閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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再会 / 再開

 

 

カレイジャスの運用による、パンタグリュエルからのリィン奪還作戦は成功した。


結果として救出対象であるリィンに目立った外傷は無く、カレイジャスから降下してきたメンバーも同様。その代わりに、相手方にもなんらダメージはない。

しかし、ナギトにとってはこれが望むべくもない結果であった。なんと言っても高速巡洋艦カレイジャス。その存在が大きい。カレイジャスは貴族派でも革新派でもない、皇族の艦。故に自分たちがどちらの勢力にも属さず、義を持って悪を正す存在として喧伝しながら活動するのにもってこいの物と言えよう。

 


惜しむべくは、トヴァル、クレア、シャロン、ヴィクター、そして皇族であるオリヴァルトが、戦況の激化した帝国西部に向かうために離艦した事だ。

これで戦力は激減したわけだが、オリヴァルトと同じ皇族であるアルフィンは艦に残ったので、なんとかそのご威光に与る事はできるわけだ。


カレイジャスのブリーフィングルームにて、今後自分たちがどう動いていくかを決定する。
最終目標は言わずもがな、トールズ士官学院の奪還。小目標として、各地に散らばっているトールズ士官学院生の回収。

 


これらの事を決めた後に、気を効かせたのか艦長代理を任されたトワと、技師であるジョルジュが退室した。

張り詰めた空気感が弛緩し、皆の注目はナギトへと寄せられた。言いたい事はたくさんある。聞かなきゃいけない事も多い。とにかく話がしたかった。


ナギトは視線が集まった事に「まあ予想通りだ」と言わんばかりに微笑んで、第一声を発した。

 


「皆さま方、久しぶりですな。覚えてるかなっ!ナギト・シュバルツァーだよ☆」

 

 


沈黙。それはとても重い沈黙だった。静寂が場を支配下に置く。そう、それはダダ滑りという人という人が忌避する最大のタブーである。


しかし、その沈黙がウケたのか誰かが吹き出した。皆もそれにつられて笑う。

全員が思う事は同じだった。ナギト・シュバルツァーは変わりなく、ナギト・シュバルツァーなのだと。あのふざけたお調子者が帰って来たのだと実感した。

 

 

 


全員がナギトと対面するように立ち並ぶ。
どうやら再会を祝して一人に一言ずつメッセージをどうぞ。という系統の罰ゲームらしい。
何の罰かと言うと、ついさっきのダダ滑りの罰ゲームである。嘘だ。


今までどうして連絡を寄越さなかったのか、だとか貴族連合と一緒にいたのはどうしてだ、とかそれらを聞く前にまず罰を与えなければ、口八丁で逃げられるかもしれないと、どこかの強かな金髪の女子が思ったからである。
さりげなく会話を誘導する技術は、さすがRFグループの次期会長候補なだけはあると言わざるを得ない。

 

 

 

 

まず一番最初にナギトが声をかけたのは、こうなるように事を運んだ、きんぱつのあくま──アリサ・ラインフォルトだ。

 


「お久しぶりです!アリサさん!」

 


大仰に礼をしてみせるナギト。普段の力関係はこういう所に出るのだと思う。しかし、ただ罰を受けるだけのナギトではない。せめてこのきんぱつのあくまには一矢報いらねばならない。

 


「ところでその服装、寒くないの?」

 


それは誰も聞かないでいた質問だった。
布そのものは厚手だが、やけに露出してる部分の多いアリサの服装。今は12月だ。それで寒くないわけがない。

 

 

「これはファッションよ!」

 

 

いつもの調子でツッコミを入れるアリサ。
そのアリサに、当人だけにしか聞こえない音量で耳打ちする。

 

 

「リィンに見せるためかな?」

 


「なっ……!?」

 


耳まで真っ赤に染めるアリサ。
それを見てナギトは「ふはははは!」と高笑いする。一矢報いる事はできたと判断したようで、次のメンバーへ。

 


ガイウス・ウォーゼル。
褐色で長身の彼はリィンと並びⅦ組の精神的支柱であった。その落ち着いた物腰は完成された人間性を思わせ、つい頼りたくなるものがある。

 

 

「ガイウス、久しぶりだな……どうやらまた腕を上げたらしい」

 

 


「それでもまだまだナギトには及ばんさ。無事でいてくれて良かった」

 


