「さーて、いよいよ始まります、ナギ・スプリングフィールド杯準決勝第1試合、北方は伝説の英雄ジャック・ラカン、カゲタロウペア!圧倒的実力で対戦相手を薙ぎ払い、決勝トーナメントを進んできております大戦の英雄たち!対するは南方、チウ!今年グラニクスに現れた期待の新星にして、ペア戦である本大会をソロで勝ち進みデビューより無敗を誇る孤高の魔法剣士デス!」
司会娘の選手紹介を聞きながら私たちは闘技場を進み、互いに向かい合う。
「ラカン殿、この一戦、まずは私に戦わせてくれないだろうか」
「んー別に構わねぇがどうした、カゲちゃん」
すると、ラカンのおっさんとカゲタロウがそんな会話を始めた。
「以前、チウ殿と戦った際、ナギとの試合を貴殿に預けているからと互いに底を見せずに終わった…そのナギとの試合をラカン殿に譲るのだから…」
「チウ嬢ちゃんとの試合は譲れってか?あの時点でさえカゲちゃんでも負けうる相手だぜ?本気の嬢ちゃんは」
「かまわぬ…むしろそれで命散っても本望」
「…勝手に私が死力を尽くして死闘を戦うと決めつけないで」
おっさん達の会話に思わず私は突込みを入れる。
「でも、諦めねぇんだろ?このオレに剣を突き立てて見せるんだろ?なら嬢ちゃんは本気を出すしかねぇし、カゲちゃんも本気を出すというからにはそう簡単には諦めねぇ…違うか?」
「ウム、私も本気のチウ殿と死合ってみたい」
「…ソロ二連戦になるならばむしろ好都合ではある」
「ってこたぁ決まりだな…俺様はしばらく高みの見物と行くぜ」
「さーて、話もついたようですし、まいりましょう、準決勝第1試合…開始!」
と、私たちの会話を見守っていた司会娘が試合開始を告げたと同時に、ラカンのおっさんは壁際まで下がり、観戦を決め込んだ。
対する私とカゲタロウは私が空を舞い、カゲタロウが足場を固めて影刃で追い回すといういつぞやの焼き直し…から始まると思っていたのだが…
「あの時の続きと行こう!みせてもらうぞ、剣闘士としての縛りを超えたチウ殿を!」
と叫ぶと共にカゲタロウは断罪の剣を展開した私に挑みかかるように接近してくると両腕に巻き付けている二本の影刃をメインに、それをサポートするようにさらに数本の刃を伸ばして白兵戦を挑んできた。
「…見せてあげる、私の本気を」
そうカゲタロウに応えた私は影の刃による攻撃…おそらくは様子見程度…を躱し、いなし、切断しながら呪文を唱える。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷奏 三位一体の闇呪紋 発動
「むっ、それはっ!」
「私はナギの姉弟子…同系統の技を使えないとでも思った?」
カゲタロウの反応にそう返すと私はさらに装填を続ける。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷の二重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填
「なにっ、二重行使!?まさか…本気を見たいとは言ったがこれ以上は黙って見過ごす訳にもいかぬな!」
と、カゲタロウはまだ私が装填を続けると予感したらしく、これ以上の装填を阻止しようと猛攻を仕掛けてくるが、私を捉えるには至らない…
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 高殿の王 我に力を 雷の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷の三重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填
「くっ…やはり拙速な攻撃では捉えられぬか」
そんなカゲタロウの焦りを尻目に風属性の装填に移る。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷と風の四重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 嵐の女王 我に力を 風の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷と風の五重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 闇の女王 我に力を 闇の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の六重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により来たれ 闇の女王 我に力を 闇の招来」
魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の七重奏 三位一体の闇呪紋 増強装填
そして、カゲタロウの猛攻もむなしく、逃げと装填に徹した私は準備を完了させた。
「これが…今の私の全力モード…」
「フム…確かにラカン殿に刃を突き立ててみせると豪語するだけの事はある…何という圧力…それでよくもまあ、本気で戦えば私が勝つと言ってくれたものだ…まるで人の形をした嵐だ」
カゲタロウは攻撃の手を止めて私に語り掛けてくる…その声色には呆れのような感情が混ざっていた。
「あの時はまだ三重が限度だったから…色々無茶してできるようにした…」
「若者の成長は目覚ましい、とでも言った所か。肌で感じるぞ、チウ殿の今の強さを…しかし、私とて大戦を生き抜いてきた誇りがある!そう簡単にやれるとは思わぬ事だ!」
と、カゲタロウが叫ぶと千に届かんかという無数の影刃がカゲタロウの周りから沸き上がりが私を半包囲するように殺到した。それに私はただ断罪の剣を振るい、前進することで答えた。
「ならばっ」
直後、太く編まれた槍のような影刃が複数本、細い影刃の嵐の中から突き出される。そのうち一本を切り払い、できた通路に身を委ね…ようとした直前、私は大きく身を引く…とさらに十数本の太い影槍が通り抜けようとした通路に殺到した。
私は強化された身体能力にモノを言わせて瞬動連打で影刃の嵐を迂回する事に決め、さらに後退すると天井間際まで飛び上がる。カゲタロウは影刃を手元に戻すと、私の動きに対応して槍衾の様にその半数を空中の私に突撃させるとともに、残りを手元に待機させているようだった。
私は真下に跳ぶと地面を蹴って肉薄を試みる…が、まあそれくらい予想の範囲と待機させていた影刃で、太い槍を交えて対応される…ならばと先に空中を通り抜けていった槍衾たちの根本を強引に潜り抜けるべく、再び宙に舞い…反転した槍衾の追撃を逃れてカゲタロウを飛び越えて反対側に着地する。すると、カゲタロウは影刃たちを引き戻す様に私に殺到させながら影刃に埋もれる様に跳び、私から距離を取ろうとする。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 収束・白き雷」
短縮詠唱で白き雷を放つが、影布…恐らくは魔法障壁に阻まれた…うん、大体はわかった。
カゲタロウの基本戦術は面制圧攻撃による牽制で、機動が制限された際に余剰のある際にのみ反撃を企図した太い槍を飛ばしてきているのだろう…と言うか、私は態々避けているが通常の影刃ではめった刺しにする勢いでなければ私に通るかどうか怪しいとも理解している様子である…剣が刺さらないと言われるラカンのおっさんと喧嘩するつもりでスペック練って来ているとは知っているのだから当然か。
ならば私の答えは「機動力でかき回す」だ、と再び私は空に舞う。すると再びカゲタロウは槍衾を形成して向ける。それを掠めるように機動してカゲタロウから見て反対側の空に占位すると、また残りの影刃で槍衾を形成して私に飛ばしてくると同時に、最初の槍衾を形成していた影刃たちを反転させて私の次の動きに備えている。私が地上に跳ぶと待機していた影刃が殺到してくるが、カゲタロウ周辺でなく空中から打ち下ろされるそれはカゲタロウ周辺の防御がどうしても甘くなっており、私は断罪の剣で影刃を掻い潜り、そこに飛び込んだ。
対するカゲタロウは手元に残していたらしい余力、数十の影刃で迎撃、それも断罪の剣で薙ぎ払い、跳躍して距離を取ろうとするカゲタロウに追いすがる…距離を取られれば反転した第二波の影刃たちが殺到してくる…と同時に詠唱を始める。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精」
影布の障壁と、断罪の剣と同形に強固に編まれた影の剣とで私の猛攻をしのぐカゲタロウ…しかし数多の影刃のコントロールは手放しておらず、私達を取り囲むように渦巻いている…きっと距離を取られれば私に殺到してくる事だろう…
「雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐」
