「さて、神楽坂明日菜、最初の修行だが…一週間の雪山耐久訓練だ!」
翌日、朝食を済ませた後にマスターがみんなを集めてそう宣言した。
…いやマテマテマテ、それ、ネギとコタローが死にそうになっていたやつじゃねーか。そりゃあ分の良い賭けを持ちかけてくる訳だわ…一応、咸卦法を使いこなせれば目があるという意味では無理ではないが無茶ではある…賭けに負けても実質、英国と魔法世界の土産に酒を買って帰る事が確定するだけではあるからかまわんけど。
「失礼します、アスナさん」
「行くぞ、ぼーや、犬」
そして、アスナは茶々丸に羽交い絞めにされて連れ去られ、ネギとコタローもマスターと共に消えた。
「えぇ…どーすんのさ、これ…」
「ええっと…何がどうなったん?千雨ちゃん」
「えーっとだな…」
と、取り残された面子に、現在明日菜が置かれているであろう状況を説明する…この城と連結されている雪山の修行場に放り込まれてそこで生き延びろ、という試練が課されているであろう事を。
「一応、ネギとコタローも魔力や気の効率的運用の訓練で同じ事をしたし、あいつらがサポートというか指導しつつ、咸卦法の練度を上げていって…って事になるんじゃないかな…甘やかしすぎてマスターがキレなければ」
昨日の晩酌途中に出た話題であいつらに指導させる、とは言っていたのでそうなるだろう…マスターがブチ切れるところまで。ネギもコタローも、一応一般人で女という属性のアスナを甘やかさない未来が見えない。
「それやったら、安心…なんかな?」
「まあ、アスナの事はマスター達に任せて、私たちはそれぞれの修行をしようぜ?一度出るにしてもまだ数時間あるし」
そう言って、私はみんなにそれぞれの修行に移るように促した。
「で、聡美はどうするんだ?」
体力トレーニングを兼ねた早足での散歩に付き合いながら私は聡美に問うた。
「私は一度茶々丸のニューボディの組み立て関係で一度外に出ますーアスナさんの修行が終わるまでには戻ってくるようにしますが―千雨さんも行きますかー?」
「んー私はアスナの修行が終わるまでの最長七日間、別荘にこもっているよ…せっかく鍛錬相手が揃っていることだし」
「そーですかーでしたら…できるだけ早く私も戻ってきますねー」
そんな会話を交わしながら展望デッキに戻ってくると、みんなが集まって何かをしていた。
「ん~~むむ…プラクテ~ビギ・ナル~セー・インウェルタント!」
「おおッ」
「スゴイッホントに倒れたー」
「やたーっこれでウチもエスパーや」
「素晴らしいです、お嬢様!」
どうやら、転倒呪文の練習?のようだ。
「でも、思いっきり息吹くと倒れたりして」
と、ハルナがふざけ始めた。
「ああんっ、ズルしたらアカン―ッ」
「しかし、いつの間にここまで…」
「アスナもがんばってるし、うちらもがんばらなな」
と、まじめな会話をしている後ろではクーとハルナが息で転倒呪文の真似をする遊びをしていたりしていた。
「皆さん、盛り上がってますねー」
「あ、ネギ君、コタ君」
と、やっているとネギたちがやってくる…速攻指導役クビになったな、こりゃあ。
「おう、ネギ…アスナの指導役はクビになったか」
「はい…『お前たちはコーチ失格だ』と追い出されちゃいまして…
アスナさん、心配だなー…僕たち二人でも死にそうだった修行なのに…大丈夫かなー」
「いや~俺も仕事で結構修羅場は潜ってきたけど、ホンマに死ぬ思たんはアレが初めてや」
「大丈夫です、ネギ先生、マスターは厳しくはあっても根はお優しい方ですから…」
「そ、そうですよね」
「イヤ…まあ、わかるけど…心を折って諦めさせるという方向に働く事も間々あるぞ?マスターの優しさって」
「アーそれは…わかる気が」
「ところで、ネギ、コタロー、お前ら何やってクビになったんだよ、指導役」
「それが…」
と、ネギたちがやらかした甘やかしを聞く…まあひどい甘やかしである、雪山を使う意味がない。
「…せめて風呂と魚は無しだな…少し休憩させた後に自分で魚を捕らせるくらいはしねぇと…」
そんな話をしている後ろではハルナがアーティファクトで具現化させた魔人をクーに一撃でやられて…
「目指すは世界最強アル!」
「おーッ!」
とかやっていた。