やはり落ち着いた声音のガイウスだが、故郷が危険に晒された時は誰より勇猛に、果敢に戦った事を知っている。

 

 

「ありがとう。事が落ち着いたら手合わせでもしてみるか?」

 


「それもいいな」

 

 

笑うガイウスはどこまでも優しげだ。
それは兄貴のようなイメージを湧き上がらせる。
そう思いながら、次の人物に視線を向ける。

 


「久しぶり。一ヶ月半の内に、中々どうしていい顔つきになったねぇ、エマ?」

 

 

視線の先にはⅦ組の委員長エマ・ミルスティン。
その姿は憑き物が落ちたように見えるほどに見違えた。

 

「はい、お久しぶりです。ナギトさん。私もようやく、秘密を打ち明けてⅦ組の一員だって自覚できましたから。これまで、秘密を守ってくれてありがとうございました」

 

「気にすんなって。友達なんだから。これからもよろしく頼むよ」

 

 

エマの感謝がこそばゆく感じて、なんとなくで受け流す。
ナギトはこれまでの特別実習でエマの正体を知っていた。
それを秘密にしていた事を感謝されても、これまで色々と助けられた事を考えるとおあいこなのでそう言ったのだ。

 


「フィーも、久しぶり」

 

 

「ん、久しぶり。ナギト」

 

 

次の相手はフィー・クラウゼルだ。
銀髪の小柄な女子だが、ただの可愛らしいだけの存在ではない。その昔は《西風の旅団》という一流の猟兵団で《西風の妖精》と異名で呼ばれた程の戦闘のエキスパートだ。

 

 

「もう、あの二人とは会ったらしいな」

 


ナギトが言う二人とは、パンタグリュエルで共に過ごした西風の二人の連隊長。レオニダスとゼノの事だ。

 


「うん。会ったって言うより戦った、の方が正しいけど」

 

 

「まあ、あの二人も仕事だし。不安がらなくても、お前は愛されてるから心配しなくていいよ、フィー。あの二人、口を開けばフィーの事ばかりでよ、親バカもいい加減にしろ、と言いかけたわ!いやマジで」

 


ナギトの一人芝居に笑みをこぼすフィー。
猫のように可愛らしい彼女は確かに庇護欲をそそられる。親バカになるのもわかる気がした。

 

 

「なんとなく、想像できる」

 

 


お次はマキアス・レーグニッツだ。

 

 

「久しぶりマキアス。…お前は帝都知事の息子だからな…他のメンバーよりマークされてたと思うんだが、まあ無事で良かった」

 

 

「ああ、君こそな。ナギト。僕は変装してたから大丈夫だった。とは言っても眼鏡を外すだけなんだがな」

 


スッと眼鏡を外すマキアス。
なるほど印象は変わるが、それほどでもない。

 

 


「子供騙しか!良くバレなかったな」

 

 

「僕の場合は、潜伏してたケルディックの人たちに良くしてもらったからな。あの人たちには感謝してもし足りないくらいだ」

 


「そうか、これも縁だな。とにかく無事でいてくれて何よりだ」

 

 

安心の表情を浮かべたナギトは次の人物に視線を走らせる。
マキアスの次はユーシスだった。
予想通りと言えばそうだが、番狂わせと言ってもその通り。普段、いがみ合ってる二人が仲良く並んでるのはなかなかに面白い。

 


「ようユーシス」

 


「久しいな、ナギト」

 

 

ユーシス・アルバレア。貴族連合の総主宰たるカイエン公には劣るがそれに次ぐ権力を持つヘルムート・アルバレア公爵の実子であるユーシス。
少し前に貴族連合から離反したと話を聞いていたが…

 

 

「お前は一時期、貴族連合に与してたようだが、今は元鞘なわけか。まあ、それにも深謀遠慮があったわけだろうけどさ」

 


ニヤニヤと笑うナギトにユーシスは苦笑いする。

 


「貴様を見てると、ただ責任感だけで貴族連合に収まっていた自分が阿呆のように思えるな」

 


やれやれと肩を竦めるユーシス。その反応もナギトは予想済みだ。
故に想定通りにナギトは事を進める。アリサの時と同じように、ユーシスにそっと耳打ちする。

 

 

「後で二人で話したい」

 


ナギトが顔を引くと、ユーシスはそっと頷く。
どういう話題が提供されるのか、予想はできているようだった。

 

 

