例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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66 夏休み編 第7話 修行の日々と夏休み中盤のエトセトラ

「あーネギ先生ー皆さんーいらしたんですかー」

「なぁにパンピー連れてきてるんだ、ぼけぇぇぇぇ」

私がハルナにそう叫んだのは朝練を休んでオタクの祭典に聡美とペアでコスプレ参加した日の事だった。

「いやー、あの修行の鬼の千雨ちゃんが朝練休んでまで参加するお祭りに興味があるって言うからさ、つい」

などと被告・ハルナはのたまった。

 

やむを得ず、コスプレエリアを撤収し、引率で薄い本エリアに向かったのだが…

「えへへーこのお祭りってパロディーの本がたくさんあるんでしょ?あっ」

そう言ってネギが手を伸ばしたのはR18マークの付いた薄い本だった。

「本物より絵がキレイだよ、コレ」

「おっ?ほんまや、スゲーな」

「バッ…みっ見るなっ見ちゃダメだあああっ」

そう言ってネギとコタローから本を取り上げてブースに返す…私も年齢制限外だっての。

「ここはガキはダメだ、あっちに行け!というか私もダメだからな、この辺り!」

「そう言えばそーですねー全年齢行きましょうかー」

と、ネギとコタローを引率し、全年齢エリアに向かった…が…途中で発見した、はぐれていたアスナ達はネギたちと同じくR18のBL本を食い入るように見つめていた…

「止めろ、バカハルナ!」

と、叫びつつ、私はその本を没収した。

「いやーいいじゃん、千雨ちゃん、これくらいさー」

本当に、どうしようもないハルナだった。

「一般人に我々の趣味を理解してもらうのは難しいね、ねぇ、千雨ちゃん」

「なら連れてくんじゃねぇよ!つか、私は腐じゃねぇ!」

とはいえ、アスナ・木乃香・刹那は割とアリの反応だったが。

 

 

 

「千雨ちゃーん、さよちゃんの人形、もうちょっと何とかなんないー?」

「何とかっつったって…私やマスターの技術だとその人形が限度だって言ったろ?」

限度、とはいえ疑似的に夏合宿に相坂を参加させる程度の事は出来るのではあるが。

「いやー、やっぱりさよちゃんと魔法世界にも行きたくてさぁ…やっぱし恐山いかないと無理?」

「無理っつうか前提条件、だな。学園長経由でアポとって技術交渉して…それでいい依り代が手に入ればなんとか…って感じだな」

「そっか、じゃあ行ってくるよ、恐山…となると早速学園長に面会しなきゃね」

「おう、気をつけてな」

なお、そばでは相坂が感動していたりした。

 

 

 

「はぁ…はぁ…引き分け…ですか…」

「ムム…ハカセさんもなかなかやるようになりましたね」

あの夜の宣言通り、軽めとはいえ戦闘訓練に参加するようになった聡美であるが、多少とはいえ早く修行をはじめ、運動神経もなんだかんだで優れている夕映たちに負け続けていたのだが、今日初めて引き分けをもぎ取る事に成功した…不満そうではあるが。

「毎晩、ハカセさん、千雨さんと夜の個人レッスンをしているんでしたっけ」

観戦していたノドカが言う。

「そうですよーここ数日、特訓…だけじゃありませんけどー一週間分強ほど追加で別荘を利用させていただいていますーでもまだまだ追いつけませんねー」

素質の差というモノは残酷である。

「…やっぱり、呪紋の施術お願いしましょうー千雨さんもそろそろ更新するんでしょうー?」

そろそろ試作の三位一体の闇呪紋(シグヌム・エレベア・トリニタス。表向きの名称は咸卦の呪法・トリニタス)を刻もうとしているんでしょうー?と言いたげな聡美の瞳…本格的に修行をすると言い出した夜から、闇の呪紋の研究は筒抜けどころか共同研究対象にしているのでバレバレである。まあ、聡美用の呪紋も力の王笏に二人でダイブして引いているので今更…というかついに来たか、という感じではあるが…

「…麻酔しても、大分痛いぞ?」

「はいー覚悟の上ですーよろしくお願いしますねー」

こうして聡美に呪紋を刻むことが確定した。

「ところで、今日の午後はネギ先生を誘ってアーニャさんと市民プールに行こうという予定になっているのですが、千雨さん達も行きませんか?」

「アーいや、泳ぐなら別荘塔のが空いていて好きなんで、私はいい」

「私も同じくですー」

「わかりました」

夕映も一応誘っただけらしく、しつこくは誘ってこずにすんなりと引き下がった。

 

