例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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73 辺境編 第4話 新人拳闘士として

「ちうちゃーん、ネギ君と仮契約したいんだけど、魔法陣おねがいできる?」

朝倉がネギを連れて唐突に私達の部屋を訪ねて来たのはデビュー戦の数日後の夜の事だった。

「…仮契約屋行けよ」

と、私はすげなく返す…が

「最初はそう思ったんだけどさー調べて見たら案外高くてね…活動資金の為にも少しでも節約できる所は節約したいじゃん?」

と、正論を返される。

「わかったよ…ちょっと待っていろ…聡美、私の荷物から魔法陣用のチョーク出してくれ」

「はい、わかりました」

と部屋の中央にスペースを作り、仮契約の魔法陣を床に書き込んで行く。

「…さすがですね、ちうさん…仮契約の魔法陣も用意できるとは…」

「まーカモほどスムーズにかけねぇけどな…ってネギ、てめぇが教えたんじゃねぇのかよ、私が用意できるだろうって」

ネギの感心した様子に私はそう問うた。

「私が前にカモ君から聞いていたんだ、千雨ちゃんとハカセの仮契約は自分が仲介したんじゃない、って。その時に魔法陣の専門家でもある千雨ちゃんが陣の用意したんだろうってカモ君が言っていたよ」

と、ネギへの問いを朝倉が答えた。

「成程…ええっと…よし、あっているな…ネギがここ、朝倉はここだ」

魔法陣を再確認し、二人が立つべき場所を示す。

「ほら、さっさと済ませろ」

「あ…はい」

「サンキュ…それともう一つお願いなんだけれど…記念写真撮ってくれない?」

「記念写真ですかー?」

「そうそう、仮契約とファーストキスの…ね」

「わかりましたー」

「ありがとーはい、それじゃあお願い」

聡美が了承し朝倉から(こっちの世界の)カメラを受け取った。

 

「じゃ、これからもお願いね、ネギ君」

と、朝倉からネギにキスをして仮契約が成立した。

それを見届けた私は複製カードを作成し、キスの感想をネギに語って遊ぶ朝倉とネギを纏めて部屋から追い出した。

 

 

 

さて、それはさておき、私がネギをしめた翌日から一週間、ネギは一日に2戦と言う拳闘界の常識からするとかなり無茶苦茶なスケジュールで試合を入れ続けて12連勝を上げていた…まあこれは予定通りであるし、実力差を考えると無茶でもなんでもない…し、何なら別荘ではもっと激しい立ち合いを一日で二桁に届くほどこなす日も珍しくはなかった。ちなみにコタローとの決闘は聡美や茶々丸、なぜかクママさんや村上達…亜子は血がダメなので来なかったが…そしてバルガスさんとトサカたちも観客にしてなかなか盛り上がった。結果はいささか危ない場面もあったが私の勝ちである。やはり訓練場は狭いし、機動が窮屈ではあるが。

そう言う私も、ネギ…もとい『ナギ・スプリングフィールド』の話題を邪魔しないように、それでも稼げるように多め…二日に一試合強程度のペースで試合を入れながら情報収集に励んでいた。

1試合目は私の表向きの戦闘スタイルと似た感じのベテラン軽魔法戦士…剣技自体は悪くなかったが気・魔法の練度共にイマイチ、剣技の練習相手としては楽しませてもらった。決着は観客の盛り上がり具合が決着を望んでいるという感じの所で気の密度を増して剣を弾き飛ばして降参させた。

2試合目は大ナイフの二刀流で瞬動の使い手…と紹介されたが、勢いはともかくキレは縮地と呼びようのないもので、剣技もイマイチ…多少素早くはあったが、私の相手をできるほどのモノではなく魔法無し、剣技のみで圧倒して勝利した。

3試合目はデビュー戦の相手と似たスタイルで重装鎧に片手剣と盾の重戦士…まあデビュー戦の相手よりは強かったが剣戟を交わしながら放った50本弱の魔法の射手を、魔法障壁を纏わせた盾で防ごうとして防ぎきれずに怯んだ所を蹴り倒し、デビュー戦と似たような降伏勧告をして勝った。

そして4試合目が…これから行われるタッグ部門の半ルーキーペアである、もちろん私はソロだが。

 

「さーて、次の試合に参りましょう!第5試合、西方はデビュー戦より4連勝の快進撃、『グラニキス・フォルテース』の期待の新人自由拳闘士、チウ!対する東方はヘカテスのルーキー自由拳闘士…ヤング・フォリウムとテルム・インセプタ!」

