例えばこんな長谷川千雨の生きる道   作:紅シズク

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進路選択編
09 進路選択編 第1話 集められた少女たち


「あーいっそ脳に電極でも刺すか…」

 

「脳に電極刺しても情報を具体的に読み取るのは難しいヨ、さすがの私もそこまで脳医学に詳しい訳ではないネ」

 

「そうですね、それなら記憶を読み取る魔法や夢見の魔法の応用…あるいはファンタスマゴリア(幻影空間)のほうがいいでしょうね」

 

「んー夢見の魔法やファンタスマゴリア…そっちのアプローチのほうがいいか。それがだめなら、没入型バーチャルリアリティー技術とかだな…」

 

「脳に電極よりはマシかもしれないが…没入型VRだと技術的な難度は大して変わらないと思うヨ」

 

何の話をしているのかというと、茶々丸改造計画にあたっての意見交換で、今は電子精霊開発及びその運用コンソールの話をしていた。

 

茶々丸に組み込むのなら電子精霊群とは最悪機械語で話をさせてもいいし、何とでもなる。

 

だがそれはあくまで茶々丸に既存の電子精霊群を従属させる場合の話であり、開発段階や私達が扱おうとなると、どうしてもただのコンソールだとうまく操れない恐れが出てきた。

 

というか私が、開発にあたって新しい入力ツールがほしい、と言い出した。

 

といった流れで話は脱線を初めて今に至る。

 

最近、タイピング速度が化け物じみてきた自覚はあるが、それでも高々両手10本の指による入力スピード(と、過去の入力内容の確認)がプログラム開発の律速段階になるのだ。

 

そこをブレイクスルーできればもっといろんな事ができるし、電子精霊の使役にも有利だろう。

 

メイド(エヴァンジェリンの従者人形)たちに借りてマホネットで調べてみたところ、電子精霊を具現化できたり、対話できたりするアーティファクト(相性などの基準で、従者契約などに伴って貸与される場合のある魔法具)なんかもあるらしいが…英雄クラスの魔法使いの従者に給付されるレアアーティファクトの話だ。

 

そんな上等なもん、こっち(地球)では公式には、だれも持っていないし、米国および欧州の一部魔法協会に研究用の大規模な意識直接接続型のコンソールがある程度、

向こう(魔法世界)にしても、公式には艦載の大型コンソールがやっと軍の電子戦実験部隊へ配備されつつある程度のものだ。

 

んで、基本的な魔法使いたちの使役する電子精霊はデータの精霊化という手法で行われるのだが、その元のプログラム自体も相当に洗練されたものだ。

 

機械語どころか電子信号段階まで高度に序列化された電子精霊群を構築する…これを3人で、しかもほかの研究と合わせてやるとか無理すぎる。

 

これだけに半年かけていいなら手動で何とか入力コンソールの開発まで位はやって見せるが…学校サボって研究、それも裏の事だけをやってるわけにはいかない。

 

エヴァンジェリンに上等な(感覚的には市販で買える最上位の)電子精霊群の調達を頼めればそいつを元に電子精霊群にべつの電子精霊群の構築を命じる形でオリジナルの精霊群構築や、アップデートができる自信はあるんだが…

 

…たまに忘れそうになるがエヴァンジェリンは麻帆良で服役中の受刑者なのだ。そんな上等な電子精霊群を欲しいなんて言っても購入許可が下りないだろう。

 

特に麻帆良では電子精霊群を活用したセキュリティシステムが構築されているようなので…受刑者に牢屋のカギになるものを渡すバカはいない。

 

メイドたちが使っている電子精霊群(マホネット接続用)は…本気でネット専用で、いうなれば本当に最低限、ネットワーク接続機能とブラウザ、それにわずかな記憶容量のみ、表計算やワープロソフトすら入っていない…なんて代物だ。

 

かといって、私達名義で馬鹿正直に電子精霊群を買おうとすると現段階では妨害の危険がある。

 

裏ルートでも買えるらしいが…そっちに手を出すにはまだ早いし、エヴァンジェリンに頼める話ではなくなる…と、エヴァンジェリン本人からも釘を刺された。

 

メイドたちの使っている電子精霊を元に自作するとなると…理論構築まではできているので後は入力手段さえ整えば…という段階だ。

 

電子精霊は今のまま3人がかりで開発するほど優先順位の高いのものでもないので、私が片手間で何かいい方法がないか考える事になった。

 

