例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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89 拳闘大会編 第7話 決勝トーナメント2回戦

一人での慣らし運転を終えた後、7重奏のまま『雷天大壮』のネギと実践稽古をしてみると、想定通りネギよりも出力が上がっていたようではあるが、やはりというかセプテットの出力に慣れきれずに敗北を喫した。

「チッ…やっぱり扱いにくいな…もう少し慣熟訓練が必要か」

「そうですね、千雨さんらしくないミスも多々ありましたし…」

と、ネギも私の見解に同意を示した。

「でも、さすがです、千雨さん…僕の『雷天大壮』を超えるまで強化ができるなんて」

「そりゃどーも…でもこれだけじゃあラカンのおっさんを相手にするにゃまだ足らんのだよなぁ…」

「デスヨネー…二重装填の練習もしているんですが、それでも何かが足りない気がして…考えているんですが、上手く纏まらないんですよ…」

そう言ってネギが頭をかいた。

「それこそ、お前が捻り出すべき一手だな…そう言う意味じゃあ私も最低でも何かもう一枚切り札がいるんだが…用意しきれるかどうか…今のままだと雷の暴風なり千の雷なりをゼロ距離でぶち当てるのを狙うしかねーんだよなぁ…」

「僕もです…何とか技量差を補うための方法が…って、千雨さん、そう言えばシグヌム・エレベア・トリニタスで半ば精霊化していますけどそれって大丈夫なんですか?」

「ん?まあやっている事はマギア・エレベアと同じだからな…大丈夫ではないが…後遺症はほとんど残らないはずだぞ…咸卦の呪法の保護強度を大きく上回る侵食を受けなければ…な」

「原理的には同じ…なら…マギア・エレベアでも同じ事が…精霊化が出来る…?」

「…できるな…と言うかマスターはそれこそが秘奥だって言っていた」

と、マスターのガチモード、千の雷と同格の氷系魔法『千年氷華』を取り込んだ姿を思い出す…アレは氷の最上位精霊か何かとしか表現できないモノである。

「…なら!教えてください、千雨さん、どうやればいいんでしょうか!?」

「イヤ…悪いがやり方は知らん…マギア・エレベアの秘奥らしいからな…だがエヴァが知っていると言う事はコピーのエヴァも知っているはずだ」

「わかりました…じゃあ後でマスターに聞いてみます…もしかしたらラカンさんをスペックで上回れるかもしれません」

そう言って、ネギは瞳を輝かせた。

 

 

 

翌朝、日課の筋トレを済ませて朝食をとっていると教官連が到着した。

「おうおう、やってるな、ぼーずども!今は朝飯中か!」

そう、リカードのおっさんが声をかけてくる。

「ハイッ」

ネギが応える。

「どうじゃ、チサメ、呪紋とやらの調子は」

「おかげさまでいい感じです…ラカンのおっさんに届くにはまだ手が必要ですが背中は見えました」

と、私もテオに応えた。

 

白兵戦訓練・実践戦闘訓練・各自の特殊技能訓練(私は咸卦法の瞑想と糸術、ネギはマギア・エレベア、コタローは獣化関連)を中心とした修行に打ち込みながら過ごしているとあっという間に時間は過ぎ、決勝トーナメント第二回戦の時間となった…一応言っておくが、7重奏の私と『雷天大壮』のネギとの実践稽古の戦績は私の方が圧倒的優勢、後半形になり始めた『千の雷』二重装填状態のネギとの戦績は、ネギの習熟未了もあり、私の有利である。

 

 

 

「決勝トーナメント第2回戦第2試合、北方シカオ・パレード、フミカ・グルーヴペア!対するは南方、チウーッ!」

本日のメインイベント4試合は午後13時から1時間半間隔で4試合、19時開始まで続く日程で、合間に拳闘試合を含めた余興が入る事になっており、選手紹介を兼ねた地元での活躍をまとめたPVが流されていただけの昨日とは違う感覚となっている。そして、いつもの司会娘の現在進行形でなされている煽り文句を信じるならば、ソロでの決勝トーナメント勝ち上がりという快挙に注目と人気が集まっているものの、賭けのオッズでは私が不利とみられているらしい…まあそりゃあそうか…と思うと同時に小遣い程度とは言えドラクマ貨を自分にかけておいてよかったと思う。(拳闘士ならびにその関係者は自陣の勝利にのみかけられる)

