食戟のキュウト   作:@^言^@

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極星寮

 

 

 

極星名物、腕試し……。

ハッキリ言うがこの制度作った奴マジで表出てくれ。

 

 

今にも死にそうな体を引きずり、外見とは裏腹に綺麗で大きな厨房を練り歩く。

厨房の隅から隅まで食材をかき集めたが肉類は当然、卵や小麦粉、米一粒すらも無く、調味料を除けばある食材は野菜系のみ。

それも使いかけの最早食材といえるかどうかも分からないものばかりだ。

 

 

「食材はこれで全部か。ちょっとキツイな」

「だから言ったんだよ。もう今夜は諦めて、また日を跨いでから来な」

「いや、キツイとは言ったけど出来ないとは言ってない」

「……なんだって!?」

 

 

信じられないといったような顔をする鬼婆、もとい極星の聖母さん。

 

 

「何も食材はゼロじゃない。ちょっとでも確率があるならやるに決まってる」

 

 

言いながら俺は調理台の上に幾つかの野菜を置くと、ふみ緒さんは怪訝な顔で調理台の上に置いた使いかけの野菜をじろじろと見る。

そんなに見つめても食材は野菜、どこをどう見ても全部野菜、米も缶詰も無く野菜だけだぞ。

 

 

「アンタね、アタシは動物じゃないんだよ!野菜ばかり出されて――――――」

「まぁまぁ。合格か不合格かはそれは出来た品を食べてからでいいでしょ」

 

 

動物園に居ても違和感ねーぞ、とは死んでも言えないが怒るのも無理もないか。

野菜は基本的に好まれる料理じゃないし、俺も昔はよく残していた料理の一つだ。

 

 

「ふん。下手な品を出したらタダじゃおかないよ」

「おー、怖い怖い。こりゃ失敗はできないわ」

 

 

余裕ぶってる割に何を作るかまだ迷ってるけどね。野菜料理と言っても沢山あるし、何にすっかね。

 

 

「………あっ!」

 

 

そういや前に料理本で見た野菜のみの料理があって、試しに作ってみたらそこそこ美味しかったことを思い出した。

この食材の量では完璧とはいかないがアレなら満足させられる出来になるかもしれない。

 

作る料理が決まれば後は頭の中でプロセスを組みつつ実行に移すだけだ。

一度作ったことのある品が出来るまでそう時間がかからなかった。

 

 

 

 

「さぁ、召し上がってくれ」

 

 

ふみ緒さんに差し出した皿には色取り取りの野菜。

旬の野菜から定番野菜まで、厨房にあった数少ない野菜全てを盛りつけた品だ。

 

 

「なんだいこれは?ただ野菜を皿に盛っただけじゃないかい」

「感想はまだ早いぞ。言うのは食べてからな」

「ったく、こんなものでアタシを満足させられるワケが……」

 

 

文句を言いながらもふみ緒さんは野菜を箸に取り、口へ運ぶ。

 

 

「……っ!!」

 

 

野菜を口の中に入れ咀嚼した瞬間、彼女はまるで金槌で頭を叩かれたかのような顔になった。

よだれを垂らし、目をパチクリとさせ実に面白い顔をしているので反応に困る。

 

 

「これ、ただのサラダバーじゃないね!?」

「サラダバー?失礼だな、そんなものと一緒にされちゃ困る」

「じゃあ、何だいこれは!」

「"ガルグイユー"フランスのとあるレストランではメインディッシュにもなっている郷土料理だ」

 

 

普通のサラダバーは単に野菜をごちゃ混ぜにして詰めてあるだけだが、ガルグイユは違う。

それぞれの野菜一つ一つに完璧な火入れ、大自然の甘味を限界にまで引き出して初めて成り立つ料理。

 

………正直に言うと使える野菜の量に限界があったから、正確にはガルグイユもどきだけど。これは黙っておこう。

 

 

「どうだ?そこらの野菜料理とは一線を画すだろ」

「こ、こんなモンあの食べ残しでどうやって作ったっていうんだい!?学生のレベルじゃないよ」

「お褒めの言葉ありがたいけど、学生レベルで語られるのは心外だ。もっとデカいスケールで語ってくれないと」

 

 

コッチは親が居ない時も、金貰って品物を客に提供する生活を何年もしてきたんでね。

まだまだ経験は浅いけど腕に関してはそこらのプロにも負けない………と思うぞ。

 

 

「フン、口の減らない餓鬼だね。その口調あの小娘を思い出すよ」

 

 

ブー垂れつつも箸を止めどなく動かしガルグイユを頬張るふみ緒。

何て言ってるのか全然分からないが俺はうんうんと適当に頷きつつふ食べ終わるのを待つ。

 

 

「ごちそうさん」

「食い終わりましたか?それで本題に戻るけど、俺はお気に召しましたかい?」

 

 

今回は食材が少ないとは言え野宿がかかってるので編入試験同様全力で取りくんだ。

これで「不味い、野宿」などと言われようものなら俺は遠月を辞めよう。

 

 

