エヴァンジェリンとの交渉から5日後、学園側との交渉に行ってきたんだが…学園側との交渉はあっさりと終わった。
開発許可があっさり下りたのは、エヴァンジェリンが学園の警備員をさせられているらしいので、仕事上必要だからだと言われれば凄く納得できる。
それどころか必要経費扱いで開発費の一部補助(対外的には学園の重点研究への認定)まで貰えた。
私達の立場についての交渉の詳しい事は私の勘違いがいろいろと明らかになって恥をさらしたので思い出したくない。
簡単に説明すると、ここら辺を管理している魔法使いたち(関東魔法協会という組織らしい)は自称正義の味方であった。
これはエヴァンジェリンからも聞いていたし信用してもいいだろう、あくまでお題目としてだが。
まかり間違ってもお人よしの互助組織なんてもんじゃないのは話しててよくわかった。
また、私が思っていた魔法を知ってしまった事がばれたら消されるかもしれないという危惧は、
完全に偶然であれば記憶を消される、自力でたどり着いたのであれば、魔法の秘匿のための規則に同意すれば記憶は消されない、程度だった。
ま、記憶も消されたくなかったんで完全に間違っていたわけじゃあないんだけどさ。
それと…超のレポートは知っちゃいけない事も交じってるみたいでさ…
たとえば、麻帆良の説明を受けた時に、魔法使いは社会の中に隠れ住んでるみたいなニュアンスの説明を受けたので、
「へ―…そうなんですか、てっきりエヴァンジェリンさんの別荘みたいな技術で魔法の国でも作ってたりして、とか思ってましたよ、ハッハッハ」
とか言ってカマかけてみたら学園長のじいさんこそ
「フォフォ…面白い発想じゃの、実に子供らしくて夢のある発想じゃの」
とか言って子供のトンデモ発想扱いで笑っていたが、同席してた中等部の教師の高畑って言う先生は冷や汗を流していた…ようにも見えた。
ま、魔法の秘匿に同意する事を条件に魔法関係の事を研究する権利もとったし、あんまり信用してないが盗聴等のプライベートに立ち入るような監視をしないという言質も取った。
繰り返しになるが一番欲しかった生命と記憶を消されたりしないという事も確約させたし(記憶に関してはたびたび規則違反すればその限りではないが)、成果は十分だ。
それと、学園から超に夏休み明けに麻帆良に転入してくるように要請があった。
条件は私達が受けている『特例』試験の優遇に関する密約と、入学金および中等部進学までの約半年間の授業料免除(名目上は優秀生向け奨学金、奨学金自体は私も聡美も貰ってる正式なもの。)
表面上はあくまで要請であり、研究を円滑に進めるための提案なんだが…
たぶん魔法の秘匿のためにできるだけ手元で監視したいっていう意図があるんだろう。
麻帆良の外で魔法の存在を主張した所で証拠になるような事実は無いんだろうけどな。
ネットで調べてみても麻帆良内部のサイト以外で世界樹についてのまともな情報は手に入らなかったし。
ガイノイドの開発は聡美が中心になって皆の意見をまとめ上げ、開発プランを練り上げた。
使用目的が目的でもあるので戦闘重視派を基本に開発を進める事とはなった…
とはいっても、構造上の弱点になるオプションパーツ群の不採用が決まっただけで、ガチガチの戦闘ロボットになったわけではない…制作が決定したのは戦うメイドロボだ。
超の理論による体積および重量当たりの記憶容量の爆発的増大と量子コンピュータの搭載を前提とする事により、多くのオプションプログラムが実装可能となった為、日常重視派も妥協した。
全身のパーツの最適化が一つの意志の元に繰り返されていく…それは新技術、量子コンピュータと新型大容量記憶媒体の開発完了(一応プランは完成してるし、早ければ秋にも開発は終わるだろう)と
そして聡美、超、私が行う秘密の動力炉開発の目処が立つまで続けられる事になっている。
動力炉に関しては特別に開示された極秘技術だからって言ったらみんな詳しい事情を話せない事に納得したので、それでいいのかという突っ込みを入れたかったが我慢した…
幸い、私がガイノイド開発でやるべき山場は殆ど終わっている。後は新技術の制御プログラムとかを作ればいいんだから楽なものだ…
…そう思っていた時期が私にもあった。
私は最初考えていたよりも多くのプログラムを組み直さないといけない事になった。
なぜか?
