「しっ────!」
大地を蹴る…否。地面を踏み抜く…否。天を翔ける…否。 そんなイメージではない。
簡単だ。初めから答えはわかっていたのに。
雷が落ちる───これだ。
ヂッ、と灼けるような音。雷電がまとわりつく。
「───迅雷」
無人の野を雷が疾る。落雷に見紛う速度で。雷光に迫る速さで。
それこそが剣鬼七式、外ノ太刀 雷の型『迅雷』───《剣鬼》たる男が生み出した速度と鋭さを追求した剣技である。
短距離を雷の如きスピードで斬り駆け抜けたナギトは構えを解くと「ぷうっ」と息を吐き出した。
「うしっ、ひとまずこれでOKかな」
制服も夏仕様となる初夏──7月の自由行動日の出来事である。
☆★
毎月恒例となった旧校舎の探索も4度目……最初のオリエンテーリングを入れると5度目になるが、今回も最深部の魔物を何とか倒す事ができた。
段々と最深部の魔物が強くなっている事から“試されている”事実を話していると、地響きが鳴り響いた。
異常事態を察した旧校舎攻略メンバーが最初の部屋に戻ると、そこには赤い扉が出現していた。
中央に紋章が刻まれた馬鹿でかい扉だ、間違っても行きに見落としていたなんて事があるはずもなく。ナギトらはそれを調べてみる事にしたのだが。
どこをどうしても赤い扉はうんともすんとも言わず、武器を使っての強行突破すら受け付けない堅牢っぷり。
手出し無駄と理解した所で旧校舎を出る事になった。
その後、ナギトはリィンと共に軽く学院を回ってから帰路に着く事になる。学院の入口でラウラとフィーを除くⅦ組メンバーと合流し、いざ帰宅という段になって、
「兄様……」
淑やかな声に振り返ると、そこには黒髪の可憐な少女がいた。リィンとナギトの妹のエリゼ・シュバルツァーである。
エリゼはⅦ組のメンバーに挨拶すると、笑顔で言った。
「少し兄たちをお借りしてもよろしいでしょうか」
この時、ナギトは冗談じゃなく「ひっ」と声を漏らしたのだった。
校舎の屋上まで移動して、まずエリゼはナギトに詰め寄った。話の内容はリィンに聞かれてはいけないため、屋上の端でキッとナギトを睨みつける。
「ナギト兄様……これはいったいどういうおつもりですか?」
そう言ってエリゼが取り出したのは一枚の便箋。先月、エリゼから届いた手紙のお返しとして送ったものだ。ちなみに郵送料云々というケチくさい理由もあってリィンの封筒に入れさせてもらったのだが……
「す、すみません……」
「どういうおつもりですか、と聞いているのですが?」
怖い!とナギトは内心で叫ぶ。エリゼの威圧はそれこそヴァルターにも劣らぬ。
丁寧な言葉遣いだからこそ、恐怖が際立つという事もある。エリゼの態度がまさにそれだった。
「ええっと…ちょっとした悪戯心と申しますか……」
「へえ……悪戯でナギト兄様はこんな嫌がらせをなさるんですね?」
「すみません!」
もう土下座したい。でもきっと許してくれないだろうから、手紙の内容に沿った説得をしたいと思う。
「でもですよ? 手紙の内容は事実でありまして……私めの奔走がなければすでにリィンの貞操は……」
「そんな事を言っているのではありません!」
「ぅひぃっ!?」
縮こまったナギトを見てエリゼは「はぁ」とため息をついて、視線を手紙に走らせる。
『前略、エリゼ・シュバルツァー様へ。
リィンお兄ちゃんが天然ジゴロとしての才能を発揮しております。
私が日々火消しに奔走しておりますが、ハーレムを築くのも時間の問題かと思われます。
