閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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本物と偽物

 

 

何がとは言わないが、とりあえず地獄だった。

夕食という質素な時間を挟んでまた地獄だった。

地獄が終わったのは22:30それから汗を流してやや固いベッドに横になる23:00。レポートを書く体力はもうなく、泥のように眠りについた。

 

 

そして目覚めたのは5:12。海上要塞中に響き渡る緊急時のブザーが目覚ましとなった。

 

ブザーの後に放送が何かまくし立てるように何か言ったが、昨日集中的にしごきを受けて疲れ果てたナギトの耳には入らない。むしろ深く布団をかぶった。

 

ユーシスから揺らされてようやく意識を覚醒させる。

 

 

「早く起きろ!オルディスでテロが起こった!」

 

 

☆★

 

 

オルディスから海上要塞に届けられた連絡によると、まず5時前に爆発があったらしい。爆弾は線路や公共施設、貴族邸宅などに仕掛けられていたらしく、少ないながらも人的被害は出たようだ。

その後、市街に人形兵器が放たれたれようで、こちらは市内に詰めていた領邦軍が相手をしているが手が足りないらしく、海上要塞に救援要請が来た流れとなる。

 

 

「さて、そろそろオルディスだ。腹を括るが良いⅦ組!」

 

 

B班一行はオルディスに向かうオーレリアの車に同乗させてもらっていた。海上要塞の領邦軍に先発してオルディスに出発したが、領邦軍本隊もすでに出発してオルディスへ向かっているらしい。

 

オルディスに突入した車両を人形兵器が取り囲んだ。小型ならまだしも中型以上の人形兵器を車で突破するのは無茶という事で降りて対応する事になるが……

 

 

「覇王剣!」

 

 

オーレリアの戦技で人形兵器が一掃される。

昨日の“稽古”と銘打った模擬戦では本当に稽古をつけてくれていただけなのだという理解がナギトらを襲った。

 

しかし今はそれが心強く、オーレリアを中心としてB班一行はカイエン公爵家城館に向かった。

 

 

 

「おお、よく来てくれたオーレリア将軍!」

 

 

オーレリア・ルグィンという破格の戦力もあり、一行は公爵家城館に時間をかけずに到着した。

 

城館に入ったオーレリアをカイエン公が諸手を広げて迎え入れる。

その背後には老若男女が所狭しとひしめいている。おそらく避難民たちだろう。

 

 

「カイエン公、状況は?」

 

 

「見ての通りひどい有様だ。今朝5時前に市内各所で爆発があった。今は被害状況の確認と事態の収集に当たらせている。加えてこの城館や教会を臨時の避難所と定めて防衛要員を送ったが……人手はその程度で限界だ。まだ避難できていないであろう市民たちの保護まではできておらぬ」

 

 

オーレリアの問いにカイエン公はすらすらと答えてみせる。この辺はさすが為政者と言うべき把握能力か。

 

 

「線路が破壊されたと聞きましたが?」

 

 

「うむ、今はオルディスに駐屯していたTMPが破壊された箇所や規模を確認しているそうだが……増援は見込めんだろうな」

 

 

「なるほど、承知しました。今しばらくすれば海上要塞の本隊も到着するでしょう。指揮は現場の隊長に一任していますがよろしいですな」

 

 

「ああ、我々が横から指示するよりよほど迅速に動けるだろう」

 

 

カイエン公とオーレリアの会話は早い。B班の面々が口を挟むまでもなく、オーレリアと共に避難できていない市民の救助に向かう事になった。

避難民でごった返す城館ロビーを出る。

 

 

「避難場所になっているのは公爵家城館と七曜教会の聖堂だ。我々の仕事は逃げ遅れた市民たちの避難誘導────む?」

 

 

「オーレリア将軍」

 

 

状況と任務の確認をしているところにカイエン公が現れてオーレリアに声をかける。なにやら言い忘れていた事があるらしく、オーレリアはそちらに行く事になった。

 

 

「先に活動を始めておくが良い、Ⅶ組よ。後で合流しよう」

 

 

オーレリアという強力なリーダーを欠く事となったB班一行だったが、それで闘志が萎びる事はない。

 

 

「将軍がいなくなったが、我らのやる事は変わらぬ」

 

 

「テロという危機はすでに帝都で経験済み……あの時とは状況が違うが……市民の避難、何としても完遂させるぞ!」

 

 

ラウラとユーシスは特にその傾向が高い。“貴族の義務”というやつだろう。B班の皆もそれに続き、やけに熱気っぽくなっている事にナギトは気づいた。

熱くなっているのなら、冷やかすのがナギトの役目だ。これまでも、これからもきっとそうだ。

 

 

「滾んのはいいが、あんま逸るなよ。自分の命を守る事を第一に考えろ。経験があるとは言えテロ……マジで命に関わるからな。お兄さんとの約束だ」

 

 

神妙な顔をしたナギトにB班一堂は浮かされていた熱気に冷や水をかけられた気分になる。つまり冷静になった。

まず「フッ」と笑ったのがユーシス。

 

 

「誰がお兄さんだ……だが…」

 

 

「ああ、それでこそナギトだ」

 

 

ユーシスに続いたのはガイウス。真面目な事を言いつつも、最後にくだらないユーモアを挟むナギトの通常運転。ここ最近は見なくなったものだ。

 