そして対戦相手は意味オーソドックスな北の民(人間)寄りの混血な魔法拳士の男女二人組であるが、シカオの方が魔法より、フミカの方が前衛よりであるとの前情報がある。

「それでは参りましょう! 開始!」

と、司会娘の合図に合わせて相手方二人が同時に詠唱を始めたのは精霊使役呪文…シカオは後衛で多めの風属性、フミカは前衛で少し少なめの水属性…私のような相手にどう戦うか、の回答の一つではあるな…数で囲んで(恐らく)大魔法で一掃する、と言うのは…負けていった選手たちの経験を生かしている。まーそれに付き合ってやってもいい修行にゃなるのだが舐めプしていられない程度には強敵であるとの認識から真面目に戦う事にする。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の精霊89柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 雷の89矢」

着想は良いのだが、こちとら魔法剣士であると誇示するように私はフミカに抜剣して肉薄し、呪文の完成を妨害すると同時にシカオに召喚され、戦乙女の形を成しつつある風精達を術者ごと薙ぎ払った…フミカはもっと前に出て私の妨害に徹した方が正解というわけである。それならば距離の関係もあり、散開を始めていたであろう戦乙女たちを一掃はできなかっただろうから。

「くっ…小手先の策は通じない…と…シカオ!」

そこからはある種、双方前衛をこなせるペアの場合の何時ものパターン…1:2の近接戦闘である。そしてそれは後衛が魔法を撃っても回避されるという事への対処でもある訳で…実は実力が伴う限りにおいては近接戦闘でタコられる方が変に前後衛ペアを相手にするよりも大変ではある。とは言え、互いに魔法拳士型であり、魔法と剣と拳の応酬と言う事になる。

 

単体では私のが優位ではあるがそれに対抗できる程度には強い…強さ評価で1000くらいか…二人組が連携してくるので不利、しかし空中機動の練度では私がかなり有利…正直、ここ暫くの特訓が無ければこの時点で押し負けていた可能性もある強敵であると評価する。

 

「ノイマン・バベッジ・チューリング 光の精霊101柱 集い来りて 敵を射て 魔法の射手 光の101矢」

互いの詠唱した魔法が激突し、気で強化された剣と拳がぶつかり合う。

「はぁっ」

「ぐっ」

剣のリーチで二人をいなしながら防戦、空中機動で壁際に追いつめられるのを防ぎつつ、魔法戦は若干有利と言った所か…あいにくと、互いに掠りヒット程度しかなく無傷である、私は。

「らちが開かないわ!」

「かといって拙攻はまずいぞ」

「でも、チウが暢気に地上戦に付き合ってくれているうちに決めないと」

強化された聴覚に二人のそんな会話が聞こえてくる。

確かに、私が空中機動魔法戦に移行した場合、優劣という意味では私が圧倒的優位にはなる…こいつらも虚空瞬動位であれば使える様ではあるが、それを繋いで空で舞える練度には達していないのは既に把握している。

「相談は終わった?」

 

魔法の射手 拡散 雷の23矢

 

そう挑発するように告げ、私は二人を跳び超える様に魔法の射手を降らして後ろに回った。

それに対応できない相手ではないのだが、その空中機動に危機感をあおられたらしく、拙速気味の乱打戦に持ち込んできた

私はそれを防戦一方で受けながら機会を待つ…そして

「貰ったぁ!」

と、シカオの援護の下に繰り出されたフミカの強い気を纏った右ストレート…を受け流し、バランスを崩させると、足払いをかました。直後、救援に向かってきたシカオに剣を突き付け怯ませると、後ろに跳ぶ。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧」

「させるかぁ!」

と、フミカに対する止めの呪文をシカオは射線に入って障壁で受け止めた。

「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精」

しかしそれはフミカをかばうように同一射線上で足を止めたという事にほかならず、その隙を見逃してやる私ではない。

「雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 雷の暴風」

そうして雷の暴風は二人を呑み込み…魔法が終わった後には気絶した二人が転がっていた。

 

「チウ選手、勝利!大快挙です!」

20カウントの後、司会娘が宣言する…それに合わせて私はやっと剣を収めて退場するように歩みだす。

「おめでとーございます、チウ選手!いつも言っていますが、勝利者インタビュー終わるまで帰らないでくださいな」

「大丈夫、止められたら止まるから…」

「あはははは…まあ良いデス。さて、チウ選手、本日も見事な勝利を飾り、準決勝へ進出が確定しました。次はいよいよあの伝説の傭兵、ジャック・ラカン氏との対戦ですが、勝算のほどは?」

「…言うまでもない」

「おっと、コレは次も勝つ、ジャック・ラカンでも関係ない…そう言う強気の発言デスか!?」

と、司会娘は私の言葉をそう解釈して煽る。

「逆…あんな化け物に勝てる自信も算段もない…それどころかペアのカゲタロウだけでも、勝てるかどうかわからない」

「おやおや、無敗の剣士チウ選手にしては弱気の発言…しかし英雄相手では仕方がナイノかもシレマセン」

司会娘の言葉にコクリとうなずいて言葉を紡ぐ。

「それでも…私はあきらめるつもりはない…刃通らぬという伝説の英雄に刃を突き立てて見せる」

何時ものように、平坦な口調で、私はそう宣言した…会場は大いに沸いたと言っておく。

 

