食戟のキュウト   作:@^言^@

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secretary

 

 

 

スポットライトに照らされつつ、大勢の観衆の中で噛まずに宣戦布告を決めることができ心の中でガッツポーズをする。今の俺は中々に輝いているかもしれない。

さぁ、後は薙切がどう返事を返すかだが……。

 

 

「…………」

 

 

先ほどまであれだけ盛り上がっていた会場は一瞬にして静まりかえっていた。

当の薙切も目を点にして、その端正な顔をアホ面に変貌させている。

 

 

『で、返事は?』

 

 

俺がマイクで返答を促すと、我に返った何百人という観衆からは俺に対する非難の声があがる。

 

 

「てめぇ誰に言ってんのか分かってんのかぁぁ!!」

「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ編入生ェ!」

 

 

見事にテンプレート通りの罵声を背に受けながら、俺は状況を飲みこみ冷静な顔に戻った薙切を見据える。

 

 

「……公共の場でこんなこと、一体何考えているのかしら?」

「質問を質問で返すな」

「始業式の時から馬鹿だとは思っていたけれど……ここまでとはね」

 

 

首を横に振りため息をつく薙切。もったいぶらないで早く言え、という気持ちを抑えつつ次の言葉を待つ。

 

 

「ふー………」

 

 

「君との食戟なんて時間の無駄もいいところだわ、丁重にお断りさせて頂きましょう」

 

 

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・んー?

 

 

「今、何て言った?」

「君と食戟する気はないと言ったのよ」

 

 

なるほどね、俺と戦う気は無い、と。そうかそうか………って

 

 

「はぁ!?」

「一々大きな声を出さないで、騒がしい」

 

 

そりゃあ大きな声を出したくなるわ。絶対に受けてくれるとは思ってなかったがそれでも断られると理由が無いと納得がいかない。

 

 

「さっきのドスコイとは戦ってどうしてお前は俺と勝負しねーんだよ?!」

「君に勝った所で私にはなんのメリットもないからよ」

「お前が勝つ前提の話だろそりゃ」

「?」

 

 

何だその「私、何かおかしいこと言った?」みてーな顏は、腹立つからやめろ。

 

 

「で、要件はそれだけかしら?」

「…………」

「私も暇じゃないの。それではごきげんよう」

 

取り付く島もない……。

コック帽を頭から取り、踵を翻して舞台へ帰ろうとする薙切だがこのまま帰すわけにはいかない。

 

 

『十傑が一般生徒の挑戦を受けずにビビって逃げるのか?』

 

 

俺は再びマイクを使いできる限り思いつく言葉で薙切を挑発する。

 

 

「はっ、安い挑発ね」

 

 

煽ってみたものの薙切は振り返りもせずスタスタと歩いていく。俺のボキャブラリーの無さを恨むぞ。

ちょっとやそっとの煽りでは効かないのならば………コイツでどうだ。

 

 

『美味しいわよっ……』

「…………っ!」

 

 

ボソッとわざと聞こえるように小さくそう言うと、薙切がピクッと肩を震わせて足を止めた。

というよりマイクを持っているので完全に聞こえただろうけど。

 

 

「……なんですって?」

 

 

おっ、効いてる効いてる。

 

 

『逃げるのも仕方ないよな。なんたって入学試験時には俺の料理おいちーおいちー言いながら食ってたし』

「な、何を言ってるの!あれは試験だったからで!」

『自分より上と認めちまった料理人に勝負を挑まれたとなっちゃあ、そらビビって逃げちまうわな。その点の気遣い、しかも"女の子"料理人に配慮することが出来なくてゴメンね、え・り・な様。何が言いたいかと言うと怖いなら最初からそう言えよ………ったく』

「…………」

 

 

髪で目が見えないため表情が分からないが、煽りまくった結果少々聞いているみたいだ。

よーし、あと一押し。

 

 

『敗けるのが怖いなら料理人なんてやめちまえ』

 

 

その一言が引き金となったのか、薙切はゆっくりと顔をあげ俺を見てこう言った。

 

 

「……この私をここまでコケ下ろしてくれたのは君が始めてよ」

「そりゃ、光栄ですわ」

「いいでしょう」

「ん?」

 

 

「そこまで言うならいいでしょう。勝負をお受けします」

「……今、確かに"受ける"って言ったからな?そのセリフ忘れるなよ?」

 

