例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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63 夏休み編 第4話 姉弟子の本気

夏祭りの翌日、朝練(白き翼全体)での別荘使用の指導検討の際、マスターにあるおねだりをすることにした。

「マスター、久しぶりに稽古つけてくれません?」

「どうした、藪から棒に…ここ暫く、私無しであいつらと割と有益な鍛錬を積んでいるじゃないか」

実はここ暫く、特に夏休みに入ってからマスターはアスナとネギの相手がメインで、私は相手をしてもらっていない。逆に、アスナやネギの指導に入る事はよくあるが。

「確かに刹那や楓とは実力も近くていい経験ができますし、クーとの白兵戦は勉強になりますし、ネギやコタローともペアなら私が不利で良い感じなんですが…こう、稽古って感じで…マスター相手みたいな生存本能が刺激される感じの試練って感じがしないんですよ…」

「成程…久しぶりに地獄を見たい、そういう事だな?」

マスターがクツクツと笑う。

「…とまでは言いませんが、一戦で全力を出し切らないといけないような明らかな格上との戦闘経験が暫くつめてないなぁ…と…普段は呪血紋も無しでしていますし…」

「…まて、ぼーやと犬のペアに最近負けるようになった、とは聞いていたが呪血紋無しで、か?」

「はい、というより原則、呪血紋は無しで鍛錬しています、あれ使うと何戦もできませんので」

と、言うより、勝つ場合はともかく、負ける場合は失血が許容範囲ギリギリになるので、というべきか。

「…よし、わかった…その代わり、明朝の稽古でぼーや、犬、神楽坂明日菜の三人を纏めて相手しろ、呪血紋ありの本気で、な。それで勝てれば午後の途中…二日目の夕方にでも相手をしてやろう」

「えっ…アスナありですか?呪血紋ありの利点をほとんど殺されるんじゃ…」

「だからこそさ、地獄を見たいのであればそれくらいの試練は越えて見せろ、千雨、姉弟子の矜持を見せてやれ」

そう言って、マスターは笑って見せた。

 

 

 

「えっ…俺とネギとアスナ姉ちゃんで千雨姉ちゃんの相手?」

「コタロー君もいるなら私たちが有利すぎない?」

「確かに、僕とコタロー君だけでしたら千雨さんが有利だとは思いますが…アスナさんの能力で呪血紋の利点…魔法の強化はほぼ無効化されてしまうのでは」

翌朝、マスターが朝食の席で私との試合を告げた時のネギたちの反応がこれである…

「はっはっは…舐められているじゃないか、千雨…姉弟子の威厳がないな、お前」

「まー、私が不利なのは事実だが…ガチモードで行くから大怪我しても恨むなよ?」

流石に心配されてしまうとこれくらいは言い返さないとやっていられない。

「と、言うわけで戦う面子と見学者は朝食後に舞台に集合しろ、木乃香は治癒術師として強制参加だ」

そうマスターが宣言し、私たちの試合が決まった。

 

 

 

さて、朝食後…当然のように全員集合した前で、私はネギたちと向かい合っていた。

「千雨さん…頑張ってくださいね…でも無理はなさらず」

「ああ…ありがとう、聡美…でも無茶はしないと話にならないんでそこは許してくれ」

「はい…それは…まあ仕方がないので…後でゆっくり休みましょう」

と、言って聡美は巻き込まれないように距離をとった…刹那がついでにでも守ってくれるという意味で最も安全であろう、木乃香の隣に。

「さて…準備はいいな?それでは…はじめろ!」

 

拡散・白き雷

 

と、マスターが宣言すると同時にネギたちに向けて牽制兼めくらましの白き雷を拡散で放ち、空に舞う。空中戦にしてしまえば、アスナは無視はできないにせよ、それでもネギの直衛とみなしてよく、攻撃役としてはほぼ無力化できる…まあ跳躍で斬りかかってくることもあるにはあるが。

「ちょっ!」

「うわっ」

アスナがハリセンで魔法をかき消しはするが、それは一部にとどまる。

「くっ、ぼさっとすんな!ネギ!」

側面からネギに断罪の剣を振りかぶって接近する私を迎撃しながらコタローが叫ぶ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング」

「っ!狗神!」

「魔法の射手 連弾 雷の47矢」

迎撃された私がコタローと魔法の射手と狗神をぶつけ合い、切り結ぶのがいつも通りの展開ではある…今日はこちらの魔法の射手の数は呪血紋の補助で何時もの倍くらいに増やしているが。こいつらがいつもとの違いを理解する前に速攻をかけて一人は落とさなければ、勝ち目は薄い…特にアスナとコタローが共にネギの直衛につかれると突破は困難で…実質にらみ合いとはいえ、主導権はあちらに移る。

 

白き雷

 

