刀、血に濡れ錆に塗れようと 作:変態刀
――――尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督・奇策士とがめ
さて、前回と同じように過去の回想から始まる―――。
人類未踏の地と謳われかねない森が極東の中でも奥地に存在する。
一度入り込んだら誰でも迷い、絶対に出てくることが出来ないような森だ。故に極東の中でもその地に踏み込んでいったものは少ない。此処に踏み込むなど大体が自殺志願者であり――もしくは余生の少ない老人たちであった。当然、地図には詳細は記されていない。ただ、わかる事としては大雑把に広さを言えばオラリオがすっぽりと入るような山であった。
当然――名は無い。つける意味が皆無であったからだ。誰だって住んでいないこの森を――。
――――否。否だ。
この森には、物好きな誰かが住んでいた。
そして、その森に名前が無かったのもその物好きが住むまでだった。
その物好きな存在はかつて極東で『東国粛清の大虐殺』を引き起こした張本人であり、四季崎記紀の作りし変体刀の一本にして一人。『錆』という者が住みつき――そしてこの森には『青木之森』という名がその者よって勝手ながら名付けられたのだった。
◆
その森に名が付けられてから幾年月。
森の端の方に建てられたまるで職人の手によって作られたかのような整った道場の中に、三つの人影が見られた。
一つは、大きな男。その体は細身ながらも鍛え抜かれている。
もう一つは華奢な女。しかし、顔に現れた決意は男にも勝る。
そして、最後に幼い子供。まだ、齢三つか四つにしか見えぬ子である。
三つの影は二人と一人に分かれ、向かい合って正座をして真剣な表情をしていた。もっとも、真剣な表情をしていたのは大人だけであり、子供の方はただ呑気に何も考えていない様子でボーッとその場に正座をしているだけであった。まあ、無理も無いことであった。まだ物心も半ばといったところで、これから先に起こることも理解出来ぬだろう。
「―――白刃。よく聞きなさい。」
「―――白刃。よく聞いておきなさい。」
声がする。
目の前に居る男と女―――子の父と母の声だ。
二人は目の前にいる我が子―――白刃と呼ばれた子に対して、何やら言っている様子だ。
「今日からお前に全刀流の奥義の全てを伝授する。よく学んでその体に叩き込め。」
「今からあなたに全刀流としての定めを伝えます。よく学んで頭に叩き込みなさい。」
二人に言われても、幼き白刃はやはり理解していない様子であった。
子供というよりも幼子というべき姿である白刃にはあまりにも難解すぎる物言いであった。いや、あえて二人はこれからの事を無暗に悟らせない為に、幼子に対して難しい物言いをしたのかも知れない。
これから厳しい修行もあるだろう。自由を無くし、感情を無くし、下手をすれば命を無くすことだってあるだろう。それでも―――彼の両親は白刃に『錆』の業をその身に叩き込むだろう。全刀流としての技、『錆』の悲願、四季崎記紀の作りし刀について、全てを教え込まれるだろう。そのことを、あえて伝えず、あえて言わず、あえて遠回しに。二人は白刃に告げたのだ。
そんな事、錆白刃はつゆ知らずに。
そうして―――その日から、地獄が始まった。
◆
「今思えば、我が先祖様はあえてこの場所を選んだのかも知れぬ。常世から隔離され、下手に出ることも能わぬこの森―――。多少の不便はあるものの、此処では雑音も欲も無しに、『全刀・錆』としてのお前を育てることが出来るのだからな。さて、休みは終わりだ、立つがいい。もう一度刀を握れ。そして俺に向かってこい。」
そう言って、刀を握りなおす父。
その目の前には愛すべき我が子―――錆白刃が血だらけになりながら床に倒れ伏していた。
