例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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62 夏休み編 第3話 英国文化研究倶楽部と夏休み前半のエトセトラ

アスナの弟子入りの日から後…私たちネギま部(仮)は割と高密度なスケジュールを送っていた、物理的に。

朝7時にマクダウェル邸に集合し、そこから3時間程度の別荘タイムを過ごし、午後も用事がなければ各々自主練等…さらに数時間分の別荘を使用という、一日が一週間から10日ほどになる計算である。とはいえ、私は聡美と共に茶々丸のニューボディの仕上げを行っていたので、さほど高密度での使用ではなかったが。今日までは。

 

「どう、茶々丸、ニューボディは」

「はい、問題ありません…今までの体との感覚の違いも…誤差の範囲内かと」

「ふふん…学園祭の全ての戦闘データを元に、今の私たちに可能な極限まで性能をUPさせたからねー『瞬動術』も理論上可能なハズだから早速エヴァさんの別荘でテストだよ」

「はい…ところで、あの小さなボディは…?」

と、茶々丸は円柱に浮かぶ予備ボディを指していった。

「…あれか…あれは…まあ…聡美がコンパクトさを追求した…ロリボディだ」

「ネギ君ともお似合いだと思うけど、どうかな、コレ?」

そしてコンパクトさを追い求めた機能美という意味で、聡美のお気に入りボディでもある。

「…いえ、今のままがいいです…できれば予備の体も今まで通りのサイズと髪型でお願いします…」

「まあ、茶々丸がそういうんならいいけどさーオネショタって言うんでしたっけ?千雨さん」

「えふっ」

その聡美のセリフに、私はむせた。

 

その後、マスターの別荘で3日分、茶々丸のテストや自主練、研究などをしていると、ネギたちの指導に潜っていたエヴァに呼び出された。

「来たか、千雨、ハカセ…頼みたい事がある」

と、言いだしたエヴァの話を要約すると、ネギま部(仮)という名称があまりにもあんまりなので部の名称を白き翼(ALA ALBA)としたい事、その為に部員の証に何か…バッジでも作ろうかと思うが、単にそれだけでは面白くないので、何か良いアイデアはないか、という事だった。

「とりあえずーそういう事でしたら発信機機能は必須ですよねー」

「まあ、特定の術式か何かで相互にそれを探知しあえる…とかが鉄板ではあるかな」

と、聡美の言葉に同意する。

「フム…では、それで制作を頼めるか?」

「はい、任せてください、エヴァさん!デザインは…何か案がありますか?」

「こんな感じで頼む」

と、エヴァが示した図案は極々シンプルな白い羽の意匠にALA ALBAと文字が入ったものだった。

「じゃあ、仕様設計しねぇとな」

「そーですね、楽しみですね、千雨さんとの合作ー」

と、言った感じで、茶々丸の完成後もこういう仕事が降ってきた…が別荘内でほぼ済ませられる仕事である為、私と聡美の別荘使用密度も、おおむね一日が一週間、程度まで増えるのであった。

 

 

 

「千雨さーん…ダブルベッド、買いません?」

聡美がそんな事を言い出したのはその日の晩の事だった。

「ぶっ…どうした、いきなり」

「いやー体感時間的に、最近殆どエヴァさんのお城で寝泊まりしているじゃないですか、私たち」

「あーまあ、あっちのベッドに慣れちまうと…まあ確かに二段ベッドは狭いっちゃ狭いけど」

と、一応言っている意味は理解する。

「千雨さんとくっつけるのはまあ利点と言っちゃ利点なんですが―広い方が寝やすくていいなーと」

「気持ちはよくわかるけど…無理だろ、寮にダブルベッド持ち込みとか」

「無理ですかねー」

と、残念そうにする聡美である。

「まあ…こっちで寝るときは精々くっついて寝ようぜ、聡美」

「仕方ありませんね…千雨さん」

と、言うわけで寝る前のおしゃべりはこれくらいにして私たちは眠りにつくのであった。

 

 

 

そして、ネギま部(仮)が発足して一週間…この部活は公称 英国文化研究倶楽部として認可された。

「よし、整列だ、点呼右から」

「イチ!」

「ニ!」

「サン!」

「よん―」

「5!」

「ろぉく!」

「なな!」

「は、は、はちー」

「きゅッ!」

「じゅー」

「11!」

「じゅうにー」

「13!」

と、整列点呼を行った…写真係の朝倉と相坂並びに名誉顧問のエヴァ以外。

「よし!これでお前らネギま部(仮)は学園に正式に認可された!