司会の紹介に場が騒めく…が

「本試合はチウ選手の希望によりマッチングされましたソロ対ペアの変則マッチとなります!」

と、続く司会の言葉にそれも歓声へと変わった。

「さっそく参りましょう…それでは…開始!」

と、同時に私は敵前衛に切りかかる…手ごたえ的にはイマイチ…鎧袖一触にしてもいいのだが、それは興行的に楽しくないためこちらがかなり優勢程度に見える程に手を抜き、切り結びつつ魔法詠唱をする。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 光の精霊47柱 集い来りて 敵を射て」

相手の剣士は青い顔をして、だが離脱もできずに必死の抵抗を見せている…が、私の狙いは君ではない。

「魔法の射手 光の47矢」

前衛と私が離れないためどう魔法を放てばよいか戸惑いながら詠唱を続けていた魔法使いに向けて、魔法の射手を放った。魔法使いは大慌てで詠唱…紅き焔を完成させ、魔法の射手にぶつけてくる…まあ、当然中央突破で赤き焔が私たちに向かってくる…と、同時に赤き焔がぶつからなかった魔法の射手が魔法使いに殺到してゆく…私は剣士を放置し、その場を離脱した…その結果は酷いものだった。

赤き焔は剣士に命中、戦闘不能。魔法使いも追加の魔法障壁が間に合わず、破壊属性の魔法の矢の(ルーキーにとっては)洪水が常時展開の障壁を貫き、戦闘不能になっていた…というか割と二人とも重傷っぽい。

「おおっと、東方ペア、ダウン!カウントを取ります1, 2, 3」

とカウントが進むが相手が立ち上がる事はなかった…私は剣を鞘におさめ、もう終わった、という顔でそのカウントを聞いていた。実際はきちんと警戒していたが。

「さて、勝利者インタビューデス!孤高の女戦士チウ選手、単身で同じくルーキーのペアを鎧袖一触にしてしまいましたが、試合の感想があればお願いします!」

それに私はため息をついて首を横に振る事で答えた…というかペアであったにせよ、あるいはだからこそ、今までの試合相手の中で一番弱かった。

 

 

 

そしてその夜、ソロでの試合に勝利したネギは勝利者インタビューを受けていた…そして全国生中継であるとの司会の言葉に、打ち合わせをしていた仲間たち…特にまき絵や裕奈に向けたメッセージを発した。

「以上、注目のルーキー、ナギ・スプリングフィールドでしたーっ」

と、司会が締め、ネギが退場した。

 

そして、朝倉とコタローが退場してきたネギを、盗聴防止の結界を張った私たちの待つ場所に誘導してきた。

「これで作戦の第2段階はクリアやな」

「今のメッセージ…まき絵さんやほかの皆さんに届くでしょうか」

「ネギ君のお父さんのネームバリューのおかげでメディアの露出は高いはずだよ。

あとは…みんなを信じて幸運を祈るしかないね、彼女かもって匂わせたのは話題性的にグゥだったよ」

と、朝倉がネギをほめた。

「じゃ、ここでちっとおさらいしとくか、朝倉」

「うむ…私達、情報担当女性班がこの1週間に集めた情報を統合すると…

やっぱ、あの事件で魔法世界全11か所のゲートポートはすべて壊されたみたいだね。

現実世界との橋はすべて閉ざされた…復旧には早くても2,3年はかかる、と」

「最悪の状況って奴ですねーしかし――」

「うん、廃都オスティア…二十数年前に戦争が起こるまでは風光明媚な古都だったらしいけど、今はほとんど廃墟で観光スポットになっている…その無人の街に今は使われていない『ゲート』がある。

ここは奴らフェイト一味に襲われてないし、『ゲート』も休止しているだけで生きている」

「ただ、公開情報の解析やこの辺りの連合・帝国両側の辺境軍が持っている情報を軽くさらった程度ではオスティアのゲートについて詳細な情報は見つからなかった。

要するに、ゲートの正確な位置は不明…これは割と機密度の高い情報っぽくて…実際に到達せにゃならん事も考えればある程度絞り込んだ上で現地調査が一番いいと思う。

他にもいろいろと入手しなきゃなんねぇ情報や、クリアしなきゃなんねぇ課題もある事はあるが、これが現状、唯一の道ってわけだ。

それに壊されたゲートの復旧を数年待つにせよ、恐らく今までより厳しくなるであろう警備を掻い潜って転移する必要がある訳だしな」

と、私はネットワーク情報の解析や近くの辺境軍の通信網・データベースに侵入して調べた結果を報告した。

「フム…つまり俺らが現実世界に帰るにはその都に行かなアカン、いやその廃都に行くしかないちゅー事やな」

コタローがそう言って結論だけを抽出して再度まとめた。

「ハイ、しかし我々にとっては大変幸運な事に、1か月後…その街で拳闘大会の世界決勝が開催されます。

終戦20年を記念するお祭りでかなりの盛り上がりが予想されますが、重要なのは…」

「そう、この全国決勝の賞金こそが100万ドラクマ!