続いてはミリアム・オライオンだ。
情報局からの回し者だけど素直すぎるまだ子供。
されど《鉄血の子供達》に名を連ねるだけはある洞察力を持つ少女。

だが、警戒するにはちょっと邪気がなさすぎる。
それ故に警戒に値するのだと、思いながら「やっほー」と声をかける。

 

 

「やっほー!やっぱり、思ってた通り無事だったんだね、ナギト。まあ、ナギトなら大丈夫だって信じてたけど!」

 


にこっと笑うミリアムは年頃の少女にしか見えない。このセリフもまた、何の含みもないものだと思いたいものだ。

 

 

「そーかそーか。よし、ならいい子にはアメちゃんをやろう」

 

 

ナギトはミリアムの頭をなでながら、ポケットをごそごそと探る。出てきたのはパンタグリュエルからくすねておいたアメ玉だ。

ナギトはそれをミリアムの手に乗せると、頭をポンポンと叩いて、次の人物へ───

 

 

「って、え!?それだけなの!?」

 

 

声を上げたのはミリアム。
まさかこれだけの会話だとは予想外だったようで、驚いて目が点になっている。
振り返るナギトは笑いながら「冗談だよ」と告げた。

 

 

「俺もミリアムは無事だって信じてたよ。そういや、あのオッサンは無事なのか?」

 


その問いを発するナギトは、笑みを浮かべてながらも、目は笑っていない。
問いの意味をわかるのが、いったいこの中にどれだけいるのだろうか?もし意味がわかっている者がいるとすれば、その者にとってナギトは嫌な人物に見えるはずだ。

なんと言ってもこれは、ミリアムに嫌疑をかけてるのと同様なのだから。

 

 

「んー、それってオジサンの事?」

 

 

「……ああ。いや、すまん。こんな所で聞く事じゃねえとはわかってるんだけど」

 


その狙いは当のミリアムによって明るみに晒される。場の空気が一気に固いものになる。
それならそれで、全員がいるこの場ではっきりとした事を言ってもらうのも良し、とナギトは腹をくくる。

リィンとアリサが何か言いかけるが、ナギトの表情を見て口を噤む。柔らかでありながら剣呑。そう表現すべき雰囲気を纏っている男の姿を見て、リィンの口は自然と異名を呟いていた。

 

 

「《剣鬼》……」

 

 

 


「んー、僕は……というか、ここにいる全員があの日、クロウに撃たれて倒れたオジサンを見てるよね?」

 

 

その答えに、ナギトは目を瞑る。
そうか、そう答えるのか。ミリアム。

困ったような、寂しいような。そんな笑顔が面に映る。しかし、それは一瞬だ。

 


「まあそうだわな。いや、変な質問してすまん」

 

「別にいいよー」

 

 

ナギトはこれだけの会話で確信した。
ミリアムは何かわかってる。ただ、それを話す気はないらしい。もしくは言葉にできないものなのか。
それを追及した所で、得られるものは仲間間の不和だけだと思ったナギトは、今度こそ次の人物に向かった。

 

 

 

「いよう、久しぶりだな。エリオット。
なんだ、ちょいと逞しくなったんじゃない?」

 

 


次の人物は、エリオット・クレイグ。
Ⅶ組でもエマに次ぐアーツ使い。事、治癒アーツに限りエマをも凌駕する腕前を持つ。

 

 


「アハハ、そう言ってもらえると嬉しいよ。久しぶりだね、ナギト。相変わらずで安心したよ」

 

 

柔和な表情を浮かべるエリオットはまさに癒やしだ。伊達に女子から筋肉モリモリのエリオットは見たくない、なんて言われるだけはある穏やかさの象徴だった。

 

 


「……それは褒められてると受け取るぞ?よく無事でいてくれた。再会できて嬉しい」

 


「僕もだよ。まあ、みんなと同じようにナギトなら大丈夫って謎の確信はあったけどね」

 

 


エリオットの切り返しに「ははっ」と笑う。
Ⅶ組の奴らは何故かナギト死亡説を立てる事がなかったらしい。

 

 

「なーんか、変な信頼だなぁ。もっと心配してくれても良かった……とは言えないけど。まあ、また今度語り明かそうぜ。三人でな」

 

 

ああでもない、こうでもないと士官学院祭の時に話し合ったのは記憶に刻まれている良い思い出だ。気づけば徹夜してた、なんて事もあった。それだけ熱中していたのだ。
だから言うのだ。「また今度語り明かそう。俺とお前とクロウの三人で」と。

