例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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辺境編
70 辺境編 第1話 ケルベラス大樹林とヘカテスの街


「千雨さん…そろそろお願いします」

「ああ」

そう言うと、私はバッジの反応を探知する。

「…うん、ほとんど動いていない、多分、星で位置確認をしてから動くつもりだろう…あと半分って所だ、北西の反応と合流して今晩は休憩…南東の反応に向けて再移動だな」

と、方針を確認すると、聡美を荷物ごと抱っこして私は駆けた…聡美が戦いの歌を使用して移動し、魔力が減ってきたら私が抱えて大移動、魔力が回復してくれば…というペースで移動している。とはいえ、この密林の事だ、日暮れまでに北西の反応と合流できるかは微妙だったりする。

 

 

 

「おろ?なんか反応が急に近付いてきていたと思ったら千雨姉ちゃん達か」

「コタロー、お前か」

「コタロー君でしたかー」

夕暮れ、かろうじて私達はバッジの反応と合流することに成功し、それはコタローだった。

「何だ…お前だったら後回しでも良かったな」

「なんでやねん」

とコタローがべしっと突っ込みを入れてくる。

「いや、バッジの探知術式起動できるの、私、茶々丸、ネギ、コタロー、刹那だけだから、南東の反応に向かった方が良かったかなと?」

「アーそう言うことか…ならええわ…で、今日はとりあえず俺の用意した夜営場所で休むんでええか?三人分は使える寝床確保してあるで」

「助かりますー」

という事でコタローの用意した寝床…洞窟に落ち葉を敷いただけだがただの地面よりははるかに良い…に向かった。

「とりあえず晩飯やな…喰えそうな木の実と小動物の肉は確保してあるけどそれでええな?」

「そうだな、一応私たち二人分の荷物に非常用のカロリーブロックと飴は用意してあるけど…とっておこう」

「…はい、千雨さんの判断でしたら…」

まあ、せっかく食料を用意できたならそっちから消費する方がいいに決まっているのだ…メンタル面はともかく。

 

「で、明日はどうする?」

食事と水の補給を済ませ、魔法世界の星図・地図と照らし合わせて大まかな現位置…ケルベラス大樹林の東端…が判明したので焚火を囲んで明日の相談をしていた。

「んーコタローに私たち二人分のリュックを任せられるならずっと聡美を背負って移動はできる」

「そうやな…移動の方法はそれが一番合理的やろうな、ハカセ姉ちゃんもそれでええか?」

「はい、お二人が大丈夫なのでしたら…でも、私もある程度は歩けますよ?」

「あー今は移動速度を重視したい…合流してからは歩いて貰うかもしれないけれど、明日は私に背負われていて欲しい」

「…はい、ではお願いいたします」

「んで、や、南東との合流は向こうが動かへんか、ヘカテスに向かう前提やったら、夜営準備込みで明後日の昼頃合流になるんちゃうかな」

「そうだな、逆に向こうにバッジの探知ができる奴がいてこちらとの合流を試みる様なら…ネギか刹那か茶々丸が向こういるんだから…多分、明日の夕方ごろに合流になるだろう」

「そんなもんやな…どっちゃにせよ、南東の二つのバッジの反応に向けて昼頃まで進んで、昼休憩の時に詳細詰めよか」

という事になり、その日は私とコタローが交代で火の番兼警戒と仮眠とをしながら夜を明かした。

 

 

 

「…動きとしては私たちの方に向かっている、みたいだな?」

昼の大休止時、バッジの反応をたどって私はそう言った。

「そうやな、朝の探知方向にまっすぐ向かって方位変わらず…やな、反応も二つとも離れとらんし…問題はなさそうや」

「そうなると、どなたでしょうかー片方が茶々丸、ネギ先生、刹那さんだとすれば…」

「楓姉ちゃんや、フェイ部長とはちゃうな、多分アスナ姉ちゃんでもない」

「まあわかるのはそれくらい…だな、後、探知可能組のペアにしては遅すぎるし、な」

 

