閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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湧き上がったもの

 

 

「そういやガレリア要塞じゃ愉しそうやったなあ。一芝居打った甲斐はあったかぁ、ナギト?」

 

 

 

ゼノのいきなりの問いかけにナギトは口に含んだコーヒーをぶちまけてやろうかと考えたが、そのまま嚥下した。

 

 

「なんの事ですかね」と一応とぼけてみるが、この2人の前には無駄だろうと感じていた。

 

 

 

ガレリア要塞跡地での《灰の騎神》とのバトルから数日が経過したパンタグリュエル客室内での事だった。

 

 

「言っとったやんか。“決闘がしたい”──これ、本音そのままやろ?」

 

 

見透かすように言うゼノの横でレオニダスが腕組みをしつつうんうんと唸る。

 

 

「できるだけ嘘は吐かない……そんなお前さんのやり口そのままやったわ」

 

 

ナギトの思考をどこまでも見通すようなゼノの言い分に両手をあげて降参する。

 

 

ゼノが指摘したのはガレリア要塞跡地でナギトがリィンに対して決闘を持ちかけた理由だった。

 

あの場では建前を口にしたが、本音はゼノが見破った通り、ただリィン──ヴァリマールと戦ってみたかったからだ。

 

 

「そんなわかりやすいかな…?」

 

 

「心配の必要はない。おそらくあの場で貴様の目的を見抜けたのは我らだけだ」

 

 

そのために一芝居打ったナギトだったが、それがバレていれば世話はない。数日前リヴァルにも釘を刺された所だ。

しかしレオニダスの言葉で一応の安心を得たナギトは最初の質問に答える事にした。

 

 

「……ええまあ。芝居を打った甲斐はありましたとも。あいつの今の実力も知れましたしね」

 

 

「まるで大人と子供やったで。ちょっとあのボンがかわいそなったもん」

 

 

涙がちょちょ切れる…そんな仕草をしたゼノに「ウソつけ」としっかりツッコミを入れてからナギトは続ける。

 

 

「そりゃ大人と子供でしょうよ。片や英雄に成り果てた俺。片やひと月眠りこけてたあいつ。……まあ今からまくってくれるはずです」

 

 

「ほう、ずいぶん信頼しているのだな?」

 

 

「騎神のポテンシャルは凄まじいですし……少し危ない場面もあった。本気こそ出しませんでしたけど、油断もなかったですからね、あの時は」

 

 

残月でのカウンターには目を見張るものがあった。それにもカウンターで返したが、ナギトがうっかり八葉一刀流の剣技で対応しちゃうくらいには研ぎ澄まされた一閃だったと言える。

 

加えて、騎神そのものの潜在能力は計り知れない。クロウ──オルディーネの“奥の手”に近しい秘密をヴァリマールも持っていると思うべきだ。

所詮はオルディーネの模倣機体であるプロトでは太刀打ちできないスペックに成長する可能性も十二分にあった。

 

 

 

「……お前がそこまで言うほどとはな。俺らも気合いが入るってもんや。なあレオ?」

 

 

「ああ。次に会った時こそ西風の神髄を見せてやろう」

 

 

 

ゼノとレオニダスが生身で騎神に対抗しようとしているのを見てナギトは苦笑してしまうが、自身が2年前オルディーネと戦った事を思い出してさらに苦笑は深まってしまうのであった。

 

しんと静まった客室が何となく居心地が悪く、やはり監視役として同席していたリヴァルに話を振る。

 

 

「そういえば、リヴァルは良かったのかよ。新型の機甲兵の受け取りに行かなくて」

 

 

《帝国解放戦線》の幹部《V》──ヴァルカンと《S》──スカーレットは竣工した新しい機甲兵を受け取りにパンタグリュエルを降りていた。

 

 

「別に構わない。ゴライアスもケストレルもまだ量産体制は整わず、俺もシュピーゲルで充分だからな」

 

 

「はっ、まあそやろな。ブリオニア島での訓練中も可愛げがないくらい乗り回しとったし」

 

「ああ、操縦機体が変わったにも関わらず、腕前を上げているのはさすがと言えるだろう」

 

 

 