 


「うん!」

 


エリオットの笑顔が弾ける。
どうやらナギトの思いは伝わったようだ。
また今度、また語り明かそう。三人で。
だから、この内戦をさっさと終結させてしまおう。無言の約束は交わされたのだった。

 

 


向かい合う二人はニッと同時に笑い合う。
どちらともなく拳を、二人の間でぶつけ合った。

 

 

「よう兄弟。パンタグリュエルでのクロウとの一騎打ちは見事だった」

 

 

「見てたのか。俺なんてまだまだだけどな。でも、確実に一歩は進んだよ」

 

 


それは、謙虚なリィンにしては珍しいセリフのように思えた。
しかし、それだけの自信がついたのだろう。鬼の力を制御できるようになった事が。クロウに届いた事が。

 


「そりゃ良かった。アルフィン殿下に慰められたのが効いたのかな?」

 


ナギトは悪戯な笑みのまま言い放つ。
すると、きんぱつのあくまからリィンに熱視線が注がれた。
「これであいつ、隠してるつもりなんだぜ?」と肩を竦めても良かったのだが、それをしたらきんぱつのあくまにやられる事は目に見えているのでやめておこう。

 

 


「そんなんじゃないって。……ナギト、また会えて良かった。これで後はクロウだけだな」

 

 


「ああ、それでⅦ組全員集合だ。ハッピーエンドに向けて動き出すとするか!」

 

 

 

「ああ!」

 


Ⅶ組の総意であるトールズ士官学院の奪還。
それには当然、学院生も含まれる。
それならば、またしても当然のように学院生であるクロウも含まれるわけだ。クロウを取り戻す。それがクロウの意思でなくとも。必ず、自分たちの先輩として卒業してもらうのだと、そう決意した。

 

 

 

 

さて、お次は最後にして本命。
この並びにしたきんぱつのあくまには悪意があったとしか思えない。

横目でアリサを見ると、ほくそ笑んでいるのがわかった。ナギトが慌てふためく様を想像するのがそんなに楽しいらしい。
ナギトは頬をぴくぴくさせつつ、その人物に視線を送った。

 


途端に、その表情が無になる。
何を言おうとしてたのか忘れ、何をしようとしてたのか忘れ、最後に言葉すら忘れた。

《剣鬼》であった頃の記憶を取り戻し、この少女への想いも薄れたかと思ったがとんでもない。むしろ、会えなかった分だけ想いは募っていた。

 

 

「久しいな、ナギト。そなたにまた会えた事、嬉しく思うぞ」

 


先に言葉を発したのはナギトではなかった。
言葉を忘れたナギトに代わって、先に言葉をかけてくれたのだと理解する。

それでようやく言葉を思い出して、しどろもどろになりながらも再会を言祝ぐ。

 


「あー……、俺もだよラウラ。生きててくれて良かった。らしくないがエイドスに感謝だな」

 

 

ラウラ・S・アルゼイド。帝国最強の剣士の一角であるヴィクターの娘にしてトールズ新入生最強の名を恣にする少女。ナギトの懸想する女。

貴族連合に所属していた時から、その生存は確信していたが、得られる情報はあまりに少なかったため気が気ではなかった。

 

周囲からは“もっとやれ、つーか告白しろ”という視線を感じるが無視。
というか何故に自分の好意がバレているのか?士官学院祭の後夜祭で踊ってたんだから当然の露見と言えばそうなのだが。

 

 

「ふむ、そなたがそう言うとはな。ならば私も空の女神に感謝を。ナギト、そなたとはまた共に剣で語り合いたいと思っていた」

 

 

あれ!?なんかラブリーな雰囲気じゃなくね?と首を傾げるのを必死に耐えるナギト。
その様子を、腹でも痛いのか「ひーっ、ひーっ」と過呼吸気味になりながらも見つめるきんぱつのあくま。

 


おいそこ。笑い過ぎて腹が痛いとか隣で心配してるガイウスに悪いとか思わねえのか。

 

 

 

 

「まあそれは機会があれば…と言う事で頼む」

 

 

「そうだな。では今度はそなたとの手合わせでも女神に祈るとしよう」

 

 

「はは…」とラウラの手合わせ好きに渇いた笑いを零しながら、ナギトは天井を仰ぐ。

 

