呼ばれたってことはやっと出番か、長かった。何も話聞いてなかったけどな!
しかも突然創真がやってきたせいで何も壇上で話すこと考えてない。流石にあれだけ時間あって「何も考えてませんでした」じゃ済まんな。
アドリブでも全然オッケーだけど第一印象は大事だからな、しっかり考えとかねーと。
「創真、編入生の挨拶先にやってくれると非常に助かる」
「そりゃ別にいいけど、俺の後だと自己紹介しにくくなるけど大丈夫か?」
「ん?どういう意味だ?」
「俺、結構印象に残る挨拶するぜ?」
『どっちでもいいから早くしなさい!!』
「編入生を紹介します」とアナウンスが流れた後、一向に自己紹介しない俺たちに会場がざわつき始め痺れを切らした司会者が催促しだす。
しかしあいつの言った「印象に残る挨拶」って何だ?金は命よりどうたらこうたら言って会場を更に「ざわざわ」させる気なのか?
「ま、いっか。呼ばれたし、んじゃ行ってくるわ」
特に緊張した様子も無く壇上へ行く創真。それを見る生徒たちは好奇心旺盛なまなざしでそれを見つめる。
『それでは編入生、幸平創真くんの所信表明です』
司会者がマイクから退き、代わりに創真がその場所に立ちマイクへと口を近づけると会場の雰囲気が少しピリッとしたものに変わる。
俺はとりあえず司会者が座っている横の椅子で座って待機。
『えっと、幸平創真って言います。この学校には思いがけず編入することになったんですけど』
ん?意外と普通だな。そんなに印象に残る挨拶―――――
『正直この学校のことは、踏み台としか思ってないです』
――――――っぽいな、疑ってすまない。
『正直客の前に立ったことない連中に負けるつもりは無いんで、そのつもりでよろしく!入ったからには、てっぺん獲るんで』
『3年間よろしくお願いしまーす』
要約すると「俺、編入生だけど、お前らなんか眼中に無いからね」、創真はそう言った。
さながら期待して見に来た世界遺産がまるで想像と違いガッカリする観光客の如く、会場の生徒たちの表情が面白いように変わっていくのを俺は見た。というか現在進行形なんだけど。
そして会場は先ほどの熱気が嘘のように静まり返ったのも束の間。
「テメエエエエエエこらああああ!!!」
「ぶっ殺すぞ編入生ェ!!」
怒声、怒声、怒声。男も女も関係なく大声で創真を罵倒し、ありとあらゆる物を壇上へと投げる。
それを意に介さずスタコラと創真は入ってきた方と反対側の垂れ幕へと出て行く。
アイツ、「俺の後で大丈夫か?」ってこういう事だったのか。こりゃ確かに大丈夫じゃないし印象に残るわ。
『お、お静かに!!皆さん式はまだ途中ですよ!』
司会者があわててマイクで会場を落ち着かせようとするが、生徒達は全く耳を貸さない。
次、俺の紹介なんだけどみんな聞く気ないよな、これじゃ。
「ちょっと退いてくれ」
『え?あ、ちょっと!!』
呼ばれてないが司会者を退かせてとりあえず壇上に立つと、創真の台詞に激昂した生徒達の何百という怒りの形相がこちらを見る。まだ何も言ってないのに睨まれている始末だ。
俺はスーッと息を吐いて気持ちを落ち着かせると、マイクを持ち新一年生達、教師陣への第一声を発する。
『おい薙切、このうるさいのなんとかしろよ。お前偉いんだろ?』
その名を出した途端、指揮者が締めると楽団が演奏を終えるように、まさに「ピタリ」と怒声旋風が止んだ。
新戸が様付けで呼んでて、編入試験の試験官まで勤めてたってことは、やっぱり薙切はこの学校じゃちょっとした有名人のようだ。
『あれ?いないのか?んなワケないよな、おーいえりなちゃーん!俺の料理を美味しいって言ってたえりなちゃ―――――――うおっ!!』
重要な箇所を二度言おうとした所で、突如強い力で腕を引っ張られ体制を崩す。
痛みがした俺の腕を見ると、掴んでいる手はしなやかなで柔らかそうな細い指だった。そして手の持ち主は長い睫毛に気の強そうな大きな目の女性。
問答無用で俺を引きずっていくこの女性と俺は会ったことがある。
「ちょっと来なさい」
『ちょっと待て、俺まだ名前言ってないんだけど!』
「いいから来るのよ!!」
一ヶ月半ぶりだな、"薙切えりな"。
俺を連れ出そうとしてるのはコイツであり、その様子を見る生徒達からは悲鳴や驚きの声があがる。
久々の再会だというのに新戸と同じく再開を喜ぶ暇も無さそうだ。
―――――――――――――――――
「どういうつもり?」
舞台裏に連れてこられた思ったら、壁際に俺を立たせ随分と怖い顔で睨んでくる女王様。おお、怖い怖い。
まぁ、あの外見秘書のように胸倉をつかまれないだけマシとしよう。
「君、この私を馬鹿にしておいてただで済むと思ってるの?」
「だってお前、なんか頭は良いんだろうけど、お馬鹿っぽい」
とは流石に言わなかったが、そう思ったのは事実だ。
「はっ、黙ってないでなんとか言いなさい!」
「そんな怖い顔してちゃ美人が台無しだぞ、えりなくん」
「ふざけないで!大体君に下の名前で呼ばれる筋合いはないわよ!」
「可愛い名前じゃん、えなり………じゃなかった、えりな」
「……わざとでしょ?ああーもう!幸平創真といい、君といい、なんでこんな変なのばかり遠月に来たのよ!」
俺の襟元から手を放したかと思うと、頭を抱え込みしゃがむ薙切。
なんでこんな変なのばっかりって、そりゃお前が選んだんだろうが。
「そう言えば創真は?」
「ふんっ!」
この前と変わらず何か気に入らないことがあるとプイッと子どものようになるのは変わってない。
その調子じゃ創真にも相当何か色々言われた感じだな。
「君にも言っておくけど、どうせ外様の編入生なんて中等部から上がってきた内部進学者に勝てはしないわ。ふふ、君がいつ消えるのか見物ね」
「心外だな。この学園で俺の実力一番知ってるのはアンタだと思ってたんだけど」
「っ!?」
あの時のことを思い出したのか、半歩後ずさり薙切の顔の横から汗がしたたり落ちる。
今の半分冗談で言ったんだけど反応を見る限り、俺は中々できる方なのか?
「……知らないっ!そんなこと知らないわよ!!」
俺を指さしながらそれだけを言い捨て、歯からギリッと音を出し悔しそうな顔をする薙切。
涙目でツカツカ足音を立てどこかへと去っていく姿に声をかけようとも、奴の背中がそれを許さなかった。
んー、流石女王様ってところか。扱いが難しい。
俺はもっとこう、普通の奴に出会ってみたいんだがな……。