閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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序章
トールズ士官学院


「起きろ、着いたぞ」

 

 

肩を揺さぶられて、目を覚ますと彼は目を何度かまたたかせて「もうトリスタか?」と義兄に問う。

短く「ああ、よく寝てたな」と返事をしたのは義兄ーーーリィン・シュバルツァー。未だ少年のようなあどけなさを残しつつも、将来は凛々しい男性になるだろうと予想される顔立ち。

 

そのリィンに起こされたもう一人の彼は、義兄と同じく黒髪黒目ながらも凛々しさとはかけ離れた表情でヘラッと笑う。どこか滑稽洒脱さを感じさせる2.9枚目の男。

 

 

二人は列車を降りると、改札に向かう。まだ眠いのか大きなあくびをするリィンの義弟は申し訳程度に口に手を当てているが、品がないと思われて当然の所作である。

リィンが注意しようと口を開けると、機先を制するように義弟が言った。

 

 

「何人か、俺たちと同じ赤い制服のやつがいるな」

 

 

リィンと義弟が身を包むのは赤い制服だった。しかし、それ以外の大半の生徒は若草色の制服か白い制服を着用している。

リィンらが入学するトールズ士官学院は貴族生徒と平民生徒でクラスが分かれており、貴族生徒なら白い制服、平民生徒なら若草色の制服…というふうになっている。

しかし今、リィンらが来ているのは白色でも若草色でもない赤色の制服。これが何を意味するのかはわからないが、義弟は赤い制服という共通点を持つ他の生徒を目ざとく見つけていたようだった。

 

 

「よく見てるな」

 

 

注意しようとした矢先に抜け目なさを見せつけた義弟に鼻白む思いをしながらも「それはそうと」と話を切り替える。

 

 

「はしたない真似はよせ、ナギト」

 

 

「はは、すまんな。お兄様」

 

 

まったく反省していない様子で謝る義弟ーーーナギト・シュバルツァー。

 

二人は談笑しながら改札を抜け、駅を出た。

 

 

トリスタ駅を出ると、眼前に広がるのはトリスタの街並み。帝都近郊というだけはあり、二人の故郷より栄えているように見える。駅を出て正面にはトールズ士官学院が見えて、これから始まる学院生活を二人に想像させた。

 

ナギトの前を歩くリィンは立ち止まると、視線を上げた。その視線を追うとそこには見事な花が咲き乱れていた。

 

 

「見事だな。そう思わないか?」

 

 

これは何という名だったか。記憶から検索するナギト。ヒット件数は一件。これはライノの花だ。この季節に咲く花で旅立ちやら新たな出会いを夢想させるような希望に満ちた色をしていた。

 

そんな時だった。

 

 

「きゃっ」

 

 

「えっ」

 

 

リィンと少女の声が重なった。

 

視線をライノの花からリィンに戻すと、どうやら金髪の女子とぶつかったであろう事がわかった。二人とも見事に咲き誇るライノの花に気を取られていて互いの存在が見えていなかったようだ。

 

リィンとその少女は互いに謝り合うと、いくつか言葉を交わして別れた。

 

金髪の少女もナギトやリィンと同じく赤い制服だったため「同じクラスかも」なんて笑いあっていた。ちなみにナギトはその少女とは話せていない。その女子が金髪ツインテールの美少女だからというわけではない。断じて。

 

 

リィンは少女の背中を見送ると、ぽりぽりと頬を掻く。

断じて嫉妬とかそういうわけではないが、無性にイライラしたのでナギトはたいそうふざけた様子でリィンをからかう事にした。

 

「名前聞いとけばよかったなー、とか考えてるんですよね?わかりますぅ。

駅前でぶつかるってどういうこと?テンプレ過ぎて死ねよって感じなんだが」

 

 

普段よりウザさ5割り増しのセリフと挙動に、いつもなら辟易するはずのリィンだが、どうやら図星だったようで「な、なんの事だよ」と狼狽えるだけだった。

 

ユミルでもそうだったが……リィンの女たらしは今に始まった事ではないのでからかうのも大概にして、士官学院までの坂を登る事にした。

 

 

 

「まだ入学式が始まるまで時間があるけど、少しだけ町を見てみるか?」

 

 

リィンが提案するとナギトは「また始まったよ…」と言わんばかりにため息をついて、

 

 

「正気かリィン?入学式に遅刻なんてシャレにならんぞ」

 

 

「大丈夫さ。軽く礼拝堂を覗くくらいだって」

 

 

リィンの忙しなさも、女たらしと同じく今に始まった事ではない。故郷ユミルでも事あるごとに町民に話しかけてはただ喋るだけだったり、悩みを聞いたりしていた。

ナギトはその儀式をマラソンと呼んでいたが、入学式以前にこの調子なら、入学した後はトリスタマラソンも捗るだろうな…と嘆息する。

 

 

教会に行く前にトリスタの公園のベンチで寝ている銀髪の少女を発見するとリィンはご多聞にもれず話しかけようとするが、それはナギトが「ステイ」と押しとどめた。

 

 

「気持ち良さそうに寝てるだろ。ほっといてやれよ」

 

 

「でも入学式に遅れたら大変だろ?」

 

 

「ありゃ仮眠だ。自分で決めた時間には起きる」

 

 

ナギトが説得するとリィンもしぶしぶ引き下がる。後ろ髪を引かれる思いで再び教会への坂を登り始めた。

リィンを制止したナギトであったが、銀髪の少女が気になったのは同じだった。何せ自分たちと同じ赤い制服を着ている。しかも、服の上からではわかりづらかったが、しなやかな筋肉をつけているようだった。おそらくは実戦で鍛え上げられたものだと推測される。

 