ハルナ達が落ち着いた所で転倒呪文の練習の成果発表の続きを、ネギの前でやっていた。
鉛筆二本と、マジックと消しゴムを立てて転倒呪文を行使したのだが、聡美とノドカは勢いが少し足らない感があるが、それら全てをパタリと倒して見せた。
「プラクテ・ビギ・ナル…セーインウェルタント」
そして最後の夕映の番…その転倒呪文は勢い良く、立てた文房具たちを弾き飛ばした。
「キャースゴイよ、ゆえ―っ」
「ノドカやハカセちゃんよりも飛んだーッ」
「スゴイじゃないですか、夕映さん。いつの間にここまで仕上げたんですか?」
皆の称賛の声に夕映は恥ずかしそうに言った。
「その…アーティファクトを使って手に入れられる情報から私なりにより効率的な修練法を計算しまして…ハカセさんとの魔法理論のディスカッションも役に立ちましたし…昨日、千雨さんのおっしゃっていた属性精霊についての勉強も始めています」
「へースゴイ。なんか昔の僕みたいなことしてますねーさすが、夕映さん」
「い、いえそんな」
「…何であれで学校の成績悪いん?あのチビ」
コタローが逆にあきれた様子で言った。
「なぁ?」
「…あいつは興味の持てない事の為に発揮されねーんだよ…あの知力が…」
と、私も少しあきれた感じで言う…まあ気持ちはわからんでもないがな。
「いえ、ホントにここまでが一番大変なんです。ここまでくれば後はカンタンですよ!もう千雨さんから聞いているようですが、魔法の矢と武装解除まで単位にして78時間程度で…」
「な…ななじゅうはちじかん…自動車より大変ですね…七日から二週間とは伺っていましたが…いえ、がんばるです!」
「う、うん」
「私も頑張らないといけませんねー」
聡美も夕映たちに合わせていった。
「その意気ですッ!僕もまだ未熟ですが、魔法の射手とかなら僕が個人的に教えて差し上げられますから」
「えっ」
「なっ」
…との、ネギの言葉に夕映とノドカが反応する。まあアイツら、ネギラブ勢だし個人的に授業というあたりに反応したのだろう。
「えーと、ちょっといいですか?夕映さんはどんな修練法を…うわー懐かしいな」
案の定、夕映もノドカも少し顔を赤くしている…ように見える。
「じゃあ、私は千雨さんに教えてもらいましょうかねー」
「ああ、いいよ…まずはその前段階だけど」
と、聡美と魔法の射手などを教える約束をする。
「がんばります!」
唐突にノドカが叫んだ。
「え?ええー」
「ウチもがんばらな~」
「そうですね―頑張りますよー」
それにつられて夕映と木乃香、そして聡美も再びやる気を表明をした。
「みんなやる気あるな~こりゃうかうかしてられへんわ」
「うん、がんばらなきゃね!」
「そうだな…私もお前らの壁として少しでも長く君臨してやらにゃな」
と、私たちもやる気を表明する。
「とか言いつつ、汗かいちゃったわね。みんな―お風呂で一休みしない~?」
「あ、お風呂ええな~」
「うむ」
「うんうん」
「いくです」
「そろそろ服も戻さないといけませんし丁度いいかもですねー」
と、ハルナの風呂行こう宣言とみんなのそれへの賛意が続いた。
「アラ?…アハハ、やっぱみんな女やな~…ん?どうした?」
「うん…大丈夫かな―明日菜さん…」
ネギが心配そうにそう言った。
「あー私は…その前に軽く手合わせしたいんだけど…風呂入りたいかと言われるとまだビミョイ」
「ならば拙者と一戦してからお風呂にするでござるよ」
私は楓と軽く一戦した後に風呂に合流し、風呂から上がってしばらく宿題に取り組んだ後、聡美と木乃香は一度別荘の外に出る事となった。
その後は、実践訓練や基礎訓練などの気や魔力を使う訓練と魔法理論や宿題の消化という頭を使う事柄を交互にやりながら別荘での三日目…アスナの修行初日は過ぎていった。
「エヴァ、アスナはまだ生きているか?」
夕食後の歓談後、私は寝る前に雪山の修行場を訪ねた。
「千雨か…丁度、元気よく雪洞を掘っている所さ…まあ、何とかなるだろうさ…気力が持てばな」
「へぇ…って事は咸卦法の効率的運用のコツはつかんだわけか…微妙に妬ましいな」
そう言って、私は笑いながら雪洞から吐き出される雪を眺めていた。
アスナの修行二日目、寮に戻っていた木乃香も合流し、何度かアスナの様子を窺いに行きつつも、昨日と同じルーティンで過ごした。
