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神様に転生させられた。
前世でさんざん動物やら子供やらを虐待したのを見咎められたようだ。
このように言われたのを覚えている。
「お前はとんでもない人間だ。私はお前の人生を見守っていたが、お前は何度他人に涙を流させたか知れない。最期の最期まで、お前は人を泣かせてばかりだった。そのような在り方は到底認めがたい。お前が人間らしい人生を全うするまで、何度でも転生させてやる」
だが、一度生まれ落ちてしまえばこちらのもの。神様は、俺が死ぬまで手出しできないらしい。
「残念だったな。お前はそこで、ヤツラが泣きわめく様を、指をくわえて眺めているがいい」
まだ見ぬ動物やら子供やらが咽び泣く様を想像する。
愉快でたまらない。口元がつり上がってしまう。
「くっくっくっ。今度はどうやって虐待してやろう」
好都合なことに、転生した直後にも関わらず、すでに成熟した大人の身を備えている。それも、年若い二十代の肉体に若返って。
容姿も肉付きも、紛れもない俺自身の肉体である。
お陰で、生活を安定させることができた。
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転生して一ヶ月。
すっかりここの生活にも慣れた。
ここの生活は単調だ。
朝。堅く味気ない黒パンを、野菜クズだらけのお粗末なシチューに浸して、喉に流し込む。
昼。周旋屋で依頼を受けると、そのまま街の外へ出かける。害獣を駆除したり、望みの山菜を採取する。前世では趣味でまたぎの真似事をしたこともあるので、手慣れたものだ。
夜。日暮れ前に街へ帰る。周旋屋で報酬を受け取ったら、食堂で一杯ひっかける。ぬるくて薄い――苦みはないくせにやたら麦の臭みの香る――ひどい出来の
「なんて非文化的な世界なんだ。ストレスがたまる一方だ」
こんな時は、何かスカッとすることがしたい。
そう、例えば、小動物や子供に非道の行いをするとか。
――その思いに応えるかのように、その子はそこに居た。
食堂から木賃宿への帰り道。
薄暗い通りの、ひときわ人気のない脇道。
そこに、がさごそ生ゴミを漁る、薄汚い
「くっくっくっ。これはこれは、ちょうど良い」
子供は、こちらに気づくなり、脱兎のごとくに逃げ出した。もとより周りを警戒していたようだ。
それも当然の話で、捕まればまず禄な目に遭わない。
ここは裕福な地区ではないから、スラムの悪ガキをとらえる警邏もいないが、代わりに、お上品な連中もいない。傭兵崩れの荒くれ者だらけだ。スラムの子を捕まえたなら、面白半分でいたぶるくらいはするだろう。ちょうど俺のように。
「捕まえたぞ。禄に食べてない、ガリガリひょろひょろの子供の足で、俺から逃げれるとでも思ったか」
「…………!」
首根っこを掴まれたまま、バタバタ手足を暴れさせて抵抗する。
「くっくっくっ。抵抗しても無駄だ。お前はこれから、この世の地獄を見るんだ」
そのまま宿へと進むうちに、同業者とすれ違った。
これから行われる非道を想像したのだろう。彼らは、ニヤニヤと野卑た笑顔を向けてくる。
それが、いよいよ実感を与えたらしい。子供は何もかも諦めたかのように、ぐったりと力なく、なすがままに運ばれるのだった。
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こうして、俺はこの玩具を飼育することになった。生かさず殺さず、なるべく長く虐め抜いてやるのだ。
まずは食事だ。
もちろん、暖かいミルクやおいしい料理のような、子どもが喜ぶような物など与えはしない。
がっかりする食感の、味気のない炭水化物。苦みと臭みを煮込んだような、とてもじゃないが食べられない濁った液体。俺だったら、金をもらっても食べようとは思わない、食事などとは呼びがたい、ただ最低限死を免れるための栄養である。
実際、それが食べ物だとは思えなかったらしい。子供は、眼前に置かれた
「くっくっくっ。どうした、驚いて声も出ないか。それがお前の