 

「やっぱり!最近のナギトおかしいと思ってたんだよ!」

 

 

「ふふ、ようやく戻りましたね」

 

 

そこにミリアム、エマも続く。どうやら不調で気落ちしていた事で心配をかけていた事実に今更気付かされる。

 

 

「……ああ、やはりそなたはその顔が似合うな」

 

 

最後に、ラウラにそんな事を言われた。

でも、自分がどんな顔をしているかなんてわからない。でもたぶん、こんな一幕すら幸福に感じているのだからきっと────

 

 

「───どんな顔だよ」

 

 

 

───とナギトは柔らかく微笑む。

 

それを見てB班の面々は本当に前までのナギトが戻って来た事を確信した。そしてナギトに倣ってユーモアを匂わせる口調で言った。

 

 

「ならば、アレはナギトに任せてもよさそうだな」

 

 

「そうですね。良い機会です」

 

 

「ああ、ナギトはいつもリィンと同じ班だったからな」

 

 

「アレって何のことー?」

 

 

どうやらナギトとミリアムを除く全員が“アレ”とやらをナギトにやらせたいらしい。ミリアムと同じように「?」としていたら、ラウラはしたり顔で教える。

 

 

「リィンがいつもやるアレだ。アレがなければ始まらないであろ」

 

 

それでナギトはピンときた。ミリアムは未だ「だからなにさー」もぼやいているが、教えるより実際にやってみた方が早い。

 

 

ニヤリ。ナギト・シュバルツァーは口角をわざとらしく歪めた。

 

 

「トールズ士官学院Ⅶ組B班!」

 

 

声を張り上げた。緩んでいた空気がピッと引き締まる。

 

 

「目的は市内に取り残された市民の救助! 気合い入れろよお前らァ!」

 

 

リィンの代役にしては荒っぽく。しかしナギトらしい檄が飛ぶ。

 

 

「応!」と声が重なるのを背中で感じて、さらに笑みを深めるナギト。

 

さあ、行動開始だ。

 

 

 

☆★

 

 

 

オルディスの街を駆け抜け、人形兵器を駆逐し、市民の避難を誘導する。

市街に放たれた人形兵器の数は多い。しかしそのほとんどはラマール領邦軍が相手をしている。ナギトらが矛を交えるのは押し上げられた前線が撃ち漏らした20前後の数だけだ。

 

 

 

「迅雷……!」

 

 

この街区で最後の人形兵器を破壊する。ユーシスとラウラが率先して仮の避難所に隠れた市民たちに安全が確保されたと伝えにいく。

 

その後ろ姿を見守りながらナギトは太刀を納刀する。昨日のオーレリアのしごきのおかげで、何とか迅雷クラスの戦技までは再び使えるようになった。感覚が戻ったわけではないが、これで多少はお兄さん面できる実力を取り戻したわけだ。

 

確認するように右手をにぎにぎしていると「ねえナギト」と声をかけられた。ミリアムだ。

その顔はいつもの童女のそれではなく、《白兎》としてのものだった。

 

 

「このテロの狙いってさー、なんなんだろ?」

 

 

「……さあな」

 

 

誤魔化すように言葉を返したが、ミリアムの呈した疑問はナギトも感じていたものだ。

 

 

「今この帝国でこんな大規模なテロを起こせるのは《帝国解放戦線》くらいだよね。一昨日もナギトが見たって言うし」

 

 

「そうだな」と言って一昨日の出来事を思い返す。昼食後にたまたま戦線の幹部であるスカーレットを発見したナギトはB班の皆とともに後を追ったのだ。慎重にいき過ぎたため追いつけずに見失ってしまったが。

 

 

「アレで俺はてっきり戦線と貴族派に繋がりがあると思ったけど…こんなテロが起こったからには違うのかもな」

 

 

「うーん、わかんないね。地下水道にいたのがテロの下見にしては城館に被害がないのは気になるけど」

 

 

ミリアムはなおも《帝国解放戦線》と貴族派──カイエン公爵家との繋がりを考えている。

 

まあ、いつものように発想を逆転させると、今のナギトのように“戦線はオルディスでもテロを起こしたのだから貴族派と戦線に繋がりはない”と思わせるための仕掛けなのかもしれないが。

 

 

「……さて。一昨日、戦線幹部を見たのは俺だけだし確証にはならない。地下水道の最奥が公爵家城館に繋がっているというのもエマとガイウスの推測に基づいたもの……いずれも戦線と貴族派の繋がりの証拠にはならない」

 

 

と、そこまで言ってナギトは会話が成立している事がそもそもおかしい事に気づいた。

 

「ってかミリアム、お前…記憶あんのか?」

 

船員酒場を出て“ナギトが戦線幹部を見たと言って後をつけて地下水道に入り、その最奥の扉から領邦軍兵士が現れた事を目撃し、兵士らをやり過ごして港湾区に戻った”時点までの記憶はエマの暗示によって封印されているはずだ。

 

だからB班で“地下水道云々〜”という会話が成立するのはナギトとエマの間だけのはずだ。しかしミリアムは当然のように話を振ってきたのだ。

 

 