「いいだろう、耶雲恷人………アンタはね………アンタは………」

 

 

速攻でYesかNoか言うかと思ったが、中々焦らす婆さんに俺は息を飲む。

まさに気分は某クイズ番組の挑戦者で例のBGMが頭の中では流れる。

 

 

「不合格だね」

「………………」

 

 

その一言を聞いた瞬間、俺の世界が止まった。

今までの自分が全否定されたかのような衝撃を受ける、

 

 

「ウソに決まってんだろ」

「ババァァァァァァァァ!!!」

 

 

彼女はけらけらと笑っているが俺は本気で焦った。

全く、なんて心臓に悪いババァだ………一瞬ホントに「さよなら遠月学園」ってテロップが頭ん中駆け巡ったぞ。

 

 

「ほれ、受け取りな」

「おっと!」

 

 

まだ心臓の鼓動が収まらない中、突然ふみ緒さんから投げられた物をキャッチする。

手を開けて受け取った物を見てみると、それは3ケタの番号が刻まれた鍵だった。

 

 

「アンタの部屋の鍵だ」

「ってことは……」

「耶雲恷人、入寮を許可する!!」

「おっしゃあ!」

 

 

入寮及び野宿回避成功に思わずガッツポーズをとる。

これで何とか疲れが取れた状態で明日の日を拝めそうだ。

 

 

「そうそう。今205号室で歓迎会があってるから、荷物置いたらアンタも飛び入り参加しな」

「歓迎会?」

「入寮歓迎会さ」

 

 

俺が寮に見たとき、あの外まで響いていたあの複数の笑い声は俺より先に入寮した奴の歓迎会だったのか。

あれだけ盛り上がっているであろう最中に、新入りが飛び入り参加するのも中々勇気がいるし疲れているので風呂に入って寝たいが、自己紹介ぐらいはしておいた方がいいだろうな。

 

俺はふみ緒さんに「これから世話になります」とだけ告げ、俺はその歓迎会が行われている部屋へと向かった。

 

 

 

「幸平創真に耶雲恷人か。今年の極星には、本当に面白いのが入ってきたね……今後が楽しみだよ」

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

自室に荷物を置き205号と書かれた部屋の前まで来ると、扉一枚の向こう側ではまるで野郎祭りでもあってるかのような品の無い声が響いていた。

これは恐らくドアを開けて俺が入るとこれまでの騒がしさから一転、いきなり静まり返るパターンだな。

と言っても、いつまでも突っ立ってるのも疲れを倍増させるだけなので意を決してドアを開く。

 

 

「ぎゃははははは!一色先輩さいこ……………ん?」

「どうしてかな?気付いた時には裸エプロンになっちゃ……………え?」

 

 

俺がドアを開けると、目の前には裸エプロンで踊っている男の姿があった。

危険を感じた俺はとっさに思わずドアを閉めるが、5秒後今度はあちら側からドアが開く。

 

 

「すまないね、見苦しい物を見せてしまったよ編入生くん」

 

 

爽やかな笑顔で中から出てきたのは先ほどの裸男。見苦しいと思うのなら服を着ろ。

 

 

「ついさっきふみ緒さんから聞いたよ!耶雲恷人くんだね!さぁ、早く中に入って!」

「えっ」

 

 

いきなりマシンガントークをかまされたかと思うと有無を言わさず部屋の中へと引きずりこまれる。その無駄の無い動きに抵抗すら許されなかった。

慌ただしく部屋の中に入ると、好奇心入り混じった複数名の男女それぞれの視線が一斉にこちらを向く。

 

 

「みんな、新しい仲間2人目の耶雲恷人くんだよ!」

 

 

そして何故か転校生ばりに勝手に自己紹介される俺。この人フリーダム過ぎだろ。

 

 

「お、恷人じゃん!お前もこの寮に来たんだな」

「………やっぱり創真か」

 

 

一番最初に言葉を発したのは俺がよく見知った男「幸平創真」。本日2回目のエンカウントである。

まぁ、先に入寮した奴がいるって言われた時点でそうじゃないかと予想はついてたから今回は驚かないぞ。

 

 

「え?何、幸平知り合い?」

「おう、入学前からな」

「へー……あ、私は吉野悠姫(よしのゆうき)ね!」

 

 

創真に続いて、元気な挨拶をしてくるのはお団子ヘアーの小柄な少女。

見た感じ明るそうな子でとっつきやすそうな雰囲気だ。

 

 

「私の隣にいるのは榊涼子(さかきりょうこ)!」

「榊です。よろしくね耶雲くん」

 

 

榊と呼ばれた子の方を見ると、吉野さんと違いなんとまあグラマーな体系で大人っぽい感じの女子生徒だった。何かお酒みたいな一升瓶持ってるし女子校生には見えない。

 

 

「後ろで本棚にもたれかかってんのが伊武崎峻(いぶさきしゅん)で、そこで倒れてる丸眼鏡は丸井善二(まるいぜんじ)ね」

「……………」

「……………」

 

 

吉野さんに自己紹介されたものの、二人とも全く喋らない。というか一人は起きてるか寝てるか分からんし、もう一人は地面に突っ伏してダウンしている

とりあえず伊武崎ってのが前髪で目が隠れてる男子生徒で、丸井というのが文字通り丸い眼鏡をかけて倒れ伏してるのが丸井か。

 

 

「そして極星の癒し!田所(たどころ)めぐ………あれ?(めぐみ)は?

