閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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リアル

 

中間試験の結果が開示された。

 

わざわざ試験の結果を目に見える場所に張り出すとは、さすが帝国流と言うべきか。

 

ナギトのように、これで結果が悪く、心が弱ければ1分は寝込む所だ。

 

しかし今回ばかりはそうはいかぬ。何せベリルの占ってもらったヤマカンがピタリだったのだ。

 

楽しみにして開示してあるそれを見た。

 

 

1位 エマ・ミルスティン

1位 マキアス・レーグニッツ

3位 ユーシス・アルバレア

4位 ナギト・シュバルツァー

5位 パトリック・ハイアームズ

 

 

なんとナギトは4位に輝いている。

マキアスは有言実行というところか、ちゃんとエマに負けてない。ユーシスについては必死こいて勉強した様子もなく3位、頭の出来が違うのだろう。5位はパトリックで基礎学力は確かと言える、ナギトがいなければ4位だったのは間違いない。

 

 

「ふっふっふ……フゥーハハハ!俺だ、俺が4位のナギト・シュバルツァー様だぁ〜!」

 

 

「ナギト、うるさい」

 

 

「あ、すみません」

 

 

張り紙の前ではしゃいでいたらフィーに怒られた。当のフィーはエマとのお勉強会が効いたのか、普段の成績より上位の結果を残していた。

 

そして、クラスごとの順位では我らⅦ組が1位だった。個人で1位から4位まで独占してるわけだから、当然とも言える。

それでパトリックが“Ⅰ組は人数が多いからそのせいで負けたのだ”とか云々負け惜しみを言いに来たのだが「人数とか言い出したらこっちは少ないから1人でも点数低いのがいるとそれだけでがくっと平均落ちるわけだが?」と真っ当極まる文句で追い払っておいた。

 

 

中間試験の喜びを胸に仕舞い、実技テストへ向かう。

 

 

 

途中で。

 

スーツをぴっちりと着込んだ神経質そうなヒゲ──ハインリッヒ教頭とすれ違う。

 

そのハインリッヒが小脇に抱えた教科書や筆箱の隙間から、ひらりと何かが滑り落ちた。

 

 

見ると、写真のようだった。

 

 

「教頭、何か落としまし──」

 

 

裏側で落ちたそれを拾い上げて、しっかり表面…その写真を見てみる。

 

 

 

そこに写っていたのはクロスベルはアルカンシェルが《月の姫》リーシャ・マオの姿だった。

 

 

☆★

 

 

 

─────────────これは記憶。

 

 

 

「まさか、伝説の《銀》殿とこうして肩を並べて歩く事になろうとは」

 

 

狭い、裏路地。

歩く、2人の男。

 

「ふふ……私も今、この共和国で話題の《剣鬼》殿と目的を同じにしているとは夢にも思わなんだ」

 

片や《剣鬼》。

片や《銀》。

 

今やカルバード共和国の裏側で最もホットな話題として知られる正体不明の剣客と、東方人街でまことしやかに囁かれる不老不死とも称される伝説の凶手。

 

 

「…それで、救出対象は《銀》殿の娘さんだったかな」

 

 

「否。その友人…時折遊ぶ子供らよ。人攫いか……趣味の悪い教団の残党でなければ良いのだが」

 

 

 

 

─────暗転。

 

 

 

積まれたコンテナの上を駆け抜ける。

 

 

その最奥部に、赤く塗れた少女の姿を視認。

 

 

少女の手が素早く振り抜かれた。

 

 

次の瞬間、眼前にあったのはクナイに括り付けられた符だ。

太刀で弾く。背後で符が爆発する。

 

 

迫る少女。繰り出される貫手を避け、防ぎ──掴み取る。

 

 

「──ッ!?」

 

 

「硬気功か。速度も合格点だが」

 

 

蹴りが少女の鳩尾に突き刺さる。「うっ」と苦悶と共に隙を晒した少女を床にぶん投げた。

 

辛うじて受け身をとった少女だが、それに意識が向いた時点で勝敗は決していた。

 

 

「はい詰み」

 

 

す、と眼前に突きつけられた太刀を見て敗北と死を悟る。

 

 

しかし、その奥から現れた人影を見て、少女──リーシャは息を飲んだ。

 

 

「お父さん?」

 

 

「うむ、無事なようで何より」

 

 

《剣鬼》は嘆息しつつも太刀を引き、「見てたなら止めてくださいよ」なんて言う。

 

 

「ふ。噂の《剣鬼》殿と比較し我が娘の力量を測っておきたかったゆえ。許されよ」

 