麻帆良学園の正式倶楽部として認可があるということは今後の情報収集、国内・海外活動に於いて多大なアドバンテージを得ることとなるだろう。

これで満足か、ガキども!?満足なら返事をせんかぁ!?」

「「「「「「「「「「「「「ハイッ!」」」」」」」」」」」」」

「いやーみんないいねいいね、カッコイイよん」

と、朝倉が言いながら写真を撮る。

「でも、そこの四人、服フツーってかいつものじゃん、ノリ悪いなあー、お仲間ならもっとこう…ファンタジーっぽく」

と、朝倉が私、聡美、ネギ、コタローに言う。

「何ィ!?学ランは俺の戦闘服やでー!?」

「いえ…これは顧問としての…」

と、コタローとネギが弁明をする。

「ったく…これくらいしかねーけどコレでいいか?」

と、私は仮契約カードの機能で超包子の制服姿に変身する。

「そうですねーそれなら―」

そして、聡美も続く…まあ、Tシャツ短パンに白衣よりはいいだろう。

「そっそ、イイ感じだよーしっかし、なかなか壮観って感じのメンバーだねー

実際、ただの人間になら絶対負けないくらい強いじゃん?

つーか、超りんの時から千雨ちゃんまで加わっているし」

「いやーまだまだよ、私のアーティファクトも極めれば極めるほど奥が深いし。

まあ、アスナは闇の魔王の個人指導でメキメキ実力上げてるけど」

確かに、アスナも恐ろしい勢いで実力はつけている。指導検討でのマスターはさもありなんという感じなので、クウネルから得た筈のアスナの情報に何かがあるんだろうが。

「いやー私もまだまだだって」

「むむ、謙虚!その意気やよし!たゆまぬ自己研鑽ねッ!

いよぉーし、修行上等ーッまだまだLvUpするよーッ!」

「「「「「「「「オオーッ」」」」」」」」

全く…お気楽な奴らである…まあ、みんな伸び盛りであり、目に見えて実力がついていくというのが楽しいのはよくわかるが。

「やれやれ、ガキどもが大はしゃぎだな」

「なんにしても、皆さんが前向きに努力しているのはうれしいです、先生として」

そんな皆を眺めながら顧問のネギと名誉顧問のエヴァが会話を交わす。

「出発はいつだ?」

「8月12日の予定です」

「あと2週間と少しか…無理をすればさらにあと4、5か月分の修行は可能だな」

「えっ…ま、まだそんなに?」

「クックック…何なら『合宿』でもするか?毎晩すれば理論上はそれだけで半年分はいけるぜ、ネギ」

「そ、それはさすがに、ちょっと…仕上げに一晩くらいはアリかもしれませんが…」

と、私の半ば冗談をネギが本気にしたような回答をする。

「ふっ…確かに地獄の合宿というのも楽しそうではあるな…だがどうせ、首都を訪れるだけなんだろう?」

「ハイ、今回は首都メガロメセンブリアで情報集めと…遠出をしても付近の観光地巡りくらいで…次回以降の為の基礎情報集めが主目的です。

僕もまさかこの休みで父さんの行方が判明するとは思ってません」

「だろうな。ま…あっちも文明国だ、治安もいい。首都を離れねばそうそう危険はなかろう、奴らの修行も無駄骨だろうな」

「まあ、必要になってから付け焼刃で用意するよりかはいいんじゃねえか」

「クックック…まあそれはそうだな…だが、今回に限っては転ばぬ先の杖というにも大げさすぎる…なればこそ、貴様もそうして落ち着いていられるのだろうがな、ぼーや」

「は…はあ…まあ…」

「ま…確かに出入国は大変だが何かに深入りでもしない限り、実際の危険はねーかもだな」

「そうだな、カモ…そのうち深入りするときは来るだろうが…多分それは今回じゃねぇだろうし…まあ戦闘者組で守り切れる程度の警告くらい覚悟しておけば十分だろう」

「フ…まあ、ひとまず観光気分で魔法の国を楽しんでくるがいいさ…そうそう、土産は地酒で良いぞ」

「「マスター…」」

と、私とネギは呆れたように言った。

 

