風花雪月場面切抜短編   作:飛天無縫

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 ゲームで最終決戦前にある墓の前でジェラルトのことを思い出すシーン
+DLC灰狼の学級関係で得られるあれこれ
+本作の独自要素
=今回の話


誓いと決意、灰狼との契約

 ガルグ=マクの墓地は今日も静かだ。係の者が持ち回りで清掃に来る他、墓参りに訪れる人しかいないここは日頃から閑散としている。

 曇り空の下でなびく風が耳を撫でる以外に何もないここは、誰にも見つからずに考え事をするのにはちょうどいい場所だった。

 

 人目を忍んで訪れたベレトは一つの墓の前に座っていた。墓地の中で他と比べても大きな墓石はそこに眠る者が多くの人に慕われた証か。

 ベレトは知っている。この墓はレアが特別に作らせたもので、納められている人は彼女に所縁がある。墓地の片隅に据えられたにしては妙に立派な構えは、レアには珍しい私情の顕れなのかもしれない。

 

≪シトリー=アイスナー

 1139 ~ 1159

 ジェラルト=アイスナー

      ~ 1180

 愛すべき想い出と共に ここに眠る≫

 

 ベレトは両親の墓参りに来ていた。

 

 墓参りの作法など知らないベレトは少々長い時間をかけて墓石を拭いてから持ってきた酒と花を墓前に並べた。父が好きな酒と、母が好きだったと聞く花を。

 そして腰を下ろしてからしばらく経つ。その間もジッと墓を見つめながらベレトは頭の中であれこれ考えつつ無言のままで座っていた。

 

「ふぅ……」

 

 らしからぬ溜息を一つ。

 考えるとは言っても大したものではない。ここに至るまでにあったことを順繰りに辿るだけの、とりとめのない思考である。

 

 帝国と王国の激突は回避された。

 憎しみを滾らせていたディミトリはその怒りを鎮め、エーデルガルトに呼びかけて両軍は停戦に至った。フォドラを破滅に導きかねない可能性はなくなった、とは言い切れないが現時点では大きく遠ざかったと考えていいだろう。

 

 激突を回避しても戦意が高まっていた軍をどう処理するかという問題には、両陣営にいた生徒達が説得して回ってくれた。

 敵意が絡む問題は誠意を以て応じることが何よりの対処法になる。下手に権力や武力で抑えつけても負の感情は凝縮するだけで消えたりはしない。

 特にディミトリが形振り構わず方々に働きかけたのが大きい。土下座も辞さない勢いであちこちを回り、どうか敵意を納めてほしいと懇願する姿は王の威厳も何もないものだったが、一人の人間として訴える必死さが伝わったのだ。

 驚いたのは王国軍だけでなく帝国軍の各所にもディミトリは足を運んだらしく、監視のために随伴した黒鷲遊撃軍(シュヴァルツァアドラーヴェーア)に案内されて軍内を回った彼は従者のドゥドゥーと共に何度も頭を下げ続けたという。

 

 無論、感情だけでなく実利の問題ある。軍を動かすのにかかった戦費が丸ごと無駄になることも無視できない。

 それについてはエーデルガルトの鶴の一声によって帝国が多くの負担を担うことが決定された。国の動きを独断で裁量できる皇帝という存在がいる帝国ならではの判断だろう。

 これにより帝国の各領地に急な課税が為されたが、五年に渡って帝国全体の富を増やしてきたことで目算上では戦費をギリギリ賄える程度の徴収が叶うらしい。

 

 そうして戦いが起こらなかったのはいいのだが、安心はできなかった。

 王国への道が閉ざされたのだ。

 

 やることがなくなってしまった王国軍が帰還しようとして王国へ向かうと、なんと道中の進路をセイロス騎士団が封鎖していたことが判明した。

 一足先に反転して先に王国へ戻ったレアが全ての要路に働きかけ、多数の罠や拒馬を仕掛けて王国軍の帰還を阻んだのである。

 五年かけて王国の地理を把握していたセイロス騎士団の手腕は見事なもので、この時点で大将のレアがいる本隊は王都フェルディアに向かってしまったようだ。国王が不在の間に王都を掌握するつもりなのだろう。

 

 困惑に立ち往生する王国軍を率いるディミトリは、数を減らしたとは言え地の利を得ているセイロス騎士団に無策での強行突破は無用な被害を生むだけだと考え、もう一度反転させた軍を帝国に向かわせた。

 事実上、自分達が敗北した相手である帝国に庇護を求める形になった。情けないと思われるかもしれないが、決戦を回避し、即時撤退の判断を下したディミトリの決断に王国軍は粛々と従った。

 事情を聞いたエーデルガルトも即断で彼らを受け入れると決めた。反対の声もあるにはあったそうだが、セイロス騎士団を侮ってはならないことは共通認識であり、その判断を誤らなかったディミトリの理性を鑑みて王国軍の叛意については保留されて捕虜として扱われることになる。

 

 もちろん軍という大きな戦力をそのままにして受け入れるわけにはいかない。部隊単位でバラバラにしてから帝国の各領地に分散させる形で一時的な解体処置を施す。

 流石にそこまで面倒を見るのはと渋る貴族が多い中、率先して彼らを受け入れると表明したフェルディナントが部隊の多くをエーギル領に案内した。実際に彼が同盟から大貴族の子息子女(ローレンツとマリアンヌ)を長く保護していた事実もあって他国の要人を受け入れることに違和感はなかった。

 ついでに言えば、こうして国を越えた要人同士の縁を取り持つ役目をこなすことでエーギル家再興のための実績作りをしておく、という面もある。

 続いてカスパルとリンハルト、そしてベルナデッタも声を上げた。敵であった王国軍をてらいなく同胞として受け入れる彼らによって流れは定まり、それを見たエーデルガルトが決議を下す。

 こうしてディミトリ達は半ば軟禁とも言える状態ではあるが帝国の保護下に入ることができた。

 

 出陣のために帝国を空けていた間、闇に蠢く者は一切動きを見せていない。敵への監視を緩めてはいないが、今のところ不気味なほど静かな彼らに不審なところはうかがえない。

 アランデル公も会議で見かけた姿は表面上は大人しいもので、怪しいと思える動きは見せていないとのこと。彼の場合は摂政という立場にも関わらず実権をほとんど取り上げられており、少しでもおかしな動きをすればエーデルガルトが抑えつけてしまえるので動きようがないとも言えるのだが。

 支配していたはずの小娘に抑えつけられる自身の現状をアランデル公が内心でどう考えているかは不明である。

 

 というのがこの十日の出来事。

 

 倒れたベレトが眠り続けた間、以上の出来事があったと聞く。

 目覚めたばかりの自分の下をヒューベルトの配下が訪れ、帝国の動きも含めて教えてくれた。

 

 王国軍との決戦が回避されたことで戦力を維持できている帝国は、今度こそセイロス騎士団との決着をつけるべく動き出す。タルティーン平原で彼らを破ったことで手応えは感じており、次の戦いで終わらせるのだと。

 既に最高戦力である黒鷲遊撃軍を擁した帝国軍は出陣した。タルティーン平原を通過し、道中の障害を突破しながらフェルディアを目指している。

 甘く見てはいけないと言ってもセイロス騎士団の劣勢は明らかだ。凋落著しい教団に活動を支える土台があるはずもなく、残された戦力で帝国軍に抗える望みは薄い。

 遠からず、レアは討たれるだろう。

 

 ベレトを置き去りにして。

 

 報告を終えた配下が去ると起き上がったベレトは部屋を出た。髪色のせいでどうしても目立つことから苦労しながら人目を忍び、墓地までやってきた。

 ガルグ=マクで目覚めた時から今の自分がどういう状態なのかはおおよそ察していた。見張りの数と物々しさからどういう状況なのかも理解できた。

 

 そうして手間取りながら墓掃除を終え、腰を落ち着けてずっと考えている。

 

「……拘束、か」

 

 自分が何をしたのかは覚えている。

 自分が倒れてから何があったのかは報告から聞いた。

 あの後、エーデルガルトが何をしたのかも。

 

 治療を名目にしてベレトをガルグ=マクに閉じ込め、天帝の剣を取り上げ、仲間達と引き離し、置き去りにしたまま自分達は出陣する。皇帝の決定に逆らえる者はおらず、エーデルガルトの采配で動く帝国軍からベレトは外されてしまった。

 彼女が何を思ってそうしたのか。

 

(嫌なことを言わせてしまったな)

 

 自惚れでなければ。

 あの子はこんなことを言いたくなかっただろう。

 こんな命令なんか出したくなかったはずだ。

 それでも、そうさせてしまったのは間違いなく自分だ。

 

 ベレトは考える。他の道を選ぶべきだっただろうか。

 否と帰結する。自身の選択が生んだ結果には納得している。また同じ状況になれば自分はきっと同じことをするという覚悟がある。

 しかし、そうして至った結果を思うとどうしても溜息が漏れた。

 

 思うのは先の戦いの結果。

 後悔と呼べるほど後ろ向きな感情ではなく、反省と言えるような生産的なものではない。起こったことを振り返り、さりとてそこから何かを拾って考察を深めるでもなく、ただ脳内で何度も繰り返す。

 

(たくさん、失ってしまった)

 

 ジェラルト傭兵団は壊滅した。

 レンバス。ジード。ダンダ。ガロテ。ヨニック。ドナイ。傭兵仲間のみんな。

 全員が死んだ。

 

