杖なんて必要ない   作:青虹

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想像をはるかに超える伸びで、何度見ても目を疑ってしまう。
このまま伸びてランキング上位に食い込んでくれないかなぁ。

感想もっとほちい。待ってるよ。


自分自身の実力

 授業というものは、どうしても好きになれない。

 話を聞くだけなのはつまらないし、それ以前に勉強自体が嫌いだ。

 

 この学校でも授業が始まった。先生はフレンドリーで、中学校の時よりかはマシだが、それでも好きになれない。それ以前に勉強嫌いが立ちはだかっているからだ。

 

 一昔前の人々は勉強を好んでやっていたそうだ。そういう風潮だったのだろうが、俺にはどうしても理解ができない。

 

 勉強。それは学生の本業であり使命。それはラスボスであり大半の学生にとっては負けイベント。

 

 それなりに勉強ができる俺も、例に漏れず勉強が嫌いだ。分からないからではない。単純に面倒なのだ。

 

 俺たちが生きる現代には様々な娯楽が生み出されており、そっちの方が楽しいと思ってしまうから、必然的に面倒なものの優先順位が低くなる。さらに、楽しいことの方が好きになるのは当たり前なので、人間はゲームなどの娯楽にのめり込み、勉強からは遠ざかっていく。

 

 もしかすると、昔の人々にとって勉強は一種の娯楽であったのではなかろうか。現代ほど謎が解明されていない古代に生きる人々は、知らないことを知ろうとして必死に学び、新しい知識を得て、そこに楽しさや喜びを感じていたのだろう。

 

 一方の俺たちはどうか。確かに俺たちは日々新しい知識を脳内に収めている。一見すると、古代も現代もさほど変わりないように思える。

 しかし、そこには決定的に異なる部分がある。

 

 能動的か受動的か、の差だ。

 

 古代の、主に学者と呼ばれる人々は()()新たな知識や法則を求めて日々探求を続けた。

 だからこそ、新たなものを得た時の達成感が大きいのだ。

 

 しかし、現代人にその感覚はない。そもそもそんな感情に至らせる環境にないのだ。

 

 教師によって知りたくもない知識を押し付けられ、子供たちはそこにストレスを感じる。

 勉強が嫌いになっていくのは当たり前だ。

 

 分かりやすい例で説明しよう。

 

 国民的人気ゲーム『ポケ◯ン』。子供の頃遊んだという人は多いだろう。当然、俺も何作にもわたってプレイした。最近でも新たなゲームを世に送り出し続けている素晴らしいコンテンツだ。

 

 例えば、ポケモンの名前や技。どのくらい出てくるだろうか。

 俺も子供の頃随分とハマったもので、未だにかなりの数を覚えている。

 

 勉強は覚えられない人でもこういうことは覚えられるという人は必ずいる。

 

 結局『やりたい』という意思があるかないかなのだ。あればやる気は出るし、色々覚えられる。逆もまた然りで、意思がなければやる気も出ないし、頭に入らない。

 

 そうして勉強がどんどん嫌いになっていくのだ。

 

 もし俺が孔子の時代に生きていたとして、勉強もとい学問を好きになれるかと言われても首を縦に振り難い。

 俺の中に、勉強を好きになるという概念がないのだ。

 

 勉強はしなければならないもの。大学に進学するために必要なもの。ずっとそう言われ続けてきた。将来いずれ必要になる。大人たちにそう言われても、大人の世界を知らない過去の俺たちに、それを理解することは不可能だ。

 

 だから、俺は勉強は嫌いだ。

 

 だけど、俺は知っている。小中の時も一人はいたからだ。

 

 どんなに勉強が嫌いでも。どんなに勉強を遠ざけても。

 

 

 

 ──当たり前のように難問を解き続ける()()が。

 

 

 

 目の前の少女は、まさしくそれに当てはまる存在だった。

 

 この学校のシステム見抜き、それを自分に付き従う者に情報を流し、そうでない者には流さない。そうすることで自らの配下に取り込もうとしている。

 

 この少女は賢い。そして、生粋の天才なのだ──。

 

「私の勝ちですね、中山くん」

「何だよ100点て。最後の3問とか高1の範囲じゃなかったろ」

 