アスナの修行三日目、木乃香に治癒のコツを教えたり、夕映たちから属性精霊に関する相談を受けたりという事もこなしつつ、同様に…ただ、ネギはアスナが心配で今一修行に身が入っていないようにも見えたが。
アスナの修行四日目…昼食前に様子を見に来てマスターと合流した私の前で、アスナが倒れた…マスターいわく、空腹だろう、とのことではあるが…咸卦法の練度向上という意味では驚異的域に達しているといってよいだろう。
「考えてみるといい…ただの中学生の貴様がそこまでする義理があるのか、あのぼーやに?こんなバカげた修行に何かお前にとっての意味が?」
そうマスターがつぶやく…
「か…考えてみたら…ここまでやんなきゃいけない理由…あったっけ?」
そして、偶然にもそれにこたえるように発せられた明日菜のつぶやきを聴覚強化の術式が拾う。
「こんな死ぬ思いまでして…ネギの為に…ただの中学生が…楽しい夏休みなのに…ハ…ハハッ。
私…こんな中途半端な気持ちだったなんて…ダメじゃん…やっぱり私…」
「そうだ…だから鐘を鳴らすがいい」
と、マスターはニヤリと笑った…そしてアスナがギブアップの合図の為の鐘を掴んだ。
「なんて…あきらめる訳ないでしょっ」
…あれ?もしかして、アスナの聴覚だと…マスターと会話成立していたのか?コレ。
「あきらめないっ
あきらめない
あきらめない
あきらめない
あきらめないっっっ!」
何かのスイッチが入ったらしきアスナはそう叫ぶと鐘を思いっきり放り投げた…まあこの時鐘が鳴ったがセーフでいいだろう。
「あきらめないわよーッバカエヴァち〜んっ」
そして、アスナはどこか…確か川の方向だったか?あっちは…に走り去っていった。
「…はっ?」
「…ぷっ…はっはっは…覚悟完了ってところだな、アスナの奴め…そろそろ茶々丸たちに頼んでおくよ、アスナの修行完遂パーティーの準備」
そう言って、私は呆けるマスターを放置してアスナを追い…元気よく魚を確保している姿を確認して城に戻る事とした。
アスナの修行五日目、アスナの修行が軌道に乗ったのを再確認した私の報告に、ネギたちは安心した様子でこれまたルーティンの修行を続ける…ただ、やっと連携が板についてきたネギ・コタローペアに負ける日がついにやってきた。
「よっしゃ、ついに千雨姉ちゃんに勝てたで!」
「…二人がかりだけどね、コタロー君」
「いやぁ?逃亡を封じているとはいえ…咸卦の呪法ありの私を捉え切るのは大したものだぜ、二人がかりでもな、ネギ、コタロー…それぞれの力量も上がったし…連携も身についてきたじゃねぇか…特にコタロー」
まあ、コタローの経歴的に後衛を守るという戦い方をあまりしてこなかった…陰陽師は式神をガードにつけている…というのもあって仕方のなかった面もあるのだが。とはいえ、実は三日目あたりからいつ負けるか冷や冷やしながら戦っていたのでついに来たか、という感じではあるが。
「うむ、千雨もギリギリの戦いを重ねる事で伸びてはいたが、ついに負けたな…ならば拙者が千雨側についてやるでござるか?」
「いや…それも楽しそうだが…まだまだ同じ形式の修行相手を務められないほどではねーよ…さ、もう一戦やるぞ、ネギ、コタロー」
その後、互いに熱くなって、その日のその後の二人相手の戦績は5戦中3勝1敗1引き分け(夕食の時間になった)であった。
アスナの修行六日目、持ち込んだ分の宿題もほぼ終わり、刹那・楓相手の空中戦・機動戦やクーとの組手を主軸に置いて修行に精を出していると聡美が夕方頃に戻ってきた。
「お帰り、聡美」
主観五日ぶりの聡美との再会に私は思わず聡美を抱きしめた。
「ただいまです、千雨さん…修行の途中でしたか?」
「あー今日は終わりにして風呂入ろうって話していた所なんだけど…臭うか?」
「あーまあ」
「ごめん…風呂入ってくる」
と、聡美を放そうとする…が
「私は好きですよ?千雨さんの汗の匂い…」
と、抱きしめられてしまった。
「それと、来て早速ですが、私も行きます、お風呂」
…という事で、みんなでお風呂に入って夕食となった…聡美に茶々丸のニューボディの進捗状況を聞いた所、数日もすれば新ボディに換装が可能だろう、との事だった。