「さて…そろそろ行こか」

昨晩確保してあったあまりおいしくない果実と飴玉の昼食を済ませ、疲れも取れた頃、コタローが言った。

「はい、すいませんが、午後もお願いしますね」

 

 

 

「おかしい、動きが無さすぎる…」

「そうやな、昼の大休止からほとんど反応が動いとらん」

私とコタローがそんな会話をしたのは日が傾きかけた頃の事だった。

「どうする?夜営準備をするか?強行軍で向こうに合流するか?」

「ビミョイな…状況がわからへん…身一つやったら強行軍やけど…ハカセ姉ちゃんがおる、夜営準備は欠かされへん」

「ああ、私も同意見だ」

「わ、私は大丈夫です」

「イヤ…一応安全を確認した洞窟か何かがあらへんと守る方が心配やねん…よし、中間案にしよか」

「と、言うと私かコタローがバッジの反応に急進、もう片方が聡美と夜営準備…か?」

「そういうこっちゃ、まあ千雨姉ちゃんがハカセ姉ちゃんのそば離れたくないんはわかっとるから、俺が行ってくるわ…万一応援が必要なら引き返してくるし、必要なさそうやったらそのまま向こうと合流して、明日、向こうで再合流ってのはどうや」

「そうだな…バッジの反応で状況が読めるのは助かる」

「それじゃあ行ってくる」

「頼んだ、コタロー」

そう言って、私たちはコタローを見送った。

 

 

 

「あの…千雨さん…私…重荷になっていませんか?」

「んー?羽のように軽いよ、と言う所かな?ここは」

と、火を囲んで深刻そうな顔をする聡美に私はそんな冗談で答えた…実際、咸卦の呪法で強化された肉体には聡美の体重位、大した負荷ではない。

「そうではなくて…やっぱり私は足手まといなんだな…と…千雨さんとコタロー君の選択肢を狭めてしまって…」

「なあ、聡美、ちょっと来てくれるか?」

「…はい…へっ?」

と聡美を膝に乗せた。そして聡美を軽々と持ち上げて見せる。

「今までさんざん聡美を泣かせて手に入れた力なんだよ、これは…だから…せめて今度は守らせてくれないかな?聡美と…その笑顔をさ」

「あ…うぅ…その…よろしくお願いします…と言ってもいいんですか?」

「ああ、むしろ言って欲しい、私を頼って欲しい…というか、聡美とあんな経緯ではぐれていたら、きっと私、発狂しそうになっているからさ…一緒にここに飛ばされてよかったよ」

「私も…です…きっと心細くてどうしていいか、わからなかったと思います…」

「だから…ずっとそばにいてほしい…こっちでも、さ」

「はい…よろしくお願いします…ずっと一緒です」

そう言って抱き着いてくる聡美の頭を暫く撫で続けた。

 

 

 

「さて、行こうか」

「はい…今日は初日の移動方法でいいんですよね?」

「ああ、コタローも向こうにいるままだし…この移動方法でも昼前には合流できるだろうからな」

何より、リュックサック二つ分の荷物を持つのが物理的に大変なのである…抱っこ続きだと聡美にも負担が大きいし。

といった具合で夜明けと共に野営場所を出発したのだが…大体10時頃…小高い場所から位置確認をしていると、コタローたちの推定位置から凄まじい魔法戦闘の光景が見えてきた。

「あ、あそこってコタロー君たちのいる場所では!?」

「の…はずだ…で、あの魔力は…多分ネギのだ」

長距離探知ではあるが…すごく、コタローの気力とネギの魔力とそっくりである。

「えぇ…いったい何が…」

「状況がわからん…少し急ごう…ここからずっと抱っこで行くぞ」

「はい…急ぐんですもんね」

という事で、私達は3つのバッジの反応に向かって急進することになった。

 

 

 