 力尽きる最期の一瞬まで戦い抜いた彼らによって王国軍はあの平原を一歩も進むことなく立ち往生を余儀なくされ、ディミトリが翻意するまでの時間稼ぎに成功した。文字通り命を賭して戦った彼らのおかげで決戦は回避されたのだ。

 それも、敵である王国軍にただ一人の死者も出すことなく。

 万を超える軍勢同士の激突を命に代えて未然に防ぐ。物語の一節に描かれていてもおかしくないそれは偉業と称えられて然るべき所業なのだろう。フォドラ中を巻き込んだ戦乱を終わりへと導いた英雄として。

 

 それを為し遂げたのが一介の傭兵団であることを誰が知るだろう。知ったところで誰が信じるだろう。聞き及んだところで誰が伝えるだろう。

 華々しさはなくとも英雄譚に記されそうな決死の戦い。あの傭兵達の誉れ高い最期は忘れられていくだけなのか。

 

 いや、違う。彼らは褒められたくて戦ったのではない。譲れない一線のため。胸に抱いたのは誰のためでもない己のための誇り。

 元より明日を生きているかも保証のない傭兵。死と隣り合わせの日々を過ごす彼らが死を覚悟してでも絶対に退けない理由、信念があるからこそ命を懸けて戦えた。

 戦えてしまった。

 

(みんな死んで、俺だけが生き残った)

 

 胸に穴が開いたような喪失感はこれで二度目だ。

 五年前にジェラルトが殺された時。自室に引き籠って悲嘆に暮れる間、ずっと感じていたもの。背を丸め、立ち上がる力を奪い、無為に時を過ごさせる、まるで呪いのように重苦しい感情。

 これも自分の心が育った影響だろうかとベレトは不思議に思う。昔はこうして無気力に苛まれることはなかったのにな、と。

 

 過去にジェラルト傭兵団が活動する中で死者がいなかったわけではない。ベレトがまだ幼い頃から依頼を受ける中で団員が死亡した報告は何度も聞いたことがある。

 戦場に出るのだ。殺し殺されは常であり、相手だけでなく自分達も死に得る環境に身を置いているのだからそれは当たり前のこと。

 その報告を聞いても当時のベレトは心が揺らぐことはなかった。ただ周囲の仲間達の表情を観察して、これは避けなければいけない事態なのだと把握していただけ。

 それが今では、家族が死んだ悲しみに落ち込むようになるとは。

 

 五年前とは違って立ち止まることはない。うずくまって足を止めても意味がないことを生徒達から学んだから。

 どんなに悲しくても涙は枯れるし腹は減る。人が生きていく中で必ず起こることをただ受け止めて漫然と過ごすだけではなく、再び歩き始めなければいけないのだと。

 

 それでもベレトは思いを馳せずにはいられない。

 

(父さん……俺はたぶん、父さんのようにはなれない)

 

 ジェラルトを思い出す。

 自分を育てた父。自分を鍛えた戦士。自分と仲間を率いた傭兵。ベレトが知る最も偉大な男。

 父ならどうしただろう。自分と同じ立場と状況で、どう動いただろう。

 

 きっと考えたところで意味はない。父と自分は別の人間だ。比べたところで結局は自分の判断でしか道は開けないのだ。

 どんなに偉大な男でも、他人の人生の代わりを務めることはできない。

 

 だからこそベレトは誓いを新たにする。

 自分の目的を果たすことができるのは自分だけなのだから。

 

(父さん。みんな。俺は俺の目的のために戦うよ)

 

 セテスは理解してくれた。

 クロードと分かり合えた。

 ディミトリを助けられた。

 

 決裂しそうになる度に戦いの中で道を見出すことができた。彼らを死なせることなく理想の未来に近づくことはできたのだ。

 ならば、()()()()()()()()()()()()()、とベレトは思う。

 

 エーデルガルトを守る。その意志は今でも揺るぎない。

 そのために自分にできることは何か、辿り着いた結論に納得する。

 自分がそうすることであの子が生きていけるのなら。

 何だってやってやる。

 

 ただ、墓を前にして思うのはそれだけではない。

 

(母さん。あなたが命を懸けて産んでくれたから、俺は生きている)

 

 地下の奥深くに隠されていたところから移され、今はジェラルトと共に墓に納められている母シトリー。体が弱いと聞いていた彼女は自身の命と引き換えにしてベレトを出産したという。

 

 五年前の時点でシトリーが亡くなった歳をベレトは超えてしまっていた。死者と比較するのはおかしいかもしれないが、自分より年下の、それも戦士でもない人間が命を懸けて赤子を守るのはどんな気持ちだったのだろう。

 ジェラルトから聞いた話とレアから聞かされた話からするに、母は穏やかながら感情豊かによく笑う人だったらしい。そんな人でも死の恐怖に挫けず誰かを守ろうとする強さがあったのだ。

 自分の子供とはそれほどまでに大切だと思える存在なのか。

 

 ベレトは少しだけシトリーの気持ちが分かる気がした。

 

 そうだ。大切な人のためなら危険に臆することなく踏み出せる。死が迫ってきたとしても、譲れない一線のためならば立ち向かえる。

 そんな強さをシトリーはきっと手に入れたのだ。

 

(俺と同じように、母さんも学んだんだな)

 

 かつてアビスで出会った両親の知己アルファルドの話も思い出す。最後には敵対してしまった彼が語ったのはベレトが聞かされてないシトリーの話だった。

 

 シトリーは元々表情の乏しい女性だったという。感情が見えにくく、書庫で本を読む後ろ姿が印象的な大人しい人だと。

 そんなシトリーがジェラルトの前でだけは明るく笑うのだ。ジェラルトから聞く外の世界の話が彼女の心を解きほぐしたのか、別人のように表情が豊かになり、周囲を驚かせた。

 病弱で一度も大修道院の外に出たことのないシトリーが、外の世界のことを瑞々しい言葉で語るジェラルトに惹かれ、彼との関わりの中で心を育んだのだろう。

 

 それは傭兵団という閉じた世界の中で生きていたベレトが、ガルグ=マクに来てから全く知らなかった世界で生きる人々と触れ合うことで急速に感情を育てられたのと同じように思えた。

 まるで母と自分に重なっている部分があるようで、何だか嬉しい。

 

 その母の墓前でベレトは頭を下げる。

 

(母さん、あなたが繋いでくれたこの命を俺は俺の判断で使います)

 

 シトリーがどんな思いで我が子を救ったか、想像に難くない。

 亡き母の決意を察し、その上でベレトは自身の進む道を定める。

 

 守りたい──この思いに背くことは自分にはできないから。

 

 そうして墓の前にいたベレトに背後から声がかけられた。

 

「こんなところにいたのか先生」

「ユーリス、コンスタンツェ、来たか」

 

 気配に気付いていたベレトは振り向かないまま返事をする。

 足音もなく動けるユーリスと、彼女にしては珍しく靴音を忍ばせるコンスタンツェは静かに歩み寄った。

 

 二人の来訪にベレトは立ち上がろうと膝を立てる。しかし力が入らず、体を起こすのにも苦労する有様に慌てたコンスタンツェが近寄ってベレトの手を取ると、彼女に支えられて何とか立つことができた。

 

「すまないコンスタンツェ」

「構いませんわ先生。ですが……」

「んな体で無茶すんなよ。俺らを待ってりゃいいのに、勝手に抜け出しやがって」

 

 情けないと言わんばかりにユーリスは鼻を鳴らす。だが揶揄する言葉とは裏腹に、ベレトを見やる目には気遣いの色が浮かんでいた。

 

「そうだな。実際に動かしてみないと分からないものだ」

 

 俯いたベレトは残された片目で両手を見る。持ち上げて、胸の前で握る拳には思うように力が入らない。

 

 ディミトリとの戦いでベレトが強制的に自分の体を操作した代償は大きかった。

 骨が折れた体を無理やり動かしたことで折れた骨によって筋肉が内側からズタズタに傷つけられてしまい、従来の回復魔法ではどうにもならない状態になってしまったのだ。

 筋線維のみならず神経までもが傷ついた体は、メルセデスとリンハルトという大陸でも五本指に入るであろう白魔法の使い手二人がかりでも治癒できないほど取り返しがつかない有様になっていた。

 それでも動くようになった手足はまだいい。ディミトリの振り回した手で破裂した右の眼球は元に戻らず、付けた眼帯の中は空洞だ。左目しかない体では距離感が狂って動きにくい。

 

 見張りに気付かれず部屋を抜け出す。隠れて墓地まで移動する。墓石を拭く。いつものベレトなら造作もないはずなのに、たったこれだけの動きが覚束ない。

 起き上がったり歩き回ったり、日常生活ならどうにかなるのだろう。だがこんな体では以前と同じように戦うことは二度とできまい。

 【灰色の悪魔】は死んだのである。

 

 それでも、ベレトの意思を知る二人はこれからのことが分かってしまった。

 抱えた細長い包みをまるで渡したくないように強く抱きしめてコンスタンツェは訊ねる。

 

「先生……本当に、貴方は行くのですか?」

「行く」

「何故そこまで! もう貴方は充分過ぎるほど戦いました! 陛下に尽くすという意味では、先生ほど身を捧げた人は他にいません! あのヒューベルトでさえとっくに先生を認めておりますわ! なのにこれ以上戦えば、貴方は本当に……」

 

 口にするのを恐れたのか、コンスタンツェが言葉を止める。その先が意味するのはベレトの破滅を示すものであることは間違いなく、彼女が声に出すのを躊躇うのは当然だった。

 