 坂柳は勝ち誇った笑みで、テスト用紙をチラつかせながら自慢してくる。

 急に三次関数を解けって言われてもそれ高1の範囲じゃないから。解けるわけないじゃん。

 他の2問も、明らかに今の俺たちのレベルを超えていた。

 それなのに、この少女は当たり前のように解いてみせた。

 

「では、今日の夕食は中山くんのこと奢りということですね」

 

 俺との勝負に勝った喜びからか、坂柳の声は自然と弾んでいた。

 

「ならファミレスな。金使いたくないし──っ!?」

「場所は私が決めます」

「そろそろ小指が死ぬからやめてくれない? あー、そろそろプロテクターが必要かなぁ」

「もし装着したなら、他の足を狙うまでです」

「ならそこにも着けるわ」

「では鳩尾を狙いましょうか」

「そんな執念いらねえから!」

 

 せめて小指だけにして!? これ以上被害を広げないでくれないかな!? 

 

 どうして悶絶しながら奢る羽目になってしまったのか。

 それを語るには、少し前まで遡る必要がある。

 

 

 

 ー▼△△▼ー

 

 

 

 4月の中旬、この学校では早くも水泳が行われるらしい。

 一部の男子がわちゃわちゃ騒いでいたのでその方へ向かおうとしたら、なぜか坂柳に止められた。

 もちろん杖で。

 

「あなたはそういう人ではないと思っていますが」

「そ、そうだな。俺紳士だもんな」

「誰もそんなこと言っていませんよ」

「うっ」

 

 まさか神経系に大ダメージを与える杖まで持っていたとは……

 やはりこの少女、杖ガチ勢だな()。

 

「中山くんは水泳は得意ですか?」

「いや、普通。いつも平均の少し上だし。上の方だけど、それよりも早い水泳部に注目が集まっている間にゴールして誰からの注目も集めない程度の速さだ」

「そこにドヤ顔はいらないと思いますよ?」

「だから心を抉らないで……」

 

 お前毎ターン『きゅうしょ に あたった !』だもんな。しかも杖は俺の苦手属性。よってダメージ4倍。

 痛すぎるぜ! 

 

「まあ、いつも通り目立たない位の速さでゴールするだろうさ」

 

 それが俺であり、俺の()()()()

 そう自分を揶揄していると、坂柳は挑戦的な笑みを浮かべてこう言った。

 

「では、もし一位でゴールできなかったら何か奢ってもらう事にしましょう」

「は、はぁ?」

 

 それは当然、俺には不可能なことだ。

 俺はずっと一位を取っていない。学年上位に食い込むことはたまにはあれど、一位には届かない。

 

「悪いが俺には一位を取ることができない」

「……そうですか。ですが、ちゃんと一位を取ってもらいますよ?」

「……だから無理なんだって。一位なんて」

 

 俺はそうやって消え入るような声でしか答えることができず、そのまま水泳の授業を迎えてしまった。

 

 みんなのやる気がなかったら、一位を取れる可能性だってあるかもしれない。

 そう思っていたのだが、それは叶わなかった。

 

 体育教師が一位には5000ポイントあげる、と言ったからだ。

 水泳が得意だという男たちが躍起になって一位を狙いに来ているのがよく分かる。

 

 水泳で一位になるだけで5000円、高校生の1ヶ月分のお小遣いくらいもらえるのだ。欲しいと思う人は少なくない。

 

「はぁ……」

 

 奢り確定ですね、わかります。

 

「何してんの? そんなに深々とため息吐いて。見苦しいわよ」

「相変わらずの毒舌っぷりだな」

 

 そんな俺を見た神室真澄が歩いてきた。

 

 この少女と出会ったのは約1週間前。たまたま坂柳とコンビニに行ったところ、神室が万引きしようとしてたのを見つけた。それを見かねた坂柳がそれを武器に配下につくように脅しをかけ、無事仲間入り。

 ようこそ我が家へ。我々は今日からみんな家族です! 

