「お疲れさん、悪くねぇ試合だったぜ、チウ」
そう言って控室に戻る途中の通路でトサカが私を出迎えた。
「ありがとう、トサカさん…でも勝てなかった」
思わず私はそう答えていた。
「オイオイ、お前マジで勝つつもりだったのかよ、あの伝説に」
「…はい、不十分でも準備はしました。勝機は薄くともゼロじゃなかった…現に大魔法をあびせることまではできた…でも最大の切り札は、私の刃は伝説に…あのラカンという化け物に届かなかった…悔しい…です」
「確かにラカンは化け物だろうがよ、その化け物に僅かでも血を流させたテメェは何なんだ?」
あきれ果てた声でトサカが言う。
「…化け物とでも呼びたければ好きにしてください、自覚はあります」
「はぁ…小娘のくせにホントおっかねぇ女だよ、お前は…チウ…いや、チサメ・ハセガワ」
瞬間、私は目を見開く。
「…いつから?」
「一週間ほど前かな、ナギ…いやネギの野郎が物陰で変身しているのを目撃してな…それで色々嗅ぎまわった成果だよ」
そう言ってトサカは悪い笑みを浮かべる。
「で、その過程で浮かんできたテメェに似たネギと連名の賞金首のヒューマンの名前でカマかけてたった今確定したって訳さ」
「…要求は?」
ミスった…ヤる…か?
「…ナギの奴隷化…のつもりで脅迫もしている…が、アコだっけか、あの女奴隷のせいでしらけちまった。だから特にねぇよ…単に答え合わせがしたかっただけさ」
「そうか…まあドルネゴス氏の手前、稼ぎ頭をメセンブリアに売るなんてできねぇとは思ったけどな」
「だから脅迫してナギの奴隷化だよ…まーそれがわかるような奴なら金で始末つけるだろうけどな」
クツクツとトサカが笑う。
「まーネギの奴なら私ら人質にされたら奴隷化位呑むわな…」
「おっ、わかってるじゃねぇか。昨日の奴の反応もソレだったぜ…アコの奴に邪魔されちまったけどな」
「あーって事はまさか亜子の奴、ナギの正体知っちまったのか?」
「ああ、そんな感じだったな」
「…そうか…アキラあたりにフォロー入れさせるしかねーなぁ…」
こーなったら私に打てる手はもうない。
「多分、もう入ってるぜ?今朝、世迷い事をぬかしに来た時、アキラとかいう女奴隷も一緒だったからな」
「…世迷い事?」
「ああ、自分をナギの身代わりにしてくれ、何でもするから、だとさ」
「それは…アンタだからまだアリだが自殺と同義だなぁ…」
「フンっ、アコと言いテメェと言い俺の何を知っているって言うんだよ」
と、トサカが鼻を鳴らした。
「悪ぶってる割にゃ、案外真人間…って程じゃあねぇがクズにはなり切れない男…かな」
「ぐっ…そこはもうちょい褒める所だろうがよ」
「真人間が脅迫なんてするかよ」
「ええい、もういい!で、本題は、だ。テメェ、なんで拳闘士なんてやってる」
「…今更ソレか?金欲しさだよ、知っているだろ」
そう言って私はおちゃらけてみせる。
「ああ、オトモダチを解放する為のな…だがその為に命がけの戦いに赴く柄じゃねぇだろう、テメェ…特に今日の試合は命がけの死闘だっただろうに」
「んー正直、そこを突かれると痛いな…まー幸い、大抵の拳闘士より強い自信はあったし…ラカンのおっさんとの試合も実践稽古だと思えば、しくじれば死ぬかもしれない程度のリスクは何時もの事だからな」
実際問題、命の危機度で言えばマスター相手の実践稽古と何ら変わりはなかったと思う。
「あーお前の師匠、そーいう奴だったっけ…闇の福音並におっかねぇとか」
「ああ、と言うか正体ばれたからついでにばらすけど、私らの師匠、闇の福音本人な」
「ぶっ」
流石のトサカも予想外だったらしく、私の言葉に噴出した。
「才能と運と師匠とに恵まれて血反吐吐いて頑張った結果が私であり、ネギって訳さ」
「フン…だがその化け物の片割れも伝説の化け物にゃ届かなかった、と…で、ナギの奴の勝算はどーなんだよ」
「…昨日時点での勝算は私と大差ない、決め手に欠けるけど勝算ゼロと言うほどではねぇ」
…と、思いたい。
「オイオイ…駄目じゃねぇのか、それ」
「幸い、ダイオラマ球をとある貴人から借りているから一週間分程度は時間がある…その間に切り札が用意できるか否か…って所だな」
「一週間って…無理じゃねぇのか?」
「ネギはそれを可能にする天才だよ…この世界が物語なら主人公の筆頭候補さ…いろんな意味でな」
いい意味も悪い意味も運命さえも含めて。
「はぁ…俺からすりゃあテメェもナギも大差ねぇんだがな…ま、いいや。もういいぜ、しっかり休めよ」
そう言って、トサカは去っていった。
「千雨さーん?何やろうとしたんですかぁー?というか、何やっているんですか!」
「ハイ…ごめんなさい」
疲労困憊の体を引きずって風呂で汗を流した後、私は聡美からお説教を受けていた。
「まったく…ラカンさんに勝つべき理由もありますし、無茶をするのは仕方ないですがー無理の更にその先までやっちゃって良いって事ではないんですよーアレで自爆してたら泣いちゃいますよ?