トールズは士官学院ではあれど、今や名門高等学校としての側面も強く、各地から才媛が集っており、魅力的な面々も揃い、リィンお兄ちゃんの貞操が奪われる日も近いのではないかと存じます。
形ばかりの兄ですが忠告させていただきたく思います。
エリゼ、素直になれよ。
そうすれば、きっとリィンは真摯に受け止めてくれる。
関係が悪化するかも、と思って動かないと、全部終わった後で後悔する事になるはずだ。
最後に。リィンはそっちには行かないと思うから会いたいならトリスタに来るといい』
半分以上冗談みたいな内容だが、その文面はエリゼがリィンに懸想している事を示唆した内容であった。
そんな便箋を、ナギトは「リィン、エリゼに手紙送るんだろ? 俺のも一緒に封筒に入れといてよ」と託したのだ。
内容を読まれていたら、エリゼの想いがバレてしまう。もちろんリィンがそんな輩ではないと知っているが、それにしてもリスキー過ぎる遊びだった。
「今回は許しますが、次はありません。……いいですね?」
「はいっ!」
エリゼの慈悲にいい声で返事をして、ナギトは次の言葉を待つ。
ナギトがこうしてエリゼにへり下っているのは、何も恐怖の大王の如きオーラを放つエリゼが怖いから…というだけではない。 ナギトがエリゼと会ったのは今回で三度目となるが、二度目─エリゼが冬季休暇でユミルに戻ってきた際にちょっとした事件が起きかけて、それで貸しが出来ているからといいのもあった。
「それで……ナギト兄様は…その、知っているのですか、リィン兄様の事……?」
おそらくこちらが本題だ。
エリゼの瞳が悲しげに揺れたのを見てとってナギトもまた目を逸らした。
「…知ってる、けども。それについて俺はどうこう言えた口じゃないしな」
「そう、ですよね……すみません」
「いや………俺も、すまん」
暗い雰囲気になった所で会話は終わりを迎えた。嫌な終わり方だった。
エリゼはぺこりとお辞儀をすると、本命のリィンとのお話に行くようで、ナギトは邪魔といか無粋というか…正直エリゼが怖いのでクールに去るぜ。
そう思って屋上のドアノブに手をかける瞬間、急に制服の襟を掴まれて、引っ張られた。
「ぐをっぱ!?」
驚きに加えて喉が締まったせいで変な声が出てしまった。引っ張られた先にいたのはラウラとフィーを除くⅦ組メンバー。
「揃いも揃って盗み聞きとか趣味悪いぞ」
「気になるものは気になるのよ」
「わかる〜」
「うざっ」
アリサと小気味良いやり取りをして、ナギトも盗み聞きに参加した。
リィンとエリゼはしばらく話し合った。
だが、話し合いの途中でエリゼは走り去っていく。
リィンの「士官学院卒業後はシュバルツァー家を出るつもり」、「そのための道を探すために士官学院に来た」というセリフに、悪い意味で感極まったのだ。
ちなみにこれがエリゼがナギトに尋ねた本題でもあった。ナギトも卒業までには記憶が戻るという希望的観測もあり、シュバルツァー家を出るつもりだった。だから、同じく家を出るつもりのリィンを説得するのも筋違いだと感じているのだ。
リィンの、結局は“他所者”であるという自覚が、リィンを家族と思うシュバルツァー家の人たちの想いを無碍にしているようなものだからだ。
特にエリゼはその想いが強い。
賢いはずのエリゼが見ず知らずの場所を無策に走り迷うほどには。
エリゼが走り去ったのを見てナギト含むⅦ組メンバーはリィンの前に姿を見せた。
「どうしてここに?」という、リィンの質問を押しのけてエリゼ捜索を優先させるように言う。
みんなで手分けしてエリゼを捜す事となった。
考えてみる。最悪はなんだ?
