例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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76 辺境編 第7話 バッジ捜索隊出発!

「気分はどうだ、自業自得で死にかけた気分はよ」

ネギが目を覚ました翌朝、朝日の中で黄昏ていたネギに言った。

ネギが目覚めたのは昨晩の内に村上から知らされていたのだが、亜子とよろしくやっていると聞いて邪魔するのもアレかと…それが爆弾をデカくするにせよ…思って夜の訪問を避けた。既に寝間着に着替えていたので面倒くさかったというのもあるが。

「千雨さん…」

「なーんてな」

と、私はネギに向けていた厳しい顔を崩す…その辺りのお説教はやらかした…ナギ・スプリングフィールドを名乗った当日に済ませてある。

「…で、どうだった?ガチで命を賭けた決闘の感想は…何か掴めたか?」

「ハイ…何と言ったらいいのか難しいんですが…何かを掴んだ気はします」

「ならばいい…ただ、アレは命がけの決闘だったんだ、街中とは言え魔法の射手や白き雷位は使ってもよかったんだぞ、なんだかんだで遠慮したな?」

「あ…その…それは…ハイ…その通りです」

と、ネギは御免なさいと頭を下げた。

「千雨さん、茶々丸さん、ハカセさん…ご心配をおかけしました、僕の看護もしてくださったそうで」

「いえ、そんな…ネギ先生…」

「フン…姉弟子として、面倒みてやっただけだよ…茶々丸一人に任せるのもアレだしな」

「私は千雨さんと茶々丸のお手伝いをしていただけですけれどねー」

という話をしているとコタローが駆け寄ってきた。

「おぉーい、ニュースやニュース!ビッグニュースや!俺たちの仲間から連絡あったで!念報やけどな」

「え!?本当!?」

「生放送から4日で収穫があるとはな、誰だ!?」

「多分…刹那姉ちゃん達や!」

そう言ってコタローが見せてきた念報には、アスナと刹那がコノカを探していて、オスティアで合流しようと読める内容が記されていた。

 

 

 

「では早速参りましょー開始!」

と本日の午前の試合が始まる…相手は鳥人の戦士(刹那の様に両手と別に翼が生えるタイプ)なんだが…こんな狭い闘技場で?と思いつつ、宙に舞い上がった相手に私は気を練り、剣を構える。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 拡散・雷の23矢」

まずは小手調べと拡散の魔法の矢で対空射撃を行う…まあすり抜けるでも切り払うでも、急降下でもご自由に、と言う感じではあるが。

で、相手の対応は急降下、射界の下端を掠めるように私に向かってくる。

 

魔法の射手 光の5矢

 

と、魔法の矢で迎撃…を、横ロールで回避して接敵…

 

キィン

 

音を立てて一撃だけ切り結ぶと相手は一撃離脱で再び空に退避した。

…なるほど…そーいう戦術か…虚空瞬動アリならよゆーではあるが…まあそれを出すまでもない。

相手が再び急降下してくる…こちらも同じように無詠唱魔法の射手で同じように迎撃し、縮地で剣撃を離脱。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 拡散・雷の29矢」

 

私の影を相手が切り裂く隙にさらに縮地、後方を取り、進路を阻む様に魔法の射手の傘で覆った。相手は急制動、魔法の矢を回避して私を背に地に足をつける…私はその背中を切り裂いた…まーさほど深く斬ってないし、死にはしないだろう、すぐに治療を受けられるし。

そして、まだやる気であればと魔法の射手を無詠唱で7本、構えた…が、相手はどさりと倒れてカウントが成立、私の勝ちとなった。

 

 

 

「さて、いよいよ明日から茶々丸にはバッジ反応の捜索に出て貰う…今夜はネギとゆっくりして来い」

私と聡美で手持ちの機材で出来る限りのメンテナンスを終え、私は言った。

「はい…あの…お母さま、ハカセ…明日からはネギ先生の事…よろしくお願い致します」

「…添い寝以外は、な?」

まあ、元の姿なら許容してやらんでもないが、オトナモードとはごめんこうむる。

「…はい…それでも、十分です」

「さ、茶々丸、行っておいで」

「ハイ!」

と、今夜は早めに茶々丸をネギの元に送り出した。

 

 

 

「ほほぉーコレが探索ルートか、ホンマに世界一周やなぁ」

「ヘラス帝国南部…帝都付近を除く人口密集地は大方カバーしています、これでだめならその後さらにしらみ潰しで」

まー今回のクルーズ船を運航していのが連合側の会社なので仕方がない事ではあるが、ヘラス帝国は拳闘が連合よりも盛んなので『ナギ・スプリングフィールド』の話題が広がりやすく、自力でオスティアに集まってくれる可能性は高い。