 

 

その(別荘内での)夜、私達は夕食後の娯楽時間を少し早めに切り上げて自室のベッドに横たわっていた…とはいえ、眠っているわけではない。

「戦いの歌の発動条件、これでいいのか?念じるだけでもできるぞ?」

「前にも言いましたがーそれだと自力での無詠唱呪文の練習に差支えがありますのでー外せるものはいずれ外してその分、強化に使いたいですしー」

私たちは力の王笏の電脳空間内で呪文の設計を詰めていた。

「わかった、じゃあ手を合わせて念じるで行くぞ」

「はいーお願いしますー」

と、仮想コンソールを叩いて設計を確定させていく…

「さて、聡美の設計は一度こんなもんで計算かけるとして…」

「問題は千雨さんの方ですねー最初期設計ですし、もう少し安全重視で行きません?」

「そのつもりなんだけどなぁ…この設計案でも…ギリギリを攻めると…こんな感じになる」

と、安全マージンが低すぎて絶対に怒られると却下した(火急で力が必要なら使う気はあった)設計を表示する、闇の呪紋関係の所を色違いにして。

「ええっと…ここがこうなっていて…これがこうで…」

聡美が設計図を検討していく…そして真顔で言った。

「千雨さん?この設計、安全マージンって言葉が存在していませんよね?」

「うん、だから却下して安全マージン入れて設計し直したのが現行案の原型」

「…まあ基準がコレならまだ理解はできますが…せめて多重装填はデュオ(二重)までにしません?初手からカルテット(四重)はやりすぎでは…」

「手足別と左右別は早めに試験しておきたくてなぁ…ダメ?」

「でしたら、ここをこうして…トリオ(三重)でどうでしょうか」

聡美はそう言って、左右の腕と両足で分けた三重装填の設計案を提示する。

「わかった、ならこれで…こうして…と…よし」

そして、私はシレっとその設計変更で空いた部分に別の障壁強化系の経路を足して計算にかけた。

「では、続いて予備案の設計検討にしましょうかー」

「ああ」

私たちの夜はまだまだ続く…

 

 

 

「さて、お願いしますね、千雨さん」

何度か設計のブラッシュアップを終え、聡美が私の前に全裸で横たわっていた…まあ臀部を含めた全身施術なので当然ではあるのだが。

「ああ、始めるぞ」

そう言って、私は聡美の全身に麻酔入りの軟膏を塗りこんでいった…

 

「どうだ?」

暫くして、聡美の二の腕をつねる。

「痛くないですー」

「ん、効いてきたようだな…それじゃあ始めるぞ」

「はい…お願いします…んっ」

丁寧に、迅速に、まずは聡美の背面に魔力供給の効率を上げる為の経路と魔法陣を書き込んでいく…私だと咸卦の呪法用の呪紋を刻んでいるモノに相当する。そして、次に早々変更する事は無いであろう緊急障壁展開用の巨大な陣、続いて魔法の射手や通常の障壁強化用の基本的なモノをうなじから臀部までに刻んでいった。

「さ、背中は終わったぞ」

「あぅ…千雨さんはいつもこんなのを…?」

「イヤ…初期施術と大規模改修…というか整理以外は一部しか書き換えないからそこまでではないぞ…少し休むか?」

「いえ…大丈夫です…次は前面、お願いします」

そう言って、聡美は一度起き上がり、仰向けに横たわった。

「えへへ…ちょっと恥ずかしいですね…鏡もありますし」

尚、この施術は別荘塔の設備を参考に天蓋の内側に鏡と光源が設置されたベッドで行われている…というか、書斎の奥の小部屋にあつらえた私の自己施術用のベッドである。

「…うん」

まあ、そんなことを言いながらもやる事(呪紋の施術)はするのであるが。

内容は背面と同じく、まずは背中からつなぐように魔力経路を書き込み、さらに腹部に戦いの歌の呪紋を刻む。これが全身の経路をめぐって後で両掌に施す呪文が接した時に発動する仕組みにしてある。続いて同様に隙間を埋めるように他の呪紋を防御重視で刻む。

「次は腕だ。両掌を天井に向けるように突き出して」

「はい」

腕には魔力経路のほかに、ある程度の頻度で書き換える前提の特定の魔法の補助などに用いる呪紋…今回は能動式の対魔法障壁…を刻み、掌には腹部の紋とリンクした紋を刻み、手の甲には聡美が比較的相性がましだった風属性を補助する紋を刻んだ。

