例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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68 夏休み編 第9話 ウェールズ、そして魔法世界へ

8月12日早朝、茶々丸の予備ボディーでエヴァの世話をするコピー、茶々丸ダッシュをあつらえるなどの雑事も済ませ、私たちは城で修業の最後の仕上げを済ませ…結局、仕上げという事で夜合宿をし…荷造りを行っていた。別荘内での明朝、別荘利用を終了し、空港に向けて出発の予定である。

 

「さて、これでいいな」

「はいー私も終わりましたー」

と、荷造りを終えてリュックサックを閉じた…現地での移動を考えると、キャリーケースよりこっちの方が良いそうだ。それに、容量拡張の魔法付きで見た目に反して普通のキャリーケースよりも荷物は入る。

 

コンコンコン

と、そのタイミングで扉がノックされた。

「どうぞ」

「千雨さん、ハカセさん、準備状況はどうですか?」

「大丈夫ですーちょうど終わりましたよー」

「ああ、後はゆっくり休んで、明日飛行機に乗るだけだ、ネギ…いよいよだな」

「はい、いよいよです」

と、ネギが答える。

「さて…やる気満々、意気揚々って感じの所に悪いが、釘を刺しておかねーといけねぇ」

「はい、ちうさん」

「ん?なんだ、千雨姉さん」

私の雰囲気から察して、ネギがちう呼びで答える。

「わかっているとは思うが…明日からのイギリス、魔法世界旅行…リーダーで責任者はお前だ、ネギ…お前には学園に皆を連れて帰ってくる責任がある…わかっているな」

「はい」

「まー学園長も協力してくれているし、本当の意味での危険はないだろうけど…それでも、親父さんの情報とみんなの安全が天秤にかかった時…後者を選ぶ覚悟はしておけ、いいな?」

「はい…わかっている…つもりです」

とのネギの正直な回答に私は笑い出す。

「クックック…つもりじゃねぇよ、って怒ってもいいが正直でよろしい、というべきかな、一人でも行くつもりだったお前にワラワラと着いていく事にした私達としては、な」

「あ、えっと…ちうさん?」

「まーそれが幸か不幸かはともかく、そんな選択の機会自体が千載一遇だ…だが、運や巡り会わせってのは予想できるもんじゃねぇんだ…その時には備えておけよ?お前の場合、どちらを選ぶにしても、絶対後悔しそうだからな」

「あ…ハイ!」

ネギは先ほどより元気よく、そう答えた。

 

「お、ここにおったか、ネギ」

と、コタローがノックもなしに部屋に入ってくる…まあネギが扉を開けっぱなしにしていたのもあるから構わんが…

「怖い方の師匠がおよびやでー。最後の仕上げに稽古つけてくれるそーや」

そして、コタローはそう言った。

 

 

 

そうして行われたネギの仕上げ稽古、結果はまあ惨敗と言っていいだろうが、ネギがエヴァに城壁に叩きつけられたタイミングでアスナが跳躍、ハリセンでの一閃によりエヴァに掠り傷を負わせ…氷に閉じ込められていた。まーアスナの事だ、ほっといてもすぐに復帰してくるだろう。

「フン…まあよかろう。合格点をやろう、ぼーや、貴様のパーティーにな」

「マスター…」

「千雨はもとより、茶々丸とそこの犬も行くんだろ」

私はもとよりってなんだよ…行くとは宣言していたけどさ。

「ハイ」

「おう、当然!てか名前で呼んでやー」

「ならばやはり問題はないな、まあ力と経験にばらつきはあるが…これだけの人材は本国正規騎士団にもあまりいまい。

そこいらの盗賊団やら魔獣の群れ程度に後れを取る事ない…そうだな…本物とでもやり合わぬ限り、今の貴様らに危険はなかろう。

フン…残念だな、確かにこれではつまらぬただの観光旅行だ」

「何も無いならそれに越したことはないですよ」

と、ネギが言う。違う、エヴァは多少のトラブルならば問題なく対処できる、と言っているんであって、トラブルがないとは言っていない。

「それに…」

と、エヴァが私を見てつづけた。

「本物連中相手でも下位程度であれば千雨が対処できる領域だ…いざとなれば頼ってもよい…が、千雨、あまりぼーやを甘やかすなよ?」

「はい、心得ています」

「マスター!?千雨さん!?」

マスターの言葉と私の返事にネギが抗議するように叫んだ。

 

「ん?なんだ、ぼーや、また何か悩んでいるのか」

と、黄昏ていたネギにエヴァが言う。

「ええっ!?なぜそれを」

いや、みりゃわかる…がタイミング的に、さっきの選択の話か…?