「ボクにはガーちゃんがついてるから。いいんちょが何かして皆がどうにかなっちゃったのがわかったから話は合わせておいたんだけど」

 

 

「……マジか」

 

 

ミリアムの有能ムーブにナギトは嘆息する。さすがは情報局所属のエージェントと言うべきか。

 

 

「おい、何を話している。先に進むぞ、最後は港湾区だ!」

 

 

どうやら市民の避難誘導を終えたらしいユーシスが、暢気に話していたナギトとミリアムを注意する。次は港湾区だ。

 

 

 

☆★

 

 

港湾区を最後にするようにオルディスを回ったのには理由が2つあった。

ひとつはこのオルディスがバリアハートと同じ“貴族の街”である事だ。ここオルディスにおいて貴族は平民より優先されて、優遇されて当然の位地。このようにテロが起こったとしてもそれは同じで優先的に避難させるべきは貴族だ。そういった配慮がナギトたちにも期待されたのがひとつ。

あとのひとつは、単純に港湾区にある戦力が他の街区の追随を許していないから。早朝にテロが起きた事もあり、今朝に出発するはずだった輸送船の護送船団──言わば用心棒連中が港湾区に集っていたからだ。

 

 

だが……

 

 

「これ、は……」

 

 

ガイウスが呟く。

 

 

「なんという事を……!」

 

 

ユーシスが怒りを露わにする。

港湾区の被害は他の街区の比にならなかった。

B班一行の前に広がる光景は惨状そのもの。

港に面した建物は苛烈な銃撃に晒されたのか内部が見える有様で、そこらじゅうに人形兵器の残骸や人の死体が転がっている。

 

 

いくら戦力があると聞いていたとは言え、後回しにするべきではなかった。そういう後悔が芽生えつつあった。ぎり、と歯噛みする音が聞こえた。

 

 

ぱん、と手を叩いて面々の視線を集めたのはナギト。

 

 

「落ち着け。気持ちはわかる。やれる事をやるぞ」

 

 

心は熱くていい。だが頭まではそうなるな。ナギトは自分にも言い聞かせつつB班一行に冷静を取り戻させる。

 

 

見ると、港湾区に集っていたらしい護衛船団の連中はすでにほとんどが斃れた後らしい。それ以上に転がる人形兵器の残骸が彼らが強者である事を物語っているが、数の暴力には勝てなかったようだ。

すでに領邦軍も到着しているが、やはり数で負けているため前線を押し上げる事はできずにいる。

 

不幸中の幸いなのは、領邦軍を相手にするために人形兵器の多くがナギトらとは街区の反対側に投入されている事だ。

 

人形兵器が蠢く港の間に《帝国解放戦線》のスカーレットと《R》の姿を捉えた一行は手早く打ち合わせると突入する事にした。

 

 

駆け抜ける。会敵する人形兵器を切り伏せ、到達する。

 

 

 

「あらあら、こんなところで会うとはね。Ⅶ組の坊やたち」

 

 

「《帝国解放戦線》幹部スカーレット……!」

 

 

ウェーブがかった髪を振ってスカーレットは歓迎するように声をかけた。応ずるラウラの声は怒気を滲ませている。

 

 

「それに《R》……《剣鬼》と呼んだほうがよろしいか?」

 

 

白髪に鬼面で顔を隠した《R》に対峙するように立ったのはナギト。対して《R》は「フ…」と笑うのみ。

 

 

「何が狙いが知らんが即刻テロを止めてもらおう! すぐに海上要塞の精兵が到着する…諦めて投降するがいい!」

 

 

睨み合いで膠着しかけた状況を嫌ったユーシスがしたのは降伏勧告。しかし、やはりそんな脅しに屈するならテロリストなどやってはいないのだろう。

 

 

「あら怖いわね。海上要塞と言えば名高き《黄金の羅刹》が直接指揮する部隊……とっとと目的を達成して帰らなくちゃ」

 

 

「……ああ、そうだなスカーレット。怖い《羅刹》が来る前に生意気なガキどもを片付けて進もう」

 

 

スカーレットが法剣を構え、《R》は長剣を抜く。周囲には人形兵器が侍る。

 

 

「…ッやるぞ!総員最大限連携して奴らを制圧する!」

 

 

ユーシスの指揮にフォーメーションを取るB班の面々。響く銃声と怒号、悲鳴を合図に戦闘は開始された。

 

 

 

「おおおっ!」

 

「はああっ!」

 

 

吶喊したガイウスとラウラを迎え撃つのはスカーレットの法剣。

 

 

「甘いわ!」

 

 

節ごとに分かれた刀身が鞭のようにしなって迫るガイウスとラウラをまとめて払い、押し返す。

 

 

「ガーちゃん!」

 

「迅雷──!」

 

 

続くのはミリアムとナギト。左右から挟み込むようにしてスカーレットに肉薄する。

 

「俺が右!」

 

「ええ!」

 

 

その連携に対応するのは、やはり連携。ナギトを迎撃する《R》と長剣越しに視線が交わる。一瞬の均衡の後、弾き返される。ミリアムも同様だ。

 

さらに連撃を重ねようとしたB班だったが人形兵器によって邪魔されてしまう。

 

 