「おう、テメェには珍しく、ふかしたじゃねぇか、チウ」

控室に戻る通路に待ち構えていたトサカが言った。

「トサカさん…まああの場で敗北宣言するわけにもいきませんし…やるからには勝つつもりでヤルのは事実です…たとえ届かなくとも」

「それもそうか」

「では失礼します」

と、着替えと入浴に向かおうとした私をトサカが呼び止める。

「あー待った」

「…何か?」

振り向いたトサカの顔は何かを悩むような表情で…

「いや、やっぱりいい」

そう、私に告げた。

「?よくわかりませんが…それでは今度こそ失礼します」

と、私はその場を去っていった。

 

 

 

「ぐっ…コレがテメェの切り札って訳か、ネギ」

「はい、『雷天大壮』にアレンジを加えて使えるようにしました…名づけるならば『雷速瞬動』と言った所でしょうか」

ネギがやっと切り札が出来たと試運転がてら見せて…と言うか喰らわせてくれた技…それは一時的に精霊化の度合いを進行させ、術者自身を雷と化して移動・攻撃する色々と危険な技だった。

「すげぇじゃねぇか、兄貴!これなら打倒ラカンも夢じゃねぇ!」

「これならさすがにあのおっさんでも知覚でけへんやろうな!」

「…なるほど、いい技だ…テメェが闇の魔法に呑まれるリスクさえ無視すりゃあな」

「いえ、これ単品では言うほどのリスクはありません、あくまで瞬間的な雷化ですから」

「…って事は思考速度はそのまま、連続使用も不可…って事か?そんなもん、少し頭冷やして先行放電や空間の電位差に気付かれれば対応されるぞ?闇呪紋発動状態なら私でも対応できる」

もっとも、それは上位風精霊を取り込んでいる状態で、雷化したネギの移動先…空間の電位差を把握できるからこそではあるが。

「はい、ですが上位風精霊の形質を取り込んでいる状態の千雨さんと違って、ラカンさんでも初見でそこを看破できるかどうかと言えば難しいかと思います…し、二重装填であれば常時雷化も可能…になる予定です」

「…あーお前なら間に合わせられるか…心理的奇襲って意味では私は副作用としての精霊化はともかく戦闘技法に精霊化を生かす予定はねぇから大丈夫…かな…」

と、頭を掻きながら肯定する…がそうなると別の問題が出てくる。

「で、そーなると継続的な精霊化って事になるから闇の魔法に呑まれるリスクが跳ね上がるよな?」

「…計算では、10日程度の鍛錬と常時雷化で本格的に数回戦闘するくらいであれば問題は殆どない…筈です」

そう言ってネギが顔を逸らす。

「…ネギ、お前さ、まだ10歳で人生まだまだなげぇってわかってるよな?

テメェの人生、打倒ラカンのおっさんと麻帆良への帰還でゲームクリアーって訳じゃあねぇんだぞ」

「無事に麻帆良まで帰れればマギア・エレベアは封印する予定ですし…一応、呑まれた場合、どうなるかの計算もしています」

「…そこまで覚悟の上か」

「はい」

そんな会話を頭に?を浮かべたギャラリーたち…聡美以外は闇の魔法の本質を知らない…に囲まれながらかわすのであった。

 

 

 

ダイオラマ球内の次の日の実践稽古にて。格上の相手を想定してとの戦闘訓練兼雷速瞬動の慣熟訓練に七重奏の私とネギの雷天大壮での戦闘中…

「アデアット!」

…と、ネギがアーティファクトを使い始めた。

「ちょっと待て、いつの間に、誰と仮契約したんだ、ネギ」

「え、はい、昨日の夕方、テオ様と…」

「いいのかよ!?」

「はい…大会期間中という条件付きですが…」

そう、ネギが私の問いに答える。

「…で、どー言うシロモンなんだ?戦闘に使えるのは確実としてさ」

「ええっと…自身の従者のアーティファクトを自在に使いこなせる能力のようです、今のはアスナさんのハマノツルギを借りようかと思いまして…」

「…って事はおっさんの千の顔を持つ英雄と気弾攻撃は実質無効化できるし、カゲタロウも圧倒できるか」

「そうなります…十分に切り札の一枚といえるシロモノかと…」

「うむ…そうだな…ネギ、お前の剣捌きを見せて見ろ」

「はいっ」

そして…まあ私は単発の雷速瞬動自体には対応できても、常時雷化には対応しきれず、かつ攻め手のほぼ全てをハマノツルギに遮られて惨敗を期すのであった。

 

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