「やれやれ、奴とは正反対だな。奴はくだらぬことでウジウジと悩んだりなどしなかったぞ」

と、お説教タイムが始まった…が、

「…だが…まあ、貴様は奴ではない…か。ま…またせいぜいうじうじ悩んで足掻いてくるがいいさ。貴様の足掻く様は嫌いではない」

と、エヴァは優し気に微笑んで説教を打ち切ったのであった。

「マ…マスター…」

 

パッキャァァァン

 

唐突にそんな音を立ててアスナを閉じ込めていた氷柩が砕け散った、さすがアスナである。

「はぁはぁ…死ぬかと思ったわ」

「おお、生きていたか。フツーなら10年は氷漬けの筈だが、さすがだな、アスナ」

「何ですってーッ」

と、講義するアスナの頭をマスターは撫でる。

「ハッハッハ、稽古とはいえよく私の顔に傷をつけた、褒めてやるぞ神楽坂明日菜。

…さて、そこでその兄弟子の先ほどの体たらくは何だったのかな?」

と、マスターのお説教タイム第二弾が始まるのであった…

 

 

 

早めに夕食を済ませ、夕食後の歓談もほぼ無しで部屋に戻った私たちは早めに床に就いていた。

「このベッドともしばらくお別れですねー」

「そうだな…8月に入ってからでも、体感時間にして数か月、ほぼこのベッドで寝ていたからなぁ…」

「寮で寝たの、片手で足りますからねー」

それもこれも、三位一体の闇呪紋の開発と、聡美の特訓によるものである。

「で、千雨さんー私、多少は強くなれましたー?」

と、聡美が答えにくい質問をしてくる。

「…一般人の自衛手段としては十分、と言うのが正直な所かな…」

「そうですよねー千雨さんの糸呪紋有りでようやく夕映さんやノドカさんに対抗できている感じですからねー」

呪紋の扱いにも慣れ…まあ多少は強くなったと言えなくはないが、夕映たちに比べればさほど、でもある。それでも、向こうのそこいらのチンピラよりは強いと言っていいだろうが…辺境のチンピラだと怪しい程度でもある。

「結構頑張ったつもりでしたが…こんな事ならば、合気術だけでもずっとしておけばよかったですねー」

「そう…だな」

正直、そっちの才能もあるとはいいがたいが、まあ継続は力なりとも言うし…もう少しはマシだっただろう。聡美は才能の殆どが頭脳に割り振られているのである。

「まーそんな事を言っていても仕方ありませんし…寝ましょうか」

「ああ…お休み、聡美」

「おやすみなさい、千雨さん」

そして、ウェールズ行き前、日本での最後の夜は更けていった…

 

 

 

翌朝、別荘から出た私たちは、エヴァに生活面での注意事項があるからという茶々丸を置いて先発し、超包子(五月に日程を話したらぜひ、と開けてくれた)で中華粥の朝食をとっていた。

「おいしいです、五月さん」

「お口にあってよかったです、ネギ先生…イギリスと魔法の国の旅行…お気をつけて」

「はい、ありがとうございます」

といった感じのネギと五月は別にして、他の連中はいつも通り大騒ぎだったが…早朝なんだからもう少し大人しくしろよな。

 

 

 

「ああ~~ん、なんやドキドキしてきたなー初めての海外旅行やー落ちたりせーへんやろなー?」

「オイ、縁起でもないことを言うのはやめろ」

「鉄の塊が空を飛ぶとゆーのがどーも信じられぬでござる」

「どこの原始人よ、あんたたち!田舎モンッ」

と、魔法使いアーニャが一般人に文明の利器のすばらしさ?を解くという不思議な光景を尻目に、アスナがチケットを配っていた。

「みんな、コレ、チケットねー後でバイトとかして半額払ってもらうからねー忘れちゃダメよ?」

なお、支払わなくてよい半額は、学園から支給された部費である。

その後もなんだかんだとワイワイ騒いでいると、ついに搭乗の時間がやってきた。

「よーしっ、それじゃあウェールズへ…」

「「「「「「「「「「「「GOーッ!」」」」」」」」」」」」

「馬鹿、ここはもう麻帆良じゃねぇんだからそんなに騒ぐなって」

尚、私の突込みは、無視された。

 

 

 

その後、飛行機は無事にロンドン・ヒースロー国際空港(イングランド)に到着し、ロンドン観光をしつつ、案内人であるメルディアナのマクギネスさんとの合流時間を待っていた…のだが。

「本当に来たよ、委員長たち…」

「やっぱりですねーネギ先生たちが捕捉されていたのは予想外でしたがー」

タワー・ブリッジでの自由行動時、再集合してみるとネギが委員長につかまっており、他の連中も続々と集結中だという事だった…まあ、同じく合流していたマクギネスさんいわく、許可はとってあるから問題ない、との事だったが。

 

 

 

そして、電車を乗り継いで到着したウェールズ、ペンブルック州の山間の町…メルディアナ

「わー」

「ここがネギ君の故郷!」

「来てよかったですわ…」

と皆、思い思いの反応をする…

「変わってねぇなぁ…とは言え、1年半も経ってねぇのにそうそう変わらないか」

「千雨さんがネギ先生と知り合いになった時ですねー」

「とはいえ…風景は季節で全く違うけどな」

前に来たのは2年生に上がる春休みである。そこでネギと知り合い、文通を始めたのだ。

 

