々自覚的に気を使えていたのもあって、あっという間に気の基礎は習得してしまった。

そうこうしていると、茶々丸が私たちを呼びにやってきた。

「皆さん、すいません、マスターが展望舞台に集まるように、との事です」

 

エヴァの呼び出しに応じてみんなで展望舞台に行ってみると、エヴァはネギとアスナがこれから舞台で戦うから他の面子は周りで観戦しているように、と言った。

「あ、あのー…これはいったい…」

説明を求めるネギに対し、エヴァはそれを黙殺して宣言した。

「ルールはぼーやの弟子入りテストの時と同じ!貴様がぼーやに一撃でも有効打を入れられれば合格だ!ただし、制限時間は15分間!」

「いいの?そんな簡単な条件で…私だってネギに一撃入れるくらい楽勝なんだから」

いや?なにがなんだかよくわからんが…最近のネギの格闘技術を鑑みるに中々のムリゲーだぞ?という言葉を飲み込んで様子を見守る。

「ええっと…結局何がどうしたんですかー」

「ええい、これはネギま部(仮)とやらの部長にこの女がなるか否かの就任テストだ!」

と、ネギの説明を求める言葉にエヴァがいらだった様子で答えた。

「ぼ…僕、部長はアスナさんでいいと思いますけどー…」

と、ネギがもじもじしながら言った…が。

「黙れ、ガキが!いいな!?本気でいけ、少しでも手を抜けばすぐにわかるぞ!?」

「ハ、ハイッ」

と、ネギはエヴァに叱責され、構えた。

「では…」

と、エヴァが手を上げて開始の宣言をしようと構える…と、アスナは慣れた手つきで…本当にむかつくほど慣れた手つきで咸卦法を発動させ、咸卦の気を纏うとハリセンを具現化させた。

「始めるがいい!」

成程、見た感じ、なかなかの密度であり…素の身体能力も加味すれば十分にネギに対抗…いや、優越できるであろう…身体スペックだけは。

しかし、悲しいかな、瞬動位使えて当然の域にいるネギをアスナの目は捉える事はかなわず…また格闘技術面でもいっそ笑えるほどの上達を見せているネギは…アスナの手を取り、ハリセンを取り落とさせた上で肘打ちの寸止めを決めていた。

「コラ、ぼーや、なぜ止める!降り抜け!」

「で、でも」

「お前の時、茶々丸が手加減したか!?木乃香もいる!やれ!」

と、エヴァの無慈悲な宣言が下され、フルボッコタイムが始まった…準備期間があればそれなりに付け焼刃…目を高速戦闘に慣れさせて、クーと模擬戦を重ねさせるくらいか…はできたのであるが…無駄に自信持ちやがって、アスナの奴め。

で、そのアスナは次の一撃で吹き飛ばされ、舞台で跳ねた後に展望台の柵にたたきつけられて止まった。

「アスナさん…マスター、もう…!」

「その女から『まいった』というまでは続けろ、貴様から止めるのはその女への侮辱だと思え」

「ま…まだよ…ネギ…まだ…全然いけるわ」

咸卦の気の密度を保てているうちは…まあ大丈夫だろう…が…それはネギに一撃を入れられることを意味しない…

「…茶々丸の記録で、ネギ先生の時のダイジェストはみましたがー実際に見ると…」

「つらいか?」

「少し…ですが…目はそらしません…これが…私が望んで踏み入れる世界なんですから…」

そう宣言する聡美の、少し震える手を私は握った。そしてアスナはネギに一方的にやられ続け…15分が経過した。

 

「うう~ん…」

と、そこにはぼろ雑巾のようなアスナが転がっていた…咸卦の気の分を計算に入れても、まだ意識を保っているという点では大したものである。

「アスナさん…」

全力で気絶を狙って戦い続けていたらしきネギが息を荒げてその名を呼ぶ…

「ふん…その程度で誰かを守ろうなどとは片腹痛い。足手まといだ、やはりお前は口先だけだな、神楽坂明日菜」

そう、エヴァは挑発するように宣言した。

「いっ言ったわね、口先だけじゃないわよ!」

「…ふん、そうかな?貴様はたまに偉そうなことをほざくが結局は、何の裏付けもない、ただの経験の浅い中学生の戯言にすぎん。ぼーや程度に手も足も出ないようでは部長どころかとんだ足手まといになる事くらいわかるだろう」

と、まあはたから見ていると突っ込みどころ満載のエヴァの挑発である。

「う…確かに実力不足は認めるけど…でも、こいつだって一日を二日にして修行してるんだからちょっとくらい差があったって当然でしょ?」

「ほほう、ではぼーやと同じ修行をすれば追いつけると?」

「え…と…当然よッ!すぐに追いついて見せるわッ」

あっれぇ…なんか妹弟子ができる流れになっているんですけど…それかアスナの事を思って心を折ってしまおうかと考えているか。

「それは頼もしい、ではわが修行を受けると?やめておくなら今のうちだぞ、後で泣きを見ても知らんからな」

「う…もちろん!やるわよ!やってやるわ!」

「フム…よろしい、だが私にも慈悲はある…まずはその体を癒せ…明日の朝から最初の修行を始める事にしよう!ハッハッハハハハ」

と、マスターはやけに楽しそうに笑いながら去っていった…

 

その後は、まず明日菜が木乃香の治癒術の練習台になった後、高速戦闘に目を慣らす為と称して私と刹那のギアを上げた木剣での手合わせを見学させ、ほかの連中の修行なども見学させていた…そしてその夜…

 

「で、どー言うつもりなんだ、マスター」

「うむ、来たか…どうもこうも見ての通り…あの女は私に弟子入りを志願し、私は明日、その覚悟を問う為の修行…と称した弟子入り試験を課すだけだ」

マスターの私室を訪ねると大人姿のマスターがワインをたしなんでおり、私の問いにそう答えた。

「…心を折るつもりじゃあないんだな?」

「折れるならばそれまで…修行は無し…せいぜい普通の中学生らしく夏休みを過ごせばいいさ」

「…わかった、ならば妹弟子ができる覚悟と…アスナ無しでネギの面倒を見る覚悟、両方決めとけばいいわけだな」

私は降参だという格好をしてマスターに同意を求める…

「うむ、よくわかっているじゃないか…ま、私は賭けるならば折れる方に賭けるがな…」

「なら、私はアスナが妹弟子になる方に賭けようか」

従者人形が注いでくれたぶどうジュースを一口含む…相変わらずうまい。

「ほう…あの女の事を買っているじゃないか、千雨…何を賭ける?」

面白そうにマスターが笑う。

「あー賭け金がないな…私が贈れる様な酒じゃ足らんだろう?イギリスや魔法世界の土産としても」

「いや、言うほど悪くはないぞ…よし、前に言っていたマギア・エレベアの基礎理論を賭けるか。神楽坂明日菜が修行をやり切れればお前にやろう、折れれば酒は貰うし、理論は当分諦めろ」

「…いいのか?それだとオッズがかなり私に有利だと思うけど」

「なに…そのオッズ差が神楽坂明日菜に対しての私の評価という事さ…それと、久しぶりに晩酌に付き合え、千雨…ハカセには少し悪いがな」

「…帰してくれるなら」

少し考えて、私はそう答えた。

「クックック…さすがに朝帰りはさせんよ」

そう言ってマスターはワインをあおった。

 

 


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