現場に到着するとコタローとネギ、そして茶々丸がいて談笑をしていた。

「…で、何があったのか説明してくれるかな?」

尚、特に敵らしきものが去っていない事、敵の残骸らしきモノがない事は確認済みである。

「アーえーっと…ネギ、お前の事や、お前、説明せぇよ」

「あ…えっと…コタロー君が見立ててくれたんだし、コタロー君が…」

となぜか説明をしたがらないネギとコタローに私はしびれを切らして…というか迅速な状況確認のために茶々丸に問う事にした。

「…茶々丸、何があった、昨日の昼頃の移動を停止したあたりから説明してくれ」

「あ、はい、説明いたします」

茶々丸の説明によると、ネギと茶々丸はネギが体調不良を抱えた状態で昨日昼前に現地点に到着、そして虎竜(仮称)に遭遇して戦闘、ネギは体調を悪化させて倒れた。そこで茶々丸が何とか虎竜を撃退して、ネギが起きた後に茶々丸に魔力補給…が終わった頃、日暮れすぐにコタローが到着した。その時点では、ネギの体調は一時的に回復していた。(結果論だが、魔力補給をしたからだろう)

 翌日、私達を待つために体術の朝練を実施…後、遅めの朝食時にネギが倒れ…どんどんネギの体調が悪化していく。少しした後、コタローが突然ネギを挑発し始め、戦闘に突入…理由はネギの体調不良の理由がコタローの見立てでは余剰魔力の暴走だったから…で、見立ては正しく、ネギは体調を回復させて談笑をしていた…という事らしい。

「…わかった、で、コタロー、単純に魔法を空に放たせなかった理由は?」

「…せっかくの手合わせの機会やし、熱に浮かされてウジウジしとったネギにむかついたからや」

「で、ネギもそんな理由で戦闘になって心配かけたのが恥ずかしかった、と」

「はい…スイマセン」

「はぁ…いや、謝らなくていい、理由が理由だ…怒りはしねぇさ…ネギも病み上がりらしいし、ここはキャンプ地によさそうだ…今日はここでゆっくり休もう」

「あ、でも、東のバッジの反応の人と合流しないと」

と、ネギが言う。

「悪いけれど、私は今から強行軍しても距離を稼げねーよ…それより、今日は休息と食料確保に充てて、明日からの行軍効率を上げた方がいいんじゃないかと私は思う」

「そうやな…昨日、千雨姉ちゃん寝ずの番してたんやろ?今日はゆっくり寝ても罰は当たらへんで」

「そうですね、食料を確保しておけば明日以降の行軍に充てられる時間が増やせるかと思います」

「私は皆さんの判断に従いますー」

「わかりました、でしたら食べられそうなモノを集めてきますね、千雨さんは仮眠をとっておいてください」

と、ネギが森に入っていこうとする。

「アホ、お前も休息組や…病み上がりなんやからな…」

コタローが呆れたようにそう言った。

 

 

 

湖畔で休息をとった日から数えて四日後の昼前、約3日と数時間で私たちは目的地へと到着した。

「やっと着いたな、ヘカテス」

「ええ…バッジの主も昨晩の内に街に到着したようですね」

「さ、それよか何か食べようや」

「そうだな…そこらの屋台で何か食うか…って金は?連合のドラクマ貨って通じるのか?」

「大丈夫です、この辺りは連合共通貨も帝国共通貨も通用するはずですので」

という事で事前に両替していたメガロ・メセンブリア発行のドラグマ貨を使って私たちは早めの昼食を頂くことにした。

 

『お昼のニュースです』

屋台で買った丸パンをかじりながらどうやってメガロ・メセンブリアに連絡を取るかというような話をしていると、街頭テレビのようなものからニュースが流れ始めた。

『6日前、世界各所で同時多発的に起こったゲートポート魔力暴走事件の続報ですが、各ゲートポートでは依然魔力の流出が続き、復旧の目処は立たず、旅行者の足にも影響が出ています。

また、依然犯行声明もなく、背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より今日新たな映像が公開され…』

と、ニュースキャスターが原稿を読み上げている…そんなに大規模なテロだったのか…フェイトの一味のやった事は…と思っていると

『実行犯の一人ともみられるこの外見上10歳程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました』

そう言って画面に表示されたのは…ネギの顔写真と30万ドラクマという賞金であった。ネギの方をちら見すると、コタローがフォローに入っていた…私もフードを深くかぶりなおす。