そしてアスナの修行七日目…今日の夕方で六泊七日の雪山修業が終わるという日…本格的な修行は午前中で切り上げる事となり、私は午後は魔法理論の研究をした後、展望デッキで久しぶりにネギと無手での組手をしていた。
「もう完全に追い抜かれたな、無手格闘戦の技量」
「いえ…身体強化の度合いを手加減してもらっていますし、まだまだ…」
「だーかーらーそれは身体スペックだろう?技量そのものはもうお前が上だよ…そうそう引き離されてやるつもりもねーけどな…さ、次は得物アリだ」
と、私は鉄扇を構える。
「はい、お願いします」
それに対してネギは帯刀し、杖を槍の様に構えた…
「かかってこい!ネギ」
「はいっ」
そして今度は得物アリでの手合わせをした…こっちはまだ私の方が上と言えるだろう。
「あの、ネギ先生、今よろしいでしょうか」
そう夕映が声をかけてきたのは、何戦か獲物アリでネギに勝ち、その後、無手のネギと鉄扇アリの私で何戦か手合わせをしていた切れ目の事だった。
「ん、じゃあこれくらいにしておこうか…アスナの修行完遂パーティーまでには風呂入っておくんだぞ、ネギ、シャワーだけじゃなくてな」
そう言って私はネギを夕映に譲った。
「はい、何でしょうか、夕映さん」
「あの、ネギ先生…属性精霊についての勉強と実践が終わりましたので…授業をお願いしたいのです」
「ええっ!?もう78時間分の勉強を終えたんですか!?」
と、ネギが驚いたように言う…夕映とノドカの本来の頭の出来を考えれば無理ではないが…宿題ちゃんとやっているんだろうな?お前ら、という言葉は飲み込んで様子を見守る。
「ハ、ハイッですッ」
「わ、私も実践…属性精霊との親和性はあともう少しですが、勉強の方は何とか」
夕映とノドカが言う…
「さすがお二人です、では次からはさっそく僕がお教えしますので!」
「「ハイ!」」
と、ネギの言葉に夕映たちは元気よく返事をした。
「やっほーげんきでやってるー?新クラブって奴の様子を見に来たよ~」
ひと風呂浴びて汗を流してのんびりしていると、肉の買い出しに出ていた茶々丸を伴って朝倉…と相坂がやってきた。
「ご依頼のバーベキュー用のお肉各種も買ってきたよん、肉だけでよかったの?」
「ええ、他は用意が…お疲れ様です、朝倉さん」
と、刹那が朝倉を出迎え、従者人形が肉を引き取って茶々丸と共に厨房に向かっていった。
「うはぁー話には聞いていたけどこりゃ凄い、ここでバーベキューは気持ちよさそうだねー」
朝倉は展望テラスの先端まで進んで景色を眺めつつ、そう言った。
「さーて、みんな飲み物は持ったわねーそれじゃあ…」
「「「「「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」」」」」
「って、アスナの奴まだ帰ってきてないのに初めていいのかよ」
思わず乾杯に応じてしまったが、と思わず突っ込みを入れる。
「硬い事言いっこなしよ、千雨ちゃん」
と、乾杯の音頭を取ったハルナがいう。
「確かに、終了予定時刻に合わせての準備をしていましたので…少し遅れていますね…心配です、私、迎えに行ってきます」
「確かに心配です、刹那さん!僕も行きます」
「お、俺も行くで、ネギ。姉ちゃん心配やわ」
と、ネギ、コタロー、刹那が駆け出していく。
「まて、私も行く!あれでも妹弟子になるんだからな!…って事で悪い、聡美、ちょっと行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい、千雨さん。お気をつけて」
と、聡美に見送られて、私もアスナを迎えに行くためにネギたちを追った。
雪山に到着後、アスナを捜索したが見つからず、後は山頂位だろう、と山頂に向かうと丁度、マスターがアスナに仮契約カードを投げて返している所だった。するとアスナはハリセンではなく剣を具現化させるとグルグルと回し、地面に突き立てた。
「7日間!持ちこたえたわよ!文句ある!?」
それに対し、マスターは反応を示さない。
「何とか言ったらどうなのよーッ!大変だったのよー!?」
ギャースカ騒ぐアスナに、マスターが静かに問う。
「なぜ…なぜあきらめなかった?お前にここまでする理由はなかったハズだ」
「…そんなの知らないわよ」