後ろ手に、扉のカギを閉める。
ガチャリと錠の落ちる音がして、子供は、びくりと肩を震わせた。
これから始まる虐待の気配を感じ取ったのだろう。おそるおそるこちらを伺うので、ニヤリと愉悦の笑みを返してやる。
すると、どうあってもコレを食べねばならぬと悟ったと見える。おそるおそる臭いを嗅いで――酷い臭いに耐えかねたのだろう――じわりと涙を浮かべて器に口を付けた。
垢と泥水で黒ずんだ首筋が、小さく上下する。汚水のような液体を嚥下したのだ。
ひどい味だったに違いない。涙をこぼし、嗚咽を漏らしながら、それでも懸命に汚水をすする。
「どうだ、不味いだろう。だが、それだけがお前の
と指差したのは、味気のない炭水化物――この世界の住人がパンと呼ぶ何かである。
一般的に、脱色された穀物ほど身体に悪い。例えば、いわゆる『江戸病』の原因は、玄米から白米に切り替えたことによるビタミンの不足にある。黒いパンもまた、堅くて岩のような食感がするが、それさえ我慢すれば栄養は豊富だ。
コイツに与えるのは、もちろん栄養豊富な黒パンではない。白っぽい、パンのような何かである。
平成日本を生きた俺にとって、口が裂けてもパンなどとは呼べない、はっきり言ってクソ不味い食物。しかも、カロリー以外の栄養を持たないグルテンの塊。いわば黒パンと白パンの悪いとこ取りをした粗悪品である。
「くっくっくっ。臭い液体と、不味いだけのグルテンを食べて、えずくが良い」
「…………っ」
声を押し殺して泣きはじめる。
嗚咽を漏らし、その度にこぼれそうになる汚水とグルテンを、あふれる涙で懸命に飲み下す。まるで、パンのひとかけら、汁のひとすくいでも残せば、直ちに折檻が降ってくるとでもいうかのように。
――よく分かっているではないか。
だが、その見立ては好意的に過ぎる。
「食べきったか。だが、それで終わりじゃあないぞ。もっと涙を流せるよう、こいつもくれてやる」
空になった器に、なみなみと水を注ぐ。
水には不純物が浮いている。さもありなん。劣悪な衛生環境下で手に入る水だ。その品質などたかが知れている。俺なら、とてもではないが口を付けたいとは思えない。だが、生ゴミを漁っていたコイツにはお誂え向けだ。
「……っ!」
子供は一息に水を飲み干した。
大変不本意ながら、この不衛生な水は、コイツの口に合っていたらしい。人心地ついたように、満足げな息をつく。腹が膨れた為か、瞼まで重そうに落ちてきた。
――それがこの上無く腹立たしい。
「おい、何を勝手に寝ようとしている。ここをどこだと思ってる」
「あっ……ごめ、ごめんなさいっ」
それが初めて耳にする、ソイツの声だった。
耳障りな声だった。あらゆる苦難を舐めてきた貧困街の
「チッ。臭いな、ひどく臭う。鼻が曲がりそうだ。汚物は消毒しなくちゃなぁ」
「ひっ!」
子供の瞳が恐怖に濡れる。
「オラァ、その汚いボロ切れを容赦なく捨ててやる!」
「やめてくださいっ! これしか服がないのに――あっ」
年端もいかない子供の抵抗など、たかが知れている。
もとはフードであったであろう、ズタズタのボロ切れ。それを頭から被って、余人の視線から隠れるようにしていたのを、無遠慮にはぎ取る。
「ほぉ。こそこそしているとは思ってたが、猫人族か」
「ひぃっ……」
子供は身を縮こませて、恐怖にうち震えた。頭部の猫耳はぺたんと伏せ、尻尾は股の間にもぐりこんで震えていた。
――猫人族。それは数ある人種のなかでも、もっとも嫌悪される種族である。
それというのも、犬人族や短耳族と比べ、社会性が薄いからである。自分勝手で、相手の都合を考えず、勝手気ままに振る舞うのだ。多くの猫人族は、他人の目など気にしない。
それがどうしたことか、この子供は、他人の視線に怯えきっている。
――実に虐めがいがあるというものだ。
「ほぉ。臭いと思ったら、耳と尻尾から臭っていたのか。……チッ、やはりバッチイな。触っただけで手が黒く汚れる」
「いやっ!」
頭を抱えてうずくまる子供をむんずと掴み上げると、水を張った桶に放り込んだ。
そして、掌を上に向けて魔法を発現する。