「最後は脚だな…起き上がってベッドサイドに座って台にカカトをのせてくれ」

「はい…」

「大丈夫か?少し休むか?」

「いえ…もう少しですし…頑張ります」

「…わかった」

と、聡美は疲れた様子ではあるが、本人の言葉を信じて施術を続ける…

脚には魔力経路のほかに、それによる強化を効率的な脚力強化に転嫁する紋を刻みこんでいく…

「よし、終わりだ…頑張ったな、聡美」

「ぁ…はい…頑張りました…えへへ」

頭をなでる私に、朦朧とした様子で答えた。

「横になっていろ」

そう言って、聡美を一度抱えると、ベッドに横たえ、用意してあった濡れタオルと水桶で汗と軟膏を拭いてゆく…聡美の全身に施された糸の呪紋…それを改めて認識すると、説明のしがたい感情が沸き上がってきた…しいて言えば、聡美を私の作品として仕上げた達成感に、二人で仮契約をした日の高揚感を足せば近しいものにはなるだろうか。

「気持ち良いです…」

その得も言えぬ感情に浸っていると、聡美のそうつぶやく声に現実に引き戻された。

「それはよかった…部屋に運ぶから中和剤を飲んだら一度寝よう」

「千雨さんも…一緒ですよ?」

「ああ、もちろん」

と、ショーツだけ履かせて毛布を掛けた聡美を私はお姫様抱っこで書斎から室内扉を通って寝室まで運び、おねだりされて口移しで麻酔の中和剤を飲ませると、二人で昼寝をするのであった…

 

 

 

「さて、今日は千雨さんの施術ですよー」

(別荘内での)昨日は昼寝から起きて聡美の慣らし運転程度の運動をして、風呂に入って早めに寝た。そして今日は私の呪紋の大規模改修である。

「イヤ…別に聡美は自分の修行をしていてもいいんだけど」

「えー見届けと麻酔の塗布役位させてくださいよーそれとも私がいると問題が?」

没にした筈の無茶な設計するつもりじゃないですよね?と暗に聡美が言う。

「…見つめられるとちょっと恥ずかしい…特に前面の施術」

「あ…それは…私も隅々までみられたんですし…おあいこって事で」

そう、聡美が頬を赤らめていった。

「…じゃあ、頼む」

「はい…行きますよ」

そうして、昨日私がしたように指先を除く全身に麻酔薬入りの軟膏を塗布されていった…

 

「ん…そろそろいいな」

「わかりましたーではお邪魔しないように静かに見ていますねー」

少しおしゃべりをしながら麻酔薬が効くのを待っていたが、そろそろいい感じである。

まずは背中の大物、心臓の真裏に刻まれた咸卦の呪法の核の一つから…最近の修行、特に雪山での瞑想の成果と記述密度の向上で小さくできる様になってきたソレを一度解いていつもより深くに刻み込む…これは積層させた方が良いとの計算結果を信じての事である。

続いて、その上に闇の呪紋(シグヌム・エレベア)の核となる魔法陣を記述していく…これで同時発動時…三位一体の闇呪紋としての使用時に単に相反しないだけではなく相乗効果を得られるようになる…筈だ。これをすでに全身に配置されている以前増強済みの回路に接続する。

さらに、その周囲に補助呪紋を主呪紋を取り囲むように縫い込んで、回路の四肢との接続点に中継用の紋を刻み、その施術の為に再配置せざるを得なかった通常の呪紋たちを再配置する…というか、積層の実験を兼ねて腰には深めに雷属性を補助する呪文を大きめに、高密度に仕込んだ。これで他に刻む予定の紋と合わせて呪血紋無しで雷の暴風を、出血多めの呪血紋があれば千の雷迄行使できるようになる筈ではある…後者に関しては魔法の習得が終わっていないので理論上、という意味ではあるが。

「千雨さん、お水飲みますか?」

背面の施術を終え、ため息とともに脱力した私に聡美が言う。

「ありがとう、貰うよ」

と、コップを受け取り、その中身を飲むと今度は仰向けに横たわり、施術を続ける。

今度は胎…おおむね子宮の上に、背面の心臓の上にしたモノに類する予備の咸卦の呪法と闇の呪紋の核を刻む…万一、背中の心臓付近に被弾した時に闇の呪紋が暴走しないようにするための予備兼オーバードライブ用の副系統である。