「チッ…!」ユーシスが舌打ちする。周囲を見渡すと領邦軍に差し向けられている人形兵器以外のすべてがナギトらを囲むように配置されている。

 

この状況になるのを避けるために一気にスカーレットと《R》を制圧したかったのだが、そう易い相手ではないようだ。

 

スカーレットが艶然に微笑む。嗜虐性を湛えたそれは見る者が見れば悦楽的なのだろうが、ナギトはむしろそういう女は組み伏せてこそと思う人種だ。

そうするためにまずは。

 

 

「まずは数的不利を打ち消すぞ。倒せるやつから倒せ!ここが山だぞ!」

 

 

そう指示したナギトは続けて「ラウラ!」と叫ぶ。呼びかけるより速く動き始めていたラウラはそれでも「任せるがよい!」と言って剣に光を宿した。

 

 

「やらせると思うか?」

 

 

「やらせんだよ!」

 

「俺たちはそのためにいる…!」

 

 

ラウラのSクラフトを阻止しようと動く《R》を止めたのはナギトとガイウス。

ユーシスのSクラフト発動にはスカーレットが詰め寄るがエマとミリアムで阻止する。

 

炸裂した2つのSクラフトは周囲の人形兵器を一掃した。後続に詰められるより速く、この刹那の数的有利でスカーレットと《R》を倒す。その狙いを────

 

 

「ここが山場なのは───」

 

 

「───こちらも同じよ!」

 

 

───通させない、戦線幹部。

 

 

《R》が構える。Sクラフトの気配。受けに回っていたB班の面々で対応できたのはミリアムとナギトだけ。

ミリアムが皆の前に立ってアガートラムでシールドを展開する。ナギトは太刀に緋色を纏わせた。

 

 

「緋空十字斬────やばっ」

 

 

放つ直前、スカーレットもSクラフトの体勢に入る。

十字に放たれた緋空斬は《R》のSクラフトを中断させる。しかしスカーレットのSクラフトはそうではない。

 

 

Sクラフトとその補助に回ったB班の動きが鈍る事がわかっていた《R》は自分のSクラフトをチラつかせる事で意識を誘引した。本命であるスカーレットのSクラフトの発動を阻止させないために。

 

B班の狙いを潰し、己の狙いを通す。《R》の策はまんまと成功した。

スカーレットのSクラフトがナギトたちを打ちのめす。それでB班一行は彼らの前に膝をつく事となった。

 

 

 

「……ふぅ。少しはやるが……この数を相手にしてなお蹂躙できる程の強さではないな」

 

 

「ええ。先月、ガレリア要塞では遅れをとったけど…《紫電》に《剛撃》がいなければこんなものでしょう」

 

 

 

地に膝をつき、肩で息をするナギトらをこき下ろす戦線幹部の2人。言い返してやりたいが、それより今は回復に専念だ。少しでもダメージから回復しろ、呼吸を整えろ。

 

そんな集中は現実逃避だ。あんな事を言いつつもスカーレットと《R》の視線はB班の面々から離れず、後続の人形兵器も詰めていて突破口どころか逃げ道もない有様だ。

 

 

絶体絶命────死が間近にあると理解できる。

 

死?

こんなところで?なぜ?おかしい。ありえない。

ユーシスが、エマが、ガイウスが、ミリアムが、ラウラが、死ぬ?

ありえない。そんな筋書きは許されない。整合しない。観測されたものではない。

 

ならば何のせいだ。

 

ナギト・シュバルツァー()のせいだ。

ナギトという存在があるから。特異点だから。軌跡はなぞられない。

 

 

間違いだ。

こんなものは。

間違いだった。

こんな物語は。

願いなんて抱いたから─────

 

 

 

 

目の前が真っ暗になる。そんな感覚だった。絶望感が芽生えた、その時だった。

 

 

 

「───諦めるにはまだ早かろう。有角の獅子を背負う若者たちよ」

 

 

☆★

 

 

彼女は立っている。今にも崩壊しつつある建物を足場にして、眼下の全てを睥睨している。

 

白を基調とした将校用の制服に紫紺のマントを靡かせて。光を反射する銀の髪が風に揺れて。

そんな風貌でどうして“黄金の”なんて呼ばれるのか。その由縁を、垣間見る。

 

黄金の闘気。金色の王気。第一位を示す黄金こそが彼女に相応しい唯一の在り方だからだ。

 

 

真紅の宝剣が掲げられる。そこに凄まじい闘気が込められた。十字の斬撃が放たれる。ナギトの緋空十字斬などとは比較にならぬ規模のそれは人形兵器の群れを薙ぎ払った。

 

それを見届けるより早く彼女は跳躍した。宝剣アーケディアに先の斬撃を遥かに超える闘気が装填される。

 

 

「── 王技・剣乱舞踏!」

 

 

 

着地と同時に宝剣を地面に突き立てる。その衝撃は大地を伝播して戦場そのものを串刺しにする。無数の剣が視界を埋め尽くしていた人形兵器の悉くを殲滅した。

 

 

「フッ」と不敵に笑って宝剣を肩に担ぐ様はさましく豪傑の在り方だ。

 

 

「オーレリア将軍…」

 

 

ラウラが名前を呼ぶとオーレリアは、まるで周囲の敵など視界に入っていないように無警戒にこちらを向いた。

 

