閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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確信と変えられる事

 

 

 

「で、喧嘩って?」

 

 

『連絡をくれ』のメモに従い、身支度を整えるとリィンと通信したナギトはキルシェにて合流し、朝食を摂りつつ事の次第を聞き出す。

 

 

 

「ああ、それなんだが…喧嘩、という程でもないんだ。 コーヒー党、紅茶党で意見が分かれたらしくてな、それで軽く罵り合っていたんだ」

 

 

思わず「くっだらねえ」と言いたくなった。言わなかったのは朝食のサンドイッチが口の中に入っていたからだ。

その後、サンドイッチを飲み込んでコーヒーを一口。それで、

 

 

「くっだらねえ」

 

 

と吐き捨てた。口がフリーになったら自然と出たセリフだった。それくらいくだらない内容だ。

 

「はあ〜」とわざとらしくため息をついて続ける。

 

 

「マジかあいつら。マジかよあいつら。こないだ注意したばっかだぜ? あいつら反省とかしないの?」

 

 

「ま、まあ…俺も少し敏感になってたかもな。ナギトも気にしてたみたいだし、一応報せておこうと思ってただけで……」

 

 

「あー、つーか…喧嘩の内容がそれならまずいな」

 

 

ぐちぐちと悪態をつくナギトにフォローを入れるリィンであったが、ふと微妙な表情になったナギトを見て「え?」と漏らす。そこに、

 

 

「何がまずい?」

 

 

ユーシスが登場する。 それでリィンもナギトの危惧が理解できた。

 

おそらくナギトは喧嘩をしたと聞いてユーシスを呼び出していたのだ。しかし紅茶党、コーヒー党の争いだと知らなかったため普通にコーヒーを飲んでいる。

 

 

ユーシスがナギトやリィンと同じ卓に着く、その前にナギトの前にあるコーヒーカップを見て「ふん」と鼻を鳴らした。

 

 

「どうやら貴様もコーヒー派の尖兵だったようだな。そんな泥水の何が美味い?」

 

 

「か、過激ぃー!?ユーシスさんてば過激!!」

 

 

そう言いつつ肩を抱くナギト。いつものような態度、対応にユーシスはまた軽く笑う。冷や冷やしたリィンだったが、これが2人の距離感だと理解して安心したのも束の間、「アイスコーヒーです」と店員が2つのカップを持ってきて、それは当然のようにリィンとユーシスの前に置かれた。

 

「───ッ」

 

 

今度こそ絶句したリィンは、先程アイスコーヒーを注文した事を思い出していた。自分の分が1つと、ナギトが1つ。ナギトのは2杯目だと思っていたが、その実、呼びつけたユーシスへの気遣いだったんだろう。

それが裏目に出るとはナギトも考えていなかったに違いない。

 

ちら、とナギトを伺ってみると面白い顔でフリーズしていた。きっと何か面白い言い訳でも考えているんだろう、とリィンは思考を放棄する。なんなら今すぐ席を立ってしまいたい気分だった。

 

 

「これは何のつもりだ」

 

 

ユーシスは苛立ちを隠そうともせずに言い放つ。セリフには疑問符が付いているようでいて、付いてない。つまり激おこだ。

 

 

「──お前の事だ、きっと飲まず嫌いじゃないんだろう。だけど泥水呼ばわりは品がないな。前に飲んだのがたまたま口に合わなかっただけかもしれない。たまたま淹れ方が悪かっただけかもしれない。……ここまで言えばわかるよな?」

 

 

リィンは思わず“う、うまいっ!”と言いそうになった。

ユーシスを注意しつつも意見は否定せず、しかし結論は丸投げするというかたち。

 

ユーシスはゆっくりまばたきをすると、「口車に乗ってやろう」とおもむろにカップに手を伸ばした。一口啜り、そのままコクリと嚥下する。

 

カップをソーサラーに置いて、「ふむ」と漏らした。ナギトが密かに唾を飲み込んだのをリィンは見逃さない。

 

 

「……まあ、悪くはないな」

 

 

果たしてナギトの目論見は上手くいったようで、ユーシスはわずかに顔を綻ばせた。

 