 ベレトの危うい行動を止めたい。

 なのに、ベレトを止める資格が自分にはない。

 それを理解しているからこそコンスタンツェの心は千々に乱れた。

 

「諦めろコンスタンツェ。俺達はそういう契約をしたんだ。こいつのやりたいことを支援するっていう契約をな」

「分かっていますわ! それでも……心配するくらいはよいでしょう」

 

 ユーリスの言葉を受けてコンスタンツェは肩を落とす。不満はあれど止めるつもりはない、そうは言っても感情は納得していないのだ。

 

 ベレトとしても二人の言葉を聞いて申し訳なく思うが、目的のためなら立ち止まるわけにはいかない。彼らと交わした契約はそういうものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビスの奥。地下深いそこには、ならず者が行き着く果てにあるとは思えない施設がある。

 ガルグ=マク大修道院にある図書室と遜色ない、あるいはそれ以上の書物が積み上がる書庫だ。

 凄まじい量の蔵書が乱雑に置かれているこの書庫は誰も管理していないことが明白だが、触れる者がいないとは荒らす者もいないに等しく、陽光が届かない冷暗所にも似た地下に守られた無数の紙は意外にも損傷が少ないまま保管されていた。

 

 ここに納められているのは地上には置けないと判断された書物。有り体に言えば、セイロス教から異端の認定を受けたり、倫理に背く内容だとして人目に触れさせてはいけない、さりとて安易に廃棄するわけにはいかないと判断された末に放逐された、いわゆる禁書である。

 ガルグ=マクにあったものだけではないだろう。フォドラ中からかき集めてこの世に相応しくないものとして処断された書物は悉くがここに送られたのだ。

 

 暦の謎。

 世界破滅伝奇。

 個人の手記。

 退廃的な内容の小説。

 とある貴族へ送られた手紙。

 

 禁忌に触れる物から明らかな私物まで。整理もされず乱雑に並ぶ無数の紙はそのまま朽ちていくはずだった。暗所とは言え、埃が積もり、虫が好む環境の中では虫食いに苛まれて書物としての価値を失うばかり。

 それを改善するために動いたのがアビスの前管理者アルファルドだった。

 地下にアビスという居場所を作り管理する中でこの書庫を発見したアルファルドは密かに手を入れ、清掃と整理していく彼は自然とここの書物に目を通すことになる。

 元は敬虔なセイロス教信者のアルファルドである。ここで知ったことは彼の倫理観からすれば信じがたい内容も数多くあっただろう。その中の一つにシトリーの真相があったことが彼が決起する理由になったのは想像に難くない。

 

 アルファルドが死者の蘇生を目論んで起こしたあの騒動が収束して、そのアルファルド亡き後にアビスの監督を引き受けたユーリスが同じように書庫の管理も引き継ぐと、そこに納められたものに触れるのは自明の理であった。

 

「ほらよ先生」

 

 これはベレトが目覚めてから帝国内を飛び回り、エーデルガルトのためにできることをしようと奔走していた時のこと。

 アビスに呼び出されたベレトが書庫でユーリスから渡されたのは複数の紙の束。書物ではなく、調査したものをまとめたレポートらしきそれはベレトからの依頼に対する報告書だ。

 

「調べられたのか」

「まあな。けっこう衝撃的な内容だぜ」

「ありがとう。助かった」

 

 受け取ったベレトはその場で開いて読み始めた。その横で棚に寄りかかるユーリスは苛立ったように鼻を鳴らす。

 依頼を遂行できたというのに彼の表情には明らかな不満が浮かんでいた。

 

 五年前からアビスの監督役を継いで地下の管理を任されたユーリスだが、その時に彼はベレトからあることを頼まれていた。

 アルファルドの決起の理由。母、シトリーに関する調査である。

 

 アビスでの事件が終わり、その場に居合わせていたレアからシトリーのことを幾らか聞きはしたものの、明らかに言いたくなさそうな表情をしていたレアを慮ってベレトは彼女から聞き出すのを諦め、アビスに眠る資料の山から調べることにした。

 ただし自分は士官学校の教師で調べ物をする時間はあまり取れそうにないこともあり、アビスに精通しているユーリスに頼ろうと考えたのだ。

 

 ……知られたくないからレアは言いたくなさそうにしていたのに、遠回りになっても調べることを止めなかったのはベレトらしいマイペースと言えたかもしれない。

 ともあれ、あのアルファルドがアビスを含めた全てを犠牲にしてでも決起した原因にもなったシトリーについて少しでも知りたいという感情がベレトに芽生えたのは確かである。

 

 騒動の解決に協力したベレトには大きな借りがあるとして、ユーリスは快くその頼みを引き受けることにした。

 しかしこの調査が思うように進まず。

 と言うのも、灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)の級長として他者を率いることに慣れたユーリスと言えど、アルファルドが任されていたアビス全体の管理を引き継ぎ、同時に書庫を調べるのはなかなか骨が折れる仕事だったのだ。

 付け加えると彼の配下に当たるアビスの荒くれ者も書物の整理と調べ物という馴染みのない作業に四苦八苦したのは想像に難くない。

 

 そうこうしている内に時は流れる。エーデルガルトが蜂起したことでフォドラの内情は一変。ガルグ=マクの環境も変わり、元々荒れがちなアビスの秩序を保つだけでなく外敵に対処する必要に迫られた。

 外に備えるならば内に目を向ける余裕は減り。やむを得ずベレトに頼まれた調査は後回しにされてしまう。

 そんなこんなで五年越しの調査完了となり、今になって報告と相成ったのである。

 

 頼んだベレトとしては急ぎだと要求するつもりはなく、きちんとレポートにまとめてくれたユーリスには感謝しかない。

 ただ、その彼が目に見えて不機嫌であり、原因がこのレポートにあるのではと思い礼を伝えるのもそこそこに目を通すことにした。

 

(これは……)

 

 余計な装飾のない文面はベレトにも分かりやすく。

 反して書かれた内容はこの世界の人間の倫理観からすればおぞましいとさえ言えるものだった。

 

 シトリーの真相。その中でも最も大きな要素は彼女の死に関すること。

 レポートにまとめられたことの多くはシトリーが息絶えた最期の瞬間、出産について記された医療カルテから引用されていた。

 このシトリーの医療カルテと来歴こそがユーリスに頼んた調査の成果である。

 

 体が弱いシトリーは出産に耐えるだけの体力はなかった。それでも彼女は力を振り絞って子を産むも、自身の気力は枯渇し、産まれた赤子は息をしておらず心臓の鼓動もない状態。

 母子共に命を落とそうとしていた時、立ち会っていたレアにシトリーは頼み込む。

 自分の心臓をこの子に与えてくれ、と。

 頼みを聞き入れたレアはシトリーの胸を切り開くと赤子、すなわちベレトの胸も同じように切り開き、心臓を移し替えた。

 

 そこまではベレトがレアから直接聞いていたこと。レポートの本題はここからだ。

 

 実はシトリーがレアに頼んだのは心臓の移植ではなかったのだ。

 その真意は、自身の心臓そのものではなく胸に埋め込まれた紋章石の力で赤子の生命力を補填することだった。

 今なら間に合う。自分よりこの子を。どうかお願いします。

 シトリーの嘆願を無碍にできずレアは執刀した。彼女の胸から取り出した紋章石を同じように赤子の胸に移植する。すると赤子の体に血が巡り始め、息を吹き返した。危ういところで命を繋ぐことができた。

 しかし代わりに紋章石を失ったシトリーは間もなく息を引き取ってしまった。

 

 これだけを見れば、母親が我が子のために文字通り命を賭して出産したという感動的な話なのだろうが、気にするべきところは別にある。

 何故シトリーの胸に紋章石などというものが埋め込まれていたのか。

 何故それを移植したら赤子のベレトは息を吹き返したのか。

 何故レア自らセイロス教の教義における禁忌(人体の切開)を犯したのか。

 その秘密は紋章石の紋様にある。シトリーからベレトに移されたこの紋章石は遥か昔に眠りについた神祖ソティスの力、炎の紋章が宿る石なのだ。

 

 元々シトリーはただの修道女ではない。体の中心となる心臓に炎の紋章石が埋め込まれた、ある目的のためにレアによって作り出された人間だった。

 その目的とは神祖の復活。彼女はセイロス教に伝わる神祖ソティスを顕現させるための器だったのだ。

 

 器の役目を果たせないまま時は流れ、ジェラルトと結ばれたシトリーは妊娠して、出産した赤子に息がないと知るやレアに我が子を救ってほしいと頼み込む。

 体の弱いシトリーが生き長らえてこれたのは紋章石の力で生命力を底上げしていたからだ。息はなく心臓も動いていない赤子を救うにはそれしかない。これのおかげで自分が今まで生きてこれたように、我が子のためなら。

 そうして紋章石を移植したことで、心臓ではなく紋章石の力で血を巡らせ、鼓動がないまま息を吹き返した赤子、ベレトが誕生したのである。

 

(なるほど、父さんがあやしく思ったのはこれのせいか)

 

 自身の出生の秘密を知ったというのに他人事のようにベレトは得心する。

 

 ジェラルトの日記帳にあった、ベレトを抱えてガルグ=マクを出奔した理由がまさにこれだ。

 シトリーが死に、肝心の赤子にはレアが厳重な監視を付けて、目を盗んで調べたら心臓の鼓動がないだなんてどう考えてもおかしい。ジェラルトがレアを疑わしく思うのは当然だ。