魔法関係でないなら人海戦術でもするんだが、まあ言っても仕方がない。

 

 

 

 

 

 

さて、こんな感じで時間は進み、初等部の卒業式でどこかさみしげな雰囲気…なんてものはかけらもない。

 

つーか、麻帆良学園の初等部から中等部への内部進学率はほぼ100%であり、今年もほぼ全員が麻帆良学園内のどこかの中学校に進学するからな。

 

むしろ大抵の奴はでっかいクラス分けだと思ってる…そういう私も春休みの実験予定について考えてて上の空だ。

聡美や超と同じクラスになれたらいいな~とかは思うが、まあ期待しないほうがいいだろう。

…逆に監視のためにまとめられる可能性もあるか。

 

 …と、私ら生徒が緊張感ないのはいいが、学園長の話が毎年終業式で聞いてる話と大差ないってどうなんだよ…と思ったが、突っ込まない。突っ込んだら負けだ。

 

そんな感じでさほど緊張感のない卒業式が終わった後、クラス解散会をやって夕方に解散となった。

 

さて、時間をもう一度大きくすすめるまえに春休みの私達について話させてもらおうか。

 

茶々丸型の稼働データ収集や茶々丸入学の手回し及び書類作成に走り回り…

 

眼球搭載型レーザーの開発にいそしんだり、すでに聡美が完成させた魔力ジェットの試作品のデータ取りをしたりした。

 

そのほかには、いくつかの魔法に関する研究をしていた。

 

私達は研究の過程である疑問にたどり着いたのだ。

 

 

 

そもそも私たちの開発した魔力動力炉とは何なんだろう?

 

 

魔法使い達の魔法における『雷』と科学的な、あるいは天然の『電気』には違いがある事が魔法使いたちの研究でわかっている。

 

もっとも顕著なものは魔法障壁に対する挙動の違いであり、『雷』はおもに対魔法障壁で、『電気』はおもに対物理障壁で減衰する。

 

さらに『雷』は対物理障壁でも減衰が見られるが、『電気』は対魔法障壁では殆ど減衰しない。

 

この事は『雷』というのは『現象の形をとっている魔力』である、という理論で説明されている。

 

つまり、魔法とは厳密に元となる事象を再現しているのではなく、魔力がいろいろな形をとっているためだ、と。

 

ならば、魔力動力炉で生み出される電力は『電気』ではなく『雷』であるはずだ。

 

しかし、茶々丸の各種データは『電気』によるものと一切変化がない。

 

そういった過去の論文を元にいくつか実験を行ったがそんな中で気づいたことがある。

 

過去の文献ではすべて『直接』発生させた『雷』で実験を行っていたのだ。

 

ここで私達はある仮説を立てた。

 

前述の研究で『雷』は全て炸裂前もしくは炸裂時に障壁を通した事は問題ではないのか?

 

つまり魔法的な現象が『現象の形をとっている魔力』であるから、先に述べた挙動が観測されたのではなく、

 

『魔法は炸裂時まで現象の形をとっている魔力によって伝播する』から、先に述べた挙動が観測されたのではないか?

 

という事である。もっとも、それは仮説に過ぎず、何の証拠もない。

 

証拠がないなら実験してみればいいわけで、極めて単純な手法をとった。つまり

 

・純科学的な(普通にコンセントから引いてきた電気で発生させた)高圧電流の放電

 

・魔力動力炉を用いて発生させた高圧電流の放電

 

・さまざまな種類の雷魔法を電極に炸裂させて発生させた高圧電流(魔法的電流)の放電

 

・さまざまな種類の雷魔法そのもの

 

これらそれぞれの魔法障壁による減衰について確認すればいい。

 

…結果は驚くべき事に、魔法その物については著しい減衰が、

 

電極に炸裂させた後の魔法的電流では中程度の減衰が、

 

魔力動力炉から発生した電流は純科学電流に近いレベルの減衰が観測された。

 

しかも、魔法的電流の減衰は導線の長さと負の相関があった。(長ければ長いほど減衰率は小さくなった。)

 

この実験を追試してレポートとして学園側に提出すれば、貢献度という面で信頼を得るのに役立つので、

 

追試と炎(炸裂後の燃焼時間による性質の違いなど)についても実験と考察を加えて論文提出する事とした。

 

別に魔法社会の一員になりたいわけではないが、魔法使い達の最新の論文でも対価に読めたらいいなぁ…という思惑である。

 