「こ…これって」

「聡美、茶々丸、顔を隠せ…」

この展開から行って、賞金首がネギ一人な訳はない。

「コタロー、こういう展開はお前のが慣れているだろう、どうする?一度街を出るか?」

「いや…この雑多感から言ってすぐに街を出る必要はないやろ…早めに変装はせんとマズイやろうけどな」

「なら…バッジの主と合流して一度町を出るか裏路地に隠れて全員変装。指名手配の範囲を確認する…でどうだ」

「それでええと思うわ、千雨姉ちゃん」

「…茶々丸、バッジの反応は?」

呪文の詠唱がいらない分、茶々丸が一番バッジの捜索役に向いている。

「探しています…発見…む…これは…かなり近いです」

「本当ですか」

「距離わずかに50メートル、この路地の突き当り、あの酒場と思われる建物の前」

「ハイッ」

と、ネギが駆け出す…が見知った姿は誰も見られない。

「おい…まさか…」

「ええ…」

「そんな…」

ネギが見つけたのは、地面に落ちた、白き翼のバッジだった。

 

 

 

「はぁーあまりよくねぇ展開だな…」

「便利バッジも落としたら意味ないわなー」

「捕り物があった様子がないのが唯一の良いニュースですねー」

「んで、探すまでもなく飛び込んできた情報によると…だ、ネギほどの額じゃないが他の皆にも賞金がかかっている。賞金首だぜ?全員足してもマスターの賞金額にゃ到底及ばねぇにせよ、だ…裕奈やまき絵達にかかってないのは不幸中の幸いだけどな」