少しだけ口角を上げたナギトは、そのままリィンと礼拝堂に入った。

 

 

《七曜教会》……この大陸が今の文明に入る以前、古代ゼムリア文明が滅んだ後、暗黒時代が始まった。魔物が跋扈し人々が困窮するまさに暗黒の時代だ。

七曜教会はそんな時代に女神エイドスを信仰する集団として誕生し、人々に信仰という希望を与える事で暗黒時代は終わりを迎えた。今では世界一大宗教だ。

 

そんな女神の像の前に跪く男が一人。ナギトらと同じ赤い制服に身を包む浅黒い肌で長身の男だった。どこか雄大さを感じさせる浅黒い肌の男は祈りを終えると、同じ色の制服を着ているナギトたちに気づいたのか近づき挨拶をする。

 

 

「いい日和だな。まるで天が俺たちの入学を祝福してくれているようだ」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

「雨の日の入学式なんて幸先悪い感じだしな」

 

 

リィンが肯定し、ナギトは肩をすくめる。どうにも素直な言葉を発しないナギトに浅黒い肌の男は困ったように笑ったあと「それではな、入学式で会おう」と言い残して去っていく。

 

 

リィンとナギトは女神像に祈りを捧げると教会を後にして再び士官学院を目指す。

 

 

士官学院への道の途中で、ナギトとリィンは凛とした青い髪の少女を見つける。どうやら老執事から荷物を受け取っているようで「体に気をつけるように」とか「父上の不在をよろしく頼む」だとか言葉を交わしていた。

少女は短く締めると振り返る事なく士官学院へと進んでいった。その様子は武人然と表現しても良いだろう。身にまとう制服は赤だった。

 

老執事はその様子を見ていたナギトたちに気づいたのかぺこりと一礼し、

 

 

「本日はよき日和でございますな。この度はご入学おめでとうございます」

 

 

にこやかに微笑む老執事だが、その所作は武人のそれと同等でありその事を理解したナギトとリィンは「ありがとうございます」と返す事しかできない。尤もそれ以上のやり取りは不要であり、老執事は再び一礼するとトリスタ駅に向かって行くのだった。

 

 

坂道を登った先、トールズ士官学院校門前で一台の高級車が止まる。停車した車両から出てきたのは気品のある金髪の美男子だった。荷物を持つと言う従者に「悪目立ちしたくはない」と断り、帰るように指示するとそのまま士官学院の校門をくくる。彼の制服もまた赤色である。

 

 

「ほお〜、ありゃ大貴族の子息だな」

 

 

感心するように、あるいは見定めるようにリィンに話を振ったナギト。リィンは「そうみたいだな」と肯定しつつ、

 

 

「でも、従者に荷物持ちをさせて悪目立ちしないのは好感が持てるんじゃないか?」

 

 

そう話をナギトに返す。ナギトは「フッ」と笑うがその後「確かにな」と続けて、

 

 

「従者を連れて偉そうに行くやつよかマシだな。何を競ってるのか知らんが、よくもまああんな堂々と道の真ん中を歩けるもんだ」

 

 

「そう言うナギトも道の真ん中を図々しく歩いてるけどな」

 

 

辛辣な言葉を貴族生徒に向けるナギトだったが、そんなナギトも偉そうな貴族生徒のように道の真ん中を歩いているのだと指摘したリィン。

 

 

「俺はお天道様に顔向けできないような事をした覚えはないからいいんだよ」

 

 

だが、軽妙に放たれたブラックジョークにリィンは黙ってしまう。

 

リィンを言い負かしたように感じたのか、ナギトはさらにわざとらしく胸を張って、そこから話を変えた。

 

 

「それにしても、赤い制服のやつら…みんなキャラ濃くね?」

 

 

金髪ツインテールの美少女に、銀髪のしなやかな筋肉をもつ少女、浅黒い肌の男に、武人然とした青い髪の少女、大貴族の子息らしき金髪の美男子。

 

思い出しながら「やっぱ濃いよな、俺の勘違いじゃないよな」と呟くナギトに、リィンは柔和な笑みのまま答える。

 

 

「安心していい。ナギトもキャラ濃いから」

 

 

「えー、それは嘘だろ」

 

 

「ホントだって。名門の士官学院にナギトみたいなふざけたやつなんているわけないだろうからな」

 

 

「お兄ちゃんが辛辣で俺が泣く」

 

 

と、そんなやり取りをしていたら、そろそろ時間が押してきていた。士官学院の校門を通り抜けると、若草色の制服を着た小柄な少女が満面の笑みで話しかけてきた。

 

「ご入学、おめでとーございます!」

 

傍らにはふとましい体格の、黄色の作業着を着た男子も控えていた。

 

 

「うんうん。君たちで最後……じゃないか。

リィン・シュバルツァー君とナギト・シュバルツァー君……でいいんだよね?」

 

 

「ど、どうも。はじめまして」

 

 

「はじめまして、ナギト・シュバルツァーです」

 

リィンとナギトは挨拶をして、どうして自分たちの名前を知っているのか尋ねるが「ちょっと事情があってね、今は気にしないで」との事だった。

 

その後、“申請した品”を作業着の男に手渡す。包みに入っているのは二人の得物である太刀だった。これは案内書に書いてあった通りのため、なにも含むところはなく武器を預ける。

あとでちゃんと返されるから心配はしなくていい、と丁寧に作業着の男は説明してくれた。

 

そして再び小柄な少女からトールズ士官学院入学を言祝がれ、入学式のある講堂の場所を案内してもらい、その場を離れようとする。

が、ナギトは立ち止まったかと思うと、自らの制服をつまんで見せて小柄な少女に話しかけた。

 

 

