…そこは悲劇の地だった…建物は焼かれ、人々は石となり…まさにいつか記憶で見たネギの村の終わりの風景だった。
「ようこそ、私の特別室へ、ネギ・スプリングフィールド君」
「ここは…!!」
「ネギ先生の…故郷の村…6年前の…!!」
「慌てる事はありませんよ、お嬢様方…これはすべて映像です」
「くっ…なんつう趣向だ」
「うわぁー初手からかましてきましたねー」
交渉と言うか総督を火星緑化計画に巻き込むつもりが初手からかまされた。
「あんたが総督ね、随分と趣味のいいおもてなしじゃない」
「どうやって…?どこからこんな映像を?」
「どこからだと思います?」
ニィィと総督の顔が邪悪にゆがむ。
「いやなに、主題をハッキリさせておこうかと思いましてね。君は答えを知りにここへ来た、しかし…本当に知りたいのは何の答えです?
――A『魔法世界の秘密』?それともB『悪の秘密組織の目的』?それともC『母の生き様』?いやいやそれともD『父の行方』?」
そしてペラペラとしゃべりだす…A以外のそれは確かに未知で、聞く価値のある情報ではある…が
「そっ…」
「いいえ、違いますね!?君が本当の本当に知りたい答えとはこんなものではない!!君が知らなければならないのは君にとっての『真の敵』!!」
マズイ…完全に総督のペースである…これでは計画のプレゼンどころの話ではない。
「6年前!!雪の日!!この日この時!!君の人生を根本から変えてしまったこの出来事!!君の村を焼き払ったのはいったい誰なのか!!それだけが君が唯一求める答えのハズだ!!
確かに君の父を求める気持ち――未来を目指す目的意識は本物でしょう。しかし、『闇の魔法』を会得した君は既に知っているハズですね?きみの本質は――そう、『真の敵』への復讐だ」
「オイッ聞くなっ戯言だ!!ネギっ!」
「先生ーっ千雨さんの言う通りですー」
しかし、私とノドカの言葉を無視して総督は続ける…全てではないにせよ、真実を突いている面もあるからうっとおしい。
「君はこの飢えが満たされぬ限り、友人たちとの休日すら満足に楽しめない、伽藍堂の人間です」
「知って…いるんですね?」
コラいかん…と同時に暫く手が出せないと割り切って私は意識の一部を電脳に飛ばして総督室のハッキングを始めることにした…
「君は誰が犯人だと思いますか?君の事です、様々な可能性を考えたコトでしょう、この夜からくる日も来る日も一人孤独に復讐の刃を研ぎながら…」
「そんなッ、ネギ先生はそんなコト…」
「A『フェイト・アーウェルンクス』B『魔族』C『始まりの魔法使い』なるほど、どれも君の『真の敵』にふさわしい。彼らが仇なら君の物語も随分シンプルなモノになったコトでしょうが…しかし…現実と言うのは往々にしてもう少し複雑で…いささかみすぼらしいモノです。真実をお話ししましょう、幼い君をこんな目に合わせた真犯人は――我々です、我々、すなわち――メガロメセンブリア元老院」
「そんな!?だって…メガロメセンブリアって――…」
「あーそう言う系ですかー」
聡美が若干の侮蔑込みでそう呟くのを意識する…
「我々が全ての黒幕です」
そう、総督が繰り返す…
「尤も…頭のイイ君のコトです、当然この程度の可能性は考慮に――」
あっ、ネギが総督をぶん殴った。そう認識した私はハッキングの手を一度止めて意識を現実に集中させる。
「先生ッ」
「アーアー、怒りで我を忘れてやがる」
「完全に暴走状態ですねー」
「無理もないよッ6年前の事件はネギ君のトラウマなんだよ、その犯人を告げられて冷静でいられるはずがない、でもっ…」
と、いっている間に周囲の映像も佳境に入ってきたようで…無数の魔族たちが現れる。
「これは――6年前の?」
「ネギ君の村の光景だよ!多分映像…!」
「こっちは無視していい…ネギが総督を殺す前に止めにゃならん!」
双方の技量から推し量るに多少ボコボコにした程度でくたばる総督ではないと思うのだが…
「ネ、ネギ先生をモニターしているいどのえにきっきが…憎しみの文字で埋められて真っ黒に…!こんな…!?そんな…ッ…マギア・エレベアの侵食…!?このままじゃ先生が…っ!?」
「うぅ…ああああッ」
ネギはそんな叫び声をあげて魔法の射手をぶっ放す。