が、完成していく私の呪文、そして極近距離に纏いながら切りかかり続ける私に対して、カゲタロウが焦りの色が見せ始めた。
「…やむを得ぬ!」
「雷の暴風」
そして、私の雷の暴風がほぼゼロ距離で放たれると、カゲタロウは影布を密着させるように纏って障壁による防御を試み、同時に私達を取り囲んでいた影刃を自身ごとめった刺しにするがごとく私に殺到させた…本人は雷の暴風をもろに食らって吹っ飛ばされて影刃の攻撃範囲からは離脱している…で、私の対応はシンプル。雷の暴風が終わると同時に雷の暴風があけた穴に飛び込んだ。若干被弾と言うか障壁を貫通してきて割といっぱい掠って、直撃コースもあったが断罪の剣で切り払って直撃は避けた…総合すると現在の身体強化を抜いて致命的ダメージが入るほどではなかった…貫通力強化がなされているだけあって、完全には無傷とはいかなかったが。
「ほう…今のをほぼ無傷でしのぐか」
観戦していたラカンのおっさんが声をかけてくる。
「あなたとやり合うつもりで用意してきたから…コレくらいはできないと遊べもしない」
と言いつつ、吹っ飛ばされたはずのカゲタロウを探す…と、雷の暴風の射線上にカゲタロウが転がっていた。気づけば嵐のごとき影刃たちも消え去っている。
「カゲタロウ選手ダウン!カウントを取ります!」
と、司会娘がカウントを始める…止めではないが、詰ませておこうか。
「11、12、13、おおっと!?」
「うぅむ…」
途中でカゲタロウは気絶から復帰し、起き上がった。
「フム…互いに生き延びたようではあるな」
「続き…やる?」
「いや、やめておこう…コレがわからぬほどに耄碌はしておらんよ…イエスと言った瞬間に縛り上げられて首が飛ぶか心の臓を一突きか」
そう言いながら、カゲタロウは身体に緩く巻き付けられている糸をつまんだ。
「…肺かな?殺すつもりはないけれど、諦めないなら戦闘不能になってもらわないといけないから」
「フハハハハ…と言う事で死合と言っておいてなんだが、私は降参だ。すまぬがラカン殿、後は頼んだ」
「「ん、了解」」
測らずとも私とラカンのおっさんの声が重なる…私は降参を受け入れて糸を解くという意で、おっさんは私の相手を任されたという意味で…そしてカゲタロウが今度は壁際に、ラカンのおっさんが私と正対するように、立つ。
「さて、よく俺の前に立ったと言うべきかな?嬢ちゃん…いや、チウ」
「用意はしてきた…僅かとはいえ、勝機に賭けさせてもらう」
「ほう?なら楽しみにさせてもらおう…ま、楽しく遊ぼうぜ!」
と、おっさんが気弾をご挨拶とばかりに放つと『千の顔を持つ英雄』を発動し、大剣を構えた。対する私は偽・断罪の剣を正規版の血赤モード…に加えて三位一体の闇呪紋を流し込む現時点での最強設定に変更して気弾を切り裂きながら切りかかる。
キーン
そんな音を立てておっさんの大剣が真っ二つになった。
「オイオイ、なんつー威力だよ…俺様の伝説のアーティファクトを真っ二つとは…」
「あなたの肉体を傷つけうる可能性がある武装として用意した…行くよ!」
まー可能性がある、であって確実に届く確証があるわけではないが。
「うぉっとっ、あぶねっ」
とか言いながらおっさんは私の攻撃…私の剣技の粋を凝らした猛攻を新たに出現させた小剣二本で巧みにさばいていた。
「チウ選手、凄まじい攻撃!なんとラカン選手が防戦一方だぁぁぁぁ」
と、司会娘は言うが、反撃できないんじゃなくて反撃していないの間違いである。相応に育ったとはいえ、仮にも傭兵剣士と呼ばれる男相手に剣技で勝負を挑むのは分が悪すぎたか…いや、まだである。
「確かにその剣はテメェの師匠の本気並…いやそれ以上の威力を秘めていやがるが…当たらなければどうって事はねぇ」
そんな言葉と共におっさんが反撃に転じる。私は断罪の剣で何とかそれを受け止めながら、たまらずと言った体で距離をとる。
「逃がしやしねぇぜっ」
と、おっさんは気弾で追撃、私が空に舞って回避するとさらに自身で剣による追撃をかけてきた…よし、食らいついた。と、私はさらに跳び、私たちは空中で剣戟と射撃…おっさんは気弾と投擲、私は直撃して耐えるという手が使えない魔法の射手の戒め矢…を高速空中機動しながら交わすのであった。
「で、いつまでやるんだ?この追いかけっこ」
数分間そんな戦いをしていると不意にラカンのおっさんが足を止めて問うてきた…なお、結果は互いにスタミナ以外、損耗無しである。(おっさんの剣はたくさん真っ二つにしたがすぐに交換されるので損耗に入れていない)
