例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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77 辺境編 第8話 ラカンへの弟子入り

「そう!それがこの俺!ジャック・ラカンだ!」

と、ラカンのおっさんは紅き翼の主要メンバーと共に軽い…調べたおっさんの戦果と経歴を考えれば本当に軽い自己紹介を済ませて締めくくりにそう言った。

「「おお~っ」」

「…はあ」

ネギと聡美はノリノリで拍手をするが、私はついそんな反応を示してしまう。

「何だー嬢ちゃんは興味なさそうだな?」

「いえ…そこいらの資料室の蔵書で手に入る程度の情報は調べさせていただいたので…」

本当は色々と潜っても調べたが、まあ言わんでいいだろう。

「ぼ、僕、興味ありまーす!」

とネギが立ち上がり挙手をする。

「ホントに父さんの永遠のライバルだったんですか?も、もっと詳しい話を…」

「ダメだ。俺の昔話はタダじゃ聞かせられねぇぜ。そうだな、10分で100万はもらわねぇと」

「ええー!?100万!?」

…村上達の身請け金と同じ額である。

「ううっ…タカミチもクウネルさんもこっちに来れば父さんの話を聞けるって言ってたのに…」

「まー時間もありますしー徐々に聞き出していけばいいのではー?」

「そーだな、エヴァの同類なら晩酌の相手していると昔話は聞けるかな…エヴァの場合は断片的に、だが」

割と昔話は地雷らしいので、私が知っているマスターの過去はさほど地雷でない部分と時々零す情報とを再統合した結果であるが。

「それより、ラカンのおっさん。私達がこっちに来た日に会う予定だっただろ?よくこっちに戻ってきていたな」

「ああ、それなぁ、実は…すっぽかした」

「ええーっ!?」

「いや、ホラ、メガロメセンブリアとか遠いし、だりーじゃん、名前もなげーし。

タカミチからの連絡でナギの息子が来るっつーからこりゃ行かなきゃなぁとは思っていたんだがよ、10年も隠居してっと人里に出るのが億劫でよー

と、思ったらお前の方から近くまでやってきやがった、いや、人間万事塞翁が馬!何がどう転ぶかわかんねーな、オイ」

…まあ結果オーライであった事は認めるが、言っていることはサイテーである。

 

「よおしっ、修行の前にお前の力を見せてもらう。全力で俺の腹を撃って来い!」

「ハ、ハイッ、で、でも…」

「いいから撃て!情けないパンチなら修行は無しだぞ」

「ハ…ハイッ」

とネギが戦いの歌を最大出力で行使した…が

「違う!」

「えっ」

「闘技場で使っていた技、アレが一応お前の必殺技だろ?アレの最大出力で撃って来い」

「で、でも…」

と、ネギが流石に躊躇う…

「…確かにアンタならネギの華崩拳…それも桜華崩拳の全力でも死なねーとは思うけど…」さすがに無傷って訳には…そう言いかけてかぶせるようにラカンのおっさんが言った。

「フフン…わかってるじゃねぇか、嬢ちゃん…

いいか、ぼーず、まあ俺がお前の親父より強いとは言わねぇが、少なくとも同レベルにいたことは確かだ。

で…お前の憧れの親父ってのはヒヨッコがちょっと思いついた程度の中途半端なオリジナル技でくたばる様な奴だと思うか?

最強の魔法使いってのはそんなもんか、どうだ、ぼーず、試してみろよ」

あ…ネギの奴、こんな煽り受けたらガチでやるわ…

「聡美、私の陰にいてくれ…割ときつい衝撃が来る」

「あ、はい…」

と、聡美が位置取りを少し調整し、私の陰に隠れるようにした。

「あああっ」

そう叫びながらネギが魔法の射手・光の矢を展開していく…確か、109本だったかな?出発前に試したって言っていた華崩拳の最大装填数は。

そんな無茶苦茶な威力の華崩拳がラカンのおっさんの腹に決まった…

「風よ」

とりあえず、私は降ってくる水しぶきを、風を起こして吹き飛ばし、視界が晴れるのを待った…

「千雨さーん…本当に大丈夫なんですかぁ?コレー」

「多分生きてはいる…が、無ダメージかっつうと…怪しいな…」

直撃寸前で気の出力上げていたのは確認したので、まあ内臓損傷はないだろう。

「ラ…ラカンさん…」

とネギも心配そうにつぶやく…と、霧が晴れ、無傷に見えるラカンのおっさんの姿が浮かび上がってきた。

「む、無傷!?スゴイ」

 