「しかし、やはり紅茶の方が上だな」

 

そう言うが、前言を引き出した時点でナギトは勝ったようなものだ。

 

 

「ま、それは個人の味覚でしょうよ。もう言うまでもないと思うけど…コーヒーも紅茶も、それぞれ違う良さがある。それは人の好みで美味い、不味いが分かれる。しかし自分の舌に合わないからと言って一方的に貶すのは、相手からすれば良い気持ちはしない」

 

 

「言われずともわかっている。しかし…」

 

 

「はい反論しない。マキアスからふっかけた戦争だってのは知ってんだよ。それでもだ、お前もうちょっと反省した方が良くないか?」

 

 

ナギトのセリフには“この前注意したばっかなのにまた喧嘩しやがって”という意味が込められている。

ユーシスの条件には“マキアスが喧嘩売ってきた場合は別”というものがあったが、それを加味してもナギトが反省を促す方に理があった。

 

 

「…わかった。反省するとしよう」

 

 

ナギトの圧に観念したのか、ユーシスは素直に省みることを約束した。

 

 

「ならばまずは…レーグニッツに謝るべきか」

 

 

続いてユーシスはマキアスに謝罪する事まで検討し始める。どちらに非がある、なんて話ではないが謝罪は人間関係を円滑に進める上で重要なファクターだ。

それを意思表明した事はユーシスにとってかなりの譲歩であり、また歩み寄る姿勢がある事に他ならない。

 

しかしナギトは「それはどうかなあ」とため息混じりに言った。

 

 

「正直、マキアスの貴族嫌いは筋金入りだしよ、急に謝られても受け入れるだけの土壌がないと思うんだわ」

 

 

ナギトの見解に「む…」とユーシスが口をつぐむ。あり得る話だと思ったのだ。

 

 

「そんな事はないんじゃないか? マキアスもさすがにそこまでじゃないだろう」

 

 

リィンだけがそれに反対の意見を述べたが、それも根拠に乏しく、ナギトが「俺から言っとくわ」という言葉で締められる運びとなった。

 

 

☆★

 

 

リィンとユーシスと別れ、学院への坂道を登るナギトはふと馬鹿らしくなった。

 

 

「なんて俺は貴重な自由行動日をこんな事に費やしてるのかなっ!」

 

ふんす、と鼻息も荒く、不満たらたらといった様子だ。

 

“こんな事をしても無駄”という確信がナギトにはあった。“今はまだその時ではない”と。マキアスとユーシスの仲が改善されるのはもう少し後の事だと。

 

「っだかなあ、これ!」

 

頭痛がして、こめかみを揉む。ユミルの郷でもたびたびあった、こういう“確信”だが、トールズに来ていっそう増えた。

未来を知っているような全能感でもあるが、中二的なアレかもしれないので周りには黙っているが。

 

「気持ち悪い」

 

 

呟くとナギトはそのまま学院に進む。目的地は第2チェス部の部室だ。

ARCUSで連絡しアポを取る事も考えたが、以前“忙しい”で2日連続で対話拒否された事を念頭に置くと突撃説教の方が良いと判断した。

 

やがてチェス部の部室前に到着し、ノックして入室。

 

「失礼します」

 

 

部員2名と目が合う。マキアスは不機嫌そうに眉根を寄せ、ステファンは喜色を浮かべる。

「どうも」と会釈して、わずかばかりの言葉を交わす。

 

「ちょっとマキアス借りていいです?」

 

頃合いを見計らってそう言うと、ステファンは快く送り出してくれた。

ナギトとマキアスは第2チェス部の部室を出ると、そのままグラウンドの近くまで移動した。

 

 

「ステファン先輩から聞いたよ、第2チェス部のホープなんだって?」

 

 

「…君には関係のない話だろう。 それより用件は何だ」

 

 

雑談お断りってか、この野郎。ナギトは内心でそう毒づいて本題を切り出した。

 

 

「そりゃあまあお察しの通り……、また喧嘩したんだってな」

 

ナギトのその言葉はマキアスも予想していただろうが、それでもばつが悪そうに顔を背けた。

 