 

《剣鬼》は太刀を鞘に納めつつ肩を竦めた。

この年頃で、これだけの力量があるのなら、身体の完成された数年後には、いったいどれほど隔絶した実力者になっている事か。

 

 

「末恐ろしいな……」

 

 

───リーシャ・マオ。

 

その名を胸に刻みつける。

 

 

 

─────────これは、失われた記憶。

 

 

 

☆★

 

 

 

「───ぁ」

 

 

唐突に、視界が切り替わった。

 

 

 

「─ギト? ナギト、どうした!?」

 

 

目の前には少年の心配するような顔。

 

力が抜け落ちていく。記憶が塗り変わっていく。

 

 

「──ん? あ、あー……リィ、ン……?」

 

 

自分がナギト・シュバルツァーである事を思い出す。眼前の少年が自身の義兄弟たるリィン・シュバルツァーだと理解する。

ここがトールズ士官学院だということを記憶から掘り起こした。

 

 

「ナギト、どうしたんだいきなり…座り込んだりして」

 

 

「……ああ、いや。なんだ………」

 

 

言葉に詰まる。さっきの光景は間違いなく自身の記憶であるという確信があった。あの生々しい体感がそれを納得させる。

 

しかしそれを説明すべきか判断がつかない。……否。正直な話、自分の《剣鬼》である過去をリィンに知られたいとは思わない。

 

 

「なんでもない」と告げて立ち上がる。ふらつく事もなくしっかりと立つ事ができた。

 

 

「それは?」

 

 

リィンの視線が垂れ下がったナギトの手に向けられている。

ナギトはそれを持ち上げて、その薄っぺらな紙がブロマイドであると理解した。

 

 

 

 

───リーシャ・マオ

 

 

共和国は東方人街の伝説。《銀》の継承者。今はクロスベルで人生を謳歌中か。

 

このブロマイドこそがナギトに白昼夢を見させた──リアルな夢を追憶させたものだ。

 

 

「教頭!」

 

 

すでに遠くなりつつあった教頭ハインリッヒの背中に呼びかける。際どい衣装の《月の姫》リーシャのブロマイドを大手で振ると、ハインリッヒは青ざめた顔でナギトに詰め寄ってきた。

 

 

「落としましたよ、ハインリッヒ教頭」

 

 

満面の笑みで、ブロマイドを手渡す。

 

 

「あ、ああ。拾ってもらったようですまないね」

 

 

「いいえ。……しかしさすがは教頭。いい趣味をお持ちのようで。この場には理解できない者が多いと思うので、性癖を疑われるかもですが」

 

 

「性へ──ッ!」

 

 

ナギトと脅迫のような忠告にハインリッヒは大声を出しかけるも、それこそ注目を浴びかねないため自粛した。

失言の証にあわや口を押さえつつあったハインリッヒにナギトは肩をすくめてみせる。

 

「では」と言ってそのままナギトとリィンはこの場を離れる事にした。早くグラウンドに行かなければ実技テストに遅れそうだ。

 

 

 

☆★

 

 

結果として、ナギトは実技テストに遅れた。

 

というのも、大事をとって保健室に行っていたからだ。ベアトリクス教官には“いたって健康”と診断されて保健室を追い出される。

 

その間に、リーシャの写真を見てフラッシュバック───否、追体験した記憶について整理した。

 

 

まずあれは記憶を失う前のナギトが体験した事実である事。加えてナギトが《剣鬼》である事が確定した。

 

次に《剣鬼》は《銀》と何らかの関係をもっていた事。追体験での発言とブルブランの言葉から、後ろ暗い背景がある者同士──というのがありそうな線だ。

 

以上2点がわかった事。

 

 

そして新たに謎も増えた。

 

なぜ今回の記憶についてだけ、これまでの曖昧な光景やフラッシュバックのような断片ではなく、追体験のような形をとったかだ。

 

これまでに《剣鬼》に会った事があるらしい人物──ブルブランだが──とナギトが邂逅したとしても“なんか会ったことあるかも?”くらいの感覚だった。

 

あとはクロウと会った時も、かなり曖昧なビジョンが見えた気がする。こちらは自身の記憶であるという確信はないのだが……

加えて、クロウもこのトールズ士官学院で初めてナギトに会ったような対応だった。含みのある視線をたびたび送られてはいるものの。

 

こうなったらこっちから尋ねてみようか。

 

“どこかで会ったことある?”なんて感じで。

 

 

「ナンパか」

 