「ぐっ…まさかこれ程とは…予想以上ですよ、ネギ君」
対して総督は部屋に備え付けの障壁を展開して耐える…そうしていると黒い霧がネギを覆い始める…いよいよヤバいな
「ち、ちょっとアレ!ネギ君が…」
「黒い霧が先生を覆って…!?」
「…素晴らしい…なるほどこれがかの闇の福音の…クク、ネギ君、私はますます君が欲しくなりましたよ」
「な…によ、アレ…」
「せん…せ…」
「あーマギア・エレベアの侵食ですねー終末期の魔物化ですー」
「チッ…こうなったら力ずくで拘束するしかねぇかっ」
「いいでしょう!!その復讐は君の正当な権利だ!!その憎しみ、私がこの身に浴びましょう!!!」
「ダメ、先生ッダメですッ全てのページが真っ黒に…ダメ…ダメェッ先生ーッ!!」
ネギを拘束する為に糸を飛ばす…が、ちょうど立体映像の方でネギの親父がネギを助けるシーンがネギと総督の間に映し出され、ネギの動きが止まる。
「ネギ先生ッ!!!」
「ネギ君!!」
「ダメですよー」
その隙にノドカと朝倉がネギの両腕を掴んで拘束する…聡美まで飛び出して腰に抱き着いた事に唖然として私は一瞬怯んだ。
「騙されちゃダメ、コレは罠だよッ!」
「ネギ先生、負けないでくださいーッ」
「ほら、千雨さん、今ですよー」
と、やっていると拡張された知覚というか、途中で止めていたハッキングの方から総督室のログとして転移と立体映像の投影が送られてくる…あの総督め、立体映像の自分を殺させるつもりだったのか…?
「先生はこんなコトの為にここに来たんですか、こんなの違うッこんなの夕映や…みんなや、わ…私が大好きな先生じゃないですーっ!!だから先生…ッ」
「う…ぐ…の…ど…かさん?」
僅かにネギの意識が戻る。
「ん、戻ったようだな」
カツカツと歩み寄り、ネギの正面に立ってネギの顔を覗き込んだ私はそう言うとビンタをかました。
「ふんっ、獣に説教しても何の意味もねぇからな…未熟者めっ」
「千雨さん…」
「そりゃあ私達にはこの日にお前が味わった辛さはわかんねぇし、お前がこの日からどんだけの孤独と懊悩の夜を送ったかも知らねぇ!!けどよッ、こうじゃねぇだろ!?この日テメェに芽生えたのは復讐とかそんな下らねぇモンだけだったのか!?そんなはずねぇんだ!!」
と、いった所で立体映像の物語の終盤…ナギさんがネギと対面するシーンに入る。
『…そうか、お前が…ネギか…お姉ちゃんを守っているつもりか?』
ネギの侵食がとけて、ヒト型に戻っていく…
『大きくなったな…お、そうだお前に…この杖をやろう、俺の形見だ』
『…お、お父さん…?』
『悪ぃな、お前には何もしてやれなくて』
『…お父さん?お父さん』
『こんなこと言えた義理じゃねぇが…元気に育て…幸せにな!』
『お父さ…お父…さん…ふ…ぐっ…お父さあーん!!!』
「この日、あんたに芽生えたのは…」
「う…ぐっ…」
と、ネギが苦しみ始める…仕方がない、あれだけの侵食である。
「先生!?」
「ネギ君!?」
「ち、千雨さん、治療を!」
「わかっている!」
私はネギの手を取り、自身が耐えられる範囲で魔素汚染を引き受けていく…これで『急性中毒は』楽になる筈だ。
「スイマセン…千雨さん…皆さんもご迷惑を…」
パチ…パチ…パチ…パチ…
そんな拍手と共に総督が現れる。
「フフフ…お見事です、お嬢様方…さすがはネギ君のパートナーたちですね。
マギア・エレベアで不安定になっているネギ君なら容易く堕ちると思ったのですが…まさか主に何の力も持たないお嬢さんたちに止められるとは…ねぇ?」
そう言って総督は私に視線を向ける。
「残念です、どうせならこの私を『殺す』ところまで行ってくれれば大変都合が良かったのですがねー」
イラッときた私は腹いせにハッキングを進め、小夜の霊波と干渉している臭い幾つかの障壁を解除した。監視は既に警備室にダミーデータを送ってあるのでokである。
「…ちょっと総督さん、言ってるコト、やってるコトが回りくどくてよくわかんないやね。結局何が目的なの、アンタ」
朝倉が若干切れ気味に問う。
「フフ…目的ですか…それは当然ネギ君を我々の仲間に引き入れる事ですよ…では――…」