「もし赤い制服の生徒をお探しなら、駅を出たところにある公園で一人寝てましたよ。定刻までには来ると思いますけどね」

 

 

そんな言葉に少しだけ驚いてみせた小柄な少女は「ありがとう」とナギトに礼を言うと作業着の男と少しだけ話して公園に向かったようだった。

 

 

 

「すごいな、なんでわかったんだ?」

 

 

振り返ると、リィンが小柄な少女同様驚いた顔でナギトになぜ小柄な少女が赤い制服の生徒を探していたのがわかったのか問いかけた。

 

「お、聞きたい?聞きたいよねぇ〜」と意味もなくもったいぶった後、それまでの様子が嘘のように淡々と説明する。

 

 

「俺たちが来たとき“最後……じゃない”って言ってただろ。あれはチェックリストかなんかで入学生の名前とかを確認してたから出てきた言葉で、最後じゃない…と言うことは最後に近しいって事と同じだよな。でも、俺たちの後ろにはまだわんさか入学生がいたから、最後に近しいのはただの入学生じゃなく、赤い制服の入学生じゃないか…と思ったのよ」

 

 

時たまナギトが見せるこうした推理力を、リィンは素直に尊敬している。こうした推理は鋭いからできるのではなく、全体を俯瞰しているからこそできる芸当だからだ。それは師の“観の目”の教えに通じるものがあるとリィンは考えていたからだ。

 

 

「あの二人は先輩だよな?小柄な方は年上には見えなかったけど」

 

 

しかし、ナギトにそんな尊敬の意を知られてしまえば一昼夜通してからかわれるのがわかっていたリィンは露骨に話題を変えた。

 

 

「飛び級なんじゃね?入学式の手伝いをするって事は生徒会の役員とかだったりしてな」

 

 

話をしていると、講堂に到着していた。最後に二人で身嗜みのチェックをやっているとやはり「大丈夫?ネクタイ曲がってない?」なんておどけたので手刀を入れる。

 

 

「いいかナギト。ここはトールズ士官学院。かの《獅子心皇帝》ドライケルス・ライゼ・アルノールが建てた由緒正しき名門士官学院だ。くれぐれも入学式で変な事はするなよ」

 

 

ナギトは手刀をくらった頭をさすりながら「さすがに俺もそこは弁えてるよ」と視線を落としたのだった。

 

 

☆★

 

 

 

入学式は当然のように、お偉方のありがたい話が聞ける。

それを半分寝ながら右から左に聞き流していたナギト。リィンはそれを胃が痛い思いで見つめていた。最悪な事に座席が少しばかり離れてしまったので注意する事もできない。

 

だが、学院長が壇上に上がった事でナギトは覚醒し、先程とはうってかわった真面目な表情で話に聞き入るようにしており、リィンも一安心する。

 

 

トールズ士官学院の長、ヴァンダイク。白髪に髭をたくわえる老人のはずなのだがその肉体は筋骨隆々であり、老いて益々盛んという言葉が脳裏に浮かぶ。元は帝国正規軍の元帥であり、現在も名誉職としてその名は正規軍の中に残っている。生ける伝説の男だ。

 

鋭い視線をヴァンダイクに向けるナギト。話の内容は聞こえていない。ちら、とヴァンダイクから視線を外し列席する教官陣を見やるが、これもみな粒ぞろいと言うべきか……かなりできそうなのが数人いる。

 

今では士官学院というより名門高等学院としての面が強くなっているトールズだが、やはりそこの教官ともなれば文ではなく武においても優秀な者が揃うのだろう。

 

 

「『若者よーーー世の礎たれ。』“世”という言葉をどう捉えるのか、何をもって“礎”たる資格を持つのか。これからの2年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにして欲しい」

 

 

話を聞き流していたはずのナギトの耳に、ヴァンダイクの声がねじ込まれる。うだうだ長ったらしいものではなく、言葉そのものに宿った意思がナギトの耳朶を打ち、意識を強制的にヴァンダイクに向けさせられた。

 

 

“若者よ、世の礎たれ”

トールズ士官学院の創設者にしてエレボニア帝国中興の祖であるドライケルス大帝の残した言葉。

それだけを印象に残して、入学式は終わりを迎えた。

 

その後は各自、案内により白い学生服の貴族生と若草色の学生服の一般生が教室への移動を開始したが、ナギトやリィンを始めとした赤い学生服を着た数名は講堂に残ったままだった。

 

 

 

「ふむ……」

 

来る途中にも見かけた奴らがいるがこの面子は、貴族と平民の別がないクラスか?とナギトは考える。

おそらく、入学案内について来た戦術オーブメントが関係してる線が濃厚だろう。あれは最新式の戦術オーブメントであるエニグマⅡとも違ったものだった。

 

 

 

そんな事を考えていると、ナイスバデーの美人な教官がやってきてその場に残っていた数人についてくるように言った。

胸元チラリふとももチラリの露出多めの美女でグッドです。リィンとは離れていたため冗談は心の中だけに留めておいて、ナギトは教官の後を追った。

 

 

案内された場所は古めかしい建物。建てられてからかなりの年月が経っているのがわかる。このトールズ士官学院が設立されたのがおよそ220年前という話だから、これはおそらくその当時の校舎だろうとあたりをつける。

しかし、新しい校舎もあるのにどうして旧校舎を残しておく?歴史的建造物にしてはひっそりし過ぎだ。

 

と、そこまで思考したところで気配を感じて振り返る。旧校舎に続く道の上…せり立つ丘の上に四人の人影が見えた。

 

二人は校門で出会った先輩で、一人はバンダナを巻いたチャラそうな男、もう一人はライダースーツを着こなす美男子…否、胸のふくらみがある事から女子だと判明。男装の麗人というやつか。

