閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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“通じない”こと

 

 

オルディスでの特別実習が終わってからまず大変だったのは、エマの暗示で実習初日の記憶を封印されていたB班の追及を躱す事だった。

当然のように影響はエマにまで波及したが、ナギトとしては好都合───計画通り。

 

再びエマの暗示により、今度は“忘れていた事実を忘れて”もらった。エマ曰く暗示の重ねがけのようなもののためひょんな事で解けてしまう危険性があるらしいが、ある程度時間が稼げればそれでいいのだ。

ナギトらB班が遭遇したオルディスのテロ、リィンらA班が遭遇したルーレのテロ。双方の作戦で《帝国解放戦線》は幹部を失い事実上壊滅した。

だから時間が稼げれば“そんな前の話をしてどうするよ”と言えるのだ。

また暗示の件でつっつかれるだろうが……今から言い訳を考えておくべきか。あるいは素直に謝った方が効くだろうか。

どちらにせよまたエマを巻き込むだろうため、今から打ち合わせでもしておくのが良いか。

 

そうした事がありつつも、ひとまず日常は戻ってきた。

 

 

そして今。

 

 

☆★

 

 

 

「───以上の功により、トールズ士官学院Ⅶ組にはユミルへの湯治に招待する」

 

 

Ⅶ組の面々はバルフレイム宮に招かれていた。理由は前回の実習でテロに狙われたガレリア要塞列車砲発射の阻止と今回の実習でルーレのザクセン鉄鉱山でのテロの壊滅の功績を讃えてのもの。

 

ガレリア要塞の列車砲は属州であるクロスベル自治州に向けられており、当時クロスベルでは通商会議のためゼムリア大陸西側諸国のVIPが集合していた。そこに自国の問題で戦術級兵器が打ち込まれてしまえば、エレボニア帝国は国際的に非難される……なんてレベルが可愛く思える事態になっていただろう。

ルーレ、ザクセン鉄鉱山でのテロの詳細は知らないナギトだったが、ザクセン鉄鉱山はログナー侯爵領内にありながら皇族の所有地だ。そこでのテロを解決したのだから皇族から感謝されるのが筋なのは間違いない。

 

そのどちらにも参戦していないナギトは肩身狭い思いをしているわけだが、そんな事はおくびにも出さずに皇帝の前で跪いているのだから、面の皮の厚さはすでに一人前だ。

 

ちなみにオルディスでのテロ解決には一役買ったナギトだが、オルディスはカイエン公爵家の直轄地であるため皇族からの感謝は言葉だけで形は伴わない。

 

 

 

皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世が座る玉座の前で跪くⅦ組一行と、テロ解決に尽力した者たち。事のあらましと功績を評し、感謝を述べたのは宰相オズボーンだ。

テロ解決感謝の印に皇族の金で温泉郷と名高きユミルへ湯治に行ける事となった。ナギトとリィンには思わぬ帰郷となる。

 

 

その後、晩餐会があるという事でⅦ組と協力者らも招かれる運びとなったが。

ユーゲントの前で立ち上がったⅦ組一行を尻目にオズボーンが切り出した。

 

 

 

「そういえば先月はオルディスでもテロがあったとか。ルーレの本命はザクセン鉄鉱山で市街の被害は重大ではないと聞き及んでいますが、オルディスは市街地の各所に大きな被害が出たそうですな?」

 

 

先にも触れた、オルディスでのテロにオズボーンが言及した。

 

 

「さすが宰相殿はお耳が早い。その通りで、今は市街の復旧に尽力しているところです。まったくテロには困ったものですな。壊れたものをなおすのには時間と費用がかかる。そして人の命、心はその最たるものです。いやはや…大した痛手をオルディスは負いました」

 

 

オルディスの惨状をカイエン公は吐き出した。

実際に目にしたナギトはもっと言葉を装飾していいのでは、と感じたが黙っているだけだ。

 

 

「ほう?……それにしては被害の出方に偏りがあるようですな。爆発が襲ったのはこの帝都とオルディスを結ぶ主要線路、そして中立派の貴族邸宅…… いわゆる貴族派に属する者たちの財産には大した損害は与えられていないでしょう」

 

 