と、総督が指を鳴らす…既に総督室の電子システムは掌握しているのだが、通しでよいだろう…と部屋の立体映像を切り替える。
「旧世界出身のお嬢様方にもわかりやすく説明して差し上げましょう、御覧なさい、コレが魔法世界、かつて地上を追われた者たちの楽園…となる筈だった惑星です」
「これはー?」
「幻想空間を利用した映写装置です、非常に高価な魔法具ですが」
いつの間にか現れた少年従者がのどかの問いに答える。
「フフ…ネギ君はマギア・エレベアの影響で非常に不安定になっていました。一歩こちら側へ踏み出させてしまえば引き入れるのも簡単かと思ったのですがね、奇策は奇策…正攻法に切り替えましょう」
「そんなコトの為にこんな茶番を…?」
「目的のためには手段は選びません」
再びの場面切り替え…コレも通しである。
「では、最大限ぶっちゃけて簡潔に解説致しましょう…純血の魔法使い市民5000万人と魔法世界最大の軍事力を要する超巨大魔法都市国家、メガロメセンブリア――その最高機関である『メガロメセンブリア元老院』これは我々の『敵』です。滅んだとされる『始まりの魔法使い』、これも我々人間の『敵』、その遺志を継ぐ『フェイト・アーウェルンクス』等も同様、今最も危険な『敵』でしょう。亜人たちの帝国『ヘラス』…残念ながら彼らも障害の一つでしかありません…如何です?シンプルでしょう、つまり――これら全てそのことごとくを打ち倒す!!ネギ君、君にはその為に力を貸してほしいのです」
「「「「ハァ!!?」」」」
世界征服電波でも受信しているのかこの総督は…と思ってはみた…が次の言葉で状況が理解できた。
「そして――この滅びゆく世界からすべての人間…6700万人の全同胞を救い出す…それが我々の目的です」
「「「「「アー」」」」」
それで合点がいった私達はお互いに顔を見合わせる。
「な、何ですか、その反応は」
「大体状況は理解しましたー」
「ですが…メガロメセンブリア元老院も敵なんですか?さっきは我々って言っていたのに――…」
「あんた、関与していないんだね?ネギ君の事件に」
「…私はその罪から逃げるつもりはありませんがね、ネギ君も殴る相手がいなくなると困るでしょう。事が全て終わった後には思う存分私を殴り殺してかまいませんよ」
「てめぇ…」
『復讐』を蒸し返すかと私は怒りをぶつける。
「「千雨さん」」
が、聡美と、まさかののどかに止められた。
「『クルト・ゲーデル総督、今この場で言った言葉に嘘・偽りはありませんね?』」
ノドカが問う。
「ほう…」
「のどかさん…」
「すべて真実です、そしてこの人は先生の村の事件にも関与していません」
「フ…」
「…クルト…さん」
ズズン
と、言った所でそんな音が場を覆う…クルト・ゲーデル総督の用意した立体映像の開演である。
それはナギ・スプリングフィールドが始まりの魔法使いを殴り飛ばすシーンから始まった。
「父さん!?これは…!」
「まあ、私が言葉でいくら言っても簡単に頭を縦には振れないでしょう、そこで…こんなものを用意しました、私の理解する君の…『父と母の物語』です」
そうして始まった物語の第一幕はナギと始まりの魔法使いの問答であった。始まりの魔法使い曰く『私を倒して英雄となれ、羊達(民衆?)の慰めにもなる、しかし全てを満たす解はない、いずれはナギを含めたすべてのモノに絶望が訪れる』と。ナギ曰く『うるせぇ、明日世界が滅ぶとも諦めないのが人間である』と。そして始まりの魔法使いは『私の語る永遠こそが全ての魂を救いえる唯一の次善解だと知るだろう』と告げ、滅んでいった…
第二幕、戦争の終わり…アリカ女王とナギのイチャラブシーン?から始まり、二つの怪しげなシーンを挟んでアリカ女王とナギの別れ…そして酒場での終戦祝い…特に気になったのは2600年の絶望というあたりか…そうなってくると世界の寿命がそろそろやばいと見える。
第三幕…オスティア崩落…世界を救った代償に自らの国を滅ぼしたと嘯くアリカ女王…歴史に刻まれたとおり、全人口の3%という奇跡的少数の犠牲と共にオスティアは滅び…民は難民となって災害復興支援名目で王国はメガロメセンブリアに実効支配される事となった。
