食戟のキュウト   作:@^言^@

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出発と再会

 

あの編入試験から50日。寒かった冬は去り、季節はすっかり春になっていた。

そんな暖かくなった駅のホームで俺はこれから新天地へ行くための電車を待っている。

時刻は早朝、もちろん始発だ。でなけば入学式に間に合わない。

 

その隣では……

 

 

「駅弁も中々イケるな、うん。テメーも食う?」

「いらん」

「ふーん、美味いのにもったいない」

 

 

駅弁をガツガツ頬張る情けない母の姿があり、その姿に思わず涙を流しそうになる。他に人がいないからいいものをやめてくれ恥ずかしい。

 

 

「おい、恷人!!」

 

 

米粒を顔につけながら俺の名を呼ぶお米女……やば、考えてたことばれたか?

 

 

「これから遠月に行くお前に一個いいこと教えといてやるよ」

「何だよいいことって」

 

 

考えてたことははれなかったが、なぜか母さんはニヤリと不敵なに笑う。あ、これは絶対いいことではないな。

 

 

「遠月茶寮料理學園での新一年生が卒業できる確率はな、なんと200分の1!」

「………へぇ」

「あれ、ビビんないのか?1000人いたとして卒業できるのたったの5人だけなんだぞ?」

「別に」

 

 

200人中1人しか卒業できないというのなら、俺がその中の1人になればいい話じゃないか。

絶対100%卒業できるって確信があるわけじゃないが無理って話でもない。

 

 

「ちぇ、面白くない。もうちょっとあたふたするかと思ったのによ」

「息子の旅立ち前に不安にさせる親がどこにいる!」

「あ、電車もう来るみたいだぞ」

 

 

「人の話を聞けぇぇぇぇぇ!」という俺の魂の叫びは駅長のアナウンスにかき消される。

数秒もしないうちに、けたたましい音と共に電車がホームに入り車両の一つが俺の前で停車する。

 

 

「わりー、なんか叫んでたみたいだけど何て言ったか全然聞こえなかった」

「も………もういいっす」

 

 

二度叫ぶ気にはならないし、調べなかった俺も悪い。肩で息をする俺の後ろで誰も乗っていない扉が開く。

ああ、ついにお別れの時間か………母さんはどうでもいいとして、愛着のあるここを3年間離れるとなると寂しくなるな。

 

 

「退学とかなったら張り倒すからなー!」

「………へいへい、頑張りますよ」

 

(ま、恷人なら心配いらねーか)

 

 

母さんがこんなんなのはいつもの事なので気にすることなく歩を進め、扉をくぐり電車に乗る。

椅子に座り荷物を上に置いた後、窓からホームを見ると母さんの姿は既に無かった。

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「ふー、やっとこさ着いたな。……あれ?なんかデジャヴ」

 

 

地元のド田舎から6時間、ようやく俺は「遠月茶寮料理學園」へと続く並木道の入り口に立っていた。と言っても、今日はあの時と違って試験を受けに来たワケじゃないが。

一ヶ月半前と違うことと言えば、肌寒かった風は暖かい風になり、殺風景だった並木道は満開の桜道に差し替わっていること………そして!

そしてもう一つは、俺は今「遠月茶寮学園入学案内」というしおりを手に持ち、新たな制服に袖を通して「遠月茶寮学園」門の前に立っていることだ!

 

 

「こっからが栄光の一歩だ!」

 

 

期待で心が躍り歩を進めようとしたが、ふと「卒業できるのはたった5人」という母さんの台詞を思い出し足が止まる。

 

 

「……………」

 

 

よくよく考えたら5人ってヤバくないか?しかもそれって新入生が1000人って仮定した場合だろ。もし半分の500人だったら2、3人……。

 

 

「あーヤメだヤメだ!!倍率200がなんぼのもんじゃい!」

 

 

不安を吹っ切るように気合いを入れ直し、俺は周りの生徒たちが高級車で道を駆け上がっていく中ただ一人全力ダッシュで学校の門まで駆け上がる。

そのまま門を車に負けない猛スピードで通過すると始業式会場に入り、受付で生徒認証をすませる手続きに入る。

 

 

「今日からここに編入する耶雲恷人って言うモンですが!」

「はい、それでは生徒証のご確認と承認を…………ん?」

 

 

「…………あああ!?耶雲恷人!」

 

 

声がうわずりながら俺の名前を呼ぶその女の子の顔を見るとソイツは、つい最近の知ったばかりの顔だった。

 

 