そう言って私はバラまかれていた賞金首のチラシをひらひらとする。

なお、戦闘員組は私を含めて一律3万ドラクマ、非戦闘員組は聡美を含めて1万5千ドラクマだった。

「みんなまで…みんな…僕がもっと…」

「…ネギ、コラ、ネギ!」

ネガティブモードに突入しかけたネギをコタローが叱責する…アスナの代わりもできるな、こりゃ…ブレーキ役は別に必要にせよ。

「え…」

「せっかくできのええ脳みそがまぁた同じトコ周り始めとるやん…

こないだの話忘れたんか!?お前に足りひんもん」

詳しくは聞いていないが、湖畔でネギの魔力抜きをした時の話だろうか。

「でも、こんな大変な状況なんだよ、みんなが…」

「せやから言うて悩んで状況改善するかいな、ダァホッ

あいつらなら大丈夫や、この程度の状況切り抜けられる、そう信じたれや」

「で、でもそんな…何の根拠もなく信じろなんて…ッ、どんな目に遭っているかもわからないのに」

「根拠もなしに信じられるんが仲間言うんちゃうんかい、知らんけど」

せっかくのコタローのカッコイイセリフ、知らんけど、で台無しである。

「せっかくの頭、もうちょい生産的に使うてんか?」

青臭いやり取り…少しだけエヴァの気持ちがわかったような気がする

「フン…それじゃあ一度状況の確認と行こうか」

マスターのように鼻を鳴らし、私はそう始めた。

「何の因果かハメられて私たちは賞金首のお尋ね者だ―

こっちから捕まりにいってメガロ・メセンブリアまで連行してもらった上で身の潔白を訴えるって手もあるが…

これは賢明じゃないだろうな」

「せやな、既にハメられとる以上…潔白を証明できる保証はあらへんな…」

「というか潔白を証明も何もー証言以外に何の証拠もありませんしー」

「…というわけで捕まったらそれでオシマイって事もあり得るな、少なくとも夏休み中には帰れんわ」

「同じ理由で、治安組織や連合の出先機関に助けを求めるのもなし…って事は結局…

私達は自力で仲間を捜し出し…自力でマクギネスさんかだれか信頼できる人間の許までたどり着くか…自力で現実世界…こっちで言う所の旧世界まで戻るしかなさそうだ…

これがまあ、基本方針…まあ、麻帆良やメルディアナとの連絡が回復して学園長が助けてくれるっていうのも祈る位はしてもいいが行動指針じゃねぇな…って事で、どうだ?」

「まあ、俺らが取れる行動ちゅう意味では当面その辺りやな」

コタローが私のまとめを肯定した。

「じゃあまずは手近なコレ…このバッジについてだが、

このバッジの持ち主、つまり私たちの仲間の一人がまだこの街にいる可能性は高いと思う」

「なんでや?」

「この街は見たところ5キロ四方くらいだろ、十分カードの通信圏内なのにいまだ応答がない、つまりパートナーの6名じゃない。

また、バッジの追跡からこのバッジの主がこの街に到着したのは昨晩だ…楓やクーにしては足が遅すぎる…

って事で、このバッジの持ち主は恐らく朝倉だという事になるわけだが…」

「確かに朝倉さんなら危険な街の外へ戻るとは考えにくいですね」

「まあ、なんにしろ、まずはこの誰かと合流したい所だが…さてどうするか…私達も相手もお尋ね者…大っぴらにゃ探せねぇのが問題だ」

「動きづらいな…」

「まあ、私はエヴァ直伝の変装魔法があるにはあるが…」

「そうですね…それで変装して賞金稼ぎの振りをして聞き込みをしましょう…僕も薬の方は持って来ていますし、製法も習っていますので補充もできます」

ネギの一声でそういう事になった。

 

 

 

「こんな感じで良いか」

と、私は眼鏡を外し、髪を下ろして狼の耳と尻尾を生やした+10歳程度の成人に化けてみた。

「千雨さん、大人方向なんですねー」

「幼女3人は多いかと思ってな…それに戦う事を考えたら幼女より成人の方がいい」

「なるほど…私も狼耳ですしー娘ってところですかねー」

「…それやると最悪、コタローが父親役なんだけどな…?」

「ムム…それは困りますねー」

「オイ、俺はまだそんな年ちゃうぞ」

意図せず漫才をしているとコタローが言う。

「じゃあ、千雨さんが上のお姉さんでコタロー君がその下のお兄さん、私が一番下の妹って事で」

「…まあ一応必要やったらそう言う設定にしとこか」

何かそういう事になったらしい。

「じゃあ、行きましょうか」

そうして、私たちは酒場に繰り出していった。

 

 

 

ネギを先頭に酒場に入った私たち達は周囲に警戒されながらカウンターに座った。

「ミ、ミルクティー」

と、ネギ

「コブ茶」

これはコタロー…舐められると言っていただろうに…まあ酒飲むわけにはいかないのはわかるが

「宇治茶」

そして、茶々丸が堂々とそれに続いた。周囲が笑いに包まれる。

「…私はコンクラーベを、この子には」

「シンデレラをお願いしますー」

と、私たちはカクテルを頼む…まあ、ロボ研関係のお付き合いで覚えたノンアルコールの奴だが。

そして、それに対して笑ったのはノンアルコール・カクテルだと理解している奴、遅れて笑ったのは教えてもらった奴だろう、どうでもいいが。

「あの…ちうさん…飲酒は…」

「いえ、問題ありません…どちらもノンアルコールです」

ネギの懸念に茶々丸が代わりに応えた。

 

「失礼ですが…」

と、オーダーが揃い一口飲んだ頃合いにネギがバーテンダーに言った。

「この写真の中で見かけたやつはいませんか?昨晩向かいの通りとかで」

と、ネギはクラス名簿を提示した。

「なんだいコリャ、ああ、さっき発表のあった賞金首だね?」

「見ませんでしたか?特に右のアサクラという人は…?」

「ハハハ、バカだね、こんな賞金首、心当たりがあったら私が捕まえに行っているよ」

「そ…そうですよね」

まあ、当然っちゃ当然な会話を聞きながらカクテルを飲む…まあいい腕だ。

「おいしいですねー」

聡美も同様の感想らしい。

 

…という事をやっているとネギに近づく気配があった…ケンカを売りに来たかな?