一つ目の理由は、現行の戦闘用人工知能は魔法なんかの存在を前提としていない事だ。
銃撃戦は想定してあるし、対物狙撃ライフルを運用するような事もできるようにはなっている。
当然それを100%生かすための高度な物理演算システムを使用した狙撃プログラムも。
でも、遮蔽物に隠れて行うような銃撃戦を元に戦闘を行わせると相手の詠唱の完成を待つようなものなので魔法使いの従者としては不適切だろう。
…って事でエヴァンジェリンの希望も聞きつつそう言った戦術、索敵、戦力分析などのプログラムを組み上げて行っている。
場合によっては私自身が幻想空間内で従者のまねごとをさせられることすらある…おかげで『気』の存在を感じる程度まではできるようになっちまった。
まださすがに使えるレベルには達していないが、それを望んで効率的に鍛練を積めば数週間単位で習得可能だろう、ちょうど魔法使いたちの戦いも学びたかったし助かっている。
…一般の警察に頼る程度じゃどうしようもない連中がいるんだ、自衛手段くらい持ちたいだろ?
強くて信頼できる誰かがいるなら話は別だが…無防備でいる事は私の性分じゃない。
びっくり人間になりたくはないが、それ以上に無防備でいる事の方が不安で仕方ないんだよ。
って事で、私の日々の(小4の頃始めた柔術の)鍛練に瞑想が加わり、組み手の相手が欲しい、と超にたまに相手をしてもらうようになった。
正面切って聞いたらやっぱり中国拳法の使い手だった。本人いわく
『一応私も武術を嗜んでいるネ。ああ、別に隠してたわけではないヨ、聞かれなかったから言わなかっただけネ。』
らしい。
こほん…話がそれたな。
こっちの問題は基礎ができているし、比較論でいえばそんなに難しい話でもない、今までも何度かあった程度の事だ。
本当に問題なのはもうひとつの理由で、量子コンピュータを採用した事。
量子コンピュータはただ速いだけのコンピュータ…ではない。
重ね合わせたビット状態により、多くの情報を同時に処理し、その結果超高速演算を達成する。そう言うものだ。
簡単に言うと、赤くて丸いものを見た時、現行のコンピュータは
これはリンゴか?
NO
これはトマトか?
NO
これは赤いボールか?
NO
これはイチゴか?
NO
これはザクロか?
YES
これはザクロだ。
といった処理をする。
並列接続すれば並列処理もできるが原理的には同じだ。
所詮データベースを分割して順番に照合していくだけにすぎない。
一方量子コンピュータは
これは何か?
これはザクロだ。
という事ができる…本当は同時に列挙しているんだが、感覚的にはこんな感じ…らしい。
らしいというのは私が量子力学をよくわかっていないからだ。
確率解釈だとか量子ビットだとか、重ね合わせ状態…有名なシュレディンガーの猫の話…だとか…
今までの0か1かの世界とは全く違う。
さすがにそこまで良くわからないものをそのまま使うのはしゃくなので、量子コンピュータの開発の方には手を出せないにしても、理論だけはと言う事で量子力学関係を勉強し始めてみたんだが…眩暈が止まらん…
それこそ、魔法と同じくらいファンタジーってレベルで常識が書き換えられる世界だ。
まあ、それだけ違えば最適なプログラム様式も変わってくるのは当然で…私はその為にプログラム言語の開発からやる事になったわけだ。
全部組み直しとは言わないが、状況認識関係はほぼ根こそぎ全部。
当然、今までなかったこと…国家機密クラスまでは知らんが、私の知る限り量子計算機の実用化例は無く、当然それ用に最適化されたプログラム言語も存在しない…をするわけで、私は地獄を見ている。
おかげで夏休み後半はまともに休んでない。
やるべき事が殆ど終わってるとか言った馬鹿はどこの誰だ…少し前の私だけどさ。
しかもそんな生活の合間を縫って私達はエヴァンジェリンから土曜日の午後に体感時間で12時間程度の魔法理論講義を受けていた。
それは特別な巻物内部の幻想空間の中で行われ、休憩時間込みで現実時間にして1時間程度の事だ。
んで、動力炉の開発は超の設計図を元に試作用の人間大(人間型ロボットに搭載可能、ではなく人間大)の魔力発電機を作っている段階だ。
肝心なところは理論をエヴァンジェリンから習っている所なのであんまり進んでないんだが。