 

「よくぞここまで保ったと褒めるべきか、それとも我がしごきを受けておきながらこの程度かと詰るべきか…いささか悩むところだな」

 

 

やれやれといった体でナギトらに視線を向けるオーレリア。その姿に昨日の地獄を思い出したナギトは「前者で!」と言って立ち上がる。

ナギトに続いてB班の面々も併せて立ち上がった。

 

「フフ……冗談に応じるだけの余力があるなら十分だな」

 

 

「さて」と言ってオーレリアはB班一行を背中にテロリスト──スカーレットと《R》と対峙する。

2人ともオーレリアの王技を避けていたが、その表情は先程までとは打って変わり強張っている。《黄金の羅刹》を、その剣技を目の当たりにしたのだから当然の反応ともとれた。

 

 

「女と人形兵器は私が受け持とう。男の方は任せるぞ。くれぐれも情けない姿を晒すなよ?」

 

 

オーレリアは担当を決めると覇王剣でスカーレットと《R》の間を切り裂く。左右に飛び退いた2人は必然、分断された形となる。

再合流されないためにもB班の全員で《R》の前に立ち塞がった。

 

 

「……さすがは《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンだ。たった1人でこうも戦況を変えてしまうとはな」

 

 

感心したように、あるいは諦めたように《R》はこぼした。

 

 

「海上要塞の部隊も到着したのか…こちらの戦力も失われつつある。……さてさて、困ったものだなこれは」

 

 

「フン…そう思うなら投降したらどうだ?」

 

 

ぼやくように言う《R》にユーシスは再度降伏勧告をするが、それに素直に従うはずがなく。《R》は長剣を構えた。

 

 

「それは止めておこう。国に楯突いた以上、死罪は免れないだろうからな。───しかしお前たち、まさか勝てると思っているのか? ……この《剣鬼》を相手に」

 

 

そして、《R》はナギトたちに思い出させる。

目の前に立っている男こそ《剣鬼》────カルバード共和国にて要人100人斬りを成した達人なのだと。

オーレリアという強力な助っ人が到着した事で勢いづいていたB班の面々に冷酷に突きつける現実。ほんの僅かに皆に緊張と恐怖が芽生える。

 

 

しかし────

 

 

「それさ、嘘だろ」

 

 

──ナギトだけがそうではない。

 

嘘だろ、と短く言った。鬼面に隠れて見えない顔の《R》が眉をひそめたようにすら感じられて、ナギトは続けた。

 

 

「お前が《剣鬼》だって話。嘘だろ。………なんつーか、感じないんだよな。お前から、“凄み”ってやつが」

 

 

ナギトはこれまで特別実習を通して強敵たちと対峙してきた。

ブルブラン。ルーファス・アルバレア。ヴァルター・クロン。ヴィクター・S・アルゼイド。アリアンロード。オーレリア・ルグィン。

彼らは皆、独特の雰囲気があった。対峙しただけでわかる“凄み”が。

 

 

「ほう?」と《R》は反応する。それは余裕を感じさせるものであったが、ナギトはそれに噛み付いたりはしない。

 

 

「《怪盗紳士》、《痩せ狼》、《光の剣匠》、《鋼の聖女》、《紫電》、《黄金の羅刹》────そういった異名を持つ連中は全員、それに自信……いや、自負があった。凄みってのはたぶんそういう所から来てるんだろう」

 

 

これはナギト自身が組み立てた方程式だ。これまでナギトが経験してきた事を骨子として作り上げた論理。

 

 

「だがお前からはそれを感じない。《剣鬼》なんて大層な異名があるにも関わらず、それに対する自負がない。───それが、お前が《剣鬼》でないって証明だ」

 

 

だからこの理論はきっとナギトに近しい感覚の者にしか通用しないのだろう。現に《R》は鼻で笑った。

 

 

「なんだそれは? それってお前の感想だろう?そんなものが俺が《剣鬼》でない証明にはならない」

 

 

全くもって《R》の言う通り。先の仮説はあくまでナギトの経験に基づいた論理から導き出したものに過ぎず、客観的な証拠 / 根拠にはならない。

 

 

「確かにそうだ。これは武や暴で生きる者にしかわからない感覚───一般人には効かない理論だろう。だが、それとは別にもっともらしい事なら言える」

 

 

そうしてナギトはニヤリと笑う。

 

 

「まず聞くが、お前ら《帝国解放戦線》の目的は《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの打倒でいいな?」

 

 

「抹殺、だ」

 

 

「オーケー。じゃあ次……《剣鬼》って何者だ?」

 

 

《剣鬼》とは何者か?