「よぉーしっみんな―イギリスへ行きたいか―!?」

「「「「「「「オーッ」」」」」」」

「何が何でも行きたいかーッ!?」

「「「「「「「オオーッ」」」」」」」

「修行終わらせてウェールズへGOーっ!」

「「「「「「「「GOーッ!」」」」」」」」

と、ハルナが音頭を取った楽しげなコールが終わった。

「ん…?」

今、誰かいた気が…

「フ…千雨、依頼していたバッジはもうできているのか?」

「ああ…今、城の工房で仕上げ塗りの乾燥している所だから、実質もう完成しているよ」

「ならば…丁度今日は夏祭りの日だったな…この後すぐに引き渡せるな?」

そう言ってマスターが悪い笑みを浮かべる。

「…大丈夫です」

私はそう答えるしかなかった。

 

 

 

マスターにバッジを引き渡し…私と聡美も部員の証として1つずつ返された…

「そうそう、このバッジは部員の証という事にする…よって、ウェールズ行きまでに紛失した場合、強制退部という事にする」

という言葉と共に。

「…エヴァ、また何か企んでいるな?」

「お前ならば大丈夫さ、千雨…ハカセは…千雨に守ってもらえ…それと今日の夏祭りの縁日は強制参加な」

「えっ…は、はいエヴァさん」

「あーなんとなくわかった…うちのクラスの連中をネギとのイギリス旅行とか何とか言って釣ってバッジ争奪させる気だろう」

「クックック…どうだかな…そうそう、他の連中にはまだ秘密だからな」

そう言って、エヴァは去っていった…

「えっと…どうしましょうか」

「…とりあえず、別荘でたら浴衣の用意しようか」

「はい、浴衣で千雨さんとデートですね」

「ああ…まあ真名辺りが出張ってこなければ大丈夫だろうし、楽しもうな」

という事で、その後、数時間分、別荘を利用し、寮に戻って浴衣の用意をする私達だった。

 

 

 

「わぁー学祭前の縁日も楽しかったですけれども、やっぱり夏祭りは規模が違いますねー」

「そうだな…その分、人でも多いし、バッジ狙ってくる連中もいるんだから、はぐれるなよ?」

と、会場に入る前からはしゃぐ聡美の手を握った。

「はい、千雨さん…私も気を付けますけれども、しっかり守ってくださいね」

聡美は嬉しそうに、そう言って手を握り返した。

 

暫く屋台を回っていると、お面をつけた集団が私たちの前に立ちふさがった。

「よぉ…そこの嬢ちゃん達、いいバッジもってんじゃねぇか」

「大人しく俺たちに渡しな…さもねぇと…」

「…どうなるってんだ?麻帆良大学部の格闘部諸君…今日は手加減してやんねぇぞ…?」

と、脅しに対して脅しで返す。

「くっ…ダメで元々!ものども、かかれぇ!」

「聡美、下がっていろ」

「ハイ!千雨さん!」

と、一斉に飛び掛かってくる連中を糸と鉄扇を駆使し、聡美には指一本触れさせまいと割と遠慮せずに蹂躙してやる。そして…

「よっしゃ!」

「よっしゃ、じゃねーよ、タコ」

と、観衆に紛れて聡美に接近した奴…ただのお面をつけた観客と見分けられなかったので泳がせていた…を糸で転がしてから背中を踏みつけ、わき腹を蹴り飛ばして蹂躙した連中の山に混ぜた。

「まったく…どーせ、うちのクラスの誰かの差し金だろうが…」

と、視線をたどって見つけた下手人らしき連中を睨みつけていった。

「片付けはしろよ?柿崎、釘宮、桜子」

「「「は、はいぃ」」」

と、チア部三人組はびしりと敬礼で答えた。

「さ、行こうか、聡美」

そう言って私は聡美に手を差し出した。

「はい、千雨さん」

それに対して聡美は私の腕をとり…私はニコリと笑って応じると二人で拝殿の方へと歩き出した。

 