 

自身の思考にそうしたツッコミを入れていると、グラウンドの方からパトリックがずんずんと歩いて来ているのが見えた。

 

 

「おぅい!パートリックぅ!」

 

 

友達スマイルを浮かべつつぶんぶんと手を振ってやる。パトリックは気づいたが少し戸惑ったあと、顔を逸らして中庭の方に方向転換して行った。

 

 

ははーん、さては。

自習なのをいい事にⅦ組の実技テストに乱入した挙句コテンパンにされ、さらには言い負かされた後と見える。

 

 

「だからなんで俺はそういうことを確信してんだっての」

 

 

「はあ」とため息を吐きつつグラウンドに到着。

遅れた詫びの印として、直立不動、敬礼の姿勢を保ったままサラに向き直った。

 

 

「お疲れ様です、サラ教官! ナギト・シュバルツァー、ただいま参上いたしました!」

 

 

「はいはい、じゃアンタはラウラとフィーと組んでテストね」

 

 

「えっ、デジマ?」

 

 

「マジよ」

 

 

渾身のお滑りボケを流された挙句、地獄のような面子で実技テストに挑む事となった。

 

 

 

「よろぴく〜」

 

 

「ん」

 

 

「…よろしく頼む」

 

 

三者三様、挨拶を交わして戦術殻へと武器を構える。

 

サラの合図で実技テストは開始された。

 

 

「んじゃまずは様子見の、疾風!」

 

 

ゆらり、ゆっくりと歩を進めたかと思えば、次の瞬間にはナギトは戦術殻に肉薄している。

 

すれ違い様の斬撃を叩き込むが、戦術殻の予想外の反応速度により、反撃を躱しつつとなったためダメージは低い。

 

 

「やっ」

 

次いでフィーが砂塵を突破して戦術殻に切り込んだ。素早い連撃でいくつか傷を刻むと、反撃を喰らう前に後方に跳ぶ。しかも銃の乱射付きだ。

 

 

そこにラウラも突撃するが、戦術殻はフィーへの反撃動作中で、そこに突っ込む形となる。巻き上がった砂塵のせいでラウラにはそれが見えていなかった。

 

 

「馬鹿、ラウラっ!」

 

 

馬鹿は俺だ、と瞬間自省する。“下がれ”と言えば良かったのだ。

自分の動きに自信がなく、ナギトとフィーに続けて“とりあえず”攻撃していたラウラはそれで動きを止めてしまった。

 

それは致命的な隙でもあったが、止まったおかげか戦術殻の一撃は空振りに終わる。しかし続く左腕の攻撃がラウラに迫った。

 

 

間に合う。ラウラの前で戦術殻の殴打を防いだナギトは身を沈めると、戦術殻を蹴り打ち上げた。

 

 

「フィー!」

 

 

名前を呼ぶと意図が伝わったようで、フィーは打ち上げられた戦術殻に銃撃を浴びせる。

 

やがて戦術殻は地に落ちて、再び砂塵を巻き上げる。今度は攻撃に移る事はせずに離れて様子を窺う3人。

 

 

砂塵を切り裂いて、ビームのような剣がナギトの鼻先を掠めていった。

 

 

「下がれ! ラウラ、地を抉る一撃を!」

 

 

指示を出しつつ後退。ラウラは退いてから大剣を地面に振り下ろす。地裂斬が真っ直ぐに進み砂塵と戦術殻を吹き飛ばした。

 

 

「決める」

 

 

言って、フィーが何かを投げたのがわかった。それが何なのか理解して。

それに背を向ける形でラウラの前に立ち塞がった。

 

刹那、閃光が炸裂する。

 

 

フィーが投げたのはフラッシュグレネードだ。

戦術リンクで繋がっているためナギトはグレネードを投げる動作から何が起きるのか理解したが、同じく戦術リンクで繋がっているラウラは動作だけでは理解できず突撃する所だった。

 

意思疎通ができていない状態で使うフラッシュグレネードは諸刃の剣だ。今のタイミングであればラウラの視界が灼かれていた可能性があった。

 

 

ナギトは背を向ける事で。ラウラはナギトに守られる形でフラッシュグレネードの光から視覚を守った。

その間にフィーは駆けて戦術殻にダメージを与えていく。斬撃、銃撃を組み合わせた立体的な動きで。

 

そのアクションはさすが猟兵と言うべき殲滅の意志の現出。

しかしそのアクションも質を見極められたのか、戦術殻のカウンターによって中断する事になる。

 

 