 

「これで一位になれなかったら奢れって坂柳が言っててだな……」

「そりゃ気の毒ね」

「絶対そう思ってないだろ」

「私は関係ないもの」

「せめてフォローはして欲しかった……」

 

 どこへ行っても心を抉ってきやがる。坂柳と神室からは直接、それ以外に泣きつけば『リア充爆ぜろ』だぜ? ひどすぎて草枯れるわ。

 

「そろそろあんたの出番よ。せいぜい頑張ってくることね」

「はいはい」

 

 結果はやらなくとも初めから分かっていた。

 予選落ち。5位で、決勝進出にはあと一歩及ばなかった。

 

 決勝に進んでいた里中が女子からキャーキャー言われてたので、リア充爆ぜろと呪いをかけておいたことくらいしか成果がなかった。

 あと田中さんの水着エロかったです。双丘の肉がこぼれ落ちててえちえちのえちでした。

 

「惜しかったですね。もう少しで決勝進出だったようですが」

「これが俺の限界だ」

 

 今回俺は里中の半身後ろを泳いでいた。当然里中は女子からキャーキャー言われ、その間に俺は地味なフィニッシュを決めた。

 誰から何か言われるわけではない。蚊帳の外にされている感じが居心地悪いと感じるのだ。それでも、見学ゾーンにいた坂柳に手を振られただけマシだ。

 

「納得がいきませんね……」

「へ?」

「今回は無しにします。そのかわり、次のテストで私よりも点数が低ければ今度こそ奢ってもらいます」

「えぇ……?」

 

 ますますこの少女が考えることが分からなくなってきた。

 

 その少女の言い分は、まるで()()()()()()()()()()()()()と言わんばかりではないか。

 

「俺はお前の思うほどスペックの高い人間じゃない。成績はいつも中の上、そこから上にも下にもいかないんだ。今度のテストだってお前に勝てるはずがない」

「そうでしょうか?」

 

 坂柳はまるで自分の考えが正しいかのように『おかしい?』と、そういう意味合いの含まれた返事を返してくる。

 

「ああ。だからお前に勝てるわけがない」

「ですが挑戦は受けてもらいます」

「勝手にすればいい。結果の見えている勝負なんてつまらないと思うけどな」

 

 そして冒頭に話は戻る。

 

 案の定俺は負けた。最後の難問を見た瞬間、解くのをやめた。高校一年生が解けるような問題ではなかったからだ。

 

 隣の少女が100点を取ってくるとは思わなかったが。

 

「真面目に解きましたか?」

 

 怒りのこもった声音で坂柳が問い詰める。

 

「ああ、大真面目だ。あんな問題解けるかっての」

 

 平均より少し上を行く俺に、高1の範囲を大きく超える問題が解けるはずがない。

 

「中山くんの負けは負けです。ちゃんと奢ってもらいます。ですが、私は()()()ので、ポイントが振り込まれるまで待ちます」

「そうか。ありがとうな」

 

 俺のお財布事情を考慮してくれるなんて優しいなあ。

 そう思う一方、この少女が俺に何を期待し何を求めているのかが全く理解できなかった。

 

「なあ、なぜ俺が一位を取れると思ったんだ? 俺はそんなにスペックの高い人間じゃないんだが」

「勘でしかありませんが、あなたは私と同じような人間なのではないかと思うのです」

「根も葉もない話はやめてくれ」

 

 俺と坂柳が同じ、つまり天才だと? 

 小学校の頃は確かにまともに勉強をしていなかったけれど、それなりの点数は取れた。しかし、それは小学校の勉強が簡単すぎただけであり、それだけで天才とは言えない。

 

 それに対して、この少女は高1の枠組みを大きく超えた、正真正銘の()()だ。

 

「お前に並ぶ天才はまずいないだろ」

 

 このクラスは比較的優秀な生徒が多い。

 その中でも、微笑みながら俺と相対している少女は、頭一つ抜きん出ている。

 平均の少し上を体現したような俺が、この少女と同じカテゴリー内に存在しているなど夢のまた夢だ。

 

「ふふっ、おそらくそのうち分かりますよ」

 

 柔らかく微笑んだ坂柳からは、僅かに幼さが読み取れた。

 

 それがどうしても頭から離れなかった。

 

 

 

 ー▼△△▼ー

 

 

 

 5月1日。新たな月に突入し、暖かさも増してきた。敷地のいたるところに生える木々は緑が目立つようになってきた。

 

 この日、ここ高度育成高等学校では節目の1日を迎えていた。

 

 俺は朝起きてすぐ、支給された端末から学校のアプリを開き、残高を確認する。

 16万6256pr。そう表示されており、もともとあった7万2256prから9万4000ポイント増加している。

 

 今月もまた大量のポイントが振り込まれていることに喜びを覚えるのとともに、坂柳の予想が的中していたことに驚きを隠せなかった。

 