さて、これで再会の挨拶は終了だ──と、思ったが、

 

 

 

「あら、私にはないの?」

 


サラから声がかけられる。
挨拶の列に並んでこそいないものの、サラもⅦ組の仲間と言える。ならば再会の挨拶をするのもまた当然だった。

 

 


「ありますとも、サラ教官。相変わらずいいカラダしてますね、今夜あたり一発どうです?」

 

 

「ちょっ!何を変な事口走ってんのよ、アンタ!?」

 


グッドサインのまま笑顔で放たれたお誘いに、サラは年甲斐もなく紅潮する。これはさすがに不意打ち過ぎる。
当然のように女子勢からは白い目で見られるナギトは、焦ったように次のセリフを続ける。

 

 


「ジョークですよ、ジョーク!教官も真に受けないでください」

 

 

下品なジョークを言ったナギトへの軽蔑の視線はしばらく止む事はなかったと言う……

 

 

 

 

やがてトワとジョルジュが部屋に戻り、いよいよお話タイムとなる。
とは言っても、本筋の会議からは外れた、貴族連合に潜入していたナギトからの情報提供のための会議だ。


席に着いたⅦ組のメンバーと+α。

 


「さてと、んじゃまあ。まずは俺が得た情報を開示していきますが、質問は随時受け付けるんで、気になる事があったら聞いてください」

 

とナギトは告げて、それは始まった。

 

 


「現在、貴族連合は帝国の領土の約六割強を手中に収めてますが、その貴族連合の主戦力と言えば機甲兵。これの登場で正規軍はまともに戦術を組み立てる間もないまま、ほとんどの戦場で敗北を重ねていきました」

 

 

クーデターの日。ヴィータの秘術で中継された帝都の蹂躙劇が思い出される。

人型有人機動兵器の登場は人々に大きな衝撃を与え、戦術に革命を齎した。

 


「そして、その機甲兵の中でも特に英雄視されているのが《蒼の騎士》……クロウの操る《蒼の騎神》オルディーネだな。次いで《黄金の羅刹》ことオーレリア・ルグィン将軍や《黒旋風》ウォレス・バルディアス准将の特殊型機甲兵も半端なく強いって噂だけど、こっちは今のところ帝国西部にいるんで割愛する」

 

 

領邦軍の中でも英雄と呼ばれる二人の名前を出すと、ラウラが顎に手を当てた。

 


「そうか。あの二人は今は西部にいるのか。実は、少し前に我が邸宅で対面したのだが、凄まじい気を放っていたのを覚えていてな」

 

 

「会ってたのか……、そうだな……もし戦場で会う事があれば迷わず逃げろ。生身でもクロウ以上に強いし、機甲兵でとなると、クロウとオルディーネには及ばんだろうが、正直な話、今のリィンとヴァリマールでも勝てる相手じゃないだろうからな」

 

 

ナギトは記憶を遡る。
パンタグリュエルで久しぶりに言葉を交わしたが、一応“貴族連合”という仲間だったから威圧感はあまり感じられなかったものの、「武人としてのそなたに興味がある」と言われた時の怖気は──オルディスでしごかれた悪夢が甦ったからだけではないだろう。

 

 

 

「話を続けます。さっき言ったのは、あくまでも表舞台の話。パンタグリュエルでリィンも会っただろうが、今回の内戦、《身喰らう蛇》の連中が絡んでる。俺が確認したのは5人。《神速》のデュバリィ、《怪盗紳士》ブルブラン、《劫炎》のマクバーン、《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダ。《鋼の聖女》アリアンロード。確か、もう全員会ってるんだったか?」

 


ナギトの言葉にはリィンが答える。
リィンはナギトが貴族連合にいる間、仲間と合流するためにヴァリマールと共に動いていた。
《身喰らう蛇》の面子と対峙したのはリィン一人だ。

 

 

「ああ。全員が全員とも、厄介な能力の持ち主だった。特にマクバーン……あいつだけは別格だ。正直な話、勝てる気がしない。それに《鋼の聖女》と言ったか?パンタグリュエルでは見かけなかったが」

 

 

「ああ、あの人は今はクロスベルをメインに活動してるらしいからな。あっちが一段落したら帝国入りするんだと。俺もパンタグリュエルで会ったのは一回だけ」

 

 