そして、腹部の緊急障壁展開呪紋を筆頭に、空きスペースに綿密な計算に基づいた呪紋を所狭しと、場所によって多層構造で刻む…ちなみに、体の呪文は当分更新しないつもりで施術している、学園祭から実時間で一か月強での大幅組み換えは完全に想定外である…というかここ最近の主観時間がおかしい。もっとも、四肢の呪紋は三位一体の闇呪紋(咸卦の呪法と闇の呪紋)関係以外は割と目的に応じて刻みかえる予定だし、三位一体の闇呪紋も出発前にフィードバックを入れるつもりではあるが…

と、いう事で、体の施術を終え、私は左手を突き出すように伸ばし、肘に中継点を、手首から先に(呪血紋用のスペースを残して)魔力掌握の補助呪紋を三次元的に記述し、腕全体に元と同じ白き雷を特に強く補助するように調整された雷属性全般を補助する紋を以前より高密度で刻み、右腕も同じようにして偽・断罪の剣関係の、以前より維持魔力を軽減させる方向に性能を上げた紋を刻んだ。

「ふぅ…」

「はい、千雨さん、お代わりです」

そこまでの施術を終え、起き上がったタイミングに合わせて聡美が水のお代わりをくれる。

「さんきゅ…あとは脚だな」

「はい…慣れてらっしゃるとは言え、あれだけの密度と面積を自己施術して…まだ余裕があるなんて」

「んー言うほど余裕はないぞ?全身の回路の刻み直しもやっていたら四肢は一度休憩入れていたよ」

「そう言うもんですか…」

「そう言うもんさ…さ、続きだ」

そう言って、私は足への施術を始める…とは言え、内容は腕とほぼ同じ…膝に中継用の呪紋、足に予備の魔力取り込み用魔法陣、他のスペースに時と場合によって刻みかえる魔法陣…今日は単純に風属性と雷属性の補助を目的に施術を行った。

「おしまい…っと」

「お疲れ様です、千雨さん」

と、ベッドに倒れこんだ私の汗と軟膏を聡美がふき取ってくれる…心地いい…

「ああ、これは確かに気持ちいいな…」

「でしょう?」

聡美がにこりと笑いながら作業を続行してくれる中…私の意識は沈み込んでいった…

 

 

 

「…聡美…服は?」

気づけば、私は一糸まとわぬままで聡美と施術用ベッドで抱き合って眠っていた。

「脱ぎましたーシーツ自体、大分汗で汚れていましたのでー」

ずっと起きて私の髪に手櫛を通していたらしい聡美がそんな事をいう。

「…戦いの歌を使えば運べたよな?私が昨日したみたいに」

「…あっ…そう言えば…」

昨日、初めて手に入れた力を使うという発想はなかったらしい。

 




千雨さんが契約執行をしないのはハカセが本末転倒だと断った感じです。いちゃつき行為としては裏でやっている可能性は否定いたしませんが。
ちなみに、前話のエヴァへの精霊の歌の披露(アーニャの初別荘翌日、8月2日?朝)から、実時間で一週間ほど、千雨と聡美の主観時間で3か月弱(皆で修行+毎晩1週間強の別荘使用に一部お休み)ほど経過しています、夜間は少しの自主練とハカセの指導と呪紋の研究(+趣味の魔法研究)ですがついに無茶が結実したので出力的には千雨は一気に強くなります。
ちなみに、ハカセが受けた施術は千雨の研究結果をフィードバックされているとはいえ、攻撃主体で施術すれば魔法学校卒業生クラス(戦闘訓練を受けた魔法使い)を出力的には高位の魔法使いに近づけるモノ(勝てるとは言っていない)です、ガッチガチに強化してもピーキーで使いこなせないので。
尚、千雨さんへの施術は素では強めの高位魔法拳士(Aクラス下位)である千雨さんをAAクラス下位まで引き上げるもの…今話実装された三位一体の闇呪紋を含めれば、本物あるいは化け物と呼ばれるランクに至らしめる代物です。なんだかんだで、もはや千雨さんは戦場に恐怖を振りまく側ですね、ガチモンの化け物相手には逃げるだけですが(そして、逃げられる公算があるという意味で千雨さんも化け物)
つーか、糸の呪紋は素人に施術しても意味はないけれども、一定以上の術者に施術したらその強さを倍加させうる、汎用性を高められれば魔法世界の軍事革命にさえなりうる代物だったり…

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