例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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79 辺境編 第10話 闇の試練とその結末

「さて…まずはこんなものか…」

倒れたネギをラカンのおっさんに用意してもらった布団に運んで寝かせ、服を脱がせて濡れタオルを頭にのせる等の対処をしていった。

「本当に落ち着いてますねー千雨さん…」

聡美が若干引き気味で予備のシーツやタオルを運んできた。

「しかし…巻物内での修行かと思っていたが…むしろ中から人造霊が出てきて対象者に飛び込むとは…な」

「それでー大樹林で私たちと合流前に罹っていたっていうー魔力暴走?みたいな症状が出ているんですか?」

「多分、そうだな…ネギが試練を乗り越えるか…失敗するまで対処療法をしながら見守るしかねぇ」

「…そーいえば、失敗すると、どーなるんですか?」

聡美が少し心配そうに、でもどちらかとういう興味本位みたいなニュアンスで聞いてくる。

「んー最悪死ぬんじゃねぇかな、肉体的・精神的どちらかはともかく…なあ、おっさん?」

「…おう、まあ肉体的に死ぬことはないと思っていいが…二度と目を覚まさねぇか、少なくとも魔法を使えねぇ体になっちまうだろうな」

「それは…確かに危険ですねーお二人の仰っていた意味が解りましたー」

アスナ辺りがいたらまとめてぶん殴られそうな会話を交わす私達だった。

 

 

 