「…で、どう、ネギ?久しぶりの故郷の感想は」

「その…ここを出たのはついこないだのハズなのに…もうずっと昔の事みたいでなんだか実感が…」

野暮な突込みをすると、半年ほどしかたっていないが、マスターの別荘利用を含めると1年超えている可能性が高い、ネギの利用履歴から計算したわけではないが。それに、高密度な体験をいくつもしているのであるし、仕方なかろう。

「…まあ色々あったしねーホンットいろいろ」

アスナが応える。

「にしても、何よあんた大人ぶっちゃって…もっと子供らしく…」

「ネギー」

そう、アスナが言った所で、ネギを呼ぶ声がした。

「ネギーッ」

それはネギの従姉のネカネ・スプリングフィールドだった。

「え…」

「ネギ」

「お姉ちゃん!」

と、ネギも鞄を投げ捨ててネカネに飛びつくように抱き合うと、ネギはネカネさんをグルグルと振り回し始めた。

 

 

 

そして、ネカネさんからの歓迎を受け、メルディアナ校内部も一部案内してもらったその夜…私達はアーニャに連れられて夜のメルディアナを歩いていた。

「アーニャちゃん、何処に行くの?」

「私たちの…私やネギの村人たちが眠っている場所よ」

「それは…いいの?」

永久石化とはいえ、あまりに高度で治癒の見込みがないソレの結果であれば…石像保管庫とでもいうべきだろうが、ある種の墓所に等しいのではなかろうか。

「いいのよ、みんなはネギに協力してくれているんだし…その権利はあるわ」

そんな会話をしながらたどり着いだ階段…それを一段一段静かにおりていくと、階下から会話が聞こえてくる。

「ネギよ…今日お前にここを見せたのはこの場所を超え、さらに先に進めるようにと願ってだ。

決してお前の小さな背に新たな荷を負わせようなどとは…」

「わかっています…一人で背負うなんて無理だし、意味がないって、それがわかるくらいには成長を…」

…してるか?多少マシにはなっているのかもしれないが。

「なーにが成長よ!?バッカじゃないの、なーんにも変わっていないクセに!」

「アーニャ!?」

「アーニャ…」

「これ、アーニャ、ここに人を連れてくるなど…」

「なーに言ってんのよ、おじーちゃん。この人達はネギに協力してくれるのよ。

私にだって、この人達にだってここを見る権利はあるわよっ」

そう言って中に踏み込んでいくアーニャ…彼女は空元気のような憎まれ口を叩きながら…彼女の母の石像の埃を拭くのであった…

この夜、この場所で私は改めて誓った。聡美をこのような結末に至らしめない…私もそうならない…そして、できる事ならば仲間たちもそうならないように守るのだ、と…

 

 

 

翌朝、マクギネスさんに引率され、私たちは朝もやの中、ストーンヘンジ様の施設に到着した。そしてのんびりと朝食を済ませ…武器類…携帯杖一本を除く…を預けるといよいよ時間がやってきた。正直な事を話すと、呪紋は埋め込んだままであるし、扇として使える鉄扇は持っていて良い事になったので、まあガバではある、解け、預けろ、と言われても困るのだが。

「いよいよですねー」

「ああ、いよいよだ…楽しみだよ、メガロ・メセンブリア」

などと聡美と会話をしているとネギと刹那の様子がおかしい。

「どうした、ネギ、刹那」

「いえ…ネギ先生が圧迫感のようなモノを感じると…私は何も感じないのだが…」

「…一応、監視の視線に近い感覚は感じるけれど…警備兵じゃねぇか?それとも、もっと危険な感じか?」

「はっきりとは…」

「マクギネスさん、この場に何か危険の可能性は…それと警備の方はいますか」

「危険?…まさか。野ざらしだけど、ここはその辺の空港より警備もチェックも厳重よ。

乗客に紛れて私服の警備兵もいるし…ここに入り込める曲者がいたとしたら…それは世界最強クラスの魔法使いか、あるいは人間じゃないわね」

そう、マクギネスさんは言い切った。

「向こうに行くのは初めてだし、緊張していたのかもしれません…多分気のせいですね」

「え…ええ」

と、ネギと刹那が言いよどむ…が、警戒はした方がいいかな?なんだかんだで、こいつは持っている。

「イヤ…念のため警戒を…それで何か予兆があれば非戦闘員組の保護に入れ…気のせいで済めばいいが、その逆は危険だ…施設の警備兵に怒られない程度に警戒はしておこう」

「え…あ、はい。お願いします。」

「では、私は楓に…」

 

カラーン カラーン カラーン

「時間です」

そう、マクギネスさんが宣言し、一同が賑やかになった…

 

カラーン カラー…ン

鐘の音のような音が鳴りやむと地面が光り始める。

「聡美、ネギが何かを感知したかもしれない…気のせいだといいんだが、念のためゲートポートを出るまで私のそばを離れないでくれ」

「?はい、わかりましたー」

よくわかっていない雰囲気の聡美を抱き寄せるようにしていると…巨大な光が私達を魔法世界へと運んだ。

 

 

 

 


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