「おっ?えーと、確か君は……ああ、そうだ思い出した!秘書子ちゃんか!」

「新戸緋沙子だ!」

 

 

会場前で始業式の受付をしていたのは薙切のお付き、新戸緋沙子。

本来ならここで「久しぶり!」ぐらいの声をかけたかったのだが、何やら俺を見た瞬間彼女の動作が慌ただしくなる。

 

 

「あなたはこっちじゃない!」

「うおっ!」

 

 

突然手を引っ張られどこかへと連れていかれる。それにしてもこの子中々に握力強いな、手首がミシミシいってる……普通に痛い。

そして連れられること2、3分。俺は垂れ幕がかかっている会場の舞台裏の方まで連れてこられた。

 

 

 

「編入生は後から紹介があるから、ここで待機してて」

「へ?紹介って?」

「そんな大したものじゃない、壇上で所信表明とあなたに自己紹介をしてもらうだけよ」

「えー?壇上とか緊張しちゃうわー、もー!やばーい、ありえなくなくなくない?」

「始業式の最後に『編入生を紹介します』ってアナウンスが流れたら出番だ。じゃあ、私はこれで」

 

 

「アホらし」と言う表情と共に新戸は元の場所に戻って行った。中々ノリ悪いなあの子。

ま、いいさ、これから何度も顔合わせることになるんだしそれまでにツッコんでくれれば。

 

 

「んじゃ、呼び出されるまでゆっくりしてますかね」

 

 

俺は垂れ幕をくぐると中は誰もおらず、椅子が二つ設置されてあっただけだった。

なぜ俺しかいないのに別に椅子がもう一つ設置されてあるのか思いつつ、とりあえず二つ繋げて椅子の上で横になる。丁度いい、このまま眠ろうかね。

 

春の心地いい天気を見ながらウトウトすること数分。

 

 

「ぬおおおおっ!!」

 

 

突然鼻にから目に来るようなツーンとする、天然のアンモニアさえも凌駕する激臭で意識が覚醒する。

 

 

「誰だ!?俺の眠りをうんぬんかんぬん」

「何言ってんだお前」

「んー…………ん?!」

 

 

どこかで聞き覚えのある声。それもつい最近。

その声の主を確かめる為に急いで横たわっていた身体を起こすと、片手に練りワサビを持ち眉に傷のある男の姿がそこにはあった。

 

 

「おお!!?」

「よっ、久しぶりじゃん」

 

 

そいつはこの学園で俺が初めて喋った奴であり俺の合格の突破口開いてくれた"幸平創真"。

編入試験において"化けるふりかけごはん"を創り、あの薙切えりなを最初に陥落させた男である。

 

 

だが俺の記憶では、あの時確かに薙切は自身の気分で創真を落としていた………しかし創真は現にここにいる。

 

 

「おいアンタ」

「うん?」

「貴様…………本物の創真か?」

「はぁ?まだ寝ぼけてんのか?」

 

 

そう言いワサビを俺に近づけてくる創真。しかも若干改良してあるらしく至近距離じゃなくとも臭う。

 

 

「分かった、分かったからソイツを閉まってくれ!でも、なんでここに?まさか、実は編入試験受かってたとか?」

「ああ、そうそう!そのことなんだけどさぁ、聞いてくれよ!」

 

 

創真の話によると、あの後本気で落ちたと思いこれから家でどうするか考えていると数日後に合格通知が来たらしい。

と、言うことはだ。あの時に薙切が「不味い」言ってたのは一応建前だったってことになるのか……?うーん、それが本当ならちょっと薙切に申し訳ないこと言ったかな。

いや、ウソつく方が悪いからそれはないか。

 

 

「不味いとか言ってたのにワケわかんねーよなアイツ?」

「それには同感だ。なんだかんだ言ってたけど、薙切の奴は創真を合格にする気だったってことだよな」

「あん時はビビったぜー。美味いなら美味いって言えばいいのによ」

「あー、それは……」

 

 

「意地はってただけみたいだぞ」と言いかけたところで、その時会場の方からまるで空間が揺れる様な大きな歓声が沸く。

 

 

「うお、何だ何だ!?」

 

 

この歓声の大きさから相当の人数であることが伺える。

しかし、始業式で拍手が起こるようなことはあってもスタンディングオベーションとはどういうことなの……?

気になって垂れ幕の隙間から何があったか覗いてみるが、ただロン毛の爺さんが大歓声の中、壇上から向かい側の垂れ幕へ去っていく姿だけだった。

 

 

 

『えーお静かに!……それでは最後に、高等部から編入する生徒を二人紹介します』

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