その問いがどんな意味を持つのかわからず、しかし答えたのはラウラだった。

帝都地下で聞いた《剣鬼》の概要を語る。

 

 

「…《剣鬼》とはカルバード共和国で100人斬りをした殺人者の事だろう?」

 

 

「惜しいね。正確には政治家とその秘書100人殺しだ。そして《帝国解放戦線》が目の敵にするギリアス・オズボーンは政治家だ」

 

 

ナギトはそこで一度言葉を切る。B班の皆に考える猶予を与えたのだ。《R》を見るとその口角はわずかに歪んでいる。

 

「まさか」と始めに言ったのはユーシス。さすがこういった事には頭の回転が早い。

 

 

「《剣鬼》の目的が何にせよ、すでに共和国で政治家たちを斬った危険人物として知られている。そんな男が宰相を狙うと公言しているテロ組織に与みしているとなれば……当然、政治家として動き難くなる」

 

 

果たしてユーシスが導いた答えはナギトと同一のものだった。補足するようにナギトは口を開く。

 

 

「その通り。《剣鬼》を警戒して表舞台に出る数が減れば求心力は落ち込み、逆に臆してないアピールで表舞台に立つ機会が増えれば暗殺のチャンスもその分増える。……どちらでもオズボーンの敵対派閥からすれば得がある」

 

 

貴族派にとっても《帝国解放戦線》にとっても《剣鬼》の存在はありがたく、政治家にとってはこの上ない恐怖だ。

「つまり?」と先を促したのは意外にも《R》だった。

 

 

「つまりお前ら《帝国解放戦線》は宿敵ギリアス・オズボーンを牽制するため《剣鬼》というネームバリューを使ったわけだ。……悲しい事に、未だその効果はないようだがね」

 

 

これがナギトの導き出した、一般人にも通用するであろう理論だ。証拠ではないが、もっともらしい仮説と言える。

 

そう言ったナギトの眼光に貫かれ、《R》を声も出さずに笑うと、顔面上部を隠していた黒い鬼面を取り外した。優男の風貌が明らかになる。

 

 

「正解だ。さすがは本物といったところか。では改めて。《帝国解放戦線》幹部《R》───リヴァルだ」

 

 

《R》……リヴァルは鬼面を放り捨てて名乗り上げる。その姿からはやはり威圧感が放たれたりはしないが、どこか余裕を感じさせてそれが不気味だった。

その風貌に、誰かを思い出しそうになる。苦い記憶が蘇りそうになってナギトはかぶりを振って幻想をかき消した。

 

リヴァルはその余裕のある雰囲気のまま「いつから?」とナギトに尋ねた。リヴァルが《剣鬼》でないと勘づいた時期を聞いているのだ。

 

 

「……俺は記憶喪失だけど、そうなる以前の《剣鬼》としての記憶もポツポツと思い出してる。その中で自分が《剣鬼》と呼ばれている事もあったし、さっき言ったように《剣鬼》の名前が政治家に効くって理屈も積み重ねた。……だが、確信したのは今しがた…リヴァル、対峙したお前から凄みを感じなかったからだよ」

 

 

しかしナギトはすでに答えを言っている。

記憶の中で《剣鬼》と呼ばれる自分───そのネームバリューを使って自分の価値を上げたいだけかもしれない。

《剣鬼》の名前が政治家への牽制になる理屈───《剣鬼》の目的が国政を乱す事なら《帝国解放戦線》に与しても不思議ではない。

 

そういった思考ではなく、ナギト自身が肌で感じたもの。それが確信に至る道筋であった。

つくづく自分が感覚派であると思う。オーレリアの言った通りだ。しかし今はそれらの感覚を言語化できている。

 

「なるほどな」と未だ余裕を崩さないリヴァルに対して、ナギトもいい加減やり返してやるタイミングを悟った。

 

 

「でだ、リヴァル………お前、勝てると思ってんのか、この《剣鬼》を相手に?」

 

 

太刀の峰を肩に担いで、余裕と威圧を見せつけるナギト。そのセリフは先のリヴァルのそれをなぞったものであった。

それにはリヴァルは「フフ」と笑い、腰の後ろに手を伸ばす。そこから出てきたのは拳銃だった。リヴァルは長剣を右手に、拳銃を左手に構える。その様子はさっきの長剣ひとつの時より様になっていて。

 

 

「《剣鬼》を名乗る以上、剣に固執した戦い方をしてきたが……俺の本来のスタイルはこれだ。それにな…確かに俺は《剣鬼》の偽物だが、偽物だからと言って本物に劣る道理なんてない」

 

 

偽物が本物に劣る道理はない。

それはナギトが好む言い回しで、だから掛け値なしに「はっ!」と快哉した。

 

 

「いい啖呵じゃんかよ!じゃあいくぜ──偽物!」

 

 

リヴァルに太刀の鋒を向けるナギト。それに続くようにB班の仲間たちも声を上げる。

リヴァルも決意したように、長剣と拳銃を掲げた。

 

 

「───来い、本物っ!」

 

 

 

 

《剣鬼》だった男たちはこうして刃を交えた。

 

 

 

ナギトは昨日のオーレリアのしごきにより、術理の言語化ができるようになった。未だ言語化できないままの奥義級の戦技もあるが、術理が言語化できた事によって、技についてより深く理解が及び、その応用性はかつてを凌ぐほどとなっていた。

 

 

「──幻影疾風」

 

 

緩急をつけた疾風のステップで相手を欺きつつ斬り走り抜ける。

それはリヴァルに太刀傷をつけるが、ナギトの姿を追った銃口を避けたがために浅い。

 

追撃にガイウスとミリアムが迫る。リヴァルはまずガイウスの槍を受け流すと、それをアガートラムにぶつけて動きを阻害。続けて迫るユーシスとエマのアーツ。しかし左右から放たれたそれはあくまで助攻。本命は正面から肉薄するラウラの洸剣。