身体には数多の切り傷が出来ており、中には少し切り傷がズレただけでも致命傷になりかねない傷もある。また、それだけでは無く、まだ完治しきっていない傷、再び切り付けられたと思わしき跡も多く残っていた。白刃の意識は朦朧としており、刀を支えに―――いや、もう刀とも言えない鉄の棒を支えに、彼は辛うじて立ち上がっていたのであった。
「・・・・・・・・・・・・はい、行きます父上。」
ようやく、数十秒ほどかけて立ち上がり、刀を握りなおして。
錆白刃は父と共に、修行を続けて。その日だけで錆白刃は七回死にかけた。
「今思えば、我が先祖様は何を考えてこの場所を選んだのでしょうか。常世から隔離され、世間の事も碌に知ることも出来ないこの森―――。不便だらけで困りますね。木々の揺れる音は煩いし、欲を満たすことすらままならないなんて・・・『人間』としてのあなたを育て上げるうえでは最悪の土地ね。さて、休憩は済んだかしら?今からまた勉学の続きよ。その本たちを読み切るまで、あなたを寝かせるつもりは毛頭ないわ。」
そう言って、ニッコリとほほ笑む母。
その目の前には愛しているはずの我が子―――色濃く隈が出来ている錆白刃がいた。
山積みに―――否、山積みと言う表現すら生ぬるい数の書物が白人の座る脇に積み重なり、白刃はそれを死に物狂いで読んでいた。読み終わった書物は大体にして万を超える。途中で船を漕ぐような行為は白人には許されていない。もし、この母の目の前で船を漕ぐような真似をした場合、新たな書物が追加で渡されることになっているのだ。なお、この時点で既にひと月以上もの徹夜である。
それでも、彼は寝ることを許されない。この知識全てを頭の中に入れるまで。
このような過酷を通り越して拷問に等しい修行、教育を受けていた錆白刃。
しかし、彼は幸せであった。知る限り最も強靭な精神と肉体を持つ父と、知る限り最も賢き頭脳を持ちうる母。その二人が親で、その息子が自分だという時点で彼は幸せであり―――不幸せなどということは考えたことすらなかった。というよりも、これが世間一般的な『しつけ』と『修行』だと彼はそう思っていた。
また、何かしら終えることが出来たら、二人とも褒めてくれた。頭も撫でてくれたし、美味しいものも食べさせてくれた。また次も、新しい何かを教えてくれた。
「よくできた、白刃。お前は俺の自慢の息子だ―――。」
「流石だわ、白刃。あなたは私の自慢の息子よ―――。」
ただ、この言葉が聞けて。実に喜ばしそうな表情が見れればそれでよかった。
本当によかった。けれども―――それは終わりが近づいているということでもあった。
錆白刃が二十歳になった頃、その修業は終わりを迎えそして――――――。
白刃は、二人を殺した。
回想終了。
◆
「君は一体何を求めてダンジョンに潜るんだい?」
背中にステイタスを刻む前に唐突に、主神であるヘスティアに白刃は問われた。
その問いに対して、白刃は少しだけ考え込む。その問いに対して、最も一番近い答えを考えた彼は、落ち着きのある口調で答えた。
「―――四季崎記紀の『外道変体七本刀』を求めて。」
「それは君の本当の目的なのかい?」
「・・・?言っている意味が分かりませんが。」
白刃は、ステイタスを刻むために背中に乗ったヘスティアへと困惑したような目を向ける。
「そのままの意味さ。君、心の中に何か引っかかりがあるだろう?何かに対しての。僕に会った時も、そのことを言っていた。『四季崎記紀の刀を集めるからとにかく神の眷属になりたい』って。でも、神だからこそわかるんだ。何かそれとは違うものを探しているって。神の前では隠し事なんて絶対に出来ないしね。それに君の顔。辛気臭い顔をしていたから。ねえ、何か話したいことがあったら言っておくれよ。頼りない神かも知れないけど・・・でも、
「―――――ああ、なるほど。つまり、もっと頼りにしてほしいと。それならば礼には及びません。些細なことです。それも、個人で解決出来る様なモノです。」