なんならアドバイスを貰ったりしたが、そこは言う必要もないので言わないナギト。

 

 

「あとマクバーンだな、あいつはかなーりヤバい。生物の強度としての次元が違う感じだな。一回バトったけど一瞬の隙を突いて逃げるので精一杯だったわ」

 

 

その言葉は少なからず全員を震撼させるに足るものだった。
全力になれば味方内で最強クラスに強い男が保証するほどのマクバーンの脅威度。特にそれを体感した顔触れは表情を強張らせた。

 

 

「それ以外にもやべー奴らが勢揃いしてる。結社の他の連中はもちろん、《西風の旅団》の連隊長のゼノとレオニダス。ミリアムと同じような傀儡を使うコードネーム《黒兎》のアルティナ・オライオン。《帝国解放戦線》の幹部、ヴァルカンとスカーレット、リヴァル。そしてクロウ・アームブラスト。あとは……」

 

 

 

「──ルーファス・アルバレア」

 

 

と、ナギトの言葉を継いだのはユーシスだった。口にした名は兄と慕う男のもの。

ナギトは頷いて、その肩書きと共に語る。

 

 

「そう、貴族連合総参謀ルーファス・アルバレア。今、貴族連合は実質あの人が動かしてる。トップはカイエン公だけど、ルーファスさんが指揮官みたいな感じだな。言わば皇帝と宰相みたいなもんだ」

彼の采配のおかげで貴族連合は優勢を得ている。

 

しかしナギトはそれでも疑念を抱いていた。

“この程度なのか?”──と。この内戦が始まった日。あの帝都での電撃作戦は成功した。皇帝はカイエン公の手に落ち、宰相は心臓を撃ち抜かれた。軍の高官も軟禁し、今や各地で孤立した正規軍の中将が己の師団を率いて貴族連合と戦っているような状況だ。

 

それを、妙だと思っている。確かに見事な手腕だが、ルーファスの能力はこの程度ではないと思っているからだ。

帝都を占領したのと呼応して各地の領邦軍が一斉に動き出し、正規軍の行動を抑止出来ていれば、この内戦はそもそも起きず、クーデター──政変で終わっていたはずなのだ。

 

それをもうだらだらと1ヶ月以上、自国内で国力を削り合っている。それがなければ今頃、クロスベルのゴタゴタの影響で金融恐慌に陥ったカルバード共和国の領土を切り取れていた可能性すらあったと言えるのに。

 

 

“確信”に靄がかかっている。

蓋がされている。ロックがかかっている。──そんな感覚がナギトにはあった。

 

 

「ひとまず、こんなもんかな…俺たちが戦う可能性のある連中については」

 

 

ナギトは瞑目し、一度雰囲気を入れ替える。

 

 

「それで、こっからは結構重要な話になるんだけど」

 


これまでは前座だと言うように、雰囲気を変えたナギト。その表情に自ずと全員の顔も強張る。

 


「貴族連合に保護という名目で捕らえられてる皇族は全員がカレル離宮にいる。レーグニッツ帝都知事や、きっとエリゼもそこだ」

 

 


「なら、お助けしなきゃ!」

 


机を叩いて立ち上がったのはトワだ。
皆の目も、高い志に燃えている。特に肉親が囚われているリィンとマキアスは顕著だ。

しかしそれでも、皆がそれを内に秘めるに留まっているのは理由がある。

 

 


「それは結構厳しいです、トワ会長。皇族を軟禁してるカレル離宮には多くの兵が配備されてます。実際の話、皇族奪還のために動いた第一機甲師団も全滅、現状の戦力じゃ突破はほぼ不可能……そも、これは俺が貴族連合にいた時点の話ですし、その事実を知ってる俺が離反した事で軟禁場所を移された可能性もあります」

 

 

「そっか…、そうだよね、ごめんね。熱くなっちゃって」

 

 

それは愛国心によるものだ。
トワ会長のそれが人一倍だっただけで、すぐに冷静を取り戻す様はさすがは士官学院の生徒会長なだけはあると言える。

 

 

「いえ。それじゃあ話を続けますけど。あとはトールズの現状について、これも俺の知ってる範囲じゃあ、今はパトリックを頂点とした“騎士団”が統治してるようです。学院長とか教官らは学院内に軟禁されて、まあ何とか治安はそんな悪いわけじゃないそうですね」

 

 