“シュピーゲルで充分”と言ったリヴァルをゼノとレオニダスが褒め称えた。どうやらかつて行われたというブリオニア島での機甲兵教練の際にリヴァルは操縦で非凡な才を見せつけたらしい。

 

 

しかしナギトは「ホントに〜?」と食い下がる。それはリヴァルの操縦技術を疑うものではなく、“シュピーゲルで充分”と言った部分に係る。

 

 

「……なにが言いたい?」

 

 

目を細めたリヴァルにナギトは「はっ」と鼻を鳴らす。

 

 

「本来ならオルディーネ・イミテーションはお前が乗るはずだったんだろ。それにあれは換えのパーツが揃ってる。……だからもし俺がプロトと一緒に──」

 

 

得意げに推測を語るナギトに「やめろ」と短くリヴァルが告げる。鼻白むナギトに、リヴァルは再三の忠告をした。

 

 

「お前がその先を言えば──、それを知っていると、俺が明確に把握できてしまえば、俺も監視役の任を全うするしかない」

 

 

 

「…そうだな、すまん。調子に乗った」

 

 

 

ナギトは謝ると憶測語りをやめた。わかっていたはずの事だ、リヴァルは監視役であると。

だが、あまりにも身近にいたせいで“監視役”というより“お友達”感覚が強くなっていた。

ナギトの悪い癖だ、調子に乗っていらない事まで口走ってしまうのは。

 

しかしそれを忠告してくれるあたり、リヴァルもまた監視役としてよりお友達としてナギトに接したいと感じているのかもしれない。

 

 

 

「仲良しさんやな、まったく」

 

 

そんなナギトとリヴァルの様子をゼノはからかう。レオニダスも微笑ましげに鼻を鳴らした。

 

 

「アンタらほどじゃねーよ」

 

 

しかし常に2人で一緒にいるゼノとレオニダスほどではないはずだ。そう指摘すると「それもそうやな」と楽しげにゼノは笑い、

 

 

「それはそうと、その話を俺らに聞かれても良かったんか?」

 

 

その話、とはナギトが言いかけた仮定の話。つまりこの先ナギトが貴族連合を離反するつもりであるという話だ。

 

 

「別に言いふらさないでしょ、あなたたち2人」

 

 

しかしナギトに動揺はない。貴族連合の首魁であるカイエン公に報告されたらまずい状況になるが、この西風の2人がそれをやるとは思えなかった。

 

 

「俺はそもそも西風の連隊長がカイエン公に従ってるのを不思議に思ってる。忠誠心なんてものはないだろうし……もしかして金?」

 

 

《西風の旅団》は猟兵団だ。金さえもらえばなんでもするのが流儀。しかし、団長が死んでほぼ解散状態の西風の連隊長が、それだけのために帝国最高峰の貴族に取り入っているとは考えられない。

 

案の定ゼノは「いやあ、どうやろなあ」と誤魔化す。

 

 

「なにか別の狙いがある、のかな?」

 

 

にやり、笑ってカマをかけるがゼノも同じように笑って細目をギラつかせる。

 

 

 

「そっちこそどうなんや、貴族連合に入っとる理由は?」

 

 

「友達を取り戻すためっすよ」

 

 

「ほう、それはあの蒼の男の事か?」

 

 

ゼノとレオニダスの息のあった問いかけに答えるナギト。その蒼の男が誰かを名指ししてしまうと、リヴァルが監視役の仕事をする必要が出てくるため言わない。

「さて、どうでしょう」とゼノと似たセリフで誤魔化す。

 

 

にやり、にやり。胡散臭い2人が胡散臭い笑みを交わし、会話は一段落。ややあって解散という流れになり、ナギトとリヴァルが客室を出る間際、ゼノは言った。

 

 

「俺らもお前と似たようなもんや。ここにおる理由はな」

 

 

それはきっと、ナギトが質問に答えた事へのせめてもの対価であった。

 

 

こんな風に、ナギトは貴族連合で役に立つかわからない情報を集めていく。

次はマクバーン。12月9日、翡翠の都で共に行動する予定だった。

 

 

 

☆★

 

 

 

厭な考えが頭をよぎる。

 

