閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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改稿前のものを投稿するという痛恨のミスを犯した作者です。どうかお許しください。
しかし大枠に変化はなく、流れが少々違う程度です。


追憶 〜煌都、暗殺者2人〜

 

 

 

 

「まさか、伝説の《(イン)》殿とこうして肩を並べて歩く事になろうとは」

 


《剣鬼》がそう言うと《銀》も同じように笑う。

 


「ふふ……私も今、共和国で話題の《剣鬼》殿と目的を同じにしてるとは思わなんだ」

 

 

 


どうやら同じ事を考えていたらしい。

 

片や《剣鬼》。

片や《銀》。

 

今やカルバード共和国の裏側で最もホットな話題として知られる正体不明の剣客と、東方人街でまことしやかに囁かれる不老不死とも称される伝説の人物。

 


「……それで、救出対象は《銀》殿の娘さんだったかな」

 

 

「否。その友人…時折遊ぶ子供らよ。人攫いか……趣味の悪い教団の残党でなければ良いのだが」

 

 

横を歩く男のフードと覆面に隠れた顔をチラと見やる。

 

その人物こそは《銀》───共和国における伝説の凶手だ。

 


なぜ《剣鬼》が共和国に生きる伝説と共に歩いているのかは理由がある。

事の起こりは数時間前だった。

 

 

 

☆★

 

 


《剣鬼》は準遊撃士から正遊撃士に昇格するために共和国中の遊撃士協会支部を巡る必要があり、現在は煌都ラングポートで遊撃士の活動をしていた。

 

その日は依頼の報告を終えて、二階で一息ついていたところで、支部の入口の扉が勢い良く開かれた音が聞こえた。

やけに慌てた依頼人だと思いながら二階の階段から一階を覗くと数人の子供が受付に依頼をしている様子だった。

聞こえた限り、かなり慌てており要領を得ない。

 

 

子供の一人が階段から様子を見ていた《剣鬼》に気づく。

 


「遊撃士さん!」

 


「あっ、カタナの兄ちゃん!」

 

 

それに続いて子供たちは続々と《剣鬼》に気づき、子供たちは受付から《剣鬼》に詰め寄った。

 

 

「何があったのかな?」

 

 


子供たちの余裕のない行動から、よほどの事が起きたのかと思いつつ、《剣鬼》は努めて冷静に訊く。

 

 

「あのね、リーシャちゃんが誘拐されちゃったの!」

 

「ちがう!誘拐されたのは別の子!リーシャちゃんはそれを追いかけたの!」

 

 

子供たちの話を整理すると、かくれんぼをして遊んでいる最中に、ひとりがいなくなった事が発覚。捜索する間に何人も消えていき、ついには誘拐の現場を目撃する。


その場はお姉ちゃん格であったリーシャが誘拐犯を撃退して事なき得たが、それ以前に姿が消えた子供は戻らず、リーシャが単独で捜索に出たという。


残された子供たちがこぞって遊撃士協会支部に駆け込んできたというわけだ。

 


《剣鬼》はまず子供たちの目撃情報を聞き、リーシャの捜索を開始。

「あっちに走っていった」と子供が指したのは、港に繋がる道だった。

 


港には倉庫区画がある。人や物を隠すにはうってつけだ。
港という事実に《剣鬼》は冷や汗を流す思いだった。港という袋小路に立て籠もっている以上、陸路での逃走は難しいだろう。ならば、海路で逃げるつもりか。すでに逃走されている可能性もあった。

 

《剣鬼》は港に到着すると、周囲の気配を探り始める。より集中するべく、目を閉じようとした瞬間、視界の端を黒い影が横切った。
構わず目を瞑ろうとするが、本能が警鐘を鳴らす。

 

 

 


───危険。

 

 


共和国首都での議員暗殺の仕事をしていたからこそ、それを直感できた。

 

 

 

 

───後ろから首。

 

 

 

 


太刀に手をかけるのと同時に振り返りつつ防御の構え。


鉄と鉄との衝突音が響き、《剣鬼》は与えられた衝撃に後ずさりをした。

 

 

「ほう、我が一撃を防ぐか……」

 

 

眼前にいたのは、まさしく影と呼ぶべき存在。
目の前にいるのに気配を感じない。
すぐそこにいるのに何の音も発さない。
視界に捉えているはずなのに存在が揺らいでいる。

 


認識する事が困難。

漆黒のローブに身を包むそいつは、一流を越えた所にいる暗殺者だ。

というのに、その手にある武器は大剣だった。
およそ暗殺者には似つかない得物。
なのにどうして、勝つビジョンが見えないのか。

 

 

《剣鬼》は冷や汗を垂らす。
開けた場所で、ヨーイドンで戦えばおそらく勝てる。
しかし、この倉庫区画という遮蔽物のある場所で気配を漏らさないこいつと戦ったらどうなるか。

考えるだに恐ろしい想像を振り払い、《剣鬼》は努めて冷静に太刀を構える。

 

 


「どちら様ですかね?命を狙われる覚えはないつもりですが」

 

 

議員暗殺の件は問題ないはず。隠蔽はできているし、今の議会はもうロックスミス大統領の指揮下にある。《剣鬼》を狙う輩はいないはずだし、暗殺リストに載らないような三下議員が、眼前にいる凄腕暗殺者を雇えるとは思えない。

 

 

「その胸のバッジは………なるほど、そういう事か」

 

 


《剣鬼》の胸に光る遊撃士の証明を見ると黒衣の暗殺者は大剣を納刀し、低頭した。

 

 