超の特例試験については余りにあっさり終わり、超はロボット工学研究会のほかにも、量子力学研究会、生物工学研究会に所属が許可された。
しかも、論文オンリーで、だ。他の分野は知らんがロボット工学研究会用の論文読ませてもらった限り学園との密約なんて無くてもこうなってたと断言できる。
そのあと、3日位転入の手続きのために麻帆良の外に出て行った。
後日、「ストーカーが何人かいたから巻いてやたヨ」とか言ってた、ストーカーってのは間違いなく学園の監視だろうな。
そう言えばあいつの地元ってどこなんだ?遠いところだと言ってはいた…後、冗談で火星だとか言っていたが本当の事はきいてないな…
こんな感じで私達は楽しい楽しい夏休みを過ごした。
夏休みも終わり、超が予定通り転入してきて研究はさらに進む。
新型記憶媒体、量子コンピュータ、素体の改良…そして魔力発電機
エヴァンジェリンの別荘で試作動力炉をテストしたら暴走してエヴァジェリンの手により破壊された事以外は特に問題はおこらず順調に進んだ。
9月末には新型記憶媒体が、12月中旬には搭載型の量子コンピュータが完成し…今更だが普通は有り得ない事だ…ついに開発計画は最後の段階に入った。
改良の続けられていたパーツが組み上げられ、調整が進んでゆき、人工知能がインストールされる。
私の考えていた学習式の感情再現プログラムは超のアドバイスで手を入れて、自分やマスター、そして友好的な人間にとって良い状況や事象を愉快、
逆に悪い状況を不愉快として数値化するプログラムを搭載した。これは一歳児程度の感情に相当するもので後々進化していってくれると嬉しい。
ま、感情と呼べる出来でもないんだがいずれは…という期待も込めてそうしておいた。
また、顔の造形はエヴァンジェリンが自ら買って出て、気がついたら人形師って事で顔を出すようになっていた。
そして年が変わり、記念すべき1月3日、ついに外部電源(電源ケーブル)による起動実験が行われる事になった。
工学部の特別起動実験室に私達ロボット工学研究会の面々は集合していた。
この部屋には強化ガラスで仕切られたゲストルームが付いていて、文字通りうちのプロジェクトだけじゃなくて、非人型ロボットの開発をやってる人たちも見に来ている。
なんかVIPシート(安全面で、戦車砲の直撃にも耐えられるらしい)にエヴァンジェリンと学園長もいる。
「起動実験開始予定時間5分前です。皆さん最終チェックお願いします」
聡美が時計を確認して行った。
「撮影班、準備ヨロシ」
「搭載コンピュータ、ウォームアップ完了。AIシステムスタンバイ」
「バッテリー残量99%、異常なし。電源コード接続も問題ありません、いつでもいけます」
「その他実験場設備、問題ありません」
次々と報告が上がってゆく。
ちなみにAIは私の担当で超は撮影班担当、聡美は統括だ。
「茶湯教授、起動実験準備完了しました」
「起動実験の実施を許可します。葉加瀬さん、始めて良いですよ」
監督責任者の老教授から許可が下りて実際の起動が始まる。
「それでは…始めましょう。外部電源通電開始、起動プロセス開始」
「外部電源通電します、接続よし」
「駆動系各部への通電確認」
「搭載コンピュータへの電力供給値、完全起動可能領域に到達します。」
「AIシステム起動してください」
「基幹AI起動…続いて基礎プログラム群起動します。」
ぴくっ
そんな動きを見せたかと思うと椅子に座らされていた試作実験機…茶々丸(命名エヴァンジェリン)が瞼を上げた。
「おはよう茶々丸、気分はどう?」
聡美はそう言って茶々丸に笑いかける。
「システムが正常な状態か、という意味であるならば気分は良好ですと判断いたします、葉加瀬さん」
そう言って茶々丸はすっと立ち上がってぺこりとお辞儀をする。
「うむ、よろしい。それでは歩行実験と走行実験に移ろうか。あそこの白い線まで移動してね」
そう言って聡美は地面にひかれた白線を指す。
「私からみて1時の方向、10メートルの地上にひかれた白線でよろしいですか?」
「うん、そこだよ」
ちなみに聡美がわざとあいまいに指示したのは言語での指令実験でもある。
茶々丸は初めの1歩こそ少しよろけていたが、すぐに電源ケーブル付きの機体バランスを理解して正常な歩行をとる。