そう白刃が言葉を返すと更に不満げな顔をするヘスティア。
どうやら白刃に対して、頼りない神だと思われているように感じているらしい。しかし、その言葉には女神らしく慈悲が深くて包容力の籠められた何処か安心できるような力がある。この神にだったら、何もかも話してもいいかもしれないと、頭の片隅に考えてしまうほどには。
が、実際のところ少しばかり頼りないかも知れない、とは白刃は思う。ファミリアの本拠地は壊れかけた教会の地下、それに自分が入るまで眷属はたったの一人だけだったらしい。夜のご飯もヘスティアのバイト先の余りものだとかなんだとか・・・やはり、何となくそう考えると先行きが不安になってきた。
そう白刃が考えていると、ヘスティアはもっとに不満げな顔をして、白刃の背を手に持っている針でチクチクと弱く突く。さすがに痛い。
そんな小さなやり取りをしていると、更に声がかかった。
その声は先にファミリアに属していたベル・クラネルの声だった。
「そうですよ。僕たち今から
彼の声もまた、ヘスティアと同じようにどことなく安心できるような声だった。まあ、男が男に感じているというのもなんだか変な気もするが、それはそれである。この世界に男色趣味はまあ―――いるにはいるだろうが、少なくとも錆白刃は男色趣味ではなかった・・・いや、そうではなく。
随分と余計な思考が入ったが、白刃は先ほどと変わらなく落ち着いて口を開く。
「ありがとうございます。ですが―――大丈夫です。私の役目は『四季崎記紀の刀』を集める事。それに変わりはありません。」
「・・・・・・・・・そっか。なら、わかった。僕もこれ以上深く追求しないことにしたよ。よし、それじゃあステイタスを刻むことにしよう!そうすれば、君も僕達のファミリアの仲間さ!」
あまり追求しすぎるのもよくないと考えたのだろうか。随分とあっさりと引いたな、と白刃はそう思う。白刃が抱え込んでいる嘘は、神にはお見通しなのだが、それを気にした風もなくヘスティアは白刃の背にステイタスを刻み始めた。
指の腹に針を刺し
そのままでは【神聖文字】の為、下界にいる人間達は大体が読めない。なので、ヘスティアが下界で用いられている【共通語】へと用紙に書き換えて、白刃へと渡した。
錆白刃
Lv,1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
≪魔法≫
【】
≪スキル≫
【全刀流】
・棒状のもの全てを刀として使用可能。
「わ、凄い!最初からスキルが・・・」
「最初からスキルが発現しているだなんて珍しいじゃないか!凄いことだよ白刃君!おっと、言い忘れてた。おめでとう、これで今日から君は冒険者にして・・・僕たちの家族さ!」
「ええ――――――ありがとう、ございます。」
スキルが最初から発言していることを羨ましがっているベルを横目に。
そう、晴れやかな笑顔で心底嬉しそうに。主神ヘスティアは白刃に告げた。
そんなヘスティアとベルを見て、白刃は心の底から感謝した。
新たなる出会いに。新たなる家族に。そして、新たなる拠点に。
そして――――――今度こそは。最後に後悔することなく
そう、決心したのであった。
さて、物語は始まった。
鉄は水と空気によって錆となり、斬れ味を鈍らせる。
さて、この物語はその『錆』を
どうぞゆっくり気長に。ごらんくださいませ・・・。
なんて変な風に書いてみた変態刀です。
さて、今回ですが錆のちょっとした過去を書いてみました。
クッソ早いと思ったそこのあなた。正解です。
でも、何となく家族構成とか明かしたいなーって思って。
そしたらちょっとすらすら書けて。
まあ、今は後悔の念が凄いんですけどね。
さて、次の更新ですけどかなり遅くなります。すんません。
なるべく早く執筆できるように努めますので、何卒応援よろしくお願いします。
次回:第一話『宝刀・銅』