聡美と協力しながら、長丁場になると交代で仮眠をとりつつ、ネギの介護をして…日が沈んでしばらくした頃。

「かはっ」

突然、ネギが勢いよく吐血した。

「げっ…ネギ…なんで…」

「き、危険なのは精神的な意味だけではなかったんですか?」

「そのはず…そうか!同調が強すぎるのか…まずいぞ…これは」

「んーどうした?」

と、おっさんがやってきて騒いでいた私達に問いかけた。

「ね、ネギ先生が血を…」

「ん?血を吐いたのか…そりゃよっぽど同調がいいんだな…やっぱこのぼーず、闇に向いてるな」

おっさんは暢気な反応を示した。そんな間にも、ネギの傷はどんどん増えていき、深い傷からは血飛沫が飛ぶ。

「おっさん、コレ治癒かけていいのか!?下手すると肉体的にも死んじまうぞ!」

「…とりあえず、治癒をかけてやれ、傷自体は単なるケガと同じはずだ」

「ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒

ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒

ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒」

その回答を聞いて、私はすぐに治癒を唱えた、全ての傷を治すまで何度も連続で。

プシュッ

「チッ…ノイマン・バベッジ・チューリング 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治癒」

一息ついたのもほんの一瞬、またすぐに大きな傷が現れ、治癒を唱える展開になる。

「こ、この勢いで負傷を続けたら千雨さんの魔力が…そしたらネギ先生も…」

確かに、あまり得意でない治癒系魔法をこの規模・この勢いで唱え続けていたら夜明けどころか深夜を待たずして魔力はすっからかんだろう。

「確かに、こりゃマズイな…ふむ…ここはとっときのアレを…」

と、おっさんは何かの葉っぱを取り出した。

「なんだそれ、薬草か!?」

「アルテシミアの葉だ、魔力がやばくなってきたらこれをすり潰して傷に塗ってやれ、何とかなるはずだぜ、肉体的には」

「わかりました!ソレは私が担当します、きつくなってきたら言ってくださいね、千雨さん」

そう言って聡美がアルテシミアの葉と乳鉢と乳棒とを受け取った。

「しっかし、急に慌てだしたな、チサメ嬢ちゃん」

「…一応、ネギの精神力や性格その他諸々から考えて分はそう悪くない賭けだと読んでいたんだよ、闇の道もな…

だが精神の限界より先に肉体的に死んじまったらそれどころじゃねぇだろ!?」

「まーそりゃそうだな」

「おっさんこそ、やけに落ち着いているじゃねーか…友人の息子なんだろう?」

ネギの次なる負傷が現れないことを怪訝に思いつつ、ネギの体に飛び散った血と汗を拭きながら言う。

「死んだらそこまでの奴だったってことさ、ぼーずもその辺の覚悟はしてたハズだぜ…だろ?」

「チッ…そりゃあそうだろうけどな…」

「ラカンさんもそっちの人ですかーエヴァさんと言い、千雨さんと言い、ネギ先生と言い…本当にあっさりと命を賭ける事を許容しちゃうんですねー」

と聡美が呆れたようにいった。

「おう、ハカセ嬢ちゃんは違うのか?」

「そーですねーネギ先生の頭脳は貴重ですし――できれば生きていて頂きたいですねー後、そーゆーのを別にしても――友人を喪うというのは…悲しいですよー?多分ですがー」

「ハハハ…確かにな」

ラカンのおっさんは、陽気に笑ったが、その笑いにはどこか影があるように思えた。

 

 

 

「千雨さーん、そろそろ交代の時間ですよー仮眠をとってくださいー」

「ん…ああ、もうそんな時間か…そろそろ次の負傷だ…治療したら交代しよう」

その後も交代しつつネギの看護と治療をしていると気付く事があった。ネギの負傷は一定の法則のようなものがある。

まず、前回の負傷から大体数十分程度の時間が空きその後小さな負傷が現れてくる事が多く、その後にその回の大きな負傷が現れる…まるで戦闘で傷つき、最後に止めを刺されているように。

…そして、その間隔が広がってきているように思うのだ…少しずつではあるが。

「…おっさん、エヴァのコピーがネギの中で何をしているかわかるか?」

「ん?疑似的な幻想空間の中で、数倍の体感時間の間、戦い続けている筈だぜ?」

事も無げにおっさんが答える。

「…じゃあ、やっぱりこの傷、エヴァのコピーにやられた傷か…で、その間隔が広がっているのは…もつようになっている、なんて楽観を持つべきじゃねぇな」

「ああ、立ち上がるまでの時間が伸びている、と読むべきだな、そりゃあ…」

「ヤバいかもなぁ…あいつ、割と戦いとなると熱くなるタイプだし」

エヴァのコピーを敵とみなし、真向勝負しようとし続ける限りは、恐らくネギは目覚めない。

 

 

 

「千雨さーん、本当にネギ先生は大丈夫なんですかー?」

「…そろそろ危険域に突っ込む」

心配そうな聡美に私がそう言ったのは、ネギが試練を始めて二度目の夕暮れの事だった。

「そーだな、確かに…肉体的にはともかく、精神的には限界でもおかしくねぇ、と言うかここまで持っている時点で大した意志力だ…どーする?」

「…どーするもこーするも、看護と治療を続けながら祈るしかねーだろ!?夢見の魔法なんて使った日にゃ間違いなく呑まれるだろうが!?」

「そうでもねーぜ?」

と言いながらおっさんが懐から短剣を取り出した。

「これでエヴァの巻物を刺せば試練をキャンセルできるぜ、そうすりゃ闇の魔法は二度と使えなくなるがぼーずの命は助かる…嬢ちゃん達の判断で使いな」

「くっ…ここに来てそれかよ…その場合でも魔法使いとしての能力に後遺症は出るだろーが」

腹を括ってネギを看取る覚悟さえしていた所にコレはきつい…甘い毒のたぐいである。

「その可能性は低くはねーな…ま、ほぼ後遺症無しからリハビリでおおむね回復できる程度の後遺症に収まるか否かが五分五分って所じゃね?」

「…了解。私の読みだと明日の夜明け頃が限界だと思うが、おっさんの読みは?」

「大体嬢ちゃんと同じだな…まあ限界の限界が、だがな…今この瞬間に限界が来ても何ら不思議はねぇ」

「…了解だ」

「ほかに聞きたいことはねーな?ほら、アルテシミアの葉の補充だ」

と、おっさんはそう言って去っていく…短剣とアルテシミアの葉を残して…

 

 

 