「喧嘩すんな、っては言わんけどな…もうちょい何とかならんか?」

 

 

具体性は何もなく、しかし諭すような声音に「僕は…」とマキアスも声を出す。

 

 

「君の言い分もわかる、ナギト。 だが僕は貴族らしい貴族のユーシス・アルバレアが嫌いだ。貴族だって事を隠してたリィン・シュバルツァーが嫌いだ。君の事も…ナギト」

 

 

先日の注意が効いているのだろう、沈鬱な表情で言い切ったマキアスを「はん」と鼻で笑ってやる。

 

 

「つまらない事を言うなよ、マキアス。お前のそれは結局、“貴族”と“平民”で人を色分けしてるだけだ。相手の本質を見ようともせず肩書きだけで対応を変えるのは、それこそお前の嫌う貴族の所業だろ」

 

 

言うと、一瞬でマキアスが真っ赤になってナギトに詰め寄り、胸ぐらを掴み上げる。

 

 

「君はっ!どこまで人を馬鹿にすれば…ッ!」

 

 

「暴力かよ?」

 

ナギトの冷ややかな視線とセリフはマキアスの熱を貫いた。

青筋を立てていたマキアスは呆け、

 

 

「よいしょ」

 

瞬時にナギトに手首を捻り上げられてすっ転んだ。

マキアスが立ち上がるのを尻目にナギトは乱れた制服を元に戻す。

 

「ま、俺が言いたいのはつまり、立場だとか肩書きとかじゃなくて、その人を見ろよってこと」

 

 

言葉足らずな感はあったが、言うべき事は伝えた。

 

 

「というわけでナギト・シュバルツァーはクールに去るぜ…」

 

 

決め台詞と共に立ち去ろうとしたナギトはしかし、「おいナギト」とマキアスに呼び止められる事で出鼻を挫かれた思いをする。

 

振り返ったナギトが見たのは、久しく向けられる事の無かった知性が湛えられた瞳。ナギトとリィンが貴族と判明する以前の、友人として冗句を言い合った時のものだ。

 

 

「しかし立場や肩書きが人をつくるとも言う。君の言う本質だけを見てしまえば、付き合いは極端になるんじゃないか?」

 

 

マキアスの言葉に今度こそナギトは「はっ!」と快哉をあげた。

 

 

「わかってるじゃねえか」

 

そうだ、最終的にはそこが目標だ。相手の立場や体裁などを勘案しつつ、その本質にも適う応対を行う。

それがナギトの思う対人関係の理想だ。パトリックともそうして仲良くなった事だし。

 

まあこういった面倒くさい事は抜きにして仲良くなれる者も多数いるが。それこそエリオットなどがそうだ。ガイウスやラウラは天然だから評価し難い。

 

 

ただ貴族であるだけで扱いを変えるマキアスにとって、そこまで求めるのは酷だと思ったナギトだったが、やはり地頭も良く人間関係が政治である事もわかっているマキアスは、相手が貴族であるという色眼鏡を外しただけで飛躍的な成長を思わせた。

 

数瞬、視線が交わったが何も言う事もなくナギトは再びマキアスに背を向けて歩き始める。

 

 

「案外当てにならないな、俺のカンも」

 

 

天啓のように得られる確信。それが打ち砕かれた思いにむしろ清々しさすら感じる。

自分の行動は無駄じゃないんだと。何かが変えられるのだという希望を得て。

 

 

 

☆★

 

 

「…それで、今からナギトも来ないか?」

 

 

マキアスと別れてからしばらく経って、ナギトはリィンからの通信に応対していた。

内容は先月もあった“旧校舎の探索”だ。

 

 

「え〜……」

 

 

言いながら、小説のページをめくる。『カーネリア』という人気の小説だ。色々と予定にない事が起こってしまったが、今日は読書に勤しもうと思っていたのだ。

それを邪魔されてはリィンの頼みにも渋ろうというもの。

 

 

「うーん、そうだなぁ…旧校舎と言うてもだ、もう目新しいものもないだろうしなあ」

 

 

ぺらり、ページをめくる。

 