「好機だ…!」

 

「おう!」

 

 

ラウラの言葉にナギトも同意する。戦術殻はフィーへの対応で手一杯だったのだ。

 

 

「まずは俺が!」

 

 

太刀を二度振る。放たれた斬撃は横方向と縦方向を大きくカバーする緋色。

 

 

「緋空十字斬!」

 

 

その威力に戦術殻は不意を突かれた事もあり、完全に体勢を崩した。

 

 

「終わりだ!獅子連爪!!」

 

 

そこに飛び上がったラウラが剛剣を構えて落下する。凄まじい威力の攻撃に戦術殻は沈黙したのだった。

 

 

 

その後、ユーシス、アリサ、エマの3人による実技テストは戦術リンクを上手く活用し、苦戦もせずに終了。

ナギト、ラウラ、フィーというⅦ組でもトップクラスの戦闘力を誇る3人より、よほど良い成績を収めたのだ。

 

やっぱり連携って大事だなあ、とナギトはしみじみ思うのだった。

 

 

 

☆★

 

 

6月の特別実習、ナギトの所属するA班の面子はリィン、ガイウス、ユーシス、アリサ、エマにナギトを加えた6人。行き先はガイウスの故郷であるノルド高原。実習中はガイウスの実家に世話になるという話だ。

 

そして言わずとしてたトールズ士官学院の創設者、ドライケルス大帝の挙兵地であり──

 

 

「──列車で8時間か……」

 

 

すっごく遠い場所である。

 

 

 

特別実習1日目、寮の一階で集合したA班はひとまずの会話を終えて駅に向かう事となる。

 

トリスタ駅ではすでにB班が揃っていた。いくつか言葉を交わしてから切符を買う流れになる──のだが。

 

「うん?」

 

 

みんなの視線が自然とナギトに集まった。ナギトはそれに眉を上げて何事かと問いかける構え。

 

 

「いや…何かB班に言う事とかってないのか?」

 

 

視線の意図を理解できないナギトにリィンが説明する。そのB班とやらが示すのはラウラとフィーに他ならない。何せ実技テストで組んだ間柄だ。連携の悪さは承知済みというもの。

 

ぶっちゃけた話、アドバイスは?という事である。

 

 

「うん、まあ…アレだ。お前ら……ここでアレならマジでアレだからな!?」

 

 

「アレアレ言い過ぎ」

 

 

「ずいぶん抽象的だな」

 

 

「くうっ」とナギトが唸る。こんな所ばかり息ぴったりのラウラとフィーである。

そんな様子にⅦ組のメンバーはくすりと笑う。ナギトもそれを見て淡く笑むのだ。

 

そのナギトの在り方をリィンは“笑い物になる事で意志の統一、絆の促進”を狙ったものであると思いかけたが、実際には“何も考えてないのを誤魔化すための微笑”と解釈する事にした。

 

 

そうして少しだけ雰囲気が柔和になった所で切符を購入、列車に乗り込む。帝都ヘイムダルでA班はルーレ行きの列車に乗り換えだ。

シャロンが持たせてくれた軽食に舌鼓を打ちつつ談笑。実習地ノルドの説明をガイウスが行った。

 

いくつものトンネルを越えた先にある北の山々に囲まれた広々とした草原、帝国軍基地など以外は“ノルドの民”しかいないのだとか。なんなら人より羊が多いなどという話も。

しかもノルドは羊だけでなく軍馬の産地でもあり、エレボニア帝国の紋章である“黄金の軍馬”もこのノルド産のものがモチーフだった、といううんちくがユーシスから放たれる。

 

そういった話を終えて、恒例のブレードタイムとなる。言うまでもなくナギトが全勝し。

 

 

ルーレに到着した。

 

ここで貨物路線に乗り換えてノルド高原を目指す事になるのだが、ここでなにか腹をもたせるものを買っておくか…なんて話をしていると、どこからともなくシャロンが現れた。

 

しかもどうやら昼食を作ってきてくれていた。

朝早くに出発したA班を待ち構えられたタネは、帝都から飛空艇でルーレにひとっ飛びしたかららしい。昼食はその飛空艇の厨房を借りたのだとか。

そうこう話している内に、金髪の女性が現れた。いかにもキャリアウーマン風の彼女はイリーナ・ラインフォルト。何を隠そうアリサの実母であり、ラインフォルトグループの会長、それに加えてトールズ士官学院の常任理事の1人だという事も明かされた。

 

イリーナは挨拶だけするとシャロンを連れてさっさと行ってしまった。

それにアリサは憤慨するが、

 