「あのぼーやのためか?」
「違…ッ」
違う…そう言いかけてアスナは言葉を止めた。
「…ま、そうよ」
「ハッ」
マスターがその回答に下らないと鼻で笑う。
「でも…それだけじゃないわ」
そう言ってアスナはマスターに近づき、その頭を撫でた。
「あんたみたいなバカや、あいつらと友達でいるために、絶対ココであきらめたらダメだって思っちゃったのよ。
私はエヴァちゃんのこと…キライじゃないけど?」
「…あ?ええい離せ、うっとおしいっ」
「ギャー」
と、マスターはアスナをぶん投げた…まあ余裕そうだから大丈夫だろうけれど。
「修行明けの死にかけに何すんのよー!?」
「うるさい、アホがッ」
「アスナさん…」
元気な様子のアスナにネギがほっとした様子で名前を呼ぶ。
「心配して損したわ、なかなか骨あるやんけ、姉ちゃん」
と、コタロー、刹那は無言で笑みを浮かべている。
「クックック…頼もしい妹弟子だ事…とでもいうべきかな、私は」
と、私は独り言ちた。
「フン…せっかく逃げ道を用意してやったというのに…」
マスターがつぶやく…まあそういうマスターなりの優しさだろうな、態々七日間も付きっ切りで様子見をしていたからには。
「フ…アハハハハハハハッ…よかろう」
と、マスターが高笑いをしてローブを脱ぎ捨てた。
「ならば我が弟子としてぼーや共々、私が直々に鍛え上げてやろう!
我が配下に連なる化け物にふさわしい立派な戦士…悪の中ボスにな!」
「えっ…ちょ、待ってよそんなの聞いてないわよ!?弟子ってー!?」
アスナが叫ぶ…いや、ネギと同じ修行って言っていただろうに。
「もう遅い、中途半端は認めん!やるならとことんまでだ!」
「だ、だって悪の中ボスとかそんなカッコ悪いのいやんーっ」
「問答無用!尚、修行中、貴様の服は常に黒!ゴスロリ服とする!」
と、マスターが謎のこだわりを発揮し始める…私はそー言うの無かったがな。
「やめて―ヒラヒラ服似合わないからそれだけはーッ」
「うるさい、師匠命令だ」
「いやーっ!?…ってアレみんな?」
と、アスナがやっとこちらに気づいた。
「アスナさーん!」
「お疲れ様です、アスナさーん」
「って事は明日から姉ちゃん修行仲間かーそらええわ」
「ハハハ…まあ姉弟子としてしっかり面倒みてやるからな、アスナ。
それはそうとみんながお前を待って…られずにパーティー始めてるから急いで戻るぞ、肉食いたきゃな」
「お肉!?食べる!急ごう、ネギ、みんな!」
と、私の言葉にアスナは駆け出すように転移ポイントへ向かって下山を始めた。
「さて、それはそうと千雨…お前、今日は泊っていけ」
そんな事を言われたのはバーベキューパーティーの後、約束通りマギア・エレベアの基礎理論を貰い、もう一日別荘を用いてアスナの初日の修行やら…貰った理論は当然読んだ…を済ませた後に現実空間に戻り、マクダウェル邸を辞そうとした時の事だった。
「え?」
「いやな、別にお前はせんでも良いかと思っていたんだがな、弟弟子と妹弟子がやった事をお前だけしていないというのも決まりが悪い…喜べ、お前も雪山耐久訓練だ!
それもあいつらの倍、2週間分させてやろう…今から始めればちょうど明日の朝には終わるからな、ちょうどいい」
「ハ?えっちょっと待った、マスター、二週間も一人で雪山とか暇すぎて死んじまう」
「千雨さーん…問題はそこなんですかー?」
と、思わずマスターの精神的奇襲に明後日の抗議をしてしまう。
「はっはっは…暇で仕方ないようならば自主練でもするか、昨日渡してやった褒美からのアイデア出しでもしているといい!」
そうして、私は現実時間で翌日の朝まで、雪山に放り込まれる事となったのであった…まあ割と食生活と精神的な意味でひどい目にあったが、一応生きては帰れた、とは言っておく…というか、生活拠点の雪洞を数日かけて整備した後は魔力と気の余力に気を付けていれば咸卦法の瞑想、呪紋の設計、その他余計な修行で暇をつぶす余裕さえあった。
アスナの七日間の修行の間の別荘での出来事(ダイジェスト)とオチの回でした。なんだかんだで魔力と気の効率的運用には力を入れていますので千雨さんにとっては環境よりも退屈の方が雪山試練の敵だったりします、そっちの修行としても無駄ではありませんが。