ナギトが開示できる情報はここまでだった。
極一部を除き、仲間として信用されていなかったせいで情報を漏らされなかったのが原因だ。
記憶を掘り起こせば、まだまだ眠っている財宝はありそうだが、今のところはこんなもんだと伝えると、皆が席を立つ。

誰かが部屋から出ようとした所で、ナギトは思い出したワードを使って皆に問いかけた。

 

 


「みんな、“黒の史書”って聞いたことあるか?」

 

 


しかし、全員は首を横に振るのみ。
唯一、エマだけが何か思い出しそうな表情だったが、結局は皆と同様に首を横に振った。


リィン、アリサ、エリオット、マキアス……と部屋を出て行き、室内にはナギトとユーシスだけが残った。

 

 


「それで、話とは何だ?」

 

 

単刀直入に聞くユーシス。相変わらずだな、と言おうとして、それを制するようにユーシスは続けた。

 


「まあ、大方の当たりはついているが。《閃嵐の騎士》についてだろう?」

 

ナギトはその鋭さに瞠目し、言いかけていた言葉に褒め言葉を付け足した。

 

「相変わらず、冴えてるなユーシス。さすがだよ」

 


《閃嵐の騎士》。それは閃きのように戦場で踊り、嵐のように去っていくとある機甲兵につけられた渾名だ。情け容赦のない戦術。他の追随を許さぬ戦闘力。そのために正規軍の間で畏怖されているのが《閃嵐の騎士》。そして、そのパイロットであるナギトにつけられた渾名。

尤も、ナギトがパイロットである事知っているのは貴族連合の中でも一部だけだ。
しかし、それでも少し前まで貴族連合に帰属していたユーシスならば知っている可能性もあると考慮して、話をもちかけたのだった。

 

 

「俺に頼みたいのは《閃嵐の騎士》の正体についてだろう?」

 

 

ユーシスはまっすぐな眼差しをナギトに向ける。目を逸らしたくなる衝動に駆られるも何とか耐えて、視線を合わせる。

 

 

「ああ。《閃嵐の騎士》の正体について、みんなには話さないでいてくれると助かる」

 

 


「承知した。だが、貴族連合が黙っているとも限るまい。そこはどう思ってるんだ?」

 

 

「不安な所だが……まあ、今は大丈夫のはず。カイエン公はすぐにでも公表して俺の居場所を奪いたいだろうが、ルーファスさんに止められるだろうし」

 

 

「ほう。その心は?」

 

 

「今、バラされた所でお前たちは俺を受け入れるだろう?ルーファスさんはそこまで読む。だから暴露するにしても、もっと効果的な場面でバラすはずだ」

 

 

ナギトの推測に、一理あると頷くユーシス。
しかし、その言葉に一つの矛盾が孕んでいる事に気づき指摘する。

 

 

「兄上なら確かにそうするだろうが……ならば、今の内にみんなに明かした方がいいのではないか?」

 

 

《閃嵐の騎士》であった事を秘密にしてくれと言うナギト。しかし、その言葉は《閃嵐の騎士》ナギトの正規軍への殺戮行為という情報の開示のタイミングについて貴族連合側に任せると言っているのと相違ない。

ならば、仲間内にだけでもナギトが《閃嵐の騎士》として戦場を蹂躙してきた事を明かせば、貴族連合に秘密を明かされた時でも、仲間との絆はそのままでいられるはずだ。とそれがユーシスの言い分だ。

 

 

「まあ、できるだけ面倒事は避けたいんだよね。
まだルーファスさんが秘密を明かすなんて決まったわけでもないし……それに、どの道お前らは俺を受け入れるだろう?」

 

 

ナギトの発言に鳥肌が立つ。ユーシスは今の言葉に空恐ろしいものを感じた。
どこか壊れてる。と感情が叫ぶ。だがそれはナギトの強みのようにも思えて、指摘できなかった。

 

 

「………わかった。みんなには黙っておこう。だが、もしバレてしまっても俺は庇わんぞ?」

 

 

「ああ、助かるよユーシス」

 

 

 

ナギトは笑みを浮かべて部屋を出る。手をひらつかせながら。ユーシスは一人となった室内にて呟いた。

 


「面倒事は避けたい……か。まったく、貴様は本当にあのナギト・シュバルツァーなのか?」

 

 

☆★

 

 