街道に出て魔獣に襲われる──呆然自失のエリゼでも、そこまで命知らずな真似はしないだろう。
思春期の男子に密室に連れ込まれて「いや〜ん」な展開になる──規律ある士官学院だ、ないと信じたい。
この2つの可能性が排除できるなら、差し迫った危機はないのではなかろうか。
そういう風に結論つけたいが、ナギトの心中に生じた不安は消えない。
「なんだ…? なにか…見落としてる可能性が──」
その時、脳裏に閃いたイメージがあった。
「──旧校舎」
ありえない、と断じたい。探索の後、リィンが施錠したのは確認済みだ。万が一にも一般生徒が入らないようにと。
しかし、生じた不安は留まることを知らずに膨れあがっていく。
それは“エリゼは旧校舎に行く”というのが正答だと知っているような。
「くそっ」
旧校舎に走ると、当然のように入口は開いていた。さらに奥へ、走る。エレベーター部屋に入る。
“なぜ”が積み重なる。
なぜここに。なぜエレベーターが。なぜ───
エリゼは、そこにいた。
「ナギト兄様───」
伸ばされた手が救いを求めているように見えて、ナギトも同じように手を伸ばす。
「エリッ────」
届くはずのない距離。エリゼと名前を呼ぶ時間さえ与えられず。エレベーターは地下へエリゼを連れ去っていった。
すぐさま中央まで行き、エレベーターがあった空洞を見つめる。エレベーターの昇降速度は凄まじく、視界には暗闇が映るだけだ。
今、飛び降りたらただではすまない。
普通に考えれば数分後にはエレベーターでエリゼはここまで戻ってくるだろう。
しかし、ここまで不自然な事が積み重なるとその展開も想像し難い。
ひとまずエレベーターが戻るのを待って、エリゼを迎えに行く事にした。エリゼがそれで戻ってくるならそれで良し。
ナギトはARCUSでリィンの番号を呼び出した。
「どうしたナギト、エリゼは」
「旧校舎だ! エリゼは旧校舎に入り込んだ!」
「なに? それは本当か!?」
リィンの声には焦りが滲んでいた。
確かに施錠したはずの旧校舎に、街道にいるのより強力な魔獣が徘徊する旧校舎に、妹が迷い込んだと知れば無理もない。
その時─────
「きゃあああ!」
「──嘘だろ…?」
悲鳴。すなわち危険。
嘘だろ、なんて心にもない言葉だった。
「今の悲鳴は」
「急げ!」
皆まで言うな、とばかりに通話口に叫んで通信を終える。
暗闇を見つめる。エレベーターはきっと第四層だ。
「あー、くそっ!」
今。行かねば。
「肚ぁ括れ、ナギト・シュバルツァー!」
ふるえる膝をぶん殴り、心を奮い立たせる。
次の瞬間、ナギトは空洞に身を投げ出した。
─滞空時間は何秒?
─落下した時の衝撃は?
─エリゼを救えるのか?
─失敗すれば死ぬぞ?
湧いた不安は頭の片隅に追いやる。
落下と同時に、落下と同等の衝撃を叩きつける。きっとそれで、着地はできるはずだ。
だが四層分の落下ダメージと相殺できるだけの衝撃を放つ技など───
「────あれが」
───あった。
初めての実習でブルブランを退かせた戦技。それは八葉に属する剣技ではなく、《剣鬼》から出でた剣技でもなく、ナギトの内から生じたものでもない。
まるっきり他人の剣技。劣化コピー。
あの時も、劣化甚だしい模倣剣技だった。それであの威力だ。今ならもっと。記憶が甦ればもっと。
瞑目。
記憶を想像で補完しろ。強烈な記憶を想起しろ。引き出せ───底を!