聡美は『魔法の工学的応用』に興味があるらしいが、私はどちらかというと『魔法の理学的解釈』に興味がある。

 

エヴァも多くの高位魔法使いが持つ研究者気質が刺激された様で、本格的に研究に参加してくれた。

 

…って事で結局、4人の共著として J. Jap. Magi. Soc.(Journal of the Japanese Magical Society、日本魔法学会誌)に3月の最終週に寄稿した。

 

審査結果はまだ帰ってきていないが手直しやデータ補強の必要はあってもリジェクトはないだろう。

 

 

 

あとは…逆に科学的に生じさせた電気を魔力に変換、あるいは電力により魔法を発現する事に関する理論に関する勉強をした。

 

茶々丸に搭載しておけば緊急障壁位はれるだろう、と…その目的には使えない事がすぐに分かったけど。

 

これは原理的には古くからおこなわれてきた儀式魔法や補助魔法陣に関する考察で、ぶっちゃけ簡単にできる。

 

実用化に難あり、という点以外は。

 

極論、研究室にあるような導線で円を描いてそこに電流を流すだけで障壁はできる。重要なのは明確に外と内を区切ることだから。

 

ただ、蚊すら通過の際に障壁に気付かないこと請け合いだ。一般人が無自覚でやってる誤差の範囲内の対魔抵抗の方が幾分観測しやすいほどに微弱なのだ。

 

一応、銀やミスリルなんかでやれば、よほどおいしそうな血でない限り効果はある(つまり、逆にいえば通ろうと思えば蚊でも突破できる)し、大きなものにしたり、円だけでなく魔法陣を描けばもっと効果は上がる。

 

ただ…茶々丸クラスのサイズと電力で実用的なレベルとなると…無理。

 

その分のリソースで機動力あげたり、最初から対魔処置を施した装甲を付けたりするほうがいい。

 

もっとも、麻帆良くらいになると結界を補佐する為に使っているだろうと想像はつく。

なんせ、このような魔法陣型の結界はその径に比例して(正確には面積に比例し、周長に反比例して)効果が増大する。

つまり、麻帆良を円形に囲むように電線なり堀なりを構築すれば効果は十分にある。

 

さらにいうなら電力網の一部が複雑な文様を描いていたりするだろうし、

いくつもの施設をつなぐことでそれぞれに施した結界類を共鳴させることだってできる。

 

加えて、現代の地球においては、魔導兵団を編成して交代で結界維持にあたるよりも、

エネルギー的な効率が悪かろうと電力を大量に消費してしまった方が、総コストは安く上がる。

 

まあ、中途半端な知識による推測だからどこまであたっているかはわからないが、エヴァンジェリンの予想では、

結界の規模と駐在魔法使い数、その他の活動に従事している魔法使いの割合などから察するに、

 

世界樹の魔力を完全に意のままにできる新技術を開発していない限り

(現在は利用しているが、完全に制御できているわけではないそうだ。)

魔力だけで結界を維持しているという事は考えにくいそうだ。

 

こほん、とにかく、茶々丸には装甲を施すだけで緊急障壁などの搭載はまた別の研究成果(使い捨ての呪文を封じた巻物の応用とか)が出たら考える事とした。

 

 

 

そんなこんなで充実した研究生活を送りつつ時間は進み4月1日、入寮日だ。

 

「これから3年間よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「…よろしく」

 

私は3人部屋で聡美とザジ・レイニーデイという留学生…?…と同じ部屋になった。

 

超も同じクラスで、古という中国人留学生と四葉五月という癒し系の3人部屋だ。

 

「さっそくなんだけどさ、他の部屋の友達とお昼食べに行く約束してるんだけど、一緒にいかないか?」

 

「…行って…いいの?」

 

「もちろんですよ、ザジさん」

 

「…なら…いく」

 

そしてクラスのほかのメンツだが、当然のようにエヴァと茶々丸もA組にいる。部屋は…自宅から通うらしい。

 

さらに、初等部の同期の女子で普通科に進学した有名所もA組に編成されている。

 

具体的には

 

 

 

初等部新聞部のエース 朝倉 和美

 

小1の頃から新聞部に所属していた彼女は次第に頭角を現してゆき、

 

すでに全学共同サークル報道部の主戦力の一人に数えられる記者だ。

 

 

 

初等部トトカルチョ対象No.1 神楽坂 明日菜 と 雪広 あやか

 

いつも喧嘩している、ケンカするほど仲が良い二人組。

 