しかし、沈黙を決め込んだナギトであっても─その他の面子もそうだが─オズボーンの言葉には思わず反応してしまう。

それはオルディスでのテロが自作自演であった可能性を示唆───否、露骨に自作自演であったと、この場の全員に言い聞かせているのだ。

 

 

「それはまったくの偶然です宰相。……───いや、必然かもしれませんな? どうやら我が海都を襲ったのは《帝国解放戦線》なる輩。彼らは……オズボーン宰相、あなたを標的にしてると言うではないか。ならばあなたに繋がりのある物を破壊しようと思うのは道理」

 

 

しかしカイエン公もさすがに老獪。追及を逸らし、その矛先は戦線の狙いであったオズボーンに向けた。

 

 

「私の本拠地であるこの帝都から遠く離れたオルディスの地で? フフ─────」

 

 

まるで事前に打ち合わせをしていたかのような2人の言い争いは、

 

 

「そこまでにせよ、2人とも。此度は祝いと感謝の場だ」

 

 

しかし皇帝の仲裁で終息した。

《鉄血宰相》と呼ばれる怪物、ギリアス・オズボーン。

そのオズボーンと渡り合う四大名門筆頭クロワール・ド・カイエン。

その2人の論争は国家の頂点権力者によって諌められる。

 

どこか諦めたような目をしている皇帝ユーゲントの権威を振りかざすだけのそれに、面白い見せ物を止められた気分になったナギトは露骨に白けた顔をした。

 

 

「フフ、失礼しました」

 

「しかし陛下、これも帝国の現状を若人たちに知ってもらう機会でしたゆえ」

 

 

オズボーンもカイエン公もすんなりと引き下がり、場の雰囲気は緊張から解き放たれた。

 

それから少し時間が経過して、バルフレイム宮、翡翠庭園にて晩餐会が開催された。

 

 

☆★

 

 

華やかな翡翠庭園の一角で、グラスを揺らしながら「それにしても」と切り出したのはユーシスだった。

 

 

「意外だったな、愉快な貴様の事だ…あちこちに顔を出しに行くものかと思っていたが」

 

 

その言葉はナギトに向けられたものだ。ユーシスはナギトの性格から勘案して、庭園の端っこで素直にドリンクを飲んでるのをからかっているのだ。冗談半分、本気半分だろうが。横にいたエマがくすりと笑う。

 

ナギトはわざとらしく眉根を寄せて

 

 

「言っとくけど俺、社交性低いからね。リィンみたいに恐れ知らずでもないし」

 

 

リィンはいつものように方々を歩き回り挨拶している。さすがに直接皇帝や宰相、四大名門やらには突撃していないみたいだが、特別実習などで知り合った著名人らとも話し合っているようだ。

 

ユーシスの冗談に乗っかって言ったナギトのセリフは話していた2人の笑みを引き出し、調子に乗ったナギトは続ける。

 

 

「嘘じゃねーぞ、最初の特別オリエンテーリングの時だって緊張を紛らわすためにわざと馬鹿やったしな。俺ってば内弁慶なのよ」

 

 

「お前は何を言っている」

 

 

ユーシスのツッコミにエマがまた笑って「そうですよ」と追従した。

 

そして。

 

 

「それにその、ウチベンケー…ですか? ナギトさんってたまに知らない言葉を使いますよね」

 

 

“内弁慶”とは内部では強がっているが外に出ると意気地がない事だ。

エマがそんな事も知らないとは───などとは思わない。

 

 

「ああ、そっか…そうだよな。次回からは気をつけるんで今回は勘弁してくださいっ!」

 

 

考えてみれば、こう言った言葉が通じない感覚は前にもあった。

大仰に頭を下げて深掘りを避ける。

言葉が通じない事実をナギトはとてもすんなりと受け入れていた。気持ちが悪い。いつぞやの“確信”以来の気味の悪さだ。

 

その“確信”もオルディスでの実習では一切顔を出す事はなかった。ああいう時こそ役立って欲しいものなのだが。

 

 

 

────?

 

ふと、芽生えた違和感。

オルディスでの実習? 実習はルーレで……いや、違う。ナギト・シュバルツァーが行ったのはオルディスだ。

しかし、ルーレに実習に行った記憶がある。違う──それはナギトの記憶ではない。ならば誰の記憶───?