ここら辺まで来ると観客たちもいろいろと凄いな、といった感想を漏らし始めてくる。
身内はいつも通りに動いてくれて安心、といった感じだろうか。
「配置につきました。ここから50mの走行を行えば宜しいでしょうか?」
「うん、でもコード類がついてるから絡まないように気をつけてね」
茶々丸は無言で頷き走行を始める。
タイムは6秒38、続いてハードル走、迷路の突破、懸垂、高跳び(補助なしと脚部ジェットの補助付きで1回ずつ)、幅跳び(同左)と肉体系のテストが進む。
記録はどれもプロアスリートクラスの出来だった。
そして次は家事系技能の試験に移り、掃除、洗濯なんかをこなし、ご飯と、豆腐とわかめの味噌汁、そして塩じゃけの和の朝ごはんセット、
トーストとサラダにハムエッグのついた洋風朝ごはんセットを作った。
これは学園長とエヴァンジェリンにふるまわれた。なかなかに好評だった。
「よし、これで今日の起動実験はおしまい。次に完全起動する時は動力も新型になって動きやすくなってるはずだから楽しみにね」
「はい、それではシステムのシャットダウン手続きに入ります。よろしいですか?」
「うん、お休み茶々丸」
「おやすみなさい、葉加瀬さん」
こうして茶々丸の起動実験は終わった。
実験終了の放送が入り、見学に来ていた人たちは帰り、私達は撤収作業に入っていった。
「うむ、素晴らしい出来だったぞ。やはり断片的に見聞きするのとは違うな。あれならば私の従者にふさわしい。今から茶々丸が私のものになる日が楽しみだ…」
顔見知りのためあっさりと入ってきたエヴァンジェリンが話しかけてくる。
茶々丸の里親になる事はすでに知られているのでこれ位は問題ない。
「それは良かったです。確認ですが白兵戦実験は動力炉搭載後で良いんですね?」
「うむ、最終段階に私自身が相手をして見極めよう。それにはコードや差し込み口があっては邪魔だし、危ないからな」
エヴァンジェリンは合気柔術の使い手でもあるらしく、一度興味本位で手合わせを頼んでみたら笑うしかない位ポンポン投げられた。
筋は一般人にしては悪くない、気分がよければたまに鍛練の相手位してやってもいいぞ、だそうだ。
投げられた程度で壊れるほどやわにはつくっていないが、確かにあんな感じで背中から叩きつけられたら電源プラグが体内にめり込んでいろいろと問題が起きそうだ。
「では、今日は帰るとしよう。休みが明けたら動力炉の改良で忙しくなるからな、ゆっくり休んでおくといい」
そう言ってエヴァンジェリンは帰って行った。
こんな感じで茶々丸の起動実験は終わりを告げた。
茶々丸さん公開実験の回でした。
実験中、千雨さんが殆ど喋ってないのは秘密です(笑)
対魔法戦の話について
原作ではそれなりに対魔法戦術が研究されているであろう未来から来た超の手でそこら辺は苦労しながらもうまくやって、そのあと別荘とかでエヴァが再教育をしたという感じで解釈してます。
超の転校について
どこかに中等部入学までの情報が調べられない、みたいな事を書いてあった気がするんで、中学からの入学にしようと思ったんですが…
茶々丸の完成が小6の1月、起動が同年4月ですから、茶々丸製作をしながらさすがにそれだけ潜伏はできないだろう、と言う事でこういう流れにしてみました。
まあ、ごらんのとおり1月3日に外部電源式での完成、って形なんですが。
千雨の戦闘能力について
『一般的な』レベルで話すならばそこそこ強いです。
原作でも素質はそこそこのあるように思えますし、現在の技量は同年代の格闘系サークル一般部員と同等位に考えてます。
つまりは、裏の人間にとっては誤差の範囲内ですね。勿論このままのペースで成長するならばクーどころか豪徳寺クラスに負けます。
後、『ちうのHP』ですが、コンピュータ系を中心とした科学系のコンテンツとブログ(まじめなのとオタク系)形式のコンテンツがメインでコスプレはブログ内でやってます。
茶湯(ちゃのゆ)教授について
千雨にMITの人工知能の設計図を見せた教授です。
一応、このプロジェクト(茶々丸開発計画)の監督責任者になっている魔法等、裏とは一切関係のない人です。
おもなお仕事は葉加瀬達が危険すぎる事をしないようにブレーキをかける事(笑)