「ちっ…薄明が始まったな」

「ええ…明けてきました…千雨さん…どうするんですかー?」

「…くそっ…看取る覚悟はしていたがこんな決断をする覚悟はしてなかった…」

本気で想定外である…敵を殺す覚悟、自分が死ぬ覚悟、聡美と死ぬ覚悟、そして仲間を看取る覚悟は決めたコトはあるが…この決断はそのどれとも違う。

「どうしよう…聡美…決められない…決められないんだ…」

涙目になりながら、私は言う。

「ええ…私も…ずっと…ずっと考えていますが…どちらも選べません…」

聡美も、疲れた様子でそう答えた。

「だけど…もう考えていられない…決めないといけないのに…決めないと…全て終わってしまうかもしれないのに…」

おっさんに短剣を渡されてから、私はずっと考え続けていた…どうしよう、と無様に、まるで年相応の無力な少女の様に。しかし時間は無常に過ぎ…私の読んだ限界点が近づいている…決めないといけない、最期まで待つか、命だけは引き戻すかを…

「決断できずにリミットを迎えるくらいなら…コレ…に託すというのも…アリですよ?」

そう言って、聡美は一枚のドラクマ貨を取り出した。

「弾いたコインに運命を託す…か」

「もう、私は…私が選ぶなら…これしかできません…」

私は一度短剣を置いてそのドラクマ貨を受け取った、聡美の震える手から。

「大丈夫…コレは私が決める…使うかも含めて…」

そう、この道はネギの選んだ道…その結末を見届ける…つもりだった。しかし、いよいよヤバいという領域に達した時におっさんから渡された蜘蛛の糸…あるいは私への甘い毒薬…いっそそんな選択肢なんてくれなければよかったのに、と私は内心でおっさんを呪う…

「私は…エヴァの弟子で、ネギの姉弟子だ…その私は…武人としての私は見届けようと言っている…でも…ネギの友人としての私は…学問の使徒としての私は…友人を、ネギの頭脳を喪いたくないと囁く…そうしてここまで来てしまった…どっちの私の意思を通すか…」

かつて私は、どちらも選ぶ事を選んだ…そうして今ここにいる…どうする?どうする?どうする?

そう、頭の中の天秤を傾ける何かを探し続ける…私は、ネギの背中を押した…それが深淵への身投げと知って。そして今更、ネギをそこから引き上げるか否かを悩んでいる…どうしようもないクズである…そんな思索に、もはや自己の中で天秤を動かすモノはないとネギを見つめる…

 私のせいで…ネギは私の眼前に横たわっている…だけではないにせよ、少なくない部分は私のせいだ…

私のせいで、ネギはマギア・エレベアの侵食と一生付き合っていくか、魔法行使の才能を損なう事が確定した…すでにネギの一生を台無しにした…そんな選択をさせておいて私は無様に悩み続ける…10歳の子供の人生を狂わせておいて…

いや、ネギは既に己の足で歩む戦士で、現に自分自身で選んだ一歩を踏み出した結果が眼前のネギだ…一歩を踏み出したものが無傷でいられるわけがない…選択を尊重する事こそがネギへの敬意だろう…

しかし…ここでネギを終わらせてしまったとして…クラスの仲間たちや従姉、幼なじみになんて言えばいい…いや、私は…悪党だ…

「…決めた」

そして私は覚悟を決めた…ネギにこの選択をさせた責任をとる事を…私は短剣を手に取った。

 

ドスッ

 

そんな音を立ててナイフが突き刺さる…硬い床に。そして、私はネギの手を取る。

「どんな結末になったとしても、私はそれを受け入れる…みんなからの責めも負う…お前が無力になったとしても…守ってやる…だから…駄目でもいいから…目を覚ましてくれ…」

そして…ジワリと瞳から涙が溢れてくる…

「千雨さん…駄目ですよ…それはあなた一人の罪ではないんですから…」

聡美がネギと握った手を両手で包み込むように握った…

 

ツーポロリ

 

こぼれた涙がシーツを濡らす…

 

 

 

そして…日が昇ってもネギは目を覚まさなかった。

 

 

 

