食戟のキュウト   作:@^言^@

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実習開始

始業式が終わると、家に帰れ…………ずに、今日から早速調理実習が始まるとのことだった。

今まで小中の「始業式」など「式」とつく日はすぐに帰れてたので、高校でも帰れると思っていたがそれは遠月では通用しないらしい。

もう帰る気満々だった俺は帰れなかったので俺は絶賛ショックを受けている。どっちにしろ入寮手続きとかしなきゃいけないからすぐには帰れないんだけど。

 

そして最初の実習だが、俺は悩んだ末に「ドイツ料理」を選択。

創真と同じ肉に重点をおくフレンチや、パスタやピザなどのイタリアンも良かったのだが、「ドイツ料理」という響きが気に入ったのでこれにした。

 

しかしここで重大な問題が発生。

 

 

「調理室どこだよ」

 

 

ドイツ料理専攻の調理室を探してみたもの学園が広すぎて中々見つけられない。

學園案内の後ろのページに書いてある地図を見てもさっぱり分からん、かれこれ1時間近くうろうろしているが、そろそろ挫折しそうだ。

 

 

「えーと、ここを曲がって右に―――――――うお!」

「きゃっ!!」

 

 

地図に熱中していたら曲がり角の死角から女の子が突然まがってくる。かわそうにも時すでに遅し、その女の子に正面からぶつかる。

俺はどうもなかったが、ぶつかった方の女の子はそのまま後ろに弾き飛ばされ尻もちをつく。

 

 

「おい!大丈夫か?!」

「あいたたた………え?あ、はい!私は全然!」

「すまんかったな、前方不注意だった」

「い、いえいえ!私の方こそ急いでて、ごめんなさい!」

 

 

俺が弾き飛ばした女の子を見ると、後ろ髪を両サイドおさげにして前髪にヘアピンという、いかにも地味そうな子だった。とは言っても、非常に礼儀正しく気取ってるこの学園のお嬢様達よりは好感をもてる清楚な出で立ちの感じである。

 

 

「ほら、立てるか?」

「はい。どうもすいませ――――」

 

 

そして俺が女の子を引き起こそうと手を出し、女の子も俺の手につかまろうとした瞬間その子の手が止まったと思ったら、今度は急にまるで狼にでも出くわしたのかのようにガクガクとふるえながら俺を指さし始める。

 

 

「あ………!あああっ!!あなたは編入生のっ!」

「え?」

「ご、ご、ごめんなさい!私急いでますんで!!」

 

 

おさげの女の子は先ほど尻もちをついたことを忘れたかのようにガバッと立ち上がると、俺が何かを言う間もなく身体を反転させ脱兎の如く駆け出して行った。

おかしいな、俺あの子には今ここで初めて会ったはずだし、逃げれれるようなことをしたを覚えは無かったはずなんだが。

 

 

「おっと、寄り道してる場合じゃねーな。俺も早く調理室探さねーと」

 

 

 

 

 

俺がようやく調理室の場所を把握したのは実習開始1分前だった。初日から遅刻するのはシャレにならないので、全力で校舎をダッシュし扉をブチ破る勢いで調理室の中に入る。

 

 

「ギリギリセーフッッ!!」

 

 

ここに来るまで時計を見る暇もなかったので、もし時間を過ぎていても声と気合いでなんとかしようと「セーフ」を連呼する。

すると教壇に立っていた教師らしき人物が俺の顔をみた後、時計を見る。

 

 

「早く位置につきなさい」

 

 

どうやら間に合ったようだ、よかった。全力ダッシュでかいた汗をにじませつつ、俺は指定された調理台へと向かう。

 

 

「おい、アイツ………」

「えりな様の試験通ったっていう例の………」

 

 

なにやらヒソヒソと聞こえるが、多分初日から何やってんだアイツ的なこと言われてんだろうな。仕方ねーだろ、ここの校舎に入ったの今日初めてだぞ。

 

 

「汗だくねアナタ。これ使いなさい」

「ん?……あ、悪い!助かる」

 

 

位置につくと、汗の量を見かねてか隣の調理台の奴に高級感溢れるハンカチを差し出される。それを受け取り額を拭くため顔に近づけるとハンカチからは薔薇の香りがし、とても心地よい気持ちにさせてくれる匂いだった。

 

 

「サンキュ、これ洗って返すわ!」

「いいわよ、そんなことしなくても」

「あ、そう。すまんな」

 

 

俺の汗でしっとりと湿ったハンカチを隣の奴に手渡す。改めて顔を見ると、そいつは顔の彫がしっかりとした睫毛バサバサの、髪も肌も真っ白な女であった。

随分と日本人離れした風貌を見る限り外人なのか………?いや、まぁこんだけデカイ学校だから留学生とかいても不思議じゃないが日本語ペラペラだったし。

 

 

「ねぇ、ひょっとしてだけど。アナタがえりなの試験を受かったっていう編入生クン?」

「えりな?ああ、薙切ね。編入試験のことならそうだけど」

「へぇ…………アナタが」

 

 

先ほどまでの優しい眼とは違い、明らかに品定めをするように俺を見る白人女性(仮)。

薙切の試験ってやっぱりそんなに厳しいものだったのだろうか?あの創真ですら薙切の気分一つで落とされたのだから別段不思議ではないけど……。

 

 

「注目!」

 

 

教師が手を叩くと、生徒一同の視線が教壇へと移る。

 

 

「本日、諸君らに作ってもらうのは"シュヴァインスブラーテン"。ドイツ、オーストリアでメジャーな肉料理だ」

 

 

シュバ………なんだって?シュバインシュタイナー?フランケンシュタイナーって言ったのか今?