 

ナギトはおどけて手を振るかどうか迷ったが、すでに自分を除く全員が旧校舎に入った後だったのでやめておく事にして、さっさと教官たちに続く。

 

 

教官はステージらしき場所に立つと「サラ・バレスタイン」と名乗った。

サラによると、このクラスはやはり平民と貴族を関係なく集めた、新設のクラス・・・特科クラス《Ⅶ組》だと説明する。

 

 

「冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話は聞いていませんよ!?」

 

 

それに食ってかかる男子生徒が1人。生真面目そうで眼鏡をかけた男だ。

 

マキアス・レーグニッツと名乗った彼は“貴族風情”と同じ教室で学ぶのは我慢ならない、というような事を言った。

 

 

 

それを横から鼻で笑う金髪の美男子がいた。ナギトとリィンが校門前で見かけたいかにも大貴族なあの美男子だ。

 

その態度からマキアスはその男を大貴族と目星をつけたようだが…果たして、その男は大貴族の子息であった。

 

 

ユーシス・アルバレア…それが彼の名であった。

 

アルバレアと言えば、《四大名門》と呼ばれる大貴族の一角であり、帝国でも一、二を争う公爵の家柄を持つ最高位の貴族だ。

学院の入学試験を受けるにあたり、覚えた知識が役に立つ。

 

言い合いはヒートアップする前にサラによって止められた。

マキアスの貴族嫌いはどうやら筋金入りだという事が、この短いやり取りで誰もが理解する。それにしても、アルバレアとレーグニッツが同じクラスなんてどんな偶然だ?士官学院にまで政治の魔の手が及んでるとは考えたくないが。

 

 

サラはそろそろオリエンテーリングを始めるとか言って何故か後ろに下がり始めた。

 

 

それを見てナギトはふと嫌な予感がした。

 

 

うーん、こんな場所ってなにか仕掛けとかありそうだよな。

天井が落ちてくるとか、床が開いて落っこちる・・・とか。

だから教官はステージに避難したとか。ハハハ、ないか。

 

 

 

と思ってたらやっぱりありました仕掛け。サラが仕掛けを発動すると床が割れて全員が地下に滑り落ちていく。

ナギトはそれなりに予想はできてたため難なく着地したが、とりあえずリィンの安否を確認しようと、リィンが立っていた方向を見ると………

 

 

 

な、なんとそこにはラッキースケベが展開されていたのである。

 

 

 

リィンの顔面に、さっき駅前で会った金髪ツインテール美少女のおっぱいが押し当てられてるではありませんか。

 

「羨ま死ね」

 

ナギトは小さくそう呟いた。

 

リィンはビンタを1発もらったが、あのラッキースケベの代償とすれば安いものだろう。

 

 

全員が立ち上がりある程度した所で、懐から機械音がした。

全員がそれをポケットやらから抜き出す。

入学案内書と一緒に送られてきたあの戦術オーブメントだ。

 

そのオーブメントの通信機能によりサラの声が届けられた。

サラによると、このオーブメントはエプスタイン財団とラインフォルト社によって開発された次世代の戦術オーブメント《ARCUS》というものらしい。

 

このARCUSを使えばアーツと呼ばれる魔法が使えるとか。

アーツ・・・たしか導力魔法だったか。

導力という、一定時間が経過すると元に戻るエネルギーを使った、機械的な魔法だ。

使った事はないため実感は湧かないが、これで俺も魔法使いデビューだ!と密かに嬉しがるナギトであった。

 

 

「それじゃ、始めるとしますか」

 

 

サラの言葉と同時に出口らしき門が開いた。

 

 

「そこから先はダンジョン区画になってるわ。

割と広めで入り組んでるから少し迷うかもしれないけど・・・

無事、終点までたどり着けば旧校舎1階に戻る事が出来るわ。

ま、ちょっとした魔獣なんかも徘徊してるんだけどね」

 

 

 

そう説明するサラの声音は少し楽しげだった。

 

魔獣が徘徊してる士官学院とは、これ如何に?

 

しかし、魔獣ともなれば怪我どころじゃなく死ぬ可能性も出てくるんじゃあるまいか。いや、そうならないためのセーフティがあると考えるべきだ。

見たところ、あの銀髪の少女はさっきの床開きのトラップにも反応してたし、彼女が生徒が死なないための安全装置…?

 

しかしまあ、なんにせよ油断は禁物か。と結論を出す。

 

 

「それではこれより、士官学院・特科クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。

各自、ダンジョン区画を抜けて、旧校舎1階に戻ってくる事」

 

 

文句があったらその時に受け付ける、とサラは言い、さらにこう続けた。

 

「何だったらご褒美にホッペにチューしてあげるわよ」

 

最後は絶対ハートマークついてた。ナギトはそう確信した。

 

「ほう……燃えてきたな!」

 

 

ナギトはやや大げさに反応してみるが、こちらを向いた者はいなかった。

いや、数名がジト目をナギトに向けていた。込められた感情は“近づかんとこ”と言ったところだろう。

 

 

ARCUSからプツッと音がして、それ以降はサラの声は聞こえなかった。

 

とりあえず《Ⅶ組》メンバーは円になった。

意外な事に口火を切ったのはさっきリィンが知り合ったばかりの草食系男子代表のような容姿のエリオット・クレイグだった。

それも「え、えっと」というものではあったが、この空気で口火を切るとは中々に肝っ玉のでかい男のようだ、とナギトは笑う。

 

ラッキースケベ被害の女子が「どうやら冗談という訳じゃなさそうね」と続ける。

 

するとユーシスが、フンと鼻を鳴らして奥へ進もうとした。

それをマキアスが止める。

 