 Aクラス内では、坂柳派閥と葛城派閥が火花を散らしている。俺は有無を言わせず前者所属なのだが。

 

 坂柳曰く、もし予想が的中していれば葛城派閥のクラスメイトに葛城に対する不信感を与えることができる。

 今のところ坂柳の思うがままに事が進んでいて、このまま行けば葛城派閥は劣勢に追い込まれる。

 

 ここまで順調に行き過ぎると、逆に何かが起こりそうで怖い。

 

 朝ごはんを食べ、支度をして寮を出る。時計の針は、いつもより一つ小さな数字を指し示していた。

 この寮には学年全員が住んでいる。なので、他のクラスの生徒を見かけることもあるし、クラスメイトにばったり会うこともある。

 

「あれ、もしかして君は……」

 

 ストロベリーブロンドの少女が俺に声をかけてきた。どうやら、向こうは俺のことを知っているらしい。心当たりしかないんだけどね! 

 

「どうも。中山祐介です」

「私は一之瀬帆波! 君はAクラスの子だよね?」

「そうだけど。俺のことは噂とかで色々聞いてるんだろ?」

「にゃははー、やっぱり分かっちゃうか〜」

 

 一之瀬はそう言って笑った。

 

 確か、この生徒はBクラスに所属しているはずだ。時々Bクラスの生徒や担任の先生といるところを見かけていた。

 

「そういえば、ポイントいくら振り込まれてた?」

「うちは9万4000ポイントだな。そっちは?」

「私たちのクラスは6万5000ポイントだったよ」

 

 各クラスごとに振り込まれているポイントが違う。

 Bクラスの方が()()()()()()()()()()()()ということになる。

 

「どちらにせよ、高校生が1ヶ月生活するには十分な額だな」

「そうだね。こんなにポイントを持ってても、持て余しちゃうもん」

 

 そう言って、一之瀬は自分の端末を見つめた。

 いくら所持しているのか気になるところだが、覗き込むことはしなかった。というか、する勇気がなかった。並んで歩く数十cmの距離でも、香水やらシャンプーやら柔軟剤やらの香りで脳がクラクラしているのだ。これ以上は危険地帯、はっきりわかんだね。

 

 それに、人に所持ポイントを聞くというのも『今いくら持ち歩いてるの?』って聞くようなものだ。しかも初対面に。そんなのただの変質者じゃないか。

 

 俺よりもちょっと少ないかな程度だろうと予想して、この疑問は飲み込むことにした。

 

「ポイントが減った基準って何だろうね」

「私語とか居眠り、遅刻じゃないか?」

 

 教室にはいくつもの監視カメラが設置してある。それを使ってクラス全体を見落とすことなく調べ上げ、ポイントの減少に反映させている。

 

「月々に貰えるポイントを増やそうと思うなら、授業を真面目に受けていい成績を残すべきだろうな」

「だね〜」

 

 首を縦に振り、一之瀬は頷く。

 

「おーい、一之瀬()()()!」

「おはよう!」

 

 クラスメイトから声をかけられ、それに一之瀬は答える。

 クラスメイトが言っていた『委員長』とは何だろうか。クラス内の役職なのだろうが、うちのクラスには存在しない。当てはまりそうなのは坂柳だけど。

 

「えっと、君は?」

「俺は中山祐介。Aクラスのパシリ屋だ」

「私は白波千尋。よろしくね」

 

 やっぱり、同じクラスの女子同士ということもあり、仲がいいのだろう。白波が来てから、俺は完全に蚊帳の外。静かにフェードアウトしようにも、なんかそれじゃダメな気がしてきて、どうしようもない状況ってやつ。

 

「この学校って色々変わってるよね」

「そうだな」

 

 と思っていたら、一之瀬が俺に話を振ってくれた。これで気まずい状況から脱出できた。一之瀬ってコミュ力高いね。

 

 この学校の変わったものとは、Sシステムと呼ばれる制度ことだ。この学校にしかない、一味も二味も変わったものだ。

 

「ほんと、頭が追いつかなくて大変だよ」

「ねー」

 

 一之瀬と白波が頷きあう。

 一方の俺たちといえば、基本坂柳に任せておけばいつのまにかなんとかなっているので、頭が追いつかないとか以前に頭を使っていない。

 

「私たち、何すればいいのかさっぱりで」

「今はこの学校のことがまだよく分かってないから、大人しくしておいた方がいいんじゃないか」

「そうだね」

 