第四幕…囚われのアリカ女王…メガロメセンブリア一部勢力の陰謀によりアリカ女王は議会の最中に囚われ、投獄され…2年後の処刑が決まる…難民対策のための手、世界を救うために打った手により多くの非難を浴びていたアリカを助ける者は…もはやおらず…ナギ達は流浪の魔法使いとして生きていた。
第五幕…刑場…まあ俗にいう『ざまぁ』であり、処刑場から助け出されたアリカ女王とナギが結婚を約束するシーン…ということでいいだろう。
そしてエピローグ…アリカの名誉もメガロメセンブリア元老院の虚偽と不正も正されることはなかったと怒る若き日の総督に、後のことは僕らでやろうという高畑先生…と言った感じであった。
「父さん…母…さん」
「よよよ、良かったですぅーッ一時はどうなる事かと…!アリカさまも無事助かって、二人は結ばれてハッピーエンドでホホホントに良かったですー」
「まあ、無事じゃなかったらネギの奴、生まれてないしな」
「そうですねー」
「ちゃんと撮れましたかー?」
「ばっちり、コレはみんなにも見せないとね」
「フ…フフいやぁ~…何度見てもこの件はいいですねぇ」
と、総督迄泣いていた。
「ああ、ご心配なく、この映画はほぼ事実ですよ。ナギとアリカ様お二人のみの場面も本人たちへの綿密な取材のもと造りましたから」
「…クルトさん、あなたはアリカ様を好きだったんですね?」
「は?」
「…あ、やっぱり」
「余計なお世話です」
「まさか、ソレがあんたの行動の理由ってんじゃないだろうな?」
「ハハハハハ、さすがはお嬢さん達、良い着眼点ですが…本題からずれますので無視させていただきます」
そう言って、総督は笑ってごまかした。
「さて…如何でしたか、ネギ君。メガロメセンブリア元老院の悪逆非道、君の父と母がいかに世界のために尽力したか、おわかり頂けたでしょうか?」
「で、結局何が言いたいのさ、アンタ」
「いえ、何…父と母を追うネギ君には全てを話し、事情を十分に理解して頂いた上でその意志を継いでもらいたいだけですよ」
…と、なると妥協点は火星緑化計画へのネギの参画あたりになるだろうか…まあ別に構わんか本人にその気はあるだろうし…私らが卒業するまで位は猶予を貰ってもいいかと思うが…ね。
「さあ、ネギ君、我々とともに闘いましょう。父と母の意志を継ぎ世界を救う、これこそが君の今回の旅の結論のハズですよ」
その言葉にネギは短く思索に入った…ように見える。そんなネギに提督は畳み掛けるように言葉をつづけた。
「何を迷うのです?君の敵がメガロメセンブリア元老院であることは明白でしょう…彼らはオスティアの地と『黄昏の姫御子』の力を手に入れる為にアリカ様を陥れたのです。
それに失敗すると次はアリカ様の遺児である君を狙った…この意味はわかりますね?そう…君は彼らと闘うことで母の名誉を守り、君自身の復讐を果たすこともできるのです!!
そして君は未来をつくることもできる。追うべき理想、継ぐべき志、君も父と母の道を行く為に…答えは一つです、私と共に戦いましょう!世界の為に!!
答えを。
迷う理由は何一つないと思いますがね」
そんな提督の長演説の間、私はプレゼン用の簡単な資料を電脳側で作成していた。
「フム…では3分間差し上げましょう…その間、じっくり考えてみてください」
そう言って提督は少し下がって口を閉じた。
ショージキ、火星緑化計画を遂行するにあたって政治力は必要なのでこの船に乗ってしまうのもアリではあるのだ、ネギがネギ先生でいられるかどうかというあたりを度外視すれば…まー政治的に大変な目にゃあうだろうけれども。
そう考えながら私は引き続き、プレゼン資料を作っていた。
「時間です、答えを聞きましょう、私の仲間になるか否か」
「せんせー…」
「ネギ君…」
「んー…どーなりますかねー」
「さぁ…?ネギにとっちゃ一長一短だからなぁ…茨の道だが」
そんな言葉を交わしながら見守っていると、ネギが口を開いた。
「………わかりました、仲間になりましょう」
「ほう」
「ネギく…」
「へえ…」
「その代わり、僕の仲間には手を出さないと約束してください、それに僕たちの指名手配の解除も…そして何より…貴方の真の目的を果たす手段に僕らのプランを採用していただきます」
そう、ネギは言った。