「いきなりどこへ……一人で勝手に行くつもりか?」

 

 

「馴れ合うつもりはない」

 

 

マキアスの制止をユーシスは一刀両断。取り付く島もない、とはこの事だろう。さらにユーシスは追い討ちをかけるようにして挑発する。

 

「それとも“貴族風情”と連れ立って歩きたいのか?まあ、魔獣が怖いのであれば同行を認めなくもないがな。武を尊ぶ帝国貴族として剣はそれなりに使えるつもりだ。

貴族の義務(ノブレス=オブリージュ)として力なき民草を保護してやろう」

 

 

完全な挑発に「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!」とマキアスは声を大にして反論する。

しかし、ここがチャンスだと見定めたナギトは、

 

「あ、僕、保護してもらっていいすか?うわぁ、ユーシスさんとお近づきになれるなんて光栄っすわぁ」

 

 

(棒)(笑)この2つを両立させながら言うナギト。

ユーシスとマキアスのやりとりだったのに突然割って入ったナギトにクラスメイト全員が唖然としている。

なんだろう、この謎のしてやったり感。

 

 

「ナ、ナギト……?」

 

 

 

ナギトの行動の意味がわからないらしいリィンがその名を呼んだ。

 

だがナギトは振り向いて笑うのみ。否、眩しいばかりの(うさんくさい)笑顔にサムズアップ付きだった。もれなく全員から“ヤベーやつ”認定をくらいそうだったが、そこで我を取り戻したマキアスが声を張り上げる。

 

「もういい!だったら先に行くまでだ。

旧態依然とした貴族などより上である事を証明してやる!」

 

かなりヒートアップしてるが、あの手のタイプは放っておけば反省して頭を冷やすだろう。そのうち誰かと合流するはずだ。

 

「そんじゃ行こうか」

 

ナギトがそう言うと、ユーシスは動揺しがちに「あ、ああ。ついて来たいならそうするがいい」と答えた。

 

 

こうしてナギトはユーシスと二人きりで旧校舎1階を目指す事となった。

 

 

☆★

 

 

集まってきていた魔獣の最後の1匹を斬って、戦闘は終了。

 

「よしオッケー、先に進むか」

 

 

ユーシスは剣を鞘に納めながら言った。

 

 

「なかなかの腕前のようだな。それにその得物は……」

 

 

「これは太刀だよ。ま、東方の剣って考えてもらえばいい。それに腕前に関しては……お前もやるみたいだな。宮廷剣術か?」

 

 

「ああ。兄上を師として学んだ。東方の剣ならば、やはり東方の剣術を使うのか?」

 

 

おっと、その問題を突いてくるか。何と答えるべきか迷った末にナギトは自己の知るありのままを答える事にした。

 

 

「ああ。八葉一刀流つってな。この1年でリィン……さっきラッキースケベ発動させてた黒髪の奴から叩き込まれた」

 

 

「ラッキースケベ・・・ああ、あの男か。

しかし、1年だと?そんな短期間でそこまでの腕が身につくものなのか?」

 

 

ラッキースケベで通じるかどうかわからなかったが杞憂だったようだ。

 

 

「……まあ、そこは才能ってやつだな」

 

 

少しだけ濁してナギトは答えた。

 

 

「そうか」

 

ユーシスは納得してない、とでも言う声音で言った。が、ナギトの表情からこれ以上は突っ込んだ話をするべきではないと判断したのか、話題を変える。

 

 

「しかし、俺について来た理由はなんだ?取り入るのが目的ではないようだが」

 

 

「クラスメイトと仲良くなりたかったから・・・とか?」

 

 

「質問に質問で返すな。まったく、貴様を相手にしていると調子が狂う」

 

やれやれ、とでも言いたげなユーシスに愉快そうに笑うナギト。しかし、ここらで楔を打っておくかと考えたナギトは爆弾を投下した。

 

 

「マキアスの事なんだが」

 

 

「……あの男がどうした」

 

マキアスの名を出した途端にむすっとした顔になったユーシスに嘆息しながら、クラスメイトとして助言する。

 

 

「仲良くなれ……とまでは言わんが、喧嘩友達くらいにしとけよ。いつまでも今のままじゃクラスの雰囲気最悪だぞ」

 

 

「……馴れ合うつもりはない」

 

 

目を逸らしながらユーシスは言う。

馴れ合うつもりはない、とか言いながらすでにナギトと馴れ合ってるからだ。

 

 

「まあ、さっきのはマキアスが悪かったと思うけど、お前のほうはまだ余裕があっただろ。

あいつは何らかの事情で貴族を恨んでるっぽいから視野が狭くなってるだけで地が悪い奴じゃなさそうだからさ、何を言われても広い心で受け止めてやればいいんじゃない?」

 

 

「……………」

 

 

無言という返事。

 

ユーシスにとり、ナギトの助言は聞くまでもなくわかっていた事だ。

しかし、売り言葉に買い言葉というべきか…貴族への嫌悪感丸出しのマキアスに鏡写しのような対応をしてしまった、と。

 

 

「話の続きはこいつらを片付けてからにするか」

 

話し込んでいたら、周囲には魔獣の気配が充満していた。ナギトの言葉で視線を上げたユーシスは歯切れが悪そうに「ああ」とだけ答えた。

 

戦闘に支障がない事を願いながら抜刀した。

 

 

「ほっ!」

 

魔獣の爪を躱して太刀を叩き込む。魔獣の数も減っており余裕が出てきたところで、ナギトはアーツを試してみる事にした。

 

 

「ARCUS駆動」

 

 

発動するのはファイアボルト…火球を撃ち出す導力魔法だ。

さあ、飛び出せ火球!ロマンと共に!