おまけに荒っぽいお祭りだから私たちお尋ね者が落ち合うにも、もってこいって訳」

「つまりー…1)借金返済、2)みんなと合流、3)おウチに帰る、この3点がこのお祭りですべて解決できちゃうかも…ってコトですねー」

と、相坂。いるのはわかっていたが、会話に参加するとは思っていなかったので少しびっくりした。

「全て解決…か、えーな!ここまでやられっぱなしやったけど、風がこっち向いてきたみたいやんか」

「まー優勝賞金での借金返済はできれば…ってレベルだが、ここ暫くの試合をしてみた感じだと合流の為の最低条件、大会出場自体は油断しなければいける。

優勝も他地域のスター選手の情報からすれば簡単ではないにせよ、絶望的って程ではないな、今のところは。

ああ、ちなみに原則、ネギとコタローが担当ってのは変えねぇからな」

私の個人的な判定では、甘やかしに入るので。まあどちらかが再起不能にでもなれば別だが。

「なるほど…千雨ちゃんがそう言うなら心強いね…って事だけどネギ君とコタロー君の自信は?」

「大会出場については大丈夫、自信があります。優勝に関しても…最善を尽くします」

「おう、任せとき!あと10勝もすれば参加資格は十分やし、実戦と千雨姉ちゃんの扱きで俺らの実力もまだまだ上がっとるからな、優勝して見せる!」

「皆さんの捜索プラン、世界一周計画もそろそろ形になってきましたしーその為の資金もあと少しで貯まりますー」

と、聡美がバッジ反応の探索プランが順調である旨を報告する。

「うん、私のアーティファクトもいいのが出たし、任せておいてよ」

それに朝倉が付け加える…と言うか頓挫しかけた世界一周探索プランが復活したのは朝倉のアーティファクトが優秀だったからである。

「それでは…」

と、ネギが場をしめるように言う。

「1か月後のオスティアに向けて!ネギま部ーファイッ」

「「「「「「オオッ」」」」」」

 

 

 

その夜、風呂場にて。

「チウちゃん、今日は圧勝だったね、おめでとう」

「あ、クママさん、こんばんは」

聡美と遅め…営業は終了して闘技場従業員の利用時間…の風呂に入っているとクママさんからそう声をかけられた。ちなみに、拳闘士は一般客向けの利用時間でも好きに入れる。

「いやーやっぱり強いね、ちうちゃんは…前にコジロー君との訓練を見せてもらった限り、世界クラスの実力じゃないかい。

いったいどんな鍛錬を積んできたらそんなに強くなれるんだい?」

「そうですね、トサカさんにも言いましたけれど、『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』並におっかない師匠に限界まで…いえ、その先まで扱かれ続けて生き延びたから…ですかね…それについていける素質と運はあったんでしょうが」

と、寄ってきた聡美の頭をなでながら答える。正直、死の淵まで追い込まれたのは片手では足りない、まあマスターはそのラインを見極めてやっているのだが…私のミスによる事故を除けば。

「フフ…それはおっかないお師匠様の元で頑張ったんだね…ナギ君やコジロー君も同じお師匠様の元で?」

「ええ、ナギはそうです。コジローはナギの修行相手をすることを条件にマスターが修行場の使用を許可した、みたいな関係で正式な弟子ではないですが」

言葉を選び、問題のない範囲で答える。

「なるほどねぇ…いいお師匠様なんだね」

「…はい、尊敬しています」

「それは良い事だね…ところで、ずっと聞こうと思っていたんだけれど…闘技場でのキャラ作りって何か意味があるのかい?

アンタ、美人なんだし笑顔も見せたらもっと人気も出てファイトマネーも上がるだろうに」

「あー、一応あれも私なりの営業ですね。ナギみたいにマイクパフォーマンスをこなす自信がなかったので…実力とああいうキャラでファンが付けばいいなと。

あと、割と全力で仕留めていくナギ達とは違って、ある程度手加減して興行も盛り上がるようには気を使っているつもりです」

本当は自信がないというかメンドクサイが正解だが。

「なるほどね、確かに私もインタビューは苦手だったよ、でも手加減する余裕があるのはうらやましいね」

そう言って、クママさんは豪快に笑った。

 

 


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