げぼあっ

 

と、ネギが言うが早いか、ラカンのおっさんが赤い液体…多分葡萄酒…を吐き出した。まあ、あれだけの腹パンだ、胃の内容物位逆流もするだろう。

「ラカンさーん!?」

が、まあ一瞬、血にも見えなくないのでネギは大混乱である。

「痛ぇなコンチクショー」

しかも、おっさんはアッパーでネギを吹っ飛ばした。

「チッ」

と、私は舌打ちをして恐らく気絶しているネギを空中で回収するのであった。

 

 

 

ネギを介抱し、飲み物と茶菓子の甘めのパンを出されて話をしていたのだが、話がネギ…と私の師匠になった時

「何ぃ!?あのエヴァンジェリンが師匠だって!?で、チサメ嬢ちゃんもあいつの弟子!?そりゃあ傑作だ!あいつがなぁ…道理で妙な鍛えられ方をしてると思ったぜ」

「み、妙な?」

あー確かにエヴァ…マスターの育成方針はあまり普通ではない…基礎力を重点的に鍛えて、応用というか具体的な戦い方は本当にちょっとしたヒントや切っ掛けを与えるのみ、原則、自力で組み立てろ、である…私が機動戦重視を志向し、虚空瞬動を生かした戦い方を選び、磨き上げてきたように…まあ外法使いチックに育ったのはどうしてこうなったと愚痴っていたが。

言い換えれば、守・破・離の段階を踏ませずに最初から自分なりの流派を編ませるドSである…いや、変な方向に行きそうになればちゃんと矯正はしてくれるので我流と言うわけではないが。

「いや、大体わかった、合格だぜ!」

「ハイッ」

「で…だが何で強くなりたいんだ、ぼーず?」

「それは…強くなれば皆を守れるからです。最強の力があればだれも傷つかずに済む…と」

誰も傷つかずに済む…ね。それは現状を見ているのか、そんな未来を望んでいるのか、あるいは過去に追われているのか…すべてを内包する便利な言葉である。

「…ほうほう、で?」

「それと…父さんのように強くなりたいとずっと前から思っていて…」

「…ふむ…で?」

「…で?」

ネギがついに聞き返す。

「誰か倒したい相手でもいるんじゃねぇのか?」

「…それは…」

「図星か?それだよ、目標はそう言う明快なやつがいい。誰だ?そいつは」

「…フェイト・アーウェルンクスと言う謎の少年です、ゲートポートを襲った…」

「アーウェルンクス…そりゃまた懐かしい名前だな…」

「知っているんですか!?」

「まぁ…な」

「な、なぜ!?あいつはいったい何者なんです!?」

そうネギが食らいつく…正直一番濃厚なのは前大戦の黒幕だったという完全なる世界関連だろうか。まあラカンのおっさんの経歴的には伝記に乗っているだけでも候補は他に色々あるが。

「聞きたかったら100万」

そう言ってラカンのおっさんはネギの追及を拒絶した。

「えー!?」

「だがまあ、ぼーずの相手が俺の想像通りなら…厄介だな、どれ表にしてやろう」

そう言っておっさんは黒板を縦に立てた。

「表ですかー?」

「おう、強さ表って奴だな…魔法も気も使えない旧世界の一般人を基準としてみるとだな…」

と、黒板に旧世界の一般人を1とした強さ表とやらを書き込んでいった。

ネギが500でカゲタロウが700、非魔法種の竜種が650、平均的魔法騎士が300位らしい。ちなみに参考のイージス艦は1500、戦車は200だそうだ…怪しいことこの上ない、特にカゲタロウの実力。確かにネギの相手をしていた時の手加減具合で評価すればそんなもんだろうけれど。