「この旅費にお三方が稼いだ活動資金の大半、5万ドラクマが必要でしたが」

まーその他雑費を出してもまだ1万程度は残っているが、それはいざという時の高速艇の運賃に充てる予定の予備費である。

「ま、世界一周の旅費じゃしゃーないな」

「これなら全員見つけられそうだね…」

「でもさー、空の上から位置を確認するだけじゃ意味なくない?朝倉」

と、村上が疑問を述べる…まあ本来それで保留行きになりそうだった計画だしな、コレ。

「フフフ、そこで御登場となるのが本作戦の目玉…これさ」

「おおっ」

と仮契約カードを取り出す…と言うかコタローも驚いているが聞いてなかったのか。

「ふふふ…ちうっちに電脳関係のいーのが出てたから、私も取材情報収集関連のいいのが出るんじゃないかと思ってたんだ~」

と、朝倉が自身のアーティファクトの説明を始める。

「私、朝倉和美のアーティファクトは『渡鴉の人見』!その名の通りのスパイアイテム!

最大6体のスパイゴーレムを超々遠距離まで遠隔操作可能!

戦闘能力なし、ステルス性に不安あり、手順を踏まねば私有地等のプライベートエリア内には入れないとか制約は結構多いけど、そこはわが友さよっちのカバーによって最強無敵のパパラッチアイテムに!

ま、要するに発見した仲間にこのスパイゴーレムを向かわせれば状況は一目瞭然って訳だね」

「へーそういや、いつの間にヤッたんや?と言うか、カモの奴もおらんのにどないしたん?」

と、コタローがそんな疑問をぶつけてくる。

「ヤッたって何を?」

それに大河内が何の事だとの疑問をぶつけてくる。

「あん?そらお前、仮契約カードを持っとるって事はこのボケネギと和美姉ちゃんがキスしたっちゅー事や」

「ええーっ!?キス!?」

「ふふー別に仮契約はカモ君がいなくてもできるのさ、コタ君。仮契約屋ってのもあるし…魔法陣の専門家である、ちうっちに頼めば魔法陣用のチョーク代だけ!

って事でこれが私の…ファーストキス記念写真さー」

と、朝倉が私たちの部屋で仮契約した時の記念写真を現像したものを取り出した。

「ネ、ネギ君大人版だと結構シャレにならないね~」

「こ、これを亜子に見せる訳には…も、燃やさなきゃ」

「そうですねー撮影した私が言うのもなんですけれど和泉さんには見せられませんねー」

「ん~ふふふ、ネギ君赤くなって震えてて初々しかったな~いい経験させて貰っちゃったい」

と朝倉が、幼女がしてはいけない顔をしてそう言った。

「朝倉さんっ」

「…朝倉、てめぇ、今、幼女顔なの忘れんなよ?」

「と言いつつ、ネギ先生の仮契約者はすでに8人目ですが…」

「は…8人…」

と、大河内…つまりネギが8名とキスをしたという事実に思い至っているのだろう。

「不潔だっ、ネギ先生ッ」

「ち、違うんです、アキラさん!どれも緊急事態で理由があったりとかでっ…」

と、大河内が逃げ出し、ネギが追う。

「へっ、くだんね」

とそのドタバタをコタローが笑う…が、このドタバタに発展したのはコタローの不用意な質問と解説だと思うのだが。

「キスかーネギ君もう8人としてるなんて大人…」

と村上がつぶやき、コタローの方を向いてハッとした顔をする。

「何や?」

「なっ…何だよ」

…まあ、カモと合流する前に仮契約するなら仲介はしてやるぞ?村上、コタロー?

 

 

 

「ほいじゃ、行ってくるよ!」

「行って参ります」

と、茶々丸と朝倉が乗船予定のクルーズ船を背に言った。

「お願いします!朝倉さん」

「みんなの捜索頼んだで!」

「気を付けてねー茶々丸ー」

「あんた達こそ、借金返済計画がんばってね」

「ああ、でもあんたらや見つけた仲間に危険がせまったらすぐ連絡やで?