 

思わず笑みがこぼれる。勝負を受けさせる気にさえすれば、もうコッチのもんだ。

 

 

「ただし、耶雲くん……君が敗けた場合は遠月を退学になるどころか、料理界から抹消される覚悟ぐらいは当然できてるわね?」

 

 

料理界から抹消うんぬんは、そもそもド田舎で暮らしてたからどうでもいいとして……いきなり退学ときたか。

もしそんなことになって帰省した日には母さんから殺されるな。

 

 

「勿論」

 

 

でもそんなことを考えるのは後だ後。十傑との勝負できる、今はその喜びを噛みしめよう。

 

 

「それで、耶雲くんの要望は何かしら?」

「要望?」

「ありえない話しだけど、君が食戟に勝てば何を私に要求するの?」

 

 

要求……ねぇ。とりあえず勝負を受けさせることしか考えてなかったから、そこまで頭が回らんかった。

十傑の座を寄越せ、と言ってもいいがそんな偉そうなものになろうものなら自由時間が減るかもだし……。

 

 

「別に何もいらねーや。今回はそっち側は敗けてもなんもナシってことで」

「……それだと耶雲くん、君には何のメリットもないのではなくて?」

「別に見返りが欲しくて勝負を挑むわけじゃねーけど」

 

 

俺がそう言うと、何が気に入らなかったのか薙切は俺を睨む。

 

 

「ふん、最低限身の程はわきまえてるようね。確かに聞く意味は無かったわ……どっちにしたって、君が私に勝つなんてありえない話だから」

「言ってろ」

 

 

当日その自信たっぷりの面が泣きっ面に変わる日が今から楽しみでしょうがねーよ。

 

 

「で、日にちとか時間だけど………」

「お待ちくださいえりな様!」

 

 

いいとこだったのに横槍を入れる馬鹿はどこのどいつだ、と思ったら何だ薙切の秘書か。

 

 

「何だ秘書子ちゃん、今アンタの出番は無いぞ」

「誰が秘書子だ!」

「………どうかしましたか?」

「あっ、えりな様!」

 

 

新戸は薙切の方に跪き、口を開いたこと思うととんでもないことを言い出した。

 

 

「この男、耶雲恷人の成敗は私に任せてもらえないでしょうか?」

 

 

・・・・・・・・。

 

 

「はぁあああああああああああ!!?」

 

 

俺は自分でもありえないと思ってしまうような素っ頓狂な大声をあげていた。

何を言い出すんだこの女は。

 

 

「この程度の男にえりな様が直々にお相手するまでもありません!」

「おい!急にしゃしゃり出てくんな!」

「黙れ無礼者!貴様如きがえりな様と競い合うなど1世紀早い!」

「俺が戦いたいのはお前じゃねぇ秘書子、ひっこんでろ!!」

「ひっこむのはお前だ耶雲恷人!」

 

 

駄目だ、妄信的にまで薙切教を信仰しているコイツには何言っても聞きやしない。

 

 

「おい薙切!俺の喧嘩買うんだよな!?」

「…………」

 

 

口に手を置きしばらく考え込む薙切。

そこは即答で「今回あなたの出番は無いわ」って言え、そう言ってくれ。

 

 

「悪いけれど新戸さん、この男は私が……」

 

 

イェス!イェスッ!!

 

 

「お願いしますえりな様!私は、えりな様がこんな男に馬鹿にされたのが悔しくて悔しくて、仕方がありません!」

「……っ!」

 

 

凄まじい怒りの形相で俺を見る秘書子。そんな顔してちゃ可愛いお顔が台無しだぞ。

流石の気迫に薙切もたじろいでいるが……まさかそいつに任せるなんて言わないよな?