「よう、兄ちゃん」

「え」

「その面が気に食わねぇ、一発殴らせな」

…その禿のマッチョが口にした言葉は予想以上だった。

「ええーッ!?そ、そんな突然ー!?」

「ずいぶんな無法地帯やな」

と、コタローが笑う。

「はっはっは…いきなり殴りかかってないだけマナーはあるんじゃねぇか?」

と、私も笑う…

「聡美、茶々丸、来るぞ」

「「はい」」

「問答無用!」

と言った所で禿マッチョがネギに殴りかかり、ネギが避けたのでカウンターが粉砕される…私たちは飲み物を手にもって観戦である。

「理由もなく殴られませんよ」

「ハッ、昔てめぇみたいなツラのバカにコテンパンにのされたことがあってよ、以来赤毛の優男見ると条件反射でなぁ」

「えっ」

「父さん!?父さんのコトですか!?」

オイ、バカ、と突っ込みを心の中でだけ入れる。口に出すと余計厄介だ。

「あぁん?あいつにんなデケェガキがいたなんて話は聞かねぇぞ」

「へー」

「やっぱり有名なんですねー先生のお父さんー」

「ぬっこの…ちょこまかと…」

とかやっている間にも戦い…というか禿マッチョのジャブをネギがいなす展開は続く。

「やるねぇ、あのガキ」

「ああ、しかし相手が悪かったな、バルガスはあの図体で高位の魔法使いだ」

と、ギャラリーの会話…なるほど、あの禿マッチョ…バルガスとやらがネギの修行にちょうどいい相手…位だといいんだがな?

…まあ、あの拳捌きから逆算すれば並の魔法騎士位には強いだろうが、期待は薄い。

「いいだろう、俺に本気を出させたな!」

と、バルガスは戦いの歌の上級、恐らく戦いの旋律クラスを無詠唱発動させた。

「さらに修行を重ねた俺は、見事な瞬動術の使い手でもある!その滑らかさはもはや縮地レベル!」

その実演に私はバルガスの評価を一段上げる…が、実演する辺りが個人的にはマイナスだったりする。

「さらに…」

と、魔法の射手を溜め無しで5本、それも土属性の応用、砂で展開して見せた。

「おおっ無詠唱5本!魅せるねぇっ」

「バルガス、腕を上げたな」

「全方位から狙い打てる砂矢5本に瞬動術!あのガキ終わったな!」

沸くギャラリーに反して、だからなぜ実演するんだ、という突込みを内心入れる…まあ舐めプとギャラリー受けだろうが。

「へー」

「大丈夫なんですかーアレー」

「…事前実演無しなら通った可能性はある…が、アレが全力なら問題ないなぁ…」

私たちは小声で会話を交わしながら観戦を続ける。

「ハハハ、悪ぃな兄ちゃん!一発喰らってもらうぜ!」

と、バルガスがネギに殴りかかった直後…

 

ズンッ

 

と音を立ててネギのカウンターがバルガスの腹に決まり、バルガスが床に倒れ伏した。

「あ…ス…スミマセンッ…強かったので加減ができず…」

と、ネギが申し訳なさそうに言った…

「…それは二重に悪手だ」

まず、あれだけの本気で殴りかかってきた相手にその腑抜けた心持…まあ殺せとは言わんけど、謝るな、と言うのが一つ。もう一つは…

「てめぇっよくもアニキをっ」

「やっちまえーッ」

そんな弱者に対するような態度をとると周りも引くに引けなくなる…次はお前らか?位威圧しろ…

と、私は呆れかえりながらバーテンに言った。

「バーテンさん、シャーリーテンプルを」

「あー私も同じのお願いしますー」

「はいよ」

そして楽しそうにケンカに混ざっていったコタローとネギとがバルガスの舎弟たちをのしていくのを肴にお代わりを飲むのであった。

 




状況から考えて、現地通貨を1週間観光で滞在する分は持っていないと変ですし、朝倉の格好やいきなり街で買い食いしている辺りからして先立つものは持っていたという事で。まあ、現地両替のつもりでポンド・円ないし貴金属の可能性もありますが(


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