俺達がすぐに高速艇で駆けつける。3日から最大5日なら何とかこの街を離れられるからな…どーしようものうなったらちう姉ちゃんの投入やけどな」

まあ、諸々の相談の結果、役割分担はそう言う事になった、私を初手に投げ込む方がネギ達の大会出場権的には合理的なのだが。

「わかってるって」

「ネギ先生…朝倉さんの身は私が守ります、御安心を、ネギ先生」

「…茶々丸さんも気を付けてくださいね、ホントに…」

とネギが少し寂しそうに言った…うむ、いい兆候かな。

「…ハイ」

と、茶々丸の反応は、うれしそうな意外そうな反応だった。

 

「あの、千雨さん…ハカセ…先生のコト…」

「ああ、わかってる」

「ちゃんと見張っといてあげるから、がんばってね、茶々丸」

「ハイ…それでは、行ってまいります…」

と、言った会話を最後に、茶々丸と朝倉はクルーズ船である飛行魚に乗り込んでいった。

 

 

 

「行ったな」

「一日でも早く全員の居場所が判明するといいんだがな」

と、展望台で茶々丸たちの乗った飛行魚を見送って言った…そして

「あのっ…千雨さん、ハカセさん、コタロー君!」

「ああ」

「はい」

「わかっとるわ、その何とかゆーおっさんに稽古つけて貰いに行くんやろ?構へんで、行ってこいや。出場権は任せとけ」

と言うか、トサカには私の随伴含めて試合のマッチングはすでに根回し済みである。

「コ、コタロー君…ごめんあの…僕、ごめ ぽ!?」

謝り倒すネギをコタローがぶんなぐって変な声が出る。

「男が一度決めたコトグダグダ言うなや、ボケネギッ!」

「で、でもっみんなの救出には直接関係ないし…っ」

「アホォッやりたいなら、やったらええねん、修行でも何でも。

親父の仲間なんやろ?そのおっさん。どうせなら最強無敵の力でも手に入れてこいや」

「コタロー君…」

「気にすんなや、俺は実践の方がレベルアップ早いねん。もたもた修行して俺に追い抜かされんよーにせぇよ」

そして拳を合わせて衝撃波をまき散らして二人は言った。

「がんばるよっ!」

「お互いにな!」

「衝撃は出すな、周りに迷惑だ…それと私も行くからな」

と、私が宣言する。

「と、いう事で私も行きますよー」

「ち、ちうさん!?ハカセさん!?」

「おう、ボケネギの事、頼むでちう姉ちゃん、ハカセ姉ちゃん」

「いやでも、ちうさんは試合が…」

「お前が寝込んでいるうちにトサカに根回しは終わってるよ、おまえの分含めてな…まあ向こうに長居するなら時々戻らにゃならんが」

一応、五日先までは試合は無しにしてもらっているし、ネギも2週間程度のリハビリと療養と言う話を通してある。とゆーか、この根回しのせいで高速艇での初期投入が私でなくコタローとなっている…うん、ぶっちゃけネギも余程やばそうでなければお留守番だ。

「ちうさん…あ、ありがとうございます!」

そう言ってネギは私に頭を下げた。

 

 

 

「あーアレを見てくださいー」

その後、軽く旅装を整え、ラカンのおっさんから貰ったメモを頼りに砂漠を歩いていると、塔を中央に備えたオアシスを発見した。ちなみに街が見えなくなった辺りで周囲を確認した後に岩陰で変装は解いた。

「多分あれだな…行こう」

「ええ、行きましょう」

 

「わあ…」

近寄ってみるとそこは確かにオアシスで、微妙に生活感があった…割と新しい家具とかが使用感たっぷりに置かれている。

「何かの遺跡みたいですねー」

「…多分あっちだな」

と人の気配を感じた方向を私は指し示した。

 

「ラカンさーん、ラカンさーん」

ネギがそんな大声を張り上げながら歩いていると砂浜に到達し、波打ち際で構えをとって立っているラカンのおっさんを発見した。

「うむ…あの日も少しだけ見たが…やはり強いのはかなり強いな…指導者としては知らんが」

全身から沸き立つ気を見て私はそう言った。

「なにをしているんでしょう。修行かな…」

そして…

「覇王!炎…熱…轟竜 咆哮 爆烈閃光 魔神斬空 羅漢拳」

…奇妙なポーズをとりながら衝撃波を放った…いや、もしかしたら、百歩…いや千歩譲ってあのポーズが動きによる詠唱であるとしても、アレは、無い。

まあ、ラカンのおっさんも、とりあえずやってみたがなんか違う、と言う感じで再び構え…

「う~~ん…葱拳」

と、先ほどよりは威力控えめの衝撃波を出す…溜めの問題もあるが、マジで動きによる詠唱だったのか?アレ。なお、ちらりと聡美とネギとを見ると唖然と言った様子でその光景を眺めていた。