「こんなモンか。ま、あくまで目安だ、大体の物理的力量差だと思え。

戦闘ってのは相性他様々な条件で勝敗は変わるからこんな表に意味はねーんだがな。

お前だってやりようによっちゃイージス艦くらい沈められるだろ?」

「無理だと思いますが――…」

…いや、イージス艦つうか現実世界の兵器群は魔法の存在が前提になってないから、認識阻害して接近して断罪の剣か雷の暴風クラスの魔法で十分行ける…と思う。

「まあ、勝負は相性、時の運とは言え力量差が大きくなれば勝ちは薄くなるが道理、お前の相手、謎の少年の力量は――この辺りだ」

と、おっさんが3000強くらいにバツ印をつけた。

「そんな…これほどの差があるんじゃいくら修行しても…」

「まあ、マトモにやってたんじゃ無理だな」

「く…」

「早合点するな、マトモじゃ無理だがマトモじゃない道ならないでもない」

…マテ、ネギに何をさせるつもりだ、このおっさんは。

「ホ、ホントですか!?」

「エヴァンジェリンの元で修業したと言ったな、どれくらいになる?」

「え…と3か月くらい…」

「違う、別荘使ったろ、どれくらいだ」

「そ…それだともうかなりに…8…9か月分くらいかな?」

夏休み迄の二か月間が平均して一日1時間+αとして2か月強、夏休みの約1か月が平均して一日6日分として別荘の使用時間で、そんなもんだな。

「…お前は親父には似てねぇな、どっちかっつーとあのエヴァンジェリン側…正反対だ。

いいか?この技は何百年か前、まだ弱っちかったアイツが編み出した禁呪だ。もしかすると…お前になら使えるかもしれん」

オイ、ちょっと待て。そう言いたいがここでその話題が出てくるという、あまりの衝撃にその言葉さえ出ない。

「マスターの編み出した禁呪…」

「ああ、闇の魔法(マギア・エレベア)だ」

と、案の定ソレかと言う名前をおっさんは述べて、ネギにその来歴の説明をした。

「な、なんかスゴそうですね」

「興味出て来たか?お前にならできるかもだぜ」

「なるほど…でも『闇』…マギア・エレベアですかー」

「お前向きだろ?」

「え?」

「確かに…まあ魔力的にも適性的にもネギは向いてるっちゃ向いてると思うが…」

正直、非常に止めたい、同時にアレの秘奥に至れれば恐ろしい力を得られることを理解もするが。

「いやぁ…確かにネギ先生には適性あると思いますが…アレは危険すぎますよ?」

と、聡美も私に追随する。

「ええー!?千雨さんにハカセさんまでぇ!?なんで僕が闇なんですかー!?と言うかマギア・エレベアの事、ご存じなんですか!?」

「…性格的に?あと多分体質的にも向いているとは思うぞ、マギア・エレベア…お勧めはしねぇが。まあなんで知っているかっていうと…エヴァから教わったからだよ、基礎理論だけだけどな」

厳密には理論だけもらった、であるがまあ似たようなものである。

「ハッハッハ、姉弟子のお墨付きって訳だ。何だぼーず、闇じゃ不満か?エヴァンジェリンに修行をつけてもらっといて。

ま、やるかどうかはお前の自由だが、さわりぐらい聞いても損はあるまい、いいか?