「あ、千雨さん、ハカセさん」

「あ、ネギ先生、皆さん」

と、そこにはネギと茶々丸がおり、すぐそばの屋台でコタローと那波と村上がアメリカンドックを買っていた。

「ほら、お前の分やで、ネギ…って千雨姉ちゃんにハカセ姉ちゃんやんか、二人も食うか?」

と、コタローがネギの分のアメリカンドックを渡し、私たちにそう問うた。

「そーですね、せっかくですし」

「食べようか」

と、いう事で私たちも同じ屋台でアメリカンドックを買う事とした。

ネギたちとアメリカンドッグを食べていると、すぐにアスナ達、他の白き翼の面子も委員長を筆頭にほかのクラスの連中と共にやってきた。

その後はバッジを狙われることもなく、夏祭りを楽しむことができた。

 

 

 

「さーて…どうしたものかな…」

と、城に与えられた書斎で独り呟く。聡美が関係者扱いとなった今では魔法関係の研究を手伝ってもらったり、エヴァも交えてディスカッションしたりもするのではあるが…それはあくまで公開前提の趣味の研究の話…戦闘技法の開発などは…聡美にはあまり話していない。そして今の検討内容は闇の魔法、マギア・エレベアの理論を何とどう組み合わせるか…であり…ある程度解毒した後でないと話せるわけがない。

マギア・エレベア…極限まで単純化したその理論は、『精霊魔法の行使時に力を借りる精霊の魔力、それを込々で身体強化に使えたら強いし、属性付与もできて便利だね!』である。まあ、マスターにそのまま言えば舐めているのかと怒られるレベルに単純化した場合、であるが。しかし、この理論…私がやっていた積層記述以外の他の研究と相性が良すぎるのである。

第一に魂を対価にする方向での改修…これはもろにマギア・エレベアの劣化・汎用版を呪紋で開発する方向が一番わかりやすく、現在の開発案の中で穏当かつ効率的である…簡単だとは言えないが、それでも他の二案よりはまだましである。

次に咸卦の呪法の改良…これは奇跡的な事に、かっちりと組み合うのである…要するにオド(気)とマナ(魔力)と精霊の三位一体による身体強化技法…理論上は行けちゃうのである、しかも魂への負担は他の二案よりもはるかに軽い…と試算は出ている、実質マギア・エレベアの呪紋を開発する必要があるという開発難易度はともかく。

そして、最後に人ならざる存在と化す外法…これは今まで構築してきた理論が元々疑似精霊化という代物であり…まさに精霊を取り込むという闇の魔法の理論はピッタリとあてはまる最後の一ピースだったりした…これまた、三位一体の身体強化の亜種的な代物であり、開発難易度は高いが。

そう、どれも魅力的すぎて雪山耐久訓練中に狂喜乱舞しながら原案を何枚も力の王笏内に書き散らしまくってその整理と検討がやっと終わった所である。

「やっぱり、試験的なマギア・エレベアモドキの呪紋を開発してから、咸卦の呪法と組み合わせて一つの呪紋にして…一時的な変異を前提に精霊化を目指して開発を進めるのが妥当か?想定記述量からすると結局、積層・立体記述含めて全部やる事になるけど」

元々咸卦法自体が仙人的な意味合いでの超人化の技術でもあり…そう言った方面をオミットして戦闘に特化させているとはいえ、咸卦の呪法にまったくその名残がないわけではないし…まあ行けるとは思う、どれだけ時間とリソースがかかるかは別にして。それに師の後を追い、並び、超えてみたいという武芸者としても、魔導師としても真っ当な感情も持ってはいる…ならばやってみよう…かつて誓ったように、そうする道がそれしかないのであれば…人である事さえやめて見せようじゃあないか…

 

それに邁進するのを止める楔はただ一つ…聡美と共に生き、逝きたいという願いである…

 




千雨ちゃんにとって、ハカセの存在は無茶をする理由であり、できれば人(同じモノ)でありたいという楔だったり。

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