 

「ちなみにアリサやラウラも参加だ」

 

 

ぴくり、耳が動く。

 

 

「しゃあねえ、行くか!」

 

 

「いいのかそれで……」

 

 

 

 

 

「というわけでやって参りました旧校舎!…ってテンションだったけど、やばいなこれ」

 

まずは例の構造が変わった階段部屋だが。

今回、入ってみると階段部屋ですらなくなっていた。

代わりにあったのは昇降機らしきもの。

アリサの調査で昇降機と判明したのだが。

昇降機で降りられるのは地下一階と地下二階のみ。

この前攻略したのは地下一階ということらしい。

 

一行はリィンの号令の元、地下二階の最新部を目指し始める。

 

 

 

回廊を駆け抜け、魔獣を切り伏せ、最深部前に到達する。回復装置を使いつつ各々休息を取る。

 

そんな中でナギトはアリサに尋ねた。

 

 

「アリサ・RのRってラインフォルトのR?」

 

 

「ふぇ!?な、なんで知ってるのよ?」

 

 

ふぇ!?ちゃうわ!声がでかい!

そんな思いを視線に込めるとアリサは口を手で押さえつつ、集まった他のメンバーの視線を散らす。

 

 

「知ったというか気づいた、かな。まあ、アリサが隠してるのも理由がありそうだしみんなには黙っとくけど」

 

気づいた、なんてのは半分嘘だ。またあの確信が舞い降りたのだ。アリサはラインフォルトの一族だと知っていた、それをふと思い出したような感覚だ。

 

 

「そ、そう……それなら助かるわ」

 

 

「それでもユーシスあたりは気づいてそうだけどな。ルーレ市の出身で“R”。しかもARCUSにまで詳しげって、ヒントは結構あったし」

 

 

もし自分の知恵知力で気づけたのならどれだけ良かった事か。

 

そんな嘆息をアリサに悟られないように会話を終え、同時に休憩も終わる。一行は最深部へ踏み入った。

 

最深部の大部屋には案の定、強力な魔獣が待ち構えていた。

 

3体いた魔獣を、まずは数を減らそうという方針でリィンとラウラのSクラフトが炸裂し、1体が消滅する。

 

 

その間、2体を相手取っていたナギト、アリサ、ガイウス、エリオットの4人は息の合った連携で魔獣にダメージを与えていた。

 

 

「アリサ! エリオット!」

 

 

名前を呼んで、意図を伝える。ARCUSの戦術リンクで繋がっていれば、あとはわずかな合図だけで狙いを共有してくれるのは連携が上達した証だ。

 

「ガイウス!決めちまえ!」

 

 

「──ああ、了解した!」

 

 

アリサの導力弓による一矢が魔獣の出鼻を挫き、エリオットのアーツがもう一体を牽制する。

 

 

「二の型、疾風!」

 

 

そしてナギトの斬撃が魔獣一体の体勢を完全に崩した。見計らったガイウスが雄叫びをあげながら肉薄して槍を魔獣に突き立てると消滅させる。

 

魔獣は残り一体だ。リィンとラウラもナギトらと並び立ち武器を構えた。

 

 

 

「みんな、隙をつくってちょうだいな!」

 

 

それは、最深部に突入する前にも言っていた事だった。

「試したい技があるんで隙をつくってくれたら嬉しいかなぁって。いやほんと、タイミングがあったらでいいんで!よろしくお願いしまーっす!」という本人曰くクソへりくだった言い方で。

 

魔獣も三体のうちすでに二体が斃れ、残る一体も手傷を負っている。ナギトのためにお膳立てするのに何も弊害はなかった。

 

 

リィンとラウラが切り込み、アリサとエリオットが遠距離から魔獣の注意を分散させ、ガイウスの槍撃が隙をつくりだす。

 

ナギトは瞬時に納刀する。鍔と鞘のぶつかる音はまるで武士の金打だ。

 

援護は十全。ここで決めなきゃ男が廃るってもんよ!