 素晴らしい人だと思っていたレアへの疑心と恐怖が生まれた末に、ここにはいられないと判断したジェラルトがせめてベレトは何としても守らなくてはと救い出し、そうして赤子を抱えたまま傭兵に身をやつした、というわけだ。

 

 そこまで考えを進めたベレトはレポートを脇に置くと、おもむろに服を脱いで胸を晒した。

 

「あ? 何してんだ先生」

「ユーリス。俺の胸をよく見てくれ」

「……痕があるかって?」

「レポートの通りならかなり大きく切っていたはずだ。今まで生きてきて自分では分からなかったから上手く塞いだんだろうが、君の目で確かめてほしい」

 

 自分で自分の胸は注視できないとしてユーリスに頼むベレトは剥き出しの胸部を向ける。歴戦の傭兵らしく細かい傷跡があちこちにあるが、一見しただけではカルテにあったような切開の痕跡は見当たらない。

 しかし、眼力の持ち主が『そこにある』と認識して見定めれば話は変わる。

 

「………………ここだ」

 

 トン、と胸の一ヶ所にユーリスは指を当てた。

 鼻先が触れるほど近くでベレトの胸を凝視すること十数秒。表皮に浮かぶ筋の一つと言えば誤魔化せてしまえるような極めて薄い線を見抜き、そこを切って塞いだ痕だと断じた。

 

「二十年以上前の痕だ。違和感なんかねえだろ」

「ああ。それに父さんも誰も気付かなかったんだから、当時から分からないくらい綺麗に塞いだんだと思う」

「それもそうか……しかしレアさんもとんでもねえことしたな」

 

 セイロス教の教義によると、人体の解剖、中でも頭部や胸部への切開は異端の技であるとして禁忌の一つにされている。遺体を辱める行為であり死者への冒涜に当たるとして。

 傷への対処も白魔法により解決できるとの想定で、薬学はともかく医学に関してはほとんど発展していないのがフォドラの現状だ。

 その実情は、信仰を必要とする白魔法に医学が勝ってしまえば教会の権威が揺らぐことを恐れた枢機卿の一人の主張である。

 禁忌に定めてしまえば研究する者は減り、発展を大きく抑制できる。現にフォドラでは白魔法による治癒が主流で、医学による治療はろくに研究が進んでいない。

 そんな技をセイロス教の大司教たるレアが秘密裏に行っていた。これを知った時、敬虔な信者とは言えないユーリスでもそれなりに衝撃を受けたものだ。

 

 溜息を吐くユーリスの横で、ベレトは自身の胸に意識を集中する。

 

 胸。

 胸の奥。

 体の内側。

 皮、肉、骨、さらに奥。

 心臓があるところ、そのすぐ横。

 

(ある)

 

 戦士として、武器の端から自身の爪先まで、己の肉体の隅々まで掌握する者としての感覚を総動員させたベレトは、胸の内側にある何かを知覚した。

 本来なら一生知ることはなかっただろう。肉とも骨とも違う。違和感なく体に馴染んでいるが、疑いを持って探れば確かにあると感じるもの。

 

 きっとこれが母から移された紋章石。この石があるから自分は他の人間とは違ったのか。

 無表情や無感情なのは個性的な性格としてまだ何とか認識できたかもしれない。しかしそれ以上にベレトにしかない特性とも言えるものが、他人との明らかな差異として表れている。

 

 炎の紋章。解放王ネメシス以来フォドラに生まれなかった伝説の紋章。

 エーデルガルトに刻まれた人為的な後付けのものとは違い、ベレトの紋章は確かに彼自身のものである。紋章学に関しては誰よりも見識のあるハンネマンが断言していたように、ベレト以外に持ちえないものだ。

 赤子の時点で埋め込まれた紋章石の力が長い時間をかけてベレトの肉体に馴染んだことで、紋章そのものまでもが体に反映されたから。

 

 そしてレポート内容の確証を強めるのが天帝の剣。

 本来の英雄の遺産であれば嵌められているはずの紋章石が、天帝の剣の柄には存在しないのだ。そこには丸い空洞がぽっかり空いており、何故適合する紋章石がないのか長年の謎とされていた。

 こんな天帝の剣でも他の英雄の遺産と同じように、紋章を持つ者であれば問題なく強力な武器として振るうことができる。しかしその真の力、蛇腹剣としての性質はベレトが手にした時にしか表れない。これについても周囲から不思議がられていた。

 ここに来てその謎が明らかになる。天帝の剣に嵌められていた紋章石とは、今まさにベレトの胸に納められている炎の紋章石に違いない。

 英雄の遺産は適した紋章と紋章石が揃って初めて真価を発揮する。他人が持っても剣にしかならずベレトが手にした時だけ蛇腹剣になるのは、天帝の剣がベレトの胸の中にある炎の紋章石と呼応していたからだ。

 同じ炎の紋章の持ち主であるエーデルガルトが握ってもオーラを纏う剣になるだけで蛇腹剣にはならない事実がこの説を補強する。

 

 そんなベレトが神祖の加護を受け、大司教から聖人と認定され、今やセイロス教の中心とみなされてフォドラを率いることを期待された存在になっている。

 

「たぶん、ソティスと融合したことで、俺は神祖の眷属みたいなものになったんだろうな」

 

 脱いだ服を着直しながら、酷く軽い口調でベレトは呟く。

 

「……まあ、そういうことになるのかね」

 

 渋い表情を崩さないユーリスはそう返すしかなかった。

 恩師が人間の軛から外れてしまったことにどう反応すればいいか分からない。当の本人であるベレトがあっけらかんとした様子だから流せてしまえるが、常人ならこの事実にパニックを起こしてもおかしくない。

 

「五年間眠り続けていたのも、受け取った力を体に馴染ませるためと思えば理解できる。それまで生きてきた二十年以上の在り方を五年で上書きできたと考えれば早い方だろう」

「それで五年も放っとかれた俺達からすれば堪ったものじゃないけどな」

「そうだな。俺ももっと早くみんなのところに戻れていたらとは思うよ」

 

 鼻を鳴らして不満を表すユーリスを見て、ベレトは小さく笑う。

 

 生まれた時から、それどころか生まれる前から自分は普通の人間とは違う存在だということが明らかになっても、ベレトはその事実に揺らいだりはしなかった。

 元々過去に拘ったりしない性格だ。刹那主義の気質が多い傭兵の中で育ったこともあり、自分に関しては今がよければそれでよいと前向きに捉える、ある意味楽観的な考え方が基本となっているからだ。

 それよりもベレトとしては自分より他人のことが気になった。

 

 レアはシトリーを人として愛していたと言っていた。死んだ彼女を埋葬したと偽りアビスに隠して時折会いに行っていたことから、手段の是非はさておき、作り出したシトリーに愛情を抱いていたのは嘘ではないのだろう。

 それはきっとシトリーが修道女として生きている間も、ジェラルトと出会って心を育んでいる間も、ずっとレアの傍で関わり続けていたからだ。

 

 シトリーについてはそれで納得できる。ではベレトは?

 レアのベレトへの態度は熱烈と言えるくらい親密で、それは人間関係に鈍いベレトにも感じられるほどだ。シトリーが生んだ子供だというだけで、それまで二十年近く会ってなかった人間をあんなにも歓迎できるものだろうか。

 セテスから聞いたのだが、ガルグ=マクに来たばかりのベレトをレアがいきなり士官学校の教師に抜擢したことも、大司教補佐である自分に全く相談されていない独断で、寝耳に水の話だったという。それもあって当初は彼からの態度は比較的厳しいものだった。(フレンが学級に加わった際に起きたあの騒動は、まあ、セテスだし)

 自身の右腕であるセテスも知らなかったベレトにレアは何を見出したのか。

 

 当時は考えても仕方ないと流してしまっていたことだが、事情を知った今だと見え方が変わる。

 レアはベレトを歓迎したのではなく、胸の中にある紋章石の帰還を喜んだのだ。

 

 そしていつからか、紋章石を埋め込んだ赤子が育ったならそれを次の器、シトリーでは果たせなかった神祖復活の素体としてそのまま活用しようと考えた。

 教師に任じたのは、責任ある立場に就かせて貴族の生徒と関わりを持たせれば逃げ出せなくなると踏んだのか。実績を上げる度に妙に褒めてきたのは、神祖に相応しい器に成長していることを嬉しく思ったからか。

 

 その感情が反転したのが、聖墓でベレトがエーデルガルトを守るためにレアへ剣を向けた時。

 

『そう、ですか……あなたも……失敗だったのですね』

 

 信じられないものを見たように驚愕すると、直前とは別人のように冷たい視線を向けてきたレアを思い出す。

 彼女が何を期待してベレトを聖墓の椅子に座らせたのか。何を以て失敗と断じたのか。

 

(レアは、俺をソティスにしたかったんだ)

 

 最初からレアの目にはベレトという個人は映っていなかったのかもしれない。彼女にとって大切なのは紋章石で、その器としての役目こそが肝心だった。

 ソティスと融合を果たして髪と瞳の色が変わった際にはこの時を待ち望んでいたと言っていたように、神祖ソティスの復活こそがレアの悲願であることが分かる。

 

 しかし実情はまるで違う。

 ベレトの中で目覚めたソティスは口調こそ高慢だが、不思議な力を持っていても神祖の自覚などないまま朗らかに笑う、ただの幼い少女だった。

 そしてソティスがベレトに託したのは力だけであり、融合したことでその心はもう消えた。ベレトにだけ見えていた姿も今は見えなくなり、戻ることはない。

 必然的にレアの願いは叶わない。

 