闇の力の源泉は負の感情だ、負とは否定…恐れ…恨み…怒り…憎悪…つまり、『ヤなカンジ』だ!まとめると!」

とかとんでもない事を言い始める。

「いや、マテマテマテマテ、その理解でマギア・エレベアに触れんのは致命的だ!」

確かに、一般的な闇とはソレだが、マギア・エレベアのいう所の闇はソレではないのである。

「え、そうなのか!?」

と、なぜかおっさんが驚く。

「なんであんたが驚いてんだよ!」

「いや、ホラ、俺、あんま『闇』関係詳しくねぇじゃん。じゃあ、チサメ嬢ちゃん講師役頼むわ!」

と、ラカンのおっさんは豪快に笑ってドカリと座り、酒を飲み始めた。

「って、ちょっとまてぇぇぇ私にゃマギア・エレベアの教授なんてできねぇぞ!」

私は思わず叫んでしまった。

「いや、それは大丈夫、ちゃんとアテはある、任せろ」

と、おっさんがサムズアップする。

「…本当に大丈夫なんだろうな?」

「おう、昔、エヴァから賭けで巻き上げたスクロールがあるから安心しろ」

「ちょっ…ラカンさん!?マスター!?なんてものを賭けてるんですかー!?」

と、ネギまで絶叫を始めた。

 

 

 

「ところで千雨さんはさっきの強さ表だとどの辺りになるんですか?」

マスターのスクロールと聞いてズバリ答えをネギに与えるのは逆に危険かもしれんと聡美と二人で講義内容を考える時間を貰っていると、おしゃべりの流れでネギがおっさんにそんな事を聞いた。

「んー?チサメ嬢ちゃん?そーだなー…500以上だとは思うがよーわからん、俺、嬢ちゃんの本気見た事ねーし」

「…それもそうですね…逆に500以上と言うのは?」

「おめーがカゲタロウと戦った晩の試合でメアリーとかいう姉ちゃん相手に見せた本気の鱗片とやら、だな。

お前の本気と渡り合えるくらいにはつえーだろ?咸卦法みたいな、よーわからんアレを使ったチサメ嬢ちゃん」

とかおっさんが言う。

「体術とかならともかく、1対1の実践稽古で僕が勝った事、無いですよ?咸卦の呪法と虚空瞬動アリの千雨さん相手だと…ちなみに、身体能力も僕の戦いの歌全力と千雨さんの咸卦の呪法全力だと千雨さんのが上です…千雨さんの身体強化はその先がありますし」

「うへ…って事は闘技場だと舐めプに舐めプ重ねてるのかよ…」

おっさんが呆れたように言う。

「身体強化は原則気のみで武器はショートソードで魔法は魔法の射手だけ…で剣技の修行してるようなもんだな、闘技場での試合は…まあ相応に強いのとあたったら解禁もするけどさ」

と、講義内容検討のメモ書きをしながら私は言った。

「剣技って断罪の剣の為か?いや、まあ確かにアレ闘技場で使ったら悪役になりそうだけどよ…ってそーいや、剣を収めてからが本気って言ってたな、そうか、嬢ちゃんの本気は合気鉄扇術か」

と、なぜか話の流れが私の本気になってきている。

「しかし…その先って言うのは?咸卦法の先って言うのは聞いた事ねぇーぞ」

「ええっと…僕も詳しくは聞いてないんですが、咸卦の呪法に戦いの歌系統の精霊呪文を乗せている技?らしいです」

「戦いの歌系統の精霊呪文…?まさかそれは…」

と、おっさんが私の方を見る。

「…ネギ、あんまり私の秘密を喋るな…ほら、講義を始めるぞ」

と、いまさら言うが、まあ今まさにソレを教えようとしていたおっさんの事だ、わかっただろう。

そして、その後に行った講義では、この魔法が『闇の魔法(マギア・テンブリスないしマギア・スコターディ)』ではなく『エレボスの魔法』である事に留意しろと口を酸っぱくして教えながら、深き闇を扱うものは闇と一体にならねばならないが呑み込まれてはならない、その為に自己との対話が重要である…と言った内容を教えた。

 




考えてみると自己との対話と言う意味では自分の見つめたくない過去との強制対話であるヤな顔パンチ1000本も結果論的にはありっちゃアリなんですが、そこに至る前に千雨さんが止めない展開が浮かばなかったのでこのままで(

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