 

 

刹那、抜刀────

 

 

孤月の閃きが疾り。一瞬の後に魔獣は崩れ落ちた。

 

 

「───さしずめ、神威残月ってとこだな」

 

 

それがナギトのSクラフトだった。

タネを明かすと、リィンの孤影斬と変わらぬ剣技だ。ただそれが比較にならぬほど強大で速いという点以外は。

 

発動前に“納刀”というワンアクションを挟まねばならぬ事が玉に瑕か。抜刀術でなければ、あれだけのパワーとスピードの両立は難しいのだ。

 

しかしひとまず、リィンへの対抗心から考案したSクラフトは実戦に耐え得ると理解できたところで、「ご協力ありがとうございまぁっす!」とめちゃくちゃに頭を下げる。

 

こうした面がなければナギトの扱いももっと変わるだろうに、とリィンは嘆息するのだった。

 

 

 

 

その後、旧校舎から戻り、学院長へ報告。

 

学院長室へと赴き、学院長ヴァンダイクと相対するが相変わらず良い体格だ。元は正規軍の元帥だったとか。今でも名誉元帥であり、軍に影響力は残っているのだろう。

 

ヴァンダイクの話によると、旧校舎があれだけ不気味な代物なのに取り壊されていないのは、学院の創設者でもあるドライケルス大帝の言葉によるものだと言う。

“来る日まで旧校舎をそのままにしておくように”という文言が学院には残ってるらしい。

暗黒時代の遺物に、獅子戦役の時代まで関係して来るとは。

 

“いったい旧校舎とはなんなのか?”そんな疑問が持ち上がったが、当然解答は得られず。

 

獅子戦役と言えば、ドライケルス大帝を支えた《聖女サンドロット》も有名である。

七曜教会にも聖人認定されている偉人《聖女サンドロット》。

彼女の率いる《鉄騎隊》は常勝無敗を誇り、彼女自身は《槍の聖女》と呼ばれていたのだとか。

 

なんて事を思い出すナギト。学院に来る前、来た後もそうだが、こういった歴史の勉強は苦ではなくすらっと暗記できるのは、そういったものが好きだからだろうと自己分析する。

 

 

《槍の聖女》関連で思い出した事があり、寮に戻ってラウラと話をする。

元々、リアンヌ・サンドロット───サンドロット伯爵家はラウラの故郷、レグラムを治めていたはずだ。

 

そういった事を尋ねてみると、レグラムには未だサンドロットの城館があり、アルゼイド家は鉄騎隊副長の末裔だという事だ。

 

そして前回の実習でラウラが語った目標とする人物とは《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットの事らしい。

ナギトはてっきり《光の剣匠》と呼ばれる父親、ヴィクター・S・アルゼイドと思っていた。

 

ちなみにアルゼイド家のミドルネームであるSは今は亡き主君サンドロットから取ったものだという小話なども聞くことができた。

 

 

代わりに神威残月について根掘り葉掘り聞かれたのだが「新しいSクラフトよ、そおれっ!」と返答しておいた。

 

そんな感じで、自由行動日の夜は更けていくのであった。

 

 

☆★

 

 

自由行動日から数日が経過し、実技テストの日となった。

 

例の機械仕掛けの魔獣をサラ教官が呼び出す。

一月前とは少し形状が違い、腕のようなものが生えている。

 

機械仕掛けの魔獣というのも面倒な表現だ。これからは戦術殻と呼ぼう。───くそったれ。これが戦術殻と呼ぶのが正解と知っている感覚。もはやお馴染みの“確信”だ。

 

まずはリィン、アリサ、ラウラ、ガイウスが相手をする。戦術リンクも使いこなし、無難にクリア。

 

次はユーシス、マキアス、エリオット、エマ、フィーがカラクリに挑戦。こちらは連携が上手くいかず、辛勝と言った様子。

 

 

そして最後に俺。

 

 

「ってちょっと待って。why? え?なんで俺1人なんです? 10人いるから普通は5、5で分けると思いますけど!?」

 

鬼畜?鬼畜なのサラ教官?ユーシスらが5人がかりで何とか倒したのを1人でやれとおっしゃる?