 カルテを含めた記録をアビスへ放棄したのだから、これが倫理に(もと)る行いだという自覚はレアにもあったのだろう。それでも隠れてこのような所業を進めていたのは、彼女にそれだけ強い意志があるからに他ならない。

 そんなにもソティスに会いたかったのか。シトリーを、ベレトを、他人の存在を礎にしてでも求めていたのか。

 

(分かるよ、レア)

 

 心の中でベレトは共感する。

 自分だって、叶うものならまたジェラルトに会いたい。今ならシトリーやアルファルドのことを話したり、ジェラルトからも二人の話を聞いてみたい。

 ソティスにも会いたい。自分の近くで口喧しく騒ぐ声をもっと聞きたいし、今度はレアに秘密にするのではなくこちらからソティスの存在を伝えたい。

 そんなベレトの気持ちよりもずっと、ずっと、それこそ比べ物にならないくらいレアがソティスを求める意志は強いのだろう。

 

 だが同時にベレトは理解している。それはやってはいけないことであると。

 誰かを犠牲にして他の何者かを求める。存在を無視して別の何かを重ね合わせる。

 それはある種の裏切りに値する行為だ。信頼の一つ、良心に背く行いだ。

 

 考えるまではいいだろう。実際にやってはいけないこと、それをレアはやった。

 ひょっとすると……彼女にも躊躇いがあったかもしれない。葛藤の末の選択かもしれない。もしかしたら今も苦悩しているかもしれない。

 無論ただの憶測だ。しかしベレトが知るレアは、苛烈なところはあっても基本的には人を慈しむ心を持つ優しい女性である。その彼女がこうした所業に走るには自らの良心を捻じ曲げなければならない。

 

 だとすればレアは今も苦しんでいる。そうまでして求めた悲願は叶わず、紋章石は手元を離れ、歪んだ心を抱えたまま足掻いている。

 そんな彼女を放っておけない。このままエーデルガルトに会わせてはいけない。

 何らかの手段で落ち着かせてからでないと対話もままならない。そのためには──

 

「それで先生、これであんたの依頼は果たしたって考えていいよな」

 

 思案するベレトに、脇に置かれたレポートを指で叩いてユーリスは訊ねた。

 内容のせいかいつもの彼らしい不敵な笑みはなく、険しい表情が変わらない。

 

「ああ。とても助かった。ありがとうユーリス」

「そりゃどうも。この情報はエーデルガルト達にも共有するんだろ。どうする? あんたも忙しいだろうし、俺の方からヒューベルトにでも伝えて──」

「いや、言わなくていい」

「は?」

「このことは誰にも言わないでくれ。知ってるのは俺と君だけでいい」

「……どういう意味だよ」

 

 ベレトの言葉にユーリスは眉をひそめる。

 秘密主義のユーリスと違ってベレトは情報を共有する性分だ。戦場での咄嗟の状況判断で言葉少なく指示を出すことはあるが、普段の彼なら授業でも作戦会議でも細かく話し合って情報の周知を重視する。それが大切な事柄であれば尚更だ。

 

 確かにおぞましい内容ではある。ベレトを見る目が変わりそうな事実だ。

 しかし赤の他人ならまだしも彼を心から慕う生徒達などの仲間ならそんな心配はいらないはず。

 ユーリスも衝撃こそ受けたが、それでベレトを疎む気持ちはさらさらない。

 

 他の仲間はそうだろう。だがベレトはエーデルガルトを案じた。

 

 他者の手で体を弄られ、人の軛から外れた存在にされる。ベレトが受けたこの所業は、目的は違えどエーデルガルトが受けたものに酷似しているではないか。

 炎の紋章を刻まれたエーデルガルト。

 炎の紋章石を埋め込まれたベレト。

 それが原因で二人は本来辿るはずだった人生が大きく変わり、他者の意図する別の道を歩むことになった。

 闇に蠢く者によってエーデルガルトは強き皇帝、炎帝に。

 レアによってベレトはシトリーの代役、ソティスの器に。

 偶然でこんなにも似ることがあるだろうか。

 

 単純に生き延びたベレトはいい。シトリーから紋章石を移されなければとっくに死んでいたのだから、むしろ命を救われたとレアに感謝する立場だ。

 エーデルガルトは全く違う。

 

 家族を奪われ、体を弄ばれ、尊厳を辱められ、そうして歩かされた道は組織の言われるがままにフォドラを動かす傀儡になるもの。何もなければ彼女はそうなっていたはず。

 その運命を覆せたのは、ひとえにエーデルガルトが強かったからだ。忠臣のヒューベルトが全霊で仕え、頼もしい仲間に出会い、信頼と運がもたらしたチャンスを逃すことなく彼女が全力で生きてきたからだ。

 エーデルガルトは強い人だ。それは間違いない。真の意味で皇帝へと成長した彼女ならベレトの秘密を知ったとしても揺らぐことはないのかもしれない。

 

 しかし。

 しかし、である。

 そうやって、相手が強い人である、という前提の話をベレトはしたくなかった。

 だってベレトから見たエーデルガルトは普通の女の子なのだから。

 

 辛い過去を受け入れて生きる人は強いけれど、だからと言ってその辛い過去を想起させていいことにはならない。

 体を切り開いて弄られた凄惨な過去は、受け入れた今でもエーデルガルトにとって忘れられない苦痛の記憶になっている。ベレトが似た経験をしている事実を明かしたところで、それをお揃いだなどと言ってはしゃげるわけではあるまい。

 

(いや、それだけじゃない。俺はきっと怖いんだ)

 

 相手を思いやるような、綺麗事でまとめようとする思考を正す。本音はもっと自分本位なものだろうと己を省みる。

 

 この秘密を明かしたら、エーデルガルトはどんな反応をするだろうか。

 酷似した体験からベレトと自分を重ねる。するとこう考えるのではないか。

 似ているのに違う、と。

 紋章石を埋め込まれたおかげで命を繋いだベレト。生き延びた彼はジェラルトに救われ、傭兵達と逞しく育ち、ガルグ=マクに来て教師になった。紆余曲折はあったにしても幸いの中で生きてきたと言える。

 それに対して、自分は?

 子供の自分から全てを奪った組織の手駒になることを余儀なくされ、人体実験で狂い死んでいく兄弟姉妹から一人取り残され、必死に足掻いて生き延びた先で出会ったベレトが自分と似た存在であると知らされたら……こう思うのではないか。

 ズルい、と。

 

 五年前。ソティスと融合を果たし、闇から舞い戻って、事のあらましを説明した時を思い出す。

 ディミトリとクロードがいるにも関わらず取り繕おうともしないでベレトを睨んできたあの目。

 あの時のエーデルガルトの険しい視線の意味を今こそ理解した。

 

 ──どうして貴方だけが幸いを得る。

 ──どうして自分だけが奪われる。

 ──ズルい。

 ──同じじゃないなんておかしい。

 ──私と貴方は似ているのにどうして私だけが。

 

 エーデルガルトは強い人だが、同時に普通の女の子の心も持っている。他人を妬む気持ちくらいあって当然だ。

 その彼女にまたそんな思いをさせるのか。またあの目をさせるのか。

 

(エーデルガルトにあの目で見られるのが……怖い)

 

 ベレトが心の中でエーデルガルトの姿を思い浮かべる時は、いつも温かい気持ちが湧いてくる。それは彼の背中を押すような、この子のために何かがしたくなる強い力の源だ。

 なのに今彼女の目を想像してみると、足が竦む。

 育てられた感情がまざまざと思い描くのは、彼女の拒絶によって生まれる泣きたくなるような冷たい気持ち。腹の奥が締め付けられたみたいで、体を動かせなくなる。

 

 それはベレトにとって想像するのも嫌な、未知の恐怖だった。

 

「この情報は今後レアとやり取りするのに大きな武器になる。そのためにもまだ誰にも知られない方がいい」

「当事者の先生が情報の使いどころを決めるならいいが……本当にいいんだな?」

「ああ。ユーリスも誰にも言わないでくれ」

「……そうかい。まあ確かに普通は驚くだろうしな。明かすタイミングはあんたに任せるよ」

 

 もちろんエーデルガルトが抱える事情を知らないユーリスはベレトの内心は分からない。

 それでもベレトであれば武器の使い方を誤ることはないだろうと信じて反論せず、この情報を秘めておくことに賛同した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時は流れ、同盟との決戦を終えた直後。

 目を覚ましたベレトが鈍った体を鍛え直そうと、ブートキャンプをしようと考えて生徒に声をかけたら軒並み断られてしまったところ。

 再びユーリスに呼び出されてアビスに足を運んだ時である。

 

「どういうつもりだ先生!」

 

 書庫に来たベレトを開口一番に怒鳴ったユーリスは彼の胸倉を掴んだ。

 いつもの冷静な態度はなく、隠そうともしない怒りがベレトに向く。

 

「クロードを守ろうとして、それであんたが死にかけたんじゃ意味ないだろ! 何を考えてあんなことしやがった!」

「落ち着けユーリス」

「これが落ち着けるかよ!」

 

 らしくないと宥められても声を荒げるユーリスは止まらない。勢いのまま壁にまで押し込んでベレトを詰問する。

 

 会談での取り決めによって戦力を絞っていたとは言え、フォドラの未来を左右する決戦。そこで帝国が勝利したことがフォドラ中に報じられ、それを知ったアビスの住人も湧き上がったものだ。