「おう、どうだ、ぼーずは」

完全に夜が明けた頃、おっさんがやってくる。

「…駄目だった…目が覚めない」

「最後の負傷から…負傷間隔の倍も経っているのに傷一つ増えません…」

終わった…終わったのだ…ネギの試練は…おそらくは最悪の結果で

「そう…か」

ラカンのおっさんが寂しそうにつぶやいた。

「…コタローに事情を説明してくる…聡美はここで待っていてくれ」

自分でも驚くほど冷めた声で私はそう言った。

「ハイ…お待ちしています」

聡美も同じくらい冷めた声でそう返す…ショックだったんだな…私達。

「オイオイ…せめて水浴びして朝飯食ってその後に仮眠してからでも罰は当たらんぞ?嬢ちゃん達、ぼーずが試練を始めてからろくに体も洗ってねーし昨晩は徹夜したんだろう?」

「いりません…今は何かしてないと気が狂いそうで…だから…行かせてください」

「あ、あの…ちょっと待ってください」

「だから…って…え?」

聞こえる筈のない声…それが聞こえた。

「あの…スイマセン…マスターから状況は聞いています…寝坊して…その…ごめんなさい」

振り返ると…ネギがベッド上で起き上がっていた。

「あ…ネギ…先生…よかったです…目覚められたんですねー」

「おっ、ぼーず、その様子だと試練は突破できたようだな」

「ハイ…なんとか…」

「っ…馬鹿野郎っ!こう言うのはギリギリで目覚めるのがお約束で…どうしてこれだけ遅れるんだよ!」

「へ?ギリギリ?」

…そうか、そもそも夜明けが限界と言うのは私とおっさんの読みでしかないな。

「…いや…気にするな」

「あ、それと千雨さん、ハカセさん、試練の間ずっと看護と同調による傷の治療をしてくださっていたそうで、ありがとうございます」

「はいー頑張りましたよーでもネギ先生が帰って来てくださって嬉しいですー」

「おう…って自覚あったのか?」

フツーこういう場合は自覚がないものなのだが。

「あ、いえ、自覚はなかったんですが、試練が終わった後にマスターから教えてもらいました。お二人が二日二晩の間、交代でずっと傷の治療と看護をしてくださった、って」

「ああ、なるほど、エヴァのコピーは外の状況も理解していたって事か…」

「そのようです」

「ま、その辺りはどーでもいいさ、よくやったぜ、ぼーず!これでようやくスタートラインには立てたな!」

と、おっさんが割り込んでくる。

「両腕に魔力を集中してみな」

「あ、はい、闇き夜の型ですね」

ネギがそう言って両手に魔力を集中させる。

「その辺りもちゃんとエヴァのコピーから聞いているようだな。それがマギア・エレベアを会得した証にして基本形だ。

…お前がお前自身で手に入れたお前だけの力だ、誇りに思いな。けど気ぃ抜くなよ、お前はようやく自分の得物を手に入れたにすぎん。修行はここからが本番だぜ」

「…ハ、ハイ!」

「よぉしっ、じゃあ早速いくぜ!みせてもらおうか」

「ハ、ハイ!」

と、おっさんがネギを連れてさっそく修行を始めようとする。

「オイ、待て。せめて水浴びして血を流して飯くらい食ってからにしろ」

「千雨さーん、そこは数時間くらい仮眠とってもらいませんかー?」

「アーそれもそうか…じゃあ水浴びして飯食ってからにすっか、ぼーず」

「はい…わかりました」

やる気満々と言った様子のネギは少ししょぼんとした様子になった。

「あ…それと…千雨さん、ハカセさん…ありがとうございます…ホントに」

「…おう、貸し一つって事にしといてやる…その力で、私に追いついて…いや、追い抜いて見せろよ?私も簡単にゃぬかせてやらねーが…フェイトとやらに勝つんだろ?」

「ハイ!」

ネギは嬉しそうに返事をした。

 

 




タイミングよく目覚めた…まではともかくすぐに状況把握して短剣を受け止められたあたりから、原作ではエヴァのコピーに止めて来いと蹴りだされていたのかなーという事で止めない決断をした場合は幻想空間でレクチャーとかいろいろ受けてこのタイミングという事で。

実は最近の色々で筆が進んでいないのでストックが無くなっています。
週一ペースはできる限り維持したいのですが、無理に書いてもいい事はないと思うのでまたしばらくの間は不定期更新という事に致します。
忙しいわけではないのでとっかかりができれば一気に書き進めたりもあり得ますのであくまで不定期という事で。
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