 

 

「すまん、ドリンク注いでくるわ」

 

 

ナギトはグラスの残りを一気に呷るとユーシスとエマに告げてテーブルを離れる。

 

少しでも考えを整理する時間が───否、思考を捨てる時間が欲しかった。

 

 

 

空のグラスにドリンクを注ぐ。もちろんノンアルコールだ。少しだけアルコールに興味をそそられはしたが、今はトールズの制服を着ているため自重した。

クロウなどは露骨に酒を飲みたがっているがサラが止めている。自他共に酒好きを認めるサラもアルコールを控えているのだから説得力もあるというもの。それだけここが油断ならない場という事なのだろう。

 

 

「ふぅ」とため息をついて再びグラスを煽った。

 

高級そうな瓶を鷲掴みにしてグラスにドパドパとドリンクを注ぎ直す。

 

 

「やけ酒かね?」

 

 

話しかけられて振り返る。

 

 

「いえいえ、緊張しているもので…喉が渇くんです」

 

 

「フフ…そういうものかね。オルディスの実習ぶりだねナギトくん。息災そうでなによりだ」

 

 

「恐縮です、カイエン公爵閣下」

 

 

ナギトに声をかけたのはカイエン公だった。この晩餐会でもトップクラスの重鎮だ。ナギトも態度には表さないが、意識 / 思考のレベルをよそ行きに切り替えた。

 

 

「実習の時はすまなかったね、テロに巻き込んでしまって」

 

 

「いえ……、ご愁傷様でした」

 

 

「そう言ってくれると助かるよ。……まったく、宰相殿には困ったものだ。そうは思わないかね?あのテロを私の自作自演などとは」

 

 

「おっしゃる通りです」

 

 

などと言いつつナギトはオズボーンの意見にも一定の理解はあった。

オルディスの被害分布や公爵家城館と繋がる地下水道に《帝国解放戦線》幹部が入る場面を目撃した事など、腑に落ちない事はある。

 

しかし、あの現場を知っているからこそ言えるのだが、オルディスの惨状は惨憺たるものだった。もしあのテロを自身と《帝国解放戦線》の繋がりを否定するためのものだったとしたら、割に合わない。テロを防げなかったという点において求心力の低下は免れないだろう。テロの最中は城館を開放するなどして避難民を受け入れていたが……大きな目で見れば、皇帝から賜った領地の守護をできていないのだから総合評価はマイナスだろう。

 

 

「ところでナギトくん、卒業後の進路は決まっているのかね?」

 

 

ナギトがそう結論したところでカイエン公は話題を転換した。何となく意図は察せたものの「いえ」とだけ答える。

 

 

「ならば我が領邦軍に所属するのはどうかね? 実習でのテロ撃退の実績もあるし、オーレリア将軍も喜ぶ事だろう。佐官クラスの席を用意しよう」

 

 

士官学院を卒業すれば尉官クラスでの採用になるのが通例だが、佐官クラスとなるとさすがに前例は少ないはずだ。カイエン公も今のうちにナギトを懐柔しようとリップサービス多目にしているのだろう。

そう理解したナギトは「ははは」と笑って続けた。

 

「それはそれは、なんとも大した話です。そう求められるのも悪い気はしませんね。進路のひとつとして検討させていただきます」

 

 

とりあえず社交辞令で返答。「よろしく頼むよ」とカイエン公は別れを告げて踵を返した。別の場所へ行くようだ。

 

 

 

その後、ハイアームズ侯爵からその息子であるパトリックとの付き合いを今後も頼まれたり、オリヴァルト皇子率いる皇太子、皇女と談笑する機会などがあったりしたが、特に大過なく晩餐会は終わりを迎えた。

 

 

そして数日後、皇族からの礼──ユミルへの小旅行が幕を開けたのだった。




なんかもっと色々書くつもりだったけど割愛!

黎の軌跡Ⅱをプレイして、こんなとこで足踏みしてる場合じゃねぇ!ってなりました。
黎の軌跡Ⅱめちゃんこおもろかったです。感想を書き殴りたいですが一言でも話すとネタバレになるので自粛。アプデを楽しみに待ちます。
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