 そんな中、アビスの長であるユーリス含む灰狼の学級(ヴォルフクラッセ)の仲間は戦いの詳細まで知らされていた。どのようにして決着を迎えたのかも。

 すなわち、クロードがベレトに守られたことも、である。

 

 命を懸けて敵を守るだなんて、一体全体何を考えているのか。

 

「あんた死ぬつもりだったんじゃねえだろうな!」

 

 そうだ、命を捨てるつもりでもなければできない。できるはずがない。討ち取ればそれで勝利となる敵将を身を呈して守るだなんて。

 クロードが自分の負けを認めて敗北宣言をしたのだって、運が良かっただけではないか。彼が士官学校でベレトと友誼を深めた生徒だから耳を貸しただけで、他の誰かだったら絶対に応じたりなんかしない。

 

 確かに、戦場へ赴くのなら死を覚悟するのはおかしくない。しかしそれは勝利を掴もうとして戦うことに伴う危険なのだから、誰であろうと避けるべき危険だ。

 どう考えても今回のベレトの行いはその逆。生徒にはあんなにも防御の技や生き延びる心得を教えておきながら、教師の自分は率先して死に飛び込むのか。

 

 怒り。焦り。疑い。ユーリスが感情を叩きつけるのは当然だった。

 

「そんなわけあるか」

 

 だというのに、当人のベレトはあっさりと否定するのだ。その目には確固たる意志が見えて、詰め寄ったユーリスもそれが分かってしまうから困惑する。

 

「…………悪い。言い過ぎた」

「構わない」

 

 幾らか落ち着きを取り戻すと、怒鳴ったことを詫びたユーリスは手を放して苛立たし気に座り込んだ。

 対するベレトは掴まれた襟を軽く直すだけで、特に心が動いた様子はない。

 それはつまり、こうして詰め寄られた程度で行動を改めるような考え方をしていない、ということでもあった。

 

「あんたがふざけて戦うような人間じゃないことは分かってるさ。あの結果は勝つために必要なことだったんだろ」

「ああ。ただ相手を倒して勝つだけじゃ足りない。クロードにこちらの流れを汲んでもらわないと意味がない。戦いの形をしていたけど、実質的には和平会談の続きみたいなものかもな」

「そこまでやってようやくフォドラの未来が見えてくる、と……はっ、随分とまあ先を見据えた話だぜ」

「そんなに先のことまで分かるわけじゃないぞ。遠い未来のことはエーデルガルトやヒューベルトの領分だ。俺は俺にできることをしてるだけだよ」

 

 雑談を続けるような軽い口調でベレトは言う。その言葉に引っかかりを覚えたユーリスは眉をひそめた。

 

「できることを、ね……目的はエーデルガルトか」

「ああ、ユーリスはもう知ってるだろう。俺はエーデルガルトを守りたい。そのために戦う」

 

 当たり前のように言うベレト。しかしその当たり前がユーリスにはますます引っかかった。

 

「分からねえな……なあ先生、どうしてあんたはそこまでする? エーデルガルトを守りたいっていう覚悟はこの際認めるが、俺の目にはやりすぎに見えるぜ」

「そうか?」

「そうだよ。というか、そこまで奴に肩入れする理由があるのか? 元は傭兵で、次は教師。帝国に恩があるわけでも、皇家に繋がりがあるわけでもない。そもそも貴族ですらない。そんなあんたが命を張ってまでエーデルガルトを守ろうとする動機は何なんだ!?」

 

 ベレトの過去の経歴からすると、エーデルガルトへ尽くす姿には異常と言ってもおかしくない拘りが見える。忠臣の中の忠臣であるヒューベルトに勝るとも劣らない決意の強さは何が源になっているのか。

 

 声を荒げて問いただすユーリスを見て、ベレトは少し思案する。だが答えはすぐに出たようで、返す言葉は穏やかな口調だった。

 

「少し、話が長くなるかもしれないが」

「いいから言えって」

「君は『気が付いたら飛び出していた』という経験はあるか?」

「はあ?」

「または『考える前に体が動いていた』でもいい」

「……まあ、ないことはないけどよ」

 

 何の話をしているか分からないが、ひとまず頷いてユーリスは促す。

 

「でもそんなのはある程度の戦闘経験があれば誰にだってあるだろ」

「うん、そうか……じゃあそれが『後になって考えるまでどうして動いたのか理由が分からない』という場合はどうだろう」

「何だそりゃ。謎かけか?」

「そうじゃない。言い方が難しいな」

 

 そう言うベレトだが言葉を連ねる表情はどこか明るく、彼が楽しそうにしているという珍しい姿はユーリスを驚かせた。

 

「俺が今言った『気が付いたら飛び出していた』経験をしたのは二回ある」

「二回?」

「その内の一つはユーリスも見ていたよな。五年前、俺がレアを助けるために飛んで行った時」

 

 エーデルガルト率いる帝国軍がガルグ=マクを襲撃した際、その身を巨竜に変じたレアが多数の魔獣に襲われて崖下に落とされそうになったことがあった。それを目撃したベレトがその場にいたユーリス達を放って飛び出し、天帝の剣でレアを釣り上げて助けたのだ。

 あまりの荒唐無稽な救出劇に戦場だったガルグ=マクが一瞬だけ静まり返ったあの空気はユーリスもよく覚えている。

 

「俺はエーデルガルトを守りたいけど、そのためにはエーデルガルトだけを守ればいいわけじゃない。後でそれが分かったからあの行動は納得してる。レアも俺にとっては恩人だから」

「へえ……なら、もう一回の方は?」

「そっちはユーリスに出会う前の話だ。俺がガルグ=マクに来ることになる直前に、ジェラルト傭兵団が滞在してたルミール村にエーデルガルトとディミトリとクロードが押しかけたことがあってな」

 

 語るベレトの目元は優しく、口元は綻んでいた。

 その思い出を大事な宝物のように思っていることが表情から伝わってくる。

 

 士官学校の実習の一環で野営をしていたところを野盗に襲われて級長の三人は敵を引き付けながら逃げていた。その最中で助力を得るべく立ち寄った村にいた傭兵団を頼ったのだ。

 夜遅くですぐに動けたベレトとジェラルトが出ると、ほとんどをベレトが、補佐として多少をジェラルトが片付けてしまい、問題なく事は終わる……はずだった。

 

 級長達も自分達が厄介事を持ち込んだことで頼りきりになるつもりはなく、ベレトと並んで戦線に立っていた。その際にベレトに注目していたのか、倒された中で突如飛び起きた敵の斧を回避できなかった者がいた。

 エーデルガルトである。咄嗟に短剣を抜いただけで満足に構えることもできないまま斧の一撃を受けるところだった。

 そうならなかったのは寸前でベレトが割って入ったからだ。身を呈してエーデルガルトを庇ったベレトは振り下ろされる斧を背に受けた。

 

「はあ!? 斧を受け、っておい、庇ったって何だよ!?」

「あ、いや、結局は何とか防いだよ。ちゃんと反撃したし」

「変な言い方すんなよ……というかそんな時からエーデルガルトを守ってたのか」

 

 天刻の拍動で運命を覆したことは言えなかった。説明がややこしくなる。

 

 しかしここで大事なのは結果ではない。ベレトがエーデルガルトを庇ったことだ。

 あのベレトが庇ったのだ。初めて会ったばかりの見ず知らずの相手を。

 傭兵として生きてきて【灰色の悪魔】と称されるほど無感情だった頃のベレトが。

 この時点では教師ではなかった彼にとって、縁も所縁もない他人でしかなかったはずのエーデルガルトを命の危険も顧みず守ったのである。

 文字通り『気が付いたら飛び出していた』のだ。

 

 それはベレトにとって世界を一変させるほどの衝撃であり、衝動だった。

 

「初めて会ったあの時から、俺はエーデルガルトが好きだったんだ」

 

 忘れない。

 月明りに照らされて白く光る髪。

 その下で敢然と前を向く相貌。

 突如現れた脅威にも怯むことなく武器を構えた少女の横顔。

 目を奪われた。抗いようもなく魅入られた。体の奥で何かが爆発したような情念が背を押した。

 そして、気が付いたら飛び出していた。

 

 一目惚れ。俗な言い方をすればたったそれだけのこと。

 それでいい。そんな単純なことでも、後で考えたら不思議なほどすんなり受け入れられた。これが自分の本音なのだと納得できた。

 ソティスに呼びかけられる以前の、まともな感情が育ってなかった頃の自分の心を突き動かしたのがエーデルガルトへの想いだと理解した時、ベレトの中に生まれたのは喜びと誇らしさ。

 この想いが自分をここまで連れてきたのだと。

 

 ソティスの目覚めがベレトの身を神祖の眷属へと変化させていく始まりになったのだとすれば、ベレトの心を正しく始めさせてくれたのはエーデルガルトだったのだ。

 

 エーデルガルトが生きていたからベレトと出会えた。

 エーデルガルトに出会えたから今のベレトがある。

 エーデルガルトと関われたことでベレトは本当の意味で人間になれた。

 

 だから。

 

「充分だ」

「……あ?」

「もう充分なくらい俺はたくさんもらってきた。少しでも返せるものがあるなら惜しくない」

 

 母とレアからは命をもらった。

 父と仲間からは力と絆を教わった。

 ソティスと生徒からは心を学んだ。

 こんなにもたくさんもらって、充分過ぎる。

 

 エーデルガルトだけじゃない、大切な人達みんなに生きていてほしい。

 今を生きている大切な人達に何か返せるのなら、未来に繋がる何かができるなら。

 あの子とみんなの未来を守るためなら──

 

「俺は何だってできるから」

「おい、待て。それが死ぬつもりだろって……」

「違うよユーリス。俺はみんなを守って生かすために戦うんだ」

 

 同じことだろうと言いかけて、ユーリスは声を止める。

 もしやベレトは死ぬということを理解していない? いや、そんなことはないはずだ。ジェラルトが殺された時にああも落ち込んでいたのだから人の死を痛ましく思う感性はある。

 

 まさか。

 まさかとは思うが。

 彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか?