風に揺れるアッシュブロンドの髪。
長身を覆う灰色のコート。
携えるは金色の魔剣。
「貴様ではこの《剣帝》に勝つ事はできない」
視線が低い。跪いている。生々しい傷と空気の灼ける匂いすら感じられるようだった。
「何故ならば《剣鬼》よ……貴様の剣は何にも至ってはいないからだ!」
きっとそれが、そのシーンの真実。
《剣鬼》に焼きついた、強烈で鮮烈な敗北の記憶。
これは、《剣鬼》に敗北を与えた彼の代名詞とも言える剣技───
床が見えた。剣を構える。炎が灯った。
「────鬼炎斬!!」
振り抜く。炸裂。着地。
ぶっつけ本番で成功した。俺すげえ。よく飛び降り自殺の真似事して無事で済んだな…と。少しばかし感慨に耽りかけたナギトだったが、飛び降り自殺の真似事をした理由を思い出して視線を走らせた。
旧校舎地下第四層では、開かずの間だったはずの紋章の赤い扉が開かれ、そこから首無しの甲冑が現れていた。
人の数倍はある体躯の甲冑は、それこそ人の大きさほどもある大剣をエリゼに向けて振りかぶっている。
「しっ────!」
雷が落ちる。そのイメージ。
剣鬼七式、外ノ太刀 雷の型・迅雷
ナギトはノルドでの実習を終えてから、雷のように直線を駆けるこの戦技を体得すべく日夜修行に明け暮れた。
完全にものにしたのは自由行動日たる今日だが、よもや当日に活躍の機会が訪れるとは。
雷速の斬撃はそのスピードで力も加算され、振り下ろされた甲冑の一撃を力任せに弾き返した。
「ナギト、兄様……?」
「ふぅっ!間に合ったな。エリゼ、下がって──っておい!」
甲冑の一撃を防げたまでは良かったが、エリゼは緊張のせいか気絶してしまった。
「こりゃまずい」
しかもナギトの背後という最悪の位置取りで。
ナギトの戦闘スタイルはスピードで撹乱し技で翻弄し、勝利を簒奪しにいくもの。
“庇うべきものが背後にいる”というのはナギトにとって最悪の条件であった。 攻撃を受け流すにしても、方向はかなり限定される。
「早く来いよ……リィン」
呟いて、ナギトは太刀を正眼に構えた。
それから数分、ナギトは甲冑の重撃を何とか凌ぎつつあったがそれも限界を迎えた。
大振りの一撃が太刀の刃を押し潰しながら滑る。受け流しは成功したが、返す一撃でナギトの手から太刀は弾き飛ばされてしまった。
「ッ!」
両腕は痺れている──なんてもんじゃなく。骨身に歪みが齎されているとさえ思えるほどのものがナギトには蓄積していた。
甲冑は再び大剣を振り上げた。
ナギトとエリゼを2人まとめて両断するつもりの一撃だ。
振り下ろされる刹那、ナギトの方がはやく動いた。とは言っても甲冑に向かったわけではない。
退いたのだ、エリゼを抱えて。
疾風の歩法で距離を取って、エリゼを床に横たえた。
「……初めからこうすれば良かったのでは?」
ナギトが自らの焦りを自覚するのと同時に、上層に消えたエレベーターが第四層に再び降下してきた。乗員3人を乗せて。その内の1人─リィンは横たわったエリゼを見て───
「エリゼェーーーッ!」
──理性の糸が、切れたように叫んだ。
「シャアアアアアアアッ!」
リィンの姿が変貌した。
艶のある黒髪は刃を思わせる白銀に。落ち着いた雰囲気を纏う黒瞳は血炎を想起させる灼眼に。
凄まじい速度で甲冑に肉薄したリィンは、力任せに太刀を振り抜き、それで甲冑を吹き飛ばした。
「おま、力でって……」
いつものリィンとは隔絶した膂力だった。
「オオオオオオオオオ!」
獣のように雄叫びをあげるとリィンは甲冑に飛び掛かっていく。
その太刀筋にいつもの精彩はなく、しかし力押しで甲冑を圧倒するリィンに言葉も出ない。
これがきっと、リィンが恐れていた“自らに潜む鬼”の正体だ。
なんとなく気づいてはいたが、ここまでの代物というのは………
