閃の軌跡 〜八葉を継ぐ者〜   作:クラウンドッグ

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後の楔

 

幻獣同時討伐作戦当日。その指揮はナギトが取っていた。発案者であり、作戦従事者の中で最も幻獣に詳しいとされたからだ。

 

組み分けに従い、各地でカレイジャスから降りたメンバーは幻獣を遠目に、作戦の開始を今か今かと待っていた。

カレイジャスを中継として、ナギトはアイゼンガルド連峰から帝国東部各地に散った仲間たちに指示を飛ばす。

 

 

「セリーヌ、頼む」

 

 

ARCUSの通信機能でセリーヌに連絡を入れる。先日のお願いはこの日のためにあった。セリーヌから完了の知らせが届き、ナギトはリィンに通信を試みる。

 

 

☆★

 

A班──リィン、アリサ、ガイウスが担当するのはノルド高原は石柱群に現れた幻獣《冥き神獣》ネレゲイドだ。

 

 

「全員配置オーケーだ。頼むぜお兄様……作戦開始だ!」

 

 

「ああ、任された!」

 

 

 

そしてA班は見事ネレゲイドを討ち取った。

 

 

☆★

 

 

B班──エマ、ミリアムが担当するのはガレリア要塞跡地に現れた幻獣《爆震の巨獣》ヴォルグリフ。

 

 

「全員配置に着いた。エマ、始めてくれ!」

 

 

「はい、Ⅶ組B班…戦闘を開始します!」

 

 

 

そしてB班もまたヴォルグリフの討伐に成功した。

 

 

☆★

 

 

C班──ラウラ、フィー、エリオットが担当する幻獣はルーレの街道に現れた《煉獄の黒狼》アグナガルン。

 

 

「準備オーケーだ。やってくれ、ラウラ!」

 

 

「──承知!全霊をもって撃破する!」

 

 

そしてC班も幻獣アグナガルンを討伐した。

 

 

☆★

 

 

D班──サラ、ユーシス、マキアスが担当するのはルナリア自然公園に現れた幻獣《久遠の聖獣》ヘイズルーン。

 

 

「各員配置に着きました。お願いします、教官!」

 

 

「ええ、D班…状況を開始する!」

 

 

そしてD班も幻獣ヘイズルーンを討ち倒した。

 

 

☆★

 

 

E班──ナギトが担当するのはアイゼンガルド連峰に現れた幻獣《堕ちたる狂竜》リンドバウム。

 

 

「D班、状況終了。全員無事よ」

 

 

「はい。ありがとうございます教官」

 

 

ナギトはそう言って通信を終え、ARCUSを懐にしまう。

 

A班が終了しB班が終了しC班が終了しD班が終了した。最後はE班、ナギトの番だ。

 

ナギトが幻獣に単独で挑む事に反対意見を出すメンバーもいたが、「弱い相手選んでるし」、「攻撃のモーション掴んでるし」、「俺強いし」…などなどという意見でゴリ押したナギト。

 

 

「さて、作戦の総仕上げだ。いくか───」

 

 

太刀を抜く。その側には黒衣の偉丈夫が立っていた。

 

 

「──クロウ」

 

 

黒いコート、光を鈍色に捉える銀髪。そこにいたのはクロウ・アームブラスト──

 

 

「なんてな」

 

 

──の、作り物だ。

実際に喋ったりはしないが、戦う事はできた。

それもそのはず……この場に在るクロウの偽物はナギトの分け身を“幻造”でこねて作り出したもの。

本物より数段落ちるが、戦闘技能は有していた。そして、バトルが出来るというのがこの作戦における重要なファクターだ。

 

 

まず分け身が幻獣リンドバウムに仕掛ける。それにナギトも続く。リンドバウムの爪牙を掻い潜り、激しい攻防を繰り広げている───ように見えるはずだ。

 

これで、クロウは幻獣討伐に参加した一員であるという事実が生まれた。

 

 

「もういいかな」

 

 