「…一応は得意分野だから届くかもと思ったけれど…無理か」
「おう、嬢ちゃんの技量と強化済みスペックはすげぇが俺様に届く程じゃあねぇな…諦めるか?」
「諦めない」
「ん、だがその剣以外に手がないなら、飽きて来たんで割と本気で行くぜ?」
そう言ったおっさんの攻め手は精細を増す。私は鉄扇を抜き、断罪の剣との二刀流でしのぎに回る…が、次第に追い詰められてゆく…もう少しで詰まされる…粘りたかったが切り時か
「ノイマン・バベッジ・チューリング」
「おっ、やっと魔法を使ってくるか」
と、舐めた様子でおっさんが笑いながら切りかかってくるのに対して私は苦虫をかみつぶした顔で答えながら呪文を完成させる…
「雷の暴風」
「うぼぁ」
…とある仕掛けと呪血紋による短縮詠唱という無茶で発動された雷の暴風は、思いがけぬタイミングで放たれた大魔法でさすがに呼吸を乱されたらしいおっさんに直撃し、おっさんは吹っ飛んでいった。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え高殿の王 契約により我に従え 高殿の王」
吹っ飛んで地面に叩きつけられるであろうおっさんに追撃するように私は追いすがりつつ、呪文を練っていく…
「来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻」
そして、私は体勢を崩しているおっさんに向けて呪文を完成させた…殺す…いや、死体さえ残さぬつもりで。
「収束して顕現せよ 千の雷」
「やっべ」
指向性を強めた千の雷の発動寸前、おっさんの気が高まるのを感じた…防御されたか。
巻き添えを避ける為に一度空に離脱し、呪文の終了と同時に土煙の中に見える人影と気を頼りに倒れたおっさんに止めを刺しに跳ぶ。
「止めっ!」
と、胸を狙って突き刺した断罪の剣は深々と突き刺さった…かに思えた。
「あぶねぇあぶねぇ…久しぶりに死ぬかと思ったぜ」
必殺の一撃はおっさんに刺さる寸前で白刃取りの要領で防がれていた。
「ぐっ!」
「はぁっ!」
断罪の刃を伸ばしてぶっ刺してやろうとしたと同時におっさんからの干渉で断罪の刃が砕け散った。
「チッ」
「ほっ」
断罪の剣を再展開する刹那、おっさんは身を転がし、器用に立ち上がり、距離をとった。
「クッハッハ…俺様をよくぞここまで追い詰めた。褒美だ、俺様の本気を見せてやろう」
そう言いながらおっさんは構えをとった…と同時におっさんの気が膨れ上がる…
直後、反射的に構えた鉄扇で威力の過半を逃したものの、おっさんの右ストレートが私を空に舞いあげる。そのまま勢いに任せて跳び、空中ランダム機動で回避に入りながらおっさんの爆ぜる気弾での追撃を避ける。
「ふははははは、こんな楽しいケンカは久しぶりだぜ!チウ!」
「ノイマン・バベッジ・チューリング 雷の暴風」
そんなおっさんの笑い声に、私は無言で魔法をぶっ放して答えた。
「はぁっ!ラカンインパクトッ!」
…と、おっさんは右ストレートに気をのせて一応大魔法に属する雷の暴風を打ち消してみせる…短縮詠唱で威力が落ちる分、仕掛けで強化してあるはずなんだが…
「無茶苦茶な…っ!」
それから戦闘は続き、おっさんの猛攻を私が必死で耐え忍んでいる状況である…試合でなければとっくに逃げているし、もう投了してやろうかという考えさえ浮かぶ…と同時に沸いた頭がもう一枚の切り札の存在を告げる。
「…イヤ…まだ…精霊よ!」
私がそう唱え始めると体と世界の境界がゆがむ…
「我をk「ダメェェェェェ」」
観客席から聞こえる悲鳴のような静止…聡美である…ああ、バレてたか、この切り札の存在。
そして闘争酔いから醒めた私はその『最後の切り札』の使用を止め、地面に降り立った。
「おう?なんかするんじゃねーのか?」
おっさんが手を止めて問うてくる。
「少し闘争に酔いすぎていた…アレは命かソレ以上のモノを懸けた時以外は使わない」
「ほう…見てみてー気もするが、そう言う事なら仕方ねぇな、じゃあ手詰まりで投了か?別に構わねぇぞ、坊主との前哨戦にしては十二分に楽しませてもらったからな」
おっさんが言葉とは逆に、どこか残念そうに言った。
「…そう、私は前座…勝てれば何よりだけれども、ナギが勝てばいい…少しでもあなたの動きを、手の内を弟弟子に見せる為に、魔力とスタミナが尽き果てるまで付き合ってもらう」