しかもそれで代わりにしたのがエヴァンジェリンさんから禁じられている高位攻撃魔法の取り込みとか何を考えているんですかぁ?なんです?後追い自殺がご希望ならこの場で心中します?私はかまいませんよ?」
そう言いながら聡美には珍しく、据わった眼で見つめてくる。
「やめてくれ…私が悪かった…だから…」
「本当に…最後の最期に使う為だろうって見逃した機能を闘争に酔って使おうとするなんて…本当に…本当に仕方がない人です…せめてしっかり休んで頂きますよ…頑張ったご褒美だとかではなくて治療ですからね」
そう言って、聡美は衣服を解いて行く…
「イヤ…あの…ナギの試合…」
「あんな結果のわかりきっている試合より、治療が優先です…ほら、千雨さんも」
正直、回復まで時間がかかるにせよ、魂の疲弊レベルの侵食で済んでいる筈なのでそこまでしてもらう必要はない…のだが
「う、うん…」
私は目の前の据え膳に飛びつく事にして、私も衣服を解いていき…素肌を合わせての共寝を楽しむことにしたのであった。
「千雨さん、ハカセさん、協力してほしい事があります」
その夜、ダイオラマ球に向かう途中で私たちはネギにそう言われた。
「どうした、ネギ、なんか思いついたか」
「おかげさまで…何とかラカンさんに勝てるかもしれない道筋がつきました。その為にお二人に協力をお願いしたくて」
「その言い方からすると雷天大壮の二重装填の仕上げ…だけじゃないんだな?」
私の問いにネギはうなづく。
「はい、千雨さんの試合で確信しました。アレだけでは試合にはなっても決定打が足りないと…強化・収束済みの千の雷を浴びてピンピンしている人相手に速度重視の術式兵装だけでは火力が足りません」
「だな…私はそれを見越して火力重視で挑んで…ぼろ負けしたけど」
「禁呪まで使いましたねー」
「ハイ…それで新呪文を開発して対抗しようと思うんですが、その開発プランが二つありまして…」
そう言ってネギは比較的容易な…それでも、納期一週間とか言われたら普通は発狂する…千の雷を雷の投擲と融合させて投擲、千の雷を体内から炸裂させる魔法の青写真と、開発が極めて困難な敵弾吸収の魔法の概念を説明した。
「成程―それらの開発支援を私達に依頼したいというわけですねー」
「はい、優秀な魔法学者でもあるお二人にご協力いただければ…と」
「フム…戦闘魔法は専門外だけれども、やってみようか」
そうして、私たちの共同研究が決まった。
「時間が足りんっ」
ダイオラマ球外で空が白み始めたであろう頃、融合魔法と雷天大壮の二重装填状態での連続雷化までは完成した。しかし、敵弾吸収は骨格まではできているモノの完成させられる気がしない。
「そうですね…お二人のおかげで融合魔法…巨神ごろしは完成しましたが…」
「そーなると―エヴァンジェリンさんの巻物でも使いますかぁー?」
「…そうだな、あれの中なら主観時間はさらに加速できる」
「しかし、アレは一人しか入れないのでは…」
と、ネギが聡美の提案の問題点を指摘する。
「だが、今の体制で開発を続けても10倍加速じゃ間にあわない、あの巻物は確か最大72倍は行けると聞いているから…あれの中でネギ、お前が一人で開発するんだ」
「え…でも」
「一緒に仕事して分かった。開発力はお前が頭抜けて高い、力の王笏での支援含めても、だ」
「そうですねー単純計算、開発時間7倍で開発力が6掛け位だとしても―4倍以上の時間ができる計算になりますー」
「と、言う事だ…テメェの試合だ、仕上げはテメェががんばってみろ」
「…わかりました、やってみます」
そう言って、ネギは覚悟を決めた顔で頷いた。