 寮から学校までに距離はそう遠くない。

 一之瀬と二人での登校も、短い時間だった。

 

「俺ここだから。じゃあな」

「うん、またね!」

 

 一之瀬、白波と別れて教室に入る。まあ、次の展開はなんとなくわかるよね。

 

 教室の前で美少女二人と別れる。

 それを男たちが見ている。

 目が据わっている。

 

「中山ー!」

「お前、坂柳という美少女がいながら、浮気をするつもりか!」

「違うから! たまたま声をかけられただけだから!」

「結局ハーレムじゃねえかこの野郎!」

 

 男どもが追いかけてきたので、全力疾走。

 って待て待て、橋下速すぎるって! 絶対に捕まるからぁ! 

 逃◯中のハンター経験あるだろ絶対! 

 

「よし、捕まえたぞ!」

「貴様ァ!」

 

 そのあと、ズルズルと引きずられて教室に戻されまして、こってり尋問されましたとさ。

 俺何も悪くないのに……

 

 しかし、それも長くは続かない。

 

「お前ら席につけ」

 

 いつの間にかホームルームの時間だったらしい。真嶋先生の声で無事解放された。

 全員が着席したのを確認すると、真嶋先生は話し出した。

 

「ポイントはちゃんと振り込まれたか?」

 

 朝確認したように、俺の残高には9万4000ポイント振り込まれている。それは他のクラスメイトも同じはずだ。

 

「ちゃんと振り込まれましたが、6000ポイント足りていないですよ!」

 

 声をあげたのは戸塚弥彦という葛城派の男だ。何故か葛城を尊敬している。ちょっとこの男のことよくわかんない。そもそも知ろうとも思わないけど。

 

 戸塚が言うには、本来10万ポイントが振り込まれるべきだ。しかし、振り込まれたのは9万4000ポイントのみ。残りの6000ポイントはどうなったんだ、と言うことらしい。

 

 葛城派の中で、ポイント増減の可能性は上がらなかったらしい。一方の坂柳派は『こいつ何言っちゃってんの?』という小馬鹿にしたような視線を戸塚に向けている。

 

「質問ありがとう。まずはこれを見てほしい」

 

 真嶋先生がホワイトボードに書いたのは、各クラスごとのある数値。

 

 Aクラス 940cl

 Bクラス 650cl

 Cクラス 490cl

 Dクラス 0cl

 

 って、おいマジかよ。Dクラス0なのかよ。

 

「何でしょうか、この数値は」

 

 隣の坂柳が手を挙げて質問する。

 

「これは『cl(クラスポイント)』というものだ。clはクラスごとに与えられていて、1clにつき100pr支給される」

 

 それにしても並びが綺麗だな。なんらかの偶然、というわけでもなさそうだ。

 

「先生、ポイントの並びが綺麗なのはどういうことですか?」

「この学校ではAクラスに優秀な生徒が、Dクラスに落ちこぼれた生徒が集まるようになっている」

 

 なるほど、つまり俺たちは優秀、やったねたえちゃん! 

 

「じゃあ先生、なぜclが減っているんですか?」

 

 またしても戸塚のターン。お前ちょっと出しゃばりすぎや。

 

「私語や居眠りなどがあったからだ。そういうところを細かく評価し、それをポイントに反映したものがこれだ。安心してくれ。Aクラスといえど、この数字は近年稀に見る好記録だ。それほど君たちは優秀ということだ」

 

 一部の生徒から歓声が漏れる。いやお前葛城派やんけ。結構寝てたろ、俺知ってるで。

 

「いいか、一つだけ忠告しておく」

 

 一瞬で空気が張り詰める。真嶋先生の持つ力なのか、それとも生徒自らが緊張からか発しているものなのか。

 

「この学校は実力至上主義だ。卒業後、進学率・就職率100%の恩恵を得られるのはこのAクラスのみ。ここで浮かれていると、あっという間に他のクラスに足元をすくわれるぞ。決して気を緩めることのないように。私からは以上だ」

 

 実力至上主義。この約60万平米、街一個分の世界は実力が全てということだ。

 

 果たして、そんな世界で俺は生きていけるのだろうか。平均より少し上の実力しか発揮できない俺は、もし大海原に放り出されたとしたら、一人で生きていけるのだろうか。

 

 改めて、隣に佇む少女の存在が大きいことを実感させられた。


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