食戟のキュウト   作:@^言^@

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料理人のプライド

 

 

「残り時間は?」

「後1分です、えりな様」

 

 

調理の仕上げをしつつ、声をした方を見ると先ほど創真で痛い目を見たにもかかわらず、余裕ぶっこいて椅子にふんぞり返る薙切えりな試験官。ホントに女王様かとツッコミをいれたくなる。

 

 

「そう。君とお別れまであと一分ってことね」

 

 

見られていたことに気づいていたようで、俺に微笑む薙切。この張り倒したくなるような顔で微笑む試験官は俺が何を作ろうと落とす気満々って感じだな。こうなったら何が何でも受かってやりたくなってきた。

 

 

――――――――――

 

 

「さぁ、どうぞ!美味いうちに召し上がれ。」

 

 

出来た品を薙切の前に差し出す。今できる俺の全身全霊をかけてミス一つせず作った自慢の品で、これを不味いって言われたらもう終わりだ。

 

 

「…………見た目はただのフレンチトーストね」

 

 

創真ほど顔をしかめはしなかったものの、何かをあるのではないかと薙切はフレンチトーストを手に取り、前後左右に渡り見る。

 

 

「ああ!言い忘れてたけど、それ外装は硬いから一気にかぶりつ……」

 

 

言うより早くトーストに噛り付き、瞬間「ガリッ」という音と共に薙切の表情が固まる。

 

 

「かたあっ!!」

「だっ、大丈夫ですかえりな様!?……貴様ぁ、もっと早く言えっ!」

「言うの遅かった、ごめんごめん」

 

 

秘書の子はまたしても俺の胸倉を掴んでくる。この子大人しそうな顔してるけど中々荒々しい性格してるな。でもなんか、涙目になっている薙切を見て少しだけザマァと思ったのは事実で、さっきの鬱憤がちょっとスッキリ。

 

 

「何よこれ、硬いじゃない!本当にフレンチトーストなの?」

「そうだよ、でもそれは普通にトーストを食う感じでいくんじゃなくて、もうちょっと勢いよく食べるんだよ」

「………勢いよくねぇ」

 

 

俺の言葉を疑いつつ、勢いよくがぶりとトーストをかじる薙切。その瞬間、しかめっ面から表情が変わるのを俺は見逃さなかった。

 

 

「…………!」

「へっ」

 

 

思った通りの反応に口元が笑う。

確かにそいつの"外"は硬いが、"中"は違う。スポンジのように柔らかく仕上げ、更に味は時間が許した限りしっかり染みこませてある。

 

 

「……この外装、"ツビーバック"をモチーフにしたものね?」

「ちょっと違うけどな。原理は同じだ」

 

 

ツビーバックってのは日本で言う「ラスク」のような菓子が代表例に挙げられる、カリッとした食感の食い物だ。

しかし初見でビスケットと答えなかったのは母さん以来だな。まぁ、「神の舌」だけあって審査員に相応しい味覚は持ってるってことか。

 

 

「どうだ?外はカリカリだけど中は柔らかって奴をフレンチトーストで表現した品で、そこそこいい出来なんだけど」

 

 

(外はカリカリなんてものじゃない………この表面の硬さはまさにツビーバックのそれ。中身も歯を立てずとも口に飲み込まれていくこの食感)

 

(ここまで外側を硬くすると内側はこんなに柔くならないし、対して内側をここまで柔らかくすると外側は硬くはならない……コイツ、どんな手を?)

 

 

 

料理の評価を聞いてみたものの、薙切はもう一度トーストを口に含み、何かを考えている様子で無視された。まぁ、それだけ真剣に審査してくれると受け止めるとしよう。

 

 

「耶雲くん。この外装の硬さに対してこの内装の柔らかさは、どうやって?」

「へ?フツーにそういう風に焼いた」

「そう、普通に…………は!?」

「うおっ!」

 

 

え、そんなに驚くことなのか!?俺までビックリしたんだが。

 

 

「そんなワケないでしょ!私はどんな風に焼いたか詳しく話せといったのよ!」

「いや、だから普通にパンケーキで使われる窯焼き(かまや)で仕上げたんだけど………この学校じゃメジャーじゃないのか?」

「窯?オーブンの間違いでしょ?」

 

 

見渡しても窯なんて物はどこにも無い。そりゃそうだ、今はオーブンって便利な物があるしな。

 

 

「でもオーブンじゃダメなんだよ。直火じゃねーとこの外装内装を作り上げるのは無理だ」

「それじゃあ聞くけど何を使ったの?」

「窯は無い。だからフライパンで応用して作ったんだ」

「……窯焼きをフライパンで応用ですって?そんな非常識な方法、無理に」

 

 

「上座にふんぞり返ってるだけじゃ作れないものもある」

 

 

「っ!?」

 

 