 

 

「──ッ黒影零嵐」

 

 

長剣から放たれた風圧は迫るアーツの威力を減衰し、奥義を発動しつつあったラウラの行動を妨害する。

 

リヴァルは前後左右に挟まれた形となったが、むしろ好都合というように長剣と拳銃に黒い闘気を纏わせた。

 

 

「──黒影剣鬼円斬!」

 

 

円形に振り巻かれた剣撃と銃撃はB班の面々を弾き飛ばす。

B班の面々が態勢を立て直す、一瞬の隙。リヴァルはさらに深く、剣に闘気を集約させた。Sクラフト───先刻スカーレットと共に戦っていた時より数段速く準備が整い、それは放たれた。

 

 

「──黒影刻穢!」

 

 

扇状に広がった黒い斬撃はナギトらを打ちのめす。元は昨日の特訓で疲れ果てていた所を叩き起こされ、市街の人形兵器を掃討しつつ進み、スカーレットとリヴァルの2人にはやられた。

オーレリアが現れた事で士気は上がったが、体力が限界である事には間違いない。

 

リヴァルの必殺の技を受けたのはナギトとガイウス、ミリアムにラウラの4人だ。ユーシスとエマは後方でアーツを撃っていたためリヴァルの戦技の範囲外だった。

 

立ち上がる、手足に力が入らない。

 

リヴァルを見ると、その左手の銃口がナギトに向けられている事に気づいた。

その目にはやはり余裕があって─────、?

 

 

ナギトはそこで、抱いた違和感を追求する事にした。立ち上がる体力を回復するための時間稼ぎに舌先三寸を回す。

 

 

「……なるほど、なるほど。さすが…言うだけはある強さだなリヴァル」

 

 

しかし未だリヴァルからは威圧感というものを感じない。闘気の総量云々という話ではなく、強者が持つ独特の雰囲気がないのだ。

 

 

「それ……余裕かと思ってたけど違うな。諦観…でもない。虚無、虚偽……」

 

 

リヴァルの拳銃と視線はナギトを捉えて離さない。しかしその引き金は未だ引かれない。

 

 

「いや───逆だな。偽りだから虚ろなのか」

 

 

“虚偽”と言って、ピンと来た。あるいはこの表現も近いだけかもしれないが、あながち的外れというわけでもないはずだ。

その証拠に、リヴァルの銃口は下げられた。

 

 

「…虚ろか、俺は」

 

 

その答えを、リヴァル自身も求めているようで。ナギトは「ああ」と肯定する。

 

 

「どこか嘘クセーんだよな。何か……、他の戦線メンバーにあって、リヴァル……お前にないものが…」

 

 

憤怒。憎悪。狂気。決意………否、否、否、否。それらが不足しているわけではない。

 

 

「お前は、どこかで、自分の正しさを履き違えている………のか?」

 

 

違う。近いが、違う。

ナギトは言いながら思ったが、受け取ったリヴァルは眉根を寄せた。

 

 

「正しさ…俺の正義……鉄血への復讐………それは────」

 

 

リヴァルは思考に飲み込まれつつあった自分を、かぶりを振って追い払う。

 

 

「繰言はここまでだ。ナギト・シュバルツァー……立て、決着をつけるぞ」

 

 

「もうちょい時間稼がせてくれよな」とぼやきながらもナギトは立ち上がって得物を構える。

 

ラウラも、ガイウスもミリアムも続く。ユーシスとエマも決意を新たに武器を構えた。

 

 

ナギトは瞑目して取れる手段を決定する。ナギトがこれまで得てきた絶招は、“自失無我”を除き基本的にナギトの意志ありきのものだ。つまり、奥義級の感覚を失った今では発動した所で宝の持ち腐れ。

 

しかし、ラウラとヴィクターの言葉でナギトが自らの《剣鬼》を受け入れてから体得したアレは少しだけ毛色が違う。

アレはナギトがかつて《剣鬼》と呼ばれた頃の力を取り戻すもの。今のナギトの意志ありきである点は“夢我”と変わりないが、力を取り戻すという一点においては今現在も使用可能だ。

奥義級の感覚は失われたが、《剣鬼》時の闘気の総量を運用できるようになる。

 

要は───

 

 

「──鬼気解放!」

 

 

───世界級の剣客の気力リソースを使い放題というわけだ。

 

 

ぶわり、とナギトの肉体から緋色のオーラが湧き出した。文字通りそれはナギトの身体に収まり切らぬ闘気であり、可視化するほど濃密とは言えど漏れ出た以上は闘気のロスである。

しかし、それを感じさせないほどのものがナギトにはあった。

まるで波濤のように周囲を席巻する緋い闘気は、汲めども汲めども尽きぬ井戸のようで。

 

 

ごくりと生唾を飲むのは対峙しているリヴァルだけではない。肩を並べる級友たちすら首元に刃を突きつけられている幻視を覚えるほどの殺気を秘めている。

 

 

「援護する…全力でぶつかるがいい!」

 

 

しかしそれでも声をかけるのが仲間というもの。ユーシスのそれを皮切りに皆がナギトを応援する。

 

 

「そうだ!やっちゃえナギトー!」

 

 

