「チウさん、準決勝進出おめでとうございます。あのラカンにあそこまで迫れるとは。いい試合でしたよ」
舞踏会でそう声をかけて来たのは大会前に挨拶した拳闘界の有力者で、ドルネゴス氏の様に複数の闘技場と拳闘団を運営しているというヒューマンの女性だった。
「ありがとうございます…結局負けでしたが」
「なぁに、相手は伝説とまで謳われる拳闘士です、負けても恥ではありませんよ。本気のラカンとまともに戦えた事自体が本来は大快挙なのですから」
「そう言って頂けると嬉しいです」
といった具合で私のファンのらしき男女に囲まれつつ会話を重ねていると、聡美の話題となった。
「ところで、そちらの女性は?」
「私の、その…パートナーです」
そう言って、私は聡美を抱き寄せた…その様子にファンたちがどよめく…のと一部が黄色い悲鳴を上げる。
「ほう…」
と、彼女は聡美を品定めするように見る…私は無意識に聡美を庇っていた。
「…あまり戦いが得意という感じではありませんし…お二人は良い仲なのですね」
そう言って彼女は微笑んだ。
「ええ、私の大切な人です」
「ちうさん…」
私の宣言に、観衆は再びどよめき…黄色い悲鳴が増えた感じがする…聡美は恥ずかしそうに私の腕をぎゅっと握った…きっと熱愛発覚とか書かれるんだろうが別に構わないだろう。
そうこうしているとそろそろ最初の曲が始まる雰囲気である。
「聡美…踊ろう」
「ハイ…よろこんで、ちうさん」
私は聡美の手を取ってダンススペースに進み出る…と、遠くの方でも私に意識を向けてざわつく感じがある…まあ女性二人連れは多少見受けられるが、ダンスを踊ろうとしているのは私達だけである様子だし、仕方がないか。
曲が始まり、二人で…私が男性側で…付け焼刃のステップを踏む。
「おっと」
「ふふ…案外楽しいものですね…こう言うのも」
そんな会話を交わしながら踊っているとネギとコタローが若い女性を引き連れて歩いているのが目に入った。
「さすがだな、あの二人の人気は」
「そうですねー」
そうこうしているうちにネギはアスナを、コタローは夏美を誘ってダンススペースに進み出てきて踊り始めた。
何曲か踊った後、食事を皿に盛って二人でバルコニーに出た。
「おいしいですー」
「そうだな、こういう場での食事ってあまりいいイメージが無いんだけどな」
そんな会話をしながら食事をしていると茶々丸とさよがやってきた。
「あ…ハカセ、お母さま、丁度よい所に…少しお話よろしいでしょうか」
「うん?かまわないぞ?」
「うん、いいよー」
「ありがとうございます…その…単刀直入に伺いますが、私に魂はあるのでしょうか?」
意を決した様子で茶々丸は私達にそう問うた。
「んー俗にいう生命体に宿る魂の事ならば、無いんじゃないかなー」
「そうだな」
そう、私達は答えた。
「そ、そんな…」
その回答に茶々丸はショックを受けた様子を見せる。
「茶々丸は生命…漫画的な言い回しになるけど炭素生命体ではないからねーしいて言うならー珪素生命体…でしたっけ?」
「そうだなぁ…ドール契約による仮の魂という意味ではともかく、な。まあ、自我という意味では哲学的課題になるが、十分に存在していると言えると私は思っているぞ」
一応、フォローという意味を込めてそう付け加えておく。
「そうですねー千雨さんが茶々丸に適用した開発手法は自我の発生原理を高度に模倣しているのでー」
「な、なるほど…」
茶々丸は少し落ち着いた様子で答える。
「いきなりどうした…って今のタイミングなら仮契約の事かな?」
「あ、そう言う事かーそれなら…仮契約自体『は』できる可能性が高いんじゃないかなー?」
「アーそうだなぁ…被創造系の魔法世界人が仮契約出来ていて…アーティファクトカードが伝説とされているという事は多分…な」
「そ、それはどういう…」
「んー単純に魂の強度の話なんだが…ホムンクルスなんかの人造生命は魂の強度が弱い傾向があってな…それでも通常のドールに与えられる魂…ドール魂とでもするが…よりは強いんだけどな…一応かりそめの生命でしかない魔法世界人が仮契約出来ているという事は…多少魂の強度が弱くても仮契約自体はできるという事だ」
「それでー魂って言うのは自我強度の事でもあるんだよーだから、自我と呼べるモノを持つ茶々丸は魂の強度が通常のドール魂よりも強いはずなんだよねー仮契約に必要な強度まで成長しているかは別にして」
そんな感じの解説から始まって、専門的な話が続く。
「ええっと…つまり?」
解説を終えた後、茶々丸はキョトンとした顔で問うてきた。それに対して私達は一度顔を見合わせ、こう答えた。
「「仮契約できるかは、やってみないとわからない」」
その答えに、茶々丸はずっこけた。そうこうしていると会場が何やら騒がしくなる…耳を立てるとどうやら拳闘士ナギが余興をするとか聞こえてくる。
「余興…ですか?」
「何だろうな」
騒ぎの中心に向かっていくと、ネギとクーが向かい合って座っていた。
「何かありましたか」
「少しネ…ナギと勝負をする事になったアル、丁度いい茶々丸、審判を頼むアル」
「ハイ、わかりました」
「…まさかこんな所で試合?」
ちうモードでジト目を向けて問うてみた。
「さすがに無いアルよ、舞踏会で殴り合いを始める訳にもいかないアルし、腕相撲ネ」
そう言ってクーはネギと腕を組んだ。
「では。Ready…GO!」
開始の合図と共に衝撃波が周囲を襲う…茶々丸はシレっと後退して回避していた。
「き…決まった!?」
「ナギが負けるなんてそんな…」
「いや、待て見ろッまだだ」
その言葉の通り、ネギは負けかけていたが、ギリギリ持っていた…ネギめ、慢心してフルパワーで行かなかったか。周囲でクーへの噂が飛び交う…どうやら、クーもクーなりに大冒険をしてマフィア的な組織をぶっ潰していたらしい。
…そして勝負の結果だが、ネギがマギア・エレベアの出力を紋様が見えるくらいまで引き上げるとクーは流石に力及ばず、じわりじわりと押し負けて…ネギが勝った。
「勝負アリ!!」
周囲からクーの健闘を称える拍手が起きる。
「見事でした、古老師」
「いやいや、見事はそっちね、さすがアルヨ、負けを認めないわけにはいかないネ…ということはつまり…つまり…」
と、クーは顔を赤くする…まさか、コレ仮契約したければ私に勝てとかクーが言い出したというオチか?