「恵ならそこにいるわよ」

 

 

榊さんは俺の足元を指さす。

さされた足元を見ると、おさげの女の子が尻もちをつきプルプルと小動物のように涙目で震えながら俺を見上げていた。

このおさげどっかで見たな………。

 

 

「あっ、思い出した!今日実習前にぶつかった女の子だ!」

「ひっ……!」

 

 

おさげの子の後ずさりに俺は少し傷つく。

どうしてここまで怯えられなくてはならないのだろうか。

まさか始業式での挨拶が原因とか?いや、創真のような悪目立ちする挨拶じゃあるまいしそれは無いか。

 

 

「田所ー、そんなにビビんなくても恷人フツーに面白い奴だぞ」

「大丈夫だって恵、最初あれだけ関わりたくないって言ってた幸平だっていい奴だったじゃん!じゃあ耶雲もいい奴だよきっと!」

「そ……そうだよね。創真くんも実は優しかったし、もう一人の編入生くんも怖くないよね」

 

 

創真、フォローありがとう。吉野さん、その理論はよく分からんけどありがとう。

まだ会ってそんなにたたないが俺はお前達と同期でよかった。

でも創真よ、俺が怖がられてる理由の一つにお前があったってこと踏まえるとプラマイゼロかな。

 

 

「今日は悪かったな。怪我とか無かった?」

「へっ?は、はい!私は全然大丈夫です!私こそ急いでで………その上勝手に怖がってて、ほんとにごめんなさい」

「いやいや!別に俺は全然大丈夫だからさ!!」

 

 

その話題を出した途端、だんだん表情が暗くなっていくおさげの子。

別にここで出すべき話題じゃ無かったな……失敗した………。

ああ、もう今にも後ろから軽くと押したただけで目から涙がドッとあふれ出しそうな顔じゃないか。

 

 

「何て言うかその、あー!とりあえずお互い悪かったってことで、もうこの話はナシ!」

「え?」

「俺も君も、次からは急がなくていいようにしような?その方がお互いの為になるしさ!これからは規則正しい生活を身につけようぜ!」

「…………」

 

 

思考をフル回転させ言葉を紡いだ結果、気が付けば俺は自分でも何言ってるか分からない支離滅裂なことを口走っていた。

 

 

「…………うん!そうだね、そうしよっか!」

 

 

思いの他何とかリカバリーに成功してほっと胸をなでおろす。

でもよかったよかった!流石に入寮初っ端っから女の子を泣かせるようなことがあれば袋叩きにされかねん。

 

 

「なんだ、恷人と田所知り合いだったのか?」

「んー、知り合いってほどじゃあないけどな。なぁ?」

「えへへ」

 

 

"えへへ"とかいう笑い声初めて聞いたわ。すごい可愛い笑い方するなこの子。

ていうかこの寮の女の子は感じの良い子ばかりでいい。

最近会ったのは我が強くてどう扱えばいいのか分からない女の人だったから、こういう子たちが新鮮に思える。あ、例の婆さんは別な。

 

 

「…何はともあれ、これからは同じ釜の飯食うんだし仲良くしようぜ。えーと……田所さんだっけ?」

田所恵(たどころめぐみ)です。これからよろしくね、耶雲くん」

 

 

あの時は手を握ってくれなかったが、今はこうして握手に応じてくれたところを見ると、誤解は解けたみたいだ。

最初はどうなることかと思ったが、今後はこの子とも仲良くやってけそうだ。

 

 

「いいね……これぞ青春!!これが学生!!」

 

 

拳を固く握りどこぞの熱血教師のようなセリフを言う裸男。

とりあえず彼は一体何者なんだ……?色んな意味で只者じゃないことは確かだが。

 

 

「僕はこの寮唯一の2年生、一色慧(いっしきさとし)だ。一色先輩と呼んでくれたまえ」

 

 

あ、まだ自己紹介してなかったっけこの人。

インパクト強すぎて逆にもうしてると勝手に勘違いしてたわ。しかも年上かよ。

 

 

「よろしくお願いします一色先輩」

 

 

眩しい笑顔と白く輝く歯で握手を誘ってくる一色先輩に対し、裸エプロンなのが残念だったが俺はこれから頼りにさせてもらう先輩としっかり握手に応じる。

 

 

「うん、これで君も今日から正式に仲間入りだ!ようこそ極星寮へ、耶雲恷人くん!」

 

 

この握手の3分後、俺は一色先輩に洗脳されたのか彼が裸エプロンでもだんだん違和感が無くなり、5分後にはまるで元から寮生だったかの如く創真とドンチャン騒ぎに参加するとは思いもよらなかった。

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