例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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81 辺境編 第12話 浴場での女子会

「おや、チウちゃん、今、お風呂かい?」

「ええ、試合後に少し外出してきましたので」

浴場で遭遇したクママさんにそう声をかけられ、返事をしながらそちらを向くと村上達三人もそこにいた。

「ちうさん、試合お疲れ様でした、どちらもすごかったです」

「ありがとう、アキラ。まあ昼の相手はともかく、夜の相手…カゲタロウは勝ちを譲られたとしか言い様がないけれどね」

亜子がいるので千雨とは別のちうの砕けた口調を作って答える。

「確かに、コジロー君も今日の試合はどちらも凄かったけれども、カゲタロウさん?はまだまだ底があるし、ちうさんも剣闘士としては封じているスキルもあるし、本当の本気同士だと結果はわからないって言っていました」

夏美が私の言葉をコタローの発言を引用して肯定する。

「そうだね…ナギとやった時よりは本気を出していたけれど、逃げ切るならともかく正面切った戦闘で打ち勝つのは難しいと思うよ」

ま、どうしても、となれば一度離脱して接触を断って後に奇襲かける位はするが。

「ナギ…さんと?」

そう、亜子が問うてくる。

「ん?ナギの街頭決闘の相手だよ、カゲタロウって」

「「うぇえっ!?」」

「…って事は、ナギさんが二日も寝込んでいたケガって…」

「そう、あのカゲタロウとの街頭決闘の結果だよ、右腕切断も肩の傷や腹の致命傷もね」

「うっひゃ〜じゃ、悪人じゃん、超悪人じゃん…確かに悪人っぽいカッコだったけど、あの人…」

そう言いながら夏美がガタガタ震え始める。

「まー拳闘士相手に奇襲で街頭決闘仕掛けるっていう意味ではマナーはよろしくないけれども…」

「決闘の結果だって言うならば悪人って程ではないよ、現に闘技場の試合に出られていただろう?夏美。

まあ、座長としてはチウちゃんに勝って貰って意趣返ししたかったって言うのもあるだろうけれどもね…結果は勝ち逃げされたようなもんだけど…勝ちは勝ちさ」

そう、私の言葉に続けてクママさんが言った。

 

「ところで…ちうさんって…ナギさんとつきおうてるんですか?」

暫く、カゲタロウや拳闘の話が続いた後、唐突に亜子が問うてきた。

「…ない、付き合ってない…どうしてそう思ったのかな?」

いっそ肯定してしまった方が爆弾解除にはいいかもしれんとさえ思えたが、そばにいる聡美にそんな答えを聞かせられるわけもなく…以前に、そんなウソをつく事を私自身が認められるわけもなく、そう即答した。

「だって…ちうさん美人ですし、二人の間にはなんか言い様のない信頼関係というか…そう言うんが感じられて…それにナギさんが寝込んでいる間、献身的に看護もしてはったし、今回の療養にも付き合ってはるし…」

亜子がモジモジとした様子でそんな感じの事を言う。

「原則的には、姉弟子としての責任と言うか、習慣かなぁ…治癒術師見習いの友人が修行に参加するようになるまで、アイツのケガの治療は私の仕事だったし…何より妹分の茶々がアイツになついているからね…私はその手伝いだよ」

「ああ…お友達の付き添いでクルーズに出かけたっていう緑髪の女の子が…」

「そうそう、それと療養に関しては半分修行みたいなものだからね、着いていかないわけにはいかないから」

「成程…そうなんや」

亜子が少しほっとした様子で言った…少しジャブくらいは入れておいた方がいいかな?コレは。

「ただ…修行はもちろん、幾つか達成しなきゃならない目標もあるから恋どころじゃないって感じもあるし…それ以前にアイツは女をドキドキさせるような言動を素でするくせに恋愛事をよくわかってない節さえある…辛いよ?あいつに恋するのは」

「そ…それは…でも…それでも…ウチは」

と、亜子が少し辛そうに呟く。

「そ、それよりちうさんは好きな人とかいるんですか?コジローさんとか」

…アキラよ、お前、話題を逸らすためとはいえ、私の正体知っているお前がそれは無かろうよ…聡美と村上の視線が痛いじゃないか?

「それもない…あれでも一応弟だし」

そう言ってむくれた様子ですり寄ってきたアキラを睨む聡美の頭をなでる。

「そ、そうだよ。それにちうさんには想いあう人がいるんだよねっ!」

夏美、マテ、それを口走るな。

「そ、それを言うなら夏美とコジローだって…いい雰囲気じゃないか」

と、とっさに私までそーいう事を口走ってしまう。

「なっ…」

「ほほう…チウちゃんにいい人がいるのかい?それに夏美とコジロー君も…?どれお姉さんに聞かせてごらん?」

そうクママさんが食い付いてきて浴場での女子会は混乱を極めるのであった…

 

その後、私は差し支えない範囲で聡美について惚気る羽目に陥ったと言っておこう…事情を知らない亜子とクママさんには当の本人を腕に抱いて惚気ているという事実を悟られる事はなく、ロリコンの近親相姦のレッテル(聡美は妹という事になっている)を貼られる事は避けられた…その代わり、共寝はした事あるのにキスまでしかしていない、設定上の年齢の割にプラトニックな関係と思われたみたいではあるが。

 

 

 