 

 

「そうね………あなたに一任するというのも面白そうね」

「てめぇ!」

「確かに耶雲くん程度の相手なら、新戸さんは十分すぎるほどかしら?」

「俺が今回力腕試ししたいのは"十傑"のお前なんだよタコ!それ以外の奴なら意味ねーだろ!」

「タ、タコだとぉ!?貴様ぁぁ、えりな様に向かって!」

 

 

秘書子に胸倉を捕まれながら俺は考える。

俺と食戟するのがこの秘書子になるんだったら、俺の今後の学生生活が犠牲になるかもしれない博打に打って出たのは一体何だったのかと。

 

 

「あなたの力ならば心配は無いでしょうが……任せてもいいかしら?」

「ありがとうございます。必ずやこの耶雲恷人めを始末してみせます!」

 

 

俺を抜きにして勝手に話が進んでいく。なぜこうも上流階級とやらは人の話を聞かないのだ。

 

 

「はぁ……」

 

 

ため息が出る。

なんというか、もう勝手にやってくれ………こうなったら邪魔する奴全員ぶっ倒した方が早い気がしてきた。

条件変更して「秘書子に勝てば俺と食戟しろ」って言おうと思ったが「見返りを求めてるわけじゃない」と言った手前、言えないよな……。

 

 

「おい、耶雲恷人」

「今度は何だ?!」

「私にも勝てないようじゃえりな様と戦う資格はないわ」

 

 

何ファンタジー漫画の四天王みたいなこと言ってんだお前は。

 

 

「そうか、で?四天王最弱のお前を倒しても、あと3人倒さないと薙切と戦えないとかないよな?」

「……何を言ってるか理解できないけど、そんなものはいない」

 

 

クエスチョンマークを頭に浮かべる秘書子。意味を分かっていないだけかもしれないが、とりあえず薙切一派四天王なんてのはいなさそうなので一安心する。

 

 

「じゃあ、お前倒せば今度こそ薙切が直々に出てくるってワケか」

「安心して。君はえりな様には近づけさせないから」

「はいはい……で、いつにすんの?」

「それについては、私が決めましょう」

 

 

突然、様子を見ていた薙切が進行を始める。変なとこで出張るなコイツは。

 

 

「開戦は3日後。勝負の条件は耶雲くんが勝てば遠月残留、新戸さんが勝てば耶雲くんの退学………それでで双方依存はありませんね?」

「はい」

「ねーよ」

「耶雲くん、勝負から逃げるなら今よ?」

「受けるって言ってんだろ」

「今、確かに"受ける"って言いましたね?ふふ、そのセリフ忘れないことね」

「……!」

 

 

根に持ってたのか、さっきの俺のセリフそっくりそのままオウム返ししてきやがった、子どもかお前は。

 

 

「この"食戟"は私が責任をもって"食戟管理局"に提出しましょう。会場などは追ってあなた達に通達するわ」

「ありがとうございます、えりな様」

 

 

うーい、ありがとうございますでしたーえりなサマー。

 

 

「それでは、ごきげんよう耶雲くん。次に会う時が、君と顔を合わせる最期の時ね」

 

 

嘲笑と冷たい微笑みを残し、今度こそ薙切は踵を翻し舞台裏へと帰って行った

それに続くように秘書子も跡を追うが、いつかの時のように急に歩を止めてこちらを振り返る。

 

 

「首を洗って待っていろ、耶雲恷人」

 

 

薙切にも負けない眼光で俺を威嚇すると、そのまま彼女も舞台裏へと帰る。

 

 

そして舞台に残されたのは俺とドスコイのただ2人。

するとギャラリーの罵声に交じって急に先ほどまで突っ伏していたドスコイが何かを言い始めた。

 

 

「む、無理でごわす……!お前は大馬鹿でごわす!」

「あぁ?」

 

「薙切えりなの派閥に歯向かって無事だった奴は今まで1人もいない!……俺を含めて……うっ、ううっ……!」

「うおっ!」

 

 

説教が始まったと思いきや今度はいきなり泣き出すドスコイ。一体何がしたいんだ。

 

 

「アンタはとんでもない奴らに喧嘩を売ってしまったんだぁっ!!」

 

 

耳がキーンとなるようなその声は、マイク無しでも観客全員に響きわたる声量だった。

するとそれを聞いた観客たちも便乗し始める。

 

 

「へっ、そうだそうだ!」

「えりな様に喧嘩売ったこと、退学後にせいぜい後悔するんだな!」

 

 

せいぜい言ってろ愚民共。3日後、笑うのは誰でもない、この俺なのだから。

 

 

 

 

しかし………

 

一色先輩は仕方ないとして、期待していた薙切との勝負までがお預けになるとは思わなかった。

あの秘書倒しても薙切が第2、第3の秘書が出てくるかもやし、まだまだ先は長そうだ……。

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