「ぐうっ…駄目だ、やっぱ語呂が悪いっ、キメポーズ取ってる暇もねぇし…

ダメだダメだ、こんなネーミングじゃ、とても俺印の必殺技は名乗れねぇぜっっ!」

そう言って湖?に向かって衝撃波を連発する。そして黒板の前でうろうろしながらいろいろな事を呟いていると、はっとした様子で言った。

「全身から何か出る…?それだよッ エターナル ネギッ…フィーバー!」

そしてまあ、まだ実戦で使えなくもない短さのキメポーズと共に全身から光線を放出し、岩山を消し飛ばした…とっさにその衝撃波から聡美をかばうように抱きとめる。

「あっ…千雨さん…」

と、聡美が抱き着いてくる…そーいや、元の姿同士で抱き合うのも、ケルベラス大樹林以来か…と、私も不必要に聡美を強く抱きしめた。

「お…おぉぉ…テキトーに全身から光線を出してみたが…まさかこれ程の威力とは…完成だ!奴の息子、ネギの新・必殺技がな!」

と、ラカンのおっさんは宣言する…いや、今のは無理だろ、ネギには…

「ネギ…ラカンのおっさんの強さはよくわかったが、アレはあんま師匠に向いてる様にゃ見えねぇ…親父さんの情報だけ聞いたらとっとと帰…ネギ?」

と、ネギを見ると目を光らせてラカンのおっさんを見ていた。

「オイッ!?」

「千雨さん、覚えていますか?僕が強くなるためにはアホっぽさが足りないって話…」

…確かに、アスナみたいな、話に聞くナギ・スプリングフィールドみたいな感じも必要かとは言う話があった気はするが…

「今、僕が師事するとしたらこの人しかいない気がします!」

「ちょ…待て、バカ早まるなっ…イヤ…いいのか?そう言う思い切りの良さも…」

「千雨さん!そうじゃないでしょう!?」

とか意図せず漫才をしてしまった隙にネギはラカンのおっさんの前に飛び出した。

「ラカンさん」

「おおっ、来たかぼーず!はっは、正体はホント、ガキだなーで、その二人、片方はちう嬢ちゃんだとしてもう一人は誰だ?

ま、丁度いい所に来たぜ!お前用の必殺技が完成した所だ!今なら特別に3割引きで売ってやるぜ!?」

「いえ…その技はちょっと…多分ラカンさんにしか出せないし…」

いや?威力はともかく気弾を出す要領で全身から光線の様に気を放って再収束させる事自体は私にもできる…と思うぞ?練習すれば。

「えー何だよー金ないのかー?ローンで良いぞ。傑作なんだけどなぁ」

「い、いえ、それよりも…僕に…戦い方を教えてください!時間はないですが…強くなりたいんです!」

「…フ」

と、おっさんが笑う。

「いいぜ。けど…俺の修行はキツイかもだぜ」

「構いません!どんな修行にも耐えて見せます!」

「…フフ、ハッハッハ、素直だな、オイ。奴とは正反対か、タカミチの言ったとおりだぜ」

そう言っておっさんはわしゃわしゃとネギの頭を撫でた。

「こうしてみると、ネギ先生も年相応の少年ですねー」

「まーなぁ…」

「で、雰囲気と髪色からしてそっちの栗毛がちう嬢ちゃんだろ?いいのか?あんたのお師匠的には」

「ああ、今更構わんだろう…私がネギを扱き倒すよかマシな師匠っぷりを期待してるぜ?」

「おっ…演技してるとは思っていたが、そーいうのが素か。それとあの晩の試合も見せてもらったが、中々どうして…変装の年恰好からしてもイイ気の練りだったぜ…最後のアレ別にしてもな」

「そりゃあどうも…アンタみたいなのにそう言われると少しは自信が持てるよ」

と、少し皮肉交じりに返す。

「クックック…まあそれはさておいて、よーし、ぼーず姉弟子の姉ちゃんから許可も取れたことだし早速行くか!2週間であの影使いに勝てるよーにしてやるぜ」

「あ、あのーそれもいいんですが…」

「何だ?」

「もっと強くなることはできるでしょうか…?」

「ワッハッハ…そりゃ欲張ったな、いーぜいーぜ気に入ったぜ、ぼーず…男はそれくらいじゃねぇとな」

そう言って、ラカンのおっさんは豪快に笑った。

 


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