戦闘を開始して2分もしただろうか。ナギトはそう言うと、太刀を構えて集中した。

立ち止まるナギトをリンドバウムは襲おうとするが、それは分け身が阻んだ。

 

 

「超過式」

 

 

瞬間、ナギトの太刀から莫大な闘気が解き放たれる。

 

 

「八卦、」

 

 

それは8つの塊になり、

 

 

「四象、」

 

 

4つに凝縮され、

 

 

「両儀、」

 

 

2つへと変じ、

 

 

「太極」

 

 

1つに成った。

 

 

そのひとつの塊が太刀に帯びた。

圧縮された闘気は刃と成り、その密度に極光を放つ。

 

 

 

「──太極威刀!」

 

 

 

振り抜く。放つ。剣閃が飛ぶ。

 

 

それは幻獣リンドバウムを一刀両断してなお止まらず、空に登り雲を切り裂き───、やがて見えなくなった。

 

 

 

「幻獣相手にこれなら上出来だな」

 

 

“太極威刀”は現在ナギトが扱える戦技の中で最も威力の高いものだ。その威力は幻獣を一刀の下に斬り伏せるものなのだから、ナギトも満足するというものだ。

しかし、闘気を段階的に凝縮、圧縮するにしても全工程を終えるのに10秒強かかるのは痛い。玉に瑕だ。

 

 

ナギトは分け身を消すと、カレイジャスに通信をする。

 

 

「E班、幻獣討伐完了。以上をもって作戦は終了です。お疲れ様でした。つきましてはトワ艦長、回収お願いします」

 

 

「それはいいけど、帰ってきたら説明してもらうからね!」

 

 

ARCUS越しに聞こえるトワの声。それは若干の怒りが滲んでいるように感じられて怖い。

ナギトは適当に返事をしてカレイジャスの到着を待った。

 

 

 

「とりあえずこれで、楔は打った。………あとは本番だけだ」

 

 

☆★

 

 

 

カレイジャスに戻ったナギトを待っていたのは、やはりと言うべきか、Ⅶ組メンバー+aによる詰問であった。

その内容は、幻獣同時討伐作戦が正確に実施されなかった事についてだ。

 

 

幻獣の討伐は同時ではなく連続で行われた。

 

 

A班が幻獣を討伐したのを確認してB班は幻獣討伐にかかり討伐後、C班に作戦開始の合図がかかり──、といった感じだ。

 

 

懸念していた幻獣の復活がなかったから良いようなものの、ナギトが意図してこれをやったのが問題なのだ。

ナギトは幻獣討伐を連続で行うために作戦の指揮を取っていたと思われる。

 

しかし、更に問題なのはナギトがなぜ“そうした”かだ。部屋の隅に追い込まれたナギトはあっさり吐いた。

 

 

「俺も同時が良かったんだよ、本当はね」

 

 

「どの口で」と批判の声が挙がる。確かに連絡の順番や討伐にかかった時間で、幻獣討伐完了時刻がずれる事はあろう。しかし意図的に討伐開始時間をずらす意味がわからなかった。

 

 

「セリーヌが、そんなにいっぱい窓は開けないって言うから」

 

 

ナギトはあっさりと白状する。しかし、やはりその意味がわからない。

「セリーヌ?」、「窓?」と疑問の声は止まず、皆に迫られて苦笑していたナギトは不気味に口角を歪めた。

 

 

「……これもまた、俺の真実に近づくための一歩。あんまり慌てるなよ、すぐに効果は出るはずだ」

 

 

“効果”とナギトは言った。それにつっかかる者も数名いたが、そのすべてがいなされてしまう。

“真実を得る”事を隠れ蓑に、ナギトが何かを為したのだという確信が全員に芽生えた。

 

 

だが、ナギトを問い詰めるにも未だ材料が足りず、その真相は、その深淵は遠く感じられる。

 

こうしてナギトの悪巧みは果たされ───、Ⅶ組…第三の風のメンバーとの関係は歪になりつつ、カレイジャスは帝国東部巡回に戻ったのだった。

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