「ど、どうかしましたか?」
「いや、そのなぬなななな何でもないアルヨ」
そう叫んでクーは駆け出していった。
「古老師!」
そう、クーの名を呼ぶが追いかけないネギに問う。
「…仮契約の可否でもかけていたのか?ナギ」
「ちうさん…ハイ、その通りです」
「…追いかけて…クーの気持ちも考える様に」
それだけ言って、私達はその場を離れることにしたが、まあそれだけでゴシップ好きから逃れられるわけもなく、
「…彼女は私の友でナギの体術の師」
「ほう…という事はナギ選手よりも技量は…?」
「…純粋な体術の技量ならばクーの方がまだ上…かな」
こんな感じで情報を抜かれていたりする…と言うかうざいので無難な情報をまいているというか…。
ゴシップ好き達に私たちのことを含めて、無難な情報という餌を与え、踏み込んだことにはノーコメントを貫いて何とか散らせた後、私と聡美はバルコニーにいた。
「…と言う感じで補強していけばいいかなと思います」
「そうだなーそんな感じで行けばわかりやすいし、時間短縮方法も考案しやすいだろう」
…二人きりで花火に照らされて寄り添う二人の会話はロマンチックなモノではなく、火星緑化計画の論文についてであった。
「さて…そろそろ戻りましょうかーもう少しで総督の遅刻時間の一時間になります」
「そうだな、戻るか…聡美」
「ハイハイ、何ですかー?千雨さん」
「愛しているよ」
「…ハイ、私も愛しています」
そして一度だけキスを交わし、並んで舞踏会上に戻っていった。
「ナギ様、チウ様、クルト・ゲーデル総督が特別室でお待ちです。同行者は合計3名までを許可されています」
会場に戻ってネギ達と合流して、少し仕込みをしていると従者の少年からそう声をかけられる。
「わかりました」
「よーし、来たわね、行くわよ!」
「アスナさんはダメです」
「な、なんでよ!?」
乗り込む気満々だったらしいアスナの同行をネギが拒絶する。
「アスナさんは大事な体ですから」
「へ?」
「刹那さん、護衛よろしくお願いします」
「ハイ」
「同行者3名までと言うのはなぜですか?」
「慣習です」
「もし従わなければ?」
「お会いになりません」
「ちうさんは同行者の数に含まれますか?」
「いいえ、ナギ様とチウ様を除いて3名です」
従者の少年とそんなやり取りをし、ネギは少し考えた後に口を開いた。
「ではまず、のどかさん」
「ひゃ?ハイッ」
「2人目は朝倉さん」
「サンキュ、ネギ君」
「3人目はハカセさん」
「はーい」
3人目に呼ばれた聡美はいつもの調子でそう返す。
「朝倉さんは情報の分析のサポートをお願いします」
「OK、それと録画と中継ね、可能ならだけど」
「ノドカさん、打ち合わせ通りによろしくお願いします、危険な場所に巻き込んでしまってスミマセン」
「いえっ、そんな…私がおやきゅっお役に立てるなら!」
「ありがとう、のどかさん。それと…ハカセさん。計画の詳細を説明できる人員の全員投入は正直悩みましたが…総力で当たるべきと判断しました。ハカセさんは千雨さんと共に計画のプレゼンに協力してください」
「はい」
「おう」
「さ、こっちは私たちに任せて後顧の憂いなく行ってきな」
「おうよ、アニキ、いざとなったら楓姉さんのマントで総員トンズラだぜ」
「最後に千雨さん…」
「ん?なんだ?」
「戦力として、計画のキーパーソンとして…何より…そう、パートナーとして頼りにしています、今回もよろしくお願いします」
「了解…ただな?その言い方は控えろよ?いつか女に刺されるぜ」
私の言葉に周囲が笑いに包まれる。
「コタロー君、古老師…いざという時は」
「おうっ」
「任せるアル」
最後にコタローとクーにも皆の事を頼んで準備は終わり…と言った所である。
「では、いってきます!」
そうして、私達5人+相坂はみんなに見送られて総督室に向かって歩き出した。
「こちらです」
そうして、従者の少年に導かれて私達は回廊を進み…扉の前にやってきた。
「楽しいお仲間達ですね」
「え…?」
「いえ…あの村の悲劇から出発したあなたがあのような友人たちを手にしている事を少し羨ましく思いまして…今も世界に悲劇は満ち溢れていますからね…旧世界、新世界を問わず」
そうして…扉は開かれた。