「後ろは俺たちに任せろ!」

 

 

「お願いします、ナギトさん!」

 

 

ミリアムが、ガイウスが、エマが。垂れ流しの鬼気に飲まれつつあったとしても、声をあげてナギトの背を支えてくれている。

 

そして、ラウラが。

 

 

「格好良いところを見せてくれ、ナギト」

 

 

 

なんという殺し文句だろうか。そんな事を言われてしまっては、ばっちり決めるしかあるまい。

 

ナギトの太刀に緋色のオーラが凝縮される。それはこれまでスピードとテクニックで相手を翻弄してきたナギトが行う力押しの象徴のように感じられた。

同じようにリヴァルの長剣にも黒き闘気が集約された。一瞬速く、リヴァルの奥義が放たれる。

 

 

「黒影刻穢!」

 

 

放たれた漆黒の斬撃がナギトに肉薄する。

 

納刀。

 

 

「緋剣──」

 

 

闇を孕む斬撃がナギトに到達する、刹那。

 

 

抜刀。

 

 

「──神威残月」

 

 

神速の斬撃が、迫る漆黒を斬り裂き霧散させて。

リヴァルを直撃した。

 

長剣と拳銃をクロスして受け止めるが、元よりナギトのSクラフトである“神威残月”に《剣鬼》当時の剣圧を上乗せしたのだ、止められるはずもなく、リヴァルは弾き飛ばされて港から海に消えた。

 

 

 

それと時を同じくしてオーレリアが受け持っていた相手であるスカーレットが吹き飛ばされるようにして港に着地する。

 

その表情には苦悶があったが、あくまで言動はそのままだ。

 

 

「あらあら、リヴァルもやられちゃったみたいね」

 

 

リヴァルの沈んだ水面を見つめるスカーレットに宝剣をかついだオーレリアが悠々と近づいた。

 

 

「そなたもそうしてみせようか?…よくやったⅦ組にナギト・シュバルツァー。今度は褒めてやるぞ」

 

 

そう言うオーレリアの姿は傷ひとつなく、相手にしていた人形兵器はその背後に無数の廃棄物として転がっている。

 

冗談っぽく笑うオーレリアに戦慄しつつもナギトも追従して「はは」と笑う事しかできない。

 

そんな時、水面から手が伸びて、スカーレットはそれを掴んで引き上げた。

 

 

「……勝手に、殺すな…ゲホッ」

 

 

「生きてたのね、さすがだわ」

 

 

浮き上がってきたのはリヴァルだった。スカーレットは水を吐き出すリヴァルを背に指を鳴らす。

 

 

「予定とは少し違うけど…ここでお別れよ。Ⅶ組の坊やたちにオーレリア将軍」

 

 

先程リヴァルのように水面から浮上する影が多数。スカーレットらを庇うように囲んだそれは人形兵器だ。

 

 

「まだ隠していたのか!」

 

「フン…用心深い事だ」

 

ラウラとユーシスが限界を超えて、新たな敵に武器を向ける。

 

 

「だが…」

 

「ええ、こちらにはオーレリア将軍がいます」

 

 

ガイウスとエマも同じように、それぞれの得物を構えた。

 

 

「うーん、これは……」

 

ミリアムは憂いの声を漏らす。その視線は、港湾区で唯一無事だった船舶に向けられていた。

 

 

「また会いましょう、さよなら」

 

「さらばだ、Ⅶ組…《剣鬼》よ」

 

 

スカーレットとリヴァルは船に乗り込むとそれを発進させる。人形兵器を壁にして退却するつもりだ。

B班の面々やオーレリア、領邦軍が協力して人形兵器を全滅させた頃にはすでに戦線幹部を乗せた船は沖合に到達していた。

 

 

 

船のない現状では追いつく事もできない────そう思った時だった。

 

戦線幹部を乗せた船が激しく炎上したかと思うと、そのまま爆発したのだ。

 

 

☆★

 

 

数日後─────

 

トリスタに戻ったナギトらに調査報告が届く。オルディス襲撃事件の関係者としてカイエン公がそうするよう取り計らったらしい。

 

オルディスの沖合で戦線幹部を乗せた船が炎上、爆発した件に関しては原因不明。現在調査中ではあるが、マシントラブルという線が濃厚とのこと。

そして、爆散した船に乗っていた《帝国解放戦線》幹部のスカーレットとリヴァルは死体があがったと報告された。

 

ひとまずこれで報告は終わりだった。事件解決に尽力した礼を添えて、報告員はトリスタから去っていく。

 

 

 

同時期にリィンらA班の実習地だった鋼都ルーレでも《帝国解放戦線》絡みで一悶着あったそうで、オルディス襲撃はその陽動であるというのが双方の事件を総括した見解となった。

加えてルーレでの事件では戦線幹部《V》──ヴァルカンと《C》を乗せた飛空艇が何者かにより撃墜され、先月クロスベルで《G》──ギデオンが戦死した事もあり、オルディスの件と合わせて戦線幹部は全滅した事になる。

 

構成員は残っているだろうが幹部が死亡した事で《帝国解放戦線》は事実上壊滅した。

 

 

希望と、安堵と、ひとかけらの憂いを残して、6度目にして締め括りの特別実習は終わりを告げたのだった。

 

 

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