 

 

「ファイアボルトぉ!」

 

 

駆動を終えてアーツが発動する。ナギトの足元から火の粉が立ち上り、それらは球体の形に凝集すると、魔獣に向かって飛んでいく。……それはもう、ひょろひょろと。ナギトのファイアボルトは直径1リジュほどの球体であり、その勢いはひょろひょろと表現するほかない。

 

火球が魔獣にヒットする。魔獣はわずかに鳴き声をあげるが、ダメージと呼べるほどのものではなかった。人間からすれは「アチっ!」と言うくらいだろう。

 

 

「おい……なんだ、それは……?」

 

 

ユーシスが憐れみの目をナギトに向ける。「ファイアボルトぉ!」と勢い込んで叫んだはいいものの、出てきたのは火花と呼んで差し支えないもの。ナギトは半泣きになりながら、

 

 

「俺だって知るかぁ!」

 

 

そう言って太刀を振り抜いた。

 

最後の1匹を片付けると同時にリィンとエリオット、マキアスと浅黒い肌をした長身の男が追いついてきた。

 

 

「ふう………それで何の用だ」

 

 

ユーシスは剣を鞘に収めながら.リィンたちに向き直った。

 

 

「いや、お見事。リィン・シュバルツァー。さっきは名乗る暇もなかったから自己紹介しておくよ」

 

 

「どうも……エリオット・クレイグです」

 

 

「ガイウス・ウォーゼルだ。よろしく頼む」

 

 

「ユーシス・アルバレア。一応、改めて名乗っておこう」

 

 

ユーシスに続いてナギトも自己紹介する事にした。

 

 

「ナギト・シュバルツァーです。よろしく」

 

 

 

「シュバルツァー、ということは」

 

ナギトの名にガイウスが反応した。

 

 

「ああ、そこのMr.ラッキースケベ・リィンとは兄弟にあたる」

 

 

「ラッキースケベって・・・」

 

半ば躊躇いがちにエリオットが言う。

 

 

「あれは・・・助けようとしてだな」

 

 

リィンは言い訳するが、わざとではない。だからこその幸運事故(ラッキースケベ)なんだろうが。

 

ナギトの言葉で場の雰囲気はやや和らいだ。

これであとはユーシスとマキアスが互いに食ってかからなければ良いのだが。

そう上手くはいかぬのが世の理だ。

 

ユーシスが「フッ」と笑う。その視線の先にはマキアスがいる。

 

 

「それにしてもなかなか殊勝な心構えだな」

 

 

「な、何がだ!?」

 

 

「あれだけの啖呵を切ったくせに連れ立って来るとは。大方、すぐに頭を冷やして殊勝にも詫びをいれたのだろう。いやはや、“貴族風情”にはとても真似できない素直さだ」

 

 

うん、なんかもう挑発としか思えない。

内容は間違ってないよ。むしろ褒めてると思う。

けどそれを今、君が言っちゃうと挑発にしかならないからね。

 

案の定、マキアスはやんのかコラ、みたいなオーラを全開にした。

 

 

 

「ぐっ、何様のつもりだ……!?その傲岸不遜な態度…君たち貴族はみんな同じじゃないか!

特にアルバレア公爵家といえば帝国で一、二を争う大貴族……さぞ僕たち平民の事を見下しながら生きているんだろう!?」

 

 

 

「それをお前に言われるつもりはないな」

 

 

ユーシスは静かに反論する。さんざん“貴族風情”と馬鹿にされたお返しだとも言いそうなほどの怒気を滲ませて。

 

 

「レーグニッツ帝都知事の息子、マキアス・レーグニッツ」

 

 

熱くなりがちなマキアスに、冷静に事実をつきつけるように話すユーシス。

マキアスは父親が帝都知事と言えども平民の身分であると主張する。

 

 

「だがレーグニッツ知事と言えばかの《鉄血宰相》の盟友でもある“革新派”の有力人物だ。

そして《鉄血宰相》率いる“革新派”と四大名門を筆頭とする“貴族派”は事あるごとに対立している」

 

 

そこまで言って、ユーシスが何を言いたいのか理解したナギトは「おいユーシス」と声をかけて制止しようとするも、ユーシスは止まらない。

 

 

「ならば、お前のその露骨なまでの貴族嫌悪の言動……ずいぶん“判りやすく”安っぽいと思ってな」

 

 

「このっ……!」

 

 

この言葉にさすがのマキアスもキレた。

自分の感情が、父親が対立してる相手だからだとコケにされたからだ。

ユーシスに殴りかかろうとするマキアスをリィンが止めて、言いすぎたユーシスにも注意する。

 

その後、マキアスは頭を冷やしてくるといって別行動をする事になった。

 

 

「俺はマキアスと一緒に行くわ」

 

 

ナギトはため息をつきながら言った。

「この状況で1人にするのは危険だからな」と続けたナギトにリィンはこくりと頷いて「頼んだ」と言う。

リィンたちのパーティにはマキアスの代わりにユーシスがINする。

 

 

「それじゃ、またねユーシス、エリオット、ガイウス。あ、スケベ男爵は結構です」

 

 

「誰がスケベ男爵だ」

 

 

リィンのツッコミに「ははは」と笑って、ナギトはマキアスを追った。

 

 

 

 

その背中を見つけて話しかける。

 

「おっす、マキアス」

 

 

マキアスは振り向いてナギトを確認した。

 

「きみは……僕にいったい何の用だ?」

 

 

「用って言われてもな。この状況で1人になるのは危険だからさ、追ってきたってわけなんだが」

 

 

ナギトがさっきまでユーシスと行動してたから若干敵視されがちなのは気のせいではないだろう。

しかし、マキアスは深く呼吸をすると、

 

 

「そうか、少々軽率だったようだな。すまない、心配をかけた」

 

 

素直に謝った。

 

貴族以外が相手だとそこまで視野は狭くないみたいだな。とナギトは考えて、そこでマキアスがさっきまでリィンと同道していた事を思い出す。

 

ここでナギトに突っかからないのは、リィンがシュバルツァー家が貴族だと言ってないからだ。

 

「きみはナギト・シュバルツァーだったな。失礼だが家柄は……いや、リィンと兄弟だと言っていたか。ならば貴族ではないな」

 

 

言ってないみたいです。なにが「頼んだ」だ。面倒ごとを押し付けやがって。リィン…あの義兄め!