雪広は雪広財閥当主の次女というお嬢様で、若干世間知らずな面もあるが善良な人間だ。

 

神楽坂は学園長の後見を受けている孤児だが天真爛漫、お転婆娘。

 

それぞれ違う方向性で男子からも人気があったようだが、気付いている様子はない。

 

 

 

学園長の孫 近衛 木乃香

 

その名の通り、学園長の孫で『遺伝の神秘』『学園長の遺伝子が働かなくてよかった、マジで』

 

などと言われてる天然タイプのお嬢様。

 

 

 

あと、この4人ほど有名ではないが情報通なら必ず知っているのが

 

 

 

幸運の申し子 椎名 桜子

 

恐ろしい直感と幸運を持っており、報道部が行った調査では能力の域に達するとか…

 

私が社会科学者ならば調査対象にしてみたいと思うくらい、幸運の申し子だ。

 

 

 

若き哲学者 綾瀬 夕映

 

先日亡くなられた故 綾瀬 泰造 元教授 (現名誉教授) の孫で、

 

綾瀬名誉教授が生きていた頃は研究室にも出入りし、才能の鱗片が見て取れた。

 

と、大学関連で知り合った哲学専攻の若手の教員は言っていた。

 

 

 

那波重工御令嬢 那波 千鶴

 

雪広財閥ほどではないがこちらもお嬢様。

 

むしろ雪広財閥と比べるから大したことなく思えてしまうが超大企業だ。

 

本人の性格はどちらかというと怒らせると怖いお姉さんキャラだろうか。

 

 

 

加えて魔法関係で、

 

大学部で魔法関係の窓口になっている明石教授の娘 明石 裕奈

 

って所か。そうそう、留学生のレイニーデイと古菲(クーフェイ)もA組に固められてるな。

 

 

クラス分け表だけじゃ何とも言えないけど、外部からも…集まって来ているような予感もする。

 

ピンポーン

 

玄関のチャイムがなる。

 

ザジがすっと玄関に向かって行って扉を開ける。そこにいたのは今、思い浮かべていた人物の一人、朝倉だった。

 

「こんにちは、えーっと、ザジ・レイニーデイさんだよね。同じクラスになった朝倉 和美、よろしくね。

 

 さっそくなんだけどさ、これから皆で一緒にお昼食べにいかない?」

 

「あー、悪い。超達と一緒に食べに行く約束しててさ…」

 

朝倉の誘いに私が割り込む形で断ろうとする。

 

「それなら問題ないヨ、千雨さん。

 

こっちの部屋のメンツが構わないならという条件で私達はすでに同意してるからネ」

 

ひょこっと朝倉の後ろから現れた超がそう言った。

 

「わたしは問題ありませんよ~」

 

聡美の言葉に合わせるようにレイニーデイもコクコクと頷く。

 

「…私も構わないけど、食事中のインタビューは節度をもってしろよ」

 

朝倉の意図くらいわかってる。留学生組の情報が欲しいんだろう。

 

「ああ、大丈夫。基本的に倫理規定はしっかり守るようにしてるから安心して。

 

この前だってちゃんとアポとってから時間守って取材したでしょ?

 

それに今日は親睦深めるのがメインだから。

 

するにしたって…次の『麻帆良の三賢者』の記事か留学生特集の予備取材くらいだよ」

 

一瞬見直そうとした私がばかだった。やっぱり取材かねてたか。

 

朝倉が言う『麻帆良の三賢者』とは超、聡美、私の三人の事だ。

 

ちなみに、個別には超が『天才の中の天才』『麻帆良大工学部の影の首席』

 

聡美が『マッドサイエンティスト』『ハカセ』『完璧超人、研究に関しては』

 

私が『機械語話者』『ロボ研の女帝』『ちう様』

 

…それぞれの呼び名の由来については詳しくは述べないが、よくもまあいろいろなあだ名がついてる。

 

「…まあいい、予定通り寮生食堂で良いんだよな?」

 

朝倉が取材をするのは私達が研究をするようにやめられない事なのだろう、

 

とあきらめて食事に向かうよう、促す事とした。

 

 

 




長らくご無沙汰しておりました。

えー一度エタっといてなんですが、本来、この話は、科学者としての視点を持ちつつも千雨さんが魔法使い社会にどっぷりと浸かっていくお話でもあるのです。

どれくらいどっぶりと使ってどう流れていくのかは…この章のテーマでもあるのでお楽しみに。

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