「げっ…ぎゃぁ」

と、撃ち勝った魔法の射手がコタローを襲い、その対応で手いっぱいの所へ放たれた白き雷が直撃し、コタローが悲鳴を上げる…パターン化した初手のやり取りでいつか、これをやりたかったのだ、実は。

小太郎の稼いだ時間で詠唱されたネギの戦乙女たち…これもいつものパターンの一つ…に向けてというか舞台に向けてコタローを蹴り飛ばす…止めとコタローが墜ちて行かないようにする為に。ヤっちゃっていい相手なら断罪の剣で両断する所だが。

さらに跳躍し…追尾してくる戦乙女を断罪の剣で切断、その隙に詠唱されたネギの魔法の射手も虚空瞬動で大回避して開始位置に戻り、戦闘不能とみなされて回収されているコタローを確認して言った。

「さて、まずは一人…止めて見せろ!アスナ!」

「くっ…地上戦なら!」

アスナが叫び、向かってくる…が、断罪の剣をハリセンとぶつかり合う寸前に消した。

「へっ?」

と、肩すかしを喰らわせたアスナのハリセンを鉄扇で流し、その勢いのまま投げ飛ばす…そも、いかに断罪の剣とはいえ、アスナのハリセンと打ちあえば熱したナイフでバターを切るがごとくなのだ、流すならともかく正面から鍔迫り合いなどするわけがない。

そしてリカバリーを試みたアスナを糸術で妨害し地面に転がすと、止めの代わりに顔のすぐ脇を踏み抜き、ネギの方を向く。

「魔法の射手 散弾 光の101矢!」

「甘いっ」

丁度詠唱が終わった魔法の射手の弾幕を再展開した断罪の剣で切り裂いて肉薄する…が、ネギが笑った…何か仕込んでやがる。

「ちっ」

 

白き雷

 

とっさに放ったそれはネギの解放した遅延呪文による白き雷とぶつかり合ってはじけた。

弾幕を切り払っての突貫を見越しての遅延呪文…とっさに何も考えずに回避すれば弾幕にからめとられるという寸法である。

「今のは中々いい手だったぞ、ネギ…だが笑っちゃダメだ」

そうでなければ、対応は数瞬遅れ、隙ができていただろうし、そこを上手く突かれていれば決められていた可能性もあった。

「あ…それでバレちゃいましたか…千雨さんの機動力に呪血紋による無詠唱魔法…想定以上の脅威です」

「だろう?私の弱点、火力の弱さも補えるし」

互いに断罪の剣で切り結びながら会話を交わす…私のは呪血紋で強化しているとはいえ偽だし、ネギのは未完成だが。

「さて…」

と、ネギと距離を取り、言う。

「チャンバラで押し切ってもいいんだが…まあいつものだ、行くぞ、ネギ」

と、私は得意の詰めパターンである空中機動に入った…コタローもいると対応されるのではあるが。

 

空を舞う私の詠唱魔法とその合間を埋める無詠唱魔法の射手をネギが舞台上で何とか回避・迎撃し、時々放たれるネギの魔法を私が悠々と回避ないし切り払うというのを何度か繰り返し…詰みの時が来た。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え」

「くっ…」

詰将棋状態に抵抗していたネギが、それに失敗したことを受け入れるが如く、足を止めて障壁を展開する。

「雷の斧」

そして、呪血紋で強化された雷の斧が障壁を突破し、ネギは倒れ…

「ようし、そこまで!千雨の勝ちだ!」

そうマスターが宣言した。

 

「いやー血の魔法陣有りの千雨姉ちゃんがあそこまでやとは思っとらんかったわ」

ネギが木乃香に治療されている間に、先に治療を受けて復帰したコタローが感心した様子で言った。

「ネギにも言ったが、火力不足がおおむね解消されるからな」

「私への止め、一瞬本当に殺られるかと思っちゃったわよ」

「…さすがに試合では殺らねーよ…実戦でも出来る限りは…」

と、前半の発言で実戦なら殺すのかとアスナに引かれたので後半を足してフォローする…一応修学旅行の時にカラス天狗の頭を踏み抜いた事があるはずなんだがな?アスナの目の前で。

「しかし、やはり虚空瞬動かそれに類する練度の飛行術がなければあの千雨に対抗するのは難しいな」

と、刹那…刹那は翼での飛行と虚空瞬動術の両方使えるが。

「そーだな…ネギも虚空瞬動無しの割には粘れているが…虚空瞬動を覚えたらあんな一方的な詰将棋みたいな展開からは脱せられると思うぞ」

「そうでござるな…それに拙者も血の魔法陣有りの千雨と手合わせ願いたいでござるな」

「あーなら…今日の午後の四日目か合宿明けの朝練のどこかで…流石に今すぐは失血量が嵩むし…午後の二日目にマスターに稽古つけてもらえる事になっている…というか、今の試合に勝ったご褒美にそうなったから、どうせなら楓とも万全の状態でやりたいし」