 

 

「いやー、ごめんね。アンタの事、すっかり忘れてたわ」

 

 

「うそん」

 

思わず声を漏らす。サラの割とマジなトーンに呆けかかったが、

 

 

「なんてのは冗談で。リィンと組んでもらうわ。

あなたとリィンのコンビネーションは正直、目を瞠るものがある。 それはARCUSがなくても、戦術リンクを使っているかのような。 みんなも、この2人の連携を見ておくように」

 

 

 

冗談(笑)により、ナギトとリィンは2人で戦術殻に挑む事となった。

 

 

「連戦で悪いけど踏ん張れよ、お兄様」

 

 

「だからそう呼ぶなって何度も…」

 

 

2人、太刀を抜き対峙する。

まず人形兵器が狙ったのはリィンだった。腕部をぶん回して殴りかかる。

 

リィンはそれをバックステップで避け、空振った戦術殻にナギトが孤影斬を叩き込む。

 

ふらついた戦術殻から視線は離さず、

 

「合わせろ!」

 

「任せろり」

 

 

互いに示し合わせたリィンとナギトは同時に踏み込んで紅葉切りを見舞う。

 

 

一瞬の硬直。反撃の隙も与えず、縦横無尽に太刀を振るう。

 

 

「決めろ、ナギト!」

 

「おうさ!」

 

 

ナギトが距離を取って納刀し、リィンは戦術殻を身動きの取れない空中に打ち上げる。

 

 

「──神威残月」

 

 

抜刀。神速のそれは剣閃を飛ばし、戦術殻を真っ二つにした。

 

 

こうして実技テストは終わりを迎え、特別実習のメンバーと行き先の発表だ。

 

ナギトはA班。加えてメンバーはリィン、ユーシス、マキアス、エマ、フィーの6人。

行き先はバリアハートだ。

 

この班分けに猛抗議するのが2人。ユーシスとマキアスである。

 

 

2人はなんだかんだ文句を垂れていたが、結局はサラに丸め込まれる。しかし不満があるのは見え見えで、

 

 

「それとも、力づくで言う事聞かせてみる?」

 

 

そんなサラの提案に乗って、ユーシスとマキアス、ついでにリィンを加えた3人で得物──剣と銃──を抜いたサラに挑む事になったのだが。

 

 

数分後、案の定とすら言えないほどリィンたちは叩きのめされていた。一撃すら掠める事すらなく勝敗は決した。

 

強いとは思ってたけどまさかここまでとは、というのがナギトの感想だ。

連携が上手くないとは言え、実戦を経験したリィンらを赤子扱いだ。

 

そういった事もあり、ユーシスとマキアスも渋々ながら引き下がる。

 

そこでナギトは疑問をぶつけると、

 

 

「さっきマキアスも言ってましたけど、班分けの人数が明らかにおかしいですよね。6:4って。 いえ別にサラ教官様に楯突く気はさらさらないんですよ?ちょっと不思議だなって思っただけで」

 

 

「そんなあからさまにビビった態度取らなくてもいいから。 何度も言う様だけど、この組み合わせがベストなのよ。 実家ってことでユーシスは外せないし、マキアスもさっき言った通り。それにリィンがいるなら、ナギトとの連携も見せつけないと損だし。そういう訳で今後リィンとナギトは一緒に行動してもらう事になるわ。 あと女子は均等に振り分けないといけないから」

 

 

そんな風にサラは説明した。それには「なるほど」とⅦ組の総員が納得を示す。

 

先程のナギトとリィンの2人で行った実技テストは、この義兄弟をセットで特別実習に参加させるための根拠にもなっていた。

 

 

少し気になる事はあったが、ナギトはここで引き下がる事にした。

リィンたちのようにサラの餌食にはなりたくないのだ。きっとユーシスとマキアスの関係修復に精を出してたおかげで魔の手を逃れる事ができたのだ。とばっちりを受けたくはない。

 

 

そういう事で、軽いイベントはあったものの特別実習とそのメンバーは発表の通りとなる。

 

 

ナギトの所属するA班の行き先は翡翠の公都バリアハート。

ユーシスの実家であるアルバレア家が直接統治する、貴族派の本丸のひとつだ。

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