マキアス、エリオット、フィー、ガイウス、アリサ、ミリアム、エマ、ラウラ、ユーシス。言わずと知れたⅦ組の仲間たち。

クロウとナギトを除き、すべての級友と合流できた。

 

そう、クロウとナギトを除く…だ。

あの2人は第三学生寮で同じ部屋だった。もしかすると裏で結託していたかもしれない。そんな考えが、思考の端から肥大していく気がする。

 

 

そもそも、そう考えるきっかけになったのはガレリア要塞跡地で《閃嵐の騎士》と呼ばれる機甲兵と戦ってからだ。

あれの武装は太刀で、しかも八葉の技を扱っているように思えた。今思えば、やけ引き際も良かった気がする。

 

 

 

「よう、ガレリア要塞ぶりだな」

 

 

そんな雑念が生まれたのは、やはり件の《閃嵐の騎士》が眼前に現れたからだった。

 

 

 

バリアハートの街道でユーシスを仲間として取り戻したリィンたちは、その場に来ていた《身喰らう蛇》のマクバーンとデュバリィと対峙していた。

結果はマクバーンとデュバリィの勝利であったが、そこでアルバレア公爵による横槍が入る。《灰の騎神》を手に入れようと装甲車や新型の重装機甲兵ヘクトルで勝負を挑むもヴァリマールに敗れてしまう。領邦軍が意気消沈した隙にリィンは“精霊の道”で逃れようとしたが、そこに待ったをかけたのが《閃嵐の騎士》だった。

 

 

突如小刀が飛来し、それは着弾すると数秒後に炸裂した。崖を抉り取る威力。小刀と言っても機甲兵サイズなので人間ほどの大きさだ。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

ヴァリマール──リィンはその炸裂から身を挺して仲間を守っている。《閃嵐の騎士》も威力を抑えたのかダメージは軽微だ。

 

 

「連戦で悪いが──、あの時の続きだ。やろうや、灰色の」

 

 

そして、変わらず《閃嵐の騎士》は悠然とした雰囲気で決闘の続きを所望したのだった。

 

 

「い…いいぞ《閃嵐の騎士》よ、このまま我が軍と共に取り囲めば勝利は必然だ!」

 

 

しかしそこに横槍をさすのは、またしてもアルバレア公だ。同じ公爵という身分にも関わらずカイエン公に貴族連合の総主催という立場を取れらた彼は躍起になっていた。

 

そんなアルバレア公に《閃嵐の騎士》は冷たく声をかける。

 

 

「口を挟むな手を出すな不埒者。これ以上家名に泥を塗りなさるな、アルバレア公」

 

 

やはりボイスチェンジャー越しだが、それが拒絶の声音である事は確かである。

そんな英雄の言葉に畏怖を覚えたのか、アルバレア公は怒りに震えつつも黙する事を選んだ。

 

 

「──受けよう、貴族連合の英雄。大人しく撤退させてくれる気もないんだろう?」

 

 

「そりゃあな。では行くぞ、《灰の騎神》」

 

 

 

「──来い、《閃嵐の騎士》!」

 

 

 

リィンと《閃嵐の騎士》は息の合った会話で戦闘を開始する。ヴァリマールはブレードを構え、プロトは突進する。

 

 

それは凄まじい速度で距離を詰めるとヴァリマールに向けて太刀を振り下ろした。しかしリィンは、あえて一拍遅れて残月を繰り出した。

 

迫る刃は消失し、振り切ったブレードからは斬撃が飛ぶ。

 

 

それは肉薄していたプロトの分身をかき消し、本物へと直撃した。

 

 

「子供騙しだな」

 

「言うねぇ」

 

 

それを左手の盾で易々と防ぐプロトだったが、《閃嵐の騎士》は内心でリィンの成長ぶりに驚いている。

 

初撃でヴァリマールに吶喊させたのは闘気で形作ったハリボテのプロト。慌てて対応してくれれば良かったが、残月で一刀両断。ついでに本物のプロトにまで攻撃を与えるとは大したものだ。

 

 

街道は直線だ。騎神と機甲兵が戦うに充分なスペースがあるとは言い難く、それで重装機甲兵ヘクトルもヴァリマールに敗北していた。

こんな直線でものを言うのは単純に出力だ。その点においてヴァリマールはプロトを上回っていた。

 