「では、合宿後に頼むでござるよ…しかしご褒美でござるか」

「げ、千雨ちゃん、もしかしてエヴァちゃんに稽古つけて貰う為に今の試合をしたの?わざわざ?」

と、信じられないという様子のアスナ。

「やっぱり、実力の近い連中との鍛錬もいいけれど、圧倒的格上との戦闘経験もほしいんでな?」

「うっへ…よくわかんないや、そういう気持ち…」

と、言う会話をみんなとしていると試合終了と同時にどこかへ消えていた聡美が走って戻ってきた。

「はぁはぁ…はい、千雨さん、飲んでください」

と、聡美が差し出したのは自室に置いてあった鉄のサプリメントと造血ポーションだった。

「うん、ありがとう、聡美」

そう答えて、私は差し出されたそれを飲んだ。

 

 

 

「さて、始めるとしようか、千雨」

約束通り、午後錬の二日目、私とマスターは向き合っていた。舞台は城に被害が行くからと高山、万一に備えて普段はあまり午後錬に参加しない木乃香も参加としたらギャラリーもほぼ全員集まった。

「はい…では…行きます!」

と、偽・断罪の剣・エンハンスドを展開して私は縮地でマスターに切りかかり、稽古が始まった。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 爆ぜよ風精」

殺到する魔法の射手、マスターの詠唱は…氷瀑か…まだまだ踊れると断罪の剣で魔法の射手を切り払い、肉薄しようとした…その時

 

ふらり

 

一瞬意識が飛びかけ、足が止まる…

 

「弾けよ凍れる息吹 氷瀑」

 

あっ…ヤバい…

 

そう思った瞬間、対応し損ねた魔法の射手が私の魔法障壁を削り、そこに氷瀑が直撃した。

「がぁ」

「ち、千雨さん!?千雨さん!千雨さん!」

地面に叩きつけられ…薄れゆく意識の中、聡美が私を呼ぶ声がする…

「近衛木乃香、早く治してやれ、放っておけば死ぬぞ」

「う、うん!アデアット!」

意識が飛ぶ寸前、そんな会話を聞いた気がした…

 

 

 

「さて…お前の望みのご褒美だったが…どうだった?」

「ええ、楽しかった…とは言えませんが、いい経験になりました…結末は…その…スイマセン」

「呪血紋の使い過ぎで貧血を起こして私の魔法をまともに喰らうとは…な、念のため近衛木乃香を呼んでいなければどうなっていた事やら」

午後の別荘二日目の夜、お呼び出しを喰らった私はマスターからそんな説教を受けていた。

「まあ、あのレベルで私に対抗し、掠り傷とはいえ傷を負わせたのは称賛に値するが…リソース管理に失敗したのは大幅減点で赤点だな…お前、呪血紋無しでも耐久戦ならあの倍の時間は耐えられるだろうに…」

マスターとの約束通り実行された稽古…私は呪血紋も用いて、限定的とはいえ、マスターに拮抗する事に成功していたのだが、長期戦と呼べる程度には長引いた間に行使した無詠唱魔法の射手を含めて数十回の詠唱補助と、接近戦並びに牽制呪文の切り払いに用いていた偽・断罪の剣・エンハンスドの維持、加えて掠り傷とはいえ出血を伴う幾つかの傷によって、累積失血量が想定以上の量に到達し、貧血でめまいを起こして思考と機動が一瞬止まった。そこにマスターの牽制攻撃が直撃、そのまま墜落し、危うく死ぬ所だったし、聡美も大分泣かせたらしい。

「はい…面目有りません」

完全に私が悪い状況かつ興が乗っていた所をそんな理由で自爆した私に機嫌の悪いマスター相手に、私は謝り続けるしかできないのであった…なお、部屋に帰ったら今度は聡美からお説教である、多分。

 

 

 

「お帰りなさい、千雨さん」

マスターの長いお説教が終わり、解放されて部屋に戻ると聡美が寝間着姿で待っていた。

「ただいま、聡美…ごめんな、心配かけて」

私はそんな聡美の隣に座って、そう言った。

「…はい、すっごく心配しました…でも…それはもういいです…エヴァさんからもお説教受けてきたみたいですし」

聡美は立ち上がり、私を抱きしめた。

「よかった…本当に…貴女が…千雨さんが…生きていて…」

暖かいものがぽたぽたと私の頭上に降り注ぐ…

「ごめんな…辛い思いさせて…」

暫く、私たちはそのままの体勢で抱き合っていた…




尚、心の底から反省していると同時に、その内容が無理はしないじゃなくて次はもっと上手くやって聡美を泣かせないようにする、だったりする。
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