 

 

「多めに時間はとるから、レシピが分からない者は他の者に聞け。できた者から私の所にもってくるように。制限時間は3時間、それでは調理始めっ!」

 

 

弱ったぞこれは。レシピを分からないどころか料理の名前すら聞き取れなかった。調理以前に、まずは誰かに聞くしかない。

俺は早速調理に入ろうとしていた先程の女子を捕まえる。

 

 

「ん?どうかしたの?」

「調理前に悪いな、でもちょっと教えてほしいことがあってよ。この料理の名前なんだっけ?」

「シュヴァインスブラーテンよ」

「ああ、そんな名前だった。そんでよ、このシュバなんとかのレシ――――――」

「また随分簡単な料理なのよね。えりなの試験に受かったアナタぐらいなら、楽すぎて逆に嫌でしょうにっ」

 

 

満面の微笑みで言う白女。いや、悪気は無いんだろうけど今まで作ったことねーよそんなモン。

 

 

「それで、シュヴァインスブラーテンがどうしたの?」

「………いや、すまん何もない」

「そう?じゃ、また後で会いましょ耶雲恷人クン」

「おう」

 

 

あれ、ちょっと待てよ?俺この人に名前を教えたっけか……?

いやいや、そんなことは後だ結局レシピ聞きそびれてしまったし。仕方ない、他の奴に聞くとしようか。

 

 

「なぁ」

「ひっ………!」

 

 

近くにいた男に声をかけたが、一目散に逃げられた。

その他にも色々と話しかけてみるが全員が気まずそうな顔をし逃げ出す。何かさっきのおさげの子といい、学校に入学して初日でなんだか避けれてるような気がする。

それはおいておくとして、時間は多めにあるとはいえ未だにレシピさえ分かっていないというのは非常にヤバいが………仕方ない。

今日は運が悪かったと思って諦めるのもいいか。最初の授業だし先生もそんなに怒らない筈だ。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

「おっし、なんとか形にはなった!」

 

 

とりあえずは周りの奴らの調理を見様見真似で行い、気になった所に独自のアレンジを加えたらそれっぽくできた感じはする。

早速提出する為に並ぶが、問題はレシピ無しで作ったこの料理がどういう判定を下されるかだが………。

 

 

「よしAだ!」

「や、やったぁ!」

「………君はEだな」

「くっそぉぉぉ!!」

 

 

前の生徒を見ていると、A、Bと言われれば嬉々としていてC、Dだと微妙な顔、Eと言われれば絶望に染まったような表情をしている。

見た感じ評価はAからEまでの5段階評価で下されているようだが、せめてD……いや、欲を言えばc辺りは欲しいとこだけど。

 

 

「次は君か」

「どうぞ、よろしくお願いしまっす」

 

 

俺の番が来たので、例のなんちゃってシュバインを差し出す。

他の生徒との料理とは違う香りに教師はピクッと眉を動かしつつフォークを取り料理を口へ運ぶ。

最初は険しい顔の教師だったが、咀嚼するたびに次第に顔がほころんでいく。

 

 

 

「ほう…………ワインを使ったのか?」

「はい。こういう脂っこい料理には合うと思って、カベルネを拝借させてもらいましたがダメだったですか?」

「いや、駄目じゃない。ただ、まさか"飾ってある"ワインを使う者など、20年以上前の教え子以来でな」

 

 

周りにあった、料理に使えそうな物は全てふんだんに使わせてもらったからな。

 

 

「その行動力に加え、美味な料理を加味し………それでは、君にSという評価を下そうかな」

「S?ですか?」

 

 

そのSという教師の台詞に周りの生徒がどよめく。

Sと言ったらまさかAの上というSか!?それともEより遥かに悪いSなのか?

 

 

「はははは、冗談だよ冗談。Aランク以上は無い」

「ああ………ビックリした。ということは?」

「窮屈かもしれないが、Aで我慢しておいてくれ」

「っしゃああ!!」

 

 

取れたらいいな、ぐらいだった最高評価が貰えるとは素直に嬉しい。

レシピ見なかったから配分もかなり適当で、最悪投げ捨てられような粗末な出来になってたと思ったけど。

 

いや、でもひっくり返すとそんな料理でも「A」を取れるってことは………意外とこの遠月ってショボいのな。母さんはきびしいみたいなこと言ってたけど楽勝っぽいわこりゃ。

 

 

「すごいわねーアナタ、あんな雑な調理でもA取っちゃうんだ!」

「うおっ!」

 

 

いきなりひょこっと現れた白女は俺が考えてたことと同じ言葉を投げかけてくる。しかも早い段階で調理を終えたらしく、既にコックコートからに制服に着替えていた。

 

 

「私も終わった後に耶雲クン手伝おうか迷ったんだけどねぇ、何か集中してたみたいだったし」

「いや、それはいいんだが。そういえば、何で自己紹介してなかったのに俺の名前知ってたんだお前?」

「ああ、それなら前にえりなから聞いたのよ。"生意気な編入生クン"とやらのことと一緒にね」

 

 

俺は薙切にも友人いたのか、と失礼なことを考えてしまった。

あの性格からして友人じゃなくて、下僕をいっぱい抱えてそうなイメージだが、そこそこに話せる友達もいたってことか……。

 

 

「………随分薙切と仲がいいんだな。アンタの名前は?」

「私?ああ、まだ名乗ってなかったわね」

 

 

「私の名前は薙切アリス。君たちの頂点に立つ者の名前よ、次からはちゃんと覚えておいてね」

 

 

薙切、その名を聞くのは二度目だった。

しかもこの名字の奴はなんというか、アイツといいコイツといい上から見下すのが大好きと見える。

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