 

 

「それはリィンが?」

 

 

「ああ」

 

 

「なんて言ってた?」

 

 

「少なくとも高貴な血は流れていない、と。というか、何故そんな事を聞くんだ?

 

 

 

高貴な血は流れていない、ねえ。リィンめ。俺が使うような言い訳しやがって…と心の中で毒づく。

案の定、質問の理由聞かれたナギトだが、これの対する切り返しは用意してあった。

 

 

「いや、リィンが言ってることは間違いじゃないが、俺の場合は当てはまらないかもしれなくてな」

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

 

「俺って記憶喪失なんだ。1年くらい前かな……俺はリィンの家の近くに倒れてたらしい。

で、リィンの家族に助けられて、それ以降シュバルツァー性を名乗っているわけなんだが……それ以前の記憶がまったくないんだ。自分の名前さえ覚えてなくてなぁ。

今はナギト・シュバルツァーと名乗っちゃいるが本名はどんなもんかわかったもんじゃない。だから、ひょっとしたらどっかの貴族の息子かもしれないな……と」

 

 

少しだけおどけてみせると、それが“気にしてないフリ”のように見えてより言葉に現実味を帯びさせる。

 

 

「そう、だったのか。すまない・・・」

 

 

マキアスは目を伏せた。

 

よし、言い訳終了。

 

シュバルツァー家が貴族ではない、とは言ってないし、嘘はついてない。

ナギトの記憶にしたって真実を語ったまでだ。

 

実際にナギトは1年以上前の記憶は思い出せないし、本名もわからない。だから、リィンから教わった八葉一刀流も経験年数も1年なのだ。

 

 

 

「別に構わんよ。俺から言ったことだし。さて、休憩はここらにしてそろそろ進むか」

 

 

 

「ああ、そうしよう」

 

 

 

☆★

 

 

マキアスと一緒にしばらく進むと、銀髪の女の子と遭遇した。

 

遭遇、というのも歩いてたらたまたま出会った.というより、彼女が壁を駆け上がってきたようなのでそう表現したのだ。

 

銀髪の女の子は「フィー・クラウゼル」と名乗った。

それにしても小さい。身長は150リジュあるかどうか。

胸部装甲は薄い……うん、だがしかし貧乳は正義だと思うけどね!

 

とか思ってたらジト目で見られたナギトであった。

 

 

 

「そういや、急いでたみたいだが」

 

 

ナギトがそう話を逸らすと、フィーは道の先を見た。

 

 

 

「戦闘音がする。それも結構大きい相手」

 

 

 

結構大きい相手……この回廊には小型の魔獣しかいなかったから・・・大方ダンジョン区画のボスってところだろう。

 

 

「先行したリィンたちが苦戦中かも知れんな。急ごう」

 

 

ナギトはそう言って駆け出した。

すぐ後ろにはマキアスとフィーもついてきている。

 

 

回廊を抜けて広間に出ると俺たち以外の《Ⅶ組》メンバーが揃い踏みだった。

 

動く石像(ガーゴイル)らしき魔獣と相対している。

 

 

「まあ、仕方ないか」

 

フィーはそう言って、小型の双銃剣を取り出して構えた。

 

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

 

マキアスもそう言ってショットガンを構える。

 

 

 

 

 

「フィーは右足を頼む。マキアスは隙を作れ」

 

 

 

 

「・・・っああ!」

 

 

ナギトの突然の指示にも応えくれるマキアス。やはり地は優秀らしい。

 

 

「わかった」

 

 

フィーは相変わらず淡々とした様子だ。こういった修羅場には慣れていそうな雰囲気だ。

 

 

 

ナギトはわずかに集中して、居合をするように太刀を構えた。

 

 

 

「八葉一刀流、二の型・・・」

 

 

 

 

マキアスのショットガンがガーゴイルの頭を捉える。ヘッドショットに怯んだガーゴイル。その隙にナギトは斬り込んだ。

 

 

 

「ーーーー疾風!」

 

 

 

風の如き速さでガーゴイルの左脚を斬り飛ばす。

一瞬遅れて飛び込んできたフィーがガーゴイルの右脚に大きな傷を刻んだ。

 

 

 

 

両脚にダメージを追ったガーゴイルは、そこで体勢を崩し大きな隙ができる。

 

誰かが言った。

 

 

「勝機だ…!」

 

 

凛としたよく通る声。

 

全員が声を重ねて返事をすると、不思議な事にみんなとどこかで繋がった感覚がした。

 

 

みんなが一斉にガーゴイルに攻撃を仕掛ける。

剣が、槍が、銃が、弓が、杖が。あらゆる攻撃がガーゴイルに殺到する。近接武器での連携はシビアだ。自分の攻撃が味方に当たるリスクがある。

 

しかし、この《Ⅶ組》の連携においてそれはありえなかった。

 

繋がった感覚、リンクしているとでも言うべきそれからみんなの動きが手に取るようにわかるからだ。

 

 

みんなが攻撃する中で、ナギトはガーゴイルの両翼を斬り飛ばした。

 