この世界に来てから、知らないうちに身につけていた便利な特技だ。転生特典というやつだろうか。
「<火球>の魔法だ。どうだ、恐ろしいだろう」
火球を浮かべた掌を見せつける。
火球を押しつけられると思ったのだろう。ぎゅっと目をつぶって、来たる悲劇に少しでも身構えようと、歯を食いしばる。
悲壮な覚悟を浮かべた顔の横を、掌は通り過ぎ、桶の中に飛び込んだ。
ジュウと音がして、けれども、火は消えない。魔力とやらを供給し続ける限り絶えることのない、いわば便利な照明兼バーナーなのだ。
「くっくっく。顔を焼かれるとでも思ったか? 俺はそんな単純な虐待はしないぞ。もっとじわじわとお前を苦しめてやる。ほら、水がどんどん熱くなってきた」
ひんやりと気持ちの良かった水は、今では熱湯へと変わってしまっている。
それにずっと浸かっていれば、煮え殺されるのは必定。だが、俺はひと思いに殺したりはしない。だんだんと温度を上げて、けれども、死なない程度に抑えておく。「生かさず殺さず、長く苦しめる」がモットーなのだ。
「熱いだろう? だが、逃がしはしない。熱湯攻撃をたっぷり味わうが良い」
そして、俺の嗜虐性はこれに止まらない。
熱で体内を攻めるのに飽きたらず、体表までも攻撃することにした。
俺が取り出したソレに早速気付いた子供は、「まさか」という目でソレを見やる。
「ほぅ、気付いたか。そうだ、これは使い古しのボロ布だ。あとは捨てるしか使い道のないゴミ同然のコイツで、お前を苦しめてやる」
熱湯に浸した熱々のボロ布で、激しく子供の体表を擦りあげる。
「痛い、痛いよっ」
「当然だ。お前の体表の細胞組織が剥離しているのだからなァ!」
かつて子供の体表を構成していた細胞が、ボロ布に削り取られる。
ボロボロとこぼれていく自身の一部を見て、喪失感からか、子供は呆然とした阿呆面を晒す。
どれくらいそうしていただろうか。
汚らしい身体は力一杯こすられた為か、はたまた煮られた為か、茹でタコのように真っ赤になって痛々しい。
身体の内外から攻められ、ぐったりした子供の首根っこを掴んで、桶から引っ張り上げる。そのまま部屋を水浸しにされても困るので、乾いたボロ布で乱暴に水分を奪い取った。
「見ろ、これが何だか分かるか」
「…………っ! わたしの服!」
「おっと、これを返してやるわけにはいかんな」
「……どうするの?」
子供は、困惑した様子で一張羅を見つめている。
「なに、簡単なことだ」
先ほどのお湯責めで、身体を攻めた。次は心だ。
「捨ててやるんだ。こんなふうにな」
両手に魔法を発現させる。
右の掌には火球を生んで、アイツの一張羅を燃やし尽くす。
左の掌からは風を生み出し、灰と煙を窓の外に追い出す。
「ひどい、わたしの服が……」
「ずいぶんと大切にしていたようだな。だが、お前にはもう服を選ぶ自由も無いと知れ。――ほら、これがお前の服だ」
投げ与えたのは、お下がりの服だ。コイツを捕まえた帰り道に、露天商から適当に買った中古品。コイツに新品の服など買い与えるはずなど、もちろんない。
「こんな……こんなことって……」
へなへなと腰砕けになって地面に座り込む。
「おっと、そこで寝るつもりか? それは許さん。お前なんぞ、畜生同然の寝床が似つかわしい」
部屋の片隅に設けていた、藁の塊を指差す。馬小屋と選ぶところのない、畜生の寝床である。
信じられないと言わんばかりに、呆然とそれを見やる。
「チッ、グズめ。さっさとしないか」
痺れを切らした俺は、首根っこを掴んで藁へと放り投げる。
しばらくもしないうちに、めそめそとすすり泣く声が聞こえていたが、すぐにそれも聞こえなくなった。どうやら、虐待に次ぐ虐待で心身ともに弱り果てていたらしい。
頬を伝う涙は、きっと甘露の味がするのだろう。
まるで現実という地獄から逃れるかのように夢の世界に耽溺するガキの寝顔を眺めていると、心の底から愉悦があふれてくる。
幸せな気分になって、俺はニタリと邪悪に微笑んだ。
「くっくっく、地獄へようこそ」
なんて非道い話なんだ……!
胸が熱くなって異様に筆が進みました。