全員がブリッジに集まった所で、まずはどうするかという話になった。

明確な目標はあるにしても、それは先の話であり、自分たちがそのために今は何をするのか、きちんと決めていないための悩みだった。

しかし、それについてはオリヴァルトが手を打っていたようで、ブリッジにある端末に各地からの依頼をまとめて随時送ってくれるしてくれるらしい。

試しにオリヴァルトと通信してみると、感度は良好。さすがは皇族の船カレイジャスだと唸る。

 

 

オリヴァルトから届けられた依頼によって、行き先はノルド高原に決定された。
なにやらノルド高原になにやら大型魔獣が出現したらしく、それを退治してくれという依頼だ。
そこで降りるメンバーを決めようとした所でナギトが口を挟んだ。

 


「あー、すまんが俺は別行動とっていいかな?」

 

 

 

「別行動って……どうしたんだ?」

 

 


聞いたのはリィンだ。
突然の発言に驚きつつも、一番に平静を取り戻したのは、長い間一緒にいたリィンだった。

 

 

「んー、まあ、ちょっとね。心配しなくても、お前たちの……いや、Ⅶ組(俺たち)の不利益になる事はしない」

 

 

わざわざ言い直すあたり、自分たちは仲間だと言外に伝える。
すると、リィンはまんまと了承した。他のみんなもリィンと同様だ。

 

 

「それにしても、Ⅶ組がようやく揃ったって言うのにいきなり別行動なんて感心しないわね」

 

 

別行動を了承しつつも辛辣な言葉を投げかけるのはアリサだ。さっき一矢報いたのがよほど根を張っているらしい。ナギトは苦笑いを浮かべる。

 

 

「ホント、ごめんだって。でも、本当の意味でⅦ組が全員揃うために、揃っていられるために必要な事なんだよ」

 

 

全員、頭のどこかでは理解している。
Ⅶ組が本当の意味で揃う事などないだろうと。この内戦、今は貴族連合が優勢だがこの後はどうなるかわからない。
そして内戦終結の折、もし貴族連合が敗北してしまった場合は、その英雄として活躍していたクロウは、当然のように罰に対しても矢面に立たなければいけない。
貴族連合が勝利した場合でも、クロウは英雄として、やはり遠い存在になるだろう。それ以前に貴族連合に敵対するように動いてる自分たちが生きている保証もない。

理解している。だが、諦める事はない。
誰よりもその意思が強いのがナギトだ。

クロウを助けたい。クロウを救ける。

それを己が存在意義のように感じているのだから。

だから、これはそのための別行動。
言うなれば内戦終結後のための行動。クロウ風に言うならば後の楔だ。

 

 


「ガイウスも、悪いな。ノルドが危機かも知んないって時に力になれなくて」

 

 

「いいさ。ナギトがそう動くのは俺たちのためなんだろうからな」

 

 


ガイウスの気遣いに感謝しながら、ナギトは自分の降下地点を艦長代理であるトワに伝えた。

 

 

☆★

 

 


キーを回すと、途端に振動を感じた。心地の良い重低音が響き渡る。

 

 

「本当に一人で行くのか?」

 

 

心配そうに聞いてきたのはリィンだ。
心配された当のナギトはリィンから借り受けた導力バイクに跨ったままそっけなく答える。

 

 

「ああ。これが二人乗りならラウラでも連れて行きたいくらいだけど。生憎と一人乗りだし」

 

 


場所はガレリア要塞の跡地。
クロスベルの謎の超常兵器により消滅した、国境の守りの、残り滓である。
とは言っても、現在は帝国最強と名高い、赤毛のクレイグが率いる機甲師団の駐屯地となっていて、まったくのもぬけの殻というわけではない。

 

 

そこがナギトの指定した降下地点であった。
それと同時に「各地に動き回るから」という理由で足としてリィンの導力バイクを拝借した。

ナギトが語った1人で行く理由の半分は語ったものの通りであり、もう半分は後ろ暗いからである。


故にナギトはわざわざ一人乗りの導力バイクをリィンから借りたのだ。

 

 

尚も心配するリィンだったが、ナギトは大丈夫だと念押してカレイジャスに戻らせる。
遠く空を行くカレイジャスを見送って、ナギトは導力バイクのハンドルを握りしめる。

リラックスするように首を回すと、骨がコキコキと鳴った。
ナギトは視線を真っ直ぐに向けると、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「さあって、と………悪巧みを始めるかねぇ」

 

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