「申し訳ない。どうやら私は勘違いしていたようだ。我が名は《銀》。攫われた子ら取り戻しにここにやって来た者だ」

 

 

──《銀》

その名は共和国に来て日が浅い《剣鬼》ですら知っていた。カルバード共和国における伝説の凶手。曰く、その身は不死身であるとか。

 

 

その《銀》が攫われた子供たちを取り戻しに来た、と。
何故《銀》がこんな案件に首を突っ込んでいるのか推測する。攫われた子供たちの中に《銀》の子供でも混じっているのだろうか。

確かにそれなら、焦って《剣鬼》に攻撃したのも納得できる。

 

 


「私は子供らに依頼されて、誘拐された人たちを救出に向かっている遊撃士です」

 

 


次いで名を告げようとするが、それは《銀》に止められる。

 

 

「いや、その得物と直前とは言え私の気配に気づく実力、その身のこなしから、今話題の《剣鬼》殿と推測するが如何に?」

 

 

☆★

 

 


こうして、《剣鬼》と《銀》は知り合った。
現在、共和国で名の有る暗殺者2人。

2人はその後、若き才を目の当たりにする事になる。

 

 

一段落した所で《銀》と話をすり合わせて状況を確認する。

どうやら誘拐犯を追ったリーシャは《銀》の娘らしく、これで彼女の不自然なムーブにも理由がついた。ただの少女が誘拐犯を撃退し、あまつさえそれを追ったなどあまりにもおかしいと思っていたところだ。

 

 

ならば、この件はすでに解決されているのではないかとすら《剣鬼》は想像した。《銀》の後継がたかだかチンピラに遅れを取るとは思えない。

 

 

「ふむ……」

 

 

しかし《銀》はそうは思わないらしい。歩を進めながら沈思黙考する彼の姿に《剣鬼》は想像を改める。

 

 

「もっと嫌なのは、件のリーシャさんが貴方…《銀》の娘だと知って誘拐を実行した場合……ですね?」

 

 

《剣鬼》が現在遊撃士業務に励んでいる煌都ラングポートは共和国最大のマフィア《黒月(ヘイユエ)》の本拠地だ。所属していないチンピラさえその影響下にある。

 

今回の誘拐犯は話を聞くだに手練れではない。ただのチンピラが相手なら話は簡単なのだが、リーシャを《銀》の娘と知って誘い出したのなら、事はかなり複雑になってくる。

そもそも《銀》とリーシャが親子である事を知っている人間が限られてくるのだ。最悪の場合、《黒月》内部のゴタゴタに巻き込まれる可能性すらあった。

 

 

「私もそう思っていた所だ」と《銀》が言った所で、目的地に到着する。港の倉庫区画だ。

 

気配を探ると、その中のひとつからわずかに人の気配を感じ取れた。

 

 

「ここですね」

 

 

「うむ」

 

 

《剣鬼》と《銀》は倉庫に足を踏み入れた。

倉庫内部は所狭しとコンテナが積んであり、一見すると迷路に見える。道順に沿って行動すれば相応の時間を割く事になるはずだ。

進入した2人の判断は早かった。積まれたコンテナの上を進む。双方が超人的な身体能力を持っていたからこそ執れた選択肢だった。

 

 

コンテナの上を駆けて倉庫の最奥部に到着する。

そこではたったひとりだけが立っている。

 

 

少女───

 

 

その人影をリーシャ・マオだと理解した瞬間だった。少女の腕がぶれる。

 

刹那の後、《剣鬼》の眼前には符を括り付けたクナイが迫っていた。太刀で弾く。背後で符が爆発した。

 

さらに次の瞬間、空中の《剣鬼》にリーシャが肉薄している。その貫手が《剣鬼》の内臓を食い破るより早く、その腕を捕らえる。

 

 

「硬気功か。速度も合格点だが」

 

 

リーシャの腕を掴んだ《剣鬼》はそのまま少女の鳩尾に蹴りを入れ、地面に向かって投げ放った。

 

 

「かはっ」

 

辛うじて受け身をとったリーシャだが、それは致命的な隙となる一瞬。

 

 

「はい詰み」

 

 

《剣鬼》はリーシャの首筋に太刀を突き付けていた。

眼前の白刃を見て自らの敗北と死を悟る。しかし、その奥から現れた人影を見て、リーシャは息を飲んだ。

 

 

「お父さん?」

 

 

「うむ、無事なようで何より」

 

 

《剣鬼》は嘆息しつつも太刀を引き、「見てたなら止めてくださいよ」なんて言う。

 

 

「ふ。噂の《剣鬼》殿と比較し我が娘の力量を測っておきたかったゆえ。許されよ」

 

 

《剣鬼》は太刀を鞘に納めつつ肩を竦めた。

この年頃で、これだけの力量があるのなら、身体の完成された数年後には、いったいどれほど隔絶した実力者になっている事かと。

 

 

「末恐ろしいな……」

 

 

 

ひとまずリーシャが落ち着いた所で状況を確認した。誘拐された子供たちは無事で、誘拐犯は全滅。これでナギトの不安は杞憂となった。《黒月》のゴタゴタ云々もすべては誘拐が成功している事が前提となるからだ。

 

ちなみに《銀》の正体とリーシャがその娘である事について《剣鬼》が知った事実については、《銀》側も《剣鬼》の正体を知っているため互いに弱味を握り合っている状態になるため不問となった。

 

 

 

そして、いくつか短く言葉を交わすと《剣鬼》と《銀》は別れる。この邂逅が後の時代に何を齎すのかは未だ誰も知る由もなく───そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、蛇が動き出す。

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