 

 あまりに飛躍した想像に言葉が出ない。

 そんなの、まるで幼い子供みたいな無思慮ではないか。

 

 これほどまで人気を集めて、周囲から慕われて、それを自覚していないはずがないのに、自分の命に価値を見出していないなんてことがありえるのだろうか。

 騎士や貴族なら仕える国なり主君なりにその身を捧げるというのは分からないでもないが、彼は傭兵出身、言わば流浪の民。そんな意識が根付くような人生ではないはず。

 それなのにこんな発言をするベレトが正気とは思えなかった。

 

「ユーリス、止めてくれるなよ」

 

 思考に挿し込まれるベレトの言葉に顔を上げる。

 そして見た。彼の目を。そこに宿る覚悟を。

 

「君は仲間のためなら自分の命も、仲間との信頼すらも犠牲にして行動できる人だ。その君の行動を俺は止めなかった。代わりにこれから俺がやろうとすることを止めないでくれ」

「あ、あの時とは状況が違うだろ! 当時は俺がまだあんたを信用し切れてなかっただけだ! 俺だって反省してる! あの時と同じ失敗はしない!」

 

 焦りと苛立ちがユーリスに再び声を荒げさせる。自分ではどうしようもない、ベレトを止めることはできない予感があった。

 

 五年前、自分達を中心にして起こった事件。

 かつてアビスを訪れたベレトは紆余曲折の末に灰狼の学級と行動を共にするようになり、始原の宝杯という神器を巡る事件を終結に導いた。アビスが崩壊しかねない大事件ではあったものの、死傷者は最小限に抑えられたと言っていい。

 その最中で、ユーリスは一つの賭けに出た。

 

 ベレトが気に入ったと言って彼に逢瀬の約束を持ちかけるという体裁で、言葉を濁して作戦の合図を伝えていたのだ。二人だけの会話の中で、お互いだけに通じる作戦を立てて。

 勝てる博打しか打たないと決めてある自分にしては危ういものだったが、不思議とこの人なら動いてくれると判断した。

 結果としてユーリスは賭けに勝った。合図となった大修道院の鐘の音に合わせて聖廟へ飛び込んだベレトが、そこで行われていたアルファルドの儀式を壊すことで目論見を砕き、囚われた灰狼の学級の四人を解放できたのだ。

 

 それは正しい意味での信頼ではなかったかもしれない。出会って間もないベレトとは関係を築く時間などなかったのだし、彼が奇妙なほどの察しの良さでこちらの一方的な策に応じてくれただけと言われても否定できない。

 話を持ちかけた際にベレトから「目が笑っていない」と指摘された時は腹の底を見透かされた思いだったし、逢瀬という言葉にまるで動揺した様子もなかったのであれに艶めいた意味などないのだと始めから見抜かれていたに違いない。

 後でバルタザールに殴られたりコンスタンツェにもハピにも詰られたりと、手段としてはあれは間違いであり、もっと別のやり方があったのではないかと大いに反省したものだ。

 黒歴史でもあるのであまり思い返したくないのだが。

 

 だからこそ、今度は本当の信頼でベレトに報いたかった。アビスの援助をしてくれたエーデルガルトにも義理がある。二人の力になりたいのは紛れもないユーリスの本心だった。

 そんな彼にベレトはすげなく首を振る。

 

「そう、あの時とは違う。だから今、俺がやらないといけないんだ」

「っ……!」

「俺は眷属で、エーデルガルトの覇道の邪魔になる存在。それは変わらないし、無視してはいけないことだ」

「あいつが! あんたを邪魔だなんて……思うわけないだろ」

「ああ。エーデルガルトはきっとそう思う。でも立場がそれを許さない」

 

 ベレトの断言は揺るがない。ソティスと融合し、セイロス教の聖人へと認定された時はまさかこのような事態になるとは思ってもいなかったが、なってしまったからには受け止めなければならない。

 

 聖人のベレトがいる今、昔より明らかに人気が落ちたレアを生きたまま捕らえたところで、セイロス教の中心にベレトが据えられる流れは止められない。そして政治力がないベレトでは集まる人気をコントロールすることもできない。

 そうなれば、過去の繰り返しだ。紋章を過剰に持ち上げる貴族社会を肯定するセイロス教が再びフォドラの基礎になり、エーデルガルトの覇道と真っ向から対立することになる。

 

 何より問題なのは時間がないことだ。

 一度定まったことを後から変えるには何倍もの時間と労力が必要なのだから。

 

 この戦争に決着が付けばすぐにでもフォドラを立て直さなくてはいけない。一度崩れたものを立て直す時は変化を加えやすいので、新しい社会を構築する絶好の機会だとも言える。手を抜くことはできない。

 エーデルガルトが目指す『紋章至上主義の撤廃』を進めたいところだが、それを急ぐと人々からの反発を生み、フォドラを立て直すどころか逆に滅びを招きかねないとベレトの指摘で気付けた。

 だから紋章については代を経て少しずつ変えていくことにして、信頼を築きながら人と人が協力できる社会を作る……となれば、セイロス教を無視できない。

 

 潤滑油なく動かせる仕組みがないように、宗教は社会の摩擦を減らす重要な要素。フォドラでは平民の隅々まで浸透しているセイロス教は社会規範の根幹だ。

 そのセイロス教が、ベレトを中心にしたセイロス教が平民に求められているところに、エーデルガルトが紋章の権威を削ぐ政策を少しでも推し進めてしまうと……信頼を築くどころの話ではなくなる。

 民からすれば裏切られた気持ちになるだろう。貴族からも反発が目に見えて増す。社会を立て直そうという時に逆に障害が生まれることになってしまう。

 

 ベレトではだめなのだ。聖人とは名ばかりのお飾りの神輿ではエーデルガルトの力になれない。

 レアが率いるかつてのセイロス教団が帝国と和解して、大司教たる彼女がエーデルガルトに協力する姿勢を示して初めてフォドラは変われる。

 そのためには戦争が終わる前、すなわち今この時にレアを説得しなければいけないのだ。

 

「そのためなら惜しくないってか」

「そうだ」

「……あんたのことを優しいだなんて言う奴は見る目がないな。こんなに厳しい課題を出す教師、他にいないぜ」

「すまない」

「謝んなよ……俺と同じだ。もう決めてるんだろ」

「必要なことなんだ。俺にしかできないことがあって、それがエーデルガルトもみんなも守るために必要なら、俺はそれをするだけだ」

 

 ベレトは止まらないと分かってしまうだけにユーリスはやるせない思いだった。

 瞳に宿る覚悟も、言葉から滲む熱も、かつての無感情だと言われた彼とは違う確かな力強さが乗るもので、それを揺らがせることはできないと理解してしまう。

 

 しかし、果たしてそれを決意と評してよいのか。

 

 生死の境を前にして躊躇いなく踏み出せる一歩を。

 みんなを守りたいと言いながら守るべき対象に自身を含めない自己犠牲を。

 全てを理解して尚も浮かべる無垢な微笑みを。

 

「だからユーリス。俺を止めないでくれよ」

 

 それをこそ、人は狂気と呼ぶのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(イカれてるぜこいつ……)

 

 ベレトを見ながらユーリスは胸中で独り言つ。

 腕も脚も痺れが抜けない。片目を失う。もはや戦えるかも怪しい体で前進を止めない姿から狂気すら感じて。

 

 地下書庫で絶句させられたユーリスだが、あのままベレトを好きにさせるつもりはなかった。尊敬しているし恩もある先生であっても引き止めなければいけない時がある。

 そう、実はユーリスは灰狼の学級の仲間と協力してベレトを止めようとしたことがあった。それも強硬手段で。

 

 帝国がアリアンロッドに招かれて臨んだ王国との会談が失敗に終わり、逃げ帰ったエーデルガルト達が改めて王国との対決を決めた直後。

 地下へと呼び出したベレトを四人がかりで取り囲んだのだ。

 

 ………………

 …………

 ……

 

『何のつもりだ』

『悪いが先生、あんたを拘束させてもらうぜ』

 

 囲まれても動揺しないベレトを冷たい目で見据えてユーリスは宣言した。剣を抜く他、自身が持つオーバンの紋章に適応する英雄の遺産、ドローミの鎖環まで持ち出す本気の構えで。

 その気でいるのはユーリスだけではない。

 

『話はユーリスから聞かせてもらってるぜ。ここで行かせたら自分から死ぬつもりだとかいうじゃねえか。そんなこと、俺が許すわけないだろうがよベレト』

 

 同じくシュヴァリエの紋章に適応する英雄の遺産、ヴァジュラを装着して怒り混じりの戦意を隠そうともしないバルタザール。

 

『陛下には先生が必要なのです! 私達にも貴方が必要ですわ! こんなところで死ぬだなんて、絶対に認めません!』

 

 左右の手に別種の魔力を凝らせて、敢然と叫ぶコンスタンツェ。

 

『ぶっちゃけ余所のことなんかどうでもいいんだよね。先生が生きていてくれる方がずっと大事なの。ってなわけだからさ、ここで止まってよ』

 