 

「はあっ!」

 

 

裂帛と共に放たれる閃光斬。距離を詰めたヴァリマールの攻撃だ。素早い連撃にプロトは防御を選んだ。

そこから更にヴァリマールは攻勢に出る。プロトは横に逃げる事もできずに避けるか防御するしかの選択肢しかない。

 

 

やがて盾の耐久力が限界を迎えたのか砕け散る。両者の意識に一瞬の空白が生まれ、先に動いたのは《閃嵐の騎士》だった。

 

機甲兵用ブレードを改修した機甲兵用太刀がヴァリマールに迫る。しかしリィンも負けじとブレードで迎え撃った。

 

巨大な質量の鍔迫り合いに比喩でなく火花が散る。

 

 

「成長したようだ。甘く見ていた事は詫びようか」

 

 

「戯言を……っ!」

 

 

《閃嵐の騎士》は瞬間的に闘気を解放すると、ヴァリマールを弾き飛ばして跳躍した。

滑空ユニットが火を吹き大ジャンプ。そのまま反転して大地のヴァリマールに向けて突撃した。

 

そんな馬鹿げた攻撃を受けるわけにも行かず、リィンもまたヴァリマールの背面ユニットから霊力を噴射して空に逃げる。

 

 

プロトが地面に激突し、街道の舗装をぶち破って土煙を上げる。空中に留まり様子を伺うヴァリマールに、土煙を裂いて迫る斬撃が放たれた。

 

 

それを打ち消すと同時に再びプロトが大地を蹴ったのが見えた。ブースターを噴かし、空中のヴァリマールに肉薄する。

迫る斬撃を交わし、防ぎ、ついには弾き飛ばしたヴァリマール。

 

 

「空中戦ではこちらに分があるようだな!」

 

 

言って、一瞬の間。リィンにはプロトの装甲に隠れて見えない《閃嵐の騎士》が嗤ったような気がした。

 

 

「八卦、」

 

 

聞こえた刹那、空中で体勢を立て直したプロトの太刀から闘気が溢れ出た。

 

 

「四象、」

 

 

それは靄のようであったが、8つの球体になり、すぐに4つに凝縮された。その密度と言ったら、これほど単純な力を感じたのはクロウがオルディーネの“奥の手”を見せた時以来だ。

 

続けさせてはいけない。そう思ったリィンは仕掛ける。なりふり構わず奥義を発動する。“無想覇斬”──一太刀で7つの斬撃を刻む、それを、

 

 

「四象絶矢」

 

 

撃ち抜く、闘気の矢。とてつもない密度のそれは二矢で無想覇斬を打ち消し、残る二矢でヴァリマールの装甲を掠めていった。左脇腹と右肩を打たれて墜落するヴァリマール。

 

 

背中から地面に落ちて、立ち上がれない。周囲に仲間がやってくる様はかつてオルディーネに敗北した瞬間を彷彿とさせる。

 

 

「エマ、手伝いなさい!“精霊の道”を開くわよ!」

 

 

騎神の操縦席から黒猫セリーヌがエマに向けて言い放つ。先程邪魔された撤退を敢行するつもりだ。エマが魔力を練り上げ、騎神もまたそれに呼応して光に包まれる。

 

騎神の受けたダメージのフィードバックで朦朧とする意識の中、リィンはモニターに映る白い機体を見た。

 

 

「わざと……、外したな…?」

 

 

自身の奥義を打ち消し、さらに余力を残していた戦技。あれをまともに受ければ、それこそオルディーネにやられた時程のダメージを受けていた確信があった。

 

それを、《閃嵐の騎士》がやらなかった理由。かねてより思考の端にあった疑念が膨れ上がる。

 

 

「…ナギト……なのか………?」

 

 

《閃嵐の騎士》の正体は。未だ姿を現さぬ最後の仲間。苦楽を共にした兄弟分。ナギト・シュバルツァー。お前なのか、《閃嵐の騎士》は。

 

 

しかし答えは得られる事はなく。

精霊の道は開かれ、空間を跳躍して見慣れたユミルの渓谷に帰還した。

取り戻した4人の仲間と共に、最悪の余韻を残して。

 

 

 

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