「うー千雨さんーお風呂であんな体勢でたっぷり惚気られると…クラクラしちゃいます」

何とか女子会を終わらせて部屋に戻ると早速聡美が飛びついてきた…と言うかベッドに押し倒された。

「ごめんな、でも逃げられる雰囲気じゃなかったし…嫌だったか?」

私の上にちょこんと座る聡美に、私はそう問うた。

「イヤではなかったですが…ずっとそばにいてくれる貴女が大好きです」

チュッ

そう言って、聡美は私の唇にキスをする。

「あなたと一緒に研究していると、とっても幸せです」

チュッ

離れたかと思うと、またそんな事を言ってキスをしてくれる…

「聡美?」

「えへへ…私も千雨さんにたっぷり惚気て…態度でも示さないとなーって…後、恥ずかしかったのでそのお返しもですよ」

そうしてその後しばらく、私は聡美にたっぷりと惚気返しとキスをされる事になるのであった。シンプルに愛しています、との言葉で締めくくられた後の大人のキスは、私からのお返しにつながり、何度も何度も、攻守を入れ替えて…いや、攻守など判別がつかなくなるほどに続いた…聡美が幼女姿とはいえ、よく『更に先』に進まなかったものである。

 

「うう…唇が痛いです…」

「そりゃあなぁ…ほら…リップクリーム塗ってやるから」

そして、その後、そのまま共寝してこうなった。

 

 

 

「さーてそれでは次の試合に参りましょう! 第10試合、東方は地元グラニクスの自由拳闘士、女剣士チウ!今季デビューの彼女は未だ負けなし!番狂わせを重ねております!昨夜、大魔法を行使して見せた彼女! 本日はどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!

対する西方は、放浪の自由拳闘士、竜人族のフェルム・スクアーマ!その巨体と剛力から繰り出される一撃はまさに必殺と呼べるでしょう!

さて、この試合、いったいどんな展開が待っているのでしょうか!それでは…開始!」

そしてその日の午前の試合、相手は全身鱗の竜人の剣士であった。

「ぬんっ」

開始と共に放たれる大剣での一撃…よく練られた気と種族由来の強靭な筋肉による剛力で繰り出されるそれはとてもとても、重く速かった…が、流せぬほどではない。それた剣撃は盛大に砂埃を巻き上げた。お返しにと私が放った剣撃はあっさりと相手に届くが…

 

キィーン

 

まるで分厚い鋼鉄板を叩いたような手ごたえと共にはじき返された。

「うむ…剣技は見事…しかしその程度の一撃では我が竜鱗を貫くには足りぬわ!」

とのセリフと共に大剣が私の残影を切り裂いた…わざと切らせやがったな、このおっさんは。

その後も何合か剣戟を交わすが真面目に打ち合うと剣への負担が割とシャレにならない…が、交換したとはいえどうせ支給品の安物のままなのでコイツも壊れるまで使わせて貰おう。

そうしてしばらくの間、剣技の修行という事で無詠唱の魔法の射手を混ぜながら…雷属性は切り払ったが、光属性は鱗ではじきやがった…剣戟を続けていった。

「フム…本気とやらは…出さなくてもいいのか?」

「…修行」

強い相手にすぐ本気を出していれば修行にならないと言わんばかりに短くそう答えた。

「フハハハ、コレを修行と言うか…ならば出さざるを得なくするまでよ!」

と、フェルムの纏う気が出力を増す…それに合わせて私も気力を最大まで上げて剣舞を舞い続けた…

 

「…見事である」

続く剣戟の最中、フェルムが言う…全身で数か所、ほぼ同じ個所ばかり切りつけている箇所があるのに気づかれたか。

「このままでは鱗を割られてしまうでな…本気を出そう」

そう言うとフェルムは大剣を収め、鞘ごと地面に放り投げて構えをとる…このおっさんも素手のが強い勢かよ。まあ、本気と言うだけはあって、気を纏わせた拳は素早く、重く、確かにより厄介ではあった…し、唐突に火球を吐いてきやがるようになってその対応もあって一段と強くなり、おおよその位置はともかく、特定の鱗を狙えるほどの余裕はなくなった。

 

キィーン

 

「…お見事」

そしてついに、剣に限界がきた…今日は真っ二つである。

「うむ…で、見せてくれるのであろうな?貴殿の本気とやら」

「…どこまで出すかは貴方次第」

そう答えて、私は鉄扇を抜き、構えをとった。そして…

「ぬぉっ」

繰り出される拳をいなし、崩して、フェルムの巨体をぶん投げた。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 魔法の射手 雷の23矢」

「ぐっ…がぁぁぁ」

ひっくり返りながらもフェルムは火球を吐いて魔法の射手の一部を相殺し、その火球は私…の残影に向けて飛ぶ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 白き雷」

縮地にて回り込んだ私は、器用に姿勢制御をして着地したフェルムの背を、白き雷を纏わせた鉄扇で突いた…まあ、カゲタロウの時もやったがネギの華崩拳のパクリである。

「ぐぁぁぁぁぁ」

そんな悲鳴を上げてフェルムは地に伏した。

 

 

 

「それじゃあ行ってくる」

買い出しの荷物を背負って言う…試合後にまたしばらくは入れないからと風呂は堪能したが。

「おう、きぃつけてな、ちう姉ちゃん、ハカセね…ハカセ」

「気を付けてね、二人とも…ネ…ナギさんによろしく」

「うん、気を付けて…それと昨日はごめんね?」

「ん?昨日?なんかあったんか?」

夏美の謝罪にコタローが反応する。

「気にすんな、コジロー…まあ、アレは事故って事で…忘れよう…な?」

コジロー相手としてではあるが、夏美もコタローへの思いの丈を吐かされていた事であるし。

 




なお、夏美とアキラは自業自得とはいえ、恥ずかしそうなそぶりを隠そうとしている彼女を腕に抱いた千雨さんに惚気られ続けるという罰ゲーム、ついでに夏美さんはコタロー君とのことを突っつかれていました。おかげで完全に自覚させられてしまった模様。
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