リィンが甲冑と戦っている間に、ナギトはエレベーターで降りてきた残り2人─クロウとパトリックと共にエリゼを安全な場所に避難させた。
直後、衝突音が響き渡る。リィンの一撃が甲冑を吹き飛ばす。甲冑は壁と激突して動きを停止させた。
それを見届けるとリィンは胸に手を当てて呻いた。そうすると放たれていた赤黒いオーラは鎮まり、髪も目もいつもの色を取り戻す。
「これ以上…呑み込まれてたまるか……」
リィンは自らの力を拒絶していた。荒く息をつくリィンにどう声をかけるべきか逡巡していたナギトは、その後ろで甲冑が再び動き出すのを見た。
「まだ終わってねえぞ!」
「助太刀するぜ、後輩!」
エリゼをパトリックに託し、クロウと共に参戦する。リィンの感謝を受け取り、今度は3人で甲冑と相対した。
腕の痺れは取れていた。いける、という確信と共に甲冑の懐に潜り込む。
「業炎撃!」
叩きつける炎は、先程の“鬼炎斬”には遠く及ばない。しかし甲冑を揺るがす事はできたようで、その隙をクロウが銃撃で、さらなる好機へと変化させる。
名を呼ぶまでもなくリィンは生じた隙に剣撃を叩き込んだ。甲冑から放たれる重々しい雰囲気が揺らぐ。もう少しでも倒せる。
安全に倒すために、甲冑の隙を見極めたい所だが、おそらくリィンはさっきの鬼化の影響で心身が摩耗している。エリゼの事があるおかげでアドレナリンがドパドパ……自覚はないが、決壊してしまえばきっと致命的な隙を晒す事になるだろう。
「クロウ先輩!」
クロウもARCUSを持っていたらしく、戦術リンクで繋がった彼はナギトの意図を瞬時に汲み取った。
「オーケーだ!…ったく、先輩使いが荒い後輩だぜ!」
クロウの意気のいい返事を受け取って、まずナギトが太刀を振るう。自らのエリアだと示すように斬撃を走らせる、孤月一閃。
怯んだ甲冑に、数十発の弾丸が一斉に叩き込まれた。
「決めるぜっ!クロスレイブン!」
クロウのSクラフトが甲冑を貫き、ようやく戦闘も終わりを迎えたのだった。
☆★
その後、Ⅶ組メンバーやサラ、トワにジョルジュといった面子もエレベーターで登場し、エリゼも目覚める。
事情の整理や体調の事も考慮し、今日エリゼは第3学生寮に泊まってもらう事となり──翌日。
トリスタ駅で帝都行きの列車を待つ間、エリゼとⅦ組が別れの挨拶を交わす。
少しばかりの言葉のやり取りをして、ナギトとリィンを除いたメンバーは距離を取った。兄妹の会話をするようにとの気遣いだ。
「その…今回は助けて頂いたようで、ありがとうございました」
改めてエリゼはナギトに頭を垂れた。あの後、礼を言いそびれていたのを思い出したのだ。
「ああ…いや、別にいいさ」
その感謝を特に受け入れる事もなく、拒絶する事もなくナギトは「別にいい」と流した。
その反応に少しだけむっとしたエリゼはしたり顔で、次の言葉を紡いだ。
「今回助けて頂いたので、例の件は水に流す事にします」
「かっ」とナギトは困ったやら呆れたやらの笑みをこぼした。
「あー…いいのかよ。こんなのはノーカンだと…」
「命を助けてもらいましたから」
「兄は妹を助けるもんだからな」
「妹は兄を庇うものですから」
「かっ!」と今度こそナギトは快哉をあげた。その理屈なら借りを返した事実を受け入れるのは吝かではないと。
「何の話だ?」
リィンから聞かれるが、エリゼは目を逸らし、ナギトはニヤついて、
「お前の知らないナイショの話だよ」
と言った。リィンは眉根を寄せるが、そんな事は気にも留めずにナギトは距離を取った。
ここから先はナギトのような兄妹の新参者が口を挟む場面ではない。
それからリィンとエリゼはいくつか言葉を交わして、にこやかに別れを迎えることとなった。
こうして、7月自由行動日とその後日談は終わりを迎えた。
ナギトの胸に、ほんのわずかな違和感を残して。