 普段の気だるげな表情ではなく鋭い目つきで睨み、魔導の杖に闇色の魔力を収束させるハピ。

 

『殺しはしねえ……両手両足の骨へし折ってでも止まってもらうぜ先生!』

 

 自分達より遥かに強いベレトでも、地の利があるアビスで、数の有利を得て、背水の覚悟で挑めば勝てると信じ。

 ユーリスの宣言と同時に襲い掛かる四人に、ベレトは無表情のまま鋼の剣に手をかけた。

 

 そして。

 

『どんだけ遠いんだ……』

『クソっ、さすがに強いな……』

『届きませんか……ここまでしても……!』

おーあんあよ(降参だよ)……』

 

 結果はベレトの勝利。四人の敗北。

 急に襲われたことにも動揺せず全ての攻撃を捌いたベレトの反撃は、一人一人に痛烈なダメージこそ与えながら後遺症は残さないという適切な加減まで考えた、格の差すら感じさせるもの。

 ユーリスは磔に。バルタザールは木箱の山の下敷きに。コンスタンツェは乱雑に縛り上げて吊るし。ハピに至っては万が一にも魔獣を呼ぶ溜息をさせないよう彼女の口内に剣の切っ先を差し入れるという冷徹さを見せて。

 

『ごめん、みんな。俺は止まるわけにはいかないんだ』

 

 言い訳の余地もない、灰狼の完敗であった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 完膚なきまでの敗北を喫した灰狼の学級を放置することなくベレトは四人に幾つかの制約を課した。

 自身の行動を補助すること。阻止しようと立ち塞がった彼らを逆に利用させてもらうという、何とも無慈悲な通達である。

 そしてベレトに関する情報を他言しないこと。襲撃に四人しかいなかったことから話が広まっていないと察して情報の拡散を阻んだ。

 こうして灰狼の学級とベレトの密かな協力体制ができあがったのだった。

 

 その後、タルティーン平原でディミトリを説得するためにベレトが単身で臨み、彼が本当に両手両足をへし折られても戦い続けたと知った時は、もはや誰にも止めることはできないと理解した。

 間違った手段に思えても、実際に成果を出されてしまえばぐうの音も出ない。

 ベレトの狂気的な決意に物申したい気持ちはあるが、直接挑んで敗北した自分達にそれを指摘する資格はないから。

 

「コンスタンツェ、それを」

「っ……分かっていますわ」

 

 ベレトが促すとコンスタンツェは表情を歪めながら手に持っていた細長い包みを開く。現れたのは天帝の剣と鋼の剣、そしてベレトがいつも腰に差す短剣。

 取り上げられた彼の武装を取り戻す役目を担っていたのがコンスタンツェだった。

 

 受け取ったそれらを取り落とさないように確実に装備したベレトは、今度はユーリスに向く。

 

「ユーリス、足は」

「へいへい、ちゃんとあるよ。あんた用の取って置きが」

 

 言いながらユーリスは墓場の端、崖に向かって小さな鈴を放り投げた。崖下に待機させている部下への合図だ。

 

 ガルグ=マクが誇る大聖堂の周囲は余人の侵入を阻むように谷に囲まれており、正門前の大橋からしか入れない造りになっている。セイロス教の総本山に正面から参拝しない、できない者は言葉通りの門前払いにしてしまう仕組みだ。

 しかしそれは人間のように地を這う生き物のみ。空を往く生き物には関係ない理屈である。

 

 待つこと数十秒。次第に聞こえる羽ばたき音が大きくなり、

 

VRR(俺様)VAAOOOO(参っ上(•̀ω•́)✧)!!」

 

 崖下から大型種のドラゴンが姿を現した。そして巨体には似合わない静かな着地で墓場に体を下ろす。

 ベレトのためにユーリスが密かに手配したドラゴンだ。

 神祖の加護を得たベレトには初めて会うドラゴンでも不思議と素直に従う。純粋に移動のために利用すれば他の誰にもできない超長距離航行も可能という、彼ならではの足であった。

 

VGRRRYYAUUU(人間共がせっつきやがるから)KRRROOO(来てやったぜー(•̀∀•́))VVRRRVAUUU(この俺様に頼みがある(°ω°)って)RRA(んな(´・_・`))UR(ら(´._.`))……」

「「「…………」」」

「……VR(えと)RR(あの)…………VRAON(神様(´・ω・`))?」

「よろしく頼む」

「……RNN(ウッス(◞‸◟))

 

 いやマジで素直だなオイ。

 時間がなかったこともあり、体は立派でも性格に難のあるドラゴンしか探せなくてここまで連れてくるのに苦労したのだが、ベレトを見ただけで荒い鼻息を静めて、進み出た彼が一声かけただけで大人しく平伏する様子にユーリスもコンスタンツェも目を瞠った。

 

 ともあれ、武装と足を手に入れたベレト。次は邪魔が入らないかなのだが。

 

「バルタザールとハピは」

「正門の方で陽動してくれてるよ。向こうで暴れて守備隊の目を引いてるから、今飛んでも大丈夫なはずだ」

 

 ベレトの質問にユーリスが淀みなく返事する。

 ガルグ=マク大修道院の正門、市場に続く大通りの方でアビスの手勢を引き連れたバルタザールが一騒動を起こして人々の目を引き付けてくれているそうだ。

 さらに市街の外れに行ったハピがわざと溜息を吐いて魔獣を呼び出してガルグ=マクの守備隊が出動せざるを得ない事態を起こしたのだという。

 

 全てはベレトを補佐するため。契約に従い、彼の出発とその後の行動を邪魔させないため。

 

「ありがとう。それじゃあ行ってくる」

 

 行ってしまう。まともに戦えない体になっても足を止めようとしないベレトが、再び戦場へ向かおうとしている。

 それを止めたくても止められなかったユーリスは、殊更明るい声を発した。

 

「ところでよ先生。俺達はあんたの言いつけ通りにしてやったんだが」

 

 大人しくしているドラゴンの背に登ろうとしたベレトは何なのかと振り返る。

 

「ああ。とても助かった」

「出された課題はきちんと完了した……ここからは放課後、俺達の自由時間ってことでいいか?」

 

 ユーリスが彼らしい不敵な笑みを浮かべて訊ねた。隣のコンスタンツェも取り出した扇で口元を隠しつつ彼女らしい挑戦的な流し目を向ける。

 

 放課後の自由時間ということは、今後はベレトの言いつけに縛られず好きに動くという意味か。

 ベレトとしては否やはない。ここまで色々と手配してもらっただけで充分だ。

 

「問題ない。みんなは充分やってくれた。後は俺のことは気にしなくていい」

「おおそうかい、それが聞けて安心したぜ……じゃ、上手くやれよ」

「ああ、君達も達者で」

 

 本当に感謝しているのだろう。ベレトは優しく微笑んで一言だけ返すと、鈍る体で苦労してドラゴンの背によじ登った。

 そしてすぐに手綱を引いて指示を出す。忙しなくベレトの様子を窺っていたドラゴンはどこか気が引けたような、妙にオドオドした態度で「RRU(アッハイ)RUAARRA(イクッス(;´・_・`))」と小さく鳴くと羽ばたいて飛び上がる。

 高度を取ったドラゴンは勢いよく滑空してからさらに空高く舞い上がっていく。そのまま北の方へ、振り返ることなく飛んでいってしまった。

 

「……まったくよう」

「……本当に」

 

 見る見るうちに遠ざかっていく姿を見送るユーリスとコンスタンツェはどちらともなく言葉を絞り出す。

 

「「舐めてくれたもんだぜ/ものですわ」」

 

 声に乗るのは小さくない怒り。

 勝手な理屈で決めてしまったベレトへの苛立ち。

 そのベレトを止められなかった自身の不甲斐なさ。

 何もかもを振り切って行ってしまったベレトへの怒りがあった。

 

 ありがとう? 助かった? 達者でな?

 そんな言葉でこちらが納得して大人しくなると思っているのか。

 

 狼の首を鎖で繋ぐことなど誰にもできはしないのに。

 

「ユーリス、貴方は二人を拾ってすぐ動きなさい」

「儀式はお前一人に任せていいのか? 予定じゃ残り二日だと聞いてるが」

「おーっほっほっほ! 私を誰だとお思いですの? ヌーヴェル家の名にかけて半日で終わらせてみせますわ!」

「そりゃいい。ならもう半日かけて最終確認しとけ。失敗は許されないからな」

「では貴方達は先に発ちなさいな。私はペガサスで後から追いつきます」

「しくじるなよ」

「そちらこそ」

 

 幾つか言葉を交わした二人はその場で別れた。

 ユーリスは市街で暴れているであろうバルタザールの方へ。

 コンスタンツェはアビスの方へ。

 それぞれが為すべきことを為すために。

 

(先生、俺達は諦めてねえぞ。あんたは生きていかなきゃいけない人間だ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先を征く帝国軍。

 迎え撃つセイロス騎士団。

 ドラゴンで追うベレト。

 画策する灰狼。

 

 ファーガスの首都フェルディアで全てが交錯する。

 戦争の終わりは近い。




 いよいよ第二部の最後が迫ってきました。
 ちなみに墓の前で誰に指輪を渡すか考えるシーンこそありませんが、ちゃんとベレトの手元(アイテム欄)には指輪があります。ジェラルトの日記を読んだ際に団長の書斎から回収しました。本文の中に書けなかったのは申し訳ない。ただこの状況で指輪のこと考えるのは無理がある。

作者の活動報告に載せた後書き
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