今度は裏疾風の要領で風の刃で、その翼を斬り裂いたのだ。

 

 

万が一にも逃しはしない。

 

 

 

「今だ……!」

 

 

リィンが言った。それはナギトに言ったわけではない。このⅦ組の中で最も攻撃力を持つ真打に対して言ったのだ。

 

 

 

「任せるがよい……!」

 

 

青髪をポニーテールにまとめた少女が、身の丈はありそうな大剣を構えて言った。

 

 

「はあああああっ!」

 

 

 

そして、裂帛の気迫と共に跳躍。大剣を一振りし、ガーゴイルの首を跳ね飛ばした。

 

首を飛ばされたガーゴイルは石となり、光に包まれるようにして消えた。

 

それを確認したⅦ組のメンバーは一息ついて再び円になった。

 

 

「良かった。これで……」

 

 

眼鏡をかけた少女が言った。戦闘中はエリオットと同じように魔導杖(オーバルスタッフ)振るっていた胸の大きな女子だ。入学試験では首席だったらしい。

 

 

「ああ、一安心のようだ」

 

長身の槍使いであるガイウスもガーゴイルという破格の相手には緊張していたようで、安心したと言う。

その安心感を全員で共有したところで、エリオットが話を変えた。

 

 

「それにしても……最後のあれ、何だったのかな?」

 

 

 

「そういえば……何かに包まれたような」

 

 

金髪の少女が言うそれは、リンクした感覚の事を言っているのだろ

 

 

 

「ああ、俺も含めた全員が淡い光に包まれていたぞ」

 

 

ユーシスがそう説明すると「そうだったな」とマキアスも肯定する。

 

 

「ふむ、気のせいか……皆の動きが手に取るように“視えた”気がしたが…」

 

 

武人然とした青い髪の少女、ガーゴイルの首を刎ねた彼女がはリンクしていた感覚をそう表現した。

 

それに答えるようにしてフィーが言う。

 

 

「……多分、気のせいじゃないと思う」

 

 

さて、ようやく俺の番か。ニヤリと笑うとナギト。

 

 

「俺たちが淡い光に包まれると同時に、みんなの動きが手にとるようにわかるようになった……考えられる要因とすれば、これだな」

 

懐からARCUSを取り出し

 

「AR…」

 

 

「そう。ARCUSの真価ってワケね」

 

 

サラが拍手をしながら現れる。

 

クソゥ!なんか美味しいところを持ってかれた気がする。

 

 

「いや〜、やっぱり最後は友情とチームワークの勝利よね。うんうん、お姉さん感動しちゃったわ」

 

 

芝居がかってるのが微妙にうぜえ。ナギトどころかⅦ組全員から冷ややかな視線を浴びせられるもたじろぐ様子はなく。

 

 

サラが階段から降りてくる頃にはⅦ組メンバーは横一列に並んでいた。

 

 

「これにて入学式の特別オリエンテーリングは全て終了なんだけど……なによ君たち。もっと喜んでもいいんじゃない?」

 

 

ここで1人だけ「ヒャッホウ!勝利だぜ〜!」とか騒いでもよかったが、マキアスが即座に反論してきたのでやめておこう。自粛したナギト。

 

 

 

その後は疑問やらがサラにぶつけられ、それはすぐに説明された。

 

先程ナギトたちが体験した、みんなが繋がっているような感覚はどうやらARCUSの《戦術リンク》という機能により発現したらしい事。

 

Ⅶ組メンバーが身分や出身に関係なく集められたのはARCUSの適性が新入生の中で特に高かったから、だとか。

 

 

そしてその後、問われる。

 

 

このトールズ士官学院・特科クラス《Ⅶ組》に参加するか否か。

 

 

通常よりもハードなカリキュラムになるらしいが、すでにナギトの心は決まっていた。

 

1番乗りで名乗りをあげてもいいが、さすがにその見せ場は義兄に譲ってやろうと考えた。

 

 

決意した表情で、リィンは一歩前に出る。

 

 

「リィン・シュバルツァー。参加させてもらいます」

 

予想通りに名乗りをあげるリィン。こういった時の行動力は高評価の対象だ。

 

 

「1番乗りは君か。何か事情があるみたいね?」

 

 

サラ教官はそう訊ねる。

今の一瞬の間でリィンの肚の内を読んだと見える。

前に聞いた事はあるが、リィンは自分の中の“鬼”と対峙するために力を欲している。

 

ハードなカリキュラムはむしろ望むところだろう。

 

 

「いえ……我儘を言って行かせてもらった学院です。

自分を高められるのであれば、どんなクラスでも構いません」

 

 

 

ほら、予想通りの答えだ。微かに笑ったのち、ナギトも一歩前に出た。

 

 

「ナギト・シュバルツァー。同じく」

 

 

「へえ、あなたは確か……記憶喪失だったはずだけど、それはまたどうしてかしら?」

 

 

 

サラ教官のカミングアウトに対し、クラスメイトに動揺が走る。記憶喪失とは思えない今までの行動に疑問を覚えているようだが、それは無視してナギトは微笑を浮かべたままサラの質問に答える。

 

 

「建前とか抜きでぶっちゃけると。面白そうだから、です」

 

 

「みっちりしごいてあげるわよ」

 

 

「ハハ、期待しておきます」

 

 

 

 

リィンやナギトの名乗りを聞いて、重い腰を皆が上げていく。

 

 

結局はⅦ組はメンバー10人全員が参加する事となった。




暁の軌跡Mが配信開始されましたね。自分は無理のない課金…略して無課金勢です。

プレイヤー名は、本作の主人公と同じです。もし興味があればフレ申請などを。フレンドの意味がなんなのかまだわかりませんが。
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