「ふはははは、そー来るか…どーせ隙を見せれば喉笛引きちぎるつもりでの威力偵察だろう?いいぜ、来いよチウ、相手してやるよ!」
そうして、私は本気のおっさんの戦いというルナティックモードを継続する事となった。
「ふんっ」
殺到させた無数の糸をおっさんは気合一発で引きちぎってみせる。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 来たれ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐 上位雷精霊放出 雷の暴風+」
「はぁぁっラカン・インパクトおぉぉぉ」
完全詠唱に取り込んであった上位雷精霊をのせた雷の暴風は、やっぱり力比べと言わんばかりにおっさんの右ストレートに相殺された。
「ノイマン・バベッジ・チューリング 契約により我に従え高殿の王 契約により我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆 百重千重と重なりて 走れよ稲妻 千の雷」
魔力掌握 精霊の歌・雷と風と闇の六重奏+雷宮の調べ 三位一体の闇呪紋 増強装填
六重奏に弱体化した身体強化で何とかおっさんの攻撃をしのぎつつ、千の雷を装填した…興の乗ったおっさんの相手は命がけ…暴走に比べれば安いものだと禁忌を犯す…
「ノイマン・バベッジ・チューリング」
おっさんの左拳が頬を掠る。
「契約により我に従え高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆」
右拳を鉄扇で受け流し、流しきれぬ威力を逃すように空に跳び、距離をとる。
「百重千重と重なりて 走れよ稲妻」
「ラカン…」
空中で体勢を整え…瞬間、私の左腕に呪血紋が浮かび…丁度仕掛け…闘技場の天井吹き抜けに張り、ちまちまと加筆を続けていた巨大糸魔法陣の真下に入る。
「収束して顕現せよ 千の雷」
「インパクトォォォォ」
収束してさらに仕掛け…天井の魔法陣と呪血紋とで強化された千の雷が、命の危険を感じざるを得ないほど強烈な気の奔流と衝突する…そして…それらは対消滅した。
「そこっ」
「ちぃ」
その衝撃と土煙に紛れ、断罪の剣で切りかかるも、まあ当然の様に位置が露見して長剣を投げつけられて、白兵戦へともつれ込む…
そして…
「どうした、チウ、しばらく魔法も使ってねぇし、断罪の剣まで仕舞っちまってよ、限界か?」
「ぐっ…まだまだぁぁぁ」
とは言ったものの、魔力は三位一体の闇呪紋を維持するので精一杯、出血量もそろそろマズイ、スタミナは意地で持たせている…と言った具合である…おっさんも既に本気ではない…からこそ、最後の勝機がそこに見えた…気がした。
「解放 千の雷」
「なっ」
遅延呪文が如く、私は取り込んでいた千の雷をおっさんに向けて放出し、腕を一振りして断罪の剣を全力で再展開すると、土煙の中に立つおっさんに向けて突き刺した…が
パキーン
おっさんの右ストレートと正面からぶつかり、断罪の剣は砕け散る。
「っ!」
「痛って…少し切れたか」
と、おっさんが拳を見る…とわずかに赤い筋が拳についていた…気を集中させているとはいえ、それが私の最後っ屁の成果であった…その事実に私の闘争心は遂に折れた。
「…まいった…降参する」
その場に崩れ落ちて私はそう宣言した。
「おう、楽しかったぜ、チウ」
会場がおっさんの勝利を祝して沸く…こうして、私は剣闘士人生初の敗北を喫した。
チウたん敗北…まあちかたないよね。断罪の剣は白刃取りなり回避なりされていなければ刺さっていたし、実際刺さり所次第では勝っていたし、本気モードになるまでおっさんが素手のがつええしなかったのはガチモードくらいの出力でないと拳で受けると切れる可能性が高かったから。ガチモードになった後もいい試合になったのは生存に振られた千雨さんの技量と、ラカンのおっさんが楽しいケンカを無理に終わらせるべく速攻をかけなかった為。断罪の剣で刺し違えられる危険を冒せばラカンはもっと早く試合を終わらせる事は可能だった。
最後の切り札は…まあそのうち使われるかもしれないし、使われないかもしれないけれど、要するに、三位一体の闇呪紋のオーバードライブ(対価は闇魔法以上の魂への負荷)で、まあ制御できるのであれば、攻防速全スペックでラカンを上回れたであろう代物。完全に制御できるならば。それに比べれば専用呪文六つ+最高位攻撃呪文の装填くらい安いもの…と言うくらい危険な代物デス。