 

「それでも挨拶をしていっただけマシというものだろう」

 

とユーシスが言う。それは明らかに先月の実習で挨拶すらしなかったユーシスの父、アルバレア公爵を批判していた。

 

 

 

その後、A班は貨物列車に乗り込んでノルド高原へ行く事になる。

まだぷりぷり怒っているアリサ。“自立したい”なんてケルディックの実習で言っていたが、そう意気込んで入学した士官学院は母親が常任理事。学費なども当然親持ちであり、

 

 

「手のひらの上でサンバ踊ってた気分だろ?」

 

 

なんて煽ったら普通に平手打ちを喰らいました。

 

 

そんなコントがありつつも比較的穏やかに会話は進み、ノルド高原に到着した。

 

貨物列車が止まったのはゼンダー門。普通の列車は走っておらず、この帝国軍基地まで物資を輸送するための貨物線にA班は同乗させてもらっていたのだ。

 

ゼンダー門では、その指揮官である中将が出迎えてくれた。どうやらガイウスの知己らしく親密そうに振る舞っている。

 

短く切った髪に、右眼を覆い隠した眼帯。服の上からでもわかる、筋肉の鎧を纏った体躯。

あらゆる戦場を体験してきたであろう、壮年の男がそこに立っていた。

 

──ゼクス・ヴァンダール

 

 

皇族の守護者であるヴァンダール一族の猛者であり帝国正規軍でも5指に入る名将《隻眼のゼクス》。

ガイウスと知り合った経緯は、高原に赴任したばかりのゼクスが魔獣に囲まれた際にガイウスに助けられた時からだという。その縁でガイウスを士官学院に推薦したのだとも。

 

 

その後、ゼクスが準備してくれた馬に乗ってノルドの集落を目指す事になったのだが。

 

用意された馬は4匹。馬に乗れる人物と、馬にかかる負担を考えて。

 

 

ガイウス、ユーシスは1人で。

リィンと一緒にエマ。

アリサと一緒にナギトが乗る事になった。

 

ちなみにナギトは馬には乗れないのでアリサの後ろに乗る事になる。

シュバルツァー家じゃ剣術と勉強に勤しみ、馬に触れる機会もなく、トールズで馬術部に入ろうかと覚えばユーシスに拒絶される始末。

 

「これは仕方ないね!」と宣ったナギトを睨むアリサの目つきと言ったらそれはもう、恐怖しましたとも。

 

 

「変な所を触ったら落とすからね」

 

「それはフリですね。わかります」

 

 

そんなやり取りを経て乗馬。目的地である集落へと向かう。

 

行きすがら、ガイウスにノルド高原のスポット紹介をされる。

この高原北部では、古の精霊信仰の名残である石柱群や帝国軍の監視塔などがそれに当たる。

 

その途中で、アリサの腰に当てていた手を、少し上にズラしただけで肘鉄が飛んできた。今後はこんな事はしないと誓います。

 

 

 

集落に着くとガイウスの家族が出迎えてくれて、そのまま夕餉を摂ることになった。

 

ノルドの自然の豊かさを感じさせる食事に舌鼓を打ち、ガイウスの父でありノルドの族長でもあるラカンと少し話す事となった。

 

それはノルドと帝国の友好の歴史から。

すなわち、エレボニア帝国中興の祖たるドライケルス大帝と共に獅子戦役を駆け抜けたノルドの民の友情から続くものであると。

 

次にノルド高原の南東に進出してきたカルバード共和国について。

東の部族は交流しているそうだが、エレボニア帝国とカルバード共和国は長年の宿敵。

そのせいで少しばかり緊張状態らしい。行きがけに見た監視塔も共和国の基地を監視するためのものだとか。

 

しかし、さほど心配する必要はなく、特別実習に集中して良いとラカンは言ってくれた。

 

 

 

やがて就寝の時間となり、A班は全員同じゲルで寝る事となる。

 

アリサも初回の実習以来、男女同室で寝る事に抵抗を薄れさせつつあったが、殊更ナギトを睨みつけてから床に入った。

 

ナギトは馬上で肘鉄を喰らった件もあり、アリサが怖いため夜這いの決行は中止する事に。

 

 

移動疲れもあったためか、すぐに眠りに落ちたのだった。

 

 

 

 

安心があった。確信があった。

 

例え、この実習で何が起こったとしても。

 

帝国と共和国の戦争なんて起きるわけがないと。

 

そんなものは、回避されるに決まっていると。

 

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