その台詞に薙切の顔が硬直する。創真の受け入りだが、どうやらコイツにはこの言葉が一番の薬のようだ。

 

 

「無理って思って挑戦しないから知らないまま終わるんだよ。無理かどうかはやってから決めるんだ、アンタはそんな経験をしたことないから分からんだろうが」

「な、何よこの私に向かって偉そうに!まだ審査中よ!」

 

 

それと図星を指させると子どもっぽくなることも分かった。でもあんまり怒らせるとまた理不尽に落とされそうなので、とりあえずは品を食べていただく。

 

 

(卵の味をメインにしつつ、練乳とオレンジエッセンスをベースにお互いの味が喧嘩しないように味付けをしてるわね……)

 

(それを独自の焼き方で硬く焼き上げた外装が旨みを逃がさないようにしっかりと閉じ込めている)

 

 

「くっ!」

 

 

薙切はトーストを三口、四口と口にを運びかじる。すると先ほどの創真の料理を食った時のように身体を痙攣させ出す。「身体の方は正直だぜ」とはよく言ったもので、これは「美味」と認めたという証なんだろうなと勝手に解釈。でもこれじゃあまだダメなんだよな…………あともう一押し!

 

 

「薙切試験管さんよ、アンタ神の舌ってのを持ってんだよな?その味覚は本物なのかね?」

「なんですって………?私は幼いころから一流シェフの味見役を任されてきたのよ?当然でしょ!」

「な、なんて無礼な男だ!えりな様の神の舌を疑うなんて言語道断だぞ!」

 

 

本人と秘書に「神の舌」の"絶対性"について語らせ、ここで退路を断つ。

 

 

「じゃあアンタに聞くんじゃなくて、そのご自慢の"神の舌"に聞くが……俺の料理は美味かったか、不味かったか言ってみな!」

「っ!?」

 

 

退路を断った後、すかさず追い撃ちで創真と全く同じ質問を問う。先ほどの光景がフラッシュバックしたのかたじろぐ薙切。

 

 

「あくまで料理人として"本物"の感想を言うか、それとも自分のプライドを捨て"絶対"の神の舌を裏切ってまで俺を蹴落としたいか?……どっちだ?」

「……………」

「………」

「……」

「えりな様!?大丈夫ですか?」

 

 

中々答えを出さないと思ったら、急に頭を抱えだす。恐らく自分の中で料理人としてプライドと俺を遠月に入れたくないという意思が反発しあってると予想。

 

 

「別に今すぐじゃなくていい。あとから電話とかでも……」

「……よ」

 

 

「ん?」

 

 

ボソッと何か言ったらしいが、頭を両腕で覆っているのに加え髪で顔が隠れているため全く聞き取れなかった。

 

 

「何て?」

「…い……わよ」

 

 

先ほどよりはマシになったが、それでもまだ何て言ってるかは聞き取れないので近くまでよる。相変わらず頭を抱えており顔は見えない。

 

 

「すまん、もうちょっと大きい声で」

「美味しいって言ってるのよ!!!」

 

 

それは耳がキーンとなるようなデカイ声で告げられた。

 

 

「フンっ!」

 

 

涙目で「合格」と彫られた印を俺の履歴書にガン!と力一杯押し、薙切は俺の方を見向きもせずにドスドスと足音を荒げ部屋を出て行った。

 

 

「あっ!ま、待ってくださいえりな様!!」

 

 

薙切の後を追おうと小走りで走り出す秘書の子。だが、出口の前で止まり俺の方にくるっと身体を反転させる。

 

 

「耶雲恷人ぉ!あれしきでえりな様に認められたと思うな!」

 

 

この子は随分とあの女王様を崇拝しているようだ。おお、可哀想に洗脳されているんだね。

 

 

「見たところアイツの側近?みたいだけど、君の名前は?」

「私の名前?新戸緋沙子(あらとひさこ)………って、どうでもいい私の名前なんて!」

 

 

あ、名前はちゃんと教えてくれるんだ。てっきり「お前に名乗る名などない!」とか言われそうだと思ったんだけど。

 

 

「と、とにかく!えりな様を磨く捨石としてせいぜい励むがいい!」

 

 

「新戸緋沙子」、そう名乗った少女は最後に捨て台詞を残し再び薙切の後を追いかけていった。俺の胸倉を掴んだことといい、ほんと最初に見た優しそうな外見とは大違いだ。

 

 

まあ、何にせよ………

 

 

「いよっしゃあああああああ!!合格じゃあああああああ!!!」

 

 

誰もいなくなったところで喜びを爆発させる。今まで俺を育て料理を教えてくれた母さん、本場の雰囲気を教えてくれた定食屋の大将、俺の料理を美味いと言ってくれたお客さんに感謝の気持ちを捧げよう。

 

 

そして………薙切陥落の突破口を開いてくれて、俺が合格できる